デーモン?の召喚
「さて、今度こそ間違えないぞ。まず魔法陣の内側の円に置く四大元素のシンボルはちゃんとイグニスにつけてもらった蝋燭の炎、ウェンディーネからもらった水の小瓶。シルフの風が入っている袋、ノームの土っと」
すべて魔物娘からもらった物を置きながらもう一つの袋を持って魔法陣の外側の円に置いていく。
「傲慢なるルシファーはライオンだからスフィンクスの肉球手形、憤怒なるサタンはユニコーンだから尻尾の毛、嫉妬のリヴァイアサンは蛇でラミアの抜け殻、怠惰のベルフェゴールは熊のグレズリーからやっぱり毛」
そこまで置いて魔術師の少年は首を傾げる。
「毛が重なると面白くないな。やっぱりユニコーンは削った蹄でも貰った方が良かったかな」
手は休めずに順々に置いていく。
「強欲なるマモンは狐で稲荷からもらった寿司、暴食のベルゼブブは蝿だから腐った肉、蠍のアスモデウスは色欲で尻尾の毒瓶」
すべてを置き終わると、最後に大きな骨を持ってくる。
「通販で買った山羊の頭がようやく届いたし、本式にやれそうだ」
魔術師は本を開いて呪文を唱える。
「ええ、偉大なる魔王の名の元に命じる。この声を聴き、すべからく現れいでよ。エロホンオッサンヨム、エロホンオッサンヨム。いでよ、悪魔よ」
今までにない光が魔法陣を中心に渦を巻き、部屋を真っ白に覆い隠した。
ここで少し時間が戻る。ついさっきデビルを召喚しようとしてデーモンを召喚し、聖騎士を撃退したまでは良かった少年国王アンドリューは、襲い掛かろうとするデーモンを押しとどめて外の様子を見るために部屋を出てきた。
「もう、皆お婿さんを貰ったから大丈夫だって言うのに」
「確認しないと安心できない」
行く道行く道に若い少女姿のデビル達が、鎧を周りに脱ぎ捨てた、鍛え上げられたとはいえおっさんの聖騎士達の上で腰を振っている。
「そういえばレスカティエみたいにしてくれと言ったけど具体的にどうなるんだ。あの国は俺も普通に行ったことがあるけど多種多様な感じで上位層が変化してたろう。勇者とか女王とか」
デーモンのブリージングはアンドリューの片腕にしがみつくように宙を浮いてついてくる。絶対に離さないと宣言しているようだ。
「さすがに多種多様は無理ね。普通の子でデビル、私でデーモンに変化させられるぐらいかしら」
「それでも十分だが、名産品でデーモンが作りそうな物あったか?」
暢気なのか気分を紛らわせようとしているのか、働かせようとしている国王に頬を膨らませて抗議するデーモン。その姿を見てか知り合いらしい中年男性が走ってきた。
「大変で、す、国王。デビルが、デビルが」
「聖騎士を皆骨抜きにしたのなら私が頼んだ事だ」
「それも大変ですが、ニートや引きこもりの男性に襲い掛かっています」
「別に良い事じゃないか?それ」
思わず返してしまった言葉を気まずそうにごまかそうとするアンドリューをブリージングは胸に押し込むように抱きしめる。
「かわいい。早くしたい。しよう!」
「神殿の確認が先だ。聖騎士が神器でも持ち出していたら大変だ」
国王として譲れない一線を優先させて、先代主神の神殿という洞窟に着いた。
「それにしても、別に男を襲うなとは言ってないが、何でニートとか限定何だ」
「だって、助けてあげたいじゃない」
「あいつらに助けって、甘やかすんだろう。確か。デビルは」
「そうそう、私達がいないと駄目な体にするのよ」
「物騒だな」
洞窟の入り口には兵士がおらず、しばらく入った場所でいかにも強そうな兵士が扉を守っていた。
「これは陛下」
「大丈夫だったか?」
この兵士はこの国で最強の戦士だったので神殿の護衛として守りに入ってもらっていた。「はい、何人かきましたが放り出してやりました。そのまま魔物が連れて行きましたが、何をやりました?」
「デビルに頼んで聖騎士を連れて行ってもいい条件で襲ってもらった」
「それでそちらの魔物さんは?」
「やり方間違えたらしくて召喚したデーモンだ」
「はぁい」
手を振って挨拶するデーモンにこめかみをほぐしながら兵士は国王に向き直った。
「どうやったら失敗するんです。召喚は貴方の得意でしょう」
「急いだので近くにあった物で魔法陣を組んだらこうなった」
「その手近な物で済ませる性格を改めなさいと言ったでしょう」
「分かった、分かったから」
どうやら国王の教育係も兼ねていたようだ。
「神殿を確認する。開けてもらえるか?」
「よろしいですが、そちらのお嬢さんはどうします?」
「入って言いの?」
神殿という事で別れると思っていたブリージングは思わず聞き返す。
「別に拒否するような神殿でもないぞ。入りたければどうぞ」
アンドリューはそれだけ言うとさっさと入る。
「ええと、それじゃあお邪魔しまーす」
一歩足を踏み入れようとした途端、魔物にも不快ではない清浄な空気が体を包む。
「うわ、これ何、神様って言うのに気持ち良い。魔王様とも堕落神様とも違うわね」
「古い神は別に魔物娘を否定していないからな。生き物そのものを祝福する空気だ」
アンドリューは祭壇があるだけの空間で祭壇上のアイテムを確認していた。
「うん、全部あるようだ。それじゃあ行くか」
「ねえ、ここでセックスしましょ、神様にも見てもらうの」
「やめろ。そういう事すると何が起こるか分からない」
押し倒そうとするブリージングをよけながら扉を出ると、アンドリューは国王としての命令を下した。
「爺、彼女を抑えておいてくれ。取りあえず城に戻る」
「分かりました」
「あ、ちょっと」
最強兵士にデーモンを抑えさせて、アンドリューは城に戻るかと思いきや、近所の中華食堂にやって来た。
「おばちゃん、昼飯〜」
「あら国王坊ちゃん、デビル召喚したって本当かい?」
「ああ、聖騎士退治の為にした。もしかしてなんか被害が出た?あ、烏骨鶏ラーメンセット一つ」
伝票に品目を書いて奥に渡すと、食堂のおばちゃんは水を持ってくる。
「いやね、うちの馬鹿息子がデビルに襲われてね。引きこもりから脱出したんだよ」
「初めまして、今度嫁に来たデビルです」
「いやいい子だし、わたしゃ大歓迎なんだよ。馬鹿息子も急にやる気になってるし」
「馬鹿は余計だろ」
おばちゃんに紹介されたデビルを見れば、注文の品を持ってきた少年の幼馴染にあたる元引きこもりが文句を言った。
「おう、久しぶり」
「よう。ところで、こんなことして大丈夫なのか?俺は嫁が出来てうれしいけど」
「まあ何とかなるじゃでないか?」
ラーメンをすすっていると嫁デビルが寄ってくる。
「あの、お姉様から国王様がいないかって連絡が来たんですけど、どうします?」
「もう来たのか、腹ごしらえぐらいしたいんだけど」
「じゃあしばらく黙ってますね」
「ありがとう。あ、あの馬鹿の面倒をかけると思うけど、よろしく頼む」
ラーメンを食べ終わると、幼馴染が大きな箱を持って来た。
「おい、今日になって通販の物が来たぞ。お前、何頼んだんだ」
「おお、本来デビルの召喚に使おうと思ってた黒山羊の頭だろう」
「デビルの召喚に使うって、じゃあ何で召喚したんだ」
「ここでもらった烏骨鶏のダシガラ」
「どうして召喚できるんだ」
「それは俺にも分からない、間違えたせいかデーモンが出て来たしな」
「それは失敗じゃないのか」
「結果が良ければそれでいい」
デザートのアイスクリームまで食べると、アンドリューは店をでる。その目の前にデーモンがいた。
「お腹いっぱいになった?じゃあ私のお腹をいっぱいにして」
「まだやることがあるのでな。さらばだ」
どこからか取り出した煙玉を叩き付け、アンドリューは姿をくらました。
そして最初の場面に戻る。
「うむ、凄いプレッシャーだ。余程上位の何かが出てくるに違いない」
「私を呼び出したのはお前か?」
出てきた魔物娘はアンドリューを見つめている。背中には大きな蝙蝠的な翼、額には角を生やしている。一瞬、またデーモンかと思ったが、何となく違うような気がする。アンドリューは分からなかったので素直に聞いてみる事にした。
「済まないが、これはデーモンの召喚陣なんだが、貴方はデーモンには見えない。種族を教えてくれないか?」
「何だ、自分で呼び出して分からないとは度胸があるな。そんなに私に会いたかったのか?そうかそうか。私はジャバウォックのブラックウィングという」
「ジャバウォック?なんだったかな。J、J、JA、あ、あった。ドラゴンの一種か。何で呼べたんだ」
「きっと私に会いたいと思った無意識のせいだろう」
ブリージングと違ってどうも自分を主張する目の前のドラゴンに、召喚失敗の原因を探そうとするアンドリュー。
「ん、あ、通販で買ったはずの黒山羊の頭が裏に白山羊の頭って書いてある。これのせいか。後でクーリングオフを頼もう」
「そんな事より」
魔法陣の確認をしているアンドリューの背中にずっしりと重みがかかる。
「私を呼んだんだ。要件は性処理だろう。そうだろう。やってやるから早く裸になると言い」
「違う。やってもいいが、別の要件だ。要件の後になら」
ジャバウォックの上から逃れてアンドリューは防御用の本を前に出しながら本題に入る。
「あ、こんな所にいた」
「要件は、3時間ほど彼女をこの部屋から出さず、貴方も出ない事だ。もしかしたら延長するかもしれないが、用は終わるはずだから一度連絡をくれ。はいこれ、トランシーバー」
「スマホぐらい出さないの」
「スマホは高いから、手が出なかった」
アンドリューが要件を告げると同時にブラックウィングは少年の背に迫っていたデーモンに絡みつく。
「と、いう事なので、しばらく一緒に遊ぼう。合体ごっこが良いかな」
「え〜。アンドリュー助けて」
「しばらく相手しててくれ。要件を済ませてくる」
アンドリューは後ろを振り返りたくない気持ちで部屋を出て行った。
「戻った」
3時間きっかりでアンドリューは戻ってきた。部屋の入り口で声を出したのだが、部屋に入ろうとしない。なぜならば、鈍いと言われているアンドリューにも分かるほどねっとり絡みつくような濃厚な空気が部屋に籠っていた。
「えーと、何か健康に悪そうだからあっちの部屋で待ってるから」
回れ右をして部屋を変えようとした少年国王の襟首を部屋の中から出てきた二本の手が掴む。
「うわっ」
後ろを振り向いてもいないのに無数の手で引き込まれるような力が働いて部屋へと引きずり込まれた。
ちなみに背後には神殿を守っていた兵士がいたのであるが、彼はただ合掌でそれを見送った。
「何だこれ」
「時間ぴったりだな」
「長かったわ、とっても、長かったわ」
二人の魔物娘がアンドリューに視線を送る。思わずつぶやいたアンドリューは全裸になっている二人の様子にたじろいだ。
「一体何があったんだ」
「融合ごっこをしただけだが?」
「気持ちは良かったけどね」
この部屋から出た時とは違って、二人とも汗で艶っぽく光り、それぞれの腰からお尻の方に何かが渡っている。
「それで、私達を放って、旦那様は何をしてたのかしら」
デーモンのブリージングの言葉には何か逆らえない威力が籠っていた。
「いや、何しろ国の周りは反魔物領だから国境の兵に指示を出したり、人口が増えたから宰相に家を建てる指示を出したりと…」
「良いじゃないか、そんな事は。それよりもまずやる事がある」
「そうよ、ずっと待ってたの。一日じゃすまないわ」
「何をする気だ!」
『ナニを』
同時に圧力つきの声が響いてアンドリューは思わず逃亡しようとしたが、魔力でできた壁が背後に張られていて後ろには移動できない。
「くっ。少し冷静になれ。水の門番よ!」
手直にあった瓶を掴んで少年召喚術師は術を発動する。
命のない、物質に一時的にその形を取らせて戦わせるのは反魔物領として開発した術である。瓶にはクラゲの搾り汁と書かれていた。
水が固まったような人型が現れる。
「風の門番よ、雷の門番よ!」
団扇とえれきてると書かれた箱を代償に人をかたどったような竜巻、同じく電気が現れる。
「天より降り注ぐ三エレメントに置いて、ゲートキーパーよ現れよ」
アンドリューはさらに人型を材料に魔術を重ねる。魔物娘と少年の間に三層に水、風、雷が重なった守護者が現れた。
「この守りを砕ける者はまずいない」
『邪魔』
二人の同時の攻撃で最強の守護者は一瞬で破壊されてしまった。
「最強のガーディアンが」
がっくりと膝をつくアンドリューに、柔らかな手が絡みついた。
「さあ、難しいことなど何もない。楽しい生活の始まりだ」
「私が初めてなんだからね、そこは忘れないで」
仲良くなっている魔物娘に連れられて、アンドリューはベットと化した魔法陣のあった場所に連れられて行った。
後年、観光名所に反魔物領にありながら独立を貫き周囲が親魔物領となってからは一番の都となった場所があると言う。
すべて魔物娘からもらった物を置きながらもう一つの袋を持って魔法陣の外側の円に置いていく。
「傲慢なるルシファーはライオンだからスフィンクスの肉球手形、憤怒なるサタンはユニコーンだから尻尾の毛、嫉妬のリヴァイアサンは蛇でラミアの抜け殻、怠惰のベルフェゴールは熊のグレズリーからやっぱり毛」
そこまで置いて魔術師の少年は首を傾げる。
「毛が重なると面白くないな。やっぱりユニコーンは削った蹄でも貰った方が良かったかな」
手は休めずに順々に置いていく。
「強欲なるマモンは狐で稲荷からもらった寿司、暴食のベルゼブブは蝿だから腐った肉、蠍のアスモデウスは色欲で尻尾の毒瓶」
すべてを置き終わると、最後に大きな骨を持ってくる。
「通販で買った山羊の頭がようやく届いたし、本式にやれそうだ」
魔術師は本を開いて呪文を唱える。
「ええ、偉大なる魔王の名の元に命じる。この声を聴き、すべからく現れいでよ。エロホンオッサンヨム、エロホンオッサンヨム。いでよ、悪魔よ」
今までにない光が魔法陣を中心に渦を巻き、部屋を真っ白に覆い隠した。
ここで少し時間が戻る。ついさっきデビルを召喚しようとしてデーモンを召喚し、聖騎士を撃退したまでは良かった少年国王アンドリューは、襲い掛かろうとするデーモンを押しとどめて外の様子を見るために部屋を出てきた。
「もう、皆お婿さんを貰ったから大丈夫だって言うのに」
「確認しないと安心できない」
行く道行く道に若い少女姿のデビル達が、鎧を周りに脱ぎ捨てた、鍛え上げられたとはいえおっさんの聖騎士達の上で腰を振っている。
「そういえばレスカティエみたいにしてくれと言ったけど具体的にどうなるんだ。あの国は俺も普通に行ったことがあるけど多種多様な感じで上位層が変化してたろう。勇者とか女王とか」
デーモンのブリージングはアンドリューの片腕にしがみつくように宙を浮いてついてくる。絶対に離さないと宣言しているようだ。
「さすがに多種多様は無理ね。普通の子でデビル、私でデーモンに変化させられるぐらいかしら」
「それでも十分だが、名産品でデーモンが作りそうな物あったか?」
暢気なのか気分を紛らわせようとしているのか、働かせようとしている国王に頬を膨らませて抗議するデーモン。その姿を見てか知り合いらしい中年男性が走ってきた。
「大変で、す、国王。デビルが、デビルが」
「聖騎士を皆骨抜きにしたのなら私が頼んだ事だ」
「それも大変ですが、ニートや引きこもりの男性に襲い掛かっています」
「別に良い事じゃないか?それ」
思わず返してしまった言葉を気まずそうにごまかそうとするアンドリューをブリージングは胸に押し込むように抱きしめる。
「かわいい。早くしたい。しよう!」
「神殿の確認が先だ。聖騎士が神器でも持ち出していたら大変だ」
国王として譲れない一線を優先させて、先代主神の神殿という洞窟に着いた。
「それにしても、別に男を襲うなとは言ってないが、何でニートとか限定何だ」
「だって、助けてあげたいじゃない」
「あいつらに助けって、甘やかすんだろう。確か。デビルは」
「そうそう、私達がいないと駄目な体にするのよ」
「物騒だな」
洞窟の入り口には兵士がおらず、しばらく入った場所でいかにも強そうな兵士が扉を守っていた。
「これは陛下」
「大丈夫だったか?」
この兵士はこの国で最強の戦士だったので神殿の護衛として守りに入ってもらっていた。「はい、何人かきましたが放り出してやりました。そのまま魔物が連れて行きましたが、何をやりました?」
「デビルに頼んで聖騎士を連れて行ってもいい条件で襲ってもらった」
「それでそちらの魔物さんは?」
「やり方間違えたらしくて召喚したデーモンだ」
「はぁい」
手を振って挨拶するデーモンにこめかみをほぐしながら兵士は国王に向き直った。
「どうやったら失敗するんです。召喚は貴方の得意でしょう」
「急いだので近くにあった物で魔法陣を組んだらこうなった」
「その手近な物で済ませる性格を改めなさいと言ったでしょう」
「分かった、分かったから」
どうやら国王の教育係も兼ねていたようだ。
「神殿を確認する。開けてもらえるか?」
「よろしいですが、そちらのお嬢さんはどうします?」
「入って言いの?」
神殿という事で別れると思っていたブリージングは思わず聞き返す。
「別に拒否するような神殿でもないぞ。入りたければどうぞ」
アンドリューはそれだけ言うとさっさと入る。
「ええと、それじゃあお邪魔しまーす」
一歩足を踏み入れようとした途端、魔物にも不快ではない清浄な空気が体を包む。
「うわ、これ何、神様って言うのに気持ち良い。魔王様とも堕落神様とも違うわね」
「古い神は別に魔物娘を否定していないからな。生き物そのものを祝福する空気だ」
アンドリューは祭壇があるだけの空間で祭壇上のアイテムを確認していた。
「うん、全部あるようだ。それじゃあ行くか」
「ねえ、ここでセックスしましょ、神様にも見てもらうの」
「やめろ。そういう事すると何が起こるか分からない」
押し倒そうとするブリージングをよけながら扉を出ると、アンドリューは国王としての命令を下した。
「爺、彼女を抑えておいてくれ。取りあえず城に戻る」
「分かりました」
「あ、ちょっと」
最強兵士にデーモンを抑えさせて、アンドリューは城に戻るかと思いきや、近所の中華食堂にやって来た。
「おばちゃん、昼飯〜」
「あら国王坊ちゃん、デビル召喚したって本当かい?」
「ああ、聖騎士退治の為にした。もしかしてなんか被害が出た?あ、烏骨鶏ラーメンセット一つ」
伝票に品目を書いて奥に渡すと、食堂のおばちゃんは水を持ってくる。
「いやね、うちの馬鹿息子がデビルに襲われてね。引きこもりから脱出したんだよ」
「初めまして、今度嫁に来たデビルです」
「いやいい子だし、わたしゃ大歓迎なんだよ。馬鹿息子も急にやる気になってるし」
「馬鹿は余計だろ」
おばちゃんに紹介されたデビルを見れば、注文の品を持ってきた少年の幼馴染にあたる元引きこもりが文句を言った。
「おう、久しぶり」
「よう。ところで、こんなことして大丈夫なのか?俺は嫁が出来てうれしいけど」
「まあ何とかなるじゃでないか?」
ラーメンをすすっていると嫁デビルが寄ってくる。
「あの、お姉様から国王様がいないかって連絡が来たんですけど、どうします?」
「もう来たのか、腹ごしらえぐらいしたいんだけど」
「じゃあしばらく黙ってますね」
「ありがとう。あ、あの馬鹿の面倒をかけると思うけど、よろしく頼む」
ラーメンを食べ終わると、幼馴染が大きな箱を持って来た。
「おい、今日になって通販の物が来たぞ。お前、何頼んだんだ」
「おお、本来デビルの召喚に使おうと思ってた黒山羊の頭だろう」
「デビルの召喚に使うって、じゃあ何で召喚したんだ」
「ここでもらった烏骨鶏のダシガラ」
「どうして召喚できるんだ」
「それは俺にも分からない、間違えたせいかデーモンが出て来たしな」
「それは失敗じゃないのか」
「結果が良ければそれでいい」
デザートのアイスクリームまで食べると、アンドリューは店をでる。その目の前にデーモンがいた。
「お腹いっぱいになった?じゃあ私のお腹をいっぱいにして」
「まだやることがあるのでな。さらばだ」
どこからか取り出した煙玉を叩き付け、アンドリューは姿をくらました。
そして最初の場面に戻る。
「うむ、凄いプレッシャーだ。余程上位の何かが出てくるに違いない」
「私を呼び出したのはお前か?」
出てきた魔物娘はアンドリューを見つめている。背中には大きな蝙蝠的な翼、額には角を生やしている。一瞬、またデーモンかと思ったが、何となく違うような気がする。アンドリューは分からなかったので素直に聞いてみる事にした。
「済まないが、これはデーモンの召喚陣なんだが、貴方はデーモンには見えない。種族を教えてくれないか?」
「何だ、自分で呼び出して分からないとは度胸があるな。そんなに私に会いたかったのか?そうかそうか。私はジャバウォックのブラックウィングという」
「ジャバウォック?なんだったかな。J、J、JA、あ、あった。ドラゴンの一種か。何で呼べたんだ」
「きっと私に会いたいと思った無意識のせいだろう」
ブリージングと違ってどうも自分を主張する目の前のドラゴンに、召喚失敗の原因を探そうとするアンドリュー。
「ん、あ、通販で買ったはずの黒山羊の頭が裏に白山羊の頭って書いてある。これのせいか。後でクーリングオフを頼もう」
「そんな事より」
魔法陣の確認をしているアンドリューの背中にずっしりと重みがかかる。
「私を呼んだんだ。要件は性処理だろう。そうだろう。やってやるから早く裸になると言い」
「違う。やってもいいが、別の要件だ。要件の後になら」
ジャバウォックの上から逃れてアンドリューは防御用の本を前に出しながら本題に入る。
「あ、こんな所にいた」
「要件は、3時間ほど彼女をこの部屋から出さず、貴方も出ない事だ。もしかしたら延長するかもしれないが、用は終わるはずだから一度連絡をくれ。はいこれ、トランシーバー」
「スマホぐらい出さないの」
「スマホは高いから、手が出なかった」
アンドリューが要件を告げると同時にブラックウィングは少年の背に迫っていたデーモンに絡みつく。
「と、いう事なので、しばらく一緒に遊ぼう。合体ごっこが良いかな」
「え〜。アンドリュー助けて」
「しばらく相手しててくれ。要件を済ませてくる」
アンドリューは後ろを振り返りたくない気持ちで部屋を出て行った。
「戻った」
3時間きっかりでアンドリューは戻ってきた。部屋の入り口で声を出したのだが、部屋に入ろうとしない。なぜならば、鈍いと言われているアンドリューにも分かるほどねっとり絡みつくような濃厚な空気が部屋に籠っていた。
「えーと、何か健康に悪そうだからあっちの部屋で待ってるから」
回れ右をして部屋を変えようとした少年国王の襟首を部屋の中から出てきた二本の手が掴む。
「うわっ」
後ろを振り向いてもいないのに無数の手で引き込まれるような力が働いて部屋へと引きずり込まれた。
ちなみに背後には神殿を守っていた兵士がいたのであるが、彼はただ合掌でそれを見送った。
「何だこれ」
「時間ぴったりだな」
「長かったわ、とっても、長かったわ」
二人の魔物娘がアンドリューに視線を送る。思わずつぶやいたアンドリューは全裸になっている二人の様子にたじろいだ。
「一体何があったんだ」
「融合ごっこをしただけだが?」
「気持ちは良かったけどね」
この部屋から出た時とは違って、二人とも汗で艶っぽく光り、それぞれの腰からお尻の方に何かが渡っている。
「それで、私達を放って、旦那様は何をしてたのかしら」
デーモンのブリージングの言葉には何か逆らえない威力が籠っていた。
「いや、何しろ国の周りは反魔物領だから国境の兵に指示を出したり、人口が増えたから宰相に家を建てる指示を出したりと…」
「良いじゃないか、そんな事は。それよりもまずやる事がある」
「そうよ、ずっと待ってたの。一日じゃすまないわ」
「何をする気だ!」
『ナニを』
同時に圧力つきの声が響いてアンドリューは思わず逃亡しようとしたが、魔力でできた壁が背後に張られていて後ろには移動できない。
「くっ。少し冷静になれ。水の門番よ!」
手直にあった瓶を掴んで少年召喚術師は術を発動する。
命のない、物質に一時的にその形を取らせて戦わせるのは反魔物領として開発した術である。瓶にはクラゲの搾り汁と書かれていた。
水が固まったような人型が現れる。
「風の門番よ、雷の門番よ!」
団扇とえれきてると書かれた箱を代償に人をかたどったような竜巻、同じく電気が現れる。
「天より降り注ぐ三エレメントに置いて、ゲートキーパーよ現れよ」
アンドリューはさらに人型を材料に魔術を重ねる。魔物娘と少年の間に三層に水、風、雷が重なった守護者が現れた。
「この守りを砕ける者はまずいない」
『邪魔』
二人の同時の攻撃で最強の守護者は一瞬で破壊されてしまった。
「最強のガーディアンが」
がっくりと膝をつくアンドリューに、柔らかな手が絡みついた。
「さあ、難しいことなど何もない。楽しい生活の始まりだ」
「私が初めてなんだからね、そこは忘れないで」
仲良くなっている魔物娘に連れられて、アンドリューはベットと化した魔法陣のあった場所に連れられて行った。
後年、観光名所に反魔物領にありながら独立を貫き周囲が親魔物領となってからは一番の都となった場所があると言う。
15/12/06 23:29更新 / 夜矢也