暗躍せし者
遂に革命軍リベリオンの大軍は、首都圏内へとその姿を現していた。
邪魔する者は全て蹴散らし、神剣を振るう字無しが巨万の兵を従えて、大聖堂の陥落を狙う。
首都を囲う数十キロメートルはあろう巨大な防壁にて、残り二人となった六騎士が立ちはだかる。
「誇り高き六騎士も遂にわしとおぬしだけとなってしまったか・・・」
六騎士の一人である白髪が印象的な老人、ウイット・メッセンジャーが同胞へそう言葉を掛ける。
「そうだね・・・。まさか、ウィルに続いて、マイトまで失う事になるなんて思ってもみなかったよ」
その言葉に、六騎士最年少の少年アング・メッセンジャーが、そう言葉を返した。
「マイトは感情的になりやすいのが最大の弱点だったからの・・・。初めからアギト・フェンリルに敗れる事はわかっていた」
「ウィルが・・・自分の師が殺された事実にどうしても絶えられなかったんだろうね・・・」
「あの若さで六騎士にまで上り詰めた凄まじいほどの武術、知識、判断力そして、さまざまな死地をかいくぐってきた戦士としての経験・・・誇り。
マイトもそうだが、特にウィルはわしが今まで見てきた騎士の中で・・・最高の逸材だった」
「それを言うなら15歳で六騎士になった僕も大したもんでしょ?」
ケタケタと笑いながら自慢げにアングがそう答えた。
「おぬしは“ワケ”ありじゃろうが・・・」
「その“ワケ”のせいで、ここまで来るのに地獄を見て来たからね。援軍が来るまでせいぜい好きにやらせてもらうよ・・・」
「・・・まあ良い。わしは教皇を守る義務がある故。防壁の外での戦いはお前に任せる。せいぜい思念に取りつかれて己を見失わぬ事じゃな」
「わかってるよ。あくまで援軍がくるまで持ちこたえればいいんでしょ?」
「持ちこたえれる相手だと楽なんじゃがな・・・その自信はどこから来るんだか・・・」
ウイットはそう言い残すと、その場を後にして、教皇エリュシオンのもとへと踵をかえしていった。
「正直な話、この首都が陥落しようが僕には関係ないね。ただ字無しと戦って勝てればそれでいいんだよ・・・」
誰もいない城壁の屋外で、少年はそう言葉を漏らした。
『来たか・・・』
暗い路地に入り込んだウイットに、“ある存在”が声をかける。
「はい。邪魔な六騎士は今、“私”を除いて首都内には一人もおりません・・・」
周りを見れば誰もいない裏路地・・・。
まるで頭の中に響いているかのような妖しい声に、ウイットは何も不思議がることなく会話をしはじめた。
『アギト・フェンリルが首都近郊に出向いていたのは幸いだった。バルムンクは奪われたが、邪魔なウィル・メッセンジャーを始末してくれたのはこちらにとって大きなメリットだ』
「左様です。ウィルに大した魔物ではないと、“私自ら討伐を手筈した”甲斐がありました。頭に血が昇ったマイトをも片づけてくれたのはうれしい誤算ですな・・・」
くつくつと姿が見えぬ声の主は嗤いながらウイットに言葉をかえす。
『字無しという予期せぬ猛者の存在はあるが、首尾は程よく進んでいる・・・。思えば瞬き一つのように短く、拷問を受けているかのように永く感じる時間だった・・・』
「時は来ましたな・・・。貴方様の存在が今、再びこの世には必要なのです。かつてミッドガルドを統べていたあの時のように。腐敗しきったこの弱者達の争う乱世に君臨する真の支配者が・・・」
『・・・・・・・』
「人、魔物、半妖、全てをまとめ上げ統括すべき神に最も近い存在。主よ・・・好機は今かと・・・」
『無論だ。今宵、俺は甦る・・・。偽りの平穏を破り、己の身体を取り戻す・・・後は邪魔な教皇を始末するのみだ・・・ウイット・・・いや、”強き小人、アルぺリヒ”よ。力を貸せ・・・』
「仰せのままに・・・」
水面下で暗躍が蠢いていることなど、教皇はおろか、ミッドガルド中の者たちは今起こっている公の戦争に夢中で誰も気づくことは叶わない。
ウイットは、響き渡る声を聞き届けた後、課せられた命を実行しようとその場を後にした。
首都を覆う防壁を前に、字無しは息を一つ吐くと自分の背に控えている大軍を見渡した。
その血に飢えた壮大な軍隊を前に微笑を浮かべ剣を掲げる。
そして進撃の合図となる咆哮をあげた。
「怒りに満ちた猛者達よ。敵はもう目の前だ!」
憎しみに燃える者、果敢に名を上げようとする者、教会の方針に愛想が尽き寝返った者、理由は様々だが、目的は一つ。
「思う存分胸に秘めたものを解放しろ!奪われたものを奪い返せ!見下してきた奴らを引きづり降ろせ!時代を変えるのは今しかない!」
現支配者・・・世界の教会の・・・完全なる抹消。
「お前達の時代を創れ!」
その言葉を皮切りに、字無し率いるリベリオンは怒号の如き咆哮を上げ進撃を開始した。
待ちうけるのは教会の騎士団率いる軍団兵達、しかしその数はリベリオンの兵力に到底及ばない。
まるで紙切れのように、巨万の大軍が教会の軍を葬り去っていく。
初めから勝負にならないことはだれの目から見ても明らかだった。
しかし、教会の騎士達の中で唯一、大軍に飲まれずに抗っている者がいた。
その騎士は小柄な少年で、身体の一部をあるものに変化させて襲い来るリベリオンの戦士達を薙ぎ払っていた。
一通りリベリオンの兵達を片づけると、少年は黒馬にまたがり、興味深そうにこちらを見下ろす字無しを青い瞳で射抜く。
「高みの見物なんてやめて、僕と勝負しようよ・・・天下の侍さん」
そして、変化させた翡翠色の鉤爪のような腕を字無しに向けてそう言い放った。
「その腕・・・貴様も半妖か?」
字無しは目の前の少年を見て、若干だが驚きの表情を隠せなかった。
なぜならその少年の禍々しい腕は自分もよく見慣れている“あの鉤爪そのもの”に間違いなかったからだ。
「僕に勝ったら教えてあげるよ」
自信過剰に言い放った少年に、字無しも再び微笑を浮かべて答える。
「ならちょうどいい・・・。聞きたい事が何点かある」
そして負けず劣らず余裕な態度で返し、馬から飛翔し、少年の前に降り立った。
少年、六騎士アング・メッセンジャーは、地上の覇者“ドラゴンの鉤爪”で宙を切り、雷龍を迎え撃つ。
双方は確実に死闘になるであろう、これからの立ちあいに闘志を震わせ、笑みを浮かべた。
邪魔する者は全て蹴散らし、神剣を振るう字無しが巨万の兵を従えて、大聖堂の陥落を狙う。
首都を囲う数十キロメートルはあろう巨大な防壁にて、残り二人となった六騎士が立ちはだかる。
「誇り高き六騎士も遂にわしとおぬしだけとなってしまったか・・・」
六騎士の一人である白髪が印象的な老人、ウイット・メッセンジャーが同胞へそう言葉を掛ける。
「そうだね・・・。まさか、ウィルに続いて、マイトまで失う事になるなんて思ってもみなかったよ」
その言葉に、六騎士最年少の少年アング・メッセンジャーが、そう言葉を返した。
「マイトは感情的になりやすいのが最大の弱点だったからの・・・。初めからアギト・フェンリルに敗れる事はわかっていた」
「ウィルが・・・自分の師が殺された事実にどうしても絶えられなかったんだろうね・・・」
「あの若さで六騎士にまで上り詰めた凄まじいほどの武術、知識、判断力そして、さまざまな死地をかいくぐってきた戦士としての経験・・・誇り。
マイトもそうだが、特にウィルはわしが今まで見てきた騎士の中で・・・最高の逸材だった」
「それを言うなら15歳で六騎士になった僕も大したもんでしょ?」
ケタケタと笑いながら自慢げにアングがそう答えた。
「おぬしは“ワケ”ありじゃろうが・・・」
「その“ワケ”のせいで、ここまで来るのに地獄を見て来たからね。援軍が来るまでせいぜい好きにやらせてもらうよ・・・」
「・・・まあ良い。わしは教皇を守る義務がある故。防壁の外での戦いはお前に任せる。せいぜい思念に取りつかれて己を見失わぬ事じゃな」
「わかってるよ。あくまで援軍がくるまで持ちこたえればいいんでしょ?」
「持ちこたえれる相手だと楽なんじゃがな・・・その自信はどこから来るんだか・・・」
ウイットはそう言い残すと、その場を後にして、教皇エリュシオンのもとへと踵をかえしていった。
「正直な話、この首都が陥落しようが僕には関係ないね。ただ字無しと戦って勝てればそれでいいんだよ・・・」
誰もいない城壁の屋外で、少年はそう言葉を漏らした。
『来たか・・・』
暗い路地に入り込んだウイットに、“ある存在”が声をかける。
「はい。邪魔な六騎士は今、“私”を除いて首都内には一人もおりません・・・」
周りを見れば誰もいない裏路地・・・。
まるで頭の中に響いているかのような妖しい声に、ウイットは何も不思議がることなく会話をしはじめた。
『アギト・フェンリルが首都近郊に出向いていたのは幸いだった。バルムンクは奪われたが、邪魔なウィル・メッセンジャーを始末してくれたのはこちらにとって大きなメリットだ』
「左様です。ウィルに大した魔物ではないと、“私自ら討伐を手筈した”甲斐がありました。頭に血が昇ったマイトをも片づけてくれたのはうれしい誤算ですな・・・」
くつくつと姿が見えぬ声の主は嗤いながらウイットに言葉をかえす。
『字無しという予期せぬ猛者の存在はあるが、首尾は程よく進んでいる・・・。思えば瞬き一つのように短く、拷問を受けているかのように永く感じる時間だった・・・』
「時は来ましたな・・・。貴方様の存在が今、再びこの世には必要なのです。かつてミッドガルドを統べていたあの時のように。腐敗しきったこの弱者達の争う乱世に君臨する真の支配者が・・・」
『・・・・・・・』
「人、魔物、半妖、全てをまとめ上げ統括すべき神に最も近い存在。主よ・・・好機は今かと・・・」
『無論だ。今宵、俺は甦る・・・。偽りの平穏を破り、己の身体を取り戻す・・・後は邪魔な教皇を始末するのみだ・・・ウイット・・・いや、”強き小人、アルぺリヒ”よ。力を貸せ・・・』
「仰せのままに・・・」
水面下で暗躍が蠢いていることなど、教皇はおろか、ミッドガルド中の者たちは今起こっている公の戦争に夢中で誰も気づくことは叶わない。
ウイットは、響き渡る声を聞き届けた後、課せられた命を実行しようとその場を後にした。
首都を覆う防壁を前に、字無しは息を一つ吐くと自分の背に控えている大軍を見渡した。
その血に飢えた壮大な軍隊を前に微笑を浮かべ剣を掲げる。
そして進撃の合図となる咆哮をあげた。
「怒りに満ちた猛者達よ。敵はもう目の前だ!」
憎しみに燃える者、果敢に名を上げようとする者、教会の方針に愛想が尽き寝返った者、理由は様々だが、目的は一つ。
「思う存分胸に秘めたものを解放しろ!奪われたものを奪い返せ!見下してきた奴らを引きづり降ろせ!時代を変えるのは今しかない!」
現支配者・・・世界の教会の・・・完全なる抹消。
「お前達の時代を創れ!」
その言葉を皮切りに、字無し率いるリベリオンは怒号の如き咆哮を上げ進撃を開始した。
待ちうけるのは教会の騎士団率いる軍団兵達、しかしその数はリベリオンの兵力に到底及ばない。
まるで紙切れのように、巨万の大軍が教会の軍を葬り去っていく。
初めから勝負にならないことはだれの目から見ても明らかだった。
しかし、教会の騎士達の中で唯一、大軍に飲まれずに抗っている者がいた。
その騎士は小柄な少年で、身体の一部をあるものに変化させて襲い来るリベリオンの戦士達を薙ぎ払っていた。
一通りリベリオンの兵達を片づけると、少年は黒馬にまたがり、興味深そうにこちらを見下ろす字無しを青い瞳で射抜く。
「高みの見物なんてやめて、僕と勝負しようよ・・・天下の侍さん」
そして、変化させた翡翠色の鉤爪のような腕を字無しに向けてそう言い放った。
「その腕・・・貴様も半妖か?」
字無しは目の前の少年を見て、若干だが驚きの表情を隠せなかった。
なぜならその少年の禍々しい腕は自分もよく見慣れている“あの鉤爪そのもの”に間違いなかったからだ。
「僕に勝ったら教えてあげるよ」
自信過剰に言い放った少年に、字無しも再び微笑を浮かべて答える。
「ならちょうどいい・・・。聞きたい事が何点かある」
そして負けず劣らず余裕な態度で返し、馬から飛翔し、少年の前に降り立った。
少年、六騎士アング・メッセンジャーは、地上の覇者“ドラゴンの鉤爪”で宙を切り、雷龍を迎え撃つ。
双方は確実に死闘になるであろう、これからの立ちあいに闘志を震わせ、笑みを浮かべた。
14/11/20 21:06更新 / ポン太
戻る
次へ