連載小説
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第一話「出会いって突然に来るよね」
――やってられっか。



今時珍しい純粋な人間少年、浮田 天香は己の通う初中高の一貫教育校「私立ミネルヴァ学園」の校門を抜け、長い階段をゆっくり降りていく。

今、ミネルヴァ学園は学園祭前の準備期間に入っていて、クラスどころか学園中がすでにお祭り騒ぎなのだが、天香は元から「一緒に騒ぐ」ということは苦手で、中等部の頃からすでにこうやって早帰りをしている。



「ゲーセンでも行こうかな……」



そう呟きながら階段を降り切り、天香は市街地の方に向かって歩き出そうとした時。



にー。



と、天香の足元から、小さな何かの声が聞こえた。

何かと思って見れば、そこには子猫がいて、甘えているのだろうか?

天香の足元で喉を小さく鳴らしながら、頭を靴へ摺り寄せている。



「おおう、なんだミー助……。あ、女の子か」



邪険に扱うどころか、お世辞にも綺麗とは言えない子猫をそっと抱き上げて、天香はナニの有無を確認してから子猫の喉を撫でる。



「腹空いてんのか? ならいいや、祖母ちゃんのとこに行きゃなんかあるだろうし、行こうぜ」



子猫が鳴いて、天香が連れて行こうとした、その時だ。



「うぅーきだぁああああ!!」

「あん?」



そこに。

如何にも不良というか、金髪や茶髪に髪を染めており、だらしなくズボンを下げた男たちが十人現れ、天香を囲んだ。

天香の方は子猫を抱いたままため息を吐き、相手の中で一番背の低い、百五十センチの男……というより赤髪の少年が天香を下から睨む。



「何だ、子供番長か」

「その子供店長みたいな言い方すんじゃねぇ!! ぶっ殺すぞ!!」

「殺せるもんなら殺してみろっての」



子猫を頭に乗せた天香は指で挑発する。

その余裕さと、相手は一人ということに少年は怒りを覚えたのだろう。



「やっちまえ!」

「やってみろっての!」



一斉の怒号と共に、鳴く子猫を頭に乗せた天香へ男たちは突っ込んでいった。







その数分後……。







「で、何か言うことは?」

『すいませんでしたぁー!!』

「お、おい! お前ら!」



血まみれの天香に恐れをなし、同じく鼻血や口血が溢れ出している九人が逃げ出した。

天香の方は怪我ではなく、全部返り血によるものだ。



「子供番長、後はテメーだけだぞコラ」

「うっ」

「今度から復讐すんなら隣町の鬼沼と塗木、病持ぐらいの奴連れてくるんだな」

「ふ、ふざけんなよ、この!」

「あ?」



少年が突然、天香の懐へ突っ込んできた。

あまりの突拍子のない行動に、天香はマトモに対応できず、それに少年の手にあった『武器』にも気づかなかった。

そして一秒も経たないうちに、金属が擦れ合ったような不快音が、天香の腹部に響く。



「あ――」

「ざ、ざまあみろ!」



少年の持っていた物、それは一般的にスタンガンと呼ばれる代物だ。

高圧電流で相手を気絶、時には命を奪いかねない。

だが天香には逃げる少年と、頭から落ちて心配そうに鳴く子猫の声を最後に、目の前が真っ暗になった。







***







どれくらい経ったのだろう。

天香は目を開けることができなかったが、線香のような匂いが鼻を覆って、さらにはコンクリートだったはずの地面が少し柔らかい。

全身を痛みが襲っているものの、なんとか目を開ける。



「あ」

「あ、起きた?」



きちんとした制服を着ているのだろうが、Yシャツは豊かなバストで押し上げられており、スカートからは緑色の鱗をした長い下半身が見えている。

そう、そこには優しそうな表情をした魔物「龍」がいた。



「大丈夫? 道端に倒れてて、もう少しで睡姦されそうだったんだけど」

「え? ……あ、そっか、俺……」

「あ、混乱しちゃったかな?」

「い、いえ! 大丈夫です!」

「ん、そうっぽいね。あ、私は千住院ちゆりだよ」

「う、浮田天香です、天女の天に、天海○香の香で天香っていいます」

「天香君っていうんだ、よろしくね」



はにかんでから四本爪の手を差し出され、一瞬迷ったがすぐに自分の手を差し出す。

自分の心臓がホラー映画を見た時以上に高鳴っているのがわかって、天香は平静を装いながらも頭の中はすでに沸騰寸前だった。

今いる場所が病室、しかも天香の乗っているものはベッドだと気づかないほどに。



「ね、なんであんなところで倒れてたの?」

「え、ええと……」

「もしかして喧嘩?」

「ええと、まあ、はい……」

「もう! 喧嘩はダメだよ!」



頬を膨らまして、リスのようになったちゆり。

しばらく凝視していた天香だが、思わず吹き出してしまうと、つられてか、ちゆりも笑い出す。



「す、すいません」

「ううん、いいよ。ん、元気そうだし私帰るね」

「あ、ありがとうございます」

「いいのいいの、後輩助けるのが先輩の仕事でもあるしね。じゃあ、お大事にね」



手を振ってちゆりは病室から出て、代わりに入ってきたのはナースキャップを被って、正直大きさのあっていないであろう、窮屈そうなナース服を着たドラゴンが入ってきた。



「知り合いか?」

「あれ、叔母さん? ……あ、ここ病院か」

「そうだ、お前が救急車で運ばれてきて驚いたぞ」

「ごめんなさい……。あー、わかんねえ、多分先輩だと思う……」

「ふぅん、そうか。とりあえず点滴変えるぞ、ジッとしてろよ」

「叔母さん相変わらず病院じゃ無愛想だね」

「これが普通、患者と仲良くするのは独身の奴らだけだ」



浮田風香。

天香の父親の妹……つまり叔母にあたる人物であり、仕事熱心なのはいいのだが、何年も家に帰ってこない天香の両親の代わりに、祖父祖母と一緒にここまで育ててくれた人物だ。

生みの親より育ての親と言うのか、天香も実の母親よりも風香に懐いている。



「変え終わったが、天香」

「早っ! ……何?」

「お前、また喧嘩したそうだな」



まるで獲物を見つけた野獣のように天香を睨む風香。

不良集団にも余裕を見せていたというのに、天香は「うっ」と汗を垂らし始める。



「何度言ったらわかるんだ、私はお前が死ぬのが一番不安なんだ」

「あんぐらいじゃ死なないって……」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

「ヒィッ!」



投げつけられた注射器を避けたが、風香に肩を思い切り掴まれ、体を揺さぶられる。



「私は一番お前を見てきたから心配してるんだ! いいか!? も・う・に・ど・と! 喧嘩はするなよ!?」

「わ、わかったから……! く、苦しいぃいいいいい……」

「よろしい」



離されると、顔を青くしてベッドに倒れる天香。



「今日一日はジッとしてろ、明日は私の車で家まで連れてってやる」

「うぇ、うぇーい……」



風香が病室から出て、夕焼けの映る窓を見る天香。

散々な一日だったと思いつつも、ちゆりの笑顔と握手した時の暖かさを思いだすと、自然と笑みがこぼれる。



「うへへっ、うへっ」

「何だお前……」



笑いは寝るまで止まらず、その後、夕飯のハンバーグ弁当を持ってきた風香にドン引きされたのは言うまでもない。
13/08/10 14:22更新 / 二酸化O2
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■作者メッセージ
一回書いてみたかった「学園祭」モノですー

学園モノだと結構被りますし、続かないと思ったので……

七話を目安に完結できるよう、次からは文字数増加を目標に頑張ります!

それでは一部の方だけかもしれませんが楽しみにしていて下さいね〜

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