馴れ初めから結婚まで
喫茶店「ニュームーン」。
この新しくできた喫茶店のオーナーであり、マスターが俺だ。
つっても魔物向けに深夜から朝までの営業にしたから客はあまり来ないし、暇だから自分でコーヒー作って飲んでるだけなんだよなあ。
「でもこんな夜中、静かな中でコーヒー飲めるのも悪くはないよな」
秋。
リーンリーンと鈴虫の鳴く声が響き、どこか風流さを感じる。
「うーん……」
リーンリーン、リーンリーン、シュゥウウウウッ!!リーンリーン、シュゥウウウウッ!!
「……うーん?」
リーンリーン、超エキサイティンッ!!リーンリーン、シュゥウウウウッ!!リーンリーン……
「だぁあああああ! 青姦なら余所でやれフ〇コロガシ共! 鈴虫がやる気失せてんじゃねえか!」
外でケプリたちとその彼氏がコトをシてやがった。
深夜までイチャイチャしやがって……しかも彼女いない歴=年齢(28歳)の俺の店の前で。
オッサンと呼ばれてもおかしくないこの俺の前で。
怒鳴り散らしてやって、ようやく去っていく奴ら。
次来たら熱々のコーヒーかけてやる、熱々のカップルだけに。
「あー」
ちなみに喫茶店を開いた理由は彼女、あわよくば嫁さんができるかもなんて思っているからだ。
ほら、常連さんができてその女の子がサバトコーヒー(ノンカフェインだが媚薬成分アリのコーヒー)飲んで、「マスター、ス・テ・キ♪」なんて、押し倒してくれる事があるかもしれないだろう?
やっぱり俺って頭いいよな。
あ、でも喫茶店を開いていて悩みが一つだけある。
実はこの店、かなり土地代が安かったのだが理由が「墓場」を潰して更地にしたところだったらしい。
べ、べ、別に、こ、怖くねえよ?
全部の電気点けてトイレに行ったりなんかしてねえからな!
「フェックショイッ! あー……ちくしょ」
妙な寒気もするし。
でも知り合いのエクソシストにきちんと結界は張ってもらったから、お化けは出ないはずなんだけど。
***
ゴーストのワタクシを防ぐ結界なんか破ってダーリンに早く実体化させてもらいますわ、うふふ!
――と思っていた時期がワタクシにもありました。
「きぃいい……あんな変なナリして結界だけはなんで立派なんですの!」
住処の墓場を壊されて途方に暮れていたところに、ダーリンが来てワタクシはもう突撃ラブハートだったというのに、あの変なエクソシストが立派な結界を張って、ワタクシを封印したのですわ!
ひどいと思いませんか!
ワタクシはただ「いやらしいキャシーにはオシオキしないとなあ、ゲヘヘ!」とダーリンにこのワタクシを強姦させる妄想をさせようとしただけなのに!
「開けてダーリン★」
と、頼めれば苦労しませんわ。
ワタクシが封印されているのはダーリンの足下、地下倉庫に結界が張られているのですわ。
まあ、結界がちょっと弱まったから、何とかダーリンの妄想に触れられたのですが……。
「我が一生に一片の悔い無しィイイイイイッ!!」
と、叫びながら上空へティロ・フィナーレしたらそれを見つけた「ワイバーン」に連れ去られてしまうし。
「姫、助けに参りました!」
と、勇者の格好をしたダーリンが「ドラゴン」を倒して、姫の「リリム」とその場でセックスを始めてしまうし。
「ずっと君が好きだったよ」
と、神社で浴衣を来た「サキュバス」のヒロインとラブラブセックス始めてしまうし。
「あがぁあああああああああああああッ!!」
何故ワタクシよりもあんな奴らを!
あれなんですの!?美乳(笑)で貧乳(泣)なワタクシは死ねばいいんですの!?もう死んでますけれど!!
あっ、まさか結界でワタクシの妄想をできないようにしてる!?
ガァッデェエエエエムッ!!ドチクショウッ!!
あのドチクショウエクソシストめ、次にあったら知り合いのゾンビ数十人をけしかけてやりますわッ!!
「はあ……はあ……」
……ゴーストになったというのに久しぶりに疲労を感じてしまいましたわ。
精神的な疲労はなかなかとれないから嫌ですわ。
とりあえず落ち着きましょう、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……。
「さて」
生前なら紅茶を飲んでいるところですが、実体化してない霊体のワタクシには意味もないので、しばらく無心で漂うことにします。
これが一番の暇潰しであるのですわ。
「……ふう」
ですけどやっぱり、暇ですわ。
墓場があった頃は他のゴーストやゾンビと話していましたが、みんなバラバラになってしまいましたし。
スケルトンにでも転職しようかとしても、バラバラ死体なワタクシのパーツも頭以外見つかりませんし。
「ダーリーン……」
ワタクシは見えない月に憂いるよう、ダーリンを呼びました。
本当にどうしましょう、このままではおっぱい兵器共や、年を考えない婆幼女共にダーリンを盗られてしまいますわ……。
それだけは嫌ですわ!
ワタクシ、意地でもダーリンのチンポに負けてやりますわ!
***
今日は何故か妄想が広がらない。
いつもなら小説が書けるんじゃないかってくらいに、壮大でエロい妄想ができるのにっ……。
ん?
あ、思いついたぞ。
***
「ちょっとダーリン!」
「はい!?」
何故か俺の前に貧乳の女の子が現れた。
ゴスロリが似合っている可愛い子だが、足がない――ゴーストだった。
「何してるんですの! 今日はデートなのに、他の女の子なんか見てナメてます!?」
「い、いえ」
あ、ああ、そうだ。
今日はゴーストのキャシーとのデートだった。
キャシーに一目惚れされてしまった俺は、仕方なく彼女と付き合っている。
仕方なくだ、仕方なく。
こんな生意気でチビで貧乳なゴーストとなんか、いつか別れてやるつもりだ。
「ほら、さっさとエスコートなさい!」
「へいへい……」
なんか頭に違和感を感じるが、キャシーが怒って標識をポルターガイストで飛ばしてくる前に、透けるキャシーの手をちょっと重ねてやった。
***
ん?あれ?
ヴァンパイアとデートするって妄想していたつもりなんだが……。
もう一度もう一度……。
***
「オールがなくなってしまいましたわ! だからあなたに任せるのは嫌だったんですの!」
「手で漕ぎゃあいいだろ!」
と、キャシーに叫んだらポルターガイストで船をひっくり返された。
フワフワと浮かぶキャシーの頬を膨らました顔は可愛らしいが、やることは悪霊そのものだ。
五百年前に殺されてバラバラにされたキャシーは、このように俺に対して手加減をしないゴーストだ。
絶対いつか除霊してやる、こんな悪霊。
***
ボートから落ちて、池でサハギンに助けられてラブラブになる妄想をしていたつもりだったんだが。
***
「何をしたらケーキが爆発するんだよ!」
「説明書を読んだんですわ!」
クリスマス。
除霊はできないままキャシーと付き合って半年になった。
聖夜だというのに雪崩れ込むキャシーの妄想と戦いつつ、俺は奴のケーキができるのを待っていた訳なのだが。
レンジから出した瞬間、クリームが爆発してキャシーの身体を透き通って、俺へ見事にかかった。
そして文句を言うとナイフとフォークの弾幕が飛んできた。
クッソ、本当になんでこんな奴に惚れられたんだ。
「ダーリン」
「なんだよ」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
***
その後、何を妄想してもゴーストのキャシーが現れた。
クリスマスだの、バレンタインデーだの、何気ない日常ばかりでさえもキャシー一色。
生意気な上に悪霊のようなキャシーに対して、一切ムラッとこない。
けれど、これだけはわかる。
「俺が好き……なんだろうな」
3ヶ月ほど、キャシーなる謎のゴーストと付き合ってみた。
水族館でジンベエザメとマンボウを近くで見たいとか言い出した挙げ句、水槽に入って飼育員さんを驚かせたり。
喫茶店で手伝いを頼んだらナイフやフォークを浮かせて、子供の拍手を貰いながら勝手に曲芸を始めていたり。
……恥ずかしそうに子供ができたと報告したり。
妄想とは思えないぐらい、リアルで。
けど、ふとしたことで目が覚めると、頬に涙が流れていく。
だってさあ、キャシーはあくまで俺の妄想の中の存在なんだ。
妄想しなきゃキャシーには会えない――声も聞こえない。
「キャシー」
呼んでもキャシーは現れない。
生意気でチビで貧乳で……可愛い、大好きなキャシーは現れない。
俺は涙を拭いてから、キャシーが現れるまで待ち続けた。
***
あれから一年。
俺は喫茶店を畳もうと決意した。
キャシーに会えなくなるかもしれない、三人の子供達にだって会えなくなる。
幸せそうな彼女の声と笑顔を思い出すと鈍り出すけど、もう仕方ない。
「あ、地下倉庫」
そういえば地下倉庫の整理を忘れてた。
結界を張ってもらってから、ずっと近づかなかったなあ……。
とりあえず明かりを点けてから地下倉庫に降り、古びたお札を一気に剥がす。
そして倉庫の扉を開けると――
「……は?」
「え?」
そこには――ゴスロリのゴーストがいた。
見間違えるはずがない、このゴーストは、この女の子は、君は
「キャシー」
キャシー。
俺は涙がボロボロ零れ落ちるのも気にせず――キャシーに近づいた。
「キャシーッ!!」
抱きつこうとした。
だが見事にキャシーの身体を通り抜け、俺はガラクタ山へ突撃した。
「だっ、ダーリンッ! 大丈夫ですのっ!?」
フワフワとポルターガイストでガラクタが浮いて、俺はフラフラとキャシーに大丈夫大丈夫と手をヒラヒラさせる。
「……キャシー」
「……こちらでは、はじめましてですわ。キャシーです」
チビで貧乳なのは変わらないけど、普通にすれば可愛い丁寧な子。
妄想のキャシーとはちょっと違うけど。
「キャシー」
「はっ、はい」
妄想じゃないよな?
確かにキャシーはいるんだよな?
だったら――俺は。
「結婚してくれ、キャシー」
「――勿論です、ダーリン」
それから。
とりあえずはキャシーが実体を持つまで、また妄想の日々。
だけど前とは違う、目が覚めても隣にキャシーはいる。
また明日も、これからもずっと。
俺とキャシーの、妄想のような日常はずっと続くんだ。
この新しくできた喫茶店のオーナーであり、マスターが俺だ。
つっても魔物向けに深夜から朝までの営業にしたから客はあまり来ないし、暇だから自分でコーヒー作って飲んでるだけなんだよなあ。
「でもこんな夜中、静かな中でコーヒー飲めるのも悪くはないよな」
秋。
リーンリーンと鈴虫の鳴く声が響き、どこか風流さを感じる。
「うーん……」
リーンリーン、リーンリーン、シュゥウウウウッ!!リーンリーン、シュゥウウウウッ!!
「……うーん?」
リーンリーン、超エキサイティンッ!!リーンリーン、シュゥウウウウッ!!リーンリーン……
「だぁあああああ! 青姦なら余所でやれフ〇コロガシ共! 鈴虫がやる気失せてんじゃねえか!」
外でケプリたちとその彼氏がコトをシてやがった。
深夜までイチャイチャしやがって……しかも彼女いない歴=年齢(28歳)の俺の店の前で。
オッサンと呼ばれてもおかしくないこの俺の前で。
怒鳴り散らしてやって、ようやく去っていく奴ら。
次来たら熱々のコーヒーかけてやる、熱々のカップルだけに。
「あー」
ちなみに喫茶店を開いた理由は彼女、あわよくば嫁さんができるかもなんて思っているからだ。
ほら、常連さんができてその女の子がサバトコーヒー(ノンカフェインだが媚薬成分アリのコーヒー)飲んで、「マスター、ス・テ・キ♪」なんて、押し倒してくれる事があるかもしれないだろう?
やっぱり俺って頭いいよな。
あ、でも喫茶店を開いていて悩みが一つだけある。
実はこの店、かなり土地代が安かったのだが理由が「墓場」を潰して更地にしたところだったらしい。
べ、べ、別に、こ、怖くねえよ?
全部の電気点けてトイレに行ったりなんかしてねえからな!
「フェックショイッ! あー……ちくしょ」
妙な寒気もするし。
でも知り合いのエクソシストにきちんと結界は張ってもらったから、お化けは出ないはずなんだけど。
***
ゴーストのワタクシを防ぐ結界なんか破ってダーリンに早く実体化させてもらいますわ、うふふ!
――と思っていた時期がワタクシにもありました。
「きぃいい……あんな変なナリして結界だけはなんで立派なんですの!」
住処の墓場を壊されて途方に暮れていたところに、ダーリンが来てワタクシはもう突撃ラブハートだったというのに、あの変なエクソシストが立派な結界を張って、ワタクシを封印したのですわ!
ひどいと思いませんか!
ワタクシはただ「いやらしいキャシーにはオシオキしないとなあ、ゲヘヘ!」とダーリンにこのワタクシを強姦させる妄想をさせようとしただけなのに!
「開けてダーリン★」
と、頼めれば苦労しませんわ。
ワタクシが封印されているのはダーリンの足下、地下倉庫に結界が張られているのですわ。
まあ、結界がちょっと弱まったから、何とかダーリンの妄想に触れられたのですが……。
「我が一生に一片の悔い無しィイイイイイッ!!」
と、叫びながら上空へティロ・フィナーレしたらそれを見つけた「ワイバーン」に連れ去られてしまうし。
「姫、助けに参りました!」
と、勇者の格好をしたダーリンが「ドラゴン」を倒して、姫の「リリム」とその場でセックスを始めてしまうし。
「ずっと君が好きだったよ」
と、神社で浴衣を来た「サキュバス」のヒロインとラブラブセックス始めてしまうし。
「あがぁあああああああああああああッ!!」
何故ワタクシよりもあんな奴らを!
あれなんですの!?美乳(笑)で貧乳(泣)なワタクシは死ねばいいんですの!?もう死んでますけれど!!
あっ、まさか結界でワタクシの妄想をできないようにしてる!?
ガァッデェエエエエムッ!!ドチクショウッ!!
あのドチクショウエクソシストめ、次にあったら知り合いのゾンビ数十人をけしかけてやりますわッ!!
「はあ……はあ……」
……ゴーストになったというのに久しぶりに疲労を感じてしまいましたわ。
精神的な疲労はなかなかとれないから嫌ですわ。
とりあえず落ち着きましょう、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……。
「さて」
生前なら紅茶を飲んでいるところですが、実体化してない霊体のワタクシには意味もないので、しばらく無心で漂うことにします。
これが一番の暇潰しであるのですわ。
「……ふう」
ですけどやっぱり、暇ですわ。
墓場があった頃は他のゴーストやゾンビと話していましたが、みんなバラバラになってしまいましたし。
スケルトンにでも転職しようかとしても、バラバラ死体なワタクシのパーツも頭以外見つかりませんし。
「ダーリーン……」
ワタクシは見えない月に憂いるよう、ダーリンを呼びました。
本当にどうしましょう、このままではおっぱい兵器共や、年を考えない婆幼女共にダーリンを盗られてしまいますわ……。
それだけは嫌ですわ!
ワタクシ、意地でもダーリンのチンポに負けてやりますわ!
***
今日は何故か妄想が広がらない。
いつもなら小説が書けるんじゃないかってくらいに、壮大でエロい妄想ができるのにっ……。
ん?
あ、思いついたぞ。
***
「ちょっとダーリン!」
「はい!?」
何故か俺の前に貧乳の女の子が現れた。
ゴスロリが似合っている可愛い子だが、足がない――ゴーストだった。
「何してるんですの! 今日はデートなのに、他の女の子なんか見てナメてます!?」
「い、いえ」
あ、ああ、そうだ。
今日はゴーストのキャシーとのデートだった。
キャシーに一目惚れされてしまった俺は、仕方なく彼女と付き合っている。
仕方なくだ、仕方なく。
こんな生意気でチビで貧乳なゴーストとなんか、いつか別れてやるつもりだ。
「ほら、さっさとエスコートなさい!」
「へいへい……」
なんか頭に違和感を感じるが、キャシーが怒って標識をポルターガイストで飛ばしてくる前に、透けるキャシーの手をちょっと重ねてやった。
***
ん?あれ?
ヴァンパイアとデートするって妄想していたつもりなんだが……。
もう一度もう一度……。
***
「オールがなくなってしまいましたわ! だからあなたに任せるのは嫌だったんですの!」
「手で漕ぎゃあいいだろ!」
と、キャシーに叫んだらポルターガイストで船をひっくり返された。
フワフワと浮かぶキャシーの頬を膨らました顔は可愛らしいが、やることは悪霊そのものだ。
五百年前に殺されてバラバラにされたキャシーは、このように俺に対して手加減をしないゴーストだ。
絶対いつか除霊してやる、こんな悪霊。
***
ボートから落ちて、池でサハギンに助けられてラブラブになる妄想をしていたつもりだったんだが。
***
「何をしたらケーキが爆発するんだよ!」
「説明書を読んだんですわ!」
クリスマス。
除霊はできないままキャシーと付き合って半年になった。
聖夜だというのに雪崩れ込むキャシーの妄想と戦いつつ、俺は奴のケーキができるのを待っていた訳なのだが。
レンジから出した瞬間、クリームが爆発してキャシーの身体を透き通って、俺へ見事にかかった。
そして文句を言うとナイフとフォークの弾幕が飛んできた。
クッソ、本当になんでこんな奴に惚れられたんだ。
「ダーリン」
「なんだよ」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
***
その後、何を妄想してもゴーストのキャシーが現れた。
クリスマスだの、バレンタインデーだの、何気ない日常ばかりでさえもキャシー一色。
生意気な上に悪霊のようなキャシーに対して、一切ムラッとこない。
けれど、これだけはわかる。
「俺が好き……なんだろうな」
3ヶ月ほど、キャシーなる謎のゴーストと付き合ってみた。
水族館でジンベエザメとマンボウを近くで見たいとか言い出した挙げ句、水槽に入って飼育員さんを驚かせたり。
喫茶店で手伝いを頼んだらナイフやフォークを浮かせて、子供の拍手を貰いながら勝手に曲芸を始めていたり。
……恥ずかしそうに子供ができたと報告したり。
妄想とは思えないぐらい、リアルで。
けど、ふとしたことで目が覚めると、頬に涙が流れていく。
だってさあ、キャシーはあくまで俺の妄想の中の存在なんだ。
妄想しなきゃキャシーには会えない――声も聞こえない。
「キャシー」
呼んでもキャシーは現れない。
生意気でチビで貧乳で……可愛い、大好きなキャシーは現れない。
俺は涙を拭いてから、キャシーが現れるまで待ち続けた。
***
あれから一年。
俺は喫茶店を畳もうと決意した。
キャシーに会えなくなるかもしれない、三人の子供達にだって会えなくなる。
幸せそうな彼女の声と笑顔を思い出すと鈍り出すけど、もう仕方ない。
「あ、地下倉庫」
そういえば地下倉庫の整理を忘れてた。
結界を張ってもらってから、ずっと近づかなかったなあ……。
とりあえず明かりを点けてから地下倉庫に降り、古びたお札を一気に剥がす。
そして倉庫の扉を開けると――
「……は?」
「え?」
そこには――ゴスロリのゴーストがいた。
見間違えるはずがない、このゴーストは、この女の子は、君は
「キャシー」
キャシー。
俺は涙がボロボロ零れ落ちるのも気にせず――キャシーに近づいた。
「キャシーッ!!」
抱きつこうとした。
だが見事にキャシーの身体を通り抜け、俺はガラクタ山へ突撃した。
「だっ、ダーリンッ! 大丈夫ですのっ!?」
フワフワとポルターガイストでガラクタが浮いて、俺はフラフラとキャシーに大丈夫大丈夫と手をヒラヒラさせる。
「……キャシー」
「……こちらでは、はじめましてですわ。キャシーです」
チビで貧乳なのは変わらないけど、普通にすれば可愛い丁寧な子。
妄想のキャシーとはちょっと違うけど。
「キャシー」
「はっ、はい」
妄想じゃないよな?
確かにキャシーはいるんだよな?
だったら――俺は。
「結婚してくれ、キャシー」
「――勿論です、ダーリン」
それから。
とりあえずはキャシーが実体を持つまで、また妄想の日々。
だけど前とは違う、目が覚めても隣にキャシーはいる。
また明日も、これからもずっと。
俺とキャシーの、妄想のような日常はずっと続くんだ。
13/04/24 19:40更新 / 二酸化O2
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