荒れた山にはゴブリン団
現在地-荒野-詳細不明
俺は今、地図を見ながら唸っていた。
おかしい…首都に行くには草原を歩かなければならないのに何時の間にかこんな荒野に来てしまった。
もしかして南側の荒野に入ってしまったのか?いや、ちゃんと左前方に進んでいたはず…。
「この地図間違ってる!」
「間違ってるのはアンタの頭だぁああああああ!」
ガィン!という音と共に頭を凄い衝撃が貫いた。
多分仲間になったミノタウロスのアノンが斧の側面で頭を叩いたせいだ。
「いだだだだだぁ!?」
あまりの鈍痛に叩かれた部分を両手で押さえて地面を転がる。
痛い痛い!地面の小石が背中に刺さって痛い!頭も痛い!
「首都に行くって聞いてたけどどんどん荒野に向かってって、何か考えでもあるのかと思ったら純粋に迷っただけかい!?」
「ち、違う!あそこから首都は北西に向かえばあったからちゃんと北西に…そう、左前方に進んでいたんだ!」
「だからそれ違うって言ってるだろう!?」
こんな感じでギャーギャー言い争っているが、確かに良く考えてみれば荒野に居るのだから南下してしまったのだろう…。
「…それじゃあ首都は諦めるか」
残念だが仕方が無いな。
「そんなに簡単に諦めていいのかい?用があったんじゃ?」
「別に。俺は当てのない旅をしてるだけだから、面白そうな事があればそれでいいのさ」
「当てのない旅って…アタシらミノタウロスが言えた義理じゃないけど随分適当だね」
適当でいいのさ。
元々この世界に呼び出されたのも偶然で何するかなんて決まってないんだし。
再び地図を見て近くに町がないか確認する。
ここから南に向かうと荒れた山岳地帯で、山を二つ程越えると町がある。
その更に南には砂漠があり、その砂漠の途中に国境があり、更に南下すると海にたどり着き、港町がある。
その港町で補給してから海沿いに東にでも向かうか…そうだ、ジパングでも目指すか。
旅プラン、南に向かう→山を越える→町で準備する→砂漠に入る→国境を越える→港町で補給する→東へ向かう→ジパングにGO!
カ・ン・ペ・キ!
「と言うわけであの山を越えるぞ」
「どう言うわけさ?」
「まあどんどん南下してって砂漠も越えて、港まで行って海沿いに東に向かうんだ」
「まあ当てがないなら別にいいけどさ…」
「じゃ、出発だ」
そうんなこんなで俺とアノンは荒れ果てた大きな山に向けて足を進めた。
現在地-一つ目の荒れ果てた山-登り途中
俺とアノンは足場の悪い荒れた山を登る。
ザッザッザ…
コソコソ…
登る。
ザッザッザッザ…
コソコソコソ…
…登る。
ザッザッザッザッザ…
コソコソコソコソ…
さっきかっら後ろをつけてくる小さな女の子がいるんだが…。
さっきから白い布を被って身を覆ったりして隠れたつもりになっている。
しかも三人。
一人目は赤く短い髪の毛に、子供体系、頭に二本の角が付いている。
二人目は桃色の髪の毛で他の二人よりもう一回り身長が小さく、一人目同様角が付いて、幼児体系。
三人目はオレンジ色の髪で頭に角も付いているが片角が途中から折れている。同じく幼児体系。
今は三人纏めて俺の腰くらいの高さの岩の陰に隠れている。
「…なあアノン、あれって…」
「ゴブリンだね、大方アタシ等を襲って身包み剥いで男のセンを連れてって犯す気なんだろうさ」
センなら大丈夫だろうけどねと言って先に行ってしまう。
俺は足を止めて岩を見続ける。
少し戻って岩の前に立つ。
「お、おい…ばれちまったんじゃないか?」
「かー?」
「そ、そんな筈は…」
「でもずっと見てるぞ?」
「ぞー?」
こんなにも近くにいるのに普通の声量で喋るのでまる聞こえだ。
岩を足蹴にする。
「ほいっ」
そのまま蹴って押す。
「え?」
「え?」
「えー?」
坂道なので重力に従いゴブリン三人を巻き込んで転がっていった。
「「「あぁあああああぁぁあああぁああぁあああぁああー!!!??」」」
「じゃあなー」
とりあえず手を振っておいた。
ゴロゴロ転がっていく岩とゴブリン達を背にアノンを追いかける事にした。
現在地-一つ目の荒れ果てた山-降り途中
…んー、上の方から気配を感じる…。
ゴロゴロゴロゴロ…
ん?なんかゴロゴロ聞こえるし。
後ろを振り返ってみるとさっき俺が蹴ってゴブリン達と一緒に転がっていった岩が今度は俺達に向かって転がってきた。
避けるか、これくらいの速度と大きさなら二歩も横にずれれば当たらないだろうし。
そして二歩横にずれると俺の横を通り過ぎていき、下のほうへ…。
下では、アノンが斧を振りかぶっていた。
「アンタ等…邪魔だよ!」
そして斧で岩を打つと、岩は吹き飛び、頂上付近まで飛んでいく。
僅かに頂上には届かず、再びこっちに転がってくるが、俺達の手前にはあのゴブリン達がいた。
「「「ぎにゃあああぁああああぁぁああああああ!!!???」」」
横にずれればいいのに、バカ正直に真っ直ぐ山を駆け下りていき、その後ろを岩が転がっている。
その内俺とアノンも通り過ぎ、麓近くでパッカーン!とボーリングのピンよろしく吹っ飛んだ。
「何しにきたんだあいつ等」
頭をかきながら呟くが、そのゴブリン達は目をクルクル回して気絶していた。
「ほら早く行くよ」
アノンは殆ど無視してるし。
現在地-二つ目の荒れ果てた山-降り途中洞窟
side赤髪ゴブリン
オッス!あたいの名はパノ!種族はゴブリンさ!
くっそー!あの人間とミノタウロス、中々やるなぁ!
「な、なぁ…もう止めといた方がいいんじゃないか…?」
オレンジ髪で片角のゴブリン…ウトが止める様に言ってくるがそんなの関係ねえ!
あたい等には男が必要なんだ!
「何言ってんだ!折角先回りしたんだから罠を仕掛けて襲っちまえばいい!」
「いいー!」
あたいに続いて幼い声を出すのは桃髪で成体のくせに頭も体も普通のゴブリンよりちっこいキャノだ。
「さあ!今度は突撃して襲ってみるんだ!武器を持てー!」
「持てー!」
洞窟の壁に立てかけておいた木造りの棍棒を肩に担ぐ。
先端は棘になるように彫ったから当たったら痛いぞコリャ。
「え?罠を仕掛けるんじゃ…」
「突撃ー!」
「撃ー!」
「あ、ちょ、ちょっとー!」
後ろでウトが何か言ってるけど関係ないね!あたいは絶対に男を捕まえてみせるんだ!
ドドドドドと砂煙を上げながら走る。
お、さっきの男とミノタウロスだ!もうこんな所まできやがったな!
向こうもこっちに気づいたみたいだし、武器を構えてる。
男の方は珍しい武器だな…足に刃が付いてる…。
ビビるな!姐御の為に男を連れて帰るんだ!
「今度は実力行使だ!そりゃそりゃそりゃー!」
棍棒を男に向けて振り回すけれど、アイツ結構素早くて一発も当たりやしない。
なら足を狙ってやると思って右足に向けて棍棒を振り下ろしたら、アイツ右足を後ろに下げて避けやがった!
棍棒は地面にめり込んで石を砕く。
「ほらっ!」
「あいたっ!?」
男の膝蹴りがあたいの額に入り、あたいは武器の棍棒ごと数歩下がる。
くっそ…なかなかやるじゃん。
「負けてたまるか!」
「るかー!」
あたいの後ろからキャノが飛び出して男に棍棒を振り下ろしたら、ミノタウロスが間に入って斧で防いじまった。
「アンタみたいな奴に用は無いよ!」
あたい等ゴブリンも体は小さいけど怪力を持ってるし、キャノはあたい等三人の中…いや、ゴブリンの中でも上の方の力を持っている。
でもやっぱりミノタウロスの怪力には敵わなく、弾き飛ばされていった。
「あ〜!」
「キャノ!」
キャノが地面に落ちたのであたいも一旦そこまで下がると後ろからウトがやって来た。
「大丈夫か?」
ウトがキャノに怪我がないか確認すると、キャノは首を縦に振ったので棍棒を肩に担ぎなおしてあいつ等に向き直る。
「やい!痛い目に合いたくなかったら男のお前!こっちに来い!」
あたいは忠告してやるけど男の方は苦笑いをしてミノタウロスの方は呆れた顔をしていた。
「不利なのはこっちだけどね…」
後ろからウトが呟くがそんなの関係ないね!
「うっさい!あたい等は姐御に男を連れて帰らなきゃいけないんだ!」
「呼んだ〜?」
「そう姐御…って姐御!?」
あたいが後ろを見るとそこにはゴブリンにはあまり見られない大きな胸に赤く短い髪、あたい達の姐御と慕うホブゴブリンのポムの姐御がいた…。
「姐御!家で大人しくしててって言ったじゃないっすか!」
「え〜…でも皆が居ないと暇だし…」
「あたい等は男を捕まえたらすぐ戻るって言ったでしょ!」
あたいが怒ると姐御はシュンとしおらしくなっちまった…。
「と、とにかく!あの男を連れて帰るからもうちょっと待っててくれ!」
そう言うとあたいは棍棒を振りかぶって男に向けて走る。
そして少し跳ぶと全力で振り下ろした!
でも男は軽くバックステップで後ろに下がって棍棒をかわした。
棍棒は地面にめり込み、遠心力…だっけ?それで前方に放り出された。
「っ!?」
あたいの体が宙に浮く。
このままだと地面に叩きつけられて麓まで転がっちまう…!
痛みを覚悟するけど、何時まで経っても痛みは来ない?
ゆっくり目を開けると、目の前には男の顔…ってアレ?何でこんな近くに…
「もう少し力加減考えて棍棒振れよ」
困ったような顔を向けてくると、不思議と顔が熱くなる…!
「あ〜、パノちゃんいいな〜。お姫様抱っこ〜」
「っこー!」
姐御に言われるまで気がつかなかったけれど、漸くあたいの状態がわかった…そう、姐御の言うお姫様抱っこという状態になってる。
あたいの姿を見て、姐御とキャノもこの男の足元に寄ってきた。
ウトは何だか状況に付いていけない感じみたいだ。
「ねぇねぇお兄さん、私もお姫様抱っこして〜」
「してー!」
「お、おい…ちょっと待て!」
男が止めろというのにも関わらず、姐御とキャノは男をよじ登り、キャノは肩車のように、姐御はあたいと男の間に割り込んできた。
「わぁ〜!お兄さん、近くで見るとカッコイイですね〜…ジュルリ」
「じゅるりー!」
「ジュルリって…いって!?」
男が急に大きな声を出した。
何かと思って辺りを確認すると、何時の間にか隣に来ていたミノタウロスが足で男の足を踏んでいた。
(な、何だか姐さんもキャノもパノもいいな…)
ウトが羨ましそうな目でこっちを見てくる…。
「あ、あの…僕も抱っこして貰っていいですか?」
ウトも男に上目遣いで頼む。
なんか、あたいもこうして抱かれてると安心するなぁ…。
「うえ!?ちょちょちょ、ちょっと待て!いでででっ!アノン足踏むな!肩の上で暴れるな!ちょ…いい加減にしろお前等ー!」
現在地-鉱山と戦いの町スーダン-山方面入り口
sideセン
俺達は一晩山で野宿してこの街にたどり着いた…。
それにしてもまた旅の仲間が増えちまったな。
え?誰の事かって?
そりゃあお前…
「兄貴!あたいが安い宿見つけてくるよ!」
「くるよー!」
「僕も探してきます!」
「私も行く〜!」
ゴブリンが三人とホブゴブリンが一人…。
あの後、結局和解して話を聞くと、こいつ等は最近までもっと多くの仲間と緑豊かな山に住んでいたらしいが、雨の日に起きた土砂崩れで多くの仲間を失ってしまったらしい。
それで新しい仲間を探すと共に繁殖の為に男を捜していたらしく、それが俺だったらしい。
話をしている内にこいつ等全員仲間を思い出して泣きそうになってたから…まあ慰めたんだよ。
んで懐かれて今に至る。
「おい!バラバラになるな!迷子になんぞー!」
妹が出来たみたいで少し楽しいと思ってるのは秘密だ。
「…ふんっ」
アノンは少し不機嫌だが…。
「機嫌直せよ」
「…」
顔を背けて返事も無しか。
「…今夜、アタシに付き合え」
「わーったよ」
拒否権なんて今の俺には無いだろう。
何故かは…自惚れでなければ予想は付くが…。
「とにかく、あいつ等追いかけるか」
そんなこんなで新しい仲間が加わり、俺の旅路は賑やかになってきた。
俺は今、地図を見ながら唸っていた。
おかしい…首都に行くには草原を歩かなければならないのに何時の間にかこんな荒野に来てしまった。
もしかして南側の荒野に入ってしまったのか?いや、ちゃんと左前方に進んでいたはず…。
「この地図間違ってる!」
「間違ってるのはアンタの頭だぁああああああ!」
ガィン!という音と共に頭を凄い衝撃が貫いた。
多分仲間になったミノタウロスのアノンが斧の側面で頭を叩いたせいだ。
「いだだだだだぁ!?」
あまりの鈍痛に叩かれた部分を両手で押さえて地面を転がる。
痛い痛い!地面の小石が背中に刺さって痛い!頭も痛い!
「首都に行くって聞いてたけどどんどん荒野に向かってって、何か考えでもあるのかと思ったら純粋に迷っただけかい!?」
「ち、違う!あそこから首都は北西に向かえばあったからちゃんと北西に…そう、左前方に進んでいたんだ!」
「だからそれ違うって言ってるだろう!?」
こんな感じでギャーギャー言い争っているが、確かに良く考えてみれば荒野に居るのだから南下してしまったのだろう…。
「…それじゃあ首都は諦めるか」
残念だが仕方が無いな。
「そんなに簡単に諦めていいのかい?用があったんじゃ?」
「別に。俺は当てのない旅をしてるだけだから、面白そうな事があればそれでいいのさ」
「当てのない旅って…アタシらミノタウロスが言えた義理じゃないけど随分適当だね」
適当でいいのさ。
元々この世界に呼び出されたのも偶然で何するかなんて決まってないんだし。
再び地図を見て近くに町がないか確認する。
ここから南に向かうと荒れた山岳地帯で、山を二つ程越えると町がある。
その更に南には砂漠があり、その砂漠の途中に国境があり、更に南下すると海にたどり着き、港町がある。
その港町で補給してから海沿いに東にでも向かうか…そうだ、ジパングでも目指すか。
旅プラン、南に向かう→山を越える→町で準備する→砂漠に入る→国境を越える→港町で補給する→東へ向かう→ジパングにGO!
カ・ン・ペ・キ!
「と言うわけであの山を越えるぞ」
「どう言うわけさ?」
「まあどんどん南下してって砂漠も越えて、港まで行って海沿いに東に向かうんだ」
「まあ当てがないなら別にいいけどさ…」
「じゃ、出発だ」
そうんなこんなで俺とアノンは荒れ果てた大きな山に向けて足を進めた。
現在地-一つ目の荒れ果てた山-登り途中
俺とアノンは足場の悪い荒れた山を登る。
ザッザッザ…
コソコソ…
登る。
ザッザッザッザ…
コソコソコソ…
…登る。
ザッザッザッザッザ…
コソコソコソコソ…
さっきかっら後ろをつけてくる小さな女の子がいるんだが…。
さっきから白い布を被って身を覆ったりして隠れたつもりになっている。
しかも三人。
一人目は赤く短い髪の毛に、子供体系、頭に二本の角が付いている。
二人目は桃色の髪の毛で他の二人よりもう一回り身長が小さく、一人目同様角が付いて、幼児体系。
三人目はオレンジ色の髪で頭に角も付いているが片角が途中から折れている。同じく幼児体系。
今は三人纏めて俺の腰くらいの高さの岩の陰に隠れている。
「…なあアノン、あれって…」
「ゴブリンだね、大方アタシ等を襲って身包み剥いで男のセンを連れてって犯す気なんだろうさ」
センなら大丈夫だろうけどねと言って先に行ってしまう。
俺は足を止めて岩を見続ける。
少し戻って岩の前に立つ。
「お、おい…ばれちまったんじゃないか?」
「かー?」
「そ、そんな筈は…」
「でもずっと見てるぞ?」
「ぞー?」
こんなにも近くにいるのに普通の声量で喋るのでまる聞こえだ。
岩を足蹴にする。
「ほいっ」
そのまま蹴って押す。
「え?」
「え?」
「えー?」
坂道なので重力に従いゴブリン三人を巻き込んで転がっていった。
「「「あぁあああああぁぁあああぁああぁあああぁああー!!!??」」」
「じゃあなー」
とりあえず手を振っておいた。
ゴロゴロ転がっていく岩とゴブリン達を背にアノンを追いかける事にした。
現在地-一つ目の荒れ果てた山-降り途中
…んー、上の方から気配を感じる…。
ゴロゴロゴロゴロ…
ん?なんかゴロゴロ聞こえるし。
後ろを振り返ってみるとさっき俺が蹴ってゴブリン達と一緒に転がっていった岩が今度は俺達に向かって転がってきた。
避けるか、これくらいの速度と大きさなら二歩も横にずれれば当たらないだろうし。
そして二歩横にずれると俺の横を通り過ぎていき、下のほうへ…。
下では、アノンが斧を振りかぶっていた。
「アンタ等…邪魔だよ!」
そして斧で岩を打つと、岩は吹き飛び、頂上付近まで飛んでいく。
僅かに頂上には届かず、再びこっちに転がってくるが、俺達の手前にはあのゴブリン達がいた。
「「「ぎにゃあああぁああああぁぁああああああ!!!???」」」
横にずれればいいのに、バカ正直に真っ直ぐ山を駆け下りていき、その後ろを岩が転がっている。
その内俺とアノンも通り過ぎ、麓近くでパッカーン!とボーリングのピンよろしく吹っ飛んだ。
「何しにきたんだあいつ等」
頭をかきながら呟くが、そのゴブリン達は目をクルクル回して気絶していた。
「ほら早く行くよ」
アノンは殆ど無視してるし。
現在地-二つ目の荒れ果てた山-降り途中洞窟
side赤髪ゴブリン
オッス!あたいの名はパノ!種族はゴブリンさ!
くっそー!あの人間とミノタウロス、中々やるなぁ!
「な、なぁ…もう止めといた方がいいんじゃないか…?」
オレンジ髪で片角のゴブリン…ウトが止める様に言ってくるがそんなの関係ねえ!
あたい等には男が必要なんだ!
「何言ってんだ!折角先回りしたんだから罠を仕掛けて襲っちまえばいい!」
「いいー!」
あたいに続いて幼い声を出すのは桃髪で成体のくせに頭も体も普通のゴブリンよりちっこいキャノだ。
「さあ!今度は突撃して襲ってみるんだ!武器を持てー!」
「持てー!」
洞窟の壁に立てかけておいた木造りの棍棒を肩に担ぐ。
先端は棘になるように彫ったから当たったら痛いぞコリャ。
「え?罠を仕掛けるんじゃ…」
「突撃ー!」
「撃ー!」
「あ、ちょ、ちょっとー!」
後ろでウトが何か言ってるけど関係ないね!あたいは絶対に男を捕まえてみせるんだ!
ドドドドドと砂煙を上げながら走る。
お、さっきの男とミノタウロスだ!もうこんな所まできやがったな!
向こうもこっちに気づいたみたいだし、武器を構えてる。
男の方は珍しい武器だな…足に刃が付いてる…。
ビビるな!姐御の為に男を連れて帰るんだ!
「今度は実力行使だ!そりゃそりゃそりゃー!」
棍棒を男に向けて振り回すけれど、アイツ結構素早くて一発も当たりやしない。
なら足を狙ってやると思って右足に向けて棍棒を振り下ろしたら、アイツ右足を後ろに下げて避けやがった!
棍棒は地面にめり込んで石を砕く。
「ほらっ!」
「あいたっ!?」
男の膝蹴りがあたいの額に入り、あたいは武器の棍棒ごと数歩下がる。
くっそ…なかなかやるじゃん。
「負けてたまるか!」
「るかー!」
あたいの後ろからキャノが飛び出して男に棍棒を振り下ろしたら、ミノタウロスが間に入って斧で防いじまった。
「アンタみたいな奴に用は無いよ!」
あたい等ゴブリンも体は小さいけど怪力を持ってるし、キャノはあたい等三人の中…いや、ゴブリンの中でも上の方の力を持っている。
でもやっぱりミノタウロスの怪力には敵わなく、弾き飛ばされていった。
「あ〜!」
「キャノ!」
キャノが地面に落ちたのであたいも一旦そこまで下がると後ろからウトがやって来た。
「大丈夫か?」
ウトがキャノに怪我がないか確認すると、キャノは首を縦に振ったので棍棒を肩に担ぎなおしてあいつ等に向き直る。
「やい!痛い目に合いたくなかったら男のお前!こっちに来い!」
あたいは忠告してやるけど男の方は苦笑いをしてミノタウロスの方は呆れた顔をしていた。
「不利なのはこっちだけどね…」
後ろからウトが呟くがそんなの関係ないね!
「うっさい!あたい等は姐御に男を連れて帰らなきゃいけないんだ!」
「呼んだ〜?」
「そう姐御…って姐御!?」
あたいが後ろを見るとそこにはゴブリンにはあまり見られない大きな胸に赤く短い髪、あたい達の姐御と慕うホブゴブリンのポムの姐御がいた…。
「姐御!家で大人しくしててって言ったじゃないっすか!」
「え〜…でも皆が居ないと暇だし…」
「あたい等は男を捕まえたらすぐ戻るって言ったでしょ!」
あたいが怒ると姐御はシュンとしおらしくなっちまった…。
「と、とにかく!あの男を連れて帰るからもうちょっと待っててくれ!」
そう言うとあたいは棍棒を振りかぶって男に向けて走る。
そして少し跳ぶと全力で振り下ろした!
でも男は軽くバックステップで後ろに下がって棍棒をかわした。
棍棒は地面にめり込み、遠心力…だっけ?それで前方に放り出された。
「っ!?」
あたいの体が宙に浮く。
このままだと地面に叩きつけられて麓まで転がっちまう…!
痛みを覚悟するけど、何時まで経っても痛みは来ない?
ゆっくり目を開けると、目の前には男の顔…ってアレ?何でこんな近くに…
「もう少し力加減考えて棍棒振れよ」
困ったような顔を向けてくると、不思議と顔が熱くなる…!
「あ〜、パノちゃんいいな〜。お姫様抱っこ〜」
「っこー!」
姐御に言われるまで気がつかなかったけれど、漸くあたいの状態がわかった…そう、姐御の言うお姫様抱っこという状態になってる。
あたいの姿を見て、姐御とキャノもこの男の足元に寄ってきた。
ウトは何だか状況に付いていけない感じみたいだ。
「ねぇねぇお兄さん、私もお姫様抱っこして〜」
「してー!」
「お、おい…ちょっと待て!」
男が止めろというのにも関わらず、姐御とキャノは男をよじ登り、キャノは肩車のように、姐御はあたいと男の間に割り込んできた。
「わぁ〜!お兄さん、近くで見るとカッコイイですね〜…ジュルリ」
「じゅるりー!」
「ジュルリって…いって!?」
男が急に大きな声を出した。
何かと思って辺りを確認すると、何時の間にか隣に来ていたミノタウロスが足で男の足を踏んでいた。
(な、何だか姐さんもキャノもパノもいいな…)
ウトが羨ましそうな目でこっちを見てくる…。
「あ、あの…僕も抱っこして貰っていいですか?」
ウトも男に上目遣いで頼む。
なんか、あたいもこうして抱かれてると安心するなぁ…。
「うえ!?ちょちょちょ、ちょっと待て!いでででっ!アノン足踏むな!肩の上で暴れるな!ちょ…いい加減にしろお前等ー!」
現在地-鉱山と戦いの町スーダン-山方面入り口
sideセン
俺達は一晩山で野宿してこの街にたどり着いた…。
それにしてもまた旅の仲間が増えちまったな。
え?誰の事かって?
そりゃあお前…
「兄貴!あたいが安い宿見つけてくるよ!」
「くるよー!」
「僕も探してきます!」
「私も行く〜!」
ゴブリンが三人とホブゴブリンが一人…。
あの後、結局和解して話を聞くと、こいつ等は最近までもっと多くの仲間と緑豊かな山に住んでいたらしいが、雨の日に起きた土砂崩れで多くの仲間を失ってしまったらしい。
それで新しい仲間を探すと共に繁殖の為に男を捜していたらしく、それが俺だったらしい。
話をしている内にこいつ等全員仲間を思い出して泣きそうになってたから…まあ慰めたんだよ。
んで懐かれて今に至る。
「おい!バラバラになるな!迷子になんぞー!」
妹が出来たみたいで少し楽しいと思ってるのは秘密だ。
「…ふんっ」
アノンは少し不機嫌だが…。
「機嫌直せよ」
「…」
顔を背けて返事も無しか。
「…今夜、アタシに付き合え」
「わーったよ」
拒否権なんて今の俺には無いだろう。
何故かは…自惚れでなければ予想は付くが…。
「とにかく、あいつ等追いかけるか」
そんなこんなで新しい仲間が加わり、俺の旅路は賑やかになってきた。
11/05/26 21:57更新 / ハーレム好きな奴
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