メロンゼリー
「……」
ある家の自分の部屋にて、ベッドに突っ伏し、深く落ち込んでいる少年が一人。
昼頃、ふらふらと学校から帰宅し、それから半日こうしている。時刻はもう真夜中だ。
「…くそっ…」
それまで全く動きが無かった彼は、一言、搾り出すように呟いた。
「ぁぁぁ、くそっ、くそっ、くそぉぉぉッ!!」
それを皮切りに、彼は声を限りに叫び、拳を、頭を、狂ったようにベッドに叩きつける。
一発叩きつけるごとに、目から涙がこぼれていく。
「何だよ畜生…何なんだよ!!」
彼のこの憤りと奇行の理由を簡潔に説明するならば、
『好きだった女の子に告白し、そして恋破れた』という事である。
しかし、その破れ方というのが、尋常ではなかった。
「『もう好きな人がいる』とかなら、まだ納得できた!できたのに…
何だよくそっ、あんな、あんな奴だったなんて…!」
涙と怒りで顔をくしゃくしゃにしながら、腕やワキの下に鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。
ひとしきり嗅いだ後、彼は再びベッドに突っ伏して大泣きに泣き、
いつしかそのままの姿勢で、泣き疲れて眠っていた。
彼は中学校入学と同時に、友人に誘われて、剣道部に入部した。
元々運動はあまり好きではなかったし、サボりはせずとも、やる気も大してなかったが…
二年のクラス替えの際に、ある少女と出会い、彼のやる気は激増した。
とても可愛らしくていい匂いで、友達も多い素敵な少女。
それが、彼が一目ぼれし、つい先程まで想いを寄せていた相手であった。
「ヒロ…お前最近、物凄いやる気で練習してるよな。」
「おう。それがどうかしたか?」
「いや、いい事だと思うけどさ。一体どうしたんだ?いきなり。」
「な、な何だよ。なんてことないって。」
「何か、はっきりした目標でも持てたとか?」
「目標……ああ、そうかも。
お前の言うとおり、目標ができたんだよ。詳しくは言えないけど、スゲーやつ。」
「そうか…よかったな!頑張ろうぜ!」
「おうッ!」
彼の思いはただ一つ。
『大きな試合に出られるほどの選手となり、
自分に箔と勇気をつけた上で、彼女に告白する』
何しろ相手は、何人もの男子が狙っているとも言われる美少女。
対する彼は、ルックスが良いわけでもなく、体型はむしろ標準よりやや太め。
夏場はタオルを決して手放せないような汗っかきだし、会話が上手なわけでもない。
それでも彼女と付き合いたいと切望した彼にとって、これだけが淡い望みだった。
恋する男のなせる業か、彼は他の部員の何倍もの努力を重ね、
2年生、しかも素人に毛が生えた程度の状態からというスロースタートながら、
彼はメキメキと、同学年に負けない程の実力をつけていく。
そして、ついに3年夏の大会、彼にとっての引退の舞台で、友人と共に団体部門に選抜。
それなりに多くのチームが出場する中、彼は大活躍し、
準優勝という、十分評価に値する戦績を挙げた。
「優勝や全国出場は出来なかったけど…やったな、ヒロ。
一年ちょっとでここまで出来るなんて…ホントすげえよ、お前。」
「いやいや、お前が居なきゃ、あそこまで行けなかったさ。
でも…ありがとな。…これなら、十分いける筈だ。」
「いける?」
「あ、いや、なんでもない。」
そしていよいよ一昨日…夏休みに入る終業式の前日、覚悟を決め、告白を決行した。
この日に備え、間違いなくこれまでの学校生活の中で一番真剣に考え、
悩んで悩みぬいて、渾身の告白の文句を考え出し、
緊張に折れそうになる心を必死に奮い立たせ、告白するには自分的に最高の、
それでいて無闇にキザったらしくない(と思っている)最高のシチュエーションで、
最高に想いを込めた告白を、放課後、とうとう彼女に伝えた。
「…う、うん。ごめん…明日まで、考えさせて。」
ハッキリしない返事だったが、その時は、もはや彼女が了解してくれる未来しか見えず、
快くそれを許し、ドキドキしながらも軽い足取りで帰宅し、興奮して寝付けなかった。
…だが。
翌日のホームルーム終了後の短い休憩時間、小用を足しにトイレに行った帰り。
教室前に立ったとき、偶然、彼女と数人の女子達が話しているのが聞こえ…
聞いて、しまった。
「ねえねえ、告白されたってホント!?」
「ん?まあ、告白っちゃあ告白…かな。」
「同じクラスの…広上だっけ?あの剣道部の。どう?オッケーする?」
聞いてしまったのだ。彼女の言葉を。
「ええー?いやー…ちょっと、完全ムリかな?」
「えー、部活で凄い活躍だったって聞いたよ?有望株じゃない?」
「ダメダメ。それは聞いたけど、そんなこと興味ないし。
大して話したこともないし、顔もアレだし、何よりくっさいしさ。
体も、部活も、あと告白の台詞も。悪いけど私、臭いのだけは完全ムリ。」
「……!!?」
一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。
まさか、まさか彼女が、そんな事を言うはずがない。あんなに人当たりのいい彼女が。
何度も聞き間違いであることを祈った。
夢や嘘、冗談であってくれと、何度も何度も願った。
…だが、放課後、それが嘘でもなんでもないことが証明された。
「…ごめんなさい、私、広上君の気持ちには、答えられそうにない…
理由は色々あるけど…やっぱり、どうしても合いそうにないの。」
そこから帰宅までの数時間の記憶は、彼にはなかった。
そして、彼が初恋からの、痛烈に過ぎる初失恋を体験し、一週間が過ぎた。
失恋のショックに加え、これまでの努力を完全否定された事、彼女のイメージが砕けた事、
何よりも、あんな相手に今まで熱をあげていたのかと言う悔しさが彼の心に充満し、
今夏の猛暑も手伝って、この一週間、彼は完全な無気力状態になっていた。
彼の家は両親が共働きであり、いつも彼より早く家を出るため、うるさくは言われない。
そのため、一週間ずっとゴロゴロとし続けていたが…
「いつまでも、こんな調子じゃなぁ……」
なにせ折角の最後の夏、受験勉強はともかく、部活の練習に縛られない自由な夏なのだ。
未だにショックが強く残る頭でも、このままではいけないという事は薄々感じ始めていた。
なにか、何か立ち直るきっかけが欲しい…そう思いながらも、気力が湧かない。
かと言って、何かしていないと、ショックと焦りで心が押しつぶされそうになる。
なんとか気を紛らわせるためにも、いつものように居間に行ってテレビを点けた。
『…昨夜未明、○○県○○町でトラックが……
……カピバラの赤ちゃんを、連日沢山の人が見に……
……今週1位のさそり座のラッキーアイテムは……』
まだ朝なので、テレビから流れるのはニュース番組ばかり。
ニュースなんかじゃ気は紛れない…と、リモコンでチャンネルをあれこれ変える。
しかし、どの局に変えても同じようなニュース、同じような番組…
と思いきや、一つだけ、ニュース番組では無いものがあった。
『モンスターズ・ミラクル・マーケット!』
「って、通販番組か…。」
家電だのパソコンだの収納ケースだのに興味は無いし、当然、買う金も必要も無い。
そんなのを見ても仕方が無いと思い、再びリモコンのボタンを押す。
「?あれ…変わらない。…何だよ、とうとう壊れたか?このボロリモコン…」
音量は変えられるが、チャンネルや電源のボタンが効かない。
だが、わざわざテレビの方まで行くのは面倒なので、仕方なく見続ける事にした。
『…まだまだ続く暑い夏、このゼリーを食べて涼しくなりませんか?
オススメは、こちらのメロンゼリー!
緑は癒しの色。芳醇な香りが、貴方の心を癒してくれます!
恋敗れた貴方、無気力な貴方も、この機会に癒されてみませんか?』
「…失恋、無気力…」
今の自分にジャストミートな単語が出て、やや落ち込む。
あんな女、と幻滅し、怒りも悔しさも覚えているが、
一年以上も抱き続けた恋心は、今になっても割り切れなかった。
『──踏み出しましょう。』
「…え?」
『悲しみに浸っていても、いい事は起こりませんよ。』
テレビの中の美人な紹介者達に、語りかけられたような気がした。
『ええ。あなたは一時、不運に見舞われただけ。
悲しむな、とは言いませんが、悲しみから一歩踏み出さない限り、
抜け出すことは出来ないし、新しい恋も見つかりませんよ。』
『『恋するゼリー』は、貴方が一歩を踏み出す事を、きっと応援してくれるでしょう♪』
「………いい事言ってるんだろうけど……通販の宣伝じゃ台無しだな…。」
溜息をつきながらも、ちらりと商品を見る。
何となくケミカルな色に見えなくもないが、鮮やかな緑色のゼリーが、照明で輝いている。
「でもそういや、ゼリーって、ここしばらく食ってないな…。」
今年は特に暑いので、よく冷えたゼリーは魅力的に感じる。
先程の、悲しみから踏み出す云々は置いといて…
「通販で売る位だから、コンビニとかのよりも、よっぽど美味いんだろうな…」
しかし、こういう通販で売る食物は、たいていギフト用と相場が決まっている。
質はいいが、数が多くて、しかも高価なのだ。
「…1個でいいから、安くしてくれないもんかな。」
『今だけ大特価!この『∞クライマックス』をお付けして、
1個1000円のところを、なんと半額の500円でご提供しますッ!!』
「えええ!?1個から買えんの!?」
何気なく言った事だが、まさか叶うとは思わず、大いに驚く。
「まあそれなら、ちょっと買ってみたいかな…。折角だし。」
こうして彼は、条件に釣られ、表示された電話番号に電話を掛けたのだった。
自ら通販で物を買う事など初めてなのでドキドキしたが、無事に注文は済ませられた。
そして数日後…
注文時に指定したとおり、両親が仕事で家を出た後、昼頃に商品が届いた。
「広上 飯人(ヒロカミ イイヒト)様ですね?こちらがお届けの品になります。」
「どうも。…はい、500円。」
「ありがとうございました!また『かっぱ通運』をよろしくお願いしまーす♪」
直ちに自分の部屋に持って行き、箱を開ける。
両親は小遣いの使い方にはややうるさい人物なので、モノを見られる訳には行かないのだ。
「こいつが500円のゼリーか…。お、もうよく冷えてる。
おまけのドリンク剤に…そんでこれは………何だ?」
ゼリーとドリンク剤の他に、白く小さく四角い板のようなものが数枚入っていた。
それについての注意書きも同封されている。
「『注意! ゼリーを開封する前に、必ず部屋を閉め切り、
同梱されている白いパッドを、貴方が居る部屋の全てのドアや窓、
通気口などにしっかりと貼って下さい。
念のため、クローゼット等にも貼っておくとよいでしょう』…?何の意味があるんだ?」
よく分からないが、とりあえず書かれてある通り、ドアや窓全てにパッドを貼る。
通気口にも忘れず貼り、クローゼットと、余ったのでタンスにも貼った。
スプーンも持ってきていよいよ準備は完了し、ゼリーのフタの端をつかみ、引き開けた。
「いただきまー…はガッ!!?」
彼の鼻腔を、強烈な異臭が貫き、思わず後ずさり尻餅をつく。
「な…何だ?いまの臭い…うぐっ……!」
排泄物、焦げた魚、ドブ、生ゴミ、洗ってない犬…さまざまな臭い物を思い浮かべるが、
そのどれにも当てはまらず、それでいて、とにかくひどい匂い…
これは何だろうと疑問に思いながらも、同時に、何が匂いの発信源なのかを目で探す。
「……って、まさか…このゼリーか!?」
もしかして腐ってるのか?…いや、見た目はそんな風ではないし…
何より、腐ったものを売るなどあり得ないだろう。そんな悪質な通販だとは思えない。
じゃあ何故?この匂いはいったい…
混乱していると、目の前のゼリーに、さらなる異変が起こった。
「え?いや、何だよ?増えてないか?…うわ、溢れた!…やっぱ増えてるぅぅ!!?」
容器の中のゼリーがどんどん膨れ上がり、ついには容器からあふれ出す。
このゼリーのものであるらしい悪臭も、それに合わせてさらに広がる。
「ぐぇ…っぶ、な、な゛ん゛だぁぁぁ…?」
目の前で起こる事態についていけず、鼻をつまみながら、ただオロオロしてしまう。
そうこうしている内に、容器から溢れて床に大きく広がった緑のゼリーは、
今度は真上に向かって伸びていき、やがて、女の子のような形を描いていく。
「……へ…?」
間抜けな声を出す飯人。
彼の目の前には今や、全身が透き通った緑色の、
あどけない顔立ちをした、小さな女の子のようなものが佇んでいた。
髪らしき部分を始め、全身が、まるで溶けたアイスのようにドロドロと滴っているが、
不思議とグロテスクさは感じず、むしろ、どこか可愛らしさがある、不思議な姿だった。
…全身から泡となって沸き立ち続ける、その悪臭を除けばだが。
「な……なんだこりゃ?」
「…あ〜…おとコの、ヒと…です…」
その少女?は、飯人を見つけると、両手を広げてにじり寄ってきた。
「何だ?おい、何だよ…?
うおっ、ちょ、近づっ……やめろよ!?」
「キャっ!?」
なにがなんだか分からず、思わず少女を突き飛ばし、そのまま部屋の隅に逃げてしまう。
「はー、はぁー…。」
「う……ニ、にげないで…ほシイ、です…」
「え…?いや、でも……え?」
目の前の存在は、なんだか拙い喋り方だが、どうやら言葉が分かるらしい。
恐る恐る、飯人は会話を試みる。
「あのー…あんた、何者?」
「えと…ナまえ、『ユウリ』…です。」
「お、俺の名前は飯人で…って、名前の事じゃなく…」
「?……あっ。…メロンゼリー?…とか、イうデす。」
「…メロンゼリー?マジで?」
「ハい…」
動いて喋れて、おまけに異臭がするメロンゼリーなんて、どこに居る!
…と突っ込みたかったが、堪えた。
「たベル、いい…でスか?」
「ええ!?…食うの!?俺が!?冗談だろ!?」
「…ダめ、ですカ?」
「それ以前に…食えるの?」
「ハイ…たベタい、なら。」
「食べたいなら、って言われてもなぁ…。」
「タべたく、ナイ、ですか…?」
「…うん。そりゃちょっと…ごめん。」
「…ァァ…」
少女の顔が、悲しげに歪む。
「おネガイ、でス。すてなイデ、すテナいで、クダさい…」
続いて、何かに怯えるように、縋り付いて必死に懇願してきた。
「いや、だって…その、食う気にならないよ。動いて喋ってるし、
それに何より、その匂いがくさ……………ッ!?」
そこまで言って、飯人はハッと思い出す。
…一週間前、自分はあの女に、陰で何と言われていた?
それを自分は、こんな小さな女の子に言うのか?
「……。
あの……『捨てないで』って、何かあったのか?」
「……こコノ、まえ…ワタシ、かわレタ、トキ…
かっテくれタ、きれいナ、おトこのひと…
ワタシのコト、クサい、きもチワるい、バけもの…いって、タタいて、
ソとに、なげラレた…デス。」
話しながら、ユウリは小刻みに震え、目らしき場所に、涙のような水滴が溜まってゆく。
「…そう、だったのか…。」
「たたカレたの、イタくないノに、それから、ワタシのムネ、ずっト、イタイです…」
自分と同じように、この子も、臭いと言われて、傷つけられたのか…。
「……ごめんな。突き飛ばして、逃げて…」
「…うウん。…くサイの、しってる、デす…」
「………
…食うよ。」
「エ?」
「…食って、いいんだろ?だったら…俺、食うよ。」
前の家を追い出され、ここでもまた拒絶されるなんて、この子が可哀相だ…
正直、食べてはいけなそうな匂いがぷんぷんするが、飯人は覚悟を決めた。
「あ…ありがトう…です…ジャあ…」
再び、ユウリが両手を広げてにじり寄ってくる。
飯人も、彼女から漂う激臭を何とか我慢して、彼女が来るのを待ち構える。
やがて彼女が飯人に抱きつくと、顔を近づけ、目を閉じ、口を突き出してきた。
「…ン…」
「……え?」
黙って口を突き出し続けるユウリ。……まさか、口から吸って食えと?
(…ええ!?いや、キス!?キスじゃねーか!?
こんな小さな子と、いや違う、それ以前に、メロンゼリーと…!?)
ユウリは尚も、飯人を待つように口を突き出している。
(……いやいや落ち着け。だって、メロンゼリーだろ?食うだけ。食ってるだけ。
それに、食うって言っただろ?食わなきゃ。行くぞ、行くぞ……!)
飯人は立ち膝になって顔の高さを合わせ…何故か、ついユウリを抱きしめ返し、
それからぎゅっと目を閉じ、思い切ってユウリと唇を重ねる。
ひんやりとした彼女の体が、暑い室温と、色々あって火照った顔に、とても心地いい。
そして、そのまま口を吸い込み、流れ込んでくる彼女の一部を、舌に乗せた。
(…………あれ?
……意外と、悪くない。むしろ…)
絶妙に甘酸っぱくさっぱりして、咀嚼して飲み込むと、後味がすっと尾を引く。
(…確かに、メロンゼリーっぽい。)
鼻に抜ける匂いも、慣れてしまっただけなのかもしれないが、あまり気にならない。
どころか、悪臭の奥底に、確かに、メロンのような爽やかな香りを感じ取った。
(……もう一口、いいよな?)
彼女を飲み込むごとに、もう一口、もう一口と、続けて味わいたくなる。
その内に、だんだんと思考がぼやけていき、ユウリの事が頭を一杯にしていく。
ユウリも、嫌がることなく、むしろ、うっとりと嬉しそうな顔で飯人に吸われ続け…
満腹になってから、ようやく飯人は我に返り、口を離した。
「っぷはー………うん、美味かったよ。びっくりした。」
「…アりがとう、です。イイヒトさん…♪」
そう言って、ユウリは静かに、ニッコリと笑った。
(うわ、可愛い……)
見た目は自分よりも明らかに年下なのに、ドキッとしてしまう。目が離せない。
漂う匂いにも、今や完全に慣れたどころか、何となくクセになる匂いに感じてしまう。
(初対面なのに、あんなにインパクト強かったのに、なんか、完全に慣れちゃったな…。
こういう事って、あるもんなんだな。
…ん?)
ふと、自分の一物が、大きく膨らんでいるのに気付く。
(……え!?なんで勃ってんだ俺……え?この子に?初対面で?人間じゃないのに?
っていうか、明らかに10とちょっとくらいなのに!?
マジかよ、え?俺、心の底ではこういう子に興奮する奴だったのか?)
戸惑っていると、ユウリが、飯人の膨らんだズボンに目を向ける。
「ア。イイヒトさン…」
「……え?」
「そレ…」
「………!!?あ、ああ、何でもないよ。何でも。ハハ!
ただちょっと…ね?うん。これは、何でもないから。大丈夫…」
「おちんチン、おおキい、なった、デスね…?」
「え!?いいいや、全然。あれだし。パンツの布が偏ってるだけ…」
「…もしカシて、ワタシで、コウふんした、でスカ?」
「……え、えー…っと、その、ナ、ナニヲイッテイルノカナ?」
どうにかシラを切ろうとしていると、突然、ユウリが膨らんだ部分に手を添えてきた。
「う、うおぉ!?だ、ダメだダメだよ!?そこは汚いから!マジで!」
「……カクさナくテも、しってル、ですよ。
カタくて、ピクピクして。イイヒトさん、コウフン、しテル…うれシイ……♪」
「…えー…」
「…ワタシ、キモチよク、して、アゲられるですヨ♪」
「いや、でも…」
「そうイわずニ。
クサがらズにたベテくれた、おレイ、しタイでス…♪」
「…うう…」
彼女の淫靡な笑顔に、この年頃の男子が持つ旺盛な性欲と、理性とが激しくせめぎあう。
…だが、彼は先程、媚薬成分を含むユウリの体を、大量に口にしてしまっている。
理性が敗北する事は明白であり、かつ速やかであった。
(…そうだ、この子は見た目小さくても、人間じゃない。メロンゼリーなんだ。
せっかく買ったんだし、彼女も望んでる。なら、ちょっとくらい…)
「……お願い、しようかな。」
「やっタ!じゃあ…フク、ぬいデ、です♪」
「…ん。」
若干躊躇したが、立ち上がり、着ていた部屋着を脱ぎ捨てる。
10と少しくらいのあどけない少女の、しかも人間とは大違いの少女の前で服を脱ぎ、
性的に奉仕してもらう。その激しく妙で背徳的なシチュエーションにすら興奮を覚え、
飯人の性器は、最大限に血を集め、膨れて脈打っていた。
「そレジゃあ、しつれい、すルデす…」
ぷくぷくと泡立つ、足元の広がった部分を移動させ、まず飯人の両足を包み込む。
「…あれ?」
「?…なにカ、イヤだった、でスか?」
「いや、さっきまでひんやりしてたのに、なんか随分ぬるくなったな…って。
でも、これ位のぬるさだと、けっこう気持ちいいな。」
「そうデすか。じゃあ、もっト、ヌルくて、きもちイイの、すルですね…」
ユウリはそのまま、飯人の腰に両手を添え、大きく口を開けて、熱いモノを咥え込む。
心地よいぬるさの粘液に埋まりこんだそれを、ゆっくりと優しく押し包むように刺激し…
「ぅあ…!」
「!」
飯人は、それだけで白濁を漏らしてしまった。
知識も経験もほとんど無い、性欲のみが先走る年頃の少年など、こんなものである。
相手が、生まれながらの性技のプロである魔物娘だったせいでもある。
仕方のない事だったが、彼は割と非常に恥ずかしかった。
ユウリの体の媚薬成分でぼやけた状態から、我に返ってしまうほどに。
「ン〜…♪」
「あー…あの…い、今のは無し!無しにしてくれ!お願い!」
「だーいじょうぶですよ♪もっトいっぱいシテあげルです…」
精を注がれて、スイッチが入りきったのか。
先程までは、確かに、庇護欲をそそられるような、か弱い少女だったはずのユウリの表情は
いつの間にか、百戦錬磨の高級娼婦のような頼もしさをかもし出していた。
「ワタシ、あたマわるいですけど…
ママンや、なかまから、エッチのしカタ、いっぱい、べんきょウしたです。
まかセて、です♪」
その笑顔が、声が、仕草が、小さく平坦な体すらも、どうしようもなく悩ましく感じる。
口から取り込んだユウリの体の効果と、彼女自身の魅力と、湧き続ける甘美な悪臭…
それらの要素全てが、飯人の中に絶え間なく流し込まれて混ざり合い、
彼女に対する愛おしさと欲望が加速し、再び飯人の頭の中全てを埋め尽くしてゆく。
(なんだこれ…何かこの子、スゲーエロい……人間じゃないのに…)
呼吸と動悸が速くなっていき、触れられてもいないのに、性器は先走りを滴らす。
射精直後だというのに、もはや限界間近の有様であった。
「うふ♪くるしソうですね。いま、きもちヨくするですよ。」
今度は全身を変形させ、飯人の全身に、触手のようにぐるぐると巻きつく。
「おおっ!?…ちょっとビックリした。」
「…ア。イイヒトさん、あせ…」
「……あ!?ご、ごめん。汚いよな?」
興奮している上に、夏まっさかりの暑さと湿度の中で窓を閉め切っているのだから、
大汗をかくのは当然と言えば当然だ。加えて、飯人自身、非常に汗っかきであるため、
今や彼の体は、全身余す所無く汗の膜で覆われているような有様だった。
「ううん。きたなく、ナいです。
いっぱい、イイヒトさんのあじがして、オいしいです♪」
「ええー…」
「…でも、ワタシのからだだと、あせ、いっぺんにのメないです…」
ユウリの小さい体では、胴体はどうにか全部覆えても、
顔はむき出し、手足には巻きつくだけで、全身をすっぽり包み込むことまでは出来ない。
彼女にとってはそれがとても歯がゆいらしく、表情は見えなくても、
巻きついている彼女の体が、その感情を伝えるように震えるのを飯人は感じた。
「あんまり気にしなくても…。これから大きくなれば…あ、いや、何でもない!」
つい無責任な事を言ってしまったと思った。
常識で考えれば、ゼリーが大きくなっていく事なんてないのに。
だがその言葉に、ユウリは頷くように震えた。
「そうでスね!これからおおきくなれバいいです。」
「…え?大きくなれるの?」
「なれる、ですよ。イイヒトさんのあせとセイをたべれば。」
「あ…汗で?汚くないか?」
「イイヒトさんの、きたなく、ないですヨ?」
「そ、そう言う意味じゃなくて…まあいいや。
…そうか。成長するのか…。」
やっぱりこの子って生きてるんだな、と、今更ながら実感した。
だから、あの司会は『いつまでも食べられる』とか言っていたのだろうか?
「ところで、『セイ』って一体…」
「ア!わすれてたです。ごめんなサい…いま、モらうです。」
ユウリは顔などに付いている残りの汗を急いで舐め取ると、
体の、飯人の股間を覆う部分を徐々に変形させる。
怒張したモノに密着している所に、何段もの波や微細なでこぼこが生まれ、
やがて、さながらオナホールのような構造へと変化した。
「!?な…なんか、ちょっと気持ちいい感じに…なにこの形?」
「ママンに、このかタちがきもちイイって、きいたです。
うゴいたら、もっとすごいミたいですよ…」
「ちょっ…!!」
いきなり遠慮無しで、激しく飯人の性器を扱き上げる。
ユウリの体から分泌されるローションのような粘液が、
性器とオナホールの間でかき混ぜられ、じゅぽじゅぼと淫靡極まる音を立てつつ、
飯人に、強力な刺激と快感をもたらす。
それだけに留まらず、その下にある陰嚢を柔らかくリズミカルにこね回したり、
飯人の胸部を覆うスライムは、飯人の乳首にまで刺激を与えてくる。
「く、うあぁっわあああ…!!?」
情け容赦なく、様々な性感帯に与えられる快感の同時攻撃を食らい、
あまりの衝撃に腰砕けになり、今まで立ち続けてきた足から力が抜けてしまう。
バランスを崩し、それに慌てて、逆に前に前につんのめってしまった飯人の体は、
やや太めの男一人、プラス小さな液状生物一人分の重力に引かれ、
ロクに受身も取れずに、顔から思い切り床に激突してしまいそうになる。
「あ…?あっ、だ…だめ、コろんじゃう…!!」
だがその寸前に、飯人の危険を察知し、ユウリは驚くほど素早く行動した。
飯人の体からぱっと離れて人型形態に戻り、彼を抱きとめて必死に支えつつ、
自身の体全体をクッションにして、飯人の転倒を食い止めてくれた。
「お、おぉ…」
「ヨっ…よかったぁ…。」
「…た、助かったよ。ありがとな。」
「でも、こウなったの、ワタシのせいデすし…」
「そんな事…」
そのまましばし見つめ合い、
二人はふと、飯人がユウリを押し倒しているような体勢になっている事に気付く。
「…あノ…。
つづき、するでスか?それトも…」
「?」
「こんどは、イイヒトさんが、しテも、いい、ですヨ?」
「……」
許可というよりは、むしろ誘うように、可愛らしくも淫らに笑う。
そこで、彼の頭の中の何かがぷつんと切れ、
これまで膨張と中断を繰り返してきた飯人の欲望は、とうとう爆発した。
「きゃんっ♪」
まずユウリの両腕を押さえつけ、しっかりと組み敷く。
もちろんユウリの体なら脱出は容易なのだが、彼女はまったくの無抵抗だ。
「…いいんだな?」
「いイですよ♪」
「…知らないぞ!?」
片手を離し、胸に当たる部分に手を当て、押し付けるようにぐにゅぐにゅと揉み回す。
筋肉も骨もないスライムの体は、飯人の手に、固い感触ではなく、
大きな乳房と変わらぬ、全てを受け入れるような柔らかな手触りを伝える。
「あフッ、ぅん…♪」
「フーッ、フー…まだまだ…!!」
揉む手はそのままに、今度は未熟な胸に噛み付くように口をつけ、
舌で全体を嘗め回したり、乳首にあたる部分を強く吸い上げつつ、本当に噛みついたり…
雄の独占欲を満たすための、まさに『貪る』という形容がふさわしい行為を加える。
小さな体に降りかかるにはあまりに苛烈な責めに晒されながらも、
ユウリの心身はそれら全てを快楽と感じ、体を震わせる。
「アァァ…!イイヒト、さん、おっパい、はげしすぎテ…ァッ、
すご、すごい…きもチいい、ですッ…ふにゃああ!!」
大きく甲高く、そして可愛らしいユウリの嬌声が、
耳から入り、ユウリに対してのみ反応する媚薬に冒されきった飯人の脳に反響する。
響き続ける甘美な音は、飯人の脳細胞を、豆腐をすりこぎで潰すようにかき回し、
理性など、ユウリを犯す妨げになりそうなものを容赦なくすり潰す。
このままでは自分は、二度と正気に戻れなくなりそうで、
危機感を抱いた飯人は、嬌声をせき止めるべく、
おかしくなっている頭から発せられる指示のまま、ユウリの口を自分の口で塞いだ。
「ンむぅ…♪」
「フーッ、フゥー…ッ!」
唇だけではまだ声をせき止めるに至らない、と、さらに舌を差し込んで栓をする。
満腹になるまで味わった、あのゼリーの甘い風味が再び舌に染みこむ。
そうして進入してきた飯人の舌を、ユウリのひんやりとした舌が迎え入れ、
触手のように何重にも巻きついたり、二股に分かれて舌の表と裏を同時に愛撫したりと、
人間はおろか、他の魔物娘にも到底出来ない動作で飯人の舌を楽しませる。
「はぁっ…あむっ、ふっ、るろ、ずちゅっ…」
「んもぁ、ぅっ、れりょ、ん、ぷちゅぅぅ…♪」
舌で激しく交わりながら、飯人は沸き立つ悪臭を勢いよく吸い込み続ける。
鼻腔から入り、気管、肺、血中、細胞全てに臭いを染みつけんとするかのように、
思い切り臭いを肺いっぱいに満たしては、間も無く肺の中身を新鮮な悪臭へと交換する。
まるで燃え盛る炎に、ふいごで新鮮な空気を供給し続けているかのように、
飯人の内にある情欲の炎は勢いを増し、肉棒は煮え立つように熱く、硬くなり、
ぐずぐずに蕩けている頭の中が、さらに焼けていく。
「ふぅ、ふ、ぐ…ぅぅぅ…!」
「んも…(イイヒトさん、こすりつけてる…)」
ユウリの股間らしき部分に、青筋を浮かせるほど猛り狂い、
ひっきりなしに涎を垂らす飯人の分身がこすり付けられている。
どうやら、挿入したくて仕方ないが、どこに突き立てればいいのか分からないらしい。
血走りながらも焦って泳ぐ飯人の目に『大丈夫』と目配せをして、
こすり付けられている部分を自ら動かし、ちゅぷっ、と優しく包み込んだ。
「!!!ふぅぅぅぅ…!
…ふっ、ふっ、ふぅぅっ…!!」
直後に射精してしまったが、肉棒はまったく衰えない。
それどころか、激しく射精し続けながらもなお腰を振り続け、
ユウリの柔らかい体の奥へ奥へ、精と衝撃を、一切の気づかいなく打ち込み続ける。
「んっ、んぅぅぅ!ふうっ、おっ、むぅぅ…♪」
知らぬ者が見たら、誰もがレイプと判断するであろう激しさの行為。
人間であったならば壊れてしまいかねない、獣の如き暴れよう。
だがしかし、ユウリはそれに対して喜悦の涙を流し、快楽に打ち震えている。
ただスライムの体が柔軟で淫らだからというだけではない。
ユウリは、自分を受け入れてくれた飯人に、確かな愛情を抱いていたからだ。
愛する『夫』に対してならば、魔物娘はいかなる激しい行為でも受け入れ、
意識が飛ぶような快感と、心が熱くとろけるような喜びに変えるのだ。
「ふ、う、ぐっ、うぐっ、はふっ…!」
だがユウリも、挿入されている部分を、先程のオナホールと同じように変形させ、
最大限に快楽を与えるよう作られた仮初の膣内で、飯人のペニスを扱き上げていた。
抽送の度に、生物の腸の繊毛のような微細な粒々が、肉筒をぞろりと撫で上げる。
まさに消化されているような、熱く溶ける快感が襲う。
リング状の溝がカリ首に引っかかり、されど邪魔にならない程度の絶妙な抵抗を与え、
先端を複数の吸盤が、精を啜らんと四方八方から強く柔らかく吸い上げる。
(ぶぢゅっ!ぷち、ぴじゅ…)
さらに時折、ユウリの体から湧き続ける悪臭の入った泡が近くに生まれ、
それが肉棒で潰され、かき混ぜられ、そして弾け、
卑猥きわまる音を響かせながら、性器のそこかしこにアトランダムな刺激を与えてくる。
飯人の行為も、幼いユウリにとっては苛烈なものだが、
魔物娘の生まれ持つ技巧に加え、様々な性知識を持つユウリが、飯人に与える刺激もまた、
この年頃の少年に与えられるには強すぎるものであった。
「ふぉぉっ、ぁぁぁ…!!」
「んーッ!んふぅー!!ぁぅ……っ!」
絶え間なく射精し続けていても、飯人の腰は更なる快感を求めてひとりでに動く。
つい先程までは余裕の態度であったユウリも、飯人の勢いに完全に呑まれてしまい、
今では一突きごとに激しく絶頂しているが、それでも尚、精を求めて膣をうねらす。
お互いに、止まらない。
互いの心と体は、どんどん限界へと向かっていき…
「ぁ…あっ、がぁうぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「あひっ、は、ひあああぁぁぁぁぁぁあん!!」
最後、二人同時に、今までで最大の絶頂を極めた。
口を離し、喉も枯れ果てよとばかりに、獣からも出ないような大きな咆哮を上げる。
それはさながら、全身の神経をスパークさせ焼き尽くすような爆発的な快感が、
二人の体躯に収まりきらず、音となって喉から放出されているようであった。
もはや二人に、一切の思考はない。
長く長く続いた絶頂が終わると、飯人は糸が切れた人形のように崩れ落ち、
ユウリは飯人の体を支えつつ、人型を維持しきれずに液状化して床に広がり、
そして互いに、意識を失った。
二人が目を覚ました時には、もう時刻はすっかり夕方であった。
「…ぁ……あー…?」
「ん……おはよう、です…。」
「…俺…気絶、してたのか…?」
「そうみたいですね。ワタシも、してたです…。」
「そうか………!?」
そこで我に返り、気絶する前までの、自分の所業を思い出す。
「ぁ……ご、ごめん!!」
「?」
顔を青白く染めながら、ユウリに向かってひたすら頭を下げた。
だが、ユウリは首をかしげるばかり。
「あ、あんなひどい事しちゃって…一体、どう詫びていいのか…」
「え…?ひどいこと、って…なにですか?」
「さっきしただろ!?俺、オモチャみたいにユウリの事を…」
「…ひょっとして、エッチの、ことですか?」
「そうだよ!それ以外に何が…」
「べつに、ひどくなかったですよ?きもちよかったし…」
「え!?い、いや…嫌じゃ、なかったのか?
だって、こんな不細工だし、汗っかきで臭いし…」
「…ワタシのほうが、よっぽど、みにくいし、くさいですよ?」
ユウリが表情を曇らせる。
「そんな事ない。すごい可愛いし、その臭いも、俺は結構好きだよ?
その体も便利だと思うし、それに声だって可愛いし…」
ユウリは自分を卑下するが、そこは譲れないとばかりに、飯人は必死に訂正する。
それを聞くと、ユウリは優しく微笑んだ。
「…やっぱり、イイヒトさん、やさしいです。
ワタシ、やさしいイイヒトさんのこと、だいすきです。
だから、ぜんぜんイヤじゃないですし、むちゅうになってくれたの、うれしいです♪」
「そ、そう…なのか?…でも…」
「う〜ん…それでも、だめ、ですか?」
「…うん…気が治まらない。せめて、君のして欲しい事なら何でも…」
「そうですか……
…あっ、じゃあ、『せきにん』とって、です。」
「せ、責任?」
「せきにんとって、ワタシの、その、こいびとになって、です♪」
「…恋人…。」
その言葉を聞いて、記憶がフラッシュバックする。
つい一週間と少し前まで、本気で恋焦がれていたクラスメイト。
心無い言葉ひとつで、これまでの頑張りが粉々に打ち砕かれた悔しさ、悲しさ。
…しかしそれでも、自分はやはり、心のどこかで吹っ切れていなかったのかもしれない。
目の前の屈託のない笑顔を見ていると、
終わった恋にいつまでもしがみついている自分が、馬鹿らしく思えてきた。
「…俺なんかで、いいのか?」
「いいですよ。」
はっきりと即答され、飯人も、だんだん覚悟が固まってきた。
まだ出会って数時間しか経っていないが、
この子なら、この子となら…前に、踏み出せるかもしれない。そんな予感がした。
「……わかった、恋人になるよ。」
「ほんとですか!やった…ありがとうです!!」
嬉しそうに、上半身をにゅーっと伸ばして飛びついてくれた。
「な…なんか妙に照れくさいな。」
それを遥か超越することを、先程やっていたはずなのだが…それはともかく、
肩に預けられるユウリの頭のプルプルとした柔らかい感覚は、とても愛おしかった。
ひとしきり、その感触をつるつると撫でてから、体を離す。
そして…ふと、時計を見る。
「そういえば、どれだけ経ったのか…なッ!!?」
「ど…どうしたですか?」
「やばい、もうすぐ親が帰ってくるんだよ!この臭いどうしよう!?」
「やっぱり、いやですか?」
「俺はイヤじゃないけど、この臭いが親に気付かれたら、大騒ぎになるぞ!?
っていうか、もう家中に充満してるかも…手遅れか?」
彼が慌てていると、玄関のチャイムが鳴った。
「こ、こんな時に!?居留守使うか…?でもなぁ…」
『広上さーん、広上 飯人さんいらっしゃいますかー?ますよねー?
いるのは分かってまーす。お願いだから返事してくださーい。』
謎の女性の声が、玄関越しに聞こえてくる。親や近所の人ではないようだが…
『外に出れない状態なのも知ってますから、ドア越しにでも返事してくださーい。』
「こ…こっちの事を知ってる!?何なんだあの人…?」
とりあえず、家にはカメラ付ドアホンがあるので、それを使って返事を返す事にした。
「はい、飯人ですけど…」
『うおっ、呼び鈴から声が!?』
モニターの中には、何かの制服らしきものを着ている、活発そうな茶髪の女性がいた。
こちらの声に対し、何故かビックリしている。
「…ドアホン知らないんですか?」
『え?い、いえいえ、もちろん知ってますよ。
えーと…モンスターズ・ミラクル・マーケットさんから、飯人さんに郵便です。
印鑑はいりませんが、大切なお手紙なので、すぐに読んでくださいねー!』
「は、はあ…?」
『出れないのは知ってるので、郵便受けに入れときますね。それではッ!』
「あ、ありがとうございます…。」
そして茶髪の女性は、郵便受けに手紙を入れると…
「…飛んだッ!?」
なんと両腕についていた翼で空を飛び、あっという間に見えなくなってしまった。
「…何だったんだ、あの人…」
しばらく呆気に取られていたが、気を取り直し、手紙を取りに行くことにした。
「これか。
『ご購入いただいた商品についての、重要なお知らせ』…?」
急いでいたが、もしかしたら臭いをなんとかする方法が書かれているかもと思い、
とりあえず開封して読み始めた。
(えーっと、『この度は、当番組で商品をご購入頂き、誠にありがとうございました。
この手紙は、お送りいたしました『商品』が、知能などの問題により、
我々の事を詳しくご説明できない可能性のある場合にお送りさせて頂いております…)
そこからの内容は、驚くべきものばかりであった。
異世界が存在すること、その世界に済む『魔物娘』について、あの通販の正体、
ユウリはメロンゼリーではなく、バブルスライムという魔物であること…
これまで謎だらけだった物の、ほぼ全ての答えが、その手紙に書いてあった。
もちろん、素直に信じがたいような事ではあったが…
実際に交わってしまったという事もあり、飯人は意外とすんなり受け入れられた。
(『追伸:ゼリー開封前に貼っていただいた白いパッドは、室内に結界を張り、
バブルスライム特有の臭いの、室外への流出を防いでくれるものです。
剥がさないようにお願いします。』…か。よかった…外には漏れないのか。)
手早く、しかし入念にシャワーを浴び、服を着替える。
白いパッドのおかげで、タンスやクローゼットの中の服にも臭いが入らないらしい。
着替え終わった後、確認のために、体と室外の匂いをよく嗅いでみる。
(臭い…消えたな。
よかったんだけど………なんだろ。ちょっと寂しいような…)
なぜか一抹の寂しさを覚えつつも、
昼に脱いだ服を洗濯機に放り込んで回し、何食わぬ顔で両親を迎え、
夕食を食べ、早々に自分の部屋に戻った。
「あ、イイヒトさん…おかえりです。」
入った瞬間、むわっと悪臭が押し寄せてくる。
彼女の、ユウリの臭いだ。
鼻を突き刺すその臭いに、なぜかとても安心した。
「ユウリ…」
「?」
彼女の臭いを体に付け直すように、ユウリを強く優しく、頬ずりしながら抱きしめる。
「きゃッ♪」
「あー……なんか、ホッとするな。」
「…くさいのに、ですか?」
「俺はユウリの臭い、好きだよ。もちろん他にもいろいろ。
…そっちこそどうなんだよ?お前をメッチャクチャにしたような男なんだぞ?
おまけに汗っかきで臭いし…」
「ワタシも、だいすきだから、いいです♪」
「そっか。…なあ、ユウリ。」
「なんですか?」
「今日会ったばっかりだけど…これから、よろしくな。」
「はい♪
それじゃ…また、するですね♪」
「また!?…きょ、今日はもう勘弁して…。」
「え〜…」
「え〜…って言われてもなぁ…
もう勃ったり出るかもわかんないし、第一、親に声とか聞かれたらまずいし…」
「じゃあ、おふとんのなかで、するの、どうですか?それなら、きこえないです。」
「布団の中で!?う〜ん…
(布団に臭いが染み付いたら…いや、今更か。じゃあ…)
…勃ったら、いいよ。」
「やった!じゃ、さっそくするです♪」
「はいはい…」
…結局、声は抑えられたものの、二人はまた激しくなりすぎ、
文字通り精も根も尽き果て、気絶するように眠りに落ちたのだった。
話はまだ終わらない。
二人は夏休み中ずっと、ユウリが来た初日のような調子で、
親の目を盗んではサルのように交わり続けた。
…とは言っても、全く怪しまれなかったわけではない。
夏休み中、ほぼ全く家から出ない息子に、流石の両親も訝しげだったが、
それに対し飯人は、
『宿題や受験勉強で忙しいし、皆も遊ぶ余裕が無いらしいから遊んでない。
でもこの夏、遊ぶ代わりに筋トレとダイエットにチャレンジしている』と言い訳をした。
実際、飯人の体は、目覚ましいペースで引き締まっていったので、
両親もそれで納得し、それ以上怪しまれることはなかった。
(まあ、痩せたのはホントだし、いいよな…?)
激しく剣道の練習に明け暮れていた頃は、そのストレスを食事で解消していたため、
剣道の腕は上がったが、体型はほとんど変わらなかったのだ。
それがユウリが来てからは、毎日毎日、閉め切った部屋で激しい運動をしている上、
食事やおやつも、ほとんどユウリのメロン味スライムゼリー
(原料:ほぼ全て、水分・飯人の精・および汗などの老廃物のみ。低カロリー高タンパク)
という生活が続いていた。痩せるのもうなずける。
さらには、いつもギリギリまで先送りする夏休みの宿題も、
ユウリの応援があったからか、あっという間に全て片付けてしまった。
こうして、夏休み終了まで、何の心配もなくセックスに明け暮れていた二人であったが…
その時は、始業式の日、式を終えて学校から帰って来た時にやってきた。
「ただいま〜、ユウリ……!?母ちゃん!?」
勢いよく自室のドアを開けた飯人が見たものは、
おろおろするユウリと、気絶して倒れている母親であった。
……
「…なるほど。たまたま仕事が早上がりになったから、
早く帰ってきて、家の掃除をしていた…と。」
母親を居間までひっぱって行って介抱してから、飯人は事の経緯を聞いた。
「まあ、そう言う事よ。で…。
…あの緑色の…女の…子?いったい、何?」
「…やっぱり、覚えてた?」
「そりゃもう。あんな生き物、見たことないし…一体、何者なの?
どう見ても捨て犬拾ったとかそういうレベルの問題じゃないし、ちゃんと話しなさい。」
「…じゃあ、一応説明するけど…言う事全部、信じてくれる?」
「内容次第だけど…」
「いいや、全部。」
「……わかった。」
「…ん。」
飯人は、ユウリについての説明を始めた。
大前提である別世界の存在の事、彼女が別世界から来たという事、無害な存在である事、
かつて心無い人間に追い出された事、そこを自分が見つけて、ずっと匿っていた事…
極めて慎重に、言葉を選んで説明していった。
特にセックスの事など、一言でも漏らしてしまえば、自分もユウリも、そこで終わりだ。
母はただ、黙って飯人の話を聞く。
かつてないほど気をつけながらも、どうにか、一通りの説明は終えた。
「…正直、今でも信じられないけど…全部本当みたいね。」
「うん…。…頼む、母ちゃん!あの子をこのままうちに置いてやって下さい!
臭いかもしれないけど、絶対家族や近所には迷惑かけないから!
こっからも追い出されたら、あの子も俺も…!」
必死に懇願する。自分たちが、離れ離れにならないように。
飯人は既に、自分はもう、ユウリ無しでは生きられないということを自覚していた。
…やがて、母が口を開く。
「…とりあえず、顔上げなさい。」
「……。」
「そんなに必死だったの、去年のあの時以来だっけ。ヘタすれば、あれ以上かも…
何があったの?あの時。」
「…二年の初め、クラス替えで一緒のクラスになった女子に一目惚れしてさ。
剣道の大会に出て、勢いつけて、付き合ってくれって、告白しようと思ったんだ。
だから、めんどくさかった練習も頑張って、ついに大会にも出れて…
で、告白して…振られた。こっぴどく。剣道なんか興味ないって…
それから、何のやる気も起きなくって…」
あの日の後、両親に聞かれても言えなかったことだが、
自分の中で決着がついたおかげで、ようやく話すことが出来た。
「ああ…。終業式の夜わんわん泣いてたのは、そのせいだったわけね。
んで、その後に、あの緑の子を見つけて、助けた…と。」
「…うん。その後、俺もあの子に、すごく助けられたんだよ。」
「そう…。
そう言う事なら、離れ離れには出来ないか。」
「!…いいの?」
「息子の恩人を邪険にあつかうような薄情者じゃないよ、お母さんは。
拾った以上、ちゃんと責任持つなら、このまま家に置いてもいいよ。
それに聞いた限り、どうやら人畜無害のようだし、何だか凄くいい匂いしてたしね。
人を食べたり、臭いガスを撒き散らすようなのだったら、どうしようかと思ったけど…」
「あ…ありがとう母ちゃん!!
……って、え?いい匂い…?」
「…?いい匂い…じゃないの?」
「…ちょっと待ってて。」
とにかく、自分の部屋に行ってみる。
「イイヒトさん…?どうしたですか?」
落ち着いて、よく匂いを嗅いでみる。
「……消えてる……!」
常に嗅いでいて鼻が麻痺していたのか、全然気が付かなかったが、
ユウリの体から出る泡からはいつの間にか、
あの形容しがたい悪臭の要素だけが、きれいに消えていた。
残ったのは、初めてユウリのスライムゼリーを食べた時に感じた、
メロンのような甘く爽やかで、芳醇な香り。
芳香剤や香水のようなしつこさも無い、本当の、自然体の『いい匂い』であった。
自分の体も、「これはユウリの匂いだ」と、しっかり認識できている。
きっと、これがユウリの本当の匂いなのだろう。
つい、しばし頭を空っぽにして、香りを楽しんでしまった。
「…はぁー……。いい匂い…」
「イイヒトさん?」
「…ん?いや、何でもない。
…ユウリ。」
「?」
「一緒に、母ちゃんと、あと、父ちゃんにも挨拶しに行こうか。」
「……はいッ!!」
ぱあっと花が咲いたような、可愛らしい満面の笑みで返事をしてくれた。
ユウリの手を優しく引いて、初めて、ユウリを部屋から連れ出す。
そのまま手を繋ぎながら、歩調を合わせて、母が待つ居間へと向かった。
そして月日は流れ、高校受験も、第一志望校に無事合格。
「イーくん。今日から、こうこう…?だっけ。入学、おめでとう。」
高校だの入学だのはよく分かっていないようだが、
ユウリは新しい制服に身を包む飯人を、無邪気に喜んでくれた。
最初のつたない喋り方も、今では随分と流暢になっている。
「ありがとうな。…でも、イーくんは止めてくれってば。恥ずかしいんだから…」
「そう?わかった、イーちゃん。」
「大して変わってないだろ、もう…」
「はやく、帰ってきてね♪入学のおいわい、してあげるから。」
少し体が成長し、膨らみ始めた胸を、アピールするように自ら揉む。
「…ん。期待してるよ。
それじゃ、行って来ます!」
その後彼は高校で、3年の生徒会長とダークスライムのカップルを筆頭に、
魔物娘とその恋人達が、平然と学校内を闊歩する光景を目の当たりにしたりするのだが…
それはまた、別の話である。
ある家の自分の部屋にて、ベッドに突っ伏し、深く落ち込んでいる少年が一人。
昼頃、ふらふらと学校から帰宅し、それから半日こうしている。時刻はもう真夜中だ。
「…くそっ…」
それまで全く動きが無かった彼は、一言、搾り出すように呟いた。
「ぁぁぁ、くそっ、くそっ、くそぉぉぉッ!!」
それを皮切りに、彼は声を限りに叫び、拳を、頭を、狂ったようにベッドに叩きつける。
一発叩きつけるごとに、目から涙がこぼれていく。
「何だよ畜生…何なんだよ!!」
彼のこの憤りと奇行の理由を簡潔に説明するならば、
『好きだった女の子に告白し、そして恋破れた』という事である。
しかし、その破れ方というのが、尋常ではなかった。
「『もう好きな人がいる』とかなら、まだ納得できた!できたのに…
何だよくそっ、あんな、あんな奴だったなんて…!」
涙と怒りで顔をくしゃくしゃにしながら、腕やワキの下に鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。
ひとしきり嗅いだ後、彼は再びベッドに突っ伏して大泣きに泣き、
いつしかそのままの姿勢で、泣き疲れて眠っていた。
彼は中学校入学と同時に、友人に誘われて、剣道部に入部した。
元々運動はあまり好きではなかったし、サボりはせずとも、やる気も大してなかったが…
二年のクラス替えの際に、ある少女と出会い、彼のやる気は激増した。
とても可愛らしくていい匂いで、友達も多い素敵な少女。
それが、彼が一目ぼれし、つい先程まで想いを寄せていた相手であった。
「ヒロ…お前最近、物凄いやる気で練習してるよな。」
「おう。それがどうかしたか?」
「いや、いい事だと思うけどさ。一体どうしたんだ?いきなり。」
「な、な何だよ。なんてことないって。」
「何か、はっきりした目標でも持てたとか?」
「目標……ああ、そうかも。
お前の言うとおり、目標ができたんだよ。詳しくは言えないけど、スゲーやつ。」
「そうか…よかったな!頑張ろうぜ!」
「おうッ!」
彼の思いはただ一つ。
『大きな試合に出られるほどの選手となり、
自分に箔と勇気をつけた上で、彼女に告白する』
何しろ相手は、何人もの男子が狙っているとも言われる美少女。
対する彼は、ルックスが良いわけでもなく、体型はむしろ標準よりやや太め。
夏場はタオルを決して手放せないような汗っかきだし、会話が上手なわけでもない。
それでも彼女と付き合いたいと切望した彼にとって、これだけが淡い望みだった。
恋する男のなせる業か、彼は他の部員の何倍もの努力を重ね、
2年生、しかも素人に毛が生えた程度の状態からというスロースタートながら、
彼はメキメキと、同学年に負けない程の実力をつけていく。
そして、ついに3年夏の大会、彼にとっての引退の舞台で、友人と共に団体部門に選抜。
それなりに多くのチームが出場する中、彼は大活躍し、
準優勝という、十分評価に値する戦績を挙げた。
「優勝や全国出場は出来なかったけど…やったな、ヒロ。
一年ちょっとでここまで出来るなんて…ホントすげえよ、お前。」
「いやいや、お前が居なきゃ、あそこまで行けなかったさ。
でも…ありがとな。…これなら、十分いける筈だ。」
「いける?」
「あ、いや、なんでもない。」
そしていよいよ一昨日…夏休みに入る終業式の前日、覚悟を決め、告白を決行した。
この日に備え、間違いなくこれまでの学校生活の中で一番真剣に考え、
悩んで悩みぬいて、渾身の告白の文句を考え出し、
緊張に折れそうになる心を必死に奮い立たせ、告白するには自分的に最高の、
それでいて無闇にキザったらしくない(と思っている)最高のシチュエーションで、
最高に想いを込めた告白を、放課後、とうとう彼女に伝えた。
「…う、うん。ごめん…明日まで、考えさせて。」
ハッキリしない返事だったが、その時は、もはや彼女が了解してくれる未来しか見えず、
快くそれを許し、ドキドキしながらも軽い足取りで帰宅し、興奮して寝付けなかった。
…だが。
翌日のホームルーム終了後の短い休憩時間、小用を足しにトイレに行った帰り。
教室前に立ったとき、偶然、彼女と数人の女子達が話しているのが聞こえ…
聞いて、しまった。
「ねえねえ、告白されたってホント!?」
「ん?まあ、告白っちゃあ告白…かな。」
「同じクラスの…広上だっけ?あの剣道部の。どう?オッケーする?」
聞いてしまったのだ。彼女の言葉を。
「ええー?いやー…ちょっと、完全ムリかな?」
「えー、部活で凄い活躍だったって聞いたよ?有望株じゃない?」
「ダメダメ。それは聞いたけど、そんなこと興味ないし。
大して話したこともないし、顔もアレだし、何よりくっさいしさ。
体も、部活も、あと告白の台詞も。悪いけど私、臭いのだけは完全ムリ。」
「……!!?」
一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。
まさか、まさか彼女が、そんな事を言うはずがない。あんなに人当たりのいい彼女が。
何度も聞き間違いであることを祈った。
夢や嘘、冗談であってくれと、何度も何度も願った。
…だが、放課後、それが嘘でもなんでもないことが証明された。
「…ごめんなさい、私、広上君の気持ちには、答えられそうにない…
理由は色々あるけど…やっぱり、どうしても合いそうにないの。」
そこから帰宅までの数時間の記憶は、彼にはなかった。
そして、彼が初恋からの、痛烈に過ぎる初失恋を体験し、一週間が過ぎた。
失恋のショックに加え、これまでの努力を完全否定された事、彼女のイメージが砕けた事、
何よりも、あんな相手に今まで熱をあげていたのかと言う悔しさが彼の心に充満し、
今夏の猛暑も手伝って、この一週間、彼は完全な無気力状態になっていた。
彼の家は両親が共働きであり、いつも彼より早く家を出るため、うるさくは言われない。
そのため、一週間ずっとゴロゴロとし続けていたが…
「いつまでも、こんな調子じゃなぁ……」
なにせ折角の最後の夏、受験勉強はともかく、部活の練習に縛られない自由な夏なのだ。
未だにショックが強く残る頭でも、このままではいけないという事は薄々感じ始めていた。
なにか、何か立ち直るきっかけが欲しい…そう思いながらも、気力が湧かない。
かと言って、何かしていないと、ショックと焦りで心が押しつぶされそうになる。
なんとか気を紛らわせるためにも、いつものように居間に行ってテレビを点けた。
『…昨夜未明、○○県○○町でトラックが……
……カピバラの赤ちゃんを、連日沢山の人が見に……
……今週1位のさそり座のラッキーアイテムは……』
まだ朝なので、テレビから流れるのはニュース番組ばかり。
ニュースなんかじゃ気は紛れない…と、リモコンでチャンネルをあれこれ変える。
しかし、どの局に変えても同じようなニュース、同じような番組…
と思いきや、一つだけ、ニュース番組では無いものがあった。
『モンスターズ・ミラクル・マーケット!』
「って、通販番組か…。」
家電だのパソコンだの収納ケースだのに興味は無いし、当然、買う金も必要も無い。
そんなのを見ても仕方が無いと思い、再びリモコンのボタンを押す。
「?あれ…変わらない。…何だよ、とうとう壊れたか?このボロリモコン…」
音量は変えられるが、チャンネルや電源のボタンが効かない。
だが、わざわざテレビの方まで行くのは面倒なので、仕方なく見続ける事にした。
『…まだまだ続く暑い夏、このゼリーを食べて涼しくなりませんか?
オススメは、こちらのメロンゼリー!
緑は癒しの色。芳醇な香りが、貴方の心を癒してくれます!
恋敗れた貴方、無気力な貴方も、この機会に癒されてみませんか?』
「…失恋、無気力…」
今の自分にジャストミートな単語が出て、やや落ち込む。
あんな女、と幻滅し、怒りも悔しさも覚えているが、
一年以上も抱き続けた恋心は、今になっても割り切れなかった。
『──踏み出しましょう。』
「…え?」
『悲しみに浸っていても、いい事は起こりませんよ。』
テレビの中の美人な紹介者達に、語りかけられたような気がした。
『ええ。あなたは一時、不運に見舞われただけ。
悲しむな、とは言いませんが、悲しみから一歩踏み出さない限り、
抜け出すことは出来ないし、新しい恋も見つかりませんよ。』
『『恋するゼリー』は、貴方が一歩を踏み出す事を、きっと応援してくれるでしょう♪』
「………いい事言ってるんだろうけど……通販の宣伝じゃ台無しだな…。」
溜息をつきながらも、ちらりと商品を見る。
何となくケミカルな色に見えなくもないが、鮮やかな緑色のゼリーが、照明で輝いている。
「でもそういや、ゼリーって、ここしばらく食ってないな…。」
今年は特に暑いので、よく冷えたゼリーは魅力的に感じる。
先程の、悲しみから踏み出す云々は置いといて…
「通販で売る位だから、コンビニとかのよりも、よっぽど美味いんだろうな…」
しかし、こういう通販で売る食物は、たいていギフト用と相場が決まっている。
質はいいが、数が多くて、しかも高価なのだ。
「…1個でいいから、安くしてくれないもんかな。」
『今だけ大特価!この『∞クライマックス』をお付けして、
1個1000円のところを、なんと半額の500円でご提供しますッ!!』
「えええ!?1個から買えんの!?」
何気なく言った事だが、まさか叶うとは思わず、大いに驚く。
「まあそれなら、ちょっと買ってみたいかな…。折角だし。」
こうして彼は、条件に釣られ、表示された電話番号に電話を掛けたのだった。
自ら通販で物を買う事など初めてなのでドキドキしたが、無事に注文は済ませられた。
そして数日後…
注文時に指定したとおり、両親が仕事で家を出た後、昼頃に商品が届いた。
「広上 飯人(ヒロカミ イイヒト)様ですね?こちらがお届けの品になります。」
「どうも。…はい、500円。」
「ありがとうございました!また『かっぱ通運』をよろしくお願いしまーす♪」
直ちに自分の部屋に持って行き、箱を開ける。
両親は小遣いの使い方にはややうるさい人物なので、モノを見られる訳には行かないのだ。
「こいつが500円のゼリーか…。お、もうよく冷えてる。
おまけのドリンク剤に…そんでこれは………何だ?」
ゼリーとドリンク剤の他に、白く小さく四角い板のようなものが数枚入っていた。
それについての注意書きも同封されている。
「『注意! ゼリーを開封する前に、必ず部屋を閉め切り、
同梱されている白いパッドを、貴方が居る部屋の全てのドアや窓、
通気口などにしっかりと貼って下さい。
念のため、クローゼット等にも貼っておくとよいでしょう』…?何の意味があるんだ?」
よく分からないが、とりあえず書かれてある通り、ドアや窓全てにパッドを貼る。
通気口にも忘れず貼り、クローゼットと、余ったのでタンスにも貼った。
スプーンも持ってきていよいよ準備は完了し、ゼリーのフタの端をつかみ、引き開けた。
「いただきまー…はガッ!!?」
彼の鼻腔を、強烈な異臭が貫き、思わず後ずさり尻餅をつく。
「な…何だ?いまの臭い…うぐっ……!」
排泄物、焦げた魚、ドブ、生ゴミ、洗ってない犬…さまざまな臭い物を思い浮かべるが、
そのどれにも当てはまらず、それでいて、とにかくひどい匂い…
これは何だろうと疑問に思いながらも、同時に、何が匂いの発信源なのかを目で探す。
「……って、まさか…このゼリーか!?」
もしかして腐ってるのか?…いや、見た目はそんな風ではないし…
何より、腐ったものを売るなどあり得ないだろう。そんな悪質な通販だとは思えない。
じゃあ何故?この匂いはいったい…
混乱していると、目の前のゼリーに、さらなる異変が起こった。
「え?いや、何だよ?増えてないか?…うわ、溢れた!…やっぱ増えてるぅぅ!!?」
容器の中のゼリーがどんどん膨れ上がり、ついには容器からあふれ出す。
このゼリーのものであるらしい悪臭も、それに合わせてさらに広がる。
「ぐぇ…っぶ、な、な゛ん゛だぁぁぁ…?」
目の前で起こる事態についていけず、鼻をつまみながら、ただオロオロしてしまう。
そうこうしている内に、容器から溢れて床に大きく広がった緑のゼリーは、
今度は真上に向かって伸びていき、やがて、女の子のような形を描いていく。
「……へ…?」
間抜けな声を出す飯人。
彼の目の前には今や、全身が透き通った緑色の、
あどけない顔立ちをした、小さな女の子のようなものが佇んでいた。
髪らしき部分を始め、全身が、まるで溶けたアイスのようにドロドロと滴っているが、
不思議とグロテスクさは感じず、むしろ、どこか可愛らしさがある、不思議な姿だった。
…全身から泡となって沸き立ち続ける、その悪臭を除けばだが。
「な……なんだこりゃ?」
「…あ〜…おとコの、ヒと…です…」
その少女?は、飯人を見つけると、両手を広げてにじり寄ってきた。
「何だ?おい、何だよ…?
うおっ、ちょ、近づっ……やめろよ!?」
「キャっ!?」
なにがなんだか分からず、思わず少女を突き飛ばし、そのまま部屋の隅に逃げてしまう。
「はー、はぁー…。」
「う……ニ、にげないで…ほシイ、です…」
「え…?いや、でも……え?」
目の前の存在は、なんだか拙い喋り方だが、どうやら言葉が分かるらしい。
恐る恐る、飯人は会話を試みる。
「あのー…あんた、何者?」
「えと…ナまえ、『ユウリ』…です。」
「お、俺の名前は飯人で…って、名前の事じゃなく…」
「?……あっ。…メロンゼリー?…とか、イうデす。」
「…メロンゼリー?マジで?」
「ハい…」
動いて喋れて、おまけに異臭がするメロンゼリーなんて、どこに居る!
…と突っ込みたかったが、堪えた。
「たベル、いい…でスか?」
「ええ!?…食うの!?俺が!?冗談だろ!?」
「…ダめ、ですカ?」
「それ以前に…食えるの?」
「ハイ…たベタい、なら。」
「食べたいなら、って言われてもなぁ…。」
「タべたく、ナイ、ですか…?」
「…うん。そりゃちょっと…ごめん。」
「…ァァ…」
少女の顔が、悲しげに歪む。
「おネガイ、でス。すてなイデ、すテナいで、クダさい…」
続いて、何かに怯えるように、縋り付いて必死に懇願してきた。
「いや、だって…その、食う気にならないよ。動いて喋ってるし、
それに何より、その匂いがくさ……………ッ!?」
そこまで言って、飯人はハッと思い出す。
…一週間前、自分はあの女に、陰で何と言われていた?
それを自分は、こんな小さな女の子に言うのか?
「……。
あの……『捨てないで』って、何かあったのか?」
「……こコノ、まえ…ワタシ、かわレタ、トキ…
かっテくれタ、きれいナ、おトこのひと…
ワタシのコト、クサい、きもチワるい、バけもの…いって、タタいて、
ソとに、なげラレた…デス。」
話しながら、ユウリは小刻みに震え、目らしき場所に、涙のような水滴が溜まってゆく。
「…そう、だったのか…。」
「たたカレたの、イタくないノに、それから、ワタシのムネ、ずっト、イタイです…」
自分と同じように、この子も、臭いと言われて、傷つけられたのか…。
「……ごめんな。突き飛ばして、逃げて…」
「…うウん。…くサイの、しってる、デす…」
「………
…食うよ。」
「エ?」
「…食って、いいんだろ?だったら…俺、食うよ。」
前の家を追い出され、ここでもまた拒絶されるなんて、この子が可哀相だ…
正直、食べてはいけなそうな匂いがぷんぷんするが、飯人は覚悟を決めた。
「あ…ありがトう…です…ジャあ…」
再び、ユウリが両手を広げてにじり寄ってくる。
飯人も、彼女から漂う激臭を何とか我慢して、彼女が来るのを待ち構える。
やがて彼女が飯人に抱きつくと、顔を近づけ、目を閉じ、口を突き出してきた。
「…ン…」
「……え?」
黙って口を突き出し続けるユウリ。……まさか、口から吸って食えと?
(…ええ!?いや、キス!?キスじゃねーか!?
こんな小さな子と、いや違う、それ以前に、メロンゼリーと…!?)
ユウリは尚も、飯人を待つように口を突き出している。
(……いやいや落ち着け。だって、メロンゼリーだろ?食うだけ。食ってるだけ。
それに、食うって言っただろ?食わなきゃ。行くぞ、行くぞ……!)
飯人は立ち膝になって顔の高さを合わせ…何故か、ついユウリを抱きしめ返し、
それからぎゅっと目を閉じ、思い切ってユウリと唇を重ねる。
ひんやりとした彼女の体が、暑い室温と、色々あって火照った顔に、とても心地いい。
そして、そのまま口を吸い込み、流れ込んでくる彼女の一部を、舌に乗せた。
(…………あれ?
……意外と、悪くない。むしろ…)
絶妙に甘酸っぱくさっぱりして、咀嚼して飲み込むと、後味がすっと尾を引く。
(…確かに、メロンゼリーっぽい。)
鼻に抜ける匂いも、慣れてしまっただけなのかもしれないが、あまり気にならない。
どころか、悪臭の奥底に、確かに、メロンのような爽やかな香りを感じ取った。
(……もう一口、いいよな?)
彼女を飲み込むごとに、もう一口、もう一口と、続けて味わいたくなる。
その内に、だんだんと思考がぼやけていき、ユウリの事が頭を一杯にしていく。
ユウリも、嫌がることなく、むしろ、うっとりと嬉しそうな顔で飯人に吸われ続け…
満腹になってから、ようやく飯人は我に返り、口を離した。
「っぷはー………うん、美味かったよ。びっくりした。」
「…アりがとう、です。イイヒトさん…♪」
そう言って、ユウリは静かに、ニッコリと笑った。
(うわ、可愛い……)
見た目は自分よりも明らかに年下なのに、ドキッとしてしまう。目が離せない。
漂う匂いにも、今や完全に慣れたどころか、何となくクセになる匂いに感じてしまう。
(初対面なのに、あんなにインパクト強かったのに、なんか、完全に慣れちゃったな…。
こういう事って、あるもんなんだな。
…ん?)
ふと、自分の一物が、大きく膨らんでいるのに気付く。
(……え!?なんで勃ってんだ俺……え?この子に?初対面で?人間じゃないのに?
っていうか、明らかに10とちょっとくらいなのに!?
マジかよ、え?俺、心の底ではこういう子に興奮する奴だったのか?)
戸惑っていると、ユウリが、飯人の膨らんだズボンに目を向ける。
「ア。イイヒトさン…」
「……え?」
「そレ…」
「………!!?あ、ああ、何でもないよ。何でも。ハハ!
ただちょっと…ね?うん。これは、何でもないから。大丈夫…」
「おちんチン、おおキい、なった、デスね…?」
「え!?いいいや、全然。あれだし。パンツの布が偏ってるだけ…」
「…もしカシて、ワタシで、コウふんした、でスカ?」
「……え、えー…っと、その、ナ、ナニヲイッテイルノカナ?」
どうにかシラを切ろうとしていると、突然、ユウリが膨らんだ部分に手を添えてきた。
「う、うおぉ!?だ、ダメだダメだよ!?そこは汚いから!マジで!」
「……カクさナくテも、しってル、ですよ。
カタくて、ピクピクして。イイヒトさん、コウフン、しテル…うれシイ……♪」
「…えー…」
「…ワタシ、キモチよク、して、アゲられるですヨ♪」
「いや、でも…」
「そうイわずニ。
クサがらズにたベテくれた、おレイ、しタイでス…♪」
「…うう…」
彼女の淫靡な笑顔に、この年頃の男子が持つ旺盛な性欲と、理性とが激しくせめぎあう。
…だが、彼は先程、媚薬成分を含むユウリの体を、大量に口にしてしまっている。
理性が敗北する事は明白であり、かつ速やかであった。
(…そうだ、この子は見た目小さくても、人間じゃない。メロンゼリーなんだ。
せっかく買ったんだし、彼女も望んでる。なら、ちょっとくらい…)
「……お願い、しようかな。」
「やっタ!じゃあ…フク、ぬいデ、です♪」
「…ん。」
若干躊躇したが、立ち上がり、着ていた部屋着を脱ぎ捨てる。
10と少しくらいのあどけない少女の、しかも人間とは大違いの少女の前で服を脱ぎ、
性的に奉仕してもらう。その激しく妙で背徳的なシチュエーションにすら興奮を覚え、
飯人の性器は、最大限に血を集め、膨れて脈打っていた。
「そレジゃあ、しつれい、すルデす…」
ぷくぷくと泡立つ、足元の広がった部分を移動させ、まず飯人の両足を包み込む。
「…あれ?」
「?…なにカ、イヤだった、でスか?」
「いや、さっきまでひんやりしてたのに、なんか随分ぬるくなったな…って。
でも、これ位のぬるさだと、けっこう気持ちいいな。」
「そうデすか。じゃあ、もっト、ヌルくて、きもちイイの、すルですね…」
ユウリはそのまま、飯人の腰に両手を添え、大きく口を開けて、熱いモノを咥え込む。
心地よいぬるさの粘液に埋まりこんだそれを、ゆっくりと優しく押し包むように刺激し…
「ぅあ…!」
「!」
飯人は、それだけで白濁を漏らしてしまった。
知識も経験もほとんど無い、性欲のみが先走る年頃の少年など、こんなものである。
相手が、生まれながらの性技のプロである魔物娘だったせいでもある。
仕方のない事だったが、彼は割と非常に恥ずかしかった。
ユウリの体の媚薬成分でぼやけた状態から、我に返ってしまうほどに。
「ン〜…♪」
「あー…あの…い、今のは無し!無しにしてくれ!お願い!」
「だーいじょうぶですよ♪もっトいっぱいシテあげルです…」
精を注がれて、スイッチが入りきったのか。
先程までは、確かに、庇護欲をそそられるような、か弱い少女だったはずのユウリの表情は
いつの間にか、百戦錬磨の高級娼婦のような頼もしさをかもし出していた。
「ワタシ、あたマわるいですけど…
ママンや、なかまから、エッチのしカタ、いっぱい、べんきょウしたです。
まかセて、です♪」
その笑顔が、声が、仕草が、小さく平坦な体すらも、どうしようもなく悩ましく感じる。
口から取り込んだユウリの体の効果と、彼女自身の魅力と、湧き続ける甘美な悪臭…
それらの要素全てが、飯人の中に絶え間なく流し込まれて混ざり合い、
彼女に対する愛おしさと欲望が加速し、再び飯人の頭の中全てを埋め尽くしてゆく。
(なんだこれ…何かこの子、スゲーエロい……人間じゃないのに…)
呼吸と動悸が速くなっていき、触れられてもいないのに、性器は先走りを滴らす。
射精直後だというのに、もはや限界間近の有様であった。
「うふ♪くるしソうですね。いま、きもちヨくするですよ。」
今度は全身を変形させ、飯人の全身に、触手のようにぐるぐると巻きつく。
「おおっ!?…ちょっとビックリした。」
「…ア。イイヒトさん、あせ…」
「……あ!?ご、ごめん。汚いよな?」
興奮している上に、夏まっさかりの暑さと湿度の中で窓を閉め切っているのだから、
大汗をかくのは当然と言えば当然だ。加えて、飯人自身、非常に汗っかきであるため、
今や彼の体は、全身余す所無く汗の膜で覆われているような有様だった。
「ううん。きたなく、ナいです。
いっぱい、イイヒトさんのあじがして、オいしいです♪」
「ええー…」
「…でも、ワタシのからだだと、あせ、いっぺんにのメないです…」
ユウリの小さい体では、胴体はどうにか全部覆えても、
顔はむき出し、手足には巻きつくだけで、全身をすっぽり包み込むことまでは出来ない。
彼女にとってはそれがとても歯がゆいらしく、表情は見えなくても、
巻きついている彼女の体が、その感情を伝えるように震えるのを飯人は感じた。
「あんまり気にしなくても…。これから大きくなれば…あ、いや、何でもない!」
つい無責任な事を言ってしまったと思った。
常識で考えれば、ゼリーが大きくなっていく事なんてないのに。
だがその言葉に、ユウリは頷くように震えた。
「そうでスね!これからおおきくなれバいいです。」
「…え?大きくなれるの?」
「なれる、ですよ。イイヒトさんのあせとセイをたべれば。」
「あ…汗で?汚くないか?」
「イイヒトさんの、きたなく、ないですヨ?」
「そ、そう言う意味じゃなくて…まあいいや。
…そうか。成長するのか…。」
やっぱりこの子って生きてるんだな、と、今更ながら実感した。
だから、あの司会は『いつまでも食べられる』とか言っていたのだろうか?
「ところで、『セイ』って一体…」
「ア!わすれてたです。ごめんなサい…いま、モらうです。」
ユウリは顔などに付いている残りの汗を急いで舐め取ると、
体の、飯人の股間を覆う部分を徐々に変形させる。
怒張したモノに密着している所に、何段もの波や微細なでこぼこが生まれ、
やがて、さながらオナホールのような構造へと変化した。
「!?な…なんか、ちょっと気持ちいい感じに…なにこの形?」
「ママンに、このかタちがきもちイイって、きいたです。
うゴいたら、もっとすごいミたいですよ…」
「ちょっ…!!」
いきなり遠慮無しで、激しく飯人の性器を扱き上げる。
ユウリの体から分泌されるローションのような粘液が、
性器とオナホールの間でかき混ぜられ、じゅぽじゅぼと淫靡極まる音を立てつつ、
飯人に、強力な刺激と快感をもたらす。
それだけに留まらず、その下にある陰嚢を柔らかくリズミカルにこね回したり、
飯人の胸部を覆うスライムは、飯人の乳首にまで刺激を与えてくる。
「く、うあぁっわあああ…!!?」
情け容赦なく、様々な性感帯に与えられる快感の同時攻撃を食らい、
あまりの衝撃に腰砕けになり、今まで立ち続けてきた足から力が抜けてしまう。
バランスを崩し、それに慌てて、逆に前に前につんのめってしまった飯人の体は、
やや太めの男一人、プラス小さな液状生物一人分の重力に引かれ、
ロクに受身も取れずに、顔から思い切り床に激突してしまいそうになる。
「あ…?あっ、だ…だめ、コろんじゃう…!!」
だがその寸前に、飯人の危険を察知し、ユウリは驚くほど素早く行動した。
飯人の体からぱっと離れて人型形態に戻り、彼を抱きとめて必死に支えつつ、
自身の体全体をクッションにして、飯人の転倒を食い止めてくれた。
「お、おぉ…」
「ヨっ…よかったぁ…。」
「…た、助かったよ。ありがとな。」
「でも、こウなったの、ワタシのせいデすし…」
「そんな事…」
そのまましばし見つめ合い、
二人はふと、飯人がユウリを押し倒しているような体勢になっている事に気付く。
「…あノ…。
つづき、するでスか?それトも…」
「?」
「こんどは、イイヒトさんが、しテも、いい、ですヨ?」
「……」
許可というよりは、むしろ誘うように、可愛らしくも淫らに笑う。
そこで、彼の頭の中の何かがぷつんと切れ、
これまで膨張と中断を繰り返してきた飯人の欲望は、とうとう爆発した。
「きゃんっ♪」
まずユウリの両腕を押さえつけ、しっかりと組み敷く。
もちろんユウリの体なら脱出は容易なのだが、彼女はまったくの無抵抗だ。
「…いいんだな?」
「いイですよ♪」
「…知らないぞ!?」
片手を離し、胸に当たる部分に手を当て、押し付けるようにぐにゅぐにゅと揉み回す。
筋肉も骨もないスライムの体は、飯人の手に、固い感触ではなく、
大きな乳房と変わらぬ、全てを受け入れるような柔らかな手触りを伝える。
「あフッ、ぅん…♪」
「フーッ、フー…まだまだ…!!」
揉む手はそのままに、今度は未熟な胸に噛み付くように口をつけ、
舌で全体を嘗め回したり、乳首にあたる部分を強く吸い上げつつ、本当に噛みついたり…
雄の独占欲を満たすための、まさに『貪る』という形容がふさわしい行為を加える。
小さな体に降りかかるにはあまりに苛烈な責めに晒されながらも、
ユウリの心身はそれら全てを快楽と感じ、体を震わせる。
「アァァ…!イイヒト、さん、おっパい、はげしすぎテ…ァッ、
すご、すごい…きもチいい、ですッ…ふにゃああ!!」
大きく甲高く、そして可愛らしいユウリの嬌声が、
耳から入り、ユウリに対してのみ反応する媚薬に冒されきった飯人の脳に反響する。
響き続ける甘美な音は、飯人の脳細胞を、豆腐をすりこぎで潰すようにかき回し、
理性など、ユウリを犯す妨げになりそうなものを容赦なくすり潰す。
このままでは自分は、二度と正気に戻れなくなりそうで、
危機感を抱いた飯人は、嬌声をせき止めるべく、
おかしくなっている頭から発せられる指示のまま、ユウリの口を自分の口で塞いだ。
「ンむぅ…♪」
「フーッ、フゥー…ッ!」
唇だけではまだ声をせき止めるに至らない、と、さらに舌を差し込んで栓をする。
満腹になるまで味わった、あのゼリーの甘い風味が再び舌に染みこむ。
そうして進入してきた飯人の舌を、ユウリのひんやりとした舌が迎え入れ、
触手のように何重にも巻きついたり、二股に分かれて舌の表と裏を同時に愛撫したりと、
人間はおろか、他の魔物娘にも到底出来ない動作で飯人の舌を楽しませる。
「はぁっ…あむっ、ふっ、るろ、ずちゅっ…」
「んもぁ、ぅっ、れりょ、ん、ぷちゅぅぅ…♪」
舌で激しく交わりながら、飯人は沸き立つ悪臭を勢いよく吸い込み続ける。
鼻腔から入り、気管、肺、血中、細胞全てに臭いを染みつけんとするかのように、
思い切り臭いを肺いっぱいに満たしては、間も無く肺の中身を新鮮な悪臭へと交換する。
まるで燃え盛る炎に、ふいごで新鮮な空気を供給し続けているかのように、
飯人の内にある情欲の炎は勢いを増し、肉棒は煮え立つように熱く、硬くなり、
ぐずぐずに蕩けている頭の中が、さらに焼けていく。
「ふぅ、ふ、ぐ…ぅぅぅ…!」
「んも…(イイヒトさん、こすりつけてる…)」
ユウリの股間らしき部分に、青筋を浮かせるほど猛り狂い、
ひっきりなしに涎を垂らす飯人の分身がこすり付けられている。
どうやら、挿入したくて仕方ないが、どこに突き立てればいいのか分からないらしい。
血走りながらも焦って泳ぐ飯人の目に『大丈夫』と目配せをして、
こすり付けられている部分を自ら動かし、ちゅぷっ、と優しく包み込んだ。
「!!!ふぅぅぅぅ…!
…ふっ、ふっ、ふぅぅっ…!!」
直後に射精してしまったが、肉棒はまったく衰えない。
それどころか、激しく射精し続けながらもなお腰を振り続け、
ユウリの柔らかい体の奥へ奥へ、精と衝撃を、一切の気づかいなく打ち込み続ける。
「んっ、んぅぅぅ!ふうっ、おっ、むぅぅ…♪」
知らぬ者が見たら、誰もがレイプと判断するであろう激しさの行為。
人間であったならば壊れてしまいかねない、獣の如き暴れよう。
だがしかし、ユウリはそれに対して喜悦の涙を流し、快楽に打ち震えている。
ただスライムの体が柔軟で淫らだからというだけではない。
ユウリは、自分を受け入れてくれた飯人に、確かな愛情を抱いていたからだ。
愛する『夫』に対してならば、魔物娘はいかなる激しい行為でも受け入れ、
意識が飛ぶような快感と、心が熱くとろけるような喜びに変えるのだ。
「ふ、う、ぐっ、うぐっ、はふっ…!」
だがユウリも、挿入されている部分を、先程のオナホールと同じように変形させ、
最大限に快楽を与えるよう作られた仮初の膣内で、飯人のペニスを扱き上げていた。
抽送の度に、生物の腸の繊毛のような微細な粒々が、肉筒をぞろりと撫で上げる。
まさに消化されているような、熱く溶ける快感が襲う。
リング状の溝がカリ首に引っかかり、されど邪魔にならない程度の絶妙な抵抗を与え、
先端を複数の吸盤が、精を啜らんと四方八方から強く柔らかく吸い上げる。
(ぶぢゅっ!ぷち、ぴじゅ…)
さらに時折、ユウリの体から湧き続ける悪臭の入った泡が近くに生まれ、
それが肉棒で潰され、かき混ぜられ、そして弾け、
卑猥きわまる音を響かせながら、性器のそこかしこにアトランダムな刺激を与えてくる。
飯人の行為も、幼いユウリにとっては苛烈なものだが、
魔物娘の生まれ持つ技巧に加え、様々な性知識を持つユウリが、飯人に与える刺激もまた、
この年頃の少年に与えられるには強すぎるものであった。
「ふぉぉっ、ぁぁぁ…!!」
「んーッ!んふぅー!!ぁぅ……っ!」
絶え間なく射精し続けていても、飯人の腰は更なる快感を求めてひとりでに動く。
つい先程までは余裕の態度であったユウリも、飯人の勢いに完全に呑まれてしまい、
今では一突きごとに激しく絶頂しているが、それでも尚、精を求めて膣をうねらす。
お互いに、止まらない。
互いの心と体は、どんどん限界へと向かっていき…
「ぁ…あっ、がぁうぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「あひっ、は、ひあああぁぁぁぁぁぁあん!!」
最後、二人同時に、今までで最大の絶頂を極めた。
口を離し、喉も枯れ果てよとばかりに、獣からも出ないような大きな咆哮を上げる。
それはさながら、全身の神経をスパークさせ焼き尽くすような爆発的な快感が、
二人の体躯に収まりきらず、音となって喉から放出されているようであった。
もはや二人に、一切の思考はない。
長く長く続いた絶頂が終わると、飯人は糸が切れた人形のように崩れ落ち、
ユウリは飯人の体を支えつつ、人型を維持しきれずに液状化して床に広がり、
そして互いに、意識を失った。
二人が目を覚ました時には、もう時刻はすっかり夕方であった。
「…ぁ……あー…?」
「ん……おはよう、です…。」
「…俺…気絶、してたのか…?」
「そうみたいですね。ワタシも、してたです…。」
「そうか………!?」
そこで我に返り、気絶する前までの、自分の所業を思い出す。
「ぁ……ご、ごめん!!」
「?」
顔を青白く染めながら、ユウリに向かってひたすら頭を下げた。
だが、ユウリは首をかしげるばかり。
「あ、あんなひどい事しちゃって…一体、どう詫びていいのか…」
「え…?ひどいこと、って…なにですか?」
「さっきしただろ!?俺、オモチャみたいにユウリの事を…」
「…ひょっとして、エッチの、ことですか?」
「そうだよ!それ以外に何が…」
「べつに、ひどくなかったですよ?きもちよかったし…」
「え!?い、いや…嫌じゃ、なかったのか?
だって、こんな不細工だし、汗っかきで臭いし…」
「…ワタシのほうが、よっぽど、みにくいし、くさいですよ?」
ユウリが表情を曇らせる。
「そんな事ない。すごい可愛いし、その臭いも、俺は結構好きだよ?
その体も便利だと思うし、それに声だって可愛いし…」
ユウリは自分を卑下するが、そこは譲れないとばかりに、飯人は必死に訂正する。
それを聞くと、ユウリは優しく微笑んだ。
「…やっぱり、イイヒトさん、やさしいです。
ワタシ、やさしいイイヒトさんのこと、だいすきです。
だから、ぜんぜんイヤじゃないですし、むちゅうになってくれたの、うれしいです♪」
「そ、そう…なのか?…でも…」
「う〜ん…それでも、だめ、ですか?」
「…うん…気が治まらない。せめて、君のして欲しい事なら何でも…」
「そうですか……
…あっ、じゃあ、『せきにん』とって、です。」
「せ、責任?」
「せきにんとって、ワタシの、その、こいびとになって、です♪」
「…恋人…。」
その言葉を聞いて、記憶がフラッシュバックする。
つい一週間と少し前まで、本気で恋焦がれていたクラスメイト。
心無い言葉ひとつで、これまでの頑張りが粉々に打ち砕かれた悔しさ、悲しさ。
…しかしそれでも、自分はやはり、心のどこかで吹っ切れていなかったのかもしれない。
目の前の屈託のない笑顔を見ていると、
終わった恋にいつまでもしがみついている自分が、馬鹿らしく思えてきた。
「…俺なんかで、いいのか?」
「いいですよ。」
はっきりと即答され、飯人も、だんだん覚悟が固まってきた。
まだ出会って数時間しか経っていないが、
この子なら、この子となら…前に、踏み出せるかもしれない。そんな予感がした。
「……わかった、恋人になるよ。」
「ほんとですか!やった…ありがとうです!!」
嬉しそうに、上半身をにゅーっと伸ばして飛びついてくれた。
「な…なんか妙に照れくさいな。」
それを遥か超越することを、先程やっていたはずなのだが…それはともかく、
肩に預けられるユウリの頭のプルプルとした柔らかい感覚は、とても愛おしかった。
ひとしきり、その感触をつるつると撫でてから、体を離す。
そして…ふと、時計を見る。
「そういえば、どれだけ経ったのか…なッ!!?」
「ど…どうしたですか?」
「やばい、もうすぐ親が帰ってくるんだよ!この臭いどうしよう!?」
「やっぱり、いやですか?」
「俺はイヤじゃないけど、この臭いが親に気付かれたら、大騒ぎになるぞ!?
っていうか、もう家中に充満してるかも…手遅れか?」
彼が慌てていると、玄関のチャイムが鳴った。
「こ、こんな時に!?居留守使うか…?でもなぁ…」
『広上さーん、広上 飯人さんいらっしゃいますかー?ますよねー?
いるのは分かってまーす。お願いだから返事してくださーい。』
謎の女性の声が、玄関越しに聞こえてくる。親や近所の人ではないようだが…
『外に出れない状態なのも知ってますから、ドア越しにでも返事してくださーい。』
「こ…こっちの事を知ってる!?何なんだあの人…?」
とりあえず、家にはカメラ付ドアホンがあるので、それを使って返事を返す事にした。
「はい、飯人ですけど…」
『うおっ、呼び鈴から声が!?』
モニターの中には、何かの制服らしきものを着ている、活発そうな茶髪の女性がいた。
こちらの声に対し、何故かビックリしている。
「…ドアホン知らないんですか?」
『え?い、いえいえ、もちろん知ってますよ。
えーと…モンスターズ・ミラクル・マーケットさんから、飯人さんに郵便です。
印鑑はいりませんが、大切なお手紙なので、すぐに読んでくださいねー!』
「は、はあ…?」
『出れないのは知ってるので、郵便受けに入れときますね。それではッ!』
「あ、ありがとうございます…。」
そして茶髪の女性は、郵便受けに手紙を入れると…
「…飛んだッ!?」
なんと両腕についていた翼で空を飛び、あっという間に見えなくなってしまった。
「…何だったんだ、あの人…」
しばらく呆気に取られていたが、気を取り直し、手紙を取りに行くことにした。
「これか。
『ご購入いただいた商品についての、重要なお知らせ』…?」
急いでいたが、もしかしたら臭いをなんとかする方法が書かれているかもと思い、
とりあえず開封して読み始めた。
(えーっと、『この度は、当番組で商品をご購入頂き、誠にありがとうございました。
この手紙は、お送りいたしました『商品』が、知能などの問題により、
我々の事を詳しくご説明できない可能性のある場合にお送りさせて頂いております…)
そこからの内容は、驚くべきものばかりであった。
異世界が存在すること、その世界に済む『魔物娘』について、あの通販の正体、
ユウリはメロンゼリーではなく、バブルスライムという魔物であること…
これまで謎だらけだった物の、ほぼ全ての答えが、その手紙に書いてあった。
もちろん、素直に信じがたいような事ではあったが…
実際に交わってしまったという事もあり、飯人は意外とすんなり受け入れられた。
(『追伸:ゼリー開封前に貼っていただいた白いパッドは、室内に結界を張り、
バブルスライム特有の臭いの、室外への流出を防いでくれるものです。
剥がさないようにお願いします。』…か。よかった…外には漏れないのか。)
手早く、しかし入念にシャワーを浴び、服を着替える。
白いパッドのおかげで、タンスやクローゼットの中の服にも臭いが入らないらしい。
着替え終わった後、確認のために、体と室外の匂いをよく嗅いでみる。
(臭い…消えたな。
よかったんだけど………なんだろ。ちょっと寂しいような…)
なぜか一抹の寂しさを覚えつつも、
昼に脱いだ服を洗濯機に放り込んで回し、何食わぬ顔で両親を迎え、
夕食を食べ、早々に自分の部屋に戻った。
「あ、イイヒトさん…おかえりです。」
入った瞬間、むわっと悪臭が押し寄せてくる。
彼女の、ユウリの臭いだ。
鼻を突き刺すその臭いに、なぜかとても安心した。
「ユウリ…」
「?」
彼女の臭いを体に付け直すように、ユウリを強く優しく、頬ずりしながら抱きしめる。
「きゃッ♪」
「あー……なんか、ホッとするな。」
「…くさいのに、ですか?」
「俺はユウリの臭い、好きだよ。もちろん他にもいろいろ。
…そっちこそどうなんだよ?お前をメッチャクチャにしたような男なんだぞ?
おまけに汗っかきで臭いし…」
「ワタシも、だいすきだから、いいです♪」
「そっか。…なあ、ユウリ。」
「なんですか?」
「今日会ったばっかりだけど…これから、よろしくな。」
「はい♪
それじゃ…また、するですね♪」
「また!?…きょ、今日はもう勘弁して…。」
「え〜…」
「え〜…って言われてもなぁ…
もう勃ったり出るかもわかんないし、第一、親に声とか聞かれたらまずいし…」
「じゃあ、おふとんのなかで、するの、どうですか?それなら、きこえないです。」
「布団の中で!?う〜ん…
(布団に臭いが染み付いたら…いや、今更か。じゃあ…)
…勃ったら、いいよ。」
「やった!じゃ、さっそくするです♪」
「はいはい…」
…結局、声は抑えられたものの、二人はまた激しくなりすぎ、
文字通り精も根も尽き果て、気絶するように眠りに落ちたのだった。
話はまだ終わらない。
二人は夏休み中ずっと、ユウリが来た初日のような調子で、
親の目を盗んではサルのように交わり続けた。
…とは言っても、全く怪しまれなかったわけではない。
夏休み中、ほぼ全く家から出ない息子に、流石の両親も訝しげだったが、
それに対し飯人は、
『宿題や受験勉強で忙しいし、皆も遊ぶ余裕が無いらしいから遊んでない。
でもこの夏、遊ぶ代わりに筋トレとダイエットにチャレンジしている』と言い訳をした。
実際、飯人の体は、目覚ましいペースで引き締まっていったので、
両親もそれで納得し、それ以上怪しまれることはなかった。
(まあ、痩せたのはホントだし、いいよな…?)
激しく剣道の練習に明け暮れていた頃は、そのストレスを食事で解消していたため、
剣道の腕は上がったが、体型はほとんど変わらなかったのだ。
それがユウリが来てからは、毎日毎日、閉め切った部屋で激しい運動をしている上、
食事やおやつも、ほとんどユウリのメロン味スライムゼリー
(原料:ほぼ全て、水分・飯人の精・および汗などの老廃物のみ。低カロリー高タンパク)
という生活が続いていた。痩せるのもうなずける。
さらには、いつもギリギリまで先送りする夏休みの宿題も、
ユウリの応援があったからか、あっという間に全て片付けてしまった。
こうして、夏休み終了まで、何の心配もなくセックスに明け暮れていた二人であったが…
その時は、始業式の日、式を終えて学校から帰って来た時にやってきた。
「ただいま〜、ユウリ……!?母ちゃん!?」
勢いよく自室のドアを開けた飯人が見たものは、
おろおろするユウリと、気絶して倒れている母親であった。
……
「…なるほど。たまたま仕事が早上がりになったから、
早く帰ってきて、家の掃除をしていた…と。」
母親を居間までひっぱって行って介抱してから、飯人は事の経緯を聞いた。
「まあ、そう言う事よ。で…。
…あの緑色の…女の…子?いったい、何?」
「…やっぱり、覚えてた?」
「そりゃもう。あんな生き物、見たことないし…一体、何者なの?
どう見ても捨て犬拾ったとかそういうレベルの問題じゃないし、ちゃんと話しなさい。」
「…じゃあ、一応説明するけど…言う事全部、信じてくれる?」
「内容次第だけど…」
「いいや、全部。」
「……わかった。」
「…ん。」
飯人は、ユウリについての説明を始めた。
大前提である別世界の存在の事、彼女が別世界から来たという事、無害な存在である事、
かつて心無い人間に追い出された事、そこを自分が見つけて、ずっと匿っていた事…
極めて慎重に、言葉を選んで説明していった。
特にセックスの事など、一言でも漏らしてしまえば、自分もユウリも、そこで終わりだ。
母はただ、黙って飯人の話を聞く。
かつてないほど気をつけながらも、どうにか、一通りの説明は終えた。
「…正直、今でも信じられないけど…全部本当みたいね。」
「うん…。…頼む、母ちゃん!あの子をこのままうちに置いてやって下さい!
臭いかもしれないけど、絶対家族や近所には迷惑かけないから!
こっからも追い出されたら、あの子も俺も…!」
必死に懇願する。自分たちが、離れ離れにならないように。
飯人は既に、自分はもう、ユウリ無しでは生きられないということを自覚していた。
…やがて、母が口を開く。
「…とりあえず、顔上げなさい。」
「……。」
「そんなに必死だったの、去年のあの時以来だっけ。ヘタすれば、あれ以上かも…
何があったの?あの時。」
「…二年の初め、クラス替えで一緒のクラスになった女子に一目惚れしてさ。
剣道の大会に出て、勢いつけて、付き合ってくれって、告白しようと思ったんだ。
だから、めんどくさかった練習も頑張って、ついに大会にも出れて…
で、告白して…振られた。こっぴどく。剣道なんか興味ないって…
それから、何のやる気も起きなくって…」
あの日の後、両親に聞かれても言えなかったことだが、
自分の中で決着がついたおかげで、ようやく話すことが出来た。
「ああ…。終業式の夜わんわん泣いてたのは、そのせいだったわけね。
んで、その後に、あの緑の子を見つけて、助けた…と。」
「…うん。その後、俺もあの子に、すごく助けられたんだよ。」
「そう…。
そう言う事なら、離れ離れには出来ないか。」
「!…いいの?」
「息子の恩人を邪険にあつかうような薄情者じゃないよ、お母さんは。
拾った以上、ちゃんと責任持つなら、このまま家に置いてもいいよ。
それに聞いた限り、どうやら人畜無害のようだし、何だか凄くいい匂いしてたしね。
人を食べたり、臭いガスを撒き散らすようなのだったら、どうしようかと思ったけど…」
「あ…ありがとう母ちゃん!!
……って、え?いい匂い…?」
「…?いい匂い…じゃないの?」
「…ちょっと待ってて。」
とにかく、自分の部屋に行ってみる。
「イイヒトさん…?どうしたですか?」
落ち着いて、よく匂いを嗅いでみる。
「……消えてる……!」
常に嗅いでいて鼻が麻痺していたのか、全然気が付かなかったが、
ユウリの体から出る泡からはいつの間にか、
あの形容しがたい悪臭の要素だけが、きれいに消えていた。
残ったのは、初めてユウリのスライムゼリーを食べた時に感じた、
メロンのような甘く爽やかで、芳醇な香り。
芳香剤や香水のようなしつこさも無い、本当の、自然体の『いい匂い』であった。
自分の体も、「これはユウリの匂いだ」と、しっかり認識できている。
きっと、これがユウリの本当の匂いなのだろう。
つい、しばし頭を空っぽにして、香りを楽しんでしまった。
「…はぁー……。いい匂い…」
「イイヒトさん?」
「…ん?いや、何でもない。
…ユウリ。」
「?」
「一緒に、母ちゃんと、あと、父ちゃんにも挨拶しに行こうか。」
「……はいッ!!」
ぱあっと花が咲いたような、可愛らしい満面の笑みで返事をしてくれた。
ユウリの手を優しく引いて、初めて、ユウリを部屋から連れ出す。
そのまま手を繋ぎながら、歩調を合わせて、母が待つ居間へと向かった。
そして月日は流れ、高校受験も、第一志望校に無事合格。
「イーくん。今日から、こうこう…?だっけ。入学、おめでとう。」
高校だの入学だのはよく分かっていないようだが、
ユウリは新しい制服に身を包む飯人を、無邪気に喜んでくれた。
最初のつたない喋り方も、今では随分と流暢になっている。
「ありがとうな。…でも、イーくんは止めてくれってば。恥ずかしいんだから…」
「そう?わかった、イーちゃん。」
「大して変わってないだろ、もう…」
「はやく、帰ってきてね♪入学のおいわい、してあげるから。」
少し体が成長し、膨らみ始めた胸を、アピールするように自ら揉む。
「…ん。期待してるよ。
それじゃ、行って来ます!」
その後彼は高校で、3年の生徒会長とダークスライムのカップルを筆頭に、
魔物娘とその恋人達が、平然と学校内を闊歩する光景を目の当たりにしたりするのだが…
それはまた、別の話である。
14/12/30 20:23更新 / K助
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