連載小説
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……この時は、流石に悪かったと思う
「ごめんなさい、私、貴方の事…友達としては好きだけど、恋人としては…」

分かってる。俺が何年お前と一緒に居ると思っているんだ。

お前はずっと昔から視線であいつを追っていた。

俺じゃあ、無かったのなんて、知っている。

この想いを抱いて5年にもなるが…今日お前は居なくなる…だから告白しただけだ。

さよならだ…

「さようなら」





□□□

「――で、フられたのか?」

俺の目の前でパンを頬張る男子生徒はニヤニヤ笑いながらそう言った。

「…あんま言わせるな…こちとら傷心中だぞ」

「ぶはははは!クヨクヨすんな!今の世の中魔物がそこらじゅうに溢れてるんだ!そっち捕まえた方がお得だぞ!」

イラっとするが、この男子生徒とは面目上友人なのでため息を吐いて心を落ち着かせた。

男子生徒は、尚もパンを食しながら俺に向かって口を開いた。

「大体な、今の世の中普通の人間に惚れるなんて方が珍しいぞ、氷室」

「うるせぇ…俺の勝手だろうが」

氷室(ひむろ)護(まもる)

それが、昨日無様に失恋した、情けの無い高校男児である俺の名前だ。

「何だったら、この俺、伊藤(いとう)満(みつる)が恋愛をレクチャーしてやってもいいぞ?」

ニヤニヤと嫌みったらしい笑いがムカつくが、こいつ―伊藤には2人の彼女がいるのを思い出した。

恋愛経験で言えば、俺より上だ。

だが、既にフられているのにレクチャーもクソも無いだろう。

「いらん……俺はもう帰る」

立ち上がって、自分のカバンを肩に担いで玄関へと向かう。

「あ?まだ昼休みだぞ?」

「サボる…」

「サボりは不良の始まりだぞー」

後ろから聞こえてくる伊藤の声を無視して、玄関で靴に履き替え、外に出ると天気は小雨が降っていた。

気にする程でもないと思い、折りたたみ傘を差す事もせず、俺は歩き続けた。

俺が校門を潜ろうとすると、そこへ俺が校門を潜るのを阻むように魔物が現れた。

黒い髪に黒い犬耳、スーツに身を包み校門の前で俺の前に立ちふさがったのは、アヌビスの教師、浅井(あさい)鞠子(まりこ)先生だ。

「こら!まだ授業は残っているぞ!帰るにはまだ早いぞ!」

生徒がサボろうとしていれば、止めるのは教師の役目なのだろうが、この先生なら撃退は容易い。

「あ、あっちで姫崎先生が魔物の生徒に逆ナンされてる」

「なっ!?そ、そんな馬鹿な…!?」

俺が指差した方へあっさりと向いてしまう浅井先生。

因みに姫崎(ひめざき)敏(さとし)先生は浅井先生の想い人であり、俺の担任の教師だ。

さて、浅井先生が俺から視線を外している間に失礼するか。

コソコソと音を立てないようにその場から去り、ある程度離れたら全力で走ってその場から逃げ出した。

学校の方から、妙なアヌビスの声が聞こえたような気がしたが、気にしない事にした。

家に戻った俺は、カバンを部屋に放り出すと、部屋にある鏡を見た。

黒い髪は短く、邪魔にならように切り揃えてある。

目が少しシュッと細い意外に、特徴の無い顔に、特徴の無い体つき。

「誰が好きになるんだ、こんな男…!」

思わず、俺は壁を殴りつけた。

が、腕が痛くなったので、少し摩りながら眉を潜めた。

約200年前、異世界から魔物がやって来て全世界へ現れ、人間と共存することになった。

以来、少子化問題は解決したらしいが、俺は魔物ではなく、昔なじみの人間の少女を好きになってしまった。

それで、フられた。

ケータイを開けると、時間は13:02分と表示されていた。

「寝よ…」

俺は自分の部屋に入ると、置いてあるベッドに身を投げ出して脱力した。

そのまま目を瞑ると、睡魔がやって来て、俺は意識を手放した。



という所までは覚えているのだが…目覚めたらケータイにはこう表記されていた。

17:01

あ、いや、そうじゃないんだ。時間はそうだったが、重要なのはそこじゃない。

ケータイにはこう表示されていた。

不在着信122件 新着メール77件

たった4時間で、一体なぜこんなに電話とメールが来ているのか?

疑問は尽きなかったが、とにかく誰から来たものなのか確認すると、殆ど学校の関係者からだった。

友人からもかなり来ている。

メールの内容は、『至急学校へ来てくれ』、『たすけて』、『お前を呼んでる』等、それだけでは良く分からない内容ばかりだった。

サボったのがそこまで拙かったのか…?

そうは思いつつも、この呼び出しの量は半端ではないので、とにかく学校へ向かうことにした。

家を出て軽く走っていると、すぐに異変に気がついた。

地面が揺れている…それも結構強く…。

まるでド派手な魔法でも放っているかのようだ。

そして、学校が見える位置まで来ると、俺はあんぐりと口を開けて間抜けを晒す以外に無かった。

目の前に見慣れた校舎は無く、代わりにあったのは…

「キサマなんぞに、私の宝をやれるか!」

口から火を吹いて他の者を威嚇する、巨大なドラゴン。

「氷室の事、勝手に宝物扱いしてんじゃないわよ!」

大空を飛び、咆哮を上げているワイバーン。

「僕が1番氷室君の事好きなんだから〜!」

校舎だった残骸を潰す、ワーム。

「聞く耳持たん!捻り潰してくれる!」

そしてその身体に雷を奔らせる龍だった。

魔物娘としての姿ではなく、そこには、巨大な魔物、モンスターとしての4匹がそれぞれ相対していた。

「おお!やっと戻ったか氷室!」

と、そこへ伊藤がやって来て俺の名を呼ぶと、4匹の竜がピクリと反応して此方を向いた。

「っ!?」

思わず怯み、唾を飲み込む。

伊藤もそんな空気を察し、俺の名前を呼んだのにも関わらずUターンして逃げ出した。

今度、アイツしばく。

俺が4匹の竜に睨まれ、動けなくなっていると、竜たちはその姿を魔物娘のものに戻していく。

徐々に縮小されていく肉体は、人のフォルムに近くなっていき、4匹の竜は4人の魔物娘となる。

そして、それぞれ俺の前へとやって来た。

見知った顔もあれば、知らない顔もある……。

「む、氷室……どうかしたのか?口が開いているぞ?」

「間抜けみたいだから、それ止めてよね…」

「さっきの僕の声、もしかして聞こえてたかな…そうだったらちょっと恥ずかしい…♥」

「ヌシ等少し黙らんか、氷室も戸惑っておるだろう」

確かに戸惑っている…誰かこの状況を教えて欲しいのだが…。

「さて、誰から言う?」

「ア、アタシに決まってるじゃない!」

「そんなの認めないよ〜だ!僕が1番だよ!」

「ヌシ等は阿呆か、それがしに決まっている」

なんだか4人の間で勝手に話が進んでいるようだが…本当にどういうことだ?

…思い切って聞いてみるか。

「な、なぁ…一体何が起こってるんだ?」

と、聞くも…

「仕方が無い…全員一緒に言うと言うのはどうだ?」

「仕方ないわね…結局さっきも決着しなかったし」

「ちぇ〜、不満だな〜」

「仕方あるまい…」

俺の話は聞いて貰えなかった。

「あー、えー、あー…」

「え、えと…その、ね…」

「えへへ、いざとなると緊張しちゃうね♥」

「ホンジツハセイテンナリ、ホンジツハセイテンナリ…」

4者4様の行動をするが、どうしていいのか……

「な、何なんだよお前等!?」

俺は、とうとう我慢できず、大声でそう聞いてしまった。

「私は、氷室…お前が好きだ!」

「ア、アンタが好きなの!それくらい察しなさいよ!馬鹿!」

「僕ね、君の事好きなんだ〜、えへへ、言っちゃった♥」

「それがし、貴方様に好意を抱いており、今回、それを告げさせて頂きたく候」

またも、4者4様の言葉が俺に向けて発せられた。

そんな4人に向けての、俺の言葉はこうだった。

「……スマン、4人同時で聞こえなかったから、もう1回頼む」



ワイバーンに叩かれた……この時は、流石に悪かったと思う。
13/06/12 02:02更新 / ハーレム好きな奴
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■作者メッセージ
突如の告白を受けた護…彼の答えは?

そして、この状況の処理は…?

次回:これ、個別指導か?

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