連載小説
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聞いてくれ
「・・・そこを右に。」
 いまさら自己紹介も野暮なものだが、一応しておくと、私の名前は、東雲龍紀。生徒会会長だ。現在、何故か嫁気取りのデュラハンのスピアと共にドラゴンから逃げている。
「・・・本当にこっちであっているのか?」
 彼女曰く、絶対に安全な場所だというが、相手はドラゴン・・・しかもバハムートと名乗るぐらい危険なやつだ。しかも、奴は今『グループA』という集団を集めている。どちらにせよ危機的状況は(男の尊厳とか、生徒会長の誇りとか、貞操とか)挽回はかなり難しい。
「・・・こっちなら、私の・・・ううん、今日から『私達の』愛の巣だから―」
「きっと左だ!」
 逆に行こうとしたが行動を見透かしていたかのように腕を掴むスピア。くっ・・・信じた私がバカだった・・・!
「・・・大丈夫、ここでは着せ替え人形にはさせない。」
 ここじゃなければ着せ替え人形にするのかと問い詰めたいが、今は我慢だ。

 ガシャッガシャッガシャ!!

 先程から甲冑の鉄がぶつかる音が異常に大きく聞こえる。ここはスピアに確認を―

「・・・?」←立派な甲冑。
「お前かああぁぁ!というより、そろそろ手を離せ!」
 何てことだ!これではここに居ますと言っている様なものだ。しかも、手を握られてから非常に走りにくい!
「・・・叫んじゃメッ。」
 さっきはまずいと思ったが、今の私なら躊躇なく頭を蹴り飛ばせる。
『なら、蹴り飛ばしちゃえよ。』
 お前は天使!いやいや、今のは言葉のあやで、決して本気だとか・・・。
「・・・・・・」
『うわーん!天使に台詞を取られたー!』
 ・・・絶望とはこういう事を言うのだろうか・・・。
「・・・?早く。」
 隣のスピアがとても遠くの存在に見える。きっと彼女の内の天使は本当の天使なんだろうな・・・。
「しかし、『グループA』とはいったい何なのだ?」
 そう、第一の問題はそこにある。どんな奴がどんな人数(?)でどんな組み合わせかを知れば、かなり有利になると思われる。
「・・・『グループA』のAは『アンデット』のA」
「・・・・・・」
 アンデット=Undeadのはず。
「『U』じゃないのか?」
「・・・バハムートは負けず嫌い。」
 なるほど、おそらくローマ字でAndettoって、思ったに違いない。そうすればイニシャルはAだしな。
「・・・ん?」
 デュラハンってアンデットじゃないか・・・?
「キミ・・・。」
「・・・キミじゃない。嫁か、ハニーって呼んで。」
 何でこんなに懐かれているのだ?
「スピア。」
 物凄く不服そうな顔をしたが、何も言ってこないということは話を続けても問題なさそうだ。
「お前、アンデットじゃないのか?」
「・・・そう。アンデット。」
『逃げるラストチャンスだぞ!東雲龍紀!』
 わかっている悪魔。だが、この掴まれた右手を何とかしないことにはどうしようもない。
「・・・前。」
「なんだ?」
 手は離さないものの、前に厳しい視線を送るスピア。その先には似たような格好の三人組がいる。
「ニンゲンはっけーん!」
「ここで捕まえて―」
「私達の獲物だー!」
 誰か一人が統一して喋ろ。三人がばらばらなことを言っていて、要領を得ない。というか、何なんだこの三人組は。
「・・・『グールツインズ』・・・!」
「いや、三人いるぞ?」
 ツインズはどう考えても二人組みのときに使われる呼び名だ。三人いる以上その呼び名は―
「さすがスピア。」
「私が妹。」
「私が姉だ!」
 ・・・はっきり言って面倒だ、この三人。第一ツインズではおかしいと何故誰も指摘しない。
「・・・あの二人が双子。」
 といって、左右の女を示すスピア。
「・・・真ん中が一つ上。」
「それで、何故ツインズ?」
 疑問の答えになっていない。
「・・・グールツインズの『グール』は長女を示し、『ツインズ』で双子のグールをさしている。」
「・・・つまり?」
「・・・三つ子じゃないことを、表現している。」
 なるほど、実はなかなか捻ったグループ名だったのか。捻りすぎて捻じ切れた感があるが。
「その女。」
「いい女。」
「可愛い・・・男?」
『おい!右の奴が始めて初対面で男だってわかったぞ!』
 べ、別に嬉しくないぞ、悪魔。
『・・・ホモか。』
 違う!おのれ天使目め・・・何故お前はいつも一言余計なことを・・・!
「・・・危ない!」
「シャー!」
 危なっ!ここの奴は不意打ちしか出来ないのか!?
「へへへ、獲物。」
「よこせ、スピア。」
「本当におん―」
「悪く思うなッ―!」
 残念だかこれ以上私のハートが傷つく前に彼女にはご退場願おう。
「あだっ!」
「おおー!」
「何だ今の技!」
「・・・ブリッジ?」
 先程飛び掛ってきた一人のグールをバックドロップの要領で地面に叩きつける。アンデットなのだから、死なないだろう。(というか、すでに死んでいるだろう。)
「フフフ。」
「面白いぞ。」
「・・・」←気絶中。
 ・・・アドリブに弱いな。
「・・・どいて。」
 剣を正眼に構え臨戦態勢に(ようやく)なるスピア。一匹が起きてくる前に、早めにケリをつけねばならない。
「ガルの仇。」
「とらせてもらう!」
 気絶したグールはガルという名前らしい。つまり、残りの二人はどうせ『ギル』と『グル』だろう。グールだけに。
「うがー!」
「おっと。」
 スピアに比べて、見劣りするものの、やはり普通の人間に比べてスピードは速い。若干反応を早めにする必要があるな。
「・・・遅い」
「腕があぁぁ!?」
 ・・・容赦ないなスピアは。あの時敵視されなくてよかったと、初めて感じる。・・・さて、こちらもそろそろ反撃するか。
「捕まえ―」
「せいのっ!」
 バカ正直に真正面から突っ込んできたグールにゆっくりと息を吐きながら、鳩尾を狙い、掌底を叩き込む。
「ハイヤー!」
「なっ!」
 さすがグール。一匹めがもう復活してきた。
「・・・キリがない・・・!」
「確かにな。」
 このままいっても、ジリ貧だ。何とか状況を一転させなければ、マズイ。しかも、こいつらの最初のくだらない話(何故、『グールツインズ』なのか、とか。)のせいで、だいぶ時間をくってしまっている。
『生徒会長!今こそアレを!』
 悪魔!アレってなんだ!?知らないぞ、この危機的状況を打破できる方法なんて。
『何のために小学校で『児童会会長』を務め、中学校で『生徒会長』を務め、今、また『生徒会長』をしているのだ。』
 私の記憶が確かなら、先生に強制的にエントリーされたからだ。まぁ、支持率は過去最大だったらしいが。
『お前の持つ、『カリスマ性』を生かすのだ!』
 この状況でどう生かせと?
『心をこめて、説得するんだ!』
 なるほど、悪魔らしからぬ発想だが、無駄に体力を消費しないし、なかなかいい案だ。
「聞いてくれ。」
「「「嫌だ!」」」
 作戦失敗。もう駄目かもしれない。
「・・・邪魔・・・!」
 目の前に迫り着ていた三匹を捨て身のタックルで吹き飛ばす、スピア。・・・この子結構いい嫁になるのではないか?もちろん私はお断りだが。
「・・・この人は・・・私の獲物・・・!」
 信じていたのにショックだ!
『信じるものはだまされる運命なのだよ。』
 天使がそれを言っては駄目だろう。まあ、私はもうお前を天使だとは思っていないが。
「邪魔だ!」
「そこを通せ!」
「・・・無駄。」
「うう、強い!」
 しかし強いなスピア。一人でも十分に圧倒している。
『・・・今がチャンス!逃げちゃおうぜ!』
 だがな、悪魔。やはり仲間・・・かどうかは知らないが、私のために戦って―
「「「「私の獲物だっ!」」」」
 その言葉を聴いた瞬間。反射的に背を向けて走り出せた自分をほめてやりたい。道案内こそ居なくなったが、手を掴まれていない分、圧倒的に速く走れる。しかも、甲冑の鉄がぶつかり合う音もしないしな。



「タッちゃん逃げちゃったね。」
 よこにいたミミックのミサが緑色の瞳を向けながら、私に話しかけてくる。
「いや、あの場ではむしろ躊躇わず逃げたことをほめるべきだ。」
 これは私―バハムートの素直な感想だ。そもそも、あんな華奢な体で二度もグールを気絶させた力は尋常じゃない。装備しだいでは、そこらの勇者より遥かに強いだろう。
「見失っちゃうよ?」
「問題ない。やつの体には若干だがスピアの匂いがついている。」
 だが、私が真に気になっているのはそこではない。やつの格闘スキルの高さは確かに脅威に値するが、それ以上に奴の着ている服と、奴の性格のほうが遥かに問題だ。奴の服はおそらく、サイクロプスが仕立てたものと見て間違いないだろう。下手に手出しをすれば確実にこちらが被害をこうむるのは眼に見えている。いったい奴は何処であんな代物を手に入れたのだ・・・?
 そして、第二の問題・・・奴の性格だ。はっきり言ってスピアを味方につけるとは思わなかった。本来デュラハンは自分より強きものを慕うという。加えて、スピアはかつて教団(反魔物派の最大勢力で、この世界のほとんどの人間に魔物は悪しきものという教えを説いている。)によって囚われ、様々な男達にいわば慰安婦として扱われて居た過去があり、人間不信になっていた。だが奴は、いとも容易くスピアと打ち解け、伴侶にまで選ばれた。
「・・・さてと。」
 奴の最大の武器。それは、おそらく、隠しても隠し切れない、人望(というより、カリスマ性)なのだろう。久々に面白い人間が来たな・・・。これで次のグループAの『刺客』を乗り越えたら、さすがにこの追いかけっこをやめて、歓迎会でもしてやるか―

―あれからどれ程走っただろうか。そもそもこの城の広さも何もわからず、闇雲に走っていたため下手したら無駄に体力を浪費しただけかもしれない。
「―タツキ君。」
「ん・・・?」
 なんだ?この懐かしいような聞いたことのあるような声は・・・?
「―久しぶりだね。」

―そこには七年前死んだはずの幼馴染の姿があった。
11/04/24 17:59更新 / ああああ
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■作者メッセージ
とても眠いので、誤字脱字のチェックを入れましたが、まだ残っているかもしれません・・・。

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