連載小説
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リベリオン
「大変です!教皇様!」


「何事です・・・?」


世界の大聖堂の教皇が職務をする一室に、伝令の兵が慌てながら駆け込んでくる。

その様子にエリュシオンは眉間に皺を寄せて、手元にある書類を静かに机の上におろした。

「六騎士団長ウィル・メッセンジャー殿が率いる一個団隊が何者かによって殲滅させられました!」

「!?」

しかし、伝令の話を聞いた途端、エリュシオンの顔は瞬く間に驚愕の表情へとかわる。


「生存者はいないのですか?」


彼女は答える。あくまで世界の教皇らしく、冷静に・・・。


「それが・・・残念ながら・・・。首都の外れにあたる南の平地に魔物が出たという情報があったので、すぐさまウィル殿率いる第一団体が討伐に向かわれたのですが、三日以上音沙汰も無く、様子を伺いに行ったところ平地には血みどろになった騎士達の亡骸の山しかなく、生存者は存在致しませんでした。
ウィル殿は騎士達の亡骸の山頂に、心の臓を鋼の剣で貫かれ、寝かされていました」


「まさか・・・ウィルが・・・?ウィルが所持していた大剣は!?」


伝令の凄惨な話に、エリュシオンは流石に冷静を保ちきれず、バルムンクの居場所を問う。

「はあ・・・?剣ですか・・・それが、ウィル殿の所持していた武器は何処を探しても見つかりません。おそらく、敵の手に渡ったものかと・・・」


死に絶えた同士達の事より、一個人が所持する剣の事を聞かれた伝令は疑問に思いながらも、教皇の問いにそう答える。

「今すぐ諜報部隊を編成し、ウィル達を抹殺した魔物について少しでも多く情報を集めるのです!それと、残りの六騎士達をここに!」

「は・・・はいっ!承知しました!」


エリュシオンから命を受けた伝令の騎士は、瞬く間に、教皇の執務室を後にした。


「拙いことになりました・・・。世界が揺れますよ、これは・・・!」


真っ白な法衣を纏った、教皇は、親指の爪を齧りながらそう呟いた。






遥か東方の大陸、名も無き侍、字無しは、とある策略を頭の中で巡らせていた。

いくら自分が不死身の身体だろうと、単体で世界の教会に殴りこむのは異常を通り越して愚者に等しい。

そこで、彼は人、魔物に関係なく、囚人や奴隷を開放して自分を中心とした反乱軍を築き上げようと目論んでいた。


その先駆けとなる場所がここ、ジパングにある最大の都に存在する牢獄城である。

ここには、悪さをした囚人や、朝廷の政治に反発した者達が、人、魔物関係なく拷問や肉体労働を強要されていた。


字無しは、まるで臆することも無く、堂々と門番が仁王立ちする入り口へと歩み寄り、彼らにこう言い放った。

「・・・そこをどいてもらおう」


「何だ!?貴様は・・・」


「田舎侍がずいぶん舐めた態度だ!この牢獄に放り込んでやる」


不審者である字無しのこの言葉に、屈強そうな体つきをした二人の門番は刀を抜き同時に彼に切りかかる。

しかし、瞬時に放たれたまばゆい轟音と共に、その巨体が紙屑のように吹き飛ばされ、後ろの巨大な門を突き破る形となった。


その突き破られた門を威風堂々と通る字無し。


「敵襲だああああああぁっ!!」


これと同時に、蟻の大群の様にわらわらと雑兵達が湧き出てくる。


字無しは面倒臭そうに、鞘から剣を抜き、瞬時に刃を一振りした。


その一振りが生み出した稲妻は瞬く間に放電し、襲い来る何人もの兵を感電させ、燃やしつくそうと、衣服に発火し始める。

「なんだ!?これは!!」

「ぎゃああああぁああっ!!」

「あついいいいいぃっ!?」

すぐさま牢獄は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わる。

兵達の悲鳴を無視し、すぐさま字無しは囚人達が居る牢屋へと向かった。


あらかたこの牢獄の見張り達を片付け、牢屋へと辿り着く。


そこには、絶望に打ちひしがれた人や魔物がゴミのように狭い座敷牢に収納されていた。


「あんたは何者だ?見張りはどうした?」


そんな中、字無しの存在に気づいた囚人の男が彼に声を掛ける。

字無しはその囚人にたいして、否牢屋に居る者達全てに聞こえるようにこう答えた。

「お前達、此処から出たくは無いか?」

「「!?」」


ざわざわと、囚人達は声を上げ、字無しの問いに困惑する。

「それって、どういう・・・」

「言ったとおりだ・・・貴様らを開放してやる」

囚人の魔物の一人がそう問いかけようとした瞬間、字無しがはっきりと答える。


「何が狙いだ?そもそもアンタ何者なんだ?」

疑心を抱いた男が、またもや字無しに質問を投げかけた。

「俺か?名が無い為、世間からは字無しと呼ばれている。目的はこの世界を混沌に陥れる同士が欲しい・・・」


字無しの噂を見張りの兵から盗み聞いていた囚人の何名かが驚愕する。


「字無しっていうと、今世間を騒がせている略奪者か!?」


「同士だって?」


狼狽する囚人達に向かって、不適に笑みながら字無しは言葉を紡いだ。


「そうだ、悔しくは無いか?無能な朝廷や教会に意見を申しただけでこの処遇・・・。家族、財産、夢、全てを奪われこの様な地獄に幽閉され、労働を強要され・・・。挙句の果てには命まで奪われる・・・この様な世の中にした世界に、復讐をしたくは無いか?」


字無しの話に深く聞き入るようになった囚人達は一人また一人と心の奥にたまった復讐心を燃え上がらせていく。

「おお、そうだ!俺は役人に濡れ衣を着せられ家、家族、夢まで失った!俺はこの世が憎い!元凶がいるなら全てを奪ったそいつらをくびり殺したい!」

「俺は教会の連中にコケにされ、朝廷に裁判を申し込んでも何もしてくれなかった。あろう事が、奴らは自分達朝廷と教会の友好条約を保つために、見せしめとして俺をこの牢獄にぶち込みやがった!絶対に許しちゃおけねえ!」



「朝廷は世界の教会との仲違いのおかげで壊滅状態って聞いたぜ?これを機に一矢報いてやれねえかな?」


様々な負の感情が交錯するも、皆復讐における感情は強いようだ。

字無しはこれを利用しようと目論み叫ぶ。

「全てを失った敗北者達よ!今一度、その負の怨念を掲げ、この俺と共に世界に復讐をしてみないか?この誇りを失ったジパングの役人共を蹴散らし、侵略者である世界の教会を抹消する組織を創り上げてみないか!?」


その言葉は全てを失った囚人達にとってあまりにも甘美な誘い文句であった。

「俺も奴らに全てを奪われた!!失うものは何も無い!俺には力がある!だが、俺一人では彼の強欲に・・・世界のエゴに対応するには骨が折れる。
ここに共に戦う同士はいないか!?復讐心にまみれ、飢えた獣の様に奴らから奪われた物を奪い返す信念を掲げた猛者はいないか!?」

字無しの熱の篭った演説は加速する。

「奴らに勝てば俺達の自由だ!なにをするにも思うが侭だ!この狭い牢獄から繋がれた鎖を断ち切り共に戦う勇者はいないのか!?どちらにせよ此処からは出してやる!臆病者には興味が無い!勝手に何処にでも去るがいい!まあ、此処から逃げた囚人に居場所などあればの話だがな!」


彼がそういい終えて数秒後・・・

「俺は行くぜ・・・。あんたについて行く」

「俺もだ!奴らに思い知らせてやる!」

「私もだ。どうせ帰る場所は無い。ならば新たな運命に身を任せよう!」


次々と囚人たちは字無しについていく意思を見せる。

「決まりだな!リベリオン(革命軍)の旗揚げだ!」

字無しがそう叫び、剣を抜くと同時に、牢屋の格子が雷撃により、爆ぜる。

その勇ましく堂々とした出で立ちに囚人達・・・否、革命者達は喚起の雄たけびを上げた。







黒龍が住まう古城の夜・・・。

城の主は自室にて、かつて男を監禁した巨大なベッドに身を沈めていた。

長い銀髪の美しい麗人は、もうかなり薄くなってしまった彼の者の残り香を嗅いだままひたすら自慰に耽る。

「はあっ、はあっ・・・。字無・・・あざなぁああっ!!」


居もしない男の残り香を必死に取り込もうと、枕に美しい顔を押し付け、ひたすらに呼吸を繰り返す。


そして、甲殻の隙間から漏れた愛液が夥しいほど流れ落ち、シーツを塗らした。

「欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しいいいいぃっ!!」

やがて、抑えきれない欲求が言葉になり悲鳴へと変わる。

びちゃり、びちゃり、びちゃり、びちゃ、びちゃ、びちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃぁっ!


悲鳴を無理やり隠すかのように、艶やかな唇から這い出た、粘液にまみれた舌で枕を舐めまわす。

あっという間に、枕は彼女の唾液にまみれ、水分を含み重たくなる。


黒龍は、彼女は妄想していた。彼の者との接吻を。

あの情熱的に求め犯した字無しとの情事を・・・。

「クフフ・・・フフフフフフ!」

枕をしゃぶり終わると、埋めていた顔を起こし、長い舌で唾液塗れの口元をなめずる。

そして、黒狼と同じ紅い瞳を、窓に映る月に向けた。

「もう少しだ、もう少しで・・・。待っていろ字無・・・。もうすぐ向かえが行くからな」



その笑みは女神の様に美しく、悪魔のように残虐で・・・。





見るもの全てに狂気を抱かせた。




12/01/05 22:57更新 / ポン太
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■作者メッセージ
長々と、すんません。うまくまとめられるように努力します。

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