鉛の矢落ちた
「あ」
空を飛んでいると風が吹いて、手に持っていた物を落としてしまった。
持っていたのは鉛の矢。人間の心に空虚を生み出す物。
落とした先を見ると、そこには刺さっている矢と同じぐらいのポニーテール?に髪を結った男の人が倒れていた。どうも脳天に命中したらしい。
「まずい」
慌てて地上に降り立つと、その男の人の様子を見る。
もし、これでデートに向かう最中だと言うなら物凄く問題だ。鉛の矢は心を虚ろにする。誰からでも愛を求める。けれど、その心の中の空虚に気付くのは本人次第時間次第だ。見れば近くには豪勢な花束が落ちていた。この人の物だろう。プロポーズをしに行く途中だとすると、虚ろがその心を一時的にしろ消してしまう可能性もある。
「ねえ、ちょっと、起きて」
ピクリとも動かない男の人を揺すってみる。まずい。倒れた時に頭を打ったのかもしれない。知り合いのエンジェルに連絡を取って治癒魔法でもかけてもらわないと。
慌てて電話を取り出して連絡する。
「あ、もしもし」
『はぁーい。皆のアイドルエンジェルちゃんです。ただいま電話に出られません、要件は気が向いたら聞きますので音が鳴った後どぞ』
まったく役に立たなかった。まあ対立してるわけではないにしろ愛の女神は魔物との愛も尊重しているのでがちがちの主神派な子は寄ってこない。
「どうしよう」
「何が?」
声がして振り向くと、倒れていた人が立ち上がってこちらを見ていた。
「だ、大丈夫ですか」
「うむ?何がだ?」
「いえ、倒れていたでしょう」
「ああ、問題ない」
良かった、外見上怪我なんかはないようだ。
「ふむ、手足はある、動く。体に負傷はない、動く、頭部に異常なし、動く。よって異常はない」
「異常にしか見えない!」
なんというか死んだような目をして体に異常がないか確かめるのが何でカクカクとロボットみたいな動きになるの?もしかして矢の効果で精神に異常が生じたんじゃ。
とにかく、花束を男の人の目の前に差し出す。
「あの、これは貴方の物ですか?」
「うん?うむ、俺が買った物だありがとう、拾ってくれて」
「いえそんな」
もしかしたら私のせいで転んだのかもしれないし、問題は精神がどうなっているかという事だ。
「あの、頭を打ったし、病院に言った方が良いですよ」
精密検査のお金くらいなら出してあげようと思う。
「必要ない。何故かさっきまで興奮状態にあった脈拍と心臓が平常に戻っているが、体に異常はないので。それでは失礼する」
「えっあの」
男の人はさっさと歩いて行った。私は空から観察することにして姿を消して後をついていった。
分かった事は、この人がジパング出身者という事と女の人に花を渡しに行く途中という事だ。何人か顔見知りが声をかけてきて、話すのを聞いたのであっていると思う。
「おい、そこの空を飛んでいるテング殿、いい加減うっとおしいから降りてこんか」
何故か私の姿がばれたようだ。どうしようかためらっていると、翼をかすめて石つぶてが飛んできた。すべて端っこをかすめるなんて正確すぎる投擲だ。
「すいません」
目の前にわざと光を伴って降臨してみる。
「さっきの女性か。一体何様だ」
「いえ、用というほどの事はないんですけど」
流石に矢を落っことして刺したとは言い辛い。
「そうか。用がないならついてくるな。視線がうっとしい」
たんたんとそれだけ言うと彼はまた歩き出した。まるで私が居ても居なくても同じような言い方だ。
「ええと、実はですね。私キューピッドという種族でして、聞いたことありませんか?愛の神の天使で人の恋を応援する天使」
「聞いたことはない、外国の宗教には疎いので」
さっきからはっきり断言ばかりする。何だか知られていないのは腹が立つ。
「それでですね、さっき人間の心を空虚にする、つまり一時的にしろ愛も喜怒哀楽も感じにくくするかもしれない、鉛の矢という物を空から落としまして、貴方に刺さったんです」
「成程、頭痛はそのせいか」
矢に痛みを感じさせる機能はないんだけれど。きっと地面に倒れた時に頭をぶつけたんだと思う。
「精神に異常はありませんか?」
「さっきも言ったが、さっきまで興奮状態にあった脈拍と心臓が平常に戻っているだけで他に変化はない」
どう見ても精神的に壊れているようにも見える。
「つまり、自分が起こした事故なので後始末をしようと言うのだな」
「別に殺すとかそういうのはないですよ!元々私達は愛の女神に仕えるので平和主義一択です。矢も武装じゃなくて神聖なアイテムだし」
「まあいい。おかしくないと分かったら天上界かどこか知らないが戻れ。今日は忙しいので構っている暇がない」
「分かっています。明日ぐらいまで見ていますから。それ以降は大丈夫だと思うし」
愛を求めてさまようようになるかもしれないけれど。承諾はとったので姿を消してそのまま後をついていく。
「ところでどこへ行くんですか?」
「うむ?天狗なら千里眼で見えないのか?」
「だから天狗じゃありませんてば」
神の使いの登場にかしこまって平伏しろとは言わないが、どうにも調子の出ない人だ。
「あの岬にいく。待ち合わせがあるのでな」
「え、あの岬って」
地元でも知らない人はいない場所の一つ。岬は、海が好きと言って死んだ人の為に整理された墓所だ。
こんなところで待ち合わせるなんてどういう人なのかと思い、もう一つの可能性も否定できなかった。
「八重、今日やっと来れた」
この花束を贈る相手はもうこの世にいないと言う可能性。男女を結びつけるキューピッドとしては、それ以前に魔物娘として死人が出るのは嫌な事だ。
「あの、奥さんはどうしてお亡くなりに?」
ジパング風のお墓の前で手を合わせる人に話しかける。
「俺が殺した。ああ、それと奥さんじゃない」
「なっ」
人を殺して何でこんな平静でいられるの?いえ、そういえば私が鉛の矢を刺したんでした。落ち着いて、落ち着いて、私は深呼吸してもう一度話しかける。
「奥さんじゃないなら、何故。それに殺した理由は?」
「大したことない。元婚約者だった。こいつは家が嫌で飛び出して、傭兵になり、武者修行の為に傭兵になっていた俺と敵対した」
だから殺したと全く感情が籠っていない声で語る男の人は、ロボットにしか見えないような気がした。
「じゃあ何故お墓参りを?」
とにかくはなしを続けないとこちらの精神が参ってしまいそうだ。
「さて、何でだろう。俺は、さっきまでここで腹を切るつもりだったんだが」
ハラキリ!侍のやる自殺の方法。でもそれは
「貴方はこの人の事が好きだったの?」
「どうだろう。家が決めた婚約者だった。何より武芸が、強くなるのが好きな女だった。今思えば、俺が強くなろうとしたのもその影響は受けている」
それは好きだったんだろうと私は思う。そして、結論を聞いてみたくなる。
「まだハラキリするの?」
「いや、そういう気はもうないな。何故かは知らないが、とても心が無になって冷静に考えられる」
どちらかというと鉛の矢のせいで虚ろになっているんだと言いたい。
「好きなのは好きだったが、俺は、別に恋愛対象かというとそうであり、そうでなし。家族愛、師弟愛も混ざっているし、結婚を求められればするだろうが言われなければしないだろう。そんな関係だ」
家同士の結婚ってそんな物なのかしら。幼馴染みたいだし、そういうのも混ざっているでしょう。
「腹を切ろうとしたのは、目標を一つ達成したから、かな。彼女に勝つのは夢の一つだった。こんなことでかなって、彼女が死ぬとは思わなかったけれど、急にむなしくなった」
「今はどうなの?」
「むなしさそのものが無くなってしまった。これからも、またいつも通りに戦いの毎日に戻るだろう」
「ちょっと待って」
それはあまりよろしいとは言えない。ここは愛の天使の実力を見せる時。
「ねえ、貴方に、戦うよりももっと良い事を教えてあげる」
空を飛んでいると風が吹いて、手に持っていた物を落としてしまった。
持っていたのは鉛の矢。人間の心に空虚を生み出す物。
落とした先を見ると、そこには刺さっている矢と同じぐらいのポニーテール?に髪を結った男の人が倒れていた。どうも脳天に命中したらしい。
「まずい」
慌てて地上に降り立つと、その男の人の様子を見る。
もし、これでデートに向かう最中だと言うなら物凄く問題だ。鉛の矢は心を虚ろにする。誰からでも愛を求める。けれど、その心の中の空虚に気付くのは本人次第時間次第だ。見れば近くには豪勢な花束が落ちていた。この人の物だろう。プロポーズをしに行く途中だとすると、虚ろがその心を一時的にしろ消してしまう可能性もある。
「ねえ、ちょっと、起きて」
ピクリとも動かない男の人を揺すってみる。まずい。倒れた時に頭を打ったのかもしれない。知り合いのエンジェルに連絡を取って治癒魔法でもかけてもらわないと。
慌てて電話を取り出して連絡する。
「あ、もしもし」
『はぁーい。皆のアイドルエンジェルちゃんです。ただいま電話に出られません、要件は気が向いたら聞きますので音が鳴った後どぞ』
まったく役に立たなかった。まあ対立してるわけではないにしろ愛の女神は魔物との愛も尊重しているのでがちがちの主神派な子は寄ってこない。
「どうしよう」
「何が?」
声がして振り向くと、倒れていた人が立ち上がってこちらを見ていた。
「だ、大丈夫ですか」
「うむ?何がだ?」
「いえ、倒れていたでしょう」
「ああ、問題ない」
良かった、外見上怪我なんかはないようだ。
「ふむ、手足はある、動く。体に負傷はない、動く、頭部に異常なし、動く。よって異常はない」
「異常にしか見えない!」
なんというか死んだような目をして体に異常がないか確かめるのが何でカクカクとロボットみたいな動きになるの?もしかして矢の効果で精神に異常が生じたんじゃ。
とにかく、花束を男の人の目の前に差し出す。
「あの、これは貴方の物ですか?」
「うん?うむ、俺が買った物だありがとう、拾ってくれて」
「いえそんな」
もしかしたら私のせいで転んだのかもしれないし、問題は精神がどうなっているかという事だ。
「あの、頭を打ったし、病院に言った方が良いですよ」
精密検査のお金くらいなら出してあげようと思う。
「必要ない。何故かさっきまで興奮状態にあった脈拍と心臓が平常に戻っているが、体に異常はないので。それでは失礼する」
「えっあの」
男の人はさっさと歩いて行った。私は空から観察することにして姿を消して後をついていった。
分かった事は、この人がジパング出身者という事と女の人に花を渡しに行く途中という事だ。何人か顔見知りが声をかけてきて、話すのを聞いたのであっていると思う。
「おい、そこの空を飛んでいるテング殿、いい加減うっとおしいから降りてこんか」
何故か私の姿がばれたようだ。どうしようかためらっていると、翼をかすめて石つぶてが飛んできた。すべて端っこをかすめるなんて正確すぎる投擲だ。
「すいません」
目の前にわざと光を伴って降臨してみる。
「さっきの女性か。一体何様だ」
「いえ、用というほどの事はないんですけど」
流石に矢を落っことして刺したとは言い辛い。
「そうか。用がないならついてくるな。視線がうっとしい」
たんたんとそれだけ言うと彼はまた歩き出した。まるで私が居ても居なくても同じような言い方だ。
「ええと、実はですね。私キューピッドという種族でして、聞いたことありませんか?愛の神の天使で人の恋を応援する天使」
「聞いたことはない、外国の宗教には疎いので」
さっきからはっきり断言ばかりする。何だか知られていないのは腹が立つ。
「それでですね、さっき人間の心を空虚にする、つまり一時的にしろ愛も喜怒哀楽も感じにくくするかもしれない、鉛の矢という物を空から落としまして、貴方に刺さったんです」
「成程、頭痛はそのせいか」
矢に痛みを感じさせる機能はないんだけれど。きっと地面に倒れた時に頭をぶつけたんだと思う。
「精神に異常はありませんか?」
「さっきも言ったが、さっきまで興奮状態にあった脈拍と心臓が平常に戻っているだけで他に変化はない」
どう見ても精神的に壊れているようにも見える。
「つまり、自分が起こした事故なので後始末をしようと言うのだな」
「別に殺すとかそういうのはないですよ!元々私達は愛の女神に仕えるので平和主義一択です。矢も武装じゃなくて神聖なアイテムだし」
「まあいい。おかしくないと分かったら天上界かどこか知らないが戻れ。今日は忙しいので構っている暇がない」
「分かっています。明日ぐらいまで見ていますから。それ以降は大丈夫だと思うし」
愛を求めてさまようようになるかもしれないけれど。承諾はとったので姿を消してそのまま後をついていく。
「ところでどこへ行くんですか?」
「うむ?天狗なら千里眼で見えないのか?」
「だから天狗じゃありませんてば」
神の使いの登場にかしこまって平伏しろとは言わないが、どうにも調子の出ない人だ。
「あの岬にいく。待ち合わせがあるのでな」
「え、あの岬って」
地元でも知らない人はいない場所の一つ。岬は、海が好きと言って死んだ人の為に整理された墓所だ。
こんなところで待ち合わせるなんてどういう人なのかと思い、もう一つの可能性も否定できなかった。
「八重、今日やっと来れた」
この花束を贈る相手はもうこの世にいないと言う可能性。男女を結びつけるキューピッドとしては、それ以前に魔物娘として死人が出るのは嫌な事だ。
「あの、奥さんはどうしてお亡くなりに?」
ジパング風のお墓の前で手を合わせる人に話しかける。
「俺が殺した。ああ、それと奥さんじゃない」
「なっ」
人を殺して何でこんな平静でいられるの?いえ、そういえば私が鉛の矢を刺したんでした。落ち着いて、落ち着いて、私は深呼吸してもう一度話しかける。
「奥さんじゃないなら、何故。それに殺した理由は?」
「大したことない。元婚約者だった。こいつは家が嫌で飛び出して、傭兵になり、武者修行の為に傭兵になっていた俺と敵対した」
だから殺したと全く感情が籠っていない声で語る男の人は、ロボットにしか見えないような気がした。
「じゃあ何故お墓参りを?」
とにかくはなしを続けないとこちらの精神が参ってしまいそうだ。
「さて、何でだろう。俺は、さっきまでここで腹を切るつもりだったんだが」
ハラキリ!侍のやる自殺の方法。でもそれは
「貴方はこの人の事が好きだったの?」
「どうだろう。家が決めた婚約者だった。何より武芸が、強くなるのが好きな女だった。今思えば、俺が強くなろうとしたのもその影響は受けている」
それは好きだったんだろうと私は思う。そして、結論を聞いてみたくなる。
「まだハラキリするの?」
「いや、そういう気はもうないな。何故かは知らないが、とても心が無になって冷静に考えられる」
どちらかというと鉛の矢のせいで虚ろになっているんだと言いたい。
「好きなのは好きだったが、俺は、別に恋愛対象かというとそうであり、そうでなし。家族愛、師弟愛も混ざっているし、結婚を求められればするだろうが言われなければしないだろう。そんな関係だ」
家同士の結婚ってそんな物なのかしら。幼馴染みたいだし、そういうのも混ざっているでしょう。
「腹を切ろうとしたのは、目標を一つ達成したから、かな。彼女に勝つのは夢の一つだった。こんなことでかなって、彼女が死ぬとは思わなかったけれど、急にむなしくなった」
「今はどうなの?」
「むなしさそのものが無くなってしまった。これからも、またいつも通りに戦いの毎日に戻るだろう」
「ちょっと待って」
それはあまりよろしいとは言えない。ここは愛の天使の実力を見せる時。
「ねえ、貴方に、戦うよりももっと良い事を教えてあげる」
15/06/11 02:05更新 / 夜矢也