-ドラゴンの章2-
人や馬車が走る事で、草が潰れて生えなくなり街道が生まれる。
そんな街道を歩く2つの人影。
1人はドラゴンのイオ、もう1人は蒼いフルプレートメイルにユニコーンのような角が生えた兜を装備している、巷で『死人喰らい』と呼ばれている青年だった。
2人はイオの住処である山を降りてこれから青年が依頼を受けた者達が居る場所へ戻る途中なのだ。
しかしイオはムスッとした不機嫌そうな顔をしている。
「おい、移動の時くらい兜を外したらどうだ?」
「……」
「おい、聞いているのか!」
先ほどから青年に兜を外すように言うのだが、青年は全く意に介さず無視し続けている。
また無視をされた事でイオのイライラは更に募っていく。
「……そう言えば、お前が私のブレスを跳ね除けた魔法は何なんだ?」
兜の話は無視されるので、少し話題を替えて見ることにしたらしい。
「対竜魔法の1つで、竜の攻撃と防御に対して短時間の恩恵を受けれる魔法だ。竜の鱗の防御を無視させる法を武器に纏わせ、不可視のブレス避けの結界を展開させる超高等魔法だ」
「そんな魔法……何処で覚えた?」
「……」
漸く質問に答えたと思ったら、すぐに黙ってしまう。
自分の素性に関わる事は話したくないようだが、そんな事が分からないイオは更にイライラを募らせていく。
「いい加減に……!」
「見えたぞ」
イオが青年に怒鳴ろうとした瞬間に、青年がポツリと呟く。
草原の向こう側に、おそまつなテントが幾つか張られている。
更に近づいていくと、そのテントの周辺には人間は50人ほど、魔物が20人ほど居た。
その人間や魔物達は青年に気がつくと慌てた様子で駆けつけてきた。
「あ、あんた……大丈夫だったのかい!?」
「見ての通りだ。ドラゴンもこの通りあの住処から出てきたし盗賊も村にはもう居ない」
どうやらこの人間と魔物達があの村から出て行った者達のようだ。
青年の報告を聞いた瞬間、村人からおおおおおっ!という歓声が上がった。
テントの中から外の騒ぎを聞きつけた人々が出てきて青年とイオは取り囲まれてしまう。
「やっぱアタシの目に見間違いは無かったね!」
「いやー、これでやっと村に戻れるよ!」
「畑は大丈夫かな?結構手入れをしていないから作物が駄目になってるかも…」
「とにかく良かった!」
ワイワイガヤガヤと2人を取り囲んで盛り上がっていく村人をどうしていいか分からず、イオは戸惑う。
「お、おい……こいつ等どうすれば…」
「……何か来る」
「え?」
イオが戸惑い声を掛ける中で、青年は神経を集中させて周囲に気を配る。
何かを感じたのだ。
「There to capture all the eyes of a hawk in the sky.(鷹の目、空に有りて全てを捉える。)」
青年の右手に魔方陣が浮かび上がり、そこから光の鳥の様な生物が空に向けて発射される。
周りに居た村人は青年の魔法に驚き、青年が放った光の鳥を目で追う。
そして青年は光の鳥が空で浮遊しているのを確認すると、兜から見える赤い双眸を閉じる。
「……全員すぐにこの場から離れろ」
突然の言葉に周囲の人々は訳が分からず首を傾げる。
「此処からそう遠く無い場所に教団の駐屯地がある。どうやら俺の位置を嗅ぎつけた様だな。斥候が俺達を見張っている……急げ」
ザワザワと慌て、動揺してる村人達はすぐに行動ができない。
「急げ!でないと全員奴等に殺されるぞ!」
青年がそう怒鳴った事により、村人達は散り散りになって荷物を纏め始める。
しかし青年は兜の下で舌打ちをした。
「気づかれたか……Release.(解除。)」
空を飛ばせていた光の鳥が一気に地上に降下して青年の腕の魔方陣に収まる。
「……おい、一体何があったんだ?」
流石にイオも状況が飲み込めず、青年に尋ねる。
青年は戦闘の準備の為にか装備していた武器のチェックをしている。
「遠見の魔法を使った。空から奴等を発見した……俺は反魔物領では指名手配されているからな。奴等が追ってきたんだろう。お前も早く行け」
「お前は如何する気だ?」
「奴等の狙いは俺だが、奴等が魔物を前に黙っているとも思えない。自分のケツは自分で拭く」
青年は長槍を背中から外し、草原の向こう側を見つめてその場に立ち止まる。
その背中を見た時、イオは頼りがいを感じたが、同時に言い切れぬ不安感を感じていた。
「……フン!ドラゴンたる私が人間相手に逃げるなどあり得ん!それにさっき言ったばかりだろう!」
イオは青年の横に並んで腕を組む。
「私が守るとな!」
「……お前も追われる身になるぞ」
「人間如きに私が負けたり、捕らわれたりするものか」
青年は、さっき俺に負けたばかりだろうと思ったが、火に油を注ぐ事になるだろうと思い踏みとどまった。
そして、周りの村人達が荷物を纏めて村の方へと後退すると、草原の向こう側から白い鎧を纏った教団騎士達がやって来る。
その数は、騎士と魔導士が20人ずつ程度だ。
数を確認した青年は長槍を構えて呪文を紡ぐ。
「Focusing icy cold case, here.(凍てつく冷気、此処に集束せよ。)」
すると青年とイオの周辺に冷気が集まってくる。
青年は詠唱を続け、それに気がついた騎士達が接近して来ようとし、魔導士も詠唱を始める。
「Familiar with such as shield to protect us at.(時に我等を守る盾と成れ。)」
教団の魔導士達から放たれた魔法の炎が迫るが、冷気は地面に集まり驚くべき速さで氷を形成していき、氷の壁を青年の目の前に作った。
ゴォオオオオオオオっと炎と氷がぶつかり合い、互いが互いを溶かし、消していくが炎はその内消えてしまう。
炎によって氷の壁は半分程度溶かされたが、残っていた氷も再び冷気へと戻っていく。
「Spear at the enemy and avenge skein.(時に敵を打つ槍と化せ。)」
冷気は青年たちの元から魔導士達の足元へと移動し、一瞬にして今度は幾重も氷の槍を地面から生やした。
身体的能力に乏しい魔導士達はそれを避ける事ができず、腕や足に突き刺さっていく。
「うぐっ!?」
「ぐっ…あぁああああっ!」
傷口を押さえてその場に蹲る魔導士達を確認すると、青年は長槍を構え、やはり驚異的なスピードで向かって来る騎士達を迎え撃った。
イオも負けれられないとばかりに騎士達を迎える。
まずイオは適当な騎士に近づくと、振り下ろされる剣を腕の鱗で易々と防いで反対の手で殴ると、騎士の鎧は凹みあっさりと吹き飛んでいく。
後ろから近づいてきた者にも尻尾をしならせて一撃。
あっという間に2人を戦闘不能とした。
青年は長槍を振るい、騎士とうち合っている。
ギィンという耳を劈く金属音を響かせて騎士の振る剣を防御すると、長槍を回転させて騎士の後頭部を柄の部分で強打する。
後頭部への痛みで隙を作った騎士の僅かな鎧の隙間を長槍で突くと、騎士が下に着ていた鎖帷子を物ともせずに長槍は騎士の腹に風穴を開けた。
そして貫いた騎士を長槍に刺したまま自分の右側へ移動させると、次の瞬間にはその騎士の鎧と身体に矢が次々と刺さっていく。
他の騎士が弓で青年を狙ったのだ。
尤も、青年は騎士の身体を盾として難を逃れたが。
イオに対しても矢が放たれるが、イオはそれに気がつくと口から息を吸い込みそれを思い切り吐き出すとドラゴンの炎のブレスが吐き出され、向かって来る矢の全てを当たる前に焼き尽くして落とした。
更に矢を落とすとイオは地面を蹴って近くに居る騎士に対して爪での攻撃をくり出す。
「くっ!」
騎士は素早いイオから逃れる事ができないと判断したのか、剣を横に構えて爪を受け止めようとする。
しかしドラゴンたるイオの力は人間がまともに受け止められる力ではない。
騎士はあえなく剣の上から押し潰されて地面に倒れた。
「フン、どうした!もっと強い奴は居ないのか!」
戦闘で敵を倒して気持ちが昂ってきたのか、イオは声を上げて騎士達に向かって駆け出していく。
「ひ、ひぃいいいっ!?」
「来るなァッ!」
騎士達はイオが自分達に向かってくると分かった瞬間身を翻して逃走する。
しかし魔物であるイオの速度に人間が敵う道理も無い。
イオが騎士達に追いつこうとした瞬間、その腕の鱗に剣が叩きつけられて静止させられた。
イオを止めたのは、周りの騎士より少し装飾の付いた銀色の鎧を着た男だった。
「こ、これ以上私の部下に手出しはさせん」
「ほう……貴様が隊長か。少しは期待しているぞ」
隊長を名乗る騎士は震えそうになる足に喝を入れてイオに立ち向かう。
剣が振るわれ、それをイオは腕の鱗で受け止めて反撃をするが、隊長は剣を斜めに構えてイオの攻撃を受け流す。
確かに一般の騎士とは実力が遥かに違う。
続けてイオは攻撃を放とうとするが、突然膝に力が入らなくなり膝を着いてしまう。
「な、なんだ……?」
これにはイオだけではなく騎士達も驚いている。
今まで圧倒的な力を誇っていたドラゴンが突然膝から崩れ落ちてしまったのだ。
しかし、この力の抜け方はイオには少し心当たりがあった。
(まさか……先ほどのダメージがまだ抜けてなくて、ぶり返したのか!?)
青年との戦闘で、顎に喰らったメイスの一撃は強力だった。
あの時は全身から力が抜けてしまったのだ。
例え回復したとしても、完全に回復した訳でもなかったのだ。
「も、貰ったァあああああああ!」
隊長はこれを好機と見て剣を大上段に振り上げる。
ドラゴンの鱗や甲殻は唯の剣ではビクともしないが、肌が露出している部分は別だ。
人間と同様で柔らかい質感をしている。
(死ぬ……!?)
まさかイオも、1日で2回も死の恐怖を味わうとは思わなかっただろう。
しかしその剣は振り下ろされる事は無かった。
「Split the sky.(空を裂け。)」
青年の声が聞こえたと思った次の瞬間、ドッと音を立てて、隊長の首に矢が突き刺さったからだ。
矢が飛んできた方へ皆が視線を向けると、そこには弓矢を放った体勢の青年が、赤い双眸でイオを見つめていた。
そして青年の周りには、既に物言わぬ騎士達が10人近く倒れていた。
「あ、悪魔……!」
騎士の誰かがそう言った。
「わぁあああああああっ!」
「逃げろッ!悪魔に殺されるッ!」
1度崩れれば、後はもう騎士達が逃げ出していくだけだった。
青年もイオも、それを追おうとはせず草原の向こう側に消えていく騎士達の背中を見送るだけだった。
「……終わったか」
そう呟くと、青年は弓を後ろ腰に収め、地面に刺していた長槍を背中に収め、イオの元へと歩いてきた。
「動けるか?まだダメージが抜けてなかったみたいだな」
「……くっ、足に力が入らん」
幾ら力を込めようとしてもイオの意思とは反対に力は抜けてしまう。
イオも苛立ち始めた時、青年は片手をイオの肩に回し、もう片手を膝に回して抱え上げる。
所謂、お姫様抱っこだ。
「お、おいっ!?いきなり何をする!?」
露骨に顔を赤く染めてイオはうろたえるが、青年は気にした様子も無くイオを抱えたまま先ほど村人が逃げていった方向へと足を進める。
「お、降ろせ!1人で歩ける!」
「嘘だろう。気にしなくても、お前をどうこうする心算は無い」
「う、ぐ……!」
イオは今までに無かった羞恥から顔を更に赤くする。
こんなところを誰かに見られたら、死んでしまいたいくらい恥ずかしいと思いつつも、自分で動けない今は青年に従うしかない。
しかしイオは、恥ずかしいと思う反面で何か今までには無かった感覚が胸に生まれていた事に、この時はまだ気がついていなかった。
-Rebel- 反逆者と魔物娘
-ドラゴンの章2- 了
そんな街道を歩く2つの人影。
1人はドラゴンのイオ、もう1人は蒼いフルプレートメイルにユニコーンのような角が生えた兜を装備している、巷で『死人喰らい』と呼ばれている青年だった。
2人はイオの住処である山を降りてこれから青年が依頼を受けた者達が居る場所へ戻る途中なのだ。
しかしイオはムスッとした不機嫌そうな顔をしている。
「おい、移動の時くらい兜を外したらどうだ?」
「……」
「おい、聞いているのか!」
先ほどから青年に兜を外すように言うのだが、青年は全く意に介さず無視し続けている。
また無視をされた事でイオのイライラは更に募っていく。
「……そう言えば、お前が私のブレスを跳ね除けた魔法は何なんだ?」
兜の話は無視されるので、少し話題を替えて見ることにしたらしい。
「対竜魔法の1つで、竜の攻撃と防御に対して短時間の恩恵を受けれる魔法だ。竜の鱗の防御を無視させる法を武器に纏わせ、不可視のブレス避けの結界を展開させる超高等魔法だ」
「そんな魔法……何処で覚えた?」
「……」
漸く質問に答えたと思ったら、すぐに黙ってしまう。
自分の素性に関わる事は話したくないようだが、そんな事が分からないイオは更にイライラを募らせていく。
「いい加減に……!」
「見えたぞ」
イオが青年に怒鳴ろうとした瞬間に、青年がポツリと呟く。
草原の向こう側に、おそまつなテントが幾つか張られている。
更に近づいていくと、そのテントの周辺には人間は50人ほど、魔物が20人ほど居た。
その人間や魔物達は青年に気がつくと慌てた様子で駆けつけてきた。
「あ、あんた……大丈夫だったのかい!?」
「見ての通りだ。ドラゴンもこの通りあの住処から出てきたし盗賊も村にはもう居ない」
どうやらこの人間と魔物達があの村から出て行った者達のようだ。
青年の報告を聞いた瞬間、村人からおおおおおっ!という歓声が上がった。
テントの中から外の騒ぎを聞きつけた人々が出てきて青年とイオは取り囲まれてしまう。
「やっぱアタシの目に見間違いは無かったね!」
「いやー、これでやっと村に戻れるよ!」
「畑は大丈夫かな?結構手入れをしていないから作物が駄目になってるかも…」
「とにかく良かった!」
ワイワイガヤガヤと2人を取り囲んで盛り上がっていく村人をどうしていいか分からず、イオは戸惑う。
「お、おい……こいつ等どうすれば…」
「……何か来る」
「え?」
イオが戸惑い声を掛ける中で、青年は神経を集中させて周囲に気を配る。
何かを感じたのだ。
「There to capture all the eyes of a hawk in the sky.(鷹の目、空に有りて全てを捉える。)」
青年の右手に魔方陣が浮かび上がり、そこから光の鳥の様な生物が空に向けて発射される。
周りに居た村人は青年の魔法に驚き、青年が放った光の鳥を目で追う。
そして青年は光の鳥が空で浮遊しているのを確認すると、兜から見える赤い双眸を閉じる。
「……全員すぐにこの場から離れろ」
突然の言葉に周囲の人々は訳が分からず首を傾げる。
「此処からそう遠く無い場所に教団の駐屯地がある。どうやら俺の位置を嗅ぎつけた様だな。斥候が俺達を見張っている……急げ」
ザワザワと慌て、動揺してる村人達はすぐに行動ができない。
「急げ!でないと全員奴等に殺されるぞ!」
青年がそう怒鳴った事により、村人達は散り散りになって荷物を纏め始める。
しかし青年は兜の下で舌打ちをした。
「気づかれたか……Release.(解除。)」
空を飛ばせていた光の鳥が一気に地上に降下して青年の腕の魔方陣に収まる。
「……おい、一体何があったんだ?」
流石にイオも状況が飲み込めず、青年に尋ねる。
青年は戦闘の準備の為にか装備していた武器のチェックをしている。
「遠見の魔法を使った。空から奴等を発見した……俺は反魔物領では指名手配されているからな。奴等が追ってきたんだろう。お前も早く行け」
「お前は如何する気だ?」
「奴等の狙いは俺だが、奴等が魔物を前に黙っているとも思えない。自分のケツは自分で拭く」
青年は長槍を背中から外し、草原の向こう側を見つめてその場に立ち止まる。
その背中を見た時、イオは頼りがいを感じたが、同時に言い切れぬ不安感を感じていた。
「……フン!ドラゴンたる私が人間相手に逃げるなどあり得ん!それにさっき言ったばかりだろう!」
イオは青年の横に並んで腕を組む。
「私が守るとな!」
「……お前も追われる身になるぞ」
「人間如きに私が負けたり、捕らわれたりするものか」
青年は、さっき俺に負けたばかりだろうと思ったが、火に油を注ぐ事になるだろうと思い踏みとどまった。
そして、周りの村人達が荷物を纏めて村の方へと後退すると、草原の向こう側から白い鎧を纏った教団騎士達がやって来る。
その数は、騎士と魔導士が20人ずつ程度だ。
数を確認した青年は長槍を構えて呪文を紡ぐ。
「Focusing icy cold case, here.(凍てつく冷気、此処に集束せよ。)」
すると青年とイオの周辺に冷気が集まってくる。
青年は詠唱を続け、それに気がついた騎士達が接近して来ようとし、魔導士も詠唱を始める。
「Familiar with such as shield to protect us at.(時に我等を守る盾と成れ。)」
教団の魔導士達から放たれた魔法の炎が迫るが、冷気は地面に集まり驚くべき速さで氷を形成していき、氷の壁を青年の目の前に作った。
ゴォオオオオオオオっと炎と氷がぶつかり合い、互いが互いを溶かし、消していくが炎はその内消えてしまう。
炎によって氷の壁は半分程度溶かされたが、残っていた氷も再び冷気へと戻っていく。
「Spear at the enemy and avenge skein.(時に敵を打つ槍と化せ。)」
冷気は青年たちの元から魔導士達の足元へと移動し、一瞬にして今度は幾重も氷の槍を地面から生やした。
身体的能力に乏しい魔導士達はそれを避ける事ができず、腕や足に突き刺さっていく。
「うぐっ!?」
「ぐっ…あぁああああっ!」
傷口を押さえてその場に蹲る魔導士達を確認すると、青年は長槍を構え、やはり驚異的なスピードで向かって来る騎士達を迎え撃った。
イオも負けれられないとばかりに騎士達を迎える。
まずイオは適当な騎士に近づくと、振り下ろされる剣を腕の鱗で易々と防いで反対の手で殴ると、騎士の鎧は凹みあっさりと吹き飛んでいく。
後ろから近づいてきた者にも尻尾をしならせて一撃。
あっという間に2人を戦闘不能とした。
青年は長槍を振るい、騎士とうち合っている。
ギィンという耳を劈く金属音を響かせて騎士の振る剣を防御すると、長槍を回転させて騎士の後頭部を柄の部分で強打する。
後頭部への痛みで隙を作った騎士の僅かな鎧の隙間を長槍で突くと、騎士が下に着ていた鎖帷子を物ともせずに長槍は騎士の腹に風穴を開けた。
そして貫いた騎士を長槍に刺したまま自分の右側へ移動させると、次の瞬間にはその騎士の鎧と身体に矢が次々と刺さっていく。
他の騎士が弓で青年を狙ったのだ。
尤も、青年は騎士の身体を盾として難を逃れたが。
イオに対しても矢が放たれるが、イオはそれに気がつくと口から息を吸い込みそれを思い切り吐き出すとドラゴンの炎のブレスが吐き出され、向かって来る矢の全てを当たる前に焼き尽くして落とした。
更に矢を落とすとイオは地面を蹴って近くに居る騎士に対して爪での攻撃をくり出す。
「くっ!」
騎士は素早いイオから逃れる事ができないと判断したのか、剣を横に構えて爪を受け止めようとする。
しかしドラゴンたるイオの力は人間がまともに受け止められる力ではない。
騎士はあえなく剣の上から押し潰されて地面に倒れた。
「フン、どうした!もっと強い奴は居ないのか!」
戦闘で敵を倒して気持ちが昂ってきたのか、イオは声を上げて騎士達に向かって駆け出していく。
「ひ、ひぃいいいっ!?」
「来るなァッ!」
騎士達はイオが自分達に向かってくると分かった瞬間身を翻して逃走する。
しかし魔物であるイオの速度に人間が敵う道理も無い。
イオが騎士達に追いつこうとした瞬間、その腕の鱗に剣が叩きつけられて静止させられた。
イオを止めたのは、周りの騎士より少し装飾の付いた銀色の鎧を着た男だった。
「こ、これ以上私の部下に手出しはさせん」
「ほう……貴様が隊長か。少しは期待しているぞ」
隊長を名乗る騎士は震えそうになる足に喝を入れてイオに立ち向かう。
剣が振るわれ、それをイオは腕の鱗で受け止めて反撃をするが、隊長は剣を斜めに構えてイオの攻撃を受け流す。
確かに一般の騎士とは実力が遥かに違う。
続けてイオは攻撃を放とうとするが、突然膝に力が入らなくなり膝を着いてしまう。
「な、なんだ……?」
これにはイオだけではなく騎士達も驚いている。
今まで圧倒的な力を誇っていたドラゴンが突然膝から崩れ落ちてしまったのだ。
しかし、この力の抜け方はイオには少し心当たりがあった。
(まさか……先ほどのダメージがまだ抜けてなくて、ぶり返したのか!?)
青年との戦闘で、顎に喰らったメイスの一撃は強力だった。
あの時は全身から力が抜けてしまったのだ。
例え回復したとしても、完全に回復した訳でもなかったのだ。
「も、貰ったァあああああああ!」
隊長はこれを好機と見て剣を大上段に振り上げる。
ドラゴンの鱗や甲殻は唯の剣ではビクともしないが、肌が露出している部分は別だ。
人間と同様で柔らかい質感をしている。
(死ぬ……!?)
まさかイオも、1日で2回も死の恐怖を味わうとは思わなかっただろう。
しかしその剣は振り下ろされる事は無かった。
「Split the sky.(空を裂け。)」
青年の声が聞こえたと思った次の瞬間、ドッと音を立てて、隊長の首に矢が突き刺さったからだ。
矢が飛んできた方へ皆が視線を向けると、そこには弓矢を放った体勢の青年が、赤い双眸でイオを見つめていた。
そして青年の周りには、既に物言わぬ騎士達が10人近く倒れていた。
「あ、悪魔……!」
騎士の誰かがそう言った。
「わぁあああああああっ!」
「逃げろッ!悪魔に殺されるッ!」
1度崩れれば、後はもう騎士達が逃げ出していくだけだった。
青年もイオも、それを追おうとはせず草原の向こう側に消えていく騎士達の背中を見送るだけだった。
「……終わったか」
そう呟くと、青年は弓を後ろ腰に収め、地面に刺していた長槍を背中に収め、イオの元へと歩いてきた。
「動けるか?まだダメージが抜けてなかったみたいだな」
「……くっ、足に力が入らん」
幾ら力を込めようとしてもイオの意思とは反対に力は抜けてしまう。
イオも苛立ち始めた時、青年は片手をイオの肩に回し、もう片手を膝に回して抱え上げる。
所謂、お姫様抱っこだ。
「お、おいっ!?いきなり何をする!?」
露骨に顔を赤く染めてイオはうろたえるが、青年は気にした様子も無くイオを抱えたまま先ほど村人が逃げていった方向へと足を進める。
「お、降ろせ!1人で歩ける!」
「嘘だろう。気にしなくても、お前をどうこうする心算は無い」
「う、ぐ……!」
イオは今までに無かった羞恥から顔を更に赤くする。
こんなところを誰かに見られたら、死んでしまいたいくらい恥ずかしいと思いつつも、自分で動けない今は青年に従うしかない。
しかしイオは、恥ずかしいと思う反面で何か今までには無かった感覚が胸に生まれていた事に、この時はまだ気がついていなかった。
-Rebel- 反逆者と魔物娘
-ドラゴンの章2- 了
12/08/11 17:44更新 / ハーレム好きな奴
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