読切小説
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バレンタイン記念小説
「よし、お前らそこへ並べ」
 斉藤 主水は古風な名前通りに古風な性格である。正確に言えば自分に厳しいが他人には優しい。ただし特訓や修行と名前が付くと鬼の様に怖いと評判である。それさえなければどちらかと言えばクールな性格でも面倒見のいい人物なので慕う物は多かった。そして魔物娘の世の中、慕ってくると言えば当然性的な関係もある。しかし、
「まずは誰がどれを持って来たか聞こうか」
 斉藤の目の前には料理やチョコレートが並んでいる。そう、今日のバレンタインデーに恋人である魔物娘達がチョコレートを持って来たのだ。
「では右から」
「はーい。まずはあたし、メロウのスカーレットが作った特製チョコレートよ。貴方に長く元気でいてもらうためにあたしの血がはいってるの」
 開けられたハート形のチョコレートは、一見普通のチョコレートに見える。
「あのね、あのね、ぎんこマンドレイクだから、あしのさきっちょを削って入れたの。とくせいチョコスティック」
 ほどほどの大きさで抜かれたマンドレイクは根っこにチョコをコーティングしたスティックを自慢そうに一本取り上げる。
「サファイアは〜。スライムだからチョコを一杯食べて体がチョコ味になったよ〜。食べて食べて〜」
 自分の体からちぎって直接スライムゼリーを差し出すスライム娘。
「ふん、どれも色物ね、本命登場オークの白玉ちゃんが作ったラーメンです。私の出汁をたっぷりと使いました」
 台の上に置かれたのは豚骨ラーメンである。
「貴方の方が色物じゃない。私を見なさい。自分で産んだローパーの卵を使った黛印のトリュフチョコよ」
 昔は人間今ローパーという幼馴染がチョコレートに見える何かを指さして立ち上る。
「座れと言ってるだろ!」
 どこからか取り出したハリセンで黛の頭をはたくと、斉藤は正座している魔物娘の前に仁王立ちになった。
「バレンタインのチョコレート、プレゼントは嬉しい。しかしお前ら」
 斉藤はびしっと音が立つほど勢いよく台の上を指さす。
「何で自分の体を削ってまで俺に食わせようと言うんだ。俺をカルバリズムにでも目覚めさせようと言うのか」
 確かに材料を見れば普通躊躇しそうなものではあった。
「くれるなら普通の物にしてくれ」
 斉藤はそれだけ言うと部屋を出て行った。
「どうしよう。ぎんこのチョコいらないっていわれた」
「サファイアのチョコも〜」
 性格が特に幼い二人が泣いている。
「何よ主水のくせして、ケチをつけるなんて」
 黛は怒っている。
「でも確かに、皆体を削って食べさせようというのもないわね、こういうのは一人やるだけなのがネタとして面白いのに」
スカーレットはやれやれと肩をすくめる。
「こうなったらやってやるです。おいしいチョコレートを食べさせてぎゃふんと言わせるです」
 決意表明する白玉に「どうするの〜」と、声をハモらせてぎんことサファイアが尋ねる。
「それで、どうしましょう」
「丸投げなの?」
 逆に指名された黛が眉をひそめる。この五人、勢いが良いのはオークの白玉で問題解決はローパーの黛というパターンが多かった。
「そうね、やっぱり考えられる限り最高のチョコを作りましょう。魔物娘らしく魔物素材のチョコなんてどうかしら」
 さっき魔物娘の肉体を原料にしたから怒られたのに全く懲りていない黛。
「気を付けないといけないのは、間違っても相手の肉体を削るような事はしない事。また叱られるわよ」
 訂正、少しは懲りているようだ。
「じゃああたし、知り合いのドライアドからカカオを貰ってくるわ。一人ぐらいカカオのドライアドが居るでしょう」
 スカーレットが手を上げる。
「甘い物が欲しいわね、蜜はハニービーかアルラウネからもらいましょう」
「じゃあぎんこがみつもらってくる」
 ぎんこが手を上げる。一緒にサファイアも手を上げる。
「サファイアはそうね、チョコに入れる果物が欲しいから、バロメッツの所に行ってくれる?」
「わかったー」
 黛がサファイアに指示を出した。
「私は何をするのです?」
「あんたは牧場に行ってホルスタウルスからミルクを貰ってきなさい」
「黛はどうするのです?」
「ナッツ他の買い出しと料理担当よ。他の子は皆まともに料理作れないじゃない」
 白玉に指示を出して、黛は細かい材料を買いに走る事にした。

「一枚!」
「きゃーっ」
「二枚!」
「痴漢よー!」
「三枚!」
「ドロボー!」
 何故かスカーレットは仲間のマーメイドから胸の貝殻をむしり取っていた。
「貝殻のカルシウムが良いからって、マーメイドが身に着けている物って限定されてもねぇ!」
 カカオのドライアドとの交渉で、マーメイドの水着となっている貝殻を百枚要求されたスカーレットは自分のブラだけでは足らず、仕方なく仲間のブラも集めていた。しかし、
「一枚!」
「きゃあっ」
 ぶるん
「二枚」
「いやん」
 ぶるるん
「三枚…」
 ぽよよん
 スカーレットの友達は巨乳美人が多く、普通の大きさのスカーレットと違い水着を剥すごとに弾けるように震えていた。
「ちくしょーっ!日頃の恨み晴らしてやる〜!」
 目的のすり替わったスカーレットは警官に捕まると、ついかっとなったと供述した。なお、事情を説明すると友人にも許してもらえた。あとでブラを買って返す事になったが。

「あのね、みつがほしいの」
「あんっ」
「そこ、イイっ」
 ぎんこは知り合いのリリラウネの元を訪れた。しかしリリラウネはレズに夢中で聞こえていないようだ。
「ねえ、はなしをきいてよ〜」
 ぎんこが蜜を貰ったのは、リリラウネが情事後の昼寝から目覚めた後だった。

「ありがとね〜」
 サファイアは問題なくバロメッツから果実を貰って帰る。しかしバロメッツの棲家は大体が山奥であり、スライムの速度は遅い。本人は一所懸命走っているつもりでも変えるのは遅くなりそうだった。

 牧場へ向かった白玉は乳搾りをすることを条件にホルミルクを貰う事に成功した。
「え、何で一行なんですか!?」
 ネタがないから(メタ発言)


 黛はナッツを買って他の道具も準備し、今か今かと材料が届くのを待っていた。
「皆遅いわね、日が暮れちゃうじゃない」
 材料がそろったのは日が完全に暮れてからだった。
「もう、本当に遅いわよ!」
 カカオ豆を貰ってもそれをそのまま使う訳ではない。あくまでもカカオパウダーは飾りに使うのだ。というか飾りに使わないと時間がない状態になっていた。
「苦労したのに」
 既に大部分は普通のチョコレートを湯煎して準備されていた。
「まずは甘味の追加で蜂蜜を入れて」
 リリラウネの蜜が加えられた。この段階で物凄く甘い匂いが立ち込める。
「バロメッツの実はみじん切りにして混ぜて、4分の1はナッツを混ぜて、残りはミルクチョコレートにしましょう」
 ローパーの触手による同時調理である。
「わーすごいね」
「器用ねぇ」
仲間の声を聴きながら黛は何とか全部の材料を使って作り終わったチョコを、ラッピングしている時間がないと籠に盛り付ける。
「それじゃあ渡してくるわね片付けお願い!」
『待ちなさい』
 一人で届けようとする黛に全員から制止が入った。
「何で一人で届けるですか」
「サファイアもいく〜」
「もう、仕方ないわね、誰かサファイアとぎんこを運んで。急がないと日付が変わるわ」
 どさくさにまぎれようとした黛の作戦は失敗に終わり、5人並んでのプレゼントとなった。
 この後、斉藤がたっぷり絞られたのは言うまでもない。
 どっとはらい。

17/02/14 23:43更新 / 夜矢也

■作者メッセージ
 記念に一度くらい書いてみたかったんです。しかし急いで書いたのでいまいちな出来に。書き直すかもしれません。ネタ自体は実は書こうと思っていた三馬鹿の続偏と同じ流れだったりします。

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