喜劇『桃太郎』
ここは、とある反魔物領の街。この街の警備兵であるボブは、1ヶ月後に開かれる街のお祭りで披露する、劇の内容について考えていた。
「さて、劇の内容は、ジパングに伝わる昔話『桃太郎』に決まったのだが、配役はどうしようか…」
この街では、珍しい事に街の兵士が劇の役者となり、人々を賑わせる伝統がある。ボブは毎年、その劇の最高責任者を務めていた。いつもなら、周りの兵士達も乗り気なのだが、今年はどうも様子がおかしいようだ。
「劇?あんな領主の為にやりたくないね。」
「まじファック。」
「はいはいちんこちんこ。」
こんな感じで、みんなやる気がない。と言うのも、今年から領主が変わったのだが、その領主があまりにも性格が悪く、兵士から反感を買っているのだ。故に、こうもテンションがガタ落ちなのである。
「おい、みんな楽しみにしていた劇じゃないか。頑張ろうぜ。」
「ハァ?なんであいつの為に頑張るの?わけわかんねぇ。」
「で、でも楽しみにしている市民の為にも…」
「ファwww!市民の為?ふざけんじゃねぇ、俺達が劇をやる事には、市民の連中は、酔っ払ってて、とても劇なんて状態じゃねぇ。正直嫌だね。」
「だ、だけど楽しみにしてる人達もいるはずだよ…」
「ファッ!?ヤジで三文芝居とか、大根役者とか言われるんですがそれは?」
「うう…」
ボブの立場は、もう合唱コンクールで必死になっている女子のそれに近いものがあった。いくら、自分が劇をやりたいと思っていても、周りがこれではどうにもならない。ボブは、行き詰っていた。
「もう俺達やる気無いんで、他の所から、役者来ればいいんじゃないすか?」
「そうだそうだ!」
「何なら、お前の焼き土下座ショーでもいいんだぜ!?」
周りの兵士が茶化す。確かにそうだ。やる気がない中、無理に話を進めて失敗しては、意味がない。今の状態では、桃が川から流れてくるシーンで、誰かの桃尻で代用しそうな勢いだ。なら、どこかから役者を呼んだ方が効率的だし、精神衛生上にもいい。
「よし、わかった。そのまでお前達が言うなら、俺が役者を見つけてやる。」
「おい、ちゃんと1ヶ月後の祭りに間に合うんだろうな?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「戻ってこなかったら、焼き土下座なw」
「おう、任せろ!」
こうして、ボブの旅は始まった。時に灼熱の砂漠を渡り、時に極寒の雪山を超え、さらにはジパング、魔界等、世界中を巡り、劇の役者を集めた。市民の為、そして、兵士の信頼に応える為…
そして、祭りの前日の夜
「おい、ボブの野郎はいつ戻るんだ?祭りはもう明日だぞ?」
「焼き土下座♪焼き土下座♪」
祭りの前日になっても戻ってこないボブに、全員苛立っていた。すると、兵舎のドアをノックする音が聞こえた。
「俺だ。ボブだ。帰って来たぞ。」
ドアを開けたそこには、世界各国から役者を集めて来たボブの姿があった。ボブの後ろには、全身を隠すようにマントで纏った役者が大勢いた。
「おおボブ!待ちわびたぞ!」
「おい、あんま大きい声を出すなよ。」
「何で?訳は今から説明する。お偉いさんはここにはいないな?」
「ああ、いないが…何で?」
「今から訳を説明する。さ、皆さん入って。」
兵舎の中に、役者がぞろぞろ入って来る。その数、だいたい10人ほど。その全員が、体を覆い隠すようにマントを覆っている。中には、体の後ろ側も布で覆われている役者もいた。
「何でみんな姿を隠してるんだ?」
「知らねーよ。」
不審に思った、兵士達がざわつきはじめる。
「コホン」
そして、ボブの咳払いで兵舎は静かになった。
「みんな、誰も外から見えてないな?」
「ああ…しかし何で?」
「それはな…」
ボブが指を鳴らすと、役者はマントを取り、姿を現した。
「何…だと?」
兵士一同がどよめきだした。それは無理も無い。目の前に自分達が戦っている魔物がいるのだから。
「すまんな。役者がいなかったから、こうするしかなかったんだ。」
「だ、だからって魔物を連れてくるのは…」
「正体バレなきゃ大丈夫だろ?」
「そう言う問題じゃねーよ!」
「まぁ、とりあえず、紹介させてくれ。」
「お、おう。」
「まず、おじいさん役である、世界魔物愛機構レスカティエ支部会長、リリムのミーナさん。」
「うふふ、よろしく❤」
「は…はは、よろしく…」
「次に、おばあさん役である、世界サバトの会副会長、バフォメットのセリアさん。」
「皆のもの、よろしくなのじゃ。」
「はーい(棒)」
「次に、犬役である、世界旦那管理委員会理事長、アヌビスのサフランさんだ。」
「よろしく頼むわ。」
「ははは…」
「次に、キジ役である、レスカティエ軍で航空師団を率いていらっしゃるドラゴンの、キリさん。」
「ふん、仕方なく頼まれたのだ。よろしく頼むぞ。」
「はーい。(ってか、キジって言うレベルじゃねぇ。)」
「次に、猿役である、ジパング商業教会会長を務めていらっしゃる、形部狸の蓮さん。」
「おう、よろしゅうたのむわ。」
(猿じゃねぇ…狸来た…)
「次に、鬼A役である、ジパング鬼連合で副会長を務めていらっしゃる、ウシオニの牡丹さん。」
「へへ…よろしく頼むぜ。」
(勝てねぇ…てか、よく兵舎に入れたなオイ。)
「次に、鬼B役である、ジパング酒造連盟名誉会長の、アカオニの皐月さん。」
「よろしくな。」
(酔ってる…つか、酒臭ぇ…)
「次に、鬼C役である、世界酔っ払い奇行大会3年連続優勝チャンピオン、アオオニの水無月さん。」
「よろしくね。」
(何だよ、世界酔っ払い奇行大会って…)
「次に、小道具件語り担当である、魔物華劇団小道具担当、ケプリのミドラーさん。」
「はーい、よろしく。」
(スタンド使い…じゃないよな?)
「最後に、桃太郎役である、レスカティエを治める魔王のご令嬢、デルエラさんです。」
「あら、よろしくね?」
「「「「「待てーーーーーーーーい!!!!!!!!」」」」
流石に兵士一同、ボー○ボのビ○ティばりのツッコミをかます。
「ん?どうしたの?」
「いやいや、他の方達はともかく、何でレスカティエのトップがここにいんだよ!?」
「いやさ、何か書類にサインしたら、出演オーケーもらってさ。」
「もらってさ、じゃねーよ!?敵対勢力のトップだよ!?」
「はは、無礼講だよ無礼講。それに、劇の時は、人間に変装するから大丈夫だって。」
「…まぁ、迷惑かけなきゃいいんだが…とりあえず領主にばれるなよ?面倒な事になるから。」
「ですって。みなさん、わかりましたか?」
「はーい!!」
威勢のいい返事を返す、デルエラ一同。他の兵士達は、不安になってる一方、彼女達はまるで、修学旅行にでも来ているかのような気分であった。
「大丈夫かなぁ…」
思わず他の兵士が呟く。
次の日、祭り当日。ボブと、デルエラをはじめとする役者の魔物達は、劇に向けての最終準備に取り掛かっていた。
「よし、みなさん。後は台本通りに動いて下さい。みなさんなら、必ず成功できると信じています。」
「大丈夫よ。反魔物領出身なのに、劇の為にわざわざレスカティエの女王であるこの私まで動かしたのだから、絶対成功させてみるわ。」
「デルエラさん…」
「そうだ、ボブ。お前のガッツは、何よりも強かった。」
「ミーナさん…」
「そうじゃ、もっと自信を持てい!」
「セリアさん…わかりました。私、みなさんをお迎えできた事、生涯の宝にします!それではみなさん、いよいよです。頑張って下さい。」
そして劇は始まった。会場はすでに満員で、大勢の老若男女で溢れ返っており、その中には領主の姿も見られた。その様な中、ボブは、数名の兵士達と共に、裏でその様子を見ていた。
「なぁボブ、大丈夫なのか?」
「心配するな。彼女達なら信用できる。」
『むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。』
「おお、見てくれ、あの迫真の演技!」
「…何だろう、迫真と聞くとホモを思い浮かべるのは気のせいか?」
『おばあさんが洗濯をしていると、川から大きな桃が、ドンブラコ、ドンブラコと流れてきました。』
すると、ステージの右端から、丸い、大きいピンク色の塊が流れて来た。
「ボブ、あれは何だ?」
「あれはミドラーさん特製の、桃だ。何とも、魔力を集め、固めてさらに、ピンク色に着色した物だそうだ。」
「へー、器用だなぁ。」
「あの中に、デルエラさんが入ってるんだ。」
「それはそれは…って、大丈夫なのか?」
そうこうしてるうちに、おばあさん役のセリアが、桃を切るシーンになった。
「ちなみに、セリアさんが持ってるあの包丁、人は傷つけない不思議な銀で出来ていて、魔力を増幅させる効果があるんだって。」
「それやったら、ヤバくね?」
「あ。」
「えいっ!」
ズバッ!
それは、一瞬の事であった。ミドラーが固めていた魔力は、レスカティエで集めた魔力であった為、かなり濃度が高かった。さらに、中にデルエラが入っていた為、魔力はどんどん濃度が高くなっていき、破裂寸前。そこに、魔力を増幅させる包丁により、さらに悪化。領土中に、高濃度の魔力が飛び散る事となった。
「うえーん、ママー!」
「うわー妻がサキュバスになったー!」
魔力に汚染される事により、魔物化&インキュバス化していく市民。挙句の果てには、領主とその妻まで魔力に汚染され、インキュバス&サキュバス化してしまった。そんな光景を、ボブは脂汗を掻きながら見ていた。
「…えーと…」
「おいボブ、どうすんだよこれ?」
「責任とれよ?」
「エスケープ!!」
「あっ、逃げた!」
「ギャアアア!!」
「と、思ったら、キジ役のキリに連れ去られた!」
「…ってお前、角生えてね?」
「ああ、お前の事が好きだったんだよ(迫真)」
「アルプになりやがった!!」
「さぁ、合体するぞ(意味深)」
「ああああああ…」
こうして、また一つの反魔物領が、魔界に飲み込まれていった。その後、ボブは反魔物領を落とすきっかけを作った事と、デルエラを動かしたガッツが認められ、魔王直々から勲章を貰い、魔王の側近にまで上り詰め、今では妻となったドラゴンのキリと共に、仲良く暮らしている。こんなボブだが、昔の同僚によく茶化され、「同僚には頭が上がらない。」との事だそうだ。
「さて、劇の内容は、ジパングに伝わる昔話『桃太郎』に決まったのだが、配役はどうしようか…」
この街では、珍しい事に街の兵士が劇の役者となり、人々を賑わせる伝統がある。ボブは毎年、その劇の最高責任者を務めていた。いつもなら、周りの兵士達も乗り気なのだが、今年はどうも様子がおかしいようだ。
「劇?あんな領主の為にやりたくないね。」
「まじファック。」
「はいはいちんこちんこ。」
こんな感じで、みんなやる気がない。と言うのも、今年から領主が変わったのだが、その領主があまりにも性格が悪く、兵士から反感を買っているのだ。故に、こうもテンションがガタ落ちなのである。
「おい、みんな楽しみにしていた劇じゃないか。頑張ろうぜ。」
「ハァ?なんであいつの為に頑張るの?わけわかんねぇ。」
「で、でも楽しみにしている市民の為にも…」
「ファwww!市民の為?ふざけんじゃねぇ、俺達が劇をやる事には、市民の連中は、酔っ払ってて、とても劇なんて状態じゃねぇ。正直嫌だね。」
「だ、だけど楽しみにしてる人達もいるはずだよ…」
「ファッ!?ヤジで三文芝居とか、大根役者とか言われるんですがそれは?」
「うう…」
ボブの立場は、もう合唱コンクールで必死になっている女子のそれに近いものがあった。いくら、自分が劇をやりたいと思っていても、周りがこれではどうにもならない。ボブは、行き詰っていた。
「もう俺達やる気無いんで、他の所から、役者来ればいいんじゃないすか?」
「そうだそうだ!」
「何なら、お前の焼き土下座ショーでもいいんだぜ!?」
周りの兵士が茶化す。確かにそうだ。やる気がない中、無理に話を進めて失敗しては、意味がない。今の状態では、桃が川から流れてくるシーンで、誰かの桃尻で代用しそうな勢いだ。なら、どこかから役者を呼んだ方が効率的だし、精神衛生上にもいい。
「よし、わかった。そのまでお前達が言うなら、俺が役者を見つけてやる。」
「おい、ちゃんと1ヶ月後の祭りに間に合うんだろうな?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「戻ってこなかったら、焼き土下座なw」
「おう、任せろ!」
こうして、ボブの旅は始まった。時に灼熱の砂漠を渡り、時に極寒の雪山を超え、さらにはジパング、魔界等、世界中を巡り、劇の役者を集めた。市民の為、そして、兵士の信頼に応える為…
そして、祭りの前日の夜
「おい、ボブの野郎はいつ戻るんだ?祭りはもう明日だぞ?」
「焼き土下座♪焼き土下座♪」
祭りの前日になっても戻ってこないボブに、全員苛立っていた。すると、兵舎のドアをノックする音が聞こえた。
「俺だ。ボブだ。帰って来たぞ。」
ドアを開けたそこには、世界各国から役者を集めて来たボブの姿があった。ボブの後ろには、全身を隠すようにマントで纏った役者が大勢いた。
「おおボブ!待ちわびたぞ!」
「おい、あんま大きい声を出すなよ。」
「何で?訳は今から説明する。お偉いさんはここにはいないな?」
「ああ、いないが…何で?」
「今から訳を説明する。さ、皆さん入って。」
兵舎の中に、役者がぞろぞろ入って来る。その数、だいたい10人ほど。その全員が、体を覆い隠すようにマントを覆っている。中には、体の後ろ側も布で覆われている役者もいた。
「何でみんな姿を隠してるんだ?」
「知らねーよ。」
不審に思った、兵士達がざわつきはじめる。
「コホン」
そして、ボブの咳払いで兵舎は静かになった。
「みんな、誰も外から見えてないな?」
「ああ…しかし何で?」
「それはな…」
ボブが指を鳴らすと、役者はマントを取り、姿を現した。
「何…だと?」
兵士一同がどよめきだした。それは無理も無い。目の前に自分達が戦っている魔物がいるのだから。
「すまんな。役者がいなかったから、こうするしかなかったんだ。」
「だ、だからって魔物を連れてくるのは…」
「正体バレなきゃ大丈夫だろ?」
「そう言う問題じゃねーよ!」
「まぁ、とりあえず、紹介させてくれ。」
「お、おう。」
「まず、おじいさん役である、世界魔物愛機構レスカティエ支部会長、リリムのミーナさん。」
「うふふ、よろしく❤」
「は…はは、よろしく…」
「次に、おばあさん役である、世界サバトの会副会長、バフォメットのセリアさん。」
「皆のもの、よろしくなのじゃ。」
「はーい(棒)」
「次に、犬役である、世界旦那管理委員会理事長、アヌビスのサフランさんだ。」
「よろしく頼むわ。」
「ははは…」
「次に、キジ役である、レスカティエ軍で航空師団を率いていらっしゃるドラゴンの、キリさん。」
「ふん、仕方なく頼まれたのだ。よろしく頼むぞ。」
「はーい。(ってか、キジって言うレベルじゃねぇ。)」
「次に、猿役である、ジパング商業教会会長を務めていらっしゃる、形部狸の蓮さん。」
「おう、よろしゅうたのむわ。」
(猿じゃねぇ…狸来た…)
「次に、鬼A役である、ジパング鬼連合で副会長を務めていらっしゃる、ウシオニの牡丹さん。」
「へへ…よろしく頼むぜ。」
(勝てねぇ…てか、よく兵舎に入れたなオイ。)
「次に、鬼B役である、ジパング酒造連盟名誉会長の、アカオニの皐月さん。」
「よろしくな。」
(酔ってる…つか、酒臭ぇ…)
「次に、鬼C役である、世界酔っ払い奇行大会3年連続優勝チャンピオン、アオオニの水無月さん。」
「よろしくね。」
(何だよ、世界酔っ払い奇行大会って…)
「次に、小道具件語り担当である、魔物華劇団小道具担当、ケプリのミドラーさん。」
「はーい、よろしく。」
(スタンド使い…じゃないよな?)
「最後に、桃太郎役である、レスカティエを治める魔王のご令嬢、デルエラさんです。」
「あら、よろしくね?」
「「「「「待てーーーーーーーーい!!!!!!!!」」」」
流石に兵士一同、ボー○ボのビ○ティばりのツッコミをかます。
「ん?どうしたの?」
「いやいや、他の方達はともかく、何でレスカティエのトップがここにいんだよ!?」
「いやさ、何か書類にサインしたら、出演オーケーもらってさ。」
「もらってさ、じゃねーよ!?敵対勢力のトップだよ!?」
「はは、無礼講だよ無礼講。それに、劇の時は、人間に変装するから大丈夫だって。」
「…まぁ、迷惑かけなきゃいいんだが…とりあえず領主にばれるなよ?面倒な事になるから。」
「ですって。みなさん、わかりましたか?」
「はーい!!」
威勢のいい返事を返す、デルエラ一同。他の兵士達は、不安になってる一方、彼女達はまるで、修学旅行にでも来ているかのような気分であった。
「大丈夫かなぁ…」
思わず他の兵士が呟く。
次の日、祭り当日。ボブと、デルエラをはじめとする役者の魔物達は、劇に向けての最終準備に取り掛かっていた。
「よし、みなさん。後は台本通りに動いて下さい。みなさんなら、必ず成功できると信じています。」
「大丈夫よ。反魔物領出身なのに、劇の為にわざわざレスカティエの女王であるこの私まで動かしたのだから、絶対成功させてみるわ。」
「デルエラさん…」
「そうだ、ボブ。お前のガッツは、何よりも強かった。」
「ミーナさん…」
「そうじゃ、もっと自信を持てい!」
「セリアさん…わかりました。私、みなさんをお迎えできた事、生涯の宝にします!それではみなさん、いよいよです。頑張って下さい。」
そして劇は始まった。会場はすでに満員で、大勢の老若男女で溢れ返っており、その中には領主の姿も見られた。その様な中、ボブは、数名の兵士達と共に、裏でその様子を見ていた。
「なぁボブ、大丈夫なのか?」
「心配するな。彼女達なら信用できる。」
『むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。』
「おお、見てくれ、あの迫真の演技!」
「…何だろう、迫真と聞くとホモを思い浮かべるのは気のせいか?」
『おばあさんが洗濯をしていると、川から大きな桃が、ドンブラコ、ドンブラコと流れてきました。』
すると、ステージの右端から、丸い、大きいピンク色の塊が流れて来た。
「ボブ、あれは何だ?」
「あれはミドラーさん特製の、桃だ。何とも、魔力を集め、固めてさらに、ピンク色に着色した物だそうだ。」
「へー、器用だなぁ。」
「あの中に、デルエラさんが入ってるんだ。」
「それはそれは…って、大丈夫なのか?」
そうこうしてるうちに、おばあさん役のセリアが、桃を切るシーンになった。
「ちなみに、セリアさんが持ってるあの包丁、人は傷つけない不思議な銀で出来ていて、魔力を増幅させる効果があるんだって。」
「それやったら、ヤバくね?」
「あ。」
「えいっ!」
ズバッ!
それは、一瞬の事であった。ミドラーが固めていた魔力は、レスカティエで集めた魔力であった為、かなり濃度が高かった。さらに、中にデルエラが入っていた為、魔力はどんどん濃度が高くなっていき、破裂寸前。そこに、魔力を増幅させる包丁により、さらに悪化。領土中に、高濃度の魔力が飛び散る事となった。
「うえーん、ママー!」
「うわー妻がサキュバスになったー!」
魔力に汚染される事により、魔物化&インキュバス化していく市民。挙句の果てには、領主とその妻まで魔力に汚染され、インキュバス&サキュバス化してしまった。そんな光景を、ボブは脂汗を掻きながら見ていた。
「…えーと…」
「おいボブ、どうすんだよこれ?」
「責任とれよ?」
「エスケープ!!」
「あっ、逃げた!」
「ギャアアア!!」
「と、思ったら、キジ役のキリに連れ去られた!」
「…ってお前、角生えてね?」
「ああ、お前の事が好きだったんだよ(迫真)」
「アルプになりやがった!!」
「さぁ、合体するぞ(意味深)」
「ああああああ…」
こうして、また一つの反魔物領が、魔界に飲み込まれていった。その後、ボブは反魔物領を落とすきっかけを作った事と、デルエラを動かしたガッツが認められ、魔王直々から勲章を貰い、魔王の側近にまで上り詰め、今では妻となったドラゴンのキリと共に、仲良く暮らしている。こんなボブだが、昔の同僚によく茶化され、「同僚には頭が上がらない。」との事だそうだ。
14/02/14 16:50更新 / JOY