連載小説
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オウルメイジさんと一緒 その2
「――んぅ、――さちゃん。まさ――」

 たゆたう意識の中に声が割り込んでくる。
 発情した女の声ーー甘い吐息をそばで漏らしながら、身体を揺り動かしている。
 声の主が誰なのかはすぐに察しがついた。何をしているのかも。

「……慧」

「あ……起こしちゃった?」

 瞼を開けると、金の両目が暗がりの中からこちらを捉えた。闇夜を見通すフクロウの瞳は、さながら夜空に浮かぶ満月のようだ。
 手で身体を探ると、自分の太ももが湿っていた。熱く蒸れた空気からは甘い性臭が漂っている。

「えへへ、雅ちゃんの匂いを嗅いでたら、ちょっとムラムラしちゃって……」ばつの悪そうな声で彼女が呟く。行き場を無くした両目は宙をあちこち泳いでいる。「一回だけオナニーしてから寝ようって思ってたんだけど……ごめんね」

「いや……」雅樹は首を振った。好いている女が自分で欲情してくれるのは悪い気分ではなかった。「……するか?」

「いいの?」

 期待の眼差しで彼女が聞き返した。控えめな言葉とは裏腹に、瞳には既に情欲が籠っている。

「一回だけな」本当は体力の許す限り貪りたかったが、仕事の前に疲れ果ててしまっては元も子もない。「流石にバイトは遅刻出来ないから、ちゃんと加減しろよ」

「ありがと」彼女はにへら、っと微笑んだ。整った顔立ちから淫靡な雰囲気がにじみ出す。「じゃあ……するね?」

 どちらともなく唇を重ねた。夕方の物とは違う、情欲にまみれた口づけ。
 つつき合うようなものは最初だけで、すぐに舌が入り込んでくる。

「ん……ちゅ、れるっ……」

 甘ったるい唾液が口の中に流れ込んできた。聞こえるようにわざと喉を鳴らして飲み込んでやると、彼女は恥ずかしそうに顔を少しだけ背けた。
 
「逃げんなって、ほら」

 横に逸れた顔を手で向かせて強引にキスを再開する。荒っぽいやりかたに最初だけ戸惑っていたが、すぐに自分から受け入れていった。
 雅樹は手持ち無沙汰になっていたもう片方の手を下半身に向けて伸ばした。予想通り、下着はもう着けている意味が無いくらいドロドロに湿っていた。

「やぁん……恥ずかしいよ……」

 口を離し、しぼむような声音で慧が言った。さわって欲しがっているのはすぐにわかった。
 翼の抱擁からいったん離れ、雅樹は彼女の腰元に近づいた。
 べったり濡れた鮮黄色の下着――ハーピーの足でも穿きやすい、紐で結ぶタイプだ。
 結び目を解くと、つるりとした秘部が暗闇の中にまろび出る。同時にむわっとむせ返るような女の匂いが立ちこめる。
 彼は右手の中指に唾を垂らすと、現れたばかりの秘裂に向かってそれを差し込んだ。

「んっ……はぅ……ッ!」

 さっきまで自慰の最中だった事もあり、膣の中はすでに熱々だ。
 入り口のあたりを軽くひっかくと、ピクピクと彼女が反応した。

「すごいな。俺が寝てる間にかなりオナってたろ」

 膣から指を抜き、愛液が付いた先端を見せつける。匂いを嗅ぐと、なんとも言えない甘酸っぱい香りが鼻についた。

「いじわるぅ……匂い嗅いじゃやぁ……」

 イヤイヤするように彼女が首を振る。闇の中ではっきりと見える双眸は見えない表情よりも雄弁だ。
 彼女が羞恥に染まっていく様に軽い興奮を覚えながらも、再び雅樹が手を伸ばす。今度は陰部のさらに奥ーーコリコリした突き当たりの周りを指先で軽く刺激する。
 ポルチオ攻めは彼女の大好物だ。感じるであろうポイントを指で何度かつついた途端、彼女がすさまじい反応を見せた。

「ッ〜〜〜〜!!」

 声にならないくぐもった喘ぎが、狭い部屋の中に木霊する。隣の住人に無様な嬌声は聞かせまいと、必死に唇を噛んで耐えている。
 それが雅樹にとっては、とても楽しかった。
 
「ま、さちゃん……しょれぇ、ダメぇ……」

「それ? それって、“これ”のことか?」

 左手の指を慧の腹――ちょうど子宮のある辺りに当て、トントントンと小突いていく。女の一番の弱点である臓器を、外と内から徹底的に攻めていく。
 
「ふぁ、ん、っ、ぁぁぁぁぁ……!!」

 絞り出すような声と共に彼女の身体がひときわ大きく痙攣した。それと同時に股間に当てた手のひらに暖かい液体が流れ出す。

「はぁ……は、んぅ……」

 絶頂の余韻がまだ抜けないのか、どこか不規則な呼吸で彼女が息を整えている。焦点の合わない瞳は呆然と天井を見つめるだけだ。
 
「慧」

 彼女が気がつくよう、少しだけ強い口調で名前を呼ぶ。
 女の目はすぐに意図を察した。

「いいよ……きて」

 だらしなく開いていた両方の脚を、彼女がさらに広くする。
 熱く火照った雌穴は食べられるのを待ち焦がれている。
 雅樹は身にまとっていた服をその場に脱ぎ捨てると、滾り続けていた己の剛直をそのまま真っ直ぐに突き刺した。

「っ――、あ――」

 しとどに濡れた女の隘路に無理矢理押し入る。中に犇めく襞が、心地よく締め付けてくるのがわかる。

「あ、ぁぁ、はぁ、んぅ……っ!」

 艶めかしい息遣い。聞いているだけでも達してしまいそうな声だ。
 
「まさ……ちゃん、まさちゃん……」

 掻き抱くように雅樹の身体を翼が包んだ。羽根先が背中をくすぐる。少しだけむず痒くなる感覚を無視して、さらに強引にこじ開ける。
 
「慧」

 咄嗟に名前を呼んだ。胸の奥から来る愛おしさ――同性でさえ魅了するような美女が、自分をすべて受け入れてくれている。

「なぁに……?」
 
 彼女が微笑みを返した。妖艶さの中に含まれた母性のようなもの。自分を包み込んでくれる暖かさ。他の誰かになど、一片たりとも見せてやりたくなどない。
 すべてを奪い取るように腰を振った。怒張の槍先が最奥にぶつかり、媚肉に衝撃を与える。卑猥な水音が部屋中にまき散らされたが、気にしなかった。

「あ、ん……まさちゃん! それぇ、強く、て。きもちいいよぉ……」

 貪られ、滅茶苦茶に穿られながらも彼女は恍惚とした。まるで自らを視姦するかのように、雅樹の顔と結合部とを交互に見つめる。蕩けきった女の目には、昼間まであった凜々しさはもう見られない。
 
 味わうように腰を振っている間、ちらちらと視界に映っていたチューブトップが目に止まった。布を握って下にずらすと、大ぶりな乳房が溢れ出る。

 胸の先端を軽く触れる――勃起した乳首は暗がりの中でも十分に主張している。
 雅樹はそれを少しだけ強めに指でつまみ取り、そして指の腹で思い切り擦りつけた。

「んくぅ……っ!!!」

 今までよりも1オクターブ高い声。いきなりの衝撃に、不意を打たれたようだ。
 それと同時に膣全体がきゅっ、きゅっ、と引き締まる。今までの動きとは違う、とても強い反応だった。
 今度は腰の動きに合わせて、細かくリズムをつけて攻める。タイミングの異なる二つの刺激で、雌の身体をさらにぐずぐずに溶かし込む。

「しょ、しょれぇ! だめだょぉ……んぅ、はぁう、あぁぁぁぁ!!」

 すっかり掠れた嬌声。最初はどうにか押さえていた筈の喘ぎも、すでに止める事は出来なくなっている。
 肉棒を搾り取るような膣の動きに、雅樹のほうも限界が近づいてきた。

「そろそろ出すぞ、慧。どこがいい?」

 意地悪な質問を投げた。どこに出して欲しいのか、あえて彼女に決めさせる。そうすることで、歪んだ支配欲を満たすのだ。

「おく……」彼女が言った。「おちんちんぶつけてる所に、いっぱいだしてぇ……」

 お望み通りにしてやるべきく、雅樹がスパートをかける。子宮いっぱいに出してやる事をイメージしながら、容赦なく腰を打ち付ける。甘いしびれはもう竿の先まで届いている。
 もう限界だ。雅樹は息を止め、射精の衝動にすべてを任せた。

「ふぁ――、あ、はぁ、あぁ……」

 彼女の身体にしがみつきながら、ペニスを一番奥に押しつける。うるさいぐらいの鼓動と共に、彼女の体内へと精液が注がれていくのが、身体の感覚でわかった。

「ぅ……んっ、すごいあついのが、いっぱい……」

「最近してなかったからな。ひょっとしたら出来ちまうかもしれない」

 乾いた喉でそんな事を言った。困らせる意図はなかったが、事実は事実だ。
 ようやく絶頂から降りてきたのか、少しだけ息を整えてから彼女が尋ねた。

「雅ちゃんはさ、赤ちゃん……出来たら嬉しい?」

 逆に雅樹は回答に困った。欲しくないと言えば嘘になるが、それほど先のビジョンをまだ見ている訳ではない。
 だが彼女は違うようだった。

「あたしは欲しいよ。雅ちゃんとの赤ちゃん。何人だって、生んであげたい」

 理性の戻った黄金の瞳はどこまでも真っ直ぐだった。凜とした力強さは、猛禽類としての素質だろうか。
 しばらくの間、真剣な視線を放っていた彼女だったが、やがて息をつくと言った。

「……なんてね。今すぐに決められる話じゃないか」

 にへらっと笑って脱力する。言葉とは裏腹に複雑な表情をしているのが、暗がりでもわかった。

「それじゃ、一回シャワー浴びよっか。二人とも汗でベトベトだし」

 そう言って彼女が立ち上がろうとしたのを、今度は雅樹が止めた。

「あのさ……」

 彼女が振り返った。瞳には再び力が宿っている。
 意を決して彼が告げた。
 
「その、俺はまだバイトの店員だけど。必ず期待に応えられるようになるから。だからその時になったら……お前に生んで欲しい」

「……うん。わかった」

 優しい声。帰ってきた答えは、彼女が百パーセント望んでいたものとは違っていただろう。
 だが。

「いつまででも待ってるからね」

 そう言って彼女はいつも通り、思い切り微笑んでくれた。

 ◇

 翌日、雅樹は朝早くから厨房に入ると、仕入れておいたコーヒーの豆を検品していた。
 様々な国から輸入されたそれらを素早く確かめ、一杯ずつ入れて味を確かめる。面倒な仕事ではあるが、店の味を守るためには必要なことだ。
 
「お、雅ちゃん。今日はやけに早いねえ」

 と、厨房の扉が開き、奥から店長が姿を現した。

「おはようございます」試飲を続けながら雅樹が言った。「準備は全部終わらせときました。すぐにでも店開けられますよ」

「おつかれさん。今日はいつになくやる気だねぇ」

「ええまあ……店長、そういえばこの前、二号店を出したいって言ってましたよね?」

「ん? ああ。その話ね」そういえばという風な顔つきで彼が答えた。「まあ、キャスト志望の娘も増えてきてるし、この人気が続けば全員を回すのもきつくなってくるからねえ。で、それがどうしたの?」

「その店、もしやるとしたら俺に任せて貰えませんか?」

 少し前の眠たげな顔などどこへやら、驚きのあまりに店長が目を丸くする。

「……どうしたの一体。ちょっと前は『二号店なんて大変なだけだ』って言ってたのに」

「そうなんですけどね」雅樹が僅かに照れを見せる。だがその視線は真剣だった。「もうちょっと自分も前に進んで頑張ってみようと思ったんですよ」

 彼の脳裏に将来の慧と自分の姿が映りこむ。
 そこにはさらにもう一人、まだ見ぬ我が子の姿も入っていた。
20/07/13 01:04更新 / 引退小林
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