連載小説
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先輩の愛
先輩が俺の中で果てて体を気持ち良さげに震わせる。

「あ〜…なんで君のお尻はこんなに気持ちいいんだろうね…」

「はぁ、はぁ…」

先輩と肌を重ねるのはこれで何度目だろうか。
俺もかなりアナルセックスに慣れてきてしまったが(ちなみにまだ童貞)、先輩とヤった後にいつも思うことがある。

先輩は俺のことをどう思っているのだろう。

「…先輩」

「んー?」

あどけない笑顔。
この笑顔が大好きだ。

先輩と俺は付き合ってこそいるが、二人でまともに過ごすことはあまりない。
大抵は先輩に襲われる。

「先輩にとって俺は何ですか?」

「彼氏でしょ?現に望めばいつでもヤらせてくれるし、こうやってお家デートもしてるわけじゃない♪」

「…そうですか」

俺は惚れた弱さからセフレにされているだけなのではないか。
頭を振ってネガティブな妄想を捨てようとする。

それでも消えない虚無感。

「…はぁ」

少し外の空気を吸ってこよう。

「あ、あのさ、この後…」

「すみません、ちょっと外出てきます」

「え?どこ行くの?」

「散歩です」

投げやりに言って出てきてしまう。
何もすることは考えていないし、適当にうろつくか。



「…はぁ」

ぶらつくこと1時間ほど。
日曜日の昼というのは街に人が多い。
そのぶん俺と同じような人たちも多くいるようで、公園のベンチに座ってタバコを吸う人もたくさんいた。
それにまぎれて俺も自動販売機で買ったタバコを吸う。

タバコは久々だ。
匂いが嫌いなのか、先輩は俺がタバコを吸おうとすると若干不機嫌になってしまう。



「…あれ?日暮くん?」

「え?」

タバコをふかしていると、人の群れから出てきた女性が声をかけてきた。

「もしかして…金井?」

「久しぶり!大きくなったね!」


金井 愛
大学の時に仲良くなった女性。
彼女は大百足…といっても先輩ほど百足の部分の足は長くない。
大百足は街でもそう多くないので、周りの人も珍しそうに見ている。

好きな男の相談に乗っていたがその特徴的な足のために本命の男には玉砕し、慰めている内にいい感じになったこともある。
が、しかし、やはりそこは俺のヘタレが顔を出して手を出すまでにいかなかった。
そのまま微妙な関係のまま卒業、連絡することも少なくなり疎遠になったのだった。


久々に会った彼女はとても大人っぽくなっていて、足がなければとても同一人物だとは気がつかないほど落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「久しぶりだな、今日は彼氏とデート?」

それを聞いた彼女はケタケタ笑い出した。

「ん?違う違う!残念ながらいい出会いなくてねー、そういう日暮くんは?」

「あー…その、彼女いるんだけどさ…そのことで悩んでて…」

「へー?何かワケありみたいだね、私でよければ話聞こっか?」

にこにこと語りかけてくる。
とてもありがたいが、こんなことを相談してもどうにもならないだろう。

「いや、こっちの話だしさ、金井には金井の用事もあるだろ?そんなの悪いよ」

「私はちょっとショッピングしてただけだし、それに昔もよく私の相談に乗ってくれたじゃん?恩返し…じゃないけどさ、ちょっとでも話すと楽になるかもよ?」

その明るい笑顔を見ている内に段々とポジティブになってきた。

「ん…じゃあ少しだけ聞いてもらってもいいか?」

「もっちろん!じゃあ駅前に新しくできたカフェでいい?」

嬉々として歩き出す金井。

「…そこに行きたかっただけじゃないのか?」

「細かいことは気にするなっ」



「…日暮くん」

今日はお家デートだった。
待ちに待った恋人になりはしたものの彼と顔を合わせるたびに、どうしても歳上としてリードしなくては、と思ってしまう。
そしてリードしようと思うと無意識にエッチに持ち込んで上に立ってしまう。

「ご飯…食べてくるのかな」

きちんと恋人らしいことをしないと彼ばかり焦らせてしまう。
今朝、夕食の買い出しをしてから来た。
カバンの中に食材を突っ込んで、見ていない内に冷蔵庫に入れたからきっと彼は気がついていないけれど。

本当は、昼にイチャイチャして夕食を用意してあげる。そしてそのまま夜、彼の好きなようにさせてあげる予定だった。

「…帰ってこない」

彼が散歩に行って既に1時間と20分も経っていた。
出て行く時の顔は 何かに悩んでいるようだった。
そしてきっとそれは私のことだと思う。
もう犯されるのにうんざりしたのか、私の性欲に失望したのかは分からない。
けれど謝りたい。

「探しに行かないと」

このままではきっと彼もこのことを引きずってしまう。
今日は帰ってこないかもしれない。
彼が悩んで、私に別れを告げることを想像すると胸が張り裂けそうだった。

私は立ち上がって服を正す。

「メッセージだけ送って…」

携帯で連絡だけ入れて彼の部屋を出た。

『自分勝手なことをしてごめんなさい。君さえよければ今日君の家できちんと謝りたいの。見たら折り返し連絡おねがい。』



俺たちは駅前のガラス張りのお洒落なカフェにいた。周りはカップルや女性客だらけだ。

「…ふぅん、珍しい体質の彼女に夜の営みだけされてて、愛を感じない…ね」

「ああ…俺だけ舞い上がってたのかなって思っちゃってて、さ」

金井が聞き上手なのか、それとも俺の精神がそれほど弱ってしまっていたのか、自分では思っていないほどペラペラと喋ってしまう。

「女の子みたいな悩みだね、まあ…たしかに、だからこそだけど不安な気持ちは分かる気がするよ」

「…どうしたらいいのかな、俺」

すると彼女は甘ったるい匂いのパンケーキを口に含んで言った。

「その人の気持ちは聞いたの?」

「え?」

「本人から、直接これについて聞いたの?」

「朝、聞こうと思ったんだけどさ、いつもの調子で返されちゃってなんかむしゃくしゃして…」

「そっか…」

かちゃん、と金井はフォークとナイフを皿に置いた。
そして真剣な眼差しでこちらを見る。

「たぶん…だけど、彼女さんは君のこと好きだよ」

「え?」

「それを上手く表現できないだけだと思う、だから君から歩み寄ってあげたらきっときちんと答えてくれるよ」

「そんなの…分からないだろ」

金井が苦く笑う顔が見えた。

胸の中の悶々とした気持ちに精一杯でぶっきらぼうに答えてしまったことに気づいて慌てて謝罪する。

「あ…ごめん」

「こんなこと言うのもなんだけど、玉砕したらその時はさ…大学生の時みたいに二人で飲みに行こうよ、慰めてあげるからさ」

「…ありがとな」

「ほら笑って笑って!私は明るい顔の君に惚れたんだから!」

頭を撫でて精一杯励ましてくれる。
…え?惚れた?

「え?ほ、惚れた…?」

すると秘密を知られた女の子のようにはにかんで言った。

「…へへ、大学生の時も、私が振られてから結構君との距離近かったしさ、あの時から私、今でも君のこと…」

手をそっと柔らかくて小さな手で包まれる。

「ラミアがいけるなら大百足もいけたりなんか…なんちゃって…」

小さく笑う金井。

その時、俺の携帯が鳴った。
古い型の故障手前なので通知がたまに遅れて来る。
このメッセージも30分ほど前のものだった。

「…あ、連絡きた」

テーブルに置いてあった通知画面には、会いたいという旨の文章が。
二人で携帯を数秒見る。

彼女の手が離れる。

携帯をポケットにしまう。

「ありがとな、俺も少し相談してみるよ」

照れ臭いので顔を背けて話す。
すると彼女も照れ隠しからかパンケーキをつつきながら言った。

「ん…行ってあげて、私はいいからさ」

「え?け、けど相談に乗ってくれたし…」

「私が恥ずかしいの、それに…彼女持ちがいつまでも彼女以外の女の子と二人でいたらダメでしょ?」

笑って手をパタパタ振って言った。

「今度また悩んだ時にメールでもしてくれたら慰めに行くからさ、埋め合わせはまた今度!だから今日は…ね?」

彼女の優しい配慮。
情けないが、それに甘えさせてもらうことにした。

「…ごめん、必ずまた埋め合わせするから!」

財布から一万円札だけ取り出してテーブルに置き、そのまま店を出る。


「…これだから、日暮くんのこと好きなんだよ…ばかやろう」



「…!」

街中で探してはいるものの見つからない。
もしかして、本当に愛想がつきてしまったのだろうか。

「…日暮くん…どこ?」

するとメッセージが。

『俺の方こそごめん。今から家に帰ります。話したいことがある。』

「っ……!」

『話したいこと』とは何なのだろう。
まさか…。

急いで彼の家に向かう。
これほど蛇体を呪ったことはない。
私の足は走ってもあまりスピードは出ないのだ。
けれど思いっきり走る。
彼に謝らないといけない。
償わないといけない。

何より、気持ちを伝えないといけない。



「…先輩」

「日暮くん」

先輩は汗だくで帰ってきた。
探しに行ってくれていたのだろうか。

「「ごめんなさい」」

「「…え?」」

二言。
全く同じタイミングでハモった。

「あの、俺勝手に出て行ったりして…」

「私こそ…君のこと大切にできなくて…」

二人でもじもじしながら伝えたいことを言う謎の構図。

「俺(私)、先輩(君)のこと大好きです(だ)から!」

伝えたいこともハモった。

「…ふふ」

「ははは…」



先輩が夕食を作ってくれた。
二人でぴったりくっついて食べるご飯は格別だった。

「美味しいです!先輩!」

「本当?ふふ、よかった」

「今日は本当にごめんなさい、俺…」

「こら、それはお互い様だから言わないの、あ、でもお互い様じゃ済まないこともあるけどね…」

背筋がゾクリと震えた。
なぜだろう。嫌な予感。

「君の手から女の子とパンケーキの匂いがするんだよねぇ…気のせいかな」

「ぎくっ」

「…来週お仕置きね」

「え…勘弁してくださいよ…」

「浮気の罪は重いんだから…やれやれ…」

むすっとした調子ではあるが、そんな顔も俺には愛おしかった。

「ジロジロ見ても許さないよ?」

「いや、やっぱり先輩は可愛いな、と思って」

「…ふん」

その日。
お互いに夜の仕事をやる気満々だったが、張り切り過ぎたが故に言い出すことができず、悶々としたまま二人で寝てしまった。

俺の童貞はいつ卒業できるんだ…。
18/05/29 23:19更新 / あさやけ
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■作者メッセージ
エロ無しです。イチャイチャ書きたかったんです!期待してくださっていた方すみません!
ご感想お待ちしております!

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