私は悪くないだろう!?
―七年前。
当時十歳だった私は、日夜両親に課された『格闘技の全制覇』を着実にこなし、日本の武道も残りもわずかとなっていた。そのときの私にとっては、学校の勉学など二の次であり、両親に褒められる=修練だった。
故に学校では誰ともつるまず(この髪の色と、容姿のこともあり、誰も話しかけてこなかったのだが)、浮いた時間で勉学を追いつかせていた。それだけでも十分クラス平均のやや上を行くことが出来た。
ある日、その日は空手の道場が急遽休みになってしまった私は、図書室に篭り、勉学において少しでも高い点数を取ろうとした。無論今考えればそのような、付け焼刃的勉強はすべきではないと思うのだが、懸命に勉強した。
ふと、顔を上げてみると、人懐っこいような、それでいておっとりした雰囲気の少女が座っていた。無論その少女に構うより、勉学のほうが大事であった私は、チラ見しただけで直ぐに勉学に取り掛かった。
しばらくたった頃だろうか、懸命に勉学に励む私に声がかけにくかったのかもしれないが、少女は私に話しかけてきた。
「漢字が間違ってるよ。」
「・・・?」
よく見てみると確かに違っている。慌ててその字を消す私に彼女はさらに話しかけてきた。
「その漢字って細々しててややこしいよね」
「・・・・・・」
今考えれば私の対応はさぞ相手を不快にさせたことだろう。もっとも、当時の私は周囲の目を気にするほど繊細な神経を持っていなかったが。
「ボクは同じクラスの南雲 由紀(なぐも ゆき)っていうんだけどさ。」
女なのに何故ボク?と当時の私は思っていた。それと同時にだから周囲の者達から『男女』と呼ばれるんだ。と妙な理解をしていた。
「ねぇ、ボク達似た者同士だと思わない?」
そういって、たしか彼女は人のノートに勝手に、名前を書いた。
「『南雲 由紀』に『東雲 龍紀』。ほら、苗字に方向を表す文字が入っていて、『雲』と『紀』も場所も一緒だ。」
言われてみればそうかもしれない。まあ、当時の私には『だから何?』という考えしかなかったが。
「これはアレだね、運命だ。」
彼女が見た目と違いとてもフランクに話しかけてくることは、当時先生とでさえ、事務的な会話しかしなかった私にとってはとても新鮮だった。
「・・・くだらない。」
純粋な感想が口から零れた。なんとも感受性のない子供だった。
「ハハハハハ!面白いねタツキは。」
「気安く呼び捨てにしないでくれ。」
そう言って私は彼女を鋭くにらみつけた。
「わかったわかった。そんな人を殺せそうな視線で人を睨まないでくれ。」
「・・・フン。」
・・・こうして思い返すと、よく今の人格まで矯正できたな。やはり彼女の影響力は凄かったのだろう。
「なら・・・タツキ君でどうだ?」
「・・・・・・。」
私は何も答えず、再び勉強の作業に没頭した。
「反論がないってことは、『タツキ君』で決定だな。」
そういって彼女は微笑んだ。
後から聞いた話では彼女はうちの近所で、幼稚園も同じで、さらにクラスもずっと一緒だったらしい。・・・つまるとこ、幼馴染なのだが、これが私と彼女―南雲由紀との初めての会話だった。
その後親しくなり、彼女をきっかけに周囲と打ち解けた私だったが、ある雨の日、教室で私と彼女は二人きりになった。そう、あの日の図書室のときのように。
「しかし、五年生で児童会会長に推薦されるとは、まだまだボクも捨てたもんじゃないね。」
「・・・キミは広い人脈と優れた統率力がある。当然だろう。」
そう、五年生にして児童会会長に推薦された南雲由紀の祝いを、ささやかながら二人で行っていた。
「タツキ君。会長が就任した際に最初に行う仕事を知っているかい?」
彼女はいつになく楽しそうに語りかけてきた。
「・・・さぁ?寡聞にして存じないな。」
「またキミは知ったかぶった言葉をつかっちゃって。」
クスクスと笑う彼女は、いつもより遠い存在に感じた。
「会長の独断と偏見による、役員の選出だよ。副会長、計算係(会計のようなもの)、板書係(書記のようなもの)、そして、パシリ。」
「雑務係だ。」
そうだった、といってニッと笑う彼女。
「ま、事実どうでもいいことさ、なぜならボクはキミを副会長に任命するからね。」
「何故?」
「はっきり言って、キミとボクの二人で十分。これ以上は人手の無駄だ。」
「そもそも、私は副会長になる気など―」
瞬間、彼女の顔が目の前にあった。
「なぁ、もし今日ボクが死ぬとしたらどうする?」
「は・・・?」
―いやだ―
「・・・ボクの初めてのキッスをキミに捧げたい。」
―やめろ―
「・・・・・・。」
―もう、思い出したくない・・・!―
「あーあ、ボクの初キッスだったのに。そんなにゴシゴシこすったってボクとキミの初キッスは戻ってこないよ?」
―ヤメロ・・・!―
「なにより、今のキッスにはボクの―を込めたからね。」
―・・・!―
「あーあ、もうちょっと残っているつもりだったけど、そんなにつれないなら今日は帰るよ。」
―・・・あの日、彼女は死んだ。
その日彼女の家に強盗が押し入っていたのだ。彼女の家の人はみんな無残な殺され方をし、ちょうど家をでてきた犯人に彼女は出くわしてしまい、そのまま家に引きずり込まれ、犯人によって滅多刺しにされ息を引き取った。その後彼女と同じように先生から児童会の会長に声をかけられていた私は半ば強制的に会長となったのだ。
―・・・そう、今、目の前にいる彼女は絶対に偽者なのだ。
「ハハハハハ、ずいぶん髪を長くしたね、タツキ君。」
―偽者なのだ。
「・・・こうして話すのはずいぶん久しいね。」
―目の前の女は、彼女ではない。
「ボクはキミに話したいことが沢山あるけど、キミは?結構あるんじゃない?」
―それでも。
「まさか、初キッスの事怒ってる?」
―助けることが出来なかった彼女の偽者を前に、私は感情がこらえきれなくなった。
「な、どうしたんだキミ、いきなり泣き出すなんてボクの知らない間に何があったんだ!?」
―嬉しい、と純粋に思った。
「なんでもない。」
―偽者でも構わない。もう二度と同じ過ちは繰り返さない。だから、この手は決して離さない。
『よく我慢してきたな。』
天使・・・。分かってくれるのか・・・!
『さあ、思いっきりアツいキスを南雲に!』
悪魔も・・・。・・・言われなくても!
―再び私は南雲由紀と、抱擁し、そして、相手の瞳を見た。
「・・・南雲。」
「・・・じっと見つめるなよ、タツキ君」
―そして、私達の唇が重なる瞬間―
突如小さくて黒ずくめの少女が現れた。
―イライライライライラ・・・!
何なんだ!タツキの奴!あんな顔をしやがって!
「・・・さすがドッペルゲンガーのヤミナさんですよね。」
隣のミサはのんきにそんなこと言っているのだが、何がそんなに嬉しいんだタツキ!!
「ど、どうしたんですか?バハムートさん・・・?」
「・・・なんでもない・・・!」
それになんなのだ!?この胸の奥から湧き上がるこの例えようのないこの気持ちは!余計にイライラしてくる・・・!
「だ、だきしめあってる・・・!」
「なんだと!?」
ヤミナめ!タツキが少し強くて、かなり可愛くて、少しカッコいいからってそこまでするか!?くそ、図に乗りやがって・・・!このままではタツキはヤミナのものに・・・!それだけは避けねば!
「今日は月も出てますし、絶好調ですね。」
月・・・?そうか!ドッペルゲンガーが力を発揮できるのは『月が見える夜』!ならば、私の魔術で月を一時的に隠せばいい。簡単なことだ。
「フフフフフ・・・残念だったなヤミナ。」
「ちょっ、何してるんです、バハムートさん!?」
・・・しかし、このイライラの中に感じる切ない気持ち。いつしかこちらのほうが私の中では大きくなっていた―
―・・・だれだ、この子供。
「はうっ、えっと、あのっ、」
・・・これが偽者の正体・・・?
『・・・よく我慢してきたな。』
『さあ、思いっきりアツいキスをその子に!』
やめろ!それをやったら私はただの犯罪者だ!そして天使!キサマは何故にやけている!やはりお前は敵だッ!!
「あ、あ、あああ・・・」
『『子供を泣かせるなよ・・・。』』
「私は悪くないだろう!?」
むしろトラウマを散々ほじくりまわされたこちらが泣きたい。
『シリアスパートが台無しだな。』
『この冷血漢め。』
天使と悪魔はいつ手を組んだのだ?そもそもお前らが私の思考に入ってくる時点で、シリアスパートもクソもないだろう。なんだかんだで悪魔と天使とそんな不毛な争いをしていると、
「ああ!悲しき若者よ!」
・・・なんだ?
「キミは今、劣悪な魔物に騙されていたのだよ。」
知ってる。・・・ていうか見られていた!?
「ここだ。ここだよ若者。」
声のする背後に振り返り―
―直ぐに前を向いた。
「おい、若者。その扱いはあんまりだろう?」
一瞬しか見ていないので、よく見えなかったが後ろには片眼鏡をし、茶色い髪をオールバックにし、マントを羽織ったブリーフ一丁のオジサンがいた。
『おい、無視はないだろ。』
世の中には知らないほうが良い事もある。
「ああ、私の自己紹介がまだだったね少年。私の名は、シュベンタール・クォン・ゴレオというのだが・・・。」
「は、はぁ・・・。」
「キミ、名前は?」
なんなんだ?このオジサンは。
「東雲 龍紀。17歳男で生徒会―」
「では、シノノメクン。」
人の話しは最後まで聞け。変態片眼鏡。・・・いや、変態かどうかは知らないが。
「―魔物と密会した容疑のため、我等『教団特殊異端査問会』の名の下、粛清する。」
・・・私がこの世界に来てまだ数時間。にもかかわらず、すでに密会(本当は逃げ回っているだけだが)の容疑にかけられるとは。
「待ってくれ、ゴメス。」
「ゴレオだ。シノノメクン」
「私はそもそもこの世界のものではない。故に、まだこの世界のルールも知らない。」
そう、ルールを知らない人間を罰するなどありえない。
「なるほど、だからどうしたね?神の名の下に、キミを粛清する。」
どうしてここの世界の人(魔物を含む)は人の話をちゃんと聞かないのだろう。おそらく自分の得物であるムチを構えたゴレオを前に、そんな疑問が思い浮かんだ、今日この頃。
当時十歳だった私は、日夜両親に課された『格闘技の全制覇』を着実にこなし、日本の武道も残りもわずかとなっていた。そのときの私にとっては、学校の勉学など二の次であり、両親に褒められる=修練だった。
故に学校では誰ともつるまず(この髪の色と、容姿のこともあり、誰も話しかけてこなかったのだが)、浮いた時間で勉学を追いつかせていた。それだけでも十分クラス平均のやや上を行くことが出来た。
ある日、その日は空手の道場が急遽休みになってしまった私は、図書室に篭り、勉学において少しでも高い点数を取ろうとした。無論今考えればそのような、付け焼刃的勉強はすべきではないと思うのだが、懸命に勉強した。
ふと、顔を上げてみると、人懐っこいような、それでいておっとりした雰囲気の少女が座っていた。無論その少女に構うより、勉学のほうが大事であった私は、チラ見しただけで直ぐに勉学に取り掛かった。
しばらくたった頃だろうか、懸命に勉学に励む私に声がかけにくかったのかもしれないが、少女は私に話しかけてきた。
「漢字が間違ってるよ。」
「・・・?」
よく見てみると確かに違っている。慌ててその字を消す私に彼女はさらに話しかけてきた。
「その漢字って細々しててややこしいよね」
「・・・・・・」
今考えれば私の対応はさぞ相手を不快にさせたことだろう。もっとも、当時の私は周囲の目を気にするほど繊細な神経を持っていなかったが。
「ボクは同じクラスの南雲 由紀(なぐも ゆき)っていうんだけどさ。」
女なのに何故ボク?と当時の私は思っていた。それと同時にだから周囲の者達から『男女』と呼ばれるんだ。と妙な理解をしていた。
「ねぇ、ボク達似た者同士だと思わない?」
そういって、たしか彼女は人のノートに勝手に、名前を書いた。
「『南雲 由紀』に『東雲 龍紀』。ほら、苗字に方向を表す文字が入っていて、『雲』と『紀』も場所も一緒だ。」
言われてみればそうかもしれない。まあ、当時の私には『だから何?』という考えしかなかったが。
「これはアレだね、運命だ。」
彼女が見た目と違いとてもフランクに話しかけてくることは、当時先生とでさえ、事務的な会話しかしなかった私にとってはとても新鮮だった。
「・・・くだらない。」
純粋な感想が口から零れた。なんとも感受性のない子供だった。
「ハハハハハ!面白いねタツキは。」
「気安く呼び捨てにしないでくれ。」
そう言って私は彼女を鋭くにらみつけた。
「わかったわかった。そんな人を殺せそうな視線で人を睨まないでくれ。」
「・・・フン。」
・・・こうして思い返すと、よく今の人格まで矯正できたな。やはり彼女の影響力は凄かったのだろう。
「なら・・・タツキ君でどうだ?」
「・・・・・・。」
私は何も答えず、再び勉強の作業に没頭した。
「反論がないってことは、『タツキ君』で決定だな。」
そういって彼女は微笑んだ。
後から聞いた話では彼女はうちの近所で、幼稚園も同じで、さらにクラスもずっと一緒だったらしい。・・・つまるとこ、幼馴染なのだが、これが私と彼女―南雲由紀との初めての会話だった。
その後親しくなり、彼女をきっかけに周囲と打ち解けた私だったが、ある雨の日、教室で私と彼女は二人きりになった。そう、あの日の図書室のときのように。
「しかし、五年生で児童会会長に推薦されるとは、まだまだボクも捨てたもんじゃないね。」
「・・・キミは広い人脈と優れた統率力がある。当然だろう。」
そう、五年生にして児童会会長に推薦された南雲由紀の祝いを、ささやかながら二人で行っていた。
「タツキ君。会長が就任した際に最初に行う仕事を知っているかい?」
彼女はいつになく楽しそうに語りかけてきた。
「・・・さぁ?寡聞にして存じないな。」
「またキミは知ったかぶった言葉をつかっちゃって。」
クスクスと笑う彼女は、いつもより遠い存在に感じた。
「会長の独断と偏見による、役員の選出だよ。副会長、計算係(会計のようなもの)、板書係(書記のようなもの)、そして、パシリ。」
「雑務係だ。」
そうだった、といってニッと笑う彼女。
「ま、事実どうでもいいことさ、なぜならボクはキミを副会長に任命するからね。」
「何故?」
「はっきり言って、キミとボクの二人で十分。これ以上は人手の無駄だ。」
「そもそも、私は副会長になる気など―」
瞬間、彼女の顔が目の前にあった。
「なぁ、もし今日ボクが死ぬとしたらどうする?」
「は・・・?」
―いやだ―
「・・・ボクの初めてのキッスをキミに捧げたい。」
―やめろ―
「・・・・・・。」
―もう、思い出したくない・・・!―
「あーあ、ボクの初キッスだったのに。そんなにゴシゴシこすったってボクとキミの初キッスは戻ってこないよ?」
―ヤメロ・・・!―
「なにより、今のキッスにはボクの―を込めたからね。」
―・・・!―
「あーあ、もうちょっと残っているつもりだったけど、そんなにつれないなら今日は帰るよ。」
―・・・あの日、彼女は死んだ。
その日彼女の家に強盗が押し入っていたのだ。彼女の家の人はみんな無残な殺され方をし、ちょうど家をでてきた犯人に彼女は出くわしてしまい、そのまま家に引きずり込まれ、犯人によって滅多刺しにされ息を引き取った。その後彼女と同じように先生から児童会の会長に声をかけられていた私は半ば強制的に会長となったのだ。
―・・・そう、今、目の前にいる彼女は絶対に偽者なのだ。
「ハハハハハ、ずいぶん髪を長くしたね、タツキ君。」
―偽者なのだ。
「・・・こうして話すのはずいぶん久しいね。」
―目の前の女は、彼女ではない。
「ボクはキミに話したいことが沢山あるけど、キミは?結構あるんじゃない?」
―それでも。
「まさか、初キッスの事怒ってる?」
―助けることが出来なかった彼女の偽者を前に、私は感情がこらえきれなくなった。
「な、どうしたんだキミ、いきなり泣き出すなんてボクの知らない間に何があったんだ!?」
―嬉しい、と純粋に思った。
「なんでもない。」
―偽者でも構わない。もう二度と同じ過ちは繰り返さない。だから、この手は決して離さない。
『よく我慢してきたな。』
天使・・・。分かってくれるのか・・・!
『さあ、思いっきりアツいキスを南雲に!』
悪魔も・・・。・・・言われなくても!
―再び私は南雲由紀と、抱擁し、そして、相手の瞳を見た。
「・・・南雲。」
「・・・じっと見つめるなよ、タツキ君」
―そして、私達の唇が重なる瞬間―
突如小さくて黒ずくめの少女が現れた。
―イライライライライラ・・・!
何なんだ!タツキの奴!あんな顔をしやがって!
「・・・さすがドッペルゲンガーのヤミナさんですよね。」
隣のミサはのんきにそんなこと言っているのだが、何がそんなに嬉しいんだタツキ!!
「ど、どうしたんですか?バハムートさん・・・?」
「・・・なんでもない・・・!」
それになんなのだ!?この胸の奥から湧き上がるこの例えようのないこの気持ちは!余計にイライラしてくる・・・!
「だ、だきしめあってる・・・!」
「なんだと!?」
ヤミナめ!タツキが少し強くて、かなり可愛くて、少しカッコいいからってそこまでするか!?くそ、図に乗りやがって・・・!このままではタツキはヤミナのものに・・・!それだけは避けねば!
「今日は月も出てますし、絶好調ですね。」
月・・・?そうか!ドッペルゲンガーが力を発揮できるのは『月が見える夜』!ならば、私の魔術で月を一時的に隠せばいい。簡単なことだ。
「フフフフフ・・・残念だったなヤミナ。」
「ちょっ、何してるんです、バハムートさん!?」
・・・しかし、このイライラの中に感じる切ない気持ち。いつしかこちらのほうが私の中では大きくなっていた―
―・・・だれだ、この子供。
「はうっ、えっと、あのっ、」
・・・これが偽者の正体・・・?
『・・・よく我慢してきたな。』
『さあ、思いっきりアツいキスをその子に!』
やめろ!それをやったら私はただの犯罪者だ!そして天使!キサマは何故にやけている!やはりお前は敵だッ!!
「あ、あ、あああ・・・」
『『子供を泣かせるなよ・・・。』』
「私は悪くないだろう!?」
むしろトラウマを散々ほじくりまわされたこちらが泣きたい。
『シリアスパートが台無しだな。』
『この冷血漢め。』
天使と悪魔はいつ手を組んだのだ?そもそもお前らが私の思考に入ってくる時点で、シリアスパートもクソもないだろう。なんだかんだで悪魔と天使とそんな不毛な争いをしていると、
「ああ!悲しき若者よ!」
・・・なんだ?
「キミは今、劣悪な魔物に騙されていたのだよ。」
知ってる。・・・ていうか見られていた!?
「ここだ。ここだよ若者。」
声のする背後に振り返り―
―直ぐに前を向いた。
「おい、若者。その扱いはあんまりだろう?」
一瞬しか見ていないので、よく見えなかったが後ろには片眼鏡をし、茶色い髪をオールバックにし、マントを羽織ったブリーフ一丁のオジサンがいた。
『おい、無視はないだろ。』
世の中には知らないほうが良い事もある。
「ああ、私の自己紹介がまだだったね少年。私の名は、シュベンタール・クォン・ゴレオというのだが・・・。」
「は、はぁ・・・。」
「キミ、名前は?」
なんなんだ?このオジサンは。
「東雲 龍紀。17歳男で生徒会―」
「では、シノノメクン。」
人の話しは最後まで聞け。変態片眼鏡。・・・いや、変態かどうかは知らないが。
「―魔物と密会した容疑のため、我等『教団特殊異端査問会』の名の下、粛清する。」
・・・私がこの世界に来てまだ数時間。にもかかわらず、すでに密会(本当は逃げ回っているだけだが)の容疑にかけられるとは。
「待ってくれ、ゴメス。」
「ゴレオだ。シノノメクン」
「私はそもそもこの世界のものではない。故に、まだこの世界のルールも知らない。」
そう、ルールを知らない人間を罰するなどありえない。
「なるほど、だからどうしたね?神の名の下に、キミを粛清する。」
どうしてここの世界の人(魔物を含む)は人の話をちゃんと聞かないのだろう。おそらく自分の得物であるムチを構えたゴレオを前に、そんな疑問が思い浮かんだ、今日この頃。
11/04/25 01:47更新 / ああああ
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