アギト・フェンリル
字無しが立ち上げた革命軍リベリオンは、亡者達の覇気を存分に震わせ、世界各地でその猛威を振るった。
最初は百にも満たなかった集団が、一月も満たないうちに、三十万を超える大軍隊へと変貌を遂げる。
その急成長の理由は、怒りに塗れた亡者達の復讐心と、どんな屈強にも負けないハングリー精神、極めつけは神にもっとも近い力を手にした字無しのカリスマ性にあった。
ミッドガル各地で起こる、奴隷や囚人達の反乱。
魔物、人問わず、それを迎え入れる革命軍。
そこに種族の壁などない、彼等の心にあるのは復讐という負の感情だけだ。
すでに、リベリオンは全部隊を召集させ、北欧の大陸まで乗り込んでいた。
「総統!出発の準備が整いました!」
一人の若者が、字無しに向かって声を掛ける。
「よし・・・。これより、首都へと向かう。教会に殴りこむぞ!」
黒馬に乗馬したまま字無しは剣を掲げると、その同志達は喚起の雄たけびを上げた。
時は熟した・・・いざ、出陣の時!
団体・・・否・・・軍団の志気は最高潮に達していた。
「教皇様!」
扉がノックされることもなく、慌しく使いの兵が教皇の執務室へと駆け込む。
その無礼な行動に、エリュシオンは、手元の書類から目を離し、その兵を睨み付けた。
「・・・何事です?」
「く・・・件の、字無し率いる反乱軍が、大勢力を率いて此方に向かっております!最早、この大聖堂に到達するのも時間の問題かと!」
早口に捲くし立てる兵に対し、エリュシオンは静かな答えで返答する。
「反乱軍?落ち着くのです。敵の数は?」
しかし、次に出た兵士の言葉に、その余裕はすぐに消えることとなる。
「はっ、現在確認できた数はざっと三十万・・・まだ未確認の所も含めればまだまだ数は増えるかと・・・!」
「三十万・・・ですって!?もはや、大陸を陥とすほどの大軍・・・。どうやって、そこまでの勢力を・・・こちらの現勢力は!?」
これには、流石の教皇も大声を上げずにはいられなかった。
すぐさま、兵士に現勢力の確認を促す。
「大陸全土にいる部隊を含めましても、十五万になるかならないかです!
仮に、ミッドガルド中の部隊を引き戻しても、三十万を超えるかどうか・・・」
エリュシオンは、整端な顔を引きつらせ、驚愕する。
バルムンク奪還に精を出していたため、各国で起きている、囚人や奴隷達の反乱の件を疎かにしていたのがここで尾を引く羽目になったのだ。
「今すぐ全部隊を首都に召集し、臨戦態勢に!おそらく、援軍が来るまで篭城することになるでしょう。早急に対策を立てるのです!」
「はっ!それと、余談ですが、ウィル隊長から例の剣を奪った者の正体がわかりました」
「例の剣の!?盗んだ者は何者ですか?」
バルムンクを奪った犯人の情報に、エリュシオンはすぐさま反応する。
「黒狼アギト・フェンリル。現魔王軍の元帥です」
なんということだ・・・。
その名を聴いた瞬間、エリュシオンは、頭を抱え込んだ。
世界の教会にとって、現段階の状況は最悪という言葉が相応しい。
魔王軍・・・。世界の教会の最大の敵であり、唯一教会に対抗できた勢力でもある。
殆どの人員が、亜人や魔物で構成されており、教会同様、ミッドガルド各地でその組織は存在する。
その魔王軍元帥となる、アギト・フェンリルの名はミッドガルド各国全てに響き渡るほど有名であった。
その二つ名は様々である
血に飢えた黒狼、
神に届く牙、
戦場の魔神、
いずれにしろ仰々しいものばかりだ。
魔王軍元帥は、全ての魔物を統括し、指揮する権限を現魔王から与えられた、魔界最強の武道派。
無論、力だけでなく、頭もきれる相当な実力者しかその座につくことが出来ない。
戦場で、アギト・フェンリルに出会い、命からがら逃げ延びた誰しもが、その凶悪な力に恐れおののき、彼女に様々な二つ名を与えていたことが容易に想像できる。
そのアギト・フェンリルに龍剣バルムンクが渡ったとなれば、教会全土を揺るがす大惨事になることが目に見えていた。
六騎士隊長であるウィル・メッセンジャーが、一個団体ごと抹殺された理由も、これで理解できる。
「主よ・・・どうか、我等に希望を・・・」
教皇エリュシオンはそう言葉を吐き出すしかなかった。
首都から少し離れた山岳地帯・・・。
そこに、一人の獣人の姿があった。
他ならぬ、覇者アギト・フェンリルである。
彼女は長い黒髪を風にまかせて、首都を一望していた。
「元帥殿!」
そこに、密偵である部下が片膝をつきながら、彼女に声を掛ける。
彼女はその様子に、振り向くこともなく、ただ問いを投げかけた。
「首尾は?」
「順調です。彼の、字無し率いる反乱軍が、三十万もの大軍を率いて首都に向かっております」
密偵の返答に満足したのだろう、彼女は口元に僅かな笑みを浮かべた。
「ふむ・・・。引き続き、監視を怠るな・・・。獲物を逃さないようにね・・・」
「承知致しました!」
そう答えると、密偵はすぐさま、愛馬にまたがり、山岳を後にする。
「今は“字無し”と名乗っているのか・・・。あの時、私が与えた名前を使っていないとは・・・お仕置きが必要だね・・・。ファング・・・“ファング・フェンリル”よ・・・」
べろり、と狼人特有の長い舌で唇をなめずる。
その瞳は、紅く、赤く、血の色の様に輝いていた。
最初は百にも満たなかった集団が、一月も満たないうちに、三十万を超える大軍隊へと変貌を遂げる。
その急成長の理由は、怒りに塗れた亡者達の復讐心と、どんな屈強にも負けないハングリー精神、極めつけは神にもっとも近い力を手にした字無しのカリスマ性にあった。
ミッドガル各地で起こる、奴隷や囚人達の反乱。
魔物、人問わず、それを迎え入れる革命軍。
そこに種族の壁などない、彼等の心にあるのは復讐という負の感情だけだ。
すでに、リベリオンは全部隊を召集させ、北欧の大陸まで乗り込んでいた。
「総統!出発の準備が整いました!」
一人の若者が、字無しに向かって声を掛ける。
「よし・・・。これより、首都へと向かう。教会に殴りこむぞ!」
黒馬に乗馬したまま字無しは剣を掲げると、その同志達は喚起の雄たけびを上げた。
時は熟した・・・いざ、出陣の時!
団体・・・否・・・軍団の志気は最高潮に達していた。
「教皇様!」
扉がノックされることもなく、慌しく使いの兵が教皇の執務室へと駆け込む。
その無礼な行動に、エリュシオンは、手元の書類から目を離し、その兵を睨み付けた。
「・・・何事です?」
「く・・・件の、字無し率いる反乱軍が、大勢力を率いて此方に向かっております!最早、この大聖堂に到達するのも時間の問題かと!」
早口に捲くし立てる兵に対し、エリュシオンは静かな答えで返答する。
「反乱軍?落ち着くのです。敵の数は?」
しかし、次に出た兵士の言葉に、その余裕はすぐに消えることとなる。
「はっ、現在確認できた数はざっと三十万・・・まだ未確認の所も含めればまだまだ数は増えるかと・・・!」
「三十万・・・ですって!?もはや、大陸を陥とすほどの大軍・・・。どうやって、そこまでの勢力を・・・こちらの現勢力は!?」
これには、流石の教皇も大声を上げずにはいられなかった。
すぐさま、兵士に現勢力の確認を促す。
「大陸全土にいる部隊を含めましても、十五万になるかならないかです!
仮に、ミッドガルド中の部隊を引き戻しても、三十万を超えるかどうか・・・」
エリュシオンは、整端な顔を引きつらせ、驚愕する。
バルムンク奪還に精を出していたため、各国で起きている、囚人や奴隷達の反乱の件を疎かにしていたのがここで尾を引く羽目になったのだ。
「今すぐ全部隊を首都に召集し、臨戦態勢に!おそらく、援軍が来るまで篭城することになるでしょう。早急に対策を立てるのです!」
「はっ!それと、余談ですが、ウィル隊長から例の剣を奪った者の正体がわかりました」
「例の剣の!?盗んだ者は何者ですか?」
バルムンクを奪った犯人の情報に、エリュシオンはすぐさま反応する。
「黒狼アギト・フェンリル。現魔王軍の元帥です」
なんということだ・・・。
その名を聴いた瞬間、エリュシオンは、頭を抱え込んだ。
世界の教会にとって、現段階の状況は最悪という言葉が相応しい。
魔王軍・・・。世界の教会の最大の敵であり、唯一教会に対抗できた勢力でもある。
殆どの人員が、亜人や魔物で構成されており、教会同様、ミッドガルド各地でその組織は存在する。
その魔王軍元帥となる、アギト・フェンリルの名はミッドガルド各国全てに響き渡るほど有名であった。
その二つ名は様々である
血に飢えた黒狼、
神に届く牙、
戦場の魔神、
いずれにしろ仰々しいものばかりだ。
魔王軍元帥は、全ての魔物を統括し、指揮する権限を現魔王から与えられた、魔界最強の武道派。
無論、力だけでなく、頭もきれる相当な実力者しかその座につくことが出来ない。
戦場で、アギト・フェンリルに出会い、命からがら逃げ延びた誰しもが、その凶悪な力に恐れおののき、彼女に様々な二つ名を与えていたことが容易に想像できる。
そのアギト・フェンリルに龍剣バルムンクが渡ったとなれば、教会全土を揺るがす大惨事になることが目に見えていた。
六騎士隊長であるウィル・メッセンジャーが、一個団体ごと抹殺された理由も、これで理解できる。
「主よ・・・どうか、我等に希望を・・・」
教皇エリュシオンはそう言葉を吐き出すしかなかった。
首都から少し離れた山岳地帯・・・。
そこに、一人の獣人の姿があった。
他ならぬ、覇者アギト・フェンリルである。
彼女は長い黒髪を風にまかせて、首都を一望していた。
「元帥殿!」
そこに、密偵である部下が片膝をつきながら、彼女に声を掛ける。
彼女はその様子に、振り向くこともなく、ただ問いを投げかけた。
「首尾は?」
「順調です。彼の、字無し率いる反乱軍が、三十万もの大軍を率いて首都に向かっております」
密偵の返答に満足したのだろう、彼女は口元に僅かな笑みを浮かべた。
「ふむ・・・。引き続き、監視を怠るな・・・。獲物を逃さないようにね・・・」
「承知致しました!」
そう答えると、密偵はすぐさま、愛馬にまたがり、山岳を後にする。
「今は“字無し”と名乗っているのか・・・。あの時、私が与えた名前を使っていないとは・・・お仕置きが必要だね・・・。ファング・・・“ファング・フェンリル”よ・・・」
べろり、と狼人特有の長い舌で唇をなめずる。
その瞳は、紅く、赤く、血の色の様に輝いていた。
12/10/04 22:41更新 / ポン太
戻る
次へ