初めての魔物はドラゴンで
「あれ?」
何で空が見えるんだ?
俺は確か倉庫の掃除をしてた筈なのに…。
「って仰向けなだけかよ」
俺の名前は葦野 尖。
黒髪、黒目、細マッチョで頭もそこそこ良くて面白いことが大好きな18歳。
足に刃を付けて戦う脚刀流の正式継承者。
これが俺のプロフィールだ。
上半身を起こして周りを見渡すと、そこは空と草原が広がっていた…。
「…落ち着け、俺は家の倉庫で掃除をしていて、足刀を見つけて装備…その後図鑑のような物を見つけて光に包まれて…駄目だ、これ以上は思い出せん」
立ち上がって身に着けているものを確認する…うん、服装は左袖だけ白い、黒い和服で黒い長ズボン、足には白地と黒空が装備されている…。
「何がどうなってんだ?」
さっきから疑問符ばかりだが、状況から考えると…
「本の世界に吸い込まれたとかって考えるのが一番簡単かね…」
どんな理屈でこんな所に居るのかは知らんが…
「面白そうだからありだな!」
幸い、身を守る手段はあるし、此処が本当にあの本の世界なら楽しみようはいくらでもあるか。
俺、面白そうな事大好きだし!
それにしても何もねーな…こういう時は街道でも探すか。
そう言う訳でとりあえず草原を歩いていくと何とか街道を発見できた。
「ま、面白そうだからって野たれ死ぬのはゴメンだしな」
そんなこんなで、俺は街道を進んでいった。
現在地-本の世界?の街道-道の真ん中
お、前方に山を発見!
木が生い茂っているな…何だか面白そうな匂いがするぜ。
「行ってみっか」
と言うわけで山に登ったのだが…
「雨かよ…雨宿り雨宿り」
木から木へと移りながら走り、雨を凌ぎながらどんどん山を登っていく。
来ている和服が少し濡れてしまうが問題ないだろうさ。
「ってアレ?」
いつの間にか山を降りてた…。
そう言えば俺はいつもそうだったな…学校に行こうとしたら何故か裏山にいるしコンビニに行こうと思ってたら何時の間にか内田さんの家で茶をご馳走になってたし…。
まったく、地形って本当は毎日変化してんじゃねえの?
ま、そんなことよりあそこに村があるからご厄介になりますかね。
現在地-本の世界?山の麓の村-とあるおっさんの家
俺はとりあえず村に厄介になることにしたが、どうやらこの村は裕福ではないらしい。
それでも人は温かく、俺を迎え入れてくれた。
設定は、道に迷った旅人って事にしておいた。
とりあえずオッズっておっさんの家に招いてもらい、一晩泊めてもらった。
しっかしこの村は俺が来たときもそうだったが全体的に沈んでいると言うか…もう元気と言うか生気すら萎んでいる。
「な、どうしてこの村こんなに元気無いんだ?」
俺は厄介になる家のおっさんに声をかけて質問してみた。
「どうしてってお前…あの山があるだろう?」
おっさんが指差したのは俺が上って降りてきてしまった山だった。
「丁度半年前ほどに、あの山にある城の廃墟にドラゴンが住み始めちまったのさ。そのせいで皆怯えて商人とかも寄り付かなくなっちまった…」
へえ!ドラゴン!
やっぱここは本の世界だな!ファンタジーだ!
「他の町とかに助けを求めないのか?」
「行ったさ…だが他の町は遠いし、たどり着く前に他の魔物に襲われて終わりさ…今まで何人か助けを求めに行ったけれど一人だって帰ってこない」
この村は終わりだよと言っておっさんは外に行ってしまった。
…これからどうするか暫く窓の外の空を眺めて考えていると、村人の歓声が聞こえた。
「何だ?」
気になったので外に出てみると白い鎧を纏っている少年とその仲間の魔法使いのような姿の女、少年とは違った鎧を着た中年の男を囲んで村人が大騒ぎしていた。
「どうしたよ?」
一番近くにいたおばさんに質問すると、その皺が出来ている顔を笑顔にして応えた。
「勇者だよ!勇者とその仲間がこの村に来てくれたんだよ!ドラゴンの討伐のために!」
「勇者って…?」
「知らないのかい?魔王を倒す為に教団に選ばれ、主神様に力を与えられた戦士のことさ。こんなことも知らないなんてどんな田舎から来たんだい?」
「…ずっと遠くさ。教えてくれてあんがとね、おばちゃん」
勇者、ね。
爺ちゃんから聞いた話だと、戦場で生き残れるのは強者と臆病者だけらしい…まあ多分気構えの話だろうけどさ。
持てはやされる姿からして勇者ってのはあの少年だな。
顔立ちは良く、銀髪が美しいがまだ幼さの残る顔だ。
何より、まだ殺しを知らなさそうだ。
え?俺は知ってるのかって?
…知ってるさ、じゃなきゃこんなこと言わないし。
どうやら少し体を休めたら出発するらしい。
…俺は無言で足刀の刃渡りを確認する。
白地と黒空…詳しいスペックは分からないが普通の足刀じゃないのは確かだ…それに俺の脚力があれば…。
「恩は忘れない性質でね」
和服の帯を締めなおして俺は前に出る。
「そのドラゴン討伐、俺も参加させて貰っていいか?」
俺が前に出ると、村人がシンと静まり返る。
「おい、これはお遊びじゃないぞ」
勇者一行の中年の騎士が村人を押しのけて俺の方に来る。
「分かってるさ」
「なら帰れ、此方は武器を持たない旅人を連れて行くほど酔狂じゃない。相手がドラゴンじゃなければ考えてやったが、足手まといを連れて行くと此方の命にm」
彼はそれ以上言葉を出せなかった。
俺は右足でハイキックを出す要領で右脛に装備している白地を首に押し付けたからだ。
「腕…じゃねえや。足に自信はあるつもりだぜ?」
そう言って足を下ろすと、村人も勇者も唖然としていた。
この中の誰一人、俺の蹴りに反応できなかったのだから。
「じゃあ頼むよ」
その言葉を発したのは勇者だった。
「アスラン!?」
今度言葉を発したのは魔法使いのような格好をした女だった。
「相手は仮にもドラゴンなんだし、味方は多い方がいいさ。僕はアスラン、16歳、見ての通り勇者さ」
「俺は…セン、セン・アシノ」
「変わった名前だね…ジパングの出身なのかい?」
ジパング…昔の日本はそう呼ばれていたらしいな…。
「ま、そんなところさ」
「こっちの修道士が、僕の幼馴染のアニーで、向こうの騎士がアレックスだよ。よろしくね」
手を差し出してきたので、俺はその手を取って握手をした。
「それじゃあ出発は1時間後に」
「了解、それまで待っている」
そんなこんなで、俺はドラゴンの討伐に協力する事になった。
現在地-山-城の廃墟前
それにしても廃墟ってここまでベタだとは思わなかった。
所々崩れたレンガ造りの城…それは山の丁度裏側にあった。
現在、この場所に勇者であるアスランと修道士のアニー、騎士のアレックスと共にいる。
「ベタだなぁ…」
「何が?」
アスランが不思議そうに聞いてきたが、正直どうでもいいので誤魔化そう。
「いんや、なんでもない」
「そうか…それじゃあ行こう。何時奴と遭遇するか分からないから全員一緒にいよう」
その言葉に頷き、崩れている壁から進入した。
先頭にアスラン、次にアレックス、三番手にアニー、最後尾に俺という布陣だ。
暫く進んでいると大きめの広間に出た。
「ここは…」
「お出ましだぞ」
アニーが何か言い切る前にアレックスが腰の剣を抜き、それに応えるかのように声が響き渡った。
「何者だ?」
声が部屋に反響して上手く聞こえないが、向こう側から聞こえてくる。
「お前を討伐しにきた勇者だ!お前がいるだけで麓の村は恐怖に怯え、満足に生活もできない!ここでお前を倒す!」
そう言いながらアスランも剣を引き抜く。
「…私は此処で静かに過ごしたかっただけなのだがな、来るのならば仕方がない」
暗闇の向こう側から、ゆっくりと何かが見えてくる、そしてその全貌が明らかとなった。
「…女?」
俺が今ポツリと漏らしたように、ドラゴンと呼ばれた者は人間の女性の姿をしていた。
薄紫色の長い髪に、出ている所は出ており、引っ込むところは引っ込んでいる…ただしその腕には強靭な鱗や爪があり、背からは翼、尻からは尻尾、頭からは角が生えている。
そう言えば俺が意識を失う前に見た図鑑みたいな本にあんなのが載っていた気がするな…。
「では行くぞ…」
そう言ってドラゴンの女は大きく息を吸うと、巨大な炎を吐き出した。
そのいきなりの火炎にアスランとアニーは驚いていたがアレックスは素早く転がって回避し、他の二人も何とか回避する。
俺?俺は飛び上がってただ今天井からぶら下がっているシャンデリアに乗っている。
え?脚力強すぎ?毎日鍛えればこうなるもんさ。
下を見ると…アレックスが剣で、ドラゴンが爪で打ち合っているようだが、若干アレックスが押されている。
「チィ…!」
「ほう、やるな…だったらもう少し本気を出すぞ!」
訂正、ドラゴンが本気を少し出したらアレックスは防戦一方だ。
「アレックス!」
それを見かねたアスランは剣を振りかぶってドラゴンに接近するが尻尾で弾き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「アスラン!?どぅあっ!?」
吹き飛ばされたアスランに気を取られたアレックスも爪の一撃を受けて壁に叩きつけられた。
鎧は砕け、血が吹き出る。
致命傷ではないがほっといたら死ぬだろうな。
「アスラン!アレックスが!」
「分かってる!回復魔法を頼む!ドラゴンは僕が抑える!」
「分かったわ!まったく、あのセンって奴急にいなくなっちゃってブレスで焼け死んだのかしら!」
上見てみろよ。
「うおおおおおおおおっ!」
剣を振り回して猛攻を仕掛けるがドラゴンは爪や鱗を使って上手く受け流している。
「ハァ…ハァ…でやああああああああっ!」
このままではアスランの方が先にスタミナ切れで巻けるだろうな。
「ゼエッ…ゼエッ…」
「終わりだ」
ドラゴンの尾が振られてアスランの腹部を捕らえた。
酸欠の所に腹を打たれて倒れる。
こりゃ暫く起きてこないな。
「…ヒール!」
アニーが魔法を使ったのかアレックスの傷が塞がっていく…あれが本物の魔法か…ヤベ、ちょっと感動。
そしてアニーは自分だけでも戦おうとしたのかドラゴンに向き直るが、瞬間、彼女の腹をドラゴンの拳が捉え、彼女も吹き飛んで気絶した。
弱いなー、勇者一行…いや、ドラゴンが強すぎるのか。
「ふぅ…これで三人、あと一人だがお前はどうする?」
そう言ってこちらを見るドラゴン。
「気づいてたか」
「ああ、こいつ等は気づかなかったようだがな」
ドラゴンは地面に横たわる三人を見てそう言う。
「ま、俺はお前が条件を飲んでくれたらすぐに退くつもりだが…聞いちゃくれないか?」
「何だ?」
「この山の麓に小さな村がある…そこではこの山に住み始めたお前に怯えててな、商人とかも寄り付かない…というわけで、此処から出てって欲しい」
俺が条件を言い終えると、彼女はきょとんとした風になっている。
「ククク…アーッハッハ!何だ、そんな事か!私はてっきり私の守る宝でもよこせと言うのかと思ったが…貴様のような人間は久しぶりだ!」
「そうかい?で、返事は?」
「まあ、構わんが…その前に貴様と戦いたい」
「どうして?」
「純粋に貴様を試したくなっただけだ…そら行くぞ!」
そう言うと瞬間、翼を使って低空飛行し、俺に爪を向けるが、俺はそれを横に跳んで回避する。
「危ないな」
「簡単に避けてよく言う!」
今度は接近すると尾で足払いをかけてきた。
軽く跳んで回避するが彼女の爪が眼前に迫る。
「これはどうだ!?」
左足を上げ、眼前に持ってくるとガキィンと金属音が響き、俺は後ろに飛んだ。
「足に武器を付けるとは…ますます珍しい奴だ」
「そいつァどうも」
俺は力強く地面を蹴ると、瞬時に彼女の懐に入り右足で蹴り上げる。
「その程度の刃で!」
だがドラゴンである彼女は自分の鱗に自信があるのか俺の蹴りを気にせず爪で俺を切り裂こうとする。
しかし彼女の予想は外れ、俺の右足の白地は彼女の鱗と甲殻を切り裂いて血を噴出させる。
「グアアアアアッ!?」
そして俺はそのまま彼女の肩を蹴って後ろへ跳び、爪をも回避する。
ドラゴンは左腰から左肩までを斬られ、その体は赤く染まっている。
「まさか我が鱗が斬られるとはその武器ただの代物ではないな…」
「悪いが俺も手に入れたばかりでね…どんな事ができるのかは使ってみなきゃ分からない!」
再び地面を蹴って彼女に接近しようとするが、彼女も今度は爪を振りかぶって攻撃する態勢に入る。
それを確認し、俺は脚に力を込めてブレーキをかける。
「なっ!?」
突然の減速に反応できず、彼女は爪を振り抜いてしまう。
「隙ありだぜ?」
そのままサマーソルトキックで彼女の体を腹から胸上まで切り裂いた。
「があああああああああっ!」
サマーソルトから着地すると俺はグルリと回転して脚を伸ばす。
俺の後ろ回し蹴りの踵は彼女の頭を的確に捉え、蹴り抜いた。
そして、ドラゴンの女は立ち上がることは無かった。
現在地-山の麓の村-村の広場
俺は倒れている三人を担いで何とか村へ戻ることに成功した。
にしても重かったな〜。
まあドラゴンの討伐には成功したと伝え、証拠の鱗を見せると、村人はワッと歓声を上げた。
その夜はお祭り騒ぎで、その頃には勇者一行もお目覚めになった。
そしてその次の日、俺はこの村から出発することにした。
「もっとゆっくりしてけよ…」
そう言うのは俺を家に泊めてくれたオッズのおっさんだ。
「礼も出来ていないのに…」
村に住むおばちゃんもそう言ってくれるが何時までも此処にいてもな…面白いものを求めるなら自分から行動さ!
「俺決めた!大きくなったら兄ちゃんみたいな冒険者になる!」
小さな子供までそう言ってくれると何だか俺は誇らしいよまったく。
「これを…持って行ってくだされ」
この人はこの村の村長で、嘘か真か100歳を超えているらしい。
村長に渡された皮袋には金が入っていた…。
「駄目だ、受け取れねえよ」
こんな田舎の村、唯でさえ金が無さそうなのに…。
「それはちょっとした報酬で、村の皆が貴方の為に集めた物です…どうか受け取ってください」
言い終わると送りに来てくれた村人全員が頭を下げる…。
「わーったよ!此処で断ったら俺が悪者じゃねえか」
その金を腰に括り付けると俺は踵を返して歩を進める。
「じゃあな!」
腕を空に向けて上げると、皆が別れの言葉を言ってくれる。
…さて!次のイベントを待ちますか!
現在地-山-城の廃墟内
sideドラゴン
う…こ、ここは…?
そうだ、私はあの男に負けて…。
あの男は間違いなくただの人間…足に刃を付けたただの人間…なのに負けた…何故だ?
いや、分かっている、奴が人間だったから、油断していた、心のどこかで負けるはずがないと慢心していたんだ。
そうでなかったら本当の姿になって戦えばよかったのだ。
それをしなかったのは私が油断していたからだ。
ムクリと起き上がると、柔らかいベッドの上だった。
私の傷は、処置がしてあり、体に包帯が巻かれており、傷は私の再生力で殆ど塞がっている。
そして傍らに置かれていたメモを見つけたので目を通す。
そこにはこう書かれていた。
「よう、お目覚めか?お前を倒した男だよ。
さて、お前の傷、結構深かったから一応処置しておいたが、迷惑だったか?まあ許してくれよ?先に喧嘩吹っかけてきたのはそっちだからな。
アンタの討伐証拠として鱗を数枚貰っていた。アンタ、死んだことになってるからそこからは立ち退いてくれよ。
俺はこれからこの国の首都に向かう…何時かまたアンタと出会える事を楽しみにしてるよ。
全ての運命は偶然で繋がっているんだから」
胸が高鳴った。
私を倒したあの時から決めていたが、この書き残しが決め手となった。
私を心配してくれている内容のこのメモを見て私は決めた。
あの男を我が夫とする!
そうと決まればすぐに出発だ!私の翼ならまた追いつける筈!
彼に会いたい、彼と会話したい、彼とまぐわいたい…。
私の頭の中の全てが、彼に支配された瞬間だった。
何で空が見えるんだ?
俺は確か倉庫の掃除をしてた筈なのに…。
「って仰向けなだけかよ」
俺の名前は葦野 尖。
黒髪、黒目、細マッチョで頭もそこそこ良くて面白いことが大好きな18歳。
足に刃を付けて戦う脚刀流の正式継承者。
これが俺のプロフィールだ。
上半身を起こして周りを見渡すと、そこは空と草原が広がっていた…。
「…落ち着け、俺は家の倉庫で掃除をしていて、足刀を見つけて装備…その後図鑑のような物を見つけて光に包まれて…駄目だ、これ以上は思い出せん」
立ち上がって身に着けているものを確認する…うん、服装は左袖だけ白い、黒い和服で黒い長ズボン、足には白地と黒空が装備されている…。
「何がどうなってんだ?」
さっきから疑問符ばかりだが、状況から考えると…
「本の世界に吸い込まれたとかって考えるのが一番簡単かね…」
どんな理屈でこんな所に居るのかは知らんが…
「面白そうだからありだな!」
幸い、身を守る手段はあるし、此処が本当にあの本の世界なら楽しみようはいくらでもあるか。
俺、面白そうな事大好きだし!
それにしても何もねーな…こういう時は街道でも探すか。
そう言う訳でとりあえず草原を歩いていくと何とか街道を発見できた。
「ま、面白そうだからって野たれ死ぬのはゴメンだしな」
そんなこんなで、俺は街道を進んでいった。
現在地-本の世界?の街道-道の真ん中
お、前方に山を発見!
木が生い茂っているな…何だか面白そうな匂いがするぜ。
「行ってみっか」
と言うわけで山に登ったのだが…
「雨かよ…雨宿り雨宿り」
木から木へと移りながら走り、雨を凌ぎながらどんどん山を登っていく。
来ている和服が少し濡れてしまうが問題ないだろうさ。
「ってアレ?」
いつの間にか山を降りてた…。
そう言えば俺はいつもそうだったな…学校に行こうとしたら何故か裏山にいるしコンビニに行こうと思ってたら何時の間にか内田さんの家で茶をご馳走になってたし…。
まったく、地形って本当は毎日変化してんじゃねえの?
ま、そんなことよりあそこに村があるからご厄介になりますかね。
現在地-本の世界?山の麓の村-とあるおっさんの家
俺はとりあえず村に厄介になることにしたが、どうやらこの村は裕福ではないらしい。
それでも人は温かく、俺を迎え入れてくれた。
設定は、道に迷った旅人って事にしておいた。
とりあえずオッズっておっさんの家に招いてもらい、一晩泊めてもらった。
しっかしこの村は俺が来たときもそうだったが全体的に沈んでいると言うか…もう元気と言うか生気すら萎んでいる。
「な、どうしてこの村こんなに元気無いんだ?」
俺は厄介になる家のおっさんに声をかけて質問してみた。
「どうしてってお前…あの山があるだろう?」
おっさんが指差したのは俺が上って降りてきてしまった山だった。
「丁度半年前ほどに、あの山にある城の廃墟にドラゴンが住み始めちまったのさ。そのせいで皆怯えて商人とかも寄り付かなくなっちまった…」
へえ!ドラゴン!
やっぱここは本の世界だな!ファンタジーだ!
「他の町とかに助けを求めないのか?」
「行ったさ…だが他の町は遠いし、たどり着く前に他の魔物に襲われて終わりさ…今まで何人か助けを求めに行ったけれど一人だって帰ってこない」
この村は終わりだよと言っておっさんは外に行ってしまった。
…これからどうするか暫く窓の外の空を眺めて考えていると、村人の歓声が聞こえた。
「何だ?」
気になったので外に出てみると白い鎧を纏っている少年とその仲間の魔法使いのような姿の女、少年とは違った鎧を着た中年の男を囲んで村人が大騒ぎしていた。
「どうしたよ?」
一番近くにいたおばさんに質問すると、その皺が出来ている顔を笑顔にして応えた。
「勇者だよ!勇者とその仲間がこの村に来てくれたんだよ!ドラゴンの討伐のために!」
「勇者って…?」
「知らないのかい?魔王を倒す為に教団に選ばれ、主神様に力を与えられた戦士のことさ。こんなことも知らないなんてどんな田舎から来たんだい?」
「…ずっと遠くさ。教えてくれてあんがとね、おばちゃん」
勇者、ね。
爺ちゃんから聞いた話だと、戦場で生き残れるのは強者と臆病者だけらしい…まあ多分気構えの話だろうけどさ。
持てはやされる姿からして勇者ってのはあの少年だな。
顔立ちは良く、銀髪が美しいがまだ幼さの残る顔だ。
何より、まだ殺しを知らなさそうだ。
え?俺は知ってるのかって?
…知ってるさ、じゃなきゃこんなこと言わないし。
どうやら少し体を休めたら出発するらしい。
…俺は無言で足刀の刃渡りを確認する。
白地と黒空…詳しいスペックは分からないが普通の足刀じゃないのは確かだ…それに俺の脚力があれば…。
「恩は忘れない性質でね」
和服の帯を締めなおして俺は前に出る。
「そのドラゴン討伐、俺も参加させて貰っていいか?」
俺が前に出ると、村人がシンと静まり返る。
「おい、これはお遊びじゃないぞ」
勇者一行の中年の騎士が村人を押しのけて俺の方に来る。
「分かってるさ」
「なら帰れ、此方は武器を持たない旅人を連れて行くほど酔狂じゃない。相手がドラゴンじゃなければ考えてやったが、足手まといを連れて行くと此方の命にm」
彼はそれ以上言葉を出せなかった。
俺は右足でハイキックを出す要領で右脛に装備している白地を首に押し付けたからだ。
「腕…じゃねえや。足に自信はあるつもりだぜ?」
そう言って足を下ろすと、村人も勇者も唖然としていた。
この中の誰一人、俺の蹴りに反応できなかったのだから。
「じゃあ頼むよ」
その言葉を発したのは勇者だった。
「アスラン!?」
今度言葉を発したのは魔法使いのような格好をした女だった。
「相手は仮にもドラゴンなんだし、味方は多い方がいいさ。僕はアスラン、16歳、見ての通り勇者さ」
「俺は…セン、セン・アシノ」
「変わった名前だね…ジパングの出身なのかい?」
ジパング…昔の日本はそう呼ばれていたらしいな…。
「ま、そんなところさ」
「こっちの修道士が、僕の幼馴染のアニーで、向こうの騎士がアレックスだよ。よろしくね」
手を差し出してきたので、俺はその手を取って握手をした。
「それじゃあ出発は1時間後に」
「了解、それまで待っている」
そんなこんなで、俺はドラゴンの討伐に協力する事になった。
現在地-山-城の廃墟前
それにしても廃墟ってここまでベタだとは思わなかった。
所々崩れたレンガ造りの城…それは山の丁度裏側にあった。
現在、この場所に勇者であるアスランと修道士のアニー、騎士のアレックスと共にいる。
「ベタだなぁ…」
「何が?」
アスランが不思議そうに聞いてきたが、正直どうでもいいので誤魔化そう。
「いんや、なんでもない」
「そうか…それじゃあ行こう。何時奴と遭遇するか分からないから全員一緒にいよう」
その言葉に頷き、崩れている壁から進入した。
先頭にアスラン、次にアレックス、三番手にアニー、最後尾に俺という布陣だ。
暫く進んでいると大きめの広間に出た。
「ここは…」
「お出ましだぞ」
アニーが何か言い切る前にアレックスが腰の剣を抜き、それに応えるかのように声が響き渡った。
「何者だ?」
声が部屋に反響して上手く聞こえないが、向こう側から聞こえてくる。
「お前を討伐しにきた勇者だ!お前がいるだけで麓の村は恐怖に怯え、満足に生活もできない!ここでお前を倒す!」
そう言いながらアスランも剣を引き抜く。
「…私は此処で静かに過ごしたかっただけなのだがな、来るのならば仕方がない」
暗闇の向こう側から、ゆっくりと何かが見えてくる、そしてその全貌が明らかとなった。
「…女?」
俺が今ポツリと漏らしたように、ドラゴンと呼ばれた者は人間の女性の姿をしていた。
薄紫色の長い髪に、出ている所は出ており、引っ込むところは引っ込んでいる…ただしその腕には強靭な鱗や爪があり、背からは翼、尻からは尻尾、頭からは角が生えている。
そう言えば俺が意識を失う前に見た図鑑みたいな本にあんなのが載っていた気がするな…。
「では行くぞ…」
そう言ってドラゴンの女は大きく息を吸うと、巨大な炎を吐き出した。
そのいきなりの火炎にアスランとアニーは驚いていたがアレックスは素早く転がって回避し、他の二人も何とか回避する。
俺?俺は飛び上がってただ今天井からぶら下がっているシャンデリアに乗っている。
え?脚力強すぎ?毎日鍛えればこうなるもんさ。
下を見ると…アレックスが剣で、ドラゴンが爪で打ち合っているようだが、若干アレックスが押されている。
「チィ…!」
「ほう、やるな…だったらもう少し本気を出すぞ!」
訂正、ドラゴンが本気を少し出したらアレックスは防戦一方だ。
「アレックス!」
それを見かねたアスランは剣を振りかぶってドラゴンに接近するが尻尾で弾き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「アスラン!?どぅあっ!?」
吹き飛ばされたアスランに気を取られたアレックスも爪の一撃を受けて壁に叩きつけられた。
鎧は砕け、血が吹き出る。
致命傷ではないがほっといたら死ぬだろうな。
「アスラン!アレックスが!」
「分かってる!回復魔法を頼む!ドラゴンは僕が抑える!」
「分かったわ!まったく、あのセンって奴急にいなくなっちゃってブレスで焼け死んだのかしら!」
上見てみろよ。
「うおおおおおおおおっ!」
剣を振り回して猛攻を仕掛けるがドラゴンは爪や鱗を使って上手く受け流している。
「ハァ…ハァ…でやああああああああっ!」
このままではアスランの方が先にスタミナ切れで巻けるだろうな。
「ゼエッ…ゼエッ…」
「終わりだ」
ドラゴンの尾が振られてアスランの腹部を捕らえた。
酸欠の所に腹を打たれて倒れる。
こりゃ暫く起きてこないな。
「…ヒール!」
アニーが魔法を使ったのかアレックスの傷が塞がっていく…あれが本物の魔法か…ヤベ、ちょっと感動。
そしてアニーは自分だけでも戦おうとしたのかドラゴンに向き直るが、瞬間、彼女の腹をドラゴンの拳が捉え、彼女も吹き飛んで気絶した。
弱いなー、勇者一行…いや、ドラゴンが強すぎるのか。
「ふぅ…これで三人、あと一人だがお前はどうする?」
そう言ってこちらを見るドラゴン。
「気づいてたか」
「ああ、こいつ等は気づかなかったようだがな」
ドラゴンは地面に横たわる三人を見てそう言う。
「ま、俺はお前が条件を飲んでくれたらすぐに退くつもりだが…聞いちゃくれないか?」
「何だ?」
「この山の麓に小さな村がある…そこではこの山に住み始めたお前に怯えててな、商人とかも寄り付かない…というわけで、此処から出てって欲しい」
俺が条件を言い終えると、彼女はきょとんとした風になっている。
「ククク…アーッハッハ!何だ、そんな事か!私はてっきり私の守る宝でもよこせと言うのかと思ったが…貴様のような人間は久しぶりだ!」
「そうかい?で、返事は?」
「まあ、構わんが…その前に貴様と戦いたい」
「どうして?」
「純粋に貴様を試したくなっただけだ…そら行くぞ!」
そう言うと瞬間、翼を使って低空飛行し、俺に爪を向けるが、俺はそれを横に跳んで回避する。
「危ないな」
「簡単に避けてよく言う!」
今度は接近すると尾で足払いをかけてきた。
軽く跳んで回避するが彼女の爪が眼前に迫る。
「これはどうだ!?」
左足を上げ、眼前に持ってくるとガキィンと金属音が響き、俺は後ろに飛んだ。
「足に武器を付けるとは…ますます珍しい奴だ」
「そいつァどうも」
俺は力強く地面を蹴ると、瞬時に彼女の懐に入り右足で蹴り上げる。
「その程度の刃で!」
だがドラゴンである彼女は自分の鱗に自信があるのか俺の蹴りを気にせず爪で俺を切り裂こうとする。
しかし彼女の予想は外れ、俺の右足の白地は彼女の鱗と甲殻を切り裂いて血を噴出させる。
「グアアアアアッ!?」
そして俺はそのまま彼女の肩を蹴って後ろへ跳び、爪をも回避する。
ドラゴンは左腰から左肩までを斬られ、その体は赤く染まっている。
「まさか我が鱗が斬られるとはその武器ただの代物ではないな…」
「悪いが俺も手に入れたばかりでね…どんな事ができるのかは使ってみなきゃ分からない!」
再び地面を蹴って彼女に接近しようとするが、彼女も今度は爪を振りかぶって攻撃する態勢に入る。
それを確認し、俺は脚に力を込めてブレーキをかける。
「なっ!?」
突然の減速に反応できず、彼女は爪を振り抜いてしまう。
「隙ありだぜ?」
そのままサマーソルトキックで彼女の体を腹から胸上まで切り裂いた。
「があああああああああっ!」
サマーソルトから着地すると俺はグルリと回転して脚を伸ばす。
俺の後ろ回し蹴りの踵は彼女の頭を的確に捉え、蹴り抜いた。
そして、ドラゴンの女は立ち上がることは無かった。
現在地-山の麓の村-村の広場
俺は倒れている三人を担いで何とか村へ戻ることに成功した。
にしても重かったな〜。
まあドラゴンの討伐には成功したと伝え、証拠の鱗を見せると、村人はワッと歓声を上げた。
その夜はお祭り騒ぎで、その頃には勇者一行もお目覚めになった。
そしてその次の日、俺はこの村から出発することにした。
「もっとゆっくりしてけよ…」
そう言うのは俺を家に泊めてくれたオッズのおっさんだ。
「礼も出来ていないのに…」
村に住むおばちゃんもそう言ってくれるが何時までも此処にいてもな…面白いものを求めるなら自分から行動さ!
「俺決めた!大きくなったら兄ちゃんみたいな冒険者になる!」
小さな子供までそう言ってくれると何だか俺は誇らしいよまったく。
「これを…持って行ってくだされ」
この人はこの村の村長で、嘘か真か100歳を超えているらしい。
村長に渡された皮袋には金が入っていた…。
「駄目だ、受け取れねえよ」
こんな田舎の村、唯でさえ金が無さそうなのに…。
「それはちょっとした報酬で、村の皆が貴方の為に集めた物です…どうか受け取ってください」
言い終わると送りに来てくれた村人全員が頭を下げる…。
「わーったよ!此処で断ったら俺が悪者じゃねえか」
その金を腰に括り付けると俺は踵を返して歩を進める。
「じゃあな!」
腕を空に向けて上げると、皆が別れの言葉を言ってくれる。
…さて!次のイベントを待ちますか!
現在地-山-城の廃墟内
sideドラゴン
う…こ、ここは…?
そうだ、私はあの男に負けて…。
あの男は間違いなくただの人間…足に刃を付けたただの人間…なのに負けた…何故だ?
いや、分かっている、奴が人間だったから、油断していた、心のどこかで負けるはずがないと慢心していたんだ。
そうでなかったら本当の姿になって戦えばよかったのだ。
それをしなかったのは私が油断していたからだ。
ムクリと起き上がると、柔らかいベッドの上だった。
私の傷は、処置がしてあり、体に包帯が巻かれており、傷は私の再生力で殆ど塞がっている。
そして傍らに置かれていたメモを見つけたので目を通す。
そこにはこう書かれていた。
「よう、お目覚めか?お前を倒した男だよ。
さて、お前の傷、結構深かったから一応処置しておいたが、迷惑だったか?まあ許してくれよ?先に喧嘩吹っかけてきたのはそっちだからな。
アンタの討伐証拠として鱗を数枚貰っていた。アンタ、死んだことになってるからそこからは立ち退いてくれよ。
俺はこれからこの国の首都に向かう…何時かまたアンタと出会える事を楽しみにしてるよ。
全ての運命は偶然で繋がっているんだから」
胸が高鳴った。
私を倒したあの時から決めていたが、この書き残しが決め手となった。
私を心配してくれている内容のこのメモを見て私は決めた。
あの男を我が夫とする!
そうと決まればすぐに出発だ!私の翼ならまた追いつける筈!
彼に会いたい、彼と会話したい、彼とまぐわいたい…。
私の頭の中の全てが、彼に支配された瞬間だった。
11/05/22 04:13更新 / ハーレム好きな奴
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