第四話「進展恋仲バカヨッシー」
学園祭まで後四日――。
天香は力仕事で様々な委員会から仕事に引っ張られ、暇になった今は学食でゆったりコーラを飲んでいた。
「あ、ヨッシー」
「はい?」
「会長が呼んで」
「今行きますちゆりさーん!」
「るよ……早っ!」
つっこむひしぎを無視しながらも、天香はすぐに生徒会室に向かって、音もなく、だが勢い良く扉を開けた。
「お呼びでしょうか、ちゆりさん!」
「うん、呼んだー!」
「イヅク先輩に用はないんで」
「おい」
「あ、天香君。ありがとう、来てくれたんだ」
「勿論ですよ!あ、それでご用件は?」
生パスタを噛み切り睨みつけてくるイヅクを無視して、天香はちゆりに満面の笑みで敬礼をする。
敬礼に少し引きながらも、ちゆりは頷いて周りを見る。
「うんとね、天香君のお蔭で生徒会の準備もかなり早く進んだし、みんなも大助かりなんだ」
「え、そうなんですかぁ〜?」
「うん! あ、でね」
ちゆりはイヅクから書類を受け取り、しばらく見てまた頷くと、小さな字の中で赤線を引いたところを、巨大な爪で指す。
「今、天香君のクラスだけが大まかな準備終わってないみたいなんだって。もうほとんど仕事もないし、よかったら手伝ってきてほしいな」
「え、クラス……ですか」
「どうした? もしかしてクラスに言ってないのか、生徒会の手伝いしてること」
「あ、いや、言う必要がないというか……たはは……」
「むー、でもちゃんと手伝わないとダメ、行ってきなさい」
「いや、あの」
「行くの!」
「……はい」
先ほどとは打って変わって、天香はげんなりしながら自分のクラスへと向かうのだった。
***
天香はクラスでも恐らく浮いた人物だろう。
授業ではほとんど眠っていて、昼の休み時間には帰ってしまったり、放課後までいても保健室などでサボっているからだ。
天香自身もクラスメイトの顔と名前が一致しない場合も多く、何より覚える気もない。
「ちょっと! どこ行くのよ!」
「っせーなー! 準備なんてやってらんねえっての!」
「あ、ちょ」
天香はがたいのいい男集団に押され、廊下で転んでしまう天香は一睨みしてから自分の教室の前で「バーカ! ベー!」と舌を出すサキュバスへ近づく。
「どした? えーと、倉持?」
「え? あ、浮田……。いや、その……男子が準備めんどくさいって……」
「なるほど……。あれ、うちのクラス、何やんだっけ」
「メイド喫茶。男子とか私みたいなサキュバス系とかは料理担当なんだけど、他の子がメイドしかやらないから不公平とか男子が言い出して……」
「成程なあ」
じゃあ交代制ならメイドやるのかな、とは思ったものの話がこじれそうなので言わず、天香は教室を覗く。
サキュバスやマンティス、稲荷が料理について担任から話を聞いていて、他のラミアやワーキャットはいつも以上に盛り上がってジョロウグモやアラクネの生徒に採寸をしてもらっている。
「男子みんな出ていったのか」
「うん。まだ看板飾りとか力仕事あるのにー」
「……俺、やろうか?」
「えっ? 浮田が?」
「おう、俺が。ちゆ……生徒会長からも言われちゃったしさ」
「そうなんだ、なら手伝って! 背が足りない分は村滅に頼んで!」
「村滅? ……ああ、ウシオニの奴ね、後、遠回しにチビ発言するな!」
***
「この間、俺の押入れ掃除してたらさー、バ○シーラーのコンプ図鑑見つけてさー」
「マジで!? イヅク、今度見せて! ウチもバト○ーラー大好きなんよ!」
「いいよ、また再放送しねーかなー……ん?」
イヅクとざくろが高等部の一年生廊下を見回っていると、とある教室が騒がしかった。
イヅクがスマートフォンを取り出してメモのアプリを呼び出し、確認するとどうやら天香の所属する教室のようだった。
「浮田んとこの教室か」
「見てみる?」
「会長にも一応様子見るよう言われたしな。喧嘩だったら健を放たないとならんし」
「もう全裸の世紀末見たくあらへん……」
肩を落とすざくろの胸を撫でて「元気出せ、今日もナイス貧乳」と言ったイヅク。
そんな彼はアッパーで吹き飛ばされながら天香の教室へと、強制的に入っていった。
「うわぁああああ!? 血まみれのイヅク先輩がぁああああ!」
「あ、どーもね浮田君。その変態は気にしないようにねぇ。んー、騒がしかったけど何してたん?」
「あ、村滅に手伝ってもらってようやく看板飾りつけできたんで、みんなで打ち上げ? みたいなのしてたんです。抜けようにも抜けにくくて……」
「いいよいいよ、会長にはこっちから言っとくから」
「先輩だいじょーぶ?」
「良いアッパーでした……」
イヅクが数人に引っ張られ、ようやく立ち上がった。
「あ、あのう」
「ん?」
「すいません、天香って……生徒会の手伝いしてたんです、よね?」
「ああ、うん。けど会長の個人的な頼みィ聞いたのは浮田の勝手やし、本当は生徒会よりこっち優先せなあかんかったしねー」
「ざくろ文化委員長様が言うんだから気にしなくていいぞ。まあ、まだ何かあるようだったら浮田に頼んで」
「は、はい!」
委員長二人はそう言うと、手を振って「後で生徒会室ねー」と残して、教室から去って行った。
「アレ、代議委員長? 浮田、いつの間に知り合いに……」
「だから生徒会長経由だって。なんだ、気になるのか?」
「ううん。生徒会って頭おかしい人の集まりって聞いたから」
「……否定はしないぜ」
トップ二人の男子もであるが、公安や風紀の委員長はオーガとその彼氏で「風紀を乱したらぶち殺す」のがモットーだったし、緑化委員長は花粉症なのに花を愛でるマゾヒストだったし、体育委員長はほわほわ系ワーシープであったり。
ちゆりの人選はどうなっているんだと、天香は頬を掻きながら思いつつ、倉持とクラスを見渡す。
「あ、俺、そろそろ生徒会室行くわ。そんじゃ」
「うん、それじゃ! また言うね!」
「おう!」
***
「お疲れ様でしたー」
『お疲れ様でしたー』
生徒会室で幾つかのルールについての審議をして、それからは解散となった。
天香はいつも通り幼馴染二人に声をかけて帰ろうとした、その時だった。
「天香君」
「何でしょうかちゆりさん!! 何かありました!?」
「うん、実は話したいことがあって」
「はい、なんでしょう!?」
「その……」
少し困ったような顔をしたちゆりに、また気味が悪い満面の笑みで言葉を待つ天香。
「RAINのID、教えてくれないかな?」
「勿論ですともぉ!! 俺のは……です」
「ありがと、家に帰ったらすぐ検索するね!」
「はい!」
「兄弟! ついでに俺も」
「しなくていい! 会長、私と健はバイトあるんで」
「うん、じゃあねー」
健を引きずりつつ春海は生徒会室を出て、その後はちゆりも出る。
「じゃあ、また明日」
「はい! また明日!」
「やれやれ、会長に随分気に入られたね、ヨッシー」
「RAINのIDも手に入れたしね」
「おう!」
鍵掛はまだ仕事のある風紀委員長のインキュバス、毒針(ぶすばり)に任せると、天香はシュンとひしぎを引き連れて暗い廊下を歩き始めた。
「あー、もうこうなったらイケるんじゃね!?」
「どーだろ、もしかしたら弟的心配かもしれないよ、ヨッシーに対してとなると」
「初等部の時も妙に高等部の妖狐に可愛がられてた」
「うっせーうっせー!! 今度こそ一人の男としてだっつーの!」
幼馴染二人からの冷静な分析に対して手足をばたつかせ、天香は顔を真っ赤にする。
「お前ら! もしも俺とちゆりさんが付き合ったら、今度のイベントで回復薬全部寄越せよ!!」
「いーよいーよ」
「お金はあるから」
「チックショォオオオォオオオオ……」
「小梅○夫? 懐かしっ」
回りながら絶叫、その上に少し涙を浮かべる少年に対し、シュンとひしぎは「頑張れ」と、心の中で祈るのであった。
天香は力仕事で様々な委員会から仕事に引っ張られ、暇になった今は学食でゆったりコーラを飲んでいた。
「あ、ヨッシー」
「はい?」
「会長が呼んで」
「今行きますちゆりさーん!」
「るよ……早っ!」
つっこむひしぎを無視しながらも、天香はすぐに生徒会室に向かって、音もなく、だが勢い良く扉を開けた。
「お呼びでしょうか、ちゆりさん!」
「うん、呼んだー!」
「イヅク先輩に用はないんで」
「おい」
「あ、天香君。ありがとう、来てくれたんだ」
「勿論ですよ!あ、それでご用件は?」
生パスタを噛み切り睨みつけてくるイヅクを無視して、天香はちゆりに満面の笑みで敬礼をする。
敬礼に少し引きながらも、ちゆりは頷いて周りを見る。
「うんとね、天香君のお蔭で生徒会の準備もかなり早く進んだし、みんなも大助かりなんだ」
「え、そうなんですかぁ〜?」
「うん! あ、でね」
ちゆりはイヅクから書類を受け取り、しばらく見てまた頷くと、小さな字の中で赤線を引いたところを、巨大な爪で指す。
「今、天香君のクラスだけが大まかな準備終わってないみたいなんだって。もうほとんど仕事もないし、よかったら手伝ってきてほしいな」
「え、クラス……ですか」
「どうした? もしかしてクラスに言ってないのか、生徒会の手伝いしてること」
「あ、いや、言う必要がないというか……たはは……」
「むー、でもちゃんと手伝わないとダメ、行ってきなさい」
「いや、あの」
「行くの!」
「……はい」
先ほどとは打って変わって、天香はげんなりしながら自分のクラスへと向かうのだった。
***
天香はクラスでも恐らく浮いた人物だろう。
授業ではほとんど眠っていて、昼の休み時間には帰ってしまったり、放課後までいても保健室などでサボっているからだ。
天香自身もクラスメイトの顔と名前が一致しない場合も多く、何より覚える気もない。
「ちょっと! どこ行くのよ!」
「っせーなー! 準備なんてやってらんねえっての!」
「あ、ちょ」
天香はがたいのいい男集団に押され、廊下で転んでしまう天香は一睨みしてから自分の教室の前で「バーカ! ベー!」と舌を出すサキュバスへ近づく。
「どした? えーと、倉持?」
「え? あ、浮田……。いや、その……男子が準備めんどくさいって……」
「なるほど……。あれ、うちのクラス、何やんだっけ」
「メイド喫茶。男子とか私みたいなサキュバス系とかは料理担当なんだけど、他の子がメイドしかやらないから不公平とか男子が言い出して……」
「成程なあ」
じゃあ交代制ならメイドやるのかな、とは思ったものの話がこじれそうなので言わず、天香は教室を覗く。
サキュバスやマンティス、稲荷が料理について担任から話を聞いていて、他のラミアやワーキャットはいつも以上に盛り上がってジョロウグモやアラクネの生徒に採寸をしてもらっている。
「男子みんな出ていったのか」
「うん。まだ看板飾りとか力仕事あるのにー」
「……俺、やろうか?」
「えっ? 浮田が?」
「おう、俺が。ちゆ……生徒会長からも言われちゃったしさ」
「そうなんだ、なら手伝って! 背が足りない分は村滅に頼んで!」
「村滅? ……ああ、ウシオニの奴ね、後、遠回しにチビ発言するな!」
***
「この間、俺の押入れ掃除してたらさー、バ○シーラーのコンプ図鑑見つけてさー」
「マジで!? イヅク、今度見せて! ウチもバト○ーラー大好きなんよ!」
「いいよ、また再放送しねーかなー……ん?」
イヅクとざくろが高等部の一年生廊下を見回っていると、とある教室が騒がしかった。
イヅクがスマートフォンを取り出してメモのアプリを呼び出し、確認するとどうやら天香の所属する教室のようだった。
「浮田んとこの教室か」
「見てみる?」
「会長にも一応様子見るよう言われたしな。喧嘩だったら健を放たないとならんし」
「もう全裸の世紀末見たくあらへん……」
肩を落とすざくろの胸を撫でて「元気出せ、今日もナイス貧乳」と言ったイヅク。
そんな彼はアッパーで吹き飛ばされながら天香の教室へと、強制的に入っていった。
「うわぁああああ!? 血まみれのイヅク先輩がぁああああ!」
「あ、どーもね浮田君。その変態は気にしないようにねぇ。んー、騒がしかったけど何してたん?」
「あ、村滅に手伝ってもらってようやく看板飾りつけできたんで、みんなで打ち上げ? みたいなのしてたんです。抜けようにも抜けにくくて……」
「いいよいいよ、会長にはこっちから言っとくから」
「先輩だいじょーぶ?」
「良いアッパーでした……」
イヅクが数人に引っ張られ、ようやく立ち上がった。
「あ、あのう」
「ん?」
「すいません、天香って……生徒会の手伝いしてたんです、よね?」
「ああ、うん。けど会長の個人的な頼みィ聞いたのは浮田の勝手やし、本当は生徒会よりこっち優先せなあかんかったしねー」
「ざくろ文化委員長様が言うんだから気にしなくていいぞ。まあ、まだ何かあるようだったら浮田に頼んで」
「は、はい!」
委員長二人はそう言うと、手を振って「後で生徒会室ねー」と残して、教室から去って行った。
「アレ、代議委員長? 浮田、いつの間に知り合いに……」
「だから生徒会長経由だって。なんだ、気になるのか?」
「ううん。生徒会って頭おかしい人の集まりって聞いたから」
「……否定はしないぜ」
トップ二人の男子もであるが、公安や風紀の委員長はオーガとその彼氏で「風紀を乱したらぶち殺す」のがモットーだったし、緑化委員長は花粉症なのに花を愛でるマゾヒストだったし、体育委員長はほわほわ系ワーシープであったり。
ちゆりの人選はどうなっているんだと、天香は頬を掻きながら思いつつ、倉持とクラスを見渡す。
「あ、俺、そろそろ生徒会室行くわ。そんじゃ」
「うん、それじゃ! また言うね!」
「おう!」
***
「お疲れ様でしたー」
『お疲れ様でしたー』
生徒会室で幾つかのルールについての審議をして、それからは解散となった。
天香はいつも通り幼馴染二人に声をかけて帰ろうとした、その時だった。
「天香君」
「何でしょうかちゆりさん!! 何かありました!?」
「うん、実は話したいことがあって」
「はい、なんでしょう!?」
「その……」
少し困ったような顔をしたちゆりに、また気味が悪い満面の笑みで言葉を待つ天香。
「RAINのID、教えてくれないかな?」
「勿論ですともぉ!! 俺のは……です」
「ありがと、家に帰ったらすぐ検索するね!」
「はい!」
「兄弟! ついでに俺も」
「しなくていい! 会長、私と健はバイトあるんで」
「うん、じゃあねー」
健を引きずりつつ春海は生徒会室を出て、その後はちゆりも出る。
「じゃあ、また明日」
「はい! また明日!」
「やれやれ、会長に随分気に入られたね、ヨッシー」
「RAINのIDも手に入れたしね」
「おう!」
鍵掛はまだ仕事のある風紀委員長のインキュバス、毒針(ぶすばり)に任せると、天香はシュンとひしぎを引き連れて暗い廊下を歩き始めた。
「あー、もうこうなったらイケるんじゃね!?」
「どーだろ、もしかしたら弟的心配かもしれないよ、ヨッシーに対してとなると」
「初等部の時も妙に高等部の妖狐に可愛がられてた」
「うっせーうっせー!! 今度こそ一人の男としてだっつーの!」
幼馴染二人からの冷静な分析に対して手足をばたつかせ、天香は顔を真っ赤にする。
「お前ら! もしも俺とちゆりさんが付き合ったら、今度のイベントで回復薬全部寄越せよ!!」
「いーよいーよ」
「お金はあるから」
「チックショォオオオォオオオオ……」
「小梅○夫? 懐かしっ」
回りながら絶叫、その上に少し涙を浮かべる少年に対し、シュンとひしぎは「頑張れ」と、心の中で祈るのであった。
13/08/20 21:44更新 / 二酸化O2
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