読切小説
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菌子に覆われた星


「〜〜❤︎!美味しい、貴方の種、もっとちょうだい」
「どうしたんだ!?雅子!?ああ!」

何一つない夫婦が暮らすマンションの一室で悦びの声が上がる、それが真昼間でなく、妻の目がおかしくなければ仲の良い夫婦の情事だろう。

「何って子作りじゃない、貴方沢山子供がほしいって言ってたじゃない、あん❤︎貴方のが入ってる❤︎」
「ああ!?気持ち良い……!でももう少しお金を貯めてからだって……ああ!駄目だ!出る!!」

様子のおかしい妻に動揺しつつも、男は普段よりも具合の良い妻の中に精を出してしまう。

「ああん❤︎貴方の種が沢山❤︎もっともっと❤︎」
「……!もう無理だ雅子、もう俺は……!?」

男は騎乗位してる妻の身体を自分の身体から剥がそうとするが……

「雅子!?足が、足が!?溶けてる!!?」

何と妻の脚部は溶けて、自分の下半身と一体化してるではないか!?

「そんなの❤︎も〜うどうでも良いのぉ❤︎だってたくさんこどもつくらないとぉ❤︎❤︎ああ❤︎胞子がでるのぉぉぉ❤︎❤︎」

そんな言葉と共に妻の頭の上にいつのまにか生えていたキノコが傘を開き、部屋中に胞子を撒き散らかす。

「!!何だこれは!?うむぅぅ!?」

男は驚いて声を荒げるも、妻に唇を奪われてしまう。

「おかねとか、せけんていとかそんなのどうでもいいの❤︎たくさんふえないと、ふえて、ふえてふやそう❤︎」
「……ああ❤︎ふやそう、たくさん増えたらうれしい、たのしい!」

それまでの男とはまるで人が変わったようになっていく。
男の身体も、頭にキノコが生えていき、下半身はより妻と融合していくではないか。

(ああ、そうだ。増えないと、だって増やすのが生き物にとっての本能だ) 

男の思考は既に胞子に侵されて、繁殖本能に突き動かされていた。

「ああ❤︎もっとぉ❤︎たくさんたくさん❤︎❤︎ほしかったあかちゃんたくさんほしいのぉ❤︎」
「ああ!もっと出させてくれ!出すぞ!」
それから数時間後、部屋の中はキノコだらけになり、その中心には人間であったものの残骸があった。
「ああぁんっ❤︎いっぱいだわぁ❤︎」
そのキノコの塊の中心では、一組の男女が交じり合っていた。
そしてその胞子は窓やドアから外にどんどん出ていく。
数時間後、マンションからは悦びあう男女の声が
聞こえてくるだけになった……。



それから数ヶ月後、地球には人類は居なくなっていた。
新たに地球の霊長となっているのは菌類の繁殖能力と人類の頭脳が合わさった新たな人類、それを人はマタンゴと読んだ。

人類は抵抗した。
剣で切り倒し、銃で撃ち、炎で焼いた。
身体は時間をおいて再生する。
あるすべての大元となるキノコの菌子のネットワークに記憶、いや魂を保存しており、例え体が全損しようが再生するのだ。
キノコに寄生された人間は、次第に自らの肉体も変化させる。
まるで白く柔らかい粘土のような菌子の身体になるのだ。
老人にも子供にもその手は及んだ。

「ウメ……、まさかのぉ……ワシの体があの頃のように……」
「泰造さん❤︎そんなおじいさんのような喋り方はやめてください、もう私も子供を産める体になったんです❤︎たくさん産ませてください❤︎❤︎」

老人はその肉体の全盛期の姿にまで若返っていく。

「ああ❤︎ショウタ君の負けだよ!!もっと頑張らないと私を孕ませられないよ❤︎❤︎」
「リサちゃんが気持ち良すぎるんだよぉ〜!」

子供は見た目はそのままに性機能を成人と同じようにされた。
中には子供のまま、姿を成長させないで交わる者もいるという。

それでも人類は抵抗した。
亡くした者達に応えるために。

しかしそれも無意味だった。

「マリア!マリア!マリア!!愛してる、君が死んでからもずっとずっと!!」
「エド❤︎わたしもずっとずっと愛してる❤︎❤︎たくさんエドのあかちゃんを孕ませてぇぇ❤︎❤︎」

マタンゴは魂まで干渉できた。
愛し合いながらも結ばれなかった哀れな魂までに菌子は手を伸ばした。
まだ死後まもないものは、そのまま菌が体に取り付き蘇生した。
骨があるものは、その骨にまとわりつくように菌子がついていき、肉となり蘇生した。
魂だけの存在も時間はかかったが菌子が集まり蘇生していった。

足を失ったマタンゴ達も時間が経つにつれ再び足を取り戻した個体もいた、知性を取り戻した者も居た。
最優先事項は繁殖することだが。

人間が変化した者ではなく、マタンゴと化した人間との間に産まれた者もいた。
胞子などが自然と集まり、ひとりでに産まれた個体も居た。

またマタンゴは、菌類のネットワークを繋げて視界も情報も、共有する事も可能だ。
地球の反対側の情報だって同族が居れば知れる。


数年の月日が流れて、人類は地球から居なくなった。
だがその事を悲しむ者は居なかった。
皆、愛する人と共に結ばれる事を喜んでいたのだから。



日本の中心にはとある山よりも大きいキノコが生えている。
それはマタンゴ達の胞子などを産んだすべての大元であるキノコだ。
人はそれをマザーと呼び、慕っていた。
その近くにとある胞子で汚れているが白衣を着た夫婦が居た。

「サエカ……、素晴らしい世界だね」
「ええ、イチロー……、マザーのおかげね」

この夫婦はすべての元凶であるマザーを産み出した科学者であった。
彼らは菌類を研究し、人類に役立てようとしていた。
そんな時、人類が発見してない未知のキノコを見つけた夫婦はそのキノコを研究しようとした。

だがある意味では失敗だった。
そのキノコには異常なまでの繁殖本能と人間への危険性が高かった。
夫婦はそれを処分しようとするが、その前にその胞子に侵されてしまう。

マタンゴと化した夫婦は今までの人類に拘ってたことが馬鹿らしく感じた。
そしてこの喜びを広めようとした。

その結果が、周り一面、建造物も人も菌子に覆われている世界だ。
二人はその世界をとても美しいと思っていた。

「ねえ、イチロー❤︎またふやしたくなっちゃった❤︎おねがい❤︎」
「妊婦なのによくばりだね、サヤカ。良いよ、もっともっとふやそう!」

すっかり臨月の妻へと夫は己のキノコを挿入する。
一突きするたびに妻は喜び、そして次第にその下半身の境目はなくなり一つへと変化していく。

「ああ❤︎貴方のがいっぱい❤︎❤︎あ❤︎❤︎❤︎産まれるわ❤︎私たちの子が、ああん❤︎気持ち良い❤︎❤︎また産むのきもちいいのぉぉ❤︎❤︎」

その言葉と共に赤子は産まれていく。
人間のように性器から産まれるのではない。
臨月の腹からまるで染み出していくように赤子のが体の外に出て産まれていく、そしてそれはマタンゴにとって最高の快楽なのだ。

「サエカ!ありがとう!今回も可愛い赤ちゃんだよ!今回は男の子のようだね」
「ありがとうイチロー❤︎ふふっ、赤ちゃんも私のミルクを美味しそうに飲んでくれてるわ❤︎」

そして産まれて授乳をしてても二人の交わりは終わらない。
終わる意味もない。

「しかし……、増えるのは良いのだがそのうち、地球がパンクしちゃうなぁ……、えい!」
「ああん❤︎もう❤︎大丈夫よ!宇宙への進出計画も進んでるじゃない、私達ならどんな環境にも適用できるようになるわ!」

彼女の脳内には、月に、火星に移住してるマタンゴ達の姿が見えていた。

「ほら❤︎聞こえるわ❤︎みんなの悦ぶ声が❤︎みんなたくさんHして、産んでるのが❤︎」

部屋で交わるあう夫婦の姿が、公園で交わり合う少年少女が、交わり合いながら研究してる科学者の姿が。
菌子を通じて感じられる。

「……ああ、なんてすばらしいんだ」



太陽系第三惑星、地球。
その星からは悦びの声が溢れていた。
そして命も産まれていく



22/10/07 19:44更新 / デーカルス

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