再臨
事を終えて、まだものの数分しかたっていない。二人の間には、長い沈黙が続いていた。しかし、沈黙とはいっても、二人の雰囲気は温かいものだった。しばらくして、守がその沈黙を破った。
「なぁセリア、質問なんだけどさ…」
「どうしたのですか?」
「いや、さっき甲斐さんとの会話で二千年がどうのこうのって言ってたけど、あれは何だ。」
「その事ですか…ここで話すにも落ち着けないですから、教会で話しませんか?」
「そうだな。いつまでも、こんなところに全裸でいるわけにもいかないし。」
「では、参りましょうか。」
二人は、脱いであたりに散乱している服を着始め、街にある教会へと歩み始めた。
街について見ると、その異様な光景に守は驚いた。各建物は、日本の物と西洋の物が融合したような佇まいだった。そして、周りにいる人は、みんな魔物、魔物、魔物…とにかく魔物ばかりがいた。守が住んでいる世界には、こうした魔物が好きな人が大勢いる。そうした人たちにとって、ここは「まほら」と言えるのもわかる気がする。下半身が蛇の者、手足が猫の様になっている者、背中から翼が生え、鱗が付いている者、中には下半身が百足になっている者までいた。そして、その誰もが何だか幸せそうな顔をしていた。
「みんな幸せそうな顔をしているな。俺の世界では、こうはいかない。」
「そうですか。でも大丈夫です、あなた達の世界もすぐにこうなりますから。」
「それ、どういうことだ?」
「ふふっ、内緒です。」
そう言うとセリアは、クスッと笑った。セリア、一体何を隠してるんだ?そう思っていると、正面から誰かが走って来た。
「セリアさーん、教会でウジマサさんが待ってますよー!」
この方も夢で出てきたあの少女だった。茶色い髪、手足は虫の脚、背中にはゴキブリを思わせるような羽。やっぱり、今朝と電車内で見た夢は、このことを予言していたのかもしれない。
「あらいけない、待たせてしまって申し訳ないわ。」
「ええ、何だか2時間ぐらい待たされて、退屈そうにしてましたよ。」
「じゃあ、急いで教会に戻らなきゃ。」
「なんか、守という男性がどうのこうのって言ってましたよ。」
守は考えた。こうした異世界の住民を知ってそうな人物、俺を知っている人物…ついこの前であった、あの腐れ神主しか考えられない。
「ねぇ君、もしかしてその男性って…神社で神主やってる人?」
守は、走ってきた彼女に質問した。
「はい、確かそうだって聞きました。」
「やっぱりねー。」
守は脱力した。そしてオチガ見えて気がした。これはグルだ。セリアの婿探しに協力する為にあの爺がグルになってる。そんな気がした。
「もしかして、あなたがウジマサさんが言ってた守って人?」
彼女が俺に質問する。
「ああ、そうだよ。」
「あ、はじめまして。私、デビルバグのボンて言います。」
「よろしくな、ボン。」
「えへへ、よろしく。」
そう言うと、二人は握手を交わした。何とも奇妙だ。手は虫なのに、人間と同じような温もりを感じる。手を握られて、思わず顔がにやける。
「…守さん、また色目を使いましたね。」
セリアは嫉妬したのか、守にそう囁いた。
「え?これは、社交辞令だろ?」
「言い訳は無用です。後でまたたっぷりとお仕置きですわ♥」
「マジすか。」
「マジです♥」
すると、ボンは空気を読んだのか、
「あ、あのー、私、もう行きます。さよならー。」
「あ、もう行っちゃうの?またねー。」
そう言うと、ボンは小走りで去って行った。それをセリアは、にこやかに手を振りながら、ボンを見送った。するとボンは、何か思い出したかのように立ち止まり、また戻って守に話しかけた。
「あ、ちょっと待ってください。守さんに一つ忠告があります。ちょっと耳を貸してください。」
「ああ、いいが。」
「…実はセリアさん、ダークプリーストの中では結構嫉妬深いんで、気を付けてくださいね。どれくらい嫉妬深いかと言うと、同じように嫉妬深い魔物の、メドゥーサや白蛇にも負けず劣らずってとこでしょうか。」
「ああ。わかる。今ボンが話している最中も、後ろから野獣の眼差しをしてるから。」
「…と言う訳で、気をつけてねー。」
そう言うと、ボンは全力ダッシュで去って行った。
「…あの子、守さんに何か言ったかしら?」
「…いや、別に。」
そう言うと、二人は教会へと進んでいった。
数分後、二人は教会に着いた。小さい教会ではあるが、なかなか立派である。
「さぁ、着きましたよ。」
「へぇー、ここが…」
そう言いながら、二人は教会の中へと入って行った。すると正面に、虎岩神社で見たあの腐れ神主が立っていた。
「おかえりーって、おう、お前はあの時の若者!てことは…セリア、そいつが婿か!?」
「そうですウジマサさん!ようやく見つかりました。」
「よし!そいつを見た瞬間、セリアの婿にピッタリだと思って、上手くまほら島へと引き寄せたのじゃが…こうもホイホイ引っかかるとは思わなんだ。」
「言ってくれるじゃないか爺!!」
守は、思わず叫んだ。何て神主だ。早く罰が当ってしまえ。
その後、三人は教会の応接室へと入り、今回の事の話をした。何とも、この神主の本名は堀内氏昌と言うらしい。彼は大昔、ウシオニである甲斐と知り合いそのまま結婚、インキュバスとなり現在に至るというのである。道理で、爺になってもがたいがいいわけだ。
「あのー、大昔って言うとどれぐらい昔なんですか?」
「うーん、うちの親父が関ヶ原の戦いで西軍として戦った頃だから…だいたい400年ぐらい前かのう。」
「どんだけ生きてんだよ…」
守は唖然とした。こんな、頭の螺子が何本も欠けていそうな爺が400年間、虎岩神社の神主をやっているのだ。
「…なぁ、一つ質問。まほら島の言い伝えで、住民が鬼にさらわれたって聞くが、その真相って…」
「ああ、その真相は、単にこっちの世界に住民が避難したって話じゃ。昔はここの信仰を、お偉いさんは大目に見てくれてたんじゃが、あの糞狸が天下取ってから、見る目が厳しくなってな。そいである時、まほら島周辺に住む住民をキリシタンだという名目で捕まえようとしたのじゃ。そこで、わしらがその住民たちをこっちの世界に避難させたというのが、真実じゃ。まぁ、鬼に食われたというのもあながち間違ってはいないじゃろう。性的な意味で。」
「シャット アップ ユア マウス!!」
「まぁ、そう言うなって。」
守は何だが脱力した。まほら島に伝わる話は、もっとおぞましい物だと思っていた。それがまさか、こんな話だとは。そしてその話の主犯が、よもやこんな気の軽い爺とは。そして、糞狸が誰かも推測できた。あえて言わないが。
「…それともう一つ質問。セリアが言っていた、二千年云々って何だ。」
「ええ、その話は…」
「ああセリア、それはわしが話す。実はな、今から二千年前には、お前さんが住んでいる世界にも魔物はいたのじゃ。じゃが、色々あって、こっちの世界に逃げて来たのじゃ。その際、こっちの世界の抜け道として作ったのが、あのまほら島の穴、と言う訳じゃ。ま、そうした抜け道は、ここだけじゃなくて世界中にあるがね。」
「えっ、例えば…」
「そうじゃな。E国にあるピ(検閲)とか、C国にある始(検閲)とかがそうじゃな。」
「マジかよ…」
「マジじゃ!…話を戻すが、こっちの世界に来た後にな、二千年後には再びお前さんのいる世界へ戻れるようにする様にしたのじゃ。」
「で、それがセリアが言ってたやつか。」
「そうじゃ。具体的には、まほら島の大穴があったじゃろ。あそこから、ここの世界の魔力が噴き出すのじゃ。そして、世界中を魔力で満たし、魔物と人間が共存できる社会を作り上げるというのが大雑把な計画内容じゃ。」
いきなりの超展開に、頭が混乱しそうである。こんなこと、今の歴史家は知っているのだろうか。いや、それどころかこれは世界史の根底を覆すようなものだぞ。
「あの、お話し中悪いですが氏昌さん、もう時間なのでは?」
「おお、そうか。もうあの時が来たのか。よし守、お前も一緒に見るか。」
「な、何をですか?」
「これから魔物と人間が共存できる世界が出来上がる瞬間をじゃよ。」
そう言うと、三人は教会を出て、街の中央にある広場へ行き出した。これから何が始まるかは、全く想像できない。だが、少なくとも悪い方向にはいかない。そんな気がした。
「さて、どうなるか。」
そう呟くと守は、セリアと氏昌と共に街の中央にある広場へと向かった。
いよいよ、釜の蓋が開く。
続
「なぁセリア、質問なんだけどさ…」
「どうしたのですか?」
「いや、さっき甲斐さんとの会話で二千年がどうのこうのって言ってたけど、あれは何だ。」
「その事ですか…ここで話すにも落ち着けないですから、教会で話しませんか?」
「そうだな。いつまでも、こんなところに全裸でいるわけにもいかないし。」
「では、参りましょうか。」
二人は、脱いであたりに散乱している服を着始め、街にある教会へと歩み始めた。
街について見ると、その異様な光景に守は驚いた。各建物は、日本の物と西洋の物が融合したような佇まいだった。そして、周りにいる人は、みんな魔物、魔物、魔物…とにかく魔物ばかりがいた。守が住んでいる世界には、こうした魔物が好きな人が大勢いる。そうした人たちにとって、ここは「まほら」と言えるのもわかる気がする。下半身が蛇の者、手足が猫の様になっている者、背中から翼が生え、鱗が付いている者、中には下半身が百足になっている者までいた。そして、その誰もが何だか幸せそうな顔をしていた。
「みんな幸せそうな顔をしているな。俺の世界では、こうはいかない。」
「そうですか。でも大丈夫です、あなた達の世界もすぐにこうなりますから。」
「それ、どういうことだ?」
「ふふっ、内緒です。」
そう言うとセリアは、クスッと笑った。セリア、一体何を隠してるんだ?そう思っていると、正面から誰かが走って来た。
「セリアさーん、教会でウジマサさんが待ってますよー!」
この方も夢で出てきたあの少女だった。茶色い髪、手足は虫の脚、背中にはゴキブリを思わせるような羽。やっぱり、今朝と電車内で見た夢は、このことを予言していたのかもしれない。
「あらいけない、待たせてしまって申し訳ないわ。」
「ええ、何だか2時間ぐらい待たされて、退屈そうにしてましたよ。」
「じゃあ、急いで教会に戻らなきゃ。」
「なんか、守という男性がどうのこうのって言ってましたよ。」
守は考えた。こうした異世界の住民を知ってそうな人物、俺を知っている人物…ついこの前であった、あの腐れ神主しか考えられない。
「ねぇ君、もしかしてその男性って…神社で神主やってる人?」
守は、走ってきた彼女に質問した。
「はい、確かそうだって聞きました。」
「やっぱりねー。」
守は脱力した。そしてオチガ見えて気がした。これはグルだ。セリアの婿探しに協力する為にあの爺がグルになってる。そんな気がした。
「もしかして、あなたがウジマサさんが言ってた守って人?」
彼女が俺に質問する。
「ああ、そうだよ。」
「あ、はじめまして。私、デビルバグのボンて言います。」
「よろしくな、ボン。」
「えへへ、よろしく。」
そう言うと、二人は握手を交わした。何とも奇妙だ。手は虫なのに、人間と同じような温もりを感じる。手を握られて、思わず顔がにやける。
「…守さん、また色目を使いましたね。」
セリアは嫉妬したのか、守にそう囁いた。
「え?これは、社交辞令だろ?」
「言い訳は無用です。後でまたたっぷりとお仕置きですわ♥」
「マジすか。」
「マジです♥」
すると、ボンは空気を読んだのか、
「あ、あのー、私、もう行きます。さよならー。」
「あ、もう行っちゃうの?またねー。」
そう言うと、ボンは小走りで去って行った。それをセリアは、にこやかに手を振りながら、ボンを見送った。するとボンは、何か思い出したかのように立ち止まり、また戻って守に話しかけた。
「あ、ちょっと待ってください。守さんに一つ忠告があります。ちょっと耳を貸してください。」
「ああ、いいが。」
「…実はセリアさん、ダークプリーストの中では結構嫉妬深いんで、気を付けてくださいね。どれくらい嫉妬深いかと言うと、同じように嫉妬深い魔物の、メドゥーサや白蛇にも負けず劣らずってとこでしょうか。」
「ああ。わかる。今ボンが話している最中も、後ろから野獣の眼差しをしてるから。」
「…と言う訳で、気をつけてねー。」
そう言うと、ボンは全力ダッシュで去って行った。
「…あの子、守さんに何か言ったかしら?」
「…いや、別に。」
そう言うと、二人は教会へと進んでいった。
数分後、二人は教会に着いた。小さい教会ではあるが、なかなか立派である。
「さぁ、着きましたよ。」
「へぇー、ここが…」
そう言いながら、二人は教会の中へと入って行った。すると正面に、虎岩神社で見たあの腐れ神主が立っていた。
「おかえりーって、おう、お前はあの時の若者!てことは…セリア、そいつが婿か!?」
「そうですウジマサさん!ようやく見つかりました。」
「よし!そいつを見た瞬間、セリアの婿にピッタリだと思って、上手くまほら島へと引き寄せたのじゃが…こうもホイホイ引っかかるとは思わなんだ。」
「言ってくれるじゃないか爺!!」
守は、思わず叫んだ。何て神主だ。早く罰が当ってしまえ。
その後、三人は教会の応接室へと入り、今回の事の話をした。何とも、この神主の本名は堀内氏昌と言うらしい。彼は大昔、ウシオニである甲斐と知り合いそのまま結婚、インキュバスとなり現在に至るというのである。道理で、爺になってもがたいがいいわけだ。
「あのー、大昔って言うとどれぐらい昔なんですか?」
「うーん、うちの親父が関ヶ原の戦いで西軍として戦った頃だから…だいたい400年ぐらい前かのう。」
「どんだけ生きてんだよ…」
守は唖然とした。こんな、頭の螺子が何本も欠けていそうな爺が400年間、虎岩神社の神主をやっているのだ。
「…なぁ、一つ質問。まほら島の言い伝えで、住民が鬼にさらわれたって聞くが、その真相って…」
「ああ、その真相は、単にこっちの世界に住民が避難したって話じゃ。昔はここの信仰を、お偉いさんは大目に見てくれてたんじゃが、あの糞狸が天下取ってから、見る目が厳しくなってな。そいである時、まほら島周辺に住む住民をキリシタンだという名目で捕まえようとしたのじゃ。そこで、わしらがその住民たちをこっちの世界に避難させたというのが、真実じゃ。まぁ、鬼に食われたというのもあながち間違ってはいないじゃろう。性的な意味で。」
「シャット アップ ユア マウス!!」
「まぁ、そう言うなって。」
守は何だが脱力した。まほら島に伝わる話は、もっとおぞましい物だと思っていた。それがまさか、こんな話だとは。そしてその話の主犯が、よもやこんな気の軽い爺とは。そして、糞狸が誰かも推測できた。あえて言わないが。
「…それともう一つ質問。セリアが言っていた、二千年云々って何だ。」
「ええ、その話は…」
「ああセリア、それはわしが話す。実はな、今から二千年前には、お前さんが住んでいる世界にも魔物はいたのじゃ。じゃが、色々あって、こっちの世界に逃げて来たのじゃ。その際、こっちの世界の抜け道として作ったのが、あのまほら島の穴、と言う訳じゃ。ま、そうした抜け道は、ここだけじゃなくて世界中にあるがね。」
「えっ、例えば…」
「そうじゃな。E国にあるピ(検閲)とか、C国にある始(検閲)とかがそうじゃな。」
「マジかよ…」
「マジじゃ!…話を戻すが、こっちの世界に来た後にな、二千年後には再びお前さんのいる世界へ戻れるようにする様にしたのじゃ。」
「で、それがセリアが言ってたやつか。」
「そうじゃ。具体的には、まほら島の大穴があったじゃろ。あそこから、ここの世界の魔力が噴き出すのじゃ。そして、世界中を魔力で満たし、魔物と人間が共存できる社会を作り上げるというのが大雑把な計画内容じゃ。」
いきなりの超展開に、頭が混乱しそうである。こんなこと、今の歴史家は知っているのだろうか。いや、それどころかこれは世界史の根底を覆すようなものだぞ。
「あの、お話し中悪いですが氏昌さん、もう時間なのでは?」
「おお、そうか。もうあの時が来たのか。よし守、お前も一緒に見るか。」
「な、何をですか?」
「これから魔物と人間が共存できる世界が出来上がる瞬間をじゃよ。」
そう言うと、三人は教会を出て、街の中央にある広場へ行き出した。これから何が始まるかは、全く想像できない。だが、少なくとも悪い方向にはいかない。そんな気がした。
「さて、どうなるか。」
そう呟くと守は、セリアと氏昌と共に街の中央にある広場へと向かった。
いよいよ、釜の蓋が開く。
続
13/03/18 23:22更新 / JOY
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