洞の穴にはミノタウロスが
現在地-草原-街道
「左♪左♪左には〜♪牛の怪物ミノタウロス♪面白そうだから行ってみよ〜♪」
うん、こんな始まり方で悪い。
歌ってみたがこれは無いな。
「さぁて、この分かれ道だな」
この分かれ道を左に曲がるとミノタウロスのいる草原か…いやー、楽しみだな〜。
俺は迷わずその分かれ道を左に曲がった。
それにしてもこの世界は飽きないな…いろんな魔物の女がいるみたいだし倉庫にあったみたいに自分で図鑑を作るのもいいかもな。
今まで出会った魔物は、ドラゴンにワーウルフ…あのフェルナードって町では結構色んな魔物がいたな。
ワーキャットにハーピー…リザードマンもいたし。
あれ?でも女なんだからリザードウーマンなんじゃないのか?
「まあどっちでもいいか」
親魔物領と反魔物領があるみてーだけど俺は断然親魔物派だな。
「左♪左♪左には〜♪」
さっき自分で考えた歌をもう一度口ずさんでみる。
空は青くいい天気だ。
この草原を抜ければこの国の首都への近道らしいし、このままなら一気に行けそうだな。
そういやあのドラゴン、今頃何処で何してっかな?ワーウルフはまだ眠ってるだろうけど。
以外と俺を追っかけてきてたりしてな。
なーんちゃって。
…ってアレ?
何時の間にか街道から外れて周りが荒野と草原の混じったっぽい場所なんですけど…。
どうなってんだコリャ?
もしかして…地図が間違っているのか!?
そう思って慌てて地図を確認する。
全く、確かにこの草原の少し向こうは荒野だけどもう少し正確に地図を作ることは出来なかったのかね。
仕方が無い…えっと、首都は西にあって荒野は少し南側だから…北西に向かえばいいのか。
北西は地図だと左上…つまり左前方に進めばいいのか!(バカ)
ほいじゃ行くか。
現在地-草原と荒野の間-洞穴
sideミノタウロス
「ふぁ…」
あ〜!よく寝た!
「よっしゃ!目が覚めたぜ!」
新しく見つけたアタシの住処は草原と荒野の間にあるい岩場の洞穴だ。
近くに立てかけておいた鉄造りの戦斧を肩に担いで立ち上がると、手首に付いている枷についている鎖がジャラリと音を立てる。
最近この近くの草原に行って通りかかる男共に勝負を挑んでるけど大したことの無い奴等ばかりだ。
犯してやろうとしたけど必死こいて逃げるから犯せれなかった…チッ。
今日は強そうな奴見つかるかねぇ?
とにかく草原に行かない事には始まらないし行ってみるとするかね。
そしてアタシが洞穴から出ようとすると…
「ん?」
「おろ?」
一人の男とかち合ってしまった。
男の姿は短い黒髪に黒目、ジパング風の黒服を身に纏っていた。
「えっと…」
男はアタシの姿をジッと見ている。
うん決めた。
「今日の獲物はアンタに決まり!」
そう言ってアタシは手に持っている戦斧を振り下ろす。
「はっ!?ちょ、いきなり!?」
しかし戦斧はガキッという音と共に動かなくなる…?
?マークを頭の上に浮かべてゆっくり上を見上げるとそこには…
あまり大きくない洞穴だったので、洞穴の天井に突き刺さっていた。
「おっと、失敗失敗…」
柄を強く握って引っこ抜こうとするけど中々抜けない…!
「う〜!ぬ、抜けない〜!」
ガリガリ音はするけれど…頑張っても頑張っても抜けない…!
「………お邪魔しました」
って一人で色々やってたら男が出て行っちまった!?
「ちょっ!ま、待っておくれよ!」
今度は捻ったり一回押してみたりしてみるがまだ抜けない…!
「ふぬ〜!でりゃ〜!ぬあ〜!」
だ、駄目だ…抜けない…。
くっそ〜!このままじゃ終われない!
「絶対に追いついてやる〜!!!」
現在地-草原と荒野の間-洞穴近く
sideセン
俺はちょっと休憩しようと思って見つけた洞穴に入ろうとしたら…
ま、まあ頭に角みたいな物を付けてて、下半身が獣のように茶色の毛が生え、蹄もあり、手首には鎖付きの枷を付けた女がいた…。
いきなりの事に戸惑っていると急に斧を振りかぶったので回避しようとしたら…まあその…斧が洞穴の天井に引っ掛かり、突き立った。
しかもそれが抜けないときた…。
多分アレがミノタウロスなんだろうけど興ざめだから逃げてきちまった…。
ま、いいや、次行ってみよう次。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
俺が暫く足を進めていると後ろから声をかけられる…声からしてあのミノタウロスだな。
「どーした?斧は抜けたのか?」
振り返ると、そこには肩で息をしながら斧を杖代わりにして立っているさっきのミノタウロスがいた。
「何の用だよ?」
「ハァ…あ、アタシ…ハァハァ…あた…ハァ…アタシと…た、戦え!ゲホッゲホッ!」
…。
「さいなら」
追いかけてきた時は用件を聞いて、内容次第では付き合うつもりだったけれど、やっぱ止めよう。
「なっ!?ちょ、ちょっと待てって!何でだい!?」
「いや、息切れて咳き込んで…もうグダグダじゃん」
俺が言うと、彼女は俯いてしまった。
「…今度はどうした?」
「…るな」
「え?」
小さな声でよく聞こえなかったので聞き返してみると…
「ふ、ふざけるなー!」
大声をあげて斧で振りかかって来た。
パワーはかなりの物だが動作が大きすぎて軌道が読める。
「おっと!」
なのでそれをバックステップで避けるが、追撃として突進しながら斧を出鱈目に振り回す。
「おりゃおりゃおりゃー!」
「っととと」
ひょいひょいかわしながら後ろに下がっていくが、これじゃ来た道を逆戻りだ。
「あらよっと」
「うぎゃ!?」
なので突進してくるミノタウロスの足に自分の足を引っ掛けると顔面から思いっきり転んだ…うわ痛そう。
「大丈夫か?」
耳を掻きながら聞くと、彼女はいきなり起き上がると再び斧を振ってくるが…。
「ぶわああああん!こ、殺してやる〜!」
…涙目だし。
振り回される斧は更に乱暴に振り回されるので簡単にかわせる。
「うぇあああああああ!当たれーーー!!!」
「いや…んな事言われてもな…」
必要最低限の動きでヒョイヒョイ避けていると、振り上げた際に、汗で滑ったのか、斧が彼女の手の中からスポーン!と真上に飛んだ。
「「あ」」
それを見ていると、クルクル回転すると…
「ぎゃうっ!?」
柄の部分が彼女の頭に直撃した。
「…(哀れみの目)」
「いつつつ…ハッ!?そ、そんな目で見るな〜!」
「…(哀れみと同情の目)」
「や、止めろ〜!そんな目で…そんな目でアタシを見るんじゃなーい!」
そう言うと脱兎の…いや脱牛の如く草原の向こう側に行ってしまった。
現在地-草原-街道付近
sideミノタウロス
戦斧を引っこ抜いて追いついたけど始終あっちのペースで…しかも生暖かい目で見てくるから逃げ出しちまった。
「…」
やっと落ち着いたけれど…別に逃げてくる必要はなかったんじゃないか…?
「ってしまった!戦斧忘れてきた!」
手からすっぽ抜けてから回収するの忘れてた!しっかし結構走ったな…。
急いで戻って、戦斧を拾って今度こそアイツと戦う!
そう思っていて気が抜けていたのか…
ドッという音と共に、アタシの右肩が熱くなり、痛みが奔る。
「がっ…!」
思わず肩膝を着いて右肩を抑える。
見れば、アタシの右肩には、矢が刺さっていた。
「だ、誰だ…!」
後ろを見ると、そこには矢を放ったであろう冒険者の一味がいた。
一人は鎧を着て、左手に剣、右手に盾を持った戦士の男。
一人は軽鎧で、弓を持ち、背中の矢に手を伸ばす弓兵の男。
一人は布の服とナイフを逆手に持ったシーフのような男。
「お前がここらに住み着いているミノタウロスだな?」
弓兵の男がアタシに問いかけてくる。
「そうだってんなら…どうなんだい?」
「アンタにゃ教団から懸賞金がかかってんだ…その首貰うぜ!」
シーフの男は言葉が終わると同時に走ってくる。
拙いな…武器もないし怪我もある…このままやっても勝てないのは明らかだね…。
「とにかく戦斧を…」
奴等に背を向けて逃げようとすると、今度は左足に矢が刺さった。
「うっ!」
ブシュッと赤い血が吹き出てうつ伏せに地面に倒れる。
痛い…これじゃ走る事も…。
「ふぃ〜、今日の獲物は楽勝だったな。武器も持ってないし隙だらけだ」
「そうみたいだな」
鎧を着た戦士とシーフがアタシの傍まで来て武器を抜く。
「どっちが殺るよ?」
「どっちでもいいだろ、賞金は山分けなんだし」
「さっさとしてくれ」
どうやら弓兵もある程度傍まで来ているようだが…この傷じゃ…いや!諦めるな!
「おりゃあっ!」
「あがっ!?」
左腕で体を支え、あまり力が込めれないが、思いっきり右手の拳でシーフの男の腹を殴ると、三メートルは吹っ飛んだ…へへ、ザマァ見ろ…。
しかし今度は左腕に剣が刺さり、その剣先は地面に突き刺さって動けなくなる。
多分戦士の男の剣だろうな…。
右腕にも力が込めれない、左腕は動かせない、右足も怪我を負っている…これは死んだかもな…ハハッ。
「いって…このアマァ!コイツは俺がぶっ殺す!」
シーフの男は腹を抱えて戻ってきた…随分ご立腹みてーだ。
心残りは…まあ結局誰も犯せなかった事と…さっきの旅人と戦えなかった事かな…。
シーフの男がナイフを振り上げたのが見える…
「死ねやぁ!」
振り下ろした…
「あ、ちょいタンマ」
え?
次の瞬間、ガァンという金属音がしたので上を見上げてみると、シーフの男の顔に、アタシの戦斧の側面がめり込んでいた。
「いでででででぇえええええ!?」
シーフの男は、顔面を押さえて地面をゴロゴロ転がっていた。
「何者だ?」
戦士の男が見た方向には…
「セン・アシノ、唯の旅人だよ。そいつ殺すの止めてくんね?」
さっきのジパング風の男がいた…。
現在地-草原-街道付近
sideセン
「寄ってたかって女をいたぶるのか?いい趣味だな」
アイツが忘れた斧を届けに来たら…何か修羅場ぽかったからとりあえず止めを刺そうとしてる奴に斧投げといた。
「女って…コイツは魔物だぞ?」
弓を持ってる奴が何か言ってるが、関係ないな。
「魔物だろうが女は女。それにそいつとは多少の縁があってな…助太刀するぜ」
「やってみろ!」
弓を持った男から俺に矢が放たれるが、左足を蹴り上げて矢を弾く。
「なにっ!?」
矢を弾いた事に驚いているみたいだな。
まあ、普通はできんだろうから当たり前か。
その隙に足でしっかり地面を蹴り弓を持った男に接近する。
「く…!」
未だ驚いてはいたが、すぐに冷静になり次の矢を構えようとするが…。
「俺の方が速い!」
これなら奴が弓を放つ前に蹴れる!
「させん」
「っ!?」
だが俺が弓の男を狙うのを予期していたのか、左側から戦士の男がさっきまでミノタウロスの腕を刺していた剣で俺に斬りかかってくる。
前方に矢、左に剣。
「それならァ!」
俺は片手で逆立ちしながら足を広げて回転すると、放たれた矢と振り下ろされた剣を弾き飛ばした。
「ぐおっ!?」
「また弾いただと!?しかもあんな体制で…!」
戦士の男は剣が弾かれた事で体制を崩しているので、その隙に両手を地面につけて体のバネを生かして両足で奴の顎を蹴り上げた。
「ぐあっ…!?」
これで戦士のコイツは暫く動けないだろうな。倒れて気を失った。
そこから立ち上がると弓の男を倒すために再び接近する。
「チッ!やられたか!」
弓の男は矢を構えて狙ってくるが、左右にフェイントをかけながら素早く接近していく。
「くそっ…速すぎて狙いが定まらない…!」
少しヤケになったのか、焦ったのか、狙いが甘いまま俺に向けて矢を放つが俺は空中に跳ぶと共に前方宙返りすると足を伸ばす。
「寝てな」
「なんだと…!?」
そのまま奴の頭に右足の踵落としをかました。
俺はうまく着地するが弓の男は膝から崩れ落ちた。
さて後一人いたはずだが…。
俺が振り返ると、ナイフを突き出して俺に接近してくるシーフ風の男がいた。
漸く俺の投げた斧のダメージから回復したらしい。
「さっきはよくもやってくれたなぁ!」
俺は迎え撃つために足にグッと力を込めたが、シーフの男の頭の上に鉄の斧の側面が叩きつけられた。
その斧の柄を握っていたのはあのミノタウロスだった。
「怪我いいのか?」
「良くはないけど…寝てるだけってのは性に合わないんでね…」
シーフの男はゆっくりと倒れると気を失ったようだ。
「ハハ…助けてくれて悪いけど…アタシも限界だよ…」
そう言うとミノタウロスも倒れてしまった。
「…俺一人で片付けろと?」
ポツリと呟いてみたが勿論返事は返ってこなかった。
現在地-草原と荒野の間-洞穴
とりあえずミノタウロスと斧と冒険者?達から剥いだ身包みを担いでミノタウロスが住処にしてたっぽい洞穴に戻ってきた。
その剥ぎ取った身包みの中に治療セット的なものがあったのでそれを使って止血し、包帯を巻いておいた。
現在、干し肉を食ってこいつが起きるのを待っている。
ここまで関わったらまた傭兵達に殺されても目覚めが悪いし。
「うく…」
お、起きたっぽい。
「大丈夫か?」
顔を覗き込んで聞くと僅かに首を縦に振ったが、多分貧血状態だろう。
でも仮にも魔物だし、傷の直りは大分と速いが。
「食えそうか?」
見えるように干し肉を出すと問いかける。
「…ぁぁ」
寝そべったまま干し肉を受け取ると口に運ぶが、上手く噛み切れないようだ。
「やれやれ」
俺はミノタウロスの口から干し肉を取り出すと自分の口に含んで噛んで柔らかくする。
「暴れたりふんなよ」
顔と顔を近づけてそのまま口を付けた。
「ん…!」
そして口の中の柔らかくなった干し肉をミノタウロスの口に移した。
移している際にクチュ…ピチュ…と、ちょっと卑猥な音が出てしまったが仕方が無いだろう?
そしてそれを繰り返していると彼女の頬が何処と無く赤くなっていた。
「…やれやれ」
そろそろ日が沈むのを感じ、今日は此処で泊まる事にしたのは言うまでもない。
んで次の日…。
「さぁ行くよ!」
「いやおかしいから。あれだけの傷で一晩で動けるようになるとか普通おかしいから」
今言ったとおり、ミノタウロスは朝には元気ハツラツで復活していた。
「アタシはそんなヤワな魔物じゃないだ!さ、行こうぜ!」
「てか行こうぜって…もしかして付いてくる気か?」
「当然だ!アタシの唇を奪ったんだから責任を取って貰わないとな!」
唇を奪ったというのは否定できないが、そう言うつもりでも無かったんだよな。
まあこういうタイプはほっといても付いてくるから連れてくか。
「責任はともかく、付いてくるのら勝手にしろよ」
昨日の奴らからかっぱらった皮袋には、奴らが持っていた食料、金、医療道具、地図などが入っていて、これからはこれを使う事にした。
…なんかやってる事追い剥ぎと変わらんなぁ…とか思いながら後ろから付いてくるミノタウロスに振り返った。
「そういや俺達自己紹介もまだだったな」
「それもそうだね、アタシはアノンさ」
「俺は…セン・アシノ、一応ジパング出身さ」
そんなこんなで俺達は首都を目指す事になった。
にしてもおかしいな…首都は草原に囲まれてる筈なのに荒野になってきちまった…。
ま、どうでもいいか!
「左♪左♪左には〜♪牛の怪物ミノタウロス♪面白そうだから行ってみよ〜♪」
うん、こんな始まり方で悪い。
歌ってみたがこれは無いな。
「さぁて、この分かれ道だな」
この分かれ道を左に曲がるとミノタウロスのいる草原か…いやー、楽しみだな〜。
俺は迷わずその分かれ道を左に曲がった。
それにしてもこの世界は飽きないな…いろんな魔物の女がいるみたいだし倉庫にあったみたいに自分で図鑑を作るのもいいかもな。
今まで出会った魔物は、ドラゴンにワーウルフ…あのフェルナードって町では結構色んな魔物がいたな。
ワーキャットにハーピー…リザードマンもいたし。
あれ?でも女なんだからリザードウーマンなんじゃないのか?
「まあどっちでもいいか」
親魔物領と反魔物領があるみてーだけど俺は断然親魔物派だな。
「左♪左♪左には〜♪」
さっき自分で考えた歌をもう一度口ずさんでみる。
空は青くいい天気だ。
この草原を抜ければこの国の首都への近道らしいし、このままなら一気に行けそうだな。
そういやあのドラゴン、今頃何処で何してっかな?ワーウルフはまだ眠ってるだろうけど。
以外と俺を追っかけてきてたりしてな。
なーんちゃって。
…ってアレ?
何時の間にか街道から外れて周りが荒野と草原の混じったっぽい場所なんですけど…。
どうなってんだコリャ?
もしかして…地図が間違っているのか!?
そう思って慌てて地図を確認する。
全く、確かにこの草原の少し向こうは荒野だけどもう少し正確に地図を作ることは出来なかったのかね。
仕方が無い…えっと、首都は西にあって荒野は少し南側だから…北西に向かえばいいのか。
北西は地図だと左上…つまり左前方に進めばいいのか!(バカ)
ほいじゃ行くか。
現在地-草原と荒野の間-洞穴
sideミノタウロス
「ふぁ…」
あ〜!よく寝た!
「よっしゃ!目が覚めたぜ!」
新しく見つけたアタシの住処は草原と荒野の間にあるい岩場の洞穴だ。
近くに立てかけておいた鉄造りの戦斧を肩に担いで立ち上がると、手首に付いている枷についている鎖がジャラリと音を立てる。
最近この近くの草原に行って通りかかる男共に勝負を挑んでるけど大したことの無い奴等ばかりだ。
犯してやろうとしたけど必死こいて逃げるから犯せれなかった…チッ。
今日は強そうな奴見つかるかねぇ?
とにかく草原に行かない事には始まらないし行ってみるとするかね。
そしてアタシが洞穴から出ようとすると…
「ん?」
「おろ?」
一人の男とかち合ってしまった。
男の姿は短い黒髪に黒目、ジパング風の黒服を身に纏っていた。
「えっと…」
男はアタシの姿をジッと見ている。
うん決めた。
「今日の獲物はアンタに決まり!」
そう言ってアタシは手に持っている戦斧を振り下ろす。
「はっ!?ちょ、いきなり!?」
しかし戦斧はガキッという音と共に動かなくなる…?
?マークを頭の上に浮かべてゆっくり上を見上げるとそこには…
あまり大きくない洞穴だったので、洞穴の天井に突き刺さっていた。
「おっと、失敗失敗…」
柄を強く握って引っこ抜こうとするけど中々抜けない…!
「う〜!ぬ、抜けない〜!」
ガリガリ音はするけれど…頑張っても頑張っても抜けない…!
「………お邪魔しました」
って一人で色々やってたら男が出て行っちまった!?
「ちょっ!ま、待っておくれよ!」
今度は捻ったり一回押してみたりしてみるがまだ抜けない…!
「ふぬ〜!でりゃ〜!ぬあ〜!」
だ、駄目だ…抜けない…。
くっそ〜!このままじゃ終われない!
「絶対に追いついてやる〜!!!」
現在地-草原と荒野の間-洞穴近く
sideセン
俺はちょっと休憩しようと思って見つけた洞穴に入ろうとしたら…
ま、まあ頭に角みたいな物を付けてて、下半身が獣のように茶色の毛が生え、蹄もあり、手首には鎖付きの枷を付けた女がいた…。
いきなりの事に戸惑っていると急に斧を振りかぶったので回避しようとしたら…まあその…斧が洞穴の天井に引っ掛かり、突き立った。
しかもそれが抜けないときた…。
多分アレがミノタウロスなんだろうけど興ざめだから逃げてきちまった…。
ま、いいや、次行ってみよう次。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
俺が暫く足を進めていると後ろから声をかけられる…声からしてあのミノタウロスだな。
「どーした?斧は抜けたのか?」
振り返ると、そこには肩で息をしながら斧を杖代わりにして立っているさっきのミノタウロスがいた。
「何の用だよ?」
「ハァ…あ、アタシ…ハァハァ…あた…ハァ…アタシと…た、戦え!ゲホッゲホッ!」
…。
「さいなら」
追いかけてきた時は用件を聞いて、内容次第では付き合うつもりだったけれど、やっぱ止めよう。
「なっ!?ちょ、ちょっと待てって!何でだい!?」
「いや、息切れて咳き込んで…もうグダグダじゃん」
俺が言うと、彼女は俯いてしまった。
「…今度はどうした?」
「…るな」
「え?」
小さな声でよく聞こえなかったので聞き返してみると…
「ふ、ふざけるなー!」
大声をあげて斧で振りかかって来た。
パワーはかなりの物だが動作が大きすぎて軌道が読める。
「おっと!」
なのでそれをバックステップで避けるが、追撃として突進しながら斧を出鱈目に振り回す。
「おりゃおりゃおりゃー!」
「っととと」
ひょいひょいかわしながら後ろに下がっていくが、これじゃ来た道を逆戻りだ。
「あらよっと」
「うぎゃ!?」
なので突進してくるミノタウロスの足に自分の足を引っ掛けると顔面から思いっきり転んだ…うわ痛そう。
「大丈夫か?」
耳を掻きながら聞くと、彼女はいきなり起き上がると再び斧を振ってくるが…。
「ぶわああああん!こ、殺してやる〜!」
…涙目だし。
振り回される斧は更に乱暴に振り回されるので簡単にかわせる。
「うぇあああああああ!当たれーーー!!!」
「いや…んな事言われてもな…」
必要最低限の動きでヒョイヒョイ避けていると、振り上げた際に、汗で滑ったのか、斧が彼女の手の中からスポーン!と真上に飛んだ。
「「あ」」
それを見ていると、クルクル回転すると…
「ぎゃうっ!?」
柄の部分が彼女の頭に直撃した。
「…(哀れみの目)」
「いつつつ…ハッ!?そ、そんな目で見るな〜!」
「…(哀れみと同情の目)」
「や、止めろ〜!そんな目で…そんな目でアタシを見るんじゃなーい!」
そう言うと脱兎の…いや脱牛の如く草原の向こう側に行ってしまった。
現在地-草原-街道付近
sideミノタウロス
戦斧を引っこ抜いて追いついたけど始終あっちのペースで…しかも生暖かい目で見てくるから逃げ出しちまった。
「…」
やっと落ち着いたけれど…別に逃げてくる必要はなかったんじゃないか…?
「ってしまった!戦斧忘れてきた!」
手からすっぽ抜けてから回収するの忘れてた!しっかし結構走ったな…。
急いで戻って、戦斧を拾って今度こそアイツと戦う!
そう思っていて気が抜けていたのか…
ドッという音と共に、アタシの右肩が熱くなり、痛みが奔る。
「がっ…!」
思わず肩膝を着いて右肩を抑える。
見れば、アタシの右肩には、矢が刺さっていた。
「だ、誰だ…!」
後ろを見ると、そこには矢を放ったであろう冒険者の一味がいた。
一人は鎧を着て、左手に剣、右手に盾を持った戦士の男。
一人は軽鎧で、弓を持ち、背中の矢に手を伸ばす弓兵の男。
一人は布の服とナイフを逆手に持ったシーフのような男。
「お前がここらに住み着いているミノタウロスだな?」
弓兵の男がアタシに問いかけてくる。
「そうだってんなら…どうなんだい?」
「アンタにゃ教団から懸賞金がかかってんだ…その首貰うぜ!」
シーフの男は言葉が終わると同時に走ってくる。
拙いな…武器もないし怪我もある…このままやっても勝てないのは明らかだね…。
「とにかく戦斧を…」
奴等に背を向けて逃げようとすると、今度は左足に矢が刺さった。
「うっ!」
ブシュッと赤い血が吹き出てうつ伏せに地面に倒れる。
痛い…これじゃ走る事も…。
「ふぃ〜、今日の獲物は楽勝だったな。武器も持ってないし隙だらけだ」
「そうみたいだな」
鎧を着た戦士とシーフがアタシの傍まで来て武器を抜く。
「どっちが殺るよ?」
「どっちでもいいだろ、賞金は山分けなんだし」
「さっさとしてくれ」
どうやら弓兵もある程度傍まで来ているようだが…この傷じゃ…いや!諦めるな!
「おりゃあっ!」
「あがっ!?」
左腕で体を支え、あまり力が込めれないが、思いっきり右手の拳でシーフの男の腹を殴ると、三メートルは吹っ飛んだ…へへ、ザマァ見ろ…。
しかし今度は左腕に剣が刺さり、その剣先は地面に突き刺さって動けなくなる。
多分戦士の男の剣だろうな…。
右腕にも力が込めれない、左腕は動かせない、右足も怪我を負っている…これは死んだかもな…ハハッ。
「いって…このアマァ!コイツは俺がぶっ殺す!」
シーフの男は腹を抱えて戻ってきた…随分ご立腹みてーだ。
心残りは…まあ結局誰も犯せなかった事と…さっきの旅人と戦えなかった事かな…。
シーフの男がナイフを振り上げたのが見える…
「死ねやぁ!」
振り下ろした…
「あ、ちょいタンマ」
え?
次の瞬間、ガァンという金属音がしたので上を見上げてみると、シーフの男の顔に、アタシの戦斧の側面がめり込んでいた。
「いでででででぇえええええ!?」
シーフの男は、顔面を押さえて地面をゴロゴロ転がっていた。
「何者だ?」
戦士の男が見た方向には…
「セン・アシノ、唯の旅人だよ。そいつ殺すの止めてくんね?」
さっきのジパング風の男がいた…。
現在地-草原-街道付近
sideセン
「寄ってたかって女をいたぶるのか?いい趣味だな」
アイツが忘れた斧を届けに来たら…何か修羅場ぽかったからとりあえず止めを刺そうとしてる奴に斧投げといた。
「女って…コイツは魔物だぞ?」
弓を持ってる奴が何か言ってるが、関係ないな。
「魔物だろうが女は女。それにそいつとは多少の縁があってな…助太刀するぜ」
「やってみろ!」
弓を持った男から俺に矢が放たれるが、左足を蹴り上げて矢を弾く。
「なにっ!?」
矢を弾いた事に驚いているみたいだな。
まあ、普通はできんだろうから当たり前か。
その隙に足でしっかり地面を蹴り弓を持った男に接近する。
「く…!」
未だ驚いてはいたが、すぐに冷静になり次の矢を構えようとするが…。
「俺の方が速い!」
これなら奴が弓を放つ前に蹴れる!
「させん」
「っ!?」
だが俺が弓の男を狙うのを予期していたのか、左側から戦士の男がさっきまでミノタウロスの腕を刺していた剣で俺に斬りかかってくる。
前方に矢、左に剣。
「それならァ!」
俺は片手で逆立ちしながら足を広げて回転すると、放たれた矢と振り下ろされた剣を弾き飛ばした。
「ぐおっ!?」
「また弾いただと!?しかもあんな体制で…!」
戦士の男は剣が弾かれた事で体制を崩しているので、その隙に両手を地面につけて体のバネを生かして両足で奴の顎を蹴り上げた。
「ぐあっ…!?」
これで戦士のコイツは暫く動けないだろうな。倒れて気を失った。
そこから立ち上がると弓の男を倒すために再び接近する。
「チッ!やられたか!」
弓の男は矢を構えて狙ってくるが、左右にフェイントをかけながら素早く接近していく。
「くそっ…速すぎて狙いが定まらない…!」
少しヤケになったのか、焦ったのか、狙いが甘いまま俺に向けて矢を放つが俺は空中に跳ぶと共に前方宙返りすると足を伸ばす。
「寝てな」
「なんだと…!?」
そのまま奴の頭に右足の踵落としをかました。
俺はうまく着地するが弓の男は膝から崩れ落ちた。
さて後一人いたはずだが…。
俺が振り返ると、ナイフを突き出して俺に接近してくるシーフ風の男がいた。
漸く俺の投げた斧のダメージから回復したらしい。
「さっきはよくもやってくれたなぁ!」
俺は迎え撃つために足にグッと力を込めたが、シーフの男の頭の上に鉄の斧の側面が叩きつけられた。
その斧の柄を握っていたのはあのミノタウロスだった。
「怪我いいのか?」
「良くはないけど…寝てるだけってのは性に合わないんでね…」
シーフの男はゆっくりと倒れると気を失ったようだ。
「ハハ…助けてくれて悪いけど…アタシも限界だよ…」
そう言うとミノタウロスも倒れてしまった。
「…俺一人で片付けろと?」
ポツリと呟いてみたが勿論返事は返ってこなかった。
現在地-草原と荒野の間-洞穴
とりあえずミノタウロスと斧と冒険者?達から剥いだ身包みを担いでミノタウロスが住処にしてたっぽい洞穴に戻ってきた。
その剥ぎ取った身包みの中に治療セット的なものがあったのでそれを使って止血し、包帯を巻いておいた。
現在、干し肉を食ってこいつが起きるのを待っている。
ここまで関わったらまた傭兵達に殺されても目覚めが悪いし。
「うく…」
お、起きたっぽい。
「大丈夫か?」
顔を覗き込んで聞くと僅かに首を縦に振ったが、多分貧血状態だろう。
でも仮にも魔物だし、傷の直りは大分と速いが。
「食えそうか?」
見えるように干し肉を出すと問いかける。
「…ぁぁ」
寝そべったまま干し肉を受け取ると口に運ぶが、上手く噛み切れないようだ。
「やれやれ」
俺はミノタウロスの口から干し肉を取り出すと自分の口に含んで噛んで柔らかくする。
「暴れたりふんなよ」
顔と顔を近づけてそのまま口を付けた。
「ん…!」
そして口の中の柔らかくなった干し肉をミノタウロスの口に移した。
移している際にクチュ…ピチュ…と、ちょっと卑猥な音が出てしまったが仕方が無いだろう?
そしてそれを繰り返していると彼女の頬が何処と無く赤くなっていた。
「…やれやれ」
そろそろ日が沈むのを感じ、今日は此処で泊まる事にしたのは言うまでもない。
んで次の日…。
「さぁ行くよ!」
「いやおかしいから。あれだけの傷で一晩で動けるようになるとか普通おかしいから」
今言ったとおり、ミノタウロスは朝には元気ハツラツで復活していた。
「アタシはそんなヤワな魔物じゃないだ!さ、行こうぜ!」
「てか行こうぜって…もしかして付いてくる気か?」
「当然だ!アタシの唇を奪ったんだから責任を取って貰わないとな!」
唇を奪ったというのは否定できないが、そう言うつもりでも無かったんだよな。
まあこういうタイプはほっといても付いてくるから連れてくか。
「責任はともかく、付いてくるのら勝手にしろよ」
昨日の奴らからかっぱらった皮袋には、奴らが持っていた食料、金、医療道具、地図などが入っていて、これからはこれを使う事にした。
…なんかやってる事追い剥ぎと変わらんなぁ…とか思いながら後ろから付いてくるミノタウロスに振り返った。
「そういや俺達自己紹介もまだだったな」
「それもそうだね、アタシはアノンさ」
「俺は…セン・アシノ、一応ジパング出身さ」
そんなこんなで俺達は首都を目指す事になった。
にしてもおかしいな…首都は草原に囲まれてる筈なのに荒野になってきちまった…。
ま、どうでもいいか!
11/05/25 22:04更新 / ハーレム好きな奴
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