【Middle After】勝者には美酒と…
色とりどりの明かりが、金と珊瑚で彩られた大広間を妖しく輝かせる。
まるで貴族の舞踏会のような煌びやかさだが、広間のそこかしこでは、勝負の緊張が空気を…否、“水”を張りつめさせている。
ずらりと並んだテーブルで、無数の人々がギャンブルに興じているのだ。
ドリンク片手に真剣な表情で勝負に臨む客達の周囲では、黒いベストの従業員が悠々と泳ぎまわり、舞台の上では人魚の踊り子が、宝石のような鱗と煽情的な肢体を見せつけるように、身体を揺らしながら水の中を舞い踊る──
ここは、『竜宮賭場 うたかた』
ジパング近海の海底に多数存在する、水中娯楽都市“竜宮城”のひとつだ。
竜宮城の主である魔物娘“乙姫”は、派手な娯楽を愉しみながら日々を過ごし、また客人を招き愉しませることを何より好む種族である。
だが、タイやヒラメの舞い踊り、四季の風景を見られる扉…そういった、竜宮城の伝承として度々出てくるものを全ての乙姫が好むかといえば、当然ながらそうではない。
どのような娯楽を好むかは、人それぞれ。
そんな中で、この竜宮を統べる乙姫は「夫との時間の次に、賭博こそが至上の娯楽である」として、自身の竜宮全体を、古今東西のギャンブルを集めた和洋まぜこぜの一大賭博場として築き上げたのである。
「では旦那様、いかがなさいますか?」
「ッ……チェックで」
「かしこまりました。奥様は?」
「レイズ、5枚」
そんな場所で、グレゴリーとルフィアの夫婦は、ポーカーのテーブルに座っていた。
言わずもがな二人とも、普段は賭け事になど縁のない堅実そのものの人物だが、何度目かのジパング観光の後に偶然この都市に立ち寄る機会があったため、宿泊がてら遊んでみることにしたのだった。
「では、お出しください」
「くそ…ワンペア」
「フルハウス!」
「おおっ!?」
「さてさて、こちらは…」
緊張が走る。
「…ストレートですね。おめでとうございます」
「やったよレッくん!」
「ほんと強いなルフィア…」
ルフィアの前に、チップがうず高く積まれていく。
「さて、もう一勝負なさいますか?」
「はい♪」
「オレは降りたいな…。
こういうの勝てる気がしない。残りチップもやばいし…」
「えー、一緒にやろうよぉ。無くなっても分けてあげるから…」
「…それが恥ずかしいんだよ、男として。
遠くへは行かないから。な?」
むくれるルフィアを尻目に、グレゴリーはテーブルを降り、負け分を取り返せるような別のゲームを探す。
ジパング発祥のギャンブルは勿論のこと、世界各地のカードゲームにダイスゲーム、闘技場、魚のレース、霧の大陸で生まれた『マージャン』、さらには遠いサイーダ島の機械技術で作られたという『スロットマシン』など、実に多種多様なギャンブルが取り揃えられていて、つい目移りしてしまう。
(いや…ダメだ。もっと読みだの駆け引きだのが絡まないものは…)
残りのチップ枚数がグレゴリーを焦らせる。
もちろん、賭けの成否に生活が懸かっているなどというわけではない。
この賭場は、入場料を支払うことで貸し出される専用のチップを賭けてギャンブルを行うシステムであり、追加でチップを借り入れるのも限度がある。少なくともこの賭場では、ギャンブルで身を滅ぼすようなことが無いように配慮がなされているのだ。
…だが、この賭場の主である乙姫は「それでは緊張感が足りない」として、“敗北”が決定的になった者に対する、とあるペナルティを設けた。
(カラン…カラン……)
「!」
不気味に乾いた鈴の音が広間に響く。
楽団が奏でる軽快な音楽と喧騒から一転、周囲は静まり返った。
『これよりショーを開始いたします。皆様、ぜひご覧ください…』
『い、嫌だ…いやだあああああッ!!!』
“ショー”を執り行う魔物娘に引きずられ、中年の男がステージに上げられる。
静寂を切り裂く絶叫が、客たちの心を一層かき乱す。
(…あんなショーに出されるなんて、絶対にごめんだ)
全てのチップを失った者、ビジターエリア(注1)でのイカサマを含む各種の迷惑行為を働いた者、開始時に借りたチップを一定の返済期限までに返せなかった者などが、ペナルティを受ける。
それが今、グレゴリーのすぐ近くを含め、施設の各所にあるステージで執り行われている『仕置舞台(ペナルティ・ショー)』(注2)であった。
『うふふ…さあ、いい声で泣き叫んでちょうだいね?』
『ゆ、許してくれ…こんなの無理だ…ひどすぎる…』
衣装を纏わされ、身体を拘束された中年男が、悲痛な声を漏らす。
係員たちは淡々と、その男を責め立てるための数々の器具を並べていく。
いかにも残酷な見世物が始まるかのような雰囲気だが…無論、魔物娘の作った施設だけあって、ショーの出演者に危害を加えるようなものではない。
しかし…
『あらあら、違うでしょう?
あなたは赤ちゃんなんだから、もっと元気に泣いていいのよ〜?』
『ううううう……
………お、オギャアァァ!!ママー、ママぁぁぁ…!!!』
『よしよし、いい子でちゅねぇ♪今おしめ替えてあげまちゅからね♪』
この、文字にするのも憚られるような光景がすべてを物語っている。
ショーの出演者は、魔法によって頭の中を読み取られ…潜在的に『最も恥ずかしい』と感じるプレイを、衆人環視の中で行うよう強いられるのである。
赤ちゃんプレイなどは定番だ。
(うげぇ…オレだったらどうなるか、想像したくもない…)
阿鼻叫喚の宴から目をそらしつつ、グレゴリーはスロットマシンの前に座った。
十数分後。
「よし、これでまたテーブルには戻れるな。
…まさか、こんな所で槍が役立つなんて…」
スロットマシンという代物をグレゴリーは初めて触ったが、動体視力とタイミング感覚がものをいう、武術を鍛え続けた彼にとっては予想外に『合う』ギャンブルであった。
さすがに高配当な絵柄には何らかの調整がかかっているらしく、揃えようとしてもなかなか揃わなかったが、配当の低く当たりやすい絵柄を繰り返し揃え、どうにかポーカーでの負け分を取り返すことはできた。(注3)
「おーい、ルフィア。またポーカーに…」
…しかし、グレゴリーは見た。
「レイズ、更に50枚」
「おやおや…大丈夫ですか?」
「大丈夫です。…これくらいの方が面白いでしょう?うふふ…♪」
((ざわ……ざわ……))
彼女の座る席には、先程の倍どころではないほど大きくなったチップの山。
ただならぬ雰囲気に寄ってきた数十人の観客。
他の客は全員降りて観客に回り、ディーラーにはひと目で判る程の本気オーラが…
「あ、レッくん!待ってたよ!
…あれ!?なんで引き返すの!?」
「いや、この場に入れってのか!?明らかに伝説の大勝負的なムードじゃん!
もうオレみたいのが入り込めるやつじゃないってコレ!!」
そして…
「うふふ〜、勝っちゃった〜♪
これだけあれば、欲しかった『アレ』も余裕で交換できるし、余った分はちょっと贅沢して客船のチケットと、お土産と、それから…」
「よ、よかったな…」
何十年と連れ添った幼馴染かつ妻が先ほど初めて見せた一面に、いまだ戸惑いを隠せないグレゴリー。
それに反してルフィアは、人々がこぞって沸き立つ大勝負を制し、大量のチップを掴んだ後とは思えない…まるで食料品を図らずも安売りで買えた主婦のような、いたって日常的なホクホク顔だ。
「久しぶりだったなぁ、あんな楽しいカード勝負…」
「そういえば、酒場の客によく遊んでもらってたんだっけ?賭けは無しだったけど」
「うん。…レッくん、カードだけは全然遊んでくれないんだもん…
あの勝負だって、レッくんがいてくれるだけでもっと楽しかったのに!」
「悪かったって…
オレ一度もお前に勝った事ないし、入っていったら水差すかと思って、つい…
これからはカードでも付き合うから、許してくれよ、な?」
「う〜ん、じゃあ……
…そうだ。許す代わりに、私にチップ預けてくれる?
返済分と欲しいもの分はあるし、レッくんももう、賭け事はいいよね?
交換所(注4)混む前に行ってくるよ」
「え、一人で行くのか?珍しいな」
「さっき一人にされたお返し、ってワケじゃないけど…
ちょっと秘密に交換したいものあるから」
「秘密に…?」
「すぐわかるから、部屋で待ってて♪」
ルフィアと分かれ、一人、宿の個室(洋室)でベッドに座り待つグレゴリー。
別れて受け取る必要がある景品などあるのだろうか。
「失礼します」
ルフィアの声。だが、何やらいつもとトーンが違う。たしかこの声は…
思い出す間もなく、部屋のドアが開いた。
「お客様、お酒をお持ちいたしました」
入ってきたルフィアが身に付けていたのは…館内でもよく見た、黒のバニースーツであった。
脚のない種族でも着られるあつらえで、無論、頭の上には同じく黒いウサギの耳もある。さらには、筒状になった『人魚用』の茶色いストッキングまで。
「お注ぎいたしますね。少々お待ちを…」
腰を艶かしく揺らしながら泳ぎ、ベッドのサイドテーブルにグラスとワインを置く。
慣れた手つきでワインを開け、グラスに注ぐ。
幼い頃から酒場の手伝いをしていただけあって、給仕する所作は実に自然…だがグレゴリーの目には、動きの節々に、ごく僅かなぎこちなさが見て取れる。頬にも朱が差している。
ルフィアのことだ。こんな扇情的な衣装、恥ずかしがらないわけがない。
「どうぞ、お客様♪」
「ああ…ありがとう」
ここは紛れもなく、魚も泳ぐ海中であるはずなのだが、飲み物は海水に混じることなく、地上と同じようにグラスに注がれる。海神ポセイドン、あるいはワダツミの力に満ちた海底都市では幾度も見てきた当たり前の光景だが、それでも不思議なことだ。
「いただくよ」
グレゴリーも少し気取りたくなり、手渡された勿体つけてくゆらせ、かすかに立ち上る香りを楽しみながら、一口。
舌で転がし、風味を鼻腔で楽しんでから、喉に落とす。
驚いたことにこの魔界ワインは、二人が通っていた学園都市の名産『耽溺の果実』を使ったものだった。
ふわりと立ち上る果実の香りが、学園での出来事を思い返させる。
確かあれは、2度目の学園祭の時だったか。
よそのクラスの模擬店で、二人は“それ”に初めて出会ったのだ。つまり…バニーガールというものに。
あの時はつい目が吸い寄せられて、ルフィアに怒られたものだ。
魔物娘の世界において、女性の肉体をより魅力的にアピールする衣服は数あれど、バニーガールには言い知れぬ魔力のようなものがある。
「いかがですか?」
「いいワインだ。ありがとう」
言いながら、隣に腰かけたルフィアの背後に手を伸ばし、鱗とストッキングに覆われたお尻をそっと撫でてやる。
「あっ…い、いけません、お客様…」
ぴくん、と可愛らしく跳ね、制止するようにグレゴリーの手首を掴む。
当然ながら、おたがい止めるつもりなど全くない。従業員と客という役に徹し、なおかつ興奮を増すための演技だ。
「君の事ももらいたいな」
場の雰囲気に酔い、クサい台詞でも躊躇わず口にしてしまえる。
ルフィアは生娘のように頬をますます赤らめ、もじもじと身をよじった。
「うぅ…か、かしこまりました…♪」
はにかみながら了承するルフィアの表情にたまらなくなり、グレゴリーは彼女の顎をくいっと持ち上げ、口づけをする。
ワインの残り香が混じった最愛の人の唾液は、どんな酒よりも心を酔わせる極上の甘露だ。
さらにそのまま、大きく露出した背中を指でつうっとなぞられたものだから、ルフィアはひとたまりもない。はぁぁぁんっ、と悩ましい吐息を漏らしながら、身体から力が抜け、グレゴリーの胸にしなだれかかった。
肩を抱き、美しい長髪を撫でながら、しばし頭の上のウサギ耳を観察する。
あくまで女性の肉体を妖艶に彩る衣装のはずなのに、これが無いと何故か物足りなく感じる。不思議なものだ。
観察していると、ルフィアが不意に顔を上げ、蕩けたまなざしとグレゴリーの視線がかち合った。ステップを進める頃合いだ。
「あっ…は…」
まずはスーツの上から、胸の感触を味わう。
ルフィアほどのバストサイズに合うスーツは取り扱いがなかったか、それともあえて小さいものを選んだのかはわからないが、先端を隠すカップからは乳肉が少しこぼれ出してしまっている。
布越しと生の柔肌、ふたつの感触を手のひらで一度に堪能する…なんとも贅沢な体験だ。
丹念に愛され、開発され続けたルフィアの乳房は、グレゴリーの手にのみ敏感な反応を示し、揉まれているだけでも絶頂しかねないほどに感じてしまい、白い素肌を桃色に上気させるのだ。
「お客様…恥ずかしい、です…ッ♪」
続いてカップの中に手を差し込み、すでに勃起しきった乳首の固くて熱い手触りを愛でる。
カップの壁とルフィア自身の乳圧で、グレゴリーの手は強く圧迫される。まるで手がルフィアの乳肉に溶けていってしまいそうな、幸せな圧力だ。
「じゃあ、やめてほしいのか?こんなに濡れてるのに…」
下腹部に目をやると、濃厚な蜜がスーツのクロッチ部に染みこみ、黒色を一層濃くしている。それどころか、布地では抑えきれずに隙間からにじみ出て、ストッキングに包まれた魚体をゆっくりと伝い落ちていた。
…こんな光景を見ていると忘れがちだが、ここはあくまで水中である。
飲食物はおろか、愛液や精液も水に溶けずにこうして雫となるのだから、海底都市の環境は本当に不思議というか、都合がいい。
「そ、それは…んンッ!」
しかしその都合のよさは、存分に楽しむことこそ正しいあり方だ。
人魚などのためのバニースーツは、いわゆる“股”が存在しないために、クロッチ部をボタンでストッキングに留める構造になっている。
溢れる愛液を潤滑とし、スーツとストッキングの隙間に中指と人差し指を滑り込ませ、熱い秘肉をぐちゅぐちゅとかき回す。
何百何千もの夜を共にしながらも未だ衰えない、どころか強くなってさえいる気がする膣内の締め付けは、まるで本当に普通の従業員を捕まえたかのようだ。
「お客さ、あっ、んっんんっ…!!」
もちろん、性器にかまけて、ルフィアのいやらしい乳房を放ってなどおけない。
ついにカップをめくり下ろし、まろび出た生胸とその先端を、グレゴリーはもう片方の手と口で弄ぶ。
バニースーツを剥がされたように、ルフィアの演技も強い快楽によって剥がれていく。
「はぁっ…はあっ…
お客さまぁ…わ、わたし…もう……」
力が入らずぐったりとした様子で、潤んだ瞳で懇願される。
すでに十分、この衣装を着たルフィアには魅了されているというのに、こんな表情を見せられてはグレゴリーも限界だ。
グラスに残ったワインを煽ると、ルフィアの脇に片腕を差し込んで抱きながら立ち上がらせ、再びのキス。
ズボンの中からパンパンに膨れた肉棒を開放し、クロッチ部を横にずらして、一気に最奥まで貫いた。
「はうぅぅぅぅんッ♪」
その瞬間、二人は同時に絶頂した。
ルフィアの身体は弓なりにのけ反り、さながら吸盤の要領で、放たれたグレゴリーの精をさらに吸い上げる。グレゴリーの為だけにあつらえられたかのような膣襞もそれを手伝い、子宮へと精液を送り込んでいく。
力なくグレゴリーの背に添えられただけの両腕とは対照的に、電流のような快楽で、尾ビレと腰ヒレがびちびちと暴れて止まらない。
そんな可愛らしい様子を見て、グレゴリーは射精しながらもなお、ペニスをより固くしていく。お互いに、この絶頂は単なるスタートに過ぎないのだ。
本番はここから。膣内にあふれかえる潤滑液に乗せて、グレゴリーは腰を揺らしてルフィアを犯しはじめた。
水中のちょうどよい浮力は、マーメイドのように足のない種族が直立してセックスすることを可能にしてくれる。
全力のピストンは、二人の間になんらの遠慮も気遣いも不要と言わんばかりだ。
「ふあっ、あっ、ああああっ、はぁっ!」
腕の力だけで体を支える事ができ、突くも引くも自在。
おまけにその振動で、二人の身体の間に挟まれた巨大な乳房が、クラゲのようにたぷたぷと独特の揺れを見せる。
自由な片腕でそれを激しく揉み上げたり、ウサギの尻尾のふわふわを弄んだかと思うと、腰からお尻、太腿への滑らかなラインをなぞったり。グレゴリーは、バニーガールのルフィアすべてを思うがままに楽しむ。
何かをする度に、いちいち大げさなほど可愛らしい声を上げてくれるルフィアへの愛おしさは臨界を超え、グレゴリーは彼女の瑞々しい唇をやや強引に吸い上げた。
「んンーッ!んっ、ぢゅっ、んんぅぅ…!」
息ができなくなるほどに長い口づけ。二人の脳髄は性愛と快楽に焼かれ、全身がぶるぶると痙攣しだす。
ほどなくして、二度目の同時絶頂。
茶のストッキングは、際限なくこぼれ落ちる二人の体液で、もはや見る影もなく白色に汚れている。
だが、全く治まらない。すぐさま三回戦が始まる。まさに、いつまでも腰を振り続けるウサギのつがいだ。
──結局この後さらに3回、立位セックスを楽しんだところで、ようやく二人は休憩に入ったのだった。
「うふふ。どうだった?」
「ああ…最高だったよ。ほんと」
ドロドロの身体をしばしベッドに横たえ、二人は息を整えつつ余韻を楽しむ。
激しい交わりだけでなく、この時間も大切なものだ。
「あ。このワイン、私も飲んじゃっていい?」
「もちろん。オレ達二人のものだろ」
嬉しそうにワインを注ぎ、自ら飲んでいくルフィア。バニーガールと客の演技はもう終わり、夫婦としての顔に戻る。もう慣れたのか、あまり恥ずかしがってもいない。
「しかし、その服…
大勝ちしたのはお前なんだから、もっと別の、自分が欲しいもの交換してもよかったんだぞ?」
しかし、ルフィアは小さく首を横に振った。
「ううん、いいの。
………これが、いいの」
頬を染め、小さな声で呟く。
そういえば、バニーと初めて出会ったあの時は、他の出店などに小遣いを使い過ぎて買えず、結局それっきりだったのだ。
憧れはすれど、何事にもタイミングというものはある。
何年も前のそれを今回、このような都市にやって来て思い出し、二人で楽しむために交換してくれたのだ。
「…ありがとう」
その意図を理解したグレゴリーは、ルフィアを優しく、しっかりと抱きしめた。
彼女はなんと愛おしいのか。
「……♪」
ルフィアも嬉しそうに目を細める。
その満足げな表情は、これこそが目的だと言外に示していた。
しばらくそうして抱き合っていたが…不意にルフィアは腕の中で提案してきた。
「…そうだ。
カードも交換してきたし、二人で遊ばない?」
「え?今か?」
「うん。二人だけの勝負。
負けた方は、勝った方に思いっきりサービスしてあげるの♪」
「いや、それ勝ち目ないだろオレ…
…まあ、約束したしな。やるよ」
「やった♪
それじゃあ、ゲームは何にする?ポーカー?ブラックジャック?」
「ん〜、そうだな…」
スリルや欲望の渦巻く…しかし優しい水中賭博都市。街を彩る欲望の中には当然、魔物娘とその夫が、お互いへ抱く欲望も含まれる。
今宵はそこに、この若き二人の欲望も加えながら、街の明かりは今日も眠らず、煌々と灯り続けるのであった。
まるで貴族の舞踏会のような煌びやかさだが、広間のそこかしこでは、勝負の緊張が空気を…否、“水”を張りつめさせている。
ずらりと並んだテーブルで、無数の人々がギャンブルに興じているのだ。
ドリンク片手に真剣な表情で勝負に臨む客達の周囲では、黒いベストの従業員が悠々と泳ぎまわり、舞台の上では人魚の踊り子が、宝石のような鱗と煽情的な肢体を見せつけるように、身体を揺らしながら水の中を舞い踊る──
ここは、『竜宮賭場 うたかた』
ジパング近海の海底に多数存在する、水中娯楽都市“竜宮城”のひとつだ。
竜宮城の主である魔物娘“乙姫”は、派手な娯楽を愉しみながら日々を過ごし、また客人を招き愉しませることを何より好む種族である。
だが、タイやヒラメの舞い踊り、四季の風景を見られる扉…そういった、竜宮城の伝承として度々出てくるものを全ての乙姫が好むかといえば、当然ながらそうではない。
どのような娯楽を好むかは、人それぞれ。
そんな中で、この竜宮を統べる乙姫は「夫との時間の次に、賭博こそが至上の娯楽である」として、自身の竜宮全体を、古今東西のギャンブルを集めた和洋まぜこぜの一大賭博場として築き上げたのである。
「では旦那様、いかがなさいますか?」
「ッ……チェックで」
「かしこまりました。奥様は?」
「レイズ、5枚」
そんな場所で、グレゴリーとルフィアの夫婦は、ポーカーのテーブルに座っていた。
言わずもがな二人とも、普段は賭け事になど縁のない堅実そのものの人物だが、何度目かのジパング観光の後に偶然この都市に立ち寄る機会があったため、宿泊がてら遊んでみることにしたのだった。
「では、お出しください」
「くそ…ワンペア」
「フルハウス!」
「おおっ!?」
「さてさて、こちらは…」
緊張が走る。
「…ストレートですね。おめでとうございます」
「やったよレッくん!」
「ほんと強いなルフィア…」
ルフィアの前に、チップがうず高く積まれていく。
「さて、もう一勝負なさいますか?」
「はい♪」
「オレは降りたいな…。
こういうの勝てる気がしない。残りチップもやばいし…」
「えー、一緒にやろうよぉ。無くなっても分けてあげるから…」
「…それが恥ずかしいんだよ、男として。
遠くへは行かないから。な?」
むくれるルフィアを尻目に、グレゴリーはテーブルを降り、負け分を取り返せるような別のゲームを探す。
ジパング発祥のギャンブルは勿論のこと、世界各地のカードゲームにダイスゲーム、闘技場、魚のレース、霧の大陸で生まれた『マージャン』、さらには遠いサイーダ島の機械技術で作られたという『スロットマシン』など、実に多種多様なギャンブルが取り揃えられていて、つい目移りしてしまう。
(いや…ダメだ。もっと読みだの駆け引きだのが絡まないものは…)
残りのチップ枚数がグレゴリーを焦らせる。
もちろん、賭けの成否に生活が懸かっているなどというわけではない。
この賭場は、入場料を支払うことで貸し出される専用のチップを賭けてギャンブルを行うシステムであり、追加でチップを借り入れるのも限度がある。少なくともこの賭場では、ギャンブルで身を滅ぼすようなことが無いように配慮がなされているのだ。
…だが、この賭場の主である乙姫は「それでは緊張感が足りない」として、“敗北”が決定的になった者に対する、とあるペナルティを設けた。
(カラン…カラン……)
「!」
不気味に乾いた鈴の音が広間に響く。
楽団が奏でる軽快な音楽と喧騒から一転、周囲は静まり返った。
『これよりショーを開始いたします。皆様、ぜひご覧ください…』
『い、嫌だ…いやだあああああッ!!!』
“ショー”を執り行う魔物娘に引きずられ、中年の男がステージに上げられる。
静寂を切り裂く絶叫が、客たちの心を一層かき乱す。
(…あんなショーに出されるなんて、絶対にごめんだ)
全てのチップを失った者、ビジターエリア(注1)でのイカサマを含む各種の迷惑行為を働いた者、開始時に借りたチップを一定の返済期限までに返せなかった者などが、ペナルティを受ける。
それが今、グレゴリーのすぐ近くを含め、施設の各所にあるステージで執り行われている『仕置舞台(ペナルティ・ショー)』(注2)であった。
『うふふ…さあ、いい声で泣き叫んでちょうだいね?』
『ゆ、許してくれ…こんなの無理だ…ひどすぎる…』
衣装を纏わされ、身体を拘束された中年男が、悲痛な声を漏らす。
係員たちは淡々と、その男を責め立てるための数々の器具を並べていく。
いかにも残酷な見世物が始まるかのような雰囲気だが…無論、魔物娘の作った施設だけあって、ショーの出演者に危害を加えるようなものではない。
しかし…
『あらあら、違うでしょう?
あなたは赤ちゃんなんだから、もっと元気に泣いていいのよ〜?』
『ううううう……
………お、オギャアァァ!!ママー、ママぁぁぁ…!!!』
『よしよし、いい子でちゅねぇ♪今おしめ替えてあげまちゅからね♪』
この、文字にするのも憚られるような光景がすべてを物語っている。
ショーの出演者は、魔法によって頭の中を読み取られ…潜在的に『最も恥ずかしい』と感じるプレイを、衆人環視の中で行うよう強いられるのである。
赤ちゃんプレイなどは定番だ。
(うげぇ…オレだったらどうなるか、想像したくもない…)
阿鼻叫喚の宴から目をそらしつつ、グレゴリーはスロットマシンの前に座った。
十数分後。
「よし、これでまたテーブルには戻れるな。
…まさか、こんな所で槍が役立つなんて…」
スロットマシンという代物をグレゴリーは初めて触ったが、動体視力とタイミング感覚がものをいう、武術を鍛え続けた彼にとっては予想外に『合う』ギャンブルであった。
さすがに高配当な絵柄には何らかの調整がかかっているらしく、揃えようとしてもなかなか揃わなかったが、配当の低く当たりやすい絵柄を繰り返し揃え、どうにかポーカーでの負け分を取り返すことはできた。(注3)
「おーい、ルフィア。またポーカーに…」
…しかし、グレゴリーは見た。
「レイズ、更に50枚」
「おやおや…大丈夫ですか?」
「大丈夫です。…これくらいの方が面白いでしょう?うふふ…♪」
((ざわ……ざわ……))
彼女の座る席には、先程の倍どころではないほど大きくなったチップの山。
ただならぬ雰囲気に寄ってきた数十人の観客。
他の客は全員降りて観客に回り、ディーラーにはひと目で判る程の本気オーラが…
「あ、レッくん!待ってたよ!
…あれ!?なんで引き返すの!?」
「いや、この場に入れってのか!?明らかに伝説の大勝負的なムードじゃん!
もうオレみたいのが入り込めるやつじゃないってコレ!!」
そして…
「うふふ〜、勝っちゃった〜♪
これだけあれば、欲しかった『アレ』も余裕で交換できるし、余った分はちょっと贅沢して客船のチケットと、お土産と、それから…」
「よ、よかったな…」
何十年と連れ添った幼馴染かつ妻が先ほど初めて見せた一面に、いまだ戸惑いを隠せないグレゴリー。
それに反してルフィアは、人々がこぞって沸き立つ大勝負を制し、大量のチップを掴んだ後とは思えない…まるで食料品を図らずも安売りで買えた主婦のような、いたって日常的なホクホク顔だ。
「久しぶりだったなぁ、あんな楽しいカード勝負…」
「そういえば、酒場の客によく遊んでもらってたんだっけ?賭けは無しだったけど」
「うん。…レッくん、カードだけは全然遊んでくれないんだもん…
あの勝負だって、レッくんがいてくれるだけでもっと楽しかったのに!」
「悪かったって…
オレ一度もお前に勝った事ないし、入っていったら水差すかと思って、つい…
これからはカードでも付き合うから、許してくれよ、な?」
「う〜ん、じゃあ……
…そうだ。許す代わりに、私にチップ預けてくれる?
返済分と欲しいもの分はあるし、レッくんももう、賭け事はいいよね?
交換所(注4)混む前に行ってくるよ」
「え、一人で行くのか?珍しいな」
「さっき一人にされたお返し、ってワケじゃないけど…
ちょっと秘密に交換したいものあるから」
「秘密に…?」
「すぐわかるから、部屋で待ってて♪」
ルフィアと分かれ、一人、宿の個室(洋室)でベッドに座り待つグレゴリー。
別れて受け取る必要がある景品などあるのだろうか。
「失礼します」
ルフィアの声。だが、何やらいつもとトーンが違う。たしかこの声は…
思い出す間もなく、部屋のドアが開いた。
「お客様、お酒をお持ちいたしました」
入ってきたルフィアが身に付けていたのは…館内でもよく見た、黒のバニースーツであった。
脚のない種族でも着られるあつらえで、無論、頭の上には同じく黒いウサギの耳もある。さらには、筒状になった『人魚用』の茶色いストッキングまで。
「お注ぎいたしますね。少々お待ちを…」
腰を艶かしく揺らしながら泳ぎ、ベッドのサイドテーブルにグラスとワインを置く。
慣れた手つきでワインを開け、グラスに注ぐ。
幼い頃から酒場の手伝いをしていただけあって、給仕する所作は実に自然…だがグレゴリーの目には、動きの節々に、ごく僅かなぎこちなさが見て取れる。頬にも朱が差している。
ルフィアのことだ。こんな扇情的な衣装、恥ずかしがらないわけがない。
「どうぞ、お客様♪」
「ああ…ありがとう」
ここは紛れもなく、魚も泳ぐ海中であるはずなのだが、飲み物は海水に混じることなく、地上と同じようにグラスに注がれる。海神ポセイドン、あるいはワダツミの力に満ちた海底都市では幾度も見てきた当たり前の光景だが、それでも不思議なことだ。
「いただくよ」
グレゴリーも少し気取りたくなり、手渡された勿体つけてくゆらせ、かすかに立ち上る香りを楽しみながら、一口。
舌で転がし、風味を鼻腔で楽しんでから、喉に落とす。
驚いたことにこの魔界ワインは、二人が通っていた学園都市の名産『耽溺の果実』を使ったものだった。
ふわりと立ち上る果実の香りが、学園での出来事を思い返させる。
確かあれは、2度目の学園祭の時だったか。
よそのクラスの模擬店で、二人は“それ”に初めて出会ったのだ。つまり…バニーガールというものに。
あの時はつい目が吸い寄せられて、ルフィアに怒られたものだ。
魔物娘の世界において、女性の肉体をより魅力的にアピールする衣服は数あれど、バニーガールには言い知れぬ魔力のようなものがある。
「いかがですか?」
「いいワインだ。ありがとう」
言いながら、隣に腰かけたルフィアの背後に手を伸ばし、鱗とストッキングに覆われたお尻をそっと撫でてやる。
「あっ…い、いけません、お客様…」
ぴくん、と可愛らしく跳ね、制止するようにグレゴリーの手首を掴む。
当然ながら、おたがい止めるつもりなど全くない。従業員と客という役に徹し、なおかつ興奮を増すための演技だ。
「君の事ももらいたいな」
場の雰囲気に酔い、クサい台詞でも躊躇わず口にしてしまえる。
ルフィアは生娘のように頬をますます赤らめ、もじもじと身をよじった。
「うぅ…か、かしこまりました…♪」
はにかみながら了承するルフィアの表情にたまらなくなり、グレゴリーは彼女の顎をくいっと持ち上げ、口づけをする。
ワインの残り香が混じった最愛の人の唾液は、どんな酒よりも心を酔わせる極上の甘露だ。
さらにそのまま、大きく露出した背中を指でつうっとなぞられたものだから、ルフィアはひとたまりもない。はぁぁぁんっ、と悩ましい吐息を漏らしながら、身体から力が抜け、グレゴリーの胸にしなだれかかった。
肩を抱き、美しい長髪を撫でながら、しばし頭の上のウサギ耳を観察する。
あくまで女性の肉体を妖艶に彩る衣装のはずなのに、これが無いと何故か物足りなく感じる。不思議なものだ。
観察していると、ルフィアが不意に顔を上げ、蕩けたまなざしとグレゴリーの視線がかち合った。ステップを進める頃合いだ。
「あっ…は…」
まずはスーツの上から、胸の感触を味わう。
ルフィアほどのバストサイズに合うスーツは取り扱いがなかったか、それともあえて小さいものを選んだのかはわからないが、先端を隠すカップからは乳肉が少しこぼれ出してしまっている。
布越しと生の柔肌、ふたつの感触を手のひらで一度に堪能する…なんとも贅沢な体験だ。
丹念に愛され、開発され続けたルフィアの乳房は、グレゴリーの手にのみ敏感な反応を示し、揉まれているだけでも絶頂しかねないほどに感じてしまい、白い素肌を桃色に上気させるのだ。
「お客様…恥ずかしい、です…ッ♪」
続いてカップの中に手を差し込み、すでに勃起しきった乳首の固くて熱い手触りを愛でる。
カップの壁とルフィア自身の乳圧で、グレゴリーの手は強く圧迫される。まるで手がルフィアの乳肉に溶けていってしまいそうな、幸せな圧力だ。
「じゃあ、やめてほしいのか?こんなに濡れてるのに…」
下腹部に目をやると、濃厚な蜜がスーツのクロッチ部に染みこみ、黒色を一層濃くしている。それどころか、布地では抑えきれずに隙間からにじみ出て、ストッキングに包まれた魚体をゆっくりと伝い落ちていた。
…こんな光景を見ていると忘れがちだが、ここはあくまで水中である。
飲食物はおろか、愛液や精液も水に溶けずにこうして雫となるのだから、海底都市の環境は本当に不思議というか、都合がいい。
「そ、それは…んンッ!」
しかしその都合のよさは、存分に楽しむことこそ正しいあり方だ。
人魚などのためのバニースーツは、いわゆる“股”が存在しないために、クロッチ部をボタンでストッキングに留める構造になっている。
溢れる愛液を潤滑とし、スーツとストッキングの隙間に中指と人差し指を滑り込ませ、熱い秘肉をぐちゅぐちゅとかき回す。
何百何千もの夜を共にしながらも未だ衰えない、どころか強くなってさえいる気がする膣内の締め付けは、まるで本当に普通の従業員を捕まえたかのようだ。
「お客さ、あっ、んっんんっ…!!」
もちろん、性器にかまけて、ルフィアのいやらしい乳房を放ってなどおけない。
ついにカップをめくり下ろし、まろび出た生胸とその先端を、グレゴリーはもう片方の手と口で弄ぶ。
バニースーツを剥がされたように、ルフィアの演技も強い快楽によって剥がれていく。
「はぁっ…はあっ…
お客さまぁ…わ、わたし…もう……」
力が入らずぐったりとした様子で、潤んだ瞳で懇願される。
すでに十分、この衣装を着たルフィアには魅了されているというのに、こんな表情を見せられてはグレゴリーも限界だ。
グラスに残ったワインを煽ると、ルフィアの脇に片腕を差し込んで抱きながら立ち上がらせ、再びのキス。
ズボンの中からパンパンに膨れた肉棒を開放し、クロッチ部を横にずらして、一気に最奥まで貫いた。
「はうぅぅぅぅんッ♪」
その瞬間、二人は同時に絶頂した。
ルフィアの身体は弓なりにのけ反り、さながら吸盤の要領で、放たれたグレゴリーの精をさらに吸い上げる。グレゴリーの為だけにあつらえられたかのような膣襞もそれを手伝い、子宮へと精液を送り込んでいく。
力なくグレゴリーの背に添えられただけの両腕とは対照的に、電流のような快楽で、尾ビレと腰ヒレがびちびちと暴れて止まらない。
そんな可愛らしい様子を見て、グレゴリーは射精しながらもなお、ペニスをより固くしていく。お互いに、この絶頂は単なるスタートに過ぎないのだ。
本番はここから。膣内にあふれかえる潤滑液に乗せて、グレゴリーは腰を揺らしてルフィアを犯しはじめた。
水中のちょうどよい浮力は、マーメイドのように足のない種族が直立してセックスすることを可能にしてくれる。
全力のピストンは、二人の間になんらの遠慮も気遣いも不要と言わんばかりだ。
「ふあっ、あっ、ああああっ、はぁっ!」
腕の力だけで体を支える事ができ、突くも引くも自在。
おまけにその振動で、二人の身体の間に挟まれた巨大な乳房が、クラゲのようにたぷたぷと独特の揺れを見せる。
自由な片腕でそれを激しく揉み上げたり、ウサギの尻尾のふわふわを弄んだかと思うと、腰からお尻、太腿への滑らかなラインをなぞったり。グレゴリーは、バニーガールのルフィアすべてを思うがままに楽しむ。
何かをする度に、いちいち大げさなほど可愛らしい声を上げてくれるルフィアへの愛おしさは臨界を超え、グレゴリーは彼女の瑞々しい唇をやや強引に吸い上げた。
「んンーッ!んっ、ぢゅっ、んんぅぅ…!」
息ができなくなるほどに長い口づけ。二人の脳髄は性愛と快楽に焼かれ、全身がぶるぶると痙攣しだす。
ほどなくして、二度目の同時絶頂。
茶のストッキングは、際限なくこぼれ落ちる二人の体液で、もはや見る影もなく白色に汚れている。
だが、全く治まらない。すぐさま三回戦が始まる。まさに、いつまでも腰を振り続けるウサギのつがいだ。
──結局この後さらに3回、立位セックスを楽しんだところで、ようやく二人は休憩に入ったのだった。
「うふふ。どうだった?」
「ああ…最高だったよ。ほんと」
ドロドロの身体をしばしベッドに横たえ、二人は息を整えつつ余韻を楽しむ。
激しい交わりだけでなく、この時間も大切なものだ。
「あ。このワイン、私も飲んじゃっていい?」
「もちろん。オレ達二人のものだろ」
嬉しそうにワインを注ぎ、自ら飲んでいくルフィア。バニーガールと客の演技はもう終わり、夫婦としての顔に戻る。もう慣れたのか、あまり恥ずかしがってもいない。
「しかし、その服…
大勝ちしたのはお前なんだから、もっと別の、自分が欲しいもの交換してもよかったんだぞ?」
しかし、ルフィアは小さく首を横に振った。
「ううん、いいの。
………これが、いいの」
頬を染め、小さな声で呟く。
そういえば、バニーと初めて出会ったあの時は、他の出店などに小遣いを使い過ぎて買えず、結局それっきりだったのだ。
憧れはすれど、何事にもタイミングというものはある。
何年も前のそれを今回、このような都市にやって来て思い出し、二人で楽しむために交換してくれたのだ。
「…ありがとう」
その意図を理解したグレゴリーは、ルフィアを優しく、しっかりと抱きしめた。
彼女はなんと愛おしいのか。
「……♪」
ルフィアも嬉しそうに目を細める。
その満足げな表情は、これこそが目的だと言外に示していた。
しばらくそうして抱き合っていたが…不意にルフィアは腕の中で提案してきた。
「…そうだ。
カードも交換してきたし、二人で遊ばない?」
「え?今か?」
「うん。二人だけの勝負。
負けた方は、勝った方に思いっきりサービスしてあげるの♪」
「いや、それ勝ち目ないだろオレ…
…まあ、約束したしな。やるよ」
「やった♪
それじゃあ、ゲームは何にする?ポーカー?ブラックジャック?」
「ん〜、そうだな…」
スリルや欲望の渦巻く…しかし優しい水中賭博都市。街を彩る欲望の中には当然、魔物娘とその夫が、お互いへ抱く欲望も含まれる。
今宵はそこに、この若き二人の欲望も加えながら、街の明かりは今日も眠らず、煌々と灯り続けるのであった。
23/02/23 23:09更新 / K助
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