読切小説
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ある人の一生
 子供が生まれたらコボルドを飼うといい。という昔からの言い伝えというか、教訓があるのは知っているだろうか。曰く、コボルトは成長が早い。赤ん坊の頃は友達として守ってくれるだろう。赤ん坊が子供になる頃、一緒に遊んでくれる一番の親友になってくれるだろう。そして子供が大人になる頃、成長が速いために早く死んでしまうコボルドは大切な者の死という物を教えてくれる。そうして子供は大人になるのだ。

「というのが昔からの話なわけだが、魔王が代替わりしてからは違うんだよな」
「何言ってるんですか?ご主人様」

 目の前で昔うちに連れて来られたコボルドのハナコが不思議そうに首を傾げている。
魔王の代替わりと共に言い伝えの大切な者の死という部分は共に一生を過ごすパートナーを得られると言うように変わっている。それをよいとも悪いとも言わないが。

「そういう意味での伝統は消えたんだろうな」
「はい?」

 目の前のハナコが死んでしまうと言うのは耐え切れない。それには自信がある。というか、もう伴侶として一生を過ごす相手なのだから。

「ご主人様ぁ。お散歩の時間ですよ。行きましょう」

 いつも出かける時間になるとハナコはリードを持って来た。自分の首に既に取付済みだ。

「分かった。行こうか」

 リードの持ち手を受け取るのは実は儀式みたいな感じがある。ハナコは散歩をそれだけ重視しているらしい。持たないで行くと後が怖い。

「まだ熱いな」
「あつあつですね〜」

 夏は嫌いじゃあない。熱い中だーっと走ってスポーツドリンクをのむ。爽快だ。

「ご主人様、競争です!」

 しかし走るのはともかくスピードとか時間とかを考えてやるもんじゃあない。そしてなんだかんだと言っても魔物なハナコには追いつけない。

「きゃーん。大丈夫ですかご主人様ぁ」

 見事に引きずられて泥だらけになった俺がいる。下が柔らかい土じゃなかったら西部劇の被害者のようになっていたところだった。

「すいません〜」

 気にしないようにとよしよしと頭をなでてやる。さっきまで出そうだった涙が引っ込んで満面の笑顔になった。

「次は何するんですか?」
「次はフリスビーにするか」
「フリスビー!頑張ります!」

 取り出した円盤に尻尾が高速回転するハナコ。前よりもはるかに速い気がする。

「それっ」
「わおーん!」

 今日は結構遠くまで投げられた、と思ったらハナコは戻る軌道より先に空中でキャッチして戻ってきた。早い。

「もっと下さい、ご主人様」
「よし、じゃあ今度は魔法を使うぞ、それっ」
 魔法でも使わないと敵わないと言うのが最近の付き合い方だ。
「わうーん」

 流石に風の魔法で空高く上げたフリスビーには追いつけないらしい。ハナコは戻ってくるのを待ってキャッチする。

「ご主人様、取ってきました」
「よしよし、よくやったな」

 頭をやや乱暴に撫でてやる。いつもの事なのでハナコの顔は笑顔で溢れている。

 散歩が終われば泥だらけになった二人で一緒に風呂に入る。

「ううー」

 ハナコは水浴びは好きなのに風呂はあまり好きではないらしい。水のをためたプールには飛び込むのに湯を貯めたたらいには入った途端硬直している。

「ほら、綺麗にしてやるからな」
「きゃうんきゃうん」

 洗剤を泡立てて身体中を泡だらけにする。

「あんっそこはつまんじゃ駄目です。」

そしてついでにボディタッチもしてやる。やりすぎるとそのままベットに一直
線となってしまうのでほどほどにしておこう。

 そんなこんなで盛り上がると子供が出来るのは当たり前。お腹を大きくしたハナコが俺の前でお腹をさすって微笑んでいる。絵にかいたような幸せな妊婦さん像だ。

「赤ちゃんの名前何にするか考えてくれましたか?」
「そうだな。ハナコがハナだからユリコ、サクラコ、ウメコ…」

 自分にセンスがないのはよく分かっている。花の名前は結構洒落てると思うんだがどうだろうか。魔物娘の子供なので男性名で悩まないでいいのは有難い。

「あっお腹が」
「出るのか医者かサンバだった」

 こういう時、時代を超えて男は無力だ。


「おとーさんふりすびーなげてー」
「ごしゅじんさまごはんたべさせてー」
「ぱぱーぱー」
「ええい、落ち着け娘達」

 元気に生まれてくれたのは良いが何か落ち着きのない娘達に育ちつつある。困った物だ。コボルトは犬の魔物だから産んだ数も人にはない多さで、6人生まれた。それは良いとして。

「とーちゃんさんぽいこー」
「ぱぴー。げっとばーっく」
「あるじさまオナサケくださいな」

 TVで言葉を覚えるので何が何やらな状況だ。意味分かっていってるのか?

「ご主人様子供作りましょー」
「子供と一緒になって混ざらないように」

 少しは母親としての自覚も持ってほしい。

「さて散歩に行くか」

 紐を持った途端ドアに鍵をかける間もあっただろうか、引きずられてあっと言う間に公園に付く。そして回復用のポーション飲まないとやっていられない。コボルド7匹分の機動力はどう動くかも分からないのだ。

「お嬢さんを僕に下さい」
「誰がやるか。さっさと帰れ」

 娘を持った父親の役というのはやってみないと分からない物だ。あれだけ引きずられても何とか育て上げた娘が彼氏を連れてきた。

「ぱぴー!なんてこと言うの。アタシは彼と一緒に行くからね」

 娘の反抗。魔物娘なので一度決めたからには動くまい。

「ねえ、ご主人様。許してあげようよ」

 ハナコの言葉にしぶしぶながら頷く。こうまで言うのなら仕方ない。

「やっぱりパピーはお母さんに弱いんだね」

 心の中を知らない娘の言葉は半分間違っている。魔物娘が一度決めたら動かないと言うことから許したのだ。ハナコの言葉で許した訳ではない。

 子供たちが嫁に行き、孫も増えた。そんな中、天に召される時が来たようだ。

「ご主人様、行かないで」
「泣くなとは言わないが、後追いだけはしないでくれよ。せめて玄孫まで生き続けてくれ」

 昔は死んで悲しみを教えるのはコボルドの方だった。しかし今、教えるのは人間の方だ。コボルドは魔力が強い訳ではない。その魔力でインキュバス化したからこそ、普通の人間より長いぐらいで、人生は終わる。

「その時はその子供達の名前、教えてくれよ?」

 死ぬことは怖くない。ただ、ハナコを残していくのが哀しい。この死が、子供が大人になるのではなく人がどうあがいても寿命があり、分かれがあるという事を子孫に教える形になってしまった。教訓とはそんな物だけれど、出来れば教訓通りに死にたかった。

16/04/09 22:46更新 / 夜矢也

■作者メッセージ
 忘れられそうというか。忘れそうなので投稿。途中で終わっているのが多すぎる。

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