連載小説
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バルムンク
「それで、ジパングは朝廷を失い、黒龍はその何者かにより撃退されたと・・・例の神剣を使って・・・」

「・・・もうしわけありません」

“字無し”によって神剣奪還の任務を阻害された、六騎士ウィルは、世界の教会の大聖堂にて、“教皇エリュシオン”へ任務の報告を行っていた。


「謝る事などありません。貴方は最善な行動を取りました。六騎士の中でも豪腕と呼ばれるマイトを一撃で倒すほどの力を持っている猛者・・・おそらく貴方達が束になっても勝てる相手ではないでしょう」

「まったくじゃ。神剣を使ったとはいえ、ニーズヘッグすら撃退しちまうような相手に瀕死のマイトをつれて帰ってきただけでも大したもんじゃい」

教皇とウィルの間に眼帯をした老齢の男がその長く白い顎鬚を扱きながら口を挟む。

「ほんとだよ。ただでさえ六騎士の内二人は黒龍に殺されちゃって人手が足りないときにマイトの馬鹿さえいなくなっちゃったらもうたまんないよ!」


さらに、金髪の幼い少年が老人に続けて陽気にそう答えた。

「アイズとヴォイスについては残念であるとしか言いようがありません。まさか、古城に住み着いた龍が、かの龍神ニーズヘッグだったとは・・・。私の浅はかな選択で優秀な六騎士を二人も失ってしまいました」

教皇エリュシオンが悲観混じりにそう呟くと、残された六騎士達は主に対して罪悪感を感じずにはいられなかった。

すべては自分達の力が及ばずに起こってしまったこれまでの経緯。

自らが狂信する彼女に・・・神の代弁者に応えることができなかった自分達の
誠意。

民を守ることから始まった教えはいつの間にか総てを秩序という言葉で統治する楔となり始めている事に、熱心な“彼等”(信者)は気づいてはいない。


「いずれにしろニーズヘッグを討伐するには、ジパング出身の名も無き侍・・・。まずは彼の居場所をつきとめて神剣を押収するのが重要な鍵となるでしょう。少しでも多くの情報を集めるのです」


「「承知!!」」


残された四人の六騎士と、教皇による会談は終わりを告げる。

「ウィルは残りなさい、私から話があります」

すぐさま“字無し”の情報を集めようと、職務に戻ろうとしたウィルに、教皇は声を掛ける。

他の騎士達は、騎士隊長であるウィルと今後の展開を話し合うのだろうと思い、気にもとめずに職務へと就いた。


「教皇殿・・・」

「ウィル・・・貴方には他にやってもらう事があります」

「なんでしょうか・・・。一刻も早く字無しの情報を集めることが先決なのでは・・・?」


教皇直々の呼び止めにより、ウィルは不可解な声をあげる。

「その点に関しては他の騎士たちに任せましょう。これはおそらく六騎士の隊長である貴方にしかできない事です・・・」

いつも以上に真剣な剣幕で語る教皇に対し、その重大さを悟ったウィルは、片膝を地に付けて、忠誠のポーズをとった。

「・・・なんなりとご命令ください」

「ありがとう。ウィル・・・では私の後に続いて来て下さい」

すぐさま堅実な彼は立ち上がると、歩き始めた教皇の後に続く。

教皇以外立ち入りが禁止されている開かずの間を開き、長い螺旋状の階段を降りると地下室へと続く扉にたどり着いた。


まるで何かを厳重に保管しているかの様に、扉には何重にも鎖が掛かっている。

「ここは?」

そもそも大聖堂の真下にこの様な地下室自体があったことすら知らなかったウィルは多少驚きつつもそう答えた。

「貴方は“龍剣バルムンク”をご存知ですか?」


「バルムンク・・・。遥か昔、北欧を駆け抜けた龍殺しの英雄ジーク・フリートが所持していた剣・・・。それを振るえば轟音と共に使用者を勝利へと導くとか・・・」

「そう・・・その龍剣バルムンクがこの城に存在するとしたら?」

「まさか・・・!?あれは単なる御伽話では・・・?」

噂や伝説だと思っていた武器の存在に、驚愕するウィル。

「真実はこの扉の先にあります・・・」

エリュシオンは、まるで彼を誘うかの様に、その扉に掛けられた錠を解く。

重々しい錠が解かれ、軋みながら扉は開けられると、暗い地下室の奥に一際紅く輝いている一振りの剣がその存在を誇張していた。

まるで、誰かを待っていたかのように・・・。


「ウィル・メッセンジャー・・・貴方にこの剣を使い、黒龍を討伐する使命を与えます!!」

エリュシオンの命令に、ウィルは笑みを浮かべてこう答えた。

「神に誓って・・・」









所変わって、ここはとある古城。
黒龍ニーズヘッグの住処、ここにとある訪問者が来訪していた。

「お久しぶりです。我が主・・・」

玉座に腰掛ける黒龍に平伏すは、まるで透き通るかの様に白い肌に長く艶のある黒髪から獣のような耳を生やした長身の美女・・・。


その美しい肌を覆うように漆黒の鎧を身に纏い、まるで騎士の様ないでたちをしている。

「帰ったか・・・。我が“アギト”よ・・・。顔を上げるがいい・・・」

「ハッ・・・!」

表を上げることを許された獣人の女は、久しく聞いた主の声に顔を上げる。

するとその目に信じられないものが映りこんだ。

「主様・・・!そのお顔の傷はっ!?」

彼女が目にしたのは、自分の主である黒龍ニーズヘッグの右瞼についた刀傷。そう・・・彼の男につけられた忌まわしきも愛しい傷跡・・・。

「これか・・・なに、大したことは無い・・・。私が受けた心の傷に比べればな・・・」


「心の傷?」

獣人の女・・・黒狼の獣人アギトは困惑していた。

今現在、総ての頂点に立つこの黒龍に、傷を負わせることができる者がいる事実に・・・。

更には主が、まるで恥らう乙女の様にその傷を撫でている様子に。


「私はお前たちが居ぬ間に一人の雄に恋をした・・・」

「!?」

驚きを隠せぬアギトを前に、ニーズヘッグは言葉を紡ぐ。

「私もこの心がなんなのか・・・最初は気づかなかった。だが、日々が重なるごとに、この気持ちがなんなのか・・・少しずつ理解出来る様になった。どこにも逃がさず・・・。永遠をつかい愛し続け、加速していく独占欲・・・」

彼女は玉座を立ち、窓から曇天の空を見上げる。

銀色の長髪を靡かせるその姿はどんな麗人よりも美しく・・・。

「これこそ愛だ・・・」


狂気に・・・。


「なぜ・・・なぜ私から逃げ出した・・・。字無。こんなに愛しているのに」


満ちていた・・・。


「アギト!」

「・・・ハッ!」

突如呼ばれた名に応えるアギト・・・。

彼女は怯えていた。

目の前の主が愛という狂気に満ちている様子に・・・。

「情報をやる・・・。彼の者を捕らえよ・・・。どんな手段を講じてもかまわぬ・・・かならずだ!もし、しくじったら・・・」

その麗しくも狂気に満ちた顔をアギトの方に向ける。








「明日は無いと思え」












「・・・かならずや期待にそえてみせましょう」


黒龍の凄まじい圧力に、彼女は悪寒を感じながらそう応えるしかなかった。
12/07/10 23:02更新 / ポン太
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■作者メッセージ
はい、魔物娘あんまり出てきてません。すいません。これからがんがん出していくんで許してください。前作に続き駄文ですががんばります。

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