第三話「アホプスの少年ヨッシー」
「ランランラ〜ン、ランランラ〜ン、ルッアランランランランラ〜ン……」
「お、おーい、浮田さん?」
「ランランラ〜ン、ランランラ〜ン、ルッアランランランランラ〜ン……ん?」
「いや、ん? じゃないでしょ!? クッソ暑いし忙しのに、私たち呼び出しといてハ○ジスキップしてんじゃないわよ!」
そこにいたのはロングスカートのセーラー服を着たアヌビス、その隣で二丁のモデルガンを腰に下げてガスマスクを付けた学ランの人物、今は懐かしきゲーム○ーイア○バンスでポケ○ンをプレイするセーラー服のスフィンクスという、奇妙な三人組だった。
アヌビスは病持 ナタータ(やみもち なたーた)、ガスマスクは鬼沼 十三郎(おにぬま じゅうさぶろう)、スフィンクスは塗木 バセッタ(ぬりぎ ばせった)という。
この三人は隣町にある「私立ピラミッデウム高校」の生徒であり、三人が三人とも今は全滅しかかる「ヤンキー」である。
数か月前に町の境界にあるラブホテルの取り合いで、見事負けた天香だが、気は合うのでちょくちょく公園で会っているのだが。
「この真夏日にウチら呼びたしといて何の用なノ?」
「実はお前らにあのラブホテルと、あのゲーセン譲るわ」
「はぁ!? ……ちょっと、二人とも」
そのリーダー格であるナタータが二人を寄せ、静かに呟くように喋り出す。
(あの『敗北知らず』浮田が急にどうした訳?)
(さ、さあ? 浮田さん、暑さで頭溶けたんじゃないですか?)
(でもゲームセンター取れたら、マミー達も喜ぶヨ)
(馬鹿! 何か企んでるに違いないわよ!)
(とりあえず俺が聞いてみます)
(お願いだヨ)
頭を上げた十三郎がガスマスクを付けたまま咳込んで、天香を見据える。
「何かあったんですか?」
「俺に春が来たんだ!」
(やっぱり溶けてるんじゃ……)
(もう少し聞いて!)
(はい……)
「春が来たとは?」
「んん〜? 俺もリア充の仲間入りっていうのかな〜」
十三郎がレンズの下から目でナタータに助けを求めると、黙って頷いて前に出る。
「つまり女ができたってこと?」
「うんうん、千住院ちゆりさ〜ん」
「……ん? 千住院?」
「どうしたの、ジューサン?」
「あ、いや……。どっかで聞いたことが……」
「思い出せないなら無理しないでネ」
「まあ、そうかなあ」
十三郎がため息を吐くと、ナタータとバセッタに肩を叩かれる。
「きっと、告白して玉砕した一人だかラ」
「うんうん。でも今は私がいるからね、ジューサン」
「……え? 覚えもないこと言わないで下さいよ、バセッタもナタータも……ね?」
「じゃあ、そういうことで〜、また今度トリプルデートしようぜ」
「じゃあネー」
正直言えば気持ち悪い天香のハ○ジスキップを見送って、ヤンキー三人組は公園にポツンと取り残される。
だがしばらくするとナタータが二人の方を向き、時計を見てから口を開く。
「この後、どこで昼飯食べる?」
「ドリンクバーのあるファミレスがいイ〜」
「同じく」
「じゃあ久しぶりにバーミ○ン行きましょ」
「あいっす」
「わーイ!」
***
「アルプス一万ジャック、小鑓のう〜え〜で……フゥッ!!」
翌日、登校日である月曜の昼休み。
あまりのハイテンションで、アルプス一万尺を歌い始めた天香は昼食も摂らずに、屋上へと向かっていた。
「待っててちゆりさ〜ん! 今からあなたの黒馬の王子、浮田天香が参ります〜!!」
「春海! あいつは俺の兄弟か!?」
「んな訳ないだろ! とっとと仕事手伝え! ……私に乗るな!」
途中、バイコーンと男子のカップルのうち、バイコーンの方に引かれながらも天香は屋上にたどり着いた。
「あ、天香君」
「ちゆりさん! あ、今日も可愛いですね!」
「え、ええ? そ、そうかなあ……」
出会い頭に褒められて悪い気もしない様子を見せるちゆり。
天香は後ろを向いて「っしゃー……! 好印象!」と、呟きながら小さくガッツポーズを取る。
そして怪しまれないうちに振り返り、満面の笑みをする。
「あの顔、どっかのニーサンみたい……」
「シッ!」
不安なので、一応先に来てもらっていたひしぎとシュンが給水塔の周辺で話しているのにも気づいておらず、ちゆりに気味が悪い顔のまま笑いかけている天香。
「あ、呼び出しちゃってごめんね! お昼まだだよね!」
「大丈夫です!」
「きちんと食べなきゃ……。あ、一緒に食べる?」
「いいですとも! ゼロ○スが来ようが、Wメ○オ撃とうがいいですとも!」
ちゆりは「私、ドラ○エしか知らないけど……」と呟きながらも、持っていたカバンから弁当箱を出す。
二段式の物であり、それぞれに海苔の巻き付いた握り飯が入っていた。
「お、女子の手作り弁当」
「天香を見て、ひしぎ」
「ん?」
「あまりにも浮かれすぎてMPを全部吸い取りそうな勢いの踊りをしてる……」
「うっわー、キッモー……」
天香が不思議を通り越して不気味な踊りをする中、ちゆりはというとそれに気が付かずに、「お父さん、梅干抜いてくれてるかなぁ」などとため息交じりに言っている。
「ある意味いいカップルになりそうだわ、ヨッシーと会長」
「うん」
「お、会長からおにぎり渡されたぞ」
「……多分、階段の扉の所にいるファンクラブの殺気には気づいてない……」
「あー、ほっぺにご飯付いてるからとってあげますよー、っと、はい取れたー」
「その中で投げられたコンパスを弾く……。そして投げ返す」
「あーっと、ヨッシーがキレたか?」
「でもちゆりの前だから怒れない」
二人の行動を実況しながら、笑いをこらえている二人にはやはり気付かず、ちゆりと天香は何かのやり取りをしながら、話している。
それからしばらく――。
「で、俺ってなんで呼ばれたんですか?」
「え? ……あぁ! そうだそうだ、忘れてた!」
もう昼休みも終わりかけた時間。
ようやくちゆりは手を打って、天香の手を握った。
またいつかのように心臓が高まり、手の触れた暖かささにどこか懐かしいモノを感じる。
「呼んだのはね」
「は、はい!」
(以下、天香の妄想)
「一目会った時から、天香君に運命を感じたの!」
「俺もです!」
「天香君……」
「ちゆりさん……いや、ちゆり……」
(妄想終了)
「天香君に生徒会の手伝いをしてもらいたいんだ!」
「俺もです!」
「え!? ええと、いいのかな?」
「はい!」
「うん、ありがと! じゃあ私、次の授業あるから!」
「あ、はい!」
去るちゆりを手を振りながら見送って、天香はしばらくボーっとしていたが、すぐに気付く。
「んー? ……生徒会?」
「ヨッシー、やるじゃん! 生徒会の手伝いを会長自身からお願いされるなんて!」
「けっこう大変だけど楽しい」
「……え?」
***
「今日からしばらく、生徒会本部所属三年三組千住院ちゆりの手伝いをしてもらう、浮田天香君です、みんな仲良くね」
『ういーっす』
生徒会室――。
そこで天香は数十人の視線を浴びながら、紹介をされていた。
「手伝うことは代議委員長のイヅク君に聞いて、帰る時は文化委員長の分福亭さんに言ってね。何か問題が起きたら、副会長の塩山さんと海山君に」
「健には聞かなくていいです、会長」
「なんだと春海!? 俺のアドバイス無しで学園祭は成功しないぞ!?」
「寧ろお前がいない方が平和に進むわ!」
「……バイコーンなのにハーレムじゃない? ちゆりさん、この変人……じゃなくて、先輩たち誰ですか?」
「おい、私は変人じゃないからな」
「ん? あ、女子副会長のバイコーン、塩山春海さんと男子副会長の海山健君だよ。あ、健君は一応去年の選挙は私より票が多かったんだ」
「じゃあなんで副会長に?」
「こいつ、自分からなったんだよ。私と一緒に仕事できなきゃヤダってダダこねて」
「春海と一緒じゃなきゃ死ぬ!」
「ほれ見ろ」
天香はどう反応すればいいかわからず、次に生パスタをポリポリと鼠のように齧る男子生徒を指さす。
「あの人は?」
「神楽塾イヅク君。代議員会の委員長で、本部の次に偉い委員会のボス……。つまり、委員長の皆私の代わりに束ねてる人だよ。家は大手不動産会社でお金持ちのはずなんだけど……」
「イヅク! またパスタ食って〜……。貧乏臭いわ!」
「パスタ、しかも生のが大好物なんだ。あ、今のは文化委員長の分福亭ざくろさんね、小学生みたいだけどれっきとした三年生だから間違えないでね」
「あの世紀末みたいになってる人たちは?」
「公安委員会に風紀委員だよ」
「あのバカップルが先頭のは……図書委員。あのー、あそこの幼女集団は? 文化委員会?」
「……さぁ?」
「ちゆりさんは生徒会長ですよね!? 一応は把握してるはずですよね!?」
「生徒会の委員会は俺と公安、学園長に許可を貰えば幾らでも作れるからな。会長も把握していない委員会は結構あるんだ」
「へ、へぇー……」
そんな天香のツッコミに対し、答えたのはちゆりではなく、口にパスタを咥えながらやってきたイヅクだ。
これがタバコや、あるいは木の枝だったなら様になっていただろうが、生パスタという不思議な物で台無しである。
「ちなみにアレはサバト部だ、委員会じゃない」
「委員会じゃないのになんでいるんですか!?」
「童貞のお兄さんが来ると歪曲して伝わったらしい。……すまん、広めたのは俺だ……」
「ちゆりさん、この人本当に委員長を束ねるひとなんですか!?」
「う、うん」
トップである四人のうち、二人がすでにダメだと感じた天香は生徒会の手伝いを了承したことに後悔を覚えてくる。
シュンとひしぎも一般から見れば少し外れているが、イヅクと健はその比ではないだろう。
「不安になってきたなあ……」
「安心しろ、お前がやることは実質少ない」
「はあ」
「会長をファンクラブと名乗る奴らから守る、海山の全裸走行を妨害する、力仕事、それだけだ」
「それ実質ほぼ力仕事じゃないですか!?」
「そうとも言うな」
「……なんか、ドッと疲れが……」
「天香君、大丈夫……?」
「え、あ、まあ、はい」
「そう! うん、期待してるね」
「っ! はい、勿論です!!」
そしてその後、クラス展でやる模擬店を幾つか確認し、その日の生徒会は終わった。
***
「ヨッシー、どう? 結構面白いでしょ? 変人ばっかだけど」
「まあ、ちゆりさんがいるから文句はないぜ。変人しかいないけど」
学園からの帰り道、天香はシュンとひしぎと共に下校していた。
「それにお前ら、聞いたか? 期待してるってよ! 俺に、ちゆりさんが!」
「すっかりお祭りモードだね……」
「恋すると人は変わる」
「まさにそれね、シュン」
「頑張るぞ〜! 俺の春を掴むんだーっ!!」
「気持ち悪いな、天香」
「キモイね、ヨッシー」
幼馴染二人の辛辣な言葉は聞こえず、天香は一人、浮かれていたのだった。
「お、おーい、浮田さん?」
「ランランラ〜ン、ランランラ〜ン、ルッアランランランランラ〜ン……ん?」
「いや、ん? じゃないでしょ!? クッソ暑いし忙しのに、私たち呼び出しといてハ○ジスキップしてんじゃないわよ!」
そこにいたのはロングスカートのセーラー服を着たアヌビス、その隣で二丁のモデルガンを腰に下げてガスマスクを付けた学ランの人物、今は懐かしきゲーム○ーイア○バンスでポケ○ンをプレイするセーラー服のスフィンクスという、奇妙な三人組だった。
アヌビスは病持 ナタータ(やみもち なたーた)、ガスマスクは鬼沼 十三郎(おにぬま じゅうさぶろう)、スフィンクスは塗木 バセッタ(ぬりぎ ばせった)という。
この三人は隣町にある「私立ピラミッデウム高校」の生徒であり、三人が三人とも今は全滅しかかる「ヤンキー」である。
数か月前に町の境界にあるラブホテルの取り合いで、見事負けた天香だが、気は合うのでちょくちょく公園で会っているのだが。
「この真夏日にウチら呼びたしといて何の用なノ?」
「実はお前らにあのラブホテルと、あのゲーセン譲るわ」
「はぁ!? ……ちょっと、二人とも」
そのリーダー格であるナタータが二人を寄せ、静かに呟くように喋り出す。
(あの『敗北知らず』浮田が急にどうした訳?)
(さ、さあ? 浮田さん、暑さで頭溶けたんじゃないですか?)
(でもゲームセンター取れたら、マミー達も喜ぶヨ)
(馬鹿! 何か企んでるに違いないわよ!)
(とりあえず俺が聞いてみます)
(お願いだヨ)
頭を上げた十三郎がガスマスクを付けたまま咳込んで、天香を見据える。
「何かあったんですか?」
「俺に春が来たんだ!」
(やっぱり溶けてるんじゃ……)
(もう少し聞いて!)
(はい……)
「春が来たとは?」
「んん〜? 俺もリア充の仲間入りっていうのかな〜」
十三郎がレンズの下から目でナタータに助けを求めると、黙って頷いて前に出る。
「つまり女ができたってこと?」
「うんうん、千住院ちゆりさ〜ん」
「……ん? 千住院?」
「どうしたの、ジューサン?」
「あ、いや……。どっかで聞いたことが……」
「思い出せないなら無理しないでネ」
「まあ、そうかなあ」
十三郎がため息を吐くと、ナタータとバセッタに肩を叩かれる。
「きっと、告白して玉砕した一人だかラ」
「うんうん。でも今は私がいるからね、ジューサン」
「……え? 覚えもないこと言わないで下さいよ、バセッタもナタータも……ね?」
「じゃあ、そういうことで〜、また今度トリプルデートしようぜ」
「じゃあネー」
正直言えば気持ち悪い天香のハ○ジスキップを見送って、ヤンキー三人組は公園にポツンと取り残される。
だがしばらくするとナタータが二人の方を向き、時計を見てから口を開く。
「この後、どこで昼飯食べる?」
「ドリンクバーのあるファミレスがいイ〜」
「同じく」
「じゃあ久しぶりにバーミ○ン行きましょ」
「あいっす」
「わーイ!」
***
「アルプス一万ジャック、小鑓のう〜え〜で……フゥッ!!」
翌日、登校日である月曜の昼休み。
あまりのハイテンションで、アルプス一万尺を歌い始めた天香は昼食も摂らずに、屋上へと向かっていた。
「待っててちゆりさ〜ん! 今からあなたの黒馬の王子、浮田天香が参ります〜!!」
「春海! あいつは俺の兄弟か!?」
「んな訳ないだろ! とっとと仕事手伝え! ……私に乗るな!」
途中、バイコーンと男子のカップルのうち、バイコーンの方に引かれながらも天香は屋上にたどり着いた。
「あ、天香君」
「ちゆりさん! あ、今日も可愛いですね!」
「え、ええ? そ、そうかなあ……」
出会い頭に褒められて悪い気もしない様子を見せるちゆり。
天香は後ろを向いて「っしゃー……! 好印象!」と、呟きながら小さくガッツポーズを取る。
そして怪しまれないうちに振り返り、満面の笑みをする。
「あの顔、どっかのニーサンみたい……」
「シッ!」
不安なので、一応先に来てもらっていたひしぎとシュンが給水塔の周辺で話しているのにも気づいておらず、ちゆりに気味が悪い顔のまま笑いかけている天香。
「あ、呼び出しちゃってごめんね! お昼まだだよね!」
「大丈夫です!」
「きちんと食べなきゃ……。あ、一緒に食べる?」
「いいですとも! ゼロ○スが来ようが、Wメ○オ撃とうがいいですとも!」
ちゆりは「私、ドラ○エしか知らないけど……」と呟きながらも、持っていたカバンから弁当箱を出す。
二段式の物であり、それぞれに海苔の巻き付いた握り飯が入っていた。
「お、女子の手作り弁当」
「天香を見て、ひしぎ」
「ん?」
「あまりにも浮かれすぎてMPを全部吸い取りそうな勢いの踊りをしてる……」
「うっわー、キッモー……」
天香が不思議を通り越して不気味な踊りをする中、ちゆりはというとそれに気が付かずに、「お父さん、梅干抜いてくれてるかなぁ」などとため息交じりに言っている。
「ある意味いいカップルになりそうだわ、ヨッシーと会長」
「うん」
「お、会長からおにぎり渡されたぞ」
「……多分、階段の扉の所にいるファンクラブの殺気には気づいてない……」
「あー、ほっぺにご飯付いてるからとってあげますよー、っと、はい取れたー」
「その中で投げられたコンパスを弾く……。そして投げ返す」
「あーっと、ヨッシーがキレたか?」
「でもちゆりの前だから怒れない」
二人の行動を実況しながら、笑いをこらえている二人にはやはり気付かず、ちゆりと天香は何かのやり取りをしながら、話している。
それからしばらく――。
「で、俺ってなんで呼ばれたんですか?」
「え? ……あぁ! そうだそうだ、忘れてた!」
もう昼休みも終わりかけた時間。
ようやくちゆりは手を打って、天香の手を握った。
またいつかのように心臓が高まり、手の触れた暖かささにどこか懐かしいモノを感じる。
「呼んだのはね」
「は、はい!」
(以下、天香の妄想)
「一目会った時から、天香君に運命を感じたの!」
「俺もです!」
「天香君……」
「ちゆりさん……いや、ちゆり……」
(妄想終了)
「天香君に生徒会の手伝いをしてもらいたいんだ!」
「俺もです!」
「え!? ええと、いいのかな?」
「はい!」
「うん、ありがと! じゃあ私、次の授業あるから!」
「あ、はい!」
去るちゆりを手を振りながら見送って、天香はしばらくボーっとしていたが、すぐに気付く。
「んー? ……生徒会?」
「ヨッシー、やるじゃん! 生徒会の手伝いを会長自身からお願いされるなんて!」
「けっこう大変だけど楽しい」
「……え?」
***
「今日からしばらく、生徒会本部所属三年三組千住院ちゆりの手伝いをしてもらう、浮田天香君です、みんな仲良くね」
『ういーっす』
生徒会室――。
そこで天香は数十人の視線を浴びながら、紹介をされていた。
「手伝うことは代議委員長のイヅク君に聞いて、帰る時は文化委員長の分福亭さんに言ってね。何か問題が起きたら、副会長の塩山さんと海山君に」
「健には聞かなくていいです、会長」
「なんだと春海!? 俺のアドバイス無しで学園祭は成功しないぞ!?」
「寧ろお前がいない方が平和に進むわ!」
「……バイコーンなのにハーレムじゃない? ちゆりさん、この変人……じゃなくて、先輩たち誰ですか?」
「おい、私は変人じゃないからな」
「ん? あ、女子副会長のバイコーン、塩山春海さんと男子副会長の海山健君だよ。あ、健君は一応去年の選挙は私より票が多かったんだ」
「じゃあなんで副会長に?」
「こいつ、自分からなったんだよ。私と一緒に仕事できなきゃヤダってダダこねて」
「春海と一緒じゃなきゃ死ぬ!」
「ほれ見ろ」
天香はどう反応すればいいかわからず、次に生パスタをポリポリと鼠のように齧る男子生徒を指さす。
「あの人は?」
「神楽塾イヅク君。代議員会の委員長で、本部の次に偉い委員会のボス……。つまり、委員長の皆私の代わりに束ねてる人だよ。家は大手不動産会社でお金持ちのはずなんだけど……」
「イヅク! またパスタ食って〜……。貧乏臭いわ!」
「パスタ、しかも生のが大好物なんだ。あ、今のは文化委員長の分福亭ざくろさんね、小学生みたいだけどれっきとした三年生だから間違えないでね」
「あの世紀末みたいになってる人たちは?」
「公安委員会に風紀委員だよ」
「あのバカップルが先頭のは……図書委員。あのー、あそこの幼女集団は? 文化委員会?」
「……さぁ?」
「ちゆりさんは生徒会長ですよね!? 一応は把握してるはずですよね!?」
「生徒会の委員会は俺と公安、学園長に許可を貰えば幾らでも作れるからな。会長も把握していない委員会は結構あるんだ」
「へ、へぇー……」
そんな天香のツッコミに対し、答えたのはちゆりではなく、口にパスタを咥えながらやってきたイヅクだ。
これがタバコや、あるいは木の枝だったなら様になっていただろうが、生パスタという不思議な物で台無しである。
「ちなみにアレはサバト部だ、委員会じゃない」
「委員会じゃないのになんでいるんですか!?」
「童貞のお兄さんが来ると歪曲して伝わったらしい。……すまん、広めたのは俺だ……」
「ちゆりさん、この人本当に委員長を束ねるひとなんですか!?」
「う、うん」
トップである四人のうち、二人がすでにダメだと感じた天香は生徒会の手伝いを了承したことに後悔を覚えてくる。
シュンとひしぎも一般から見れば少し外れているが、イヅクと健はその比ではないだろう。
「不安になってきたなあ……」
「安心しろ、お前がやることは実質少ない」
「はあ」
「会長をファンクラブと名乗る奴らから守る、海山の全裸走行を妨害する、力仕事、それだけだ」
「それ実質ほぼ力仕事じゃないですか!?」
「そうとも言うな」
「……なんか、ドッと疲れが……」
「天香君、大丈夫……?」
「え、あ、まあ、はい」
「そう! うん、期待してるね」
「っ! はい、勿論です!!」
そしてその後、クラス展でやる模擬店を幾つか確認し、その日の生徒会は終わった。
***
「ヨッシー、どう? 結構面白いでしょ? 変人ばっかだけど」
「まあ、ちゆりさんがいるから文句はないぜ。変人しかいないけど」
学園からの帰り道、天香はシュンとひしぎと共に下校していた。
「それにお前ら、聞いたか? 期待してるってよ! 俺に、ちゆりさんが!」
「すっかりお祭りモードだね……」
「恋すると人は変わる」
「まさにそれね、シュン」
「頑張るぞ〜! 俺の春を掴むんだーっ!!」
「気持ち悪いな、天香」
「キモイね、ヨッシー」
幼馴染二人の辛辣な言葉は聞こえず、天香は一人、浮かれていたのだった。
13/08/13 10:37更新 / 二酸化O2
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