読切小説
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精霊王の記録
現在地-何処かの荒野-詳細不明

俺の名はディメント・ラティール。

愛称はディンと言い、親しい奴にはそう呼ばせている。

そして、今の世は魔物に溢れ、教団は殺戮を繰り返し、山賊が跋扈する…。

「なのにこの旅路は何と穏やかな事だろうか」

そう、何と穏やかな…

-ドォン-

突如この荒野に響く爆発音…荒野の向こう側に火柱が見える。

恐らく誰かの魔法だろう。

『うわー、結構強力な魔法だね』

俺の傍にフワリと浮かぶ、喋る緑色の球体。

大きさは俺の拳大だ。

「興味あるのかアニマ?」

俺はアニマと呼んだ緑色の球体に声をかけると俺の周りをう〜んと唸りながら飛び回る。

『しかしあの規模の魔法が放たれたという事はそれほど激しい戦闘が行われているという事でもあります…私は行かない方が賢明だと思いますが…』

続いてどからともなく現れる喋る青い球体。

『えー?面白そうだから行ってみようよー、きっと面白い展開になるよー?』

『アニマはディン様の身の危険を考えなさ過ぎます!万が一の事があれば…』

アニマが行きたいと言うのに対して青い球体はそれに反対意見を出す。

俺としてはどっちでもいい。

『その万が一の時にはアタシ達が助ければいいんだよ。その為にアタシ達が付いて来てるんだしな』

3つ目の球体の色は赤。

アニマ達の討論に意見を出すと、青い球体は起こったように激しく上下に動く。

『フラマまで!』

『煩いなーアクアは…そんな性格だからディンが来るまでパートナーが居なかったんだよー?』

『余計なお世話です!』

ギャーギャー騒ぐ3つの球体を尻目に俺は荒野の向こう側を見据える。

未だに戦闘は続いているようで先ほどから何度か金属がぶつかり合う音と魔法が放たれる音が聞こえてくる。

『テラは如何思うー?』

アニマは突如現れた4つ目の茶色い球体に向けてそう聞いた。

『ん…ますたー、必ず守る…』

『そんな…テラまでぇ…』

他の3つの球体が全員自分とは違った意見を出したせいでアクアと言う名の青い球体は力なくフワフワと高度を下げる。

俺はそれを優しく手の平で受け止めてやる。

「はは…アクアは俺の事を心配してくれてんだろ?なら落ち込む必要なんて全然ねぇよ」

『ディン様…!』

じーんという擬音が聞こえそうなほどアクアが感動しているのが分かる…アクアは少し世話焼きで心配性だが全部俺の事を思っての事だからな。

「じゃ、危ない時はよろしく頼むぜ…アニマ」

『りょーかいっ!』

瞬間、俺の周りを爆風が包み込み俺の体が空に浮き上がる。

そして俺達は上空を移動し、戦闘が行われている場所の上空へと辿り着いた。

其処には白い軽鎧に身を包み、美しい金髪にまだ幼さの残る顔立ちの少年とそれを守るように戦う騎士達だ。

それに対するは身長がいやに低い…一見すると子供に見える魔法使い達で、魔法の嵐を騎士達に浴びせている。

あれは恐らく魔女と呼ばれる魔物だろう。

その魔女の中に、より一層身長の低く、頭から山羊の角を生やした幼女が1人混ざっている。

あれはバフォメット…魔女達を率いてサバトなる怪しい集団を統率している高位の魔物である。

何度も放たれる無数の魔法を受けて騎士達はどんどん倒れていっている…このままでは勝ち目は無いと判断した騎士の隊長らしき人物は残っている部下を引き連れて逃げ出したようだ。

賢明な判断だ。

あのまま戦闘を続ければ全員気絶させられてサバトに拉致されていた所だったろう。

魔女達は気絶させた騎士達を下着姿にすると縄で縛り始めた。

あのまま連れて帰ってサバトでイロイロするのだろう。

「どうやら激しい戦闘所か一方的な殺戮ゲームだったみたいだな」

『そうみたいだな…にしてもあの人間達は何だったんだ?』

赤き球体であるフラマも気になったようだが今のは恐らく…

「ま、あっちの方は教団の騎士だろうな…中央で守られていた少年は勇者だったのかもしれないって所か」

憶測ばかりだがあながち間違いでは無いだろう。

これでも教団に潜入した事があるから詳しいし。

まぁ何故潜入した事があるかってのは置いておこう…今は関係ない。

『…どうする?』

テラに尋ねられて首を捻る。

この戦闘は無事終了したみたいだし俺の旅の目的は特に無いからな…サバトの連中に着いていってもいいか。

「アニマ、降りるぞ」

『あいあいさ〜』

俺を空中に浮かばせていた風が徐々に弱くなると、それに比例して俺の高度も落ちていきゆっくりと地面に着地した。

すると魔女達は警戒して俺に杖を向ける。

「動かないで下さい!」

「何者ですか!?」

そう口々に言うと俺は両手を上げて無抵抗なのを証明する。

「俺は唯の旅人って所だ…今の戦闘を見させてもらってな、安全面を考慮して街まで付いて行っていいかい?」

先ほども言った通りこの時代は魔物が溢れ教団も好き勝手し山賊なども大勢いるので1人旅と言うのは相当危険なのだ。

俺は1人じゃねーし、あの力があるから負けねーけど。

「如何したのじゃお主等?」

すると奥の方から先ほどのバフォメットが現れる。

「あ、バフォ様…」

するとバフォメットは俺を見るなり何故か目を輝かせた。

「ウホッ、良い男なのじゃ!」

正直引いた。

紫がかった短髪に吸い込まれるかのような紫の目で、顔立ちは整っているとよく言われるが、流石に初対面なのにこんな事を言われるとな…。

「のうお主サバトに入らぬか!?」

俺の腕を掴んでいきなりの勧誘だが俺の周りにアニマとアクア、フラマとテラがポウっと現れる。

『止めろ止めろ!ディンはアタシ達のモンだ!手ェ出すな!』

『そうです…ディン様はもっと大人な体系が好きなんです!』

『ん…渡さない…』

『そうだそうだー!人の物に手を出すと吹き飛ばすぞー!』

俺の周りに急に現れた球体にバフォメットも魔女達も目をまん丸にして驚いているようだ。

「お、お主精霊使いじゃったのか!?」

精霊使い…それは自然の元素が魔力と結びついて意思を持った精霊と人間が契約する事によって自身もその力を行使できる者の事を言う。

そう、アクアは水の精霊ウンディーネで、アニマは風の精霊シルフで、フラマは火の精霊イグニスで、テラは土の精霊ノームだ。

「んー、まぁあそう言うことになるな」

『それだけじゃねぇ!ディンは精霊使いの中の精霊使い…巷じゃ精霊お…』

「わー!待て待てフラマ!」

それを言うと周りの目…特に魔物の目つきが変わるから黙っててくれぇえええええええ!

フラマを両手で包んで抑えると、手の平にほのかな暖かさを感じる。

『むわっ!?な、何すんだよディン!?』

「その事は黙ってろって何度も言っただろ…!」

『うぅ〜…』

小声でそう言うがフラマは嫌そうに唸る。

「ど、どうしたのじゃ?」

「いや何でもない、気にするなよ」

無理矢理話をぶった切ってこの場を収める。

「で、お主は何者じゃ?」

「俺は精霊使いで唯の旅人のディメント…ついて行っていいか?」

そう言って手を差し出す。

「普通精霊使いを唯の旅人とは言わんのじゃがな…まあこの先にある街までなら構わん、ワシはバフォメットのフィオンじゃ」

そしてモフモフとした手で握り返してくる。

あ、結構気持ちいいかもコレ。

そうして俺達はサバトに混じって街へ向かう事となったが、道中魔女に襲われかけてその度に精霊たちに助けられるという珍事があったのは完全に余談だ。



現在地-商業都市カカロン-西門

漸く辿り着いた商業都市…此処のギルドで仕事探さないとなー。

「ありがとなフィオン、お陰で道中退屈しなかったよ」

「うむ、もし何か用があればこの街のサバトに来ると良いぞ…入会も待っておるからな♪」

「考えとくよ」

渇いた笑みを浮かべて俺は雑踏の中へと足を進めた。

とにかく仕事探さないとな…金がもう殆ど底を付いている。

「巷じゃ王なんて呼ばれてるけど俺の何処が王なんだかさっぱり分からねぇな…」

『でもさ、何でディンはあの異名で呼ばれるの嫌なの?』

アニマの問いは至って普通だ。

殆どの奴等は自分に異名が付いたならそれを誇りに思いそう名乗るだろう。

元々分かりやすいように異名が付くんだしな。

だが俺のは大袈裟過ぎる感じがする。

「目立ちすぎるだろ?仮にも王って呼ばれるのは好きじゃねぇし…」

『しかしディン様がそう言った存在である事もまた事実ですよ』

フフっと笑いながらアクアは俺の頭上を飛びまわる。

「ったく…とにかく仕事だ仕事」

俺は褒められたのが少し照れくさくてそう言って誤魔化しギルドの中へ入った。

中には荒くれ者の大男や、駆け出し冒険者の様な青年も居ればそれぞれのパートナーの魔物も居る。

俺はギルドの依頼書が張られているクエストボードを見る。

『ますたー、何受ける…?』

「鍛冶屋の雑用手伝い…落とした眼鏡を探す…店の宣伝…」

『碌な依頼がねぇじゃねえか』

依頼書に書かれた内容は報酬の安い物ばかりで受けても1晩宿に泊まれば消えてしまいそうな額ばかりだ。

旅をするのだからもう少し稼がなければならない。

『ディン様、此方の依頼は如何ですか?』

アクアがフワリと浮いて俺を導いた依頼書には盗賊討伐の依頼だった。

報酬金額は…うん、これなら暫く持つな。

「うし、ほんじゃこれで行くか」

ベリっと依頼書をクエストボードから剥がすとカウンターで受付をしている女性に渡す。

「この依頼を受けたい」

「はい、お名前は?」

受付嬢の人は羽ペンにインクを付ける。

「ディメント・ラティール」

「はい、ディメント・ラティールさんですね」

サラサラと依頼書に俺の名前を書き込んでいくと、帳簿の様な物にも書き込んで俺に微笑んだ。

「はい、確かに…では盗賊討伐、頑張って下さいね」

俺は早速ギルドから出ると依頼書に書かれていた場所を思い出す。

「場所は此処から少し離れた霧の谷…ミストバレーか」

霧のかかった谷で、1歩間違えれば崖から落ちて奈落の底に落ちると評判の死の谷だが、盗賊には格好の隠れ場所だろう。

そこでは行方不明者が出ても事故だと思わせれるからな…長期間潜伏していたのだろうが勿論そんな谷を通る奴は少ない。

餌が居なくなってとうとう人の目の届く所にまで進出してきたのだろう。

情報によれば人数は10数人で剣や短剣の連携攻撃が得意らしい。

そしてミストバレーに向かう為に東門を潜る。

しかしその時にドンっと肩を誰かにぶつけてしまう。

カカロンは商業都市なので昼間の内は門の付近でも市場が広げられるほど人通りが多い。

そのせいでぶつかってしまい、相手は倒れてしまった。

「おっと…悪かったな、大丈夫か?」

「あ、はい」

手を差し出すとその手を取って立ち上がる相手は少年だった。

金髪に幼さの残る顔立ち…さっきの教団の勇者の奴だ。

どうしてコイツがこんな所に?

「此方こそすいません…では僕は急ぐので…」

何かが入っている袋を大切そうに抱えて街へ入っていく…一体何なんだ?

『ますたー、あの子…』

『さっきサバトと戦闘をしてた勇者の子じゃないの?親魔物領に何の用だろ?』

「さぁな…ま、俺達は依頼を先にする方がいいだろ」

疑問を抱えつつも俺達はミストバレーへと進んでいくのだった。



現在地-霧の谷ミストバレー-詳細不明

ここら辺だな。

目撃情報によれば奴等はミストバレーに入って来た者を、男なら殺して身包みを剥ぎ、女や魔物なら捕らえて犯して売りつけるのだそうだ。

だから俺が此処に居ればその内向こうから近寄ってくるだろう。

そんな感じで立ったままジッとしていると周りから足音が聞こえる。

そら来た。

だが回りは霧で俺の視界は殆ど塞がれている。

「さ、始めるぞアニマ」

『あいあいさー!』

突如、風がアニマを中心に一箇所に集まり渦を巻く。

そして内側から渦が破裂すると、そこには緑色の肌に緑色の髪をした風の精霊シルフであるアニマが居た。

「よーし!やっるぞー!」

子供の様に無邪気で、澄み切った声。

これがアニマ本来の姿だ。

「「吹き荒れる風は突風の如し!ゲイル!」」

2人で同時に詠唱して背中合わせに両手を前に突き出すと、その方向に突風が吹き荒れ、霧を吹き飛ばす。

「うわっ!?なんだコリャ!?」

「お頭ぁ!奇襲失敗ッス!」

何の前触れも無く吹き荒れた突風に、盗賊は全員驚いている。

「「研がれし風は刃の如く!ヴォート!」」

真空の刃を生み出しそれを前方に放つと、盗賊の1人を切り刻む。

アニマも同じく1人倒す。

俺達は修行の中でカンペキに息を合わせて戦う事が出来る。

この大陸1と言っても過言では無い筈だ。

「「荒れる風は爆風の様に!ブラスト!」」

俺達は盗賊に反撃させる暇を決して与えずに両手の平を向け合い風を圧縮する。

そしてそれを解き放つと、俺達を中心に上下左右あらゆる方向に爆風が吹き荒れて盗賊を吹き飛ばした。

「チィ…役に立たない野郎共だ」

唯一吹き飛んでいなかったのはかなりの巨体に動物の毛皮を着て巨大な斧を持った大男…頭と呼ばれていた男だ。

「アンタが頭だな?首はアンタのだけで十分だ…ぶっ飛ばしてやるよ」

「そうだそうだ!私とディンにかかればあんたなんて楽勝だー!」

「言ってくれるじゃねぇか…逆に俺がオメー等をぶっ殺してやる!」

振り上げられる斧を察知して俺とアニマはそれぞれ左右に跳んで避ける。

「「巻き起こす風は強く!より強く!ブロウ!」」

左右から強力な風の風圧で押しつぶしてやろうと、2人でアイコンタクトして強烈な旋風を放つ。

「ぬがっ…!」

山賊の頭はその風を真正面から受ける。

「うぬぅううううううう…ぐぅぉおおおおおおおおおおおお!!!」

獣の様な叫び声と共に斧を振り回すと、その風圧で風はあらぬ方向へと吹き逸れてしまった…。

「おいおい…あの技を腕力だけで破るのかよ」

「効いたぜ…だが俺はこの程度じゃあ倒れやしねぇ!」

「おっと!」

斧が薙ぎ払われる前に俺は自分で行使する風の力によって空中に浮かぶ。

「オラァ!」

「うわちゃ!」

アニマも狙われたので斧を避けると俺の方まで飛んでくる。

「降りて来いオラァ!」

盗賊の頭は空中に居る俺達に足元にある石を投げつけてくるが、風のバリアを張って防御する。

しかしあれを防がれると些か攻撃力不足か…。

「ねぇディン〜、どうするの?私の風が弾かれたら…」

「仕方が無いな…フラマ、手ェ貸してくれ」

『おうよ、任せときな』

風魔法の専売特許は斬撃とスピードだ。

それに対し火の魔法の専売特許は火力と破壊力。

フラマの赤い球体は突如として燃え上がりどんどん大きくなっていく。

「ウゥオオオオオオオオオオオオ!」

そしてその火がどんどん膨れ上がったと思ったらそれは爆散すると、中から赤いショートカットの髪をした真っ裸の女性が現れる。

「へへへ…さぁ、覚悟しろよ!」

炎の様に猛々しくも頼りになる声。

これが火の精霊イグニスのフラマの本当の姿。

「行くぞ」

「任しときな!」

俺は高度を下げると盗賊の頭に突貫していく。

「ゼェア!」

振り下ろされる斧を左腕で受け止める。

勿論唯の腕ではなく、強風を纏わせた腕で風の押し戻す力と拮抗して刃はギリギリと音を立ててそれ以上進まない。

「燃えろ燃えろ地獄の業火!終焉の笛を鳴らし灰と帰せ!インフェルノ!」

「ぬがぁあああああああああああっ!」

俺は右手の平に圧縮した赤黒い炎を突き出すと、巨大な炎になって山賊の頭を吹き飛ばした。

全身に火傷を負いながらも、山賊の頭はまだ立ち上がる…タフだな。

「ち、畜生がぁ…!」

最後の力を振り絞ってか、俺に斧を投げつける。

だがその斧をアニマが術で吹き飛ばし、俺を傷つけることはできなかった。

すると盗賊の足元に魔方陣が現れる。

「お前等は今まで何人もの命と人生を奪っているんだ…観念しな!」

フラマがそう言うと手足に装着されているブレスレットとアンクレットの様なアクセサリーから炎が吹き出る。

「我が打ち決めし領土で炎の柱よ燃え上がれ!リプカ!」

魔方陣から上空に向けて炎が燃え上がる。

盗賊の頭は、その高熱の柱に飲み込まれて悲鳴を上げる暇も無く息絶えたのだった。

俺は静かに足を進め、風の刃で盗賊の頭の首を切り、頭を袋の中にしまった。

「任務完了だ…アニマもフラマもご苦労さん」

「いいよ別にー、でもその代わり今夜は楽しませてね?」

「勿論アタシもな」

少し照れくさそうに、だがニヤニヤとした笑顔でそう告げてくる。

たはは…俺がインキュバスになるのも時間の問題だな…。

『ディン様!待って下さい!』

「ん?どうしたアクア?」

突然アクアに呼び止められてアニマとフラマの顔が不機嫌そうに歪む。

「なんだよアクア、お前は今日何もしてないだろ?だったらアタシ達に譲ってくれよ」

「そうだそうだー!」

アクアはよく俺と他の奴が交わっていると自分も入ろうとしてくる。

なので2人共またそれだと思ったのだろう。

『そうじゃありません!ディン様、左腕から血が…!』

ん?本当だ…さっき斧を受け止めた時に少しだけ斬られたみたいだ。

まあかすり傷みたいなもんだし唾でも付ければ治るだろう。

『ディン様!私が治療します!』

「お、おい…こんな事で力を使うことも…」

俺が言い切る前にアクアの青い球体に水が集まり大きくなっていく。

そして水が弾けて現れたのは、長い青い髪に青い肌…水で体が構成されている様な美しい女性だ。

「ふぅ…ディン様、傷口を見せて下さい」

優しく、全てを包み込むかのような声。

ウンディーネであるアクアの本当の姿。

こうなっては仕方が無いので俺は傷口をアクアに見せる。

「では…何よりも澄み切った潤いに水…彼の者に施しを…クリスタロス!」

空気中や霧の水分が俺の傷口へと集中して包み込むと、徐々に傷口が小さくなり最終的には傷が出来たことが嘘の様に元に戻っていた。

「やれやれ…俺も水の術なら使えるからお前がやるまでもないだろう?」

「私がやりたいだけですから…」

そう、アクアは俺に奉仕する事が最大の悦びとなっていてそれこそ夜の奉仕など献身的でとてもイイ。

「ま、とにかく帰るか…ん?」

周りに吹き飛ばした筈の霧が再び充満し始めるのでそろそろ帰ろうとするが、ある事に気づく。

『…』

「どうしたテラ…嫌に不機嫌だな?」

テラから無言のプレッシャーを感じたのだ…。

『ますたー、私だけ…使ってくれなかった…』

成る程、仲間外れにされたとか思ってるんだな…。

「ははは、今日はな…じゃあ次の仕事の時は使ってやるからよ」

『むー、約束…』

「はいはい、分かった分かった」

苦笑いすると、フラマとアニマとアクアは再び球体の姿に戻り空中に浮かび上がると、俺も自分の術で空中に浮かぶ。

「そいじゃ戻るか」

風の力で空中飛行し、俺はカカロンを目指す事にした。

…が、暫く飛行を続けていると荒野の向こう側に何かが見えた。

白い服や鎧を身に纏う、魔物を嫌う集団。

「教団の騎士達か…?」

何故こんな所に…野営しているみたいだが…。

「アニマ、声を拾ってきてくれ」

『おーけー』

声は、空気中を伝わってきていると何処かの学者が言った。

ならばその空気を風で運んでくれば、ある程度離れた場所でも盗み聞きができるのではないか?

と考えて実験してみたら、案外出来たという。

距離は20メートルが限界なのでギリギリまで近づいておく。

口ぱくをしたと思ったら、数秒送れて俺の耳に声が届く。

「なぁ、今回の作戦は少し過激過ぎやしないか?」

「何を言っているんだ…穢れた親魔物領など滅んでも構わないだろう」

滅ぼすか…物騒な言葉だな。

「だが街そのものを焼き尽くすだなんて…」

「実行するのは勇者だ…彼なら目撃されてもそいつを始末できるしまずバレる事も無い…。そして燃える街にアレを解き放ち撤退する…我々のせいだと誰が分かる?」

「そ、そうだな…しかしアレを連れて行った奴等ば無事なのか?」

「さぁな…そろそろ作戦が始まる頃だ…荷物を纏めておけ」

そして話が途切れるが、正直こいつ等を始末してしまいたいな…。

『ディン様…?』

アクアの声が聞こえるが、俺は正直怒ってるんだよ…。

俺は急激に高度を下げて着地すると地面に手を着ける。

「大地よ、砕き散らして破壊しろ!ウィルダネス!」

突如、俺が手を着けた場所から地面が砕かれていき、徐々にその範囲と威力も大きくなり野営しているテントを吹き飛ばした。

「ぐぎゃああああああぁ!?」

「どわぁああああああああっ!」

テントと同時に吹っ飛んでいく騎士達…ザマァ見ろ。

まだ何人か残っているか。

「テラ!」

『ん…!』

テラの茶色い球体に地面の石や土が纏わりつきどんどん大きくなり、最終的には内側から破裂する。

そこから現れたのは茶髪の短い髪に、植物が生えたかのような穏やかな顔つきの女性…。

「ますたーの為に…戦う…」

のんびりとしつつ、力強い声のテラ。

これが土の精霊ノーム、テラの姿だ。

「ん…飲み込み、風化し、石と化せ…フォッシル」

テラは地面に手を着けると、剣を構える騎士が数人足元から地面に飲み込まれていく。

「う、うわぁ!?なんだこれはっ!?」

「助けてくれぇ!嫌だぁああああああああ!」

「ひぃいいいいっ!?うぶっ…あぐぅううう…!」

飲み込まれた騎士達は、化石となるまで地面から出ることは出来ないであろう…そういう深さまで飲み込む術だ。

だが残っている騎士達は怯むことなく俺達に矢を放ってくる。

「吊り上り、古の祭壇夢見て立ち誇れ!エピタフ!」

唱えると地面から石で出来た大型の石版の様な壁が出現して俺達を守る。

矢は全て壁に阻まれて落ちているようだ。

「決めるぞテラ」

「ん」

俺は詠唱の準備をすると、テラは自分の腕に土を纏わりつかせて手を大きくさせる。

その大きくなった拳を振りかぶり、矢が止まった時を見計らって石版を殴り、砕いた。

「降り注ぎしは岩の雨、流れ出るは敵の血液…不動の岩よ今敵に飛べ!ペトラ!」

砕かれた石版の破片と、辺りに転がっていた石礫は空中で1度静止すると次の瞬間には恐ろしい速度で騎士に向かって飛んで行き、その頭に当たった。

石の雨をその身に受けて、流石の教団騎士も全滅だ。

「…ふぅ、久しぶりに怒ったな」

「お疲れ…ますたー」

「おう」

俺を労ってくれるテラだが、まだこうしては居られない。

「カカロンに戻らないとな…既に手遅れかもしれないが行かないよりマシだろ」

「ん」

テラは球体に戻り俺は風の力で浮遊する。

そして全速力でカカロンに戻るために飛ぶのだった。



現在地-カカロン-大通り

side勇者・フェミリオ

僕の名前はフェミリオ・ソリティウス。

教団に選ばれし勇者の1人。

僕の故郷は反魔物領で、昔から魔物は悪い存在だと言われていた。

だから幼い僕等は勇者に憧れ、よく勇者ごっこをやった。

勝気のアストラルが勇者役で自他共に認める悪ガキのガミルが魔王役、他にも皆勇者の従者だったり魔物だったり…。

その中で僕は女の子にも見える顔のせいでお姫様役をずっとやらされていた。

女の子の服を着て、縄で縛られて皆の遊び小屋で閉じ込められていた。

でも勇者役のアストラルに助けられてハッピーエンドという御伽噺のような内容の遊びだった。

そして僕は、ある日僕は教団騎士の隊長に才能を見抜かれて教団に引き取られた。

正直勇者に憧れていた。

ずっと助けられる側だったから、今度は僕が誰かを助けたいと思った。

そして勇者となるべく訓練に励み、14歳になった先月に勇者になる事を許可されて、今回が初任務だった。

隊長からは引き離されたけれど、僕は勇者になった事がそれ以上に嬉しくてすぐ任務に出た。

しかし任務地に辿り着く前にサバトと呼ばれる幼女の姿をした魔法使いと戦闘になってしまい、呆気なく敗北した。

僕には参謀の人から新しい作戦を言い渡された。

それは街に火をつけると言うものだった。

それでは魔物だけじゃなく街の人々も巻き込むと反対したら、油ではなく数分で火が消える特別な液体を渡された。

これで擬似的な火事を起こして街が混乱した隙に、街を制圧するという内容だった。

それならと引き受け、袋に入れられた液体を路地に撒いて魔法で火をつけた。

しかし、それは普通の油であり火は瞬く間に燃え広がった。

街は炎の海と化し、僕は逃げていく人々を見ているしかなかった…。

「あ、ああ…!」

とにかく僕も逃げて参謀さんを問い詰めないと!

-ドガァン!-

木々が折れ、家が吹き飛び、現れたのは巨大な狼…。

普通の犬の10倍は大きく、僕はそれを唖然と見つめるしかなかった。

今の僕は潜入作戦なので鎧も無ければ剣も無い…戦う術など無かった。

巨大な狼はその鋭い牙を妖しく輝かせて僕を見据える…

「う、あぁ…!?」

逃げようとして、思わず尻餅をついてしまう。

「グルルルル…!」

「あ…ああぁ…うぁあああああああああああ!」

叫び声と共に、狼は僕に喰らい付こうと口を広げる。

「そこまでじゃ!」

しかし顔の横に火球が直撃して怯み、僕は九死に一生を得た…。

「第1分隊は消火作業!第2分隊と第3分隊は住民の避難!第4分隊は街の外に逃げ出した住民の護衛じゃ!」

僕の目の前に現れたのは、あの時の戦闘で会ったバフォメットだった。

「バフォ様は?」

「ワシがこの狼の相手をする…!手出しは無用なのじゃ!」

そう言うと空中に出現させた鎌を取り狼に向き直る…前に僕を見つけて驚く。

「お主…さっきの勇者じゃな!?アレは教団の仕業か!?吐くのじゃ!」

僕は胸座を掴まれるけどあの狼の事は知らないので答えようも無い。

「わ、分からないんだ…でも、この火は僕が…僕が…!」

「…もう良い…償いたいならば魔法であの狼を倒す援護をせい!」

「う、うん!」

自暴自棄になりかけるけど、まずはこの状況を何とかしないとと判断して、立ち上がって構える。

それにしても大きい…どこかの御伽噺に出ていたウルフ種の王、フェンリルみたいだ…。

でも魔物なら女性の姿をしている筈だし…どうなってるんだろう?

黒い黒い闇の様な体毛に首には赤い首輪が付けられているがこれを飼いならすことは到底不可能だ。

「くっ…敵を焼き尽くせ!ファイア!」

僕の手から放たれた火球は狼に直撃して黒い煙が出る。

「やった!?」

避けようともしない狼に僕は喜びの声を上げる。

思ったより速くないのかもしれない…!

「まだじゃ!攻撃の手を緩めるな!レイジングボルト!」

バフォメットは鎌の先から雷を放つと、煙の中の中の狼に直撃する音が聞こえた。

「やった!これなら…!」

彼女の魔法は、実際に浴びせられた僕なら分かるけど本当に恐ろしい。

あの魔法なら狼だって…

「グォオオオオオオオオオオオオオ!」

「ひっ!?」

鼓膜が破れそうな咆哮を耳にして思わず両手で耳を塞ぐ。

今の音圧だけで、狼を覆っていた黒い煙は吹き飛んでしまった。

僕は腰が抜けてしまい、立てなくなる。

「何をしておるのじゃ!座っておったら命はないぞ!」

そうは言われても、腰が抜けてては動けない…。

「ええい!喰らえ化け物め!」

彼女は鎌を振り上げると、無駄の無い動きで右前足を斬りつける。

が、その体毛と筋肉の前に刃は通らなかった…。

「な…ワシのシュバルツサイスの刃が通らんじゃと…!?」

その事には、バフォメットもかなり動揺しているらしい。

「グガァアアアアアア!」

「なっ!?ぐあっ!?」

そのまま前足で弾き飛ばされ、面白いくらい吹き飛ばされてしまった彼女は燃える家の壁に叩きつけられて漸く止まった。

「ぐ…き、効いた…」

背中を擦りながら起き上がろうとするバフォメットに、狼の追撃が迫る。

「よ、避けないと…!」

「分かっておる…ぐぅ!」

頭では避けないと駄目だと言うのが分かっているのだろうが、今のダメージは相当深かったらしく、その場で膝を着いて倒れる。

その間にも狼の牙は彼女を喰らい千切る為に迫っていく。

「止めろー!」

思わず叫んだが、当然止まる訳も無く…彼女は…。

狼は顔を上げると、今度は僕に振り向いた。

もう駄目だ…終わったんだ、僕の人生は…。

そう覚悟して目を瞑るが、何時まで経っても何も起こらない…?

「グギャアアアアアアアアア!?」

代わりに耳に入って来たのは、狼の苦しむような声だった。

ハッと目を開けると、僕の目の前には黒い服を身に纏った男の人がいた。

紫色の髪で彼の周りには4人の女がいた。

1人は水の様に青く美しく、1人は火の様に荒々しく勇ましく、1人は風の様に自由に軽やかに、1人は土の様に穏やかにしっかりと。

「お前等、時間を稼いでいろ」

「「「「了解!」」」」

彼は4人にそう指示を出すと、彼女達は狼と戦闘を始めた。

その間に彼は何をするのかと思ったら僕に振り返った来た…。

と、此処で気がついたのだが彼の腕には気絶したバフォメットが抱えられていた。

「お前は立てるか?」

「え!?い、いやその…こ、腰が…」

「腰が抜けたのか…だったらこっちに来い」

彼はバフォメットを背中に背負うような体制にし、服で固定すると、僕の体を横抱きにした。

「きゃあっ!?」

「おいおい女みたいな声を出すなよ…しっかり捕まっていないと落ちるぜ!」

瞬間、周りに風が吹き荒れて彼の体が宙に浮かんだ。

街をこうして見下ろすのは初めてなので、少し新鮮な感覚がする…。

「アクア!アニマ!お前らは足止めの準備をしろ!フラマとテラは2人を守りつつ迎撃!俺も加わる!」

僕を抱いたまま戦闘をするのか…?

そんな疑問もあったけれど、同時に僕を包み込んでくれる安心感を信じることにして、僕は彼の顔を見ていた…。



現在地-カカロン-大通り上空

sideディメント

まさかこんな所でディナイアルモンスターと出くわすとはな…。

今は考え事をしている場合じゃないな…唯でさえ2つの命を抱えてるんだ、油断したら死ぬ。

「赤の中の炎よ!紅炎となりて敵を燃やし尽くせ!クリムゾン!」

フラマの発射した真紅の炎は巨大な狼に激突するが、向こうは少し怯んだだけで弾き飛ばしちまった。

やはり強い…!

「燃えろ燃えろ地獄の業火!終焉の笛を鳴らし灰と帰せ!インフェルノ!」

赤黒い炎を放つが、狼は素早く動いてこれを避けた。

だが俺の攻撃は唯のフェイントに過ぎない、本命は…!

「輝く星、落ちる星、今流れ落ちて我が願いを叶えたまえ…!エストレア」

地面から繰り出した直径6メートルはある巨大な岩を持ち上げて空中に飛び上がるのはテラ。

そのまま上空から岩を全力で放り投げる。

「ギィイイイイイイガァアアアアアアア!?」

重力と勢いが上乗せさせられた岩の1撃に狼は膝を付く。

「フラマ!でかいのを頼む!」

「おう!勝利の弓!戦争の剣!飢餓の天秤!死の番人!全てを制すは黙示録に刻まれし業火のみ!メギドフレイム!」

狼の足元と頭上に巨大な赤い魔方陣が現れたと思ったらそれぞれから赤黒い炎の閃光が放たれる。

あの規模の術なら相当の傷を与えれるだろう。

暫くして術が終わったと思えば…狼はまだ倒れては居なかった。

「グギャアアアア!」

口を大きく広げたと思ったら口から炎を吐きやがった!?

慌てて急上昇して避けるが足に掠っちまった…。

右足大火傷だぜ。

「フーッ、フーッ…!」

だが向こうも確実に消耗している…そろそろやらないと街が消し炭になっちまうな。

「アクア!アニマ!そろそろ頼む!」

俺がそう呼びかけると、先ほどまで後ろに下がっていた2人は一気に前に出る。

「海流れし水は空気に混じり空へ旅立つ…」

「風動かし雲は天空へ舞い上がり振り落とす…」

「「水と風の力を使役し、今氷の力願う!コキュートス!」」

2人の術によって、狼の足は全て胴体まで氷付けにされてしまう。

「よっしゃぁ!」

俺は右手に4つの属性元素を集結させた紫色の光剣を生み出す。

「暴れるのが辛いなら…縛り付けられるのは辛いなら…俺がそんなしがらみぶった斬ってやるよ!だから早く目ェ覚ませコノヤロー!」

狙うのは首筋。

身動きできない狼は俺に口から吹き出した炎を放つが、右手の剣で切り裂くと、炎は四散する。

「でやぁあああああああああああああああああああああ!」

そのまま首筋に潜り込んで剣を叩きつける!

この剣の名前はカオス。

4つの属性を無理矢理凝縮した世界最強の剣と言っても過言ではない…。

そんな剣で斬られたモノは…唯では済まない。

次の瞬間、ボトリと地面に落ちたのは…狼が付けていた首輪だ。

勿論これを狙ったんだ、首を狙って失敗したなんてオチじゃない。

すると狼の動きはぴたりと止まり、少しずつ体が縮んでいき、最終的にはワーウルフになった。

「ふぅ…終わったか…」

今回は少し力を使いすぎたか?だあコイツの耐久力はかなりのモンだったしな…こりゃあ夜が大変そうだ。

こうして、カカロンの歴史に残る大騒動は終わった。



現在地-カカロン-簡易住宅地

あの後、街に燃え広がっていた炎はフラマが制御して規模を小さくし、アクアの水で消火した。

結構な力を使ったらしく魔力の供給と俺の術の行使に必要な4元素の力を受け取っておいたのだが、相変わらず4人とも最高だった。

アクアは献身的で俺に身を委ねて俺の希望には全て答えてくれる。この時に俺の右足の火傷も治してくれた。

アニマは悪戯好きで俺に何度も悪戯をしてくるが、それが気持ち良い。

フラマは普段は男口調で強がっているのにベッドに入ると情熱的且つマゾヒストの気をさらけ出す。

テラは穏やかだが段々と激しくなり、最後は俺に従順な土精霊ならぬ土奴隷となってしまう。

そして…俺は今簡易住宅街で表彰の真似事が行われている。

「えー、貴殿はカカロンの町だけではなく騙されていた勇者と暴走していたワーウルフまでも救い出した英雄である…」

この街の領主から表彰状を渡される…。

「では皆さん!このお方…精霊王様に盛大なる拍手を!」

はぁ、気が滅入る。

俺の正体がばれちまった。

アレだけの精霊の力を発揮したので朝方質問攻めに合ってしまい寝ぼけていたアニマがポロっと漏らしてしまったのだ。

俺は巷じゃ精霊王と呼ばれている。

その理由は、俺は精霊の力を通常の人間より遥かに通しやすい体質であり、通常より強力な術が使える。

更にアクア、アニマ、フラマ、テラは精霊の中でもかなり強い力を持っているのだ…。

そうしてある男を追う旅を続けていて、付いた異名が精霊王。

ハタ迷惑な話で、今まで様々な面倒事に巻き込まれてきた。

しかし昨日更に面倒事に巻き込まれ、解決したと思ったら更に面倒事が押し寄せてきた。

「兄様ー!ワシと結婚してくれなのじゃー!」

俺に飛びついてくるちっこい魔物。

バフォメットのフィオン…コイツは昨日気絶していたと思ったら、最後の1撃を与える前に気が付いて俺を見ていたらしい…しかもその時の顔に惚れたとか抜かしやがる。

「ディメント様!貴方のお陰で私は生きております…どうか私に恩を返させて下さい!」

更には昨日巨大化して暴れていた狼の正体であるワーウルフのポッチにもこんな事を言われてしまっている…。

そりゃ昨日の事を覚えているとは思ってたけどさ…。

「あーもー!収集がつかねーから向こうで話すぞ向こうで!」

表彰が終わり俺は自分にあてがわれたスペースに戻ると、そこにはアクア達がいた。

それと、あの勇者である少年フェミリオ・ソリティウスも一緒にだ。

「ディン様、お帰りなさいませ」

「ああ…で、そいつの処分はどうなったんだ?」

俺が表情を受けている間に裁判官と話し合いコイツの処分を決めていたそうだが、裁判官が居ない所を見るともう決定したのだろう。

「それが全部ディンに任せるってさー!英雄が救った命だから無下にはできないしって言ってたよ!」

俺の肩に乗るアニマはそう言うが、耳元で大きな声を出すなと何度言ったら分かるんだ。

フェミリオは俺に近づくと、彼は跪いて頭を垂れた。

「僕の命を救って頂いてありがとうございます…しかし今の僕には返せる物が無いのです…どうぞ好きに処分して下さい」

突然そんな事を言われるが、俺は目を瞑ってそいつに告げた。

「ならこの街の復興を手伝って、今回の教団の行動を忘れないようにしろ」

「なっ!?そ、それだけですか!?私の放った火のせいで…死人こそでなかったけれど怪我人が何人も…!」

反論しようとするが、こちとら男を虐めて楽しむ趣味は無い。

「だったら余計にこの街に尽くせ…お前はまだガキだし、それで良いんだよ」

俺は有無を言わさずそう告げると、フェミリオは涙を流して再び頭を垂れた。

「ありがとうございます…ありがとうございます…!」

涙を流しながら、フェミリオは何度も人形のように呟いていた。





あの狼に付けられていた首輪は、狂化の楔という魔具でありある男が開発した物だ。

効果は魔物娘に装着すると前魔王時代の姿になり、凶暴性や戦闘能力が何倍にも膨れ上がるものだ。

俺達は狂化の楔を生み出した男を捜す旅をしていたのだ。

まあこうしてカカロンの事件は終わった…かに見えたのだが、実際は違う。

俺は街を救ってくれた報酬という事でかき集められた多額の金を渡されたが俺が受け取ったのは盗賊討伐の分だけだ。

こんな状態の街から搾り取れるかバカヤロー。

そんな訳で俺はこの場所で暫く復興作業を手伝う事になった…。

ハァ、このままじゃアイツを見つけ出すのは随分と先になりそうだなぁ…。










かつて、精霊の力を常人以上に扱える男が居た。

その力を使い、人の為魔物娘の為に戦った。

その為か魔物娘に惚れられやすく、最終的には精霊の正妻の他に何人も愛人を持ったそうな。

彼が戦争に参加したり、教団と戦ったり、旅の途中で魔物に襲われたりという話はまたの機会にしよう。

後に人と魔物を救う彼の事を人はこう呼ぶ…



精霊神と…。
11/08/22 17:58更新 / ハーレム好きな奴

■作者メッセージ
なんて言うか…その、もう色々とスンマセンしった!

もう1作品の方をほったらかしにしてこんな暴挙に出るとは…。

今回の主人公であるディンもハーレム野郎です。爆発しろ。

因みに、4精霊とディン、精霊術の名前には色々と由来があるので興味のある方は感想に書き込んでくれればお答えします。

あ、後評判良かったら連載物にしようかとも考えております故票を下さい。

え?もう1つはって?

………一時休載?

あっ!ちょっと待って!そんな物で殴られたら俺死んじゃう!俺死んじゃうからぁああああああああああ!?

ガクッ…

<完>

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