連載小説
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ソーダゼリー(お徳用)
 

    〜小学生時代〜


『しょう来のゆめ』  2年3組 間田 出一(けんた いでいち)

 ぼくのしょう来のゆめは、ショッキンに入ってせかいせいふくをすることです。
スゴレンジャーやかめんグライダーにまけないつよいぐんだんを作って、
1ばんえらくなってせかいせいふくをしたら、わるいことはやめて、
ぼくだけの王こくをつくて、みんなをせんそうしないようにして、
せかい中をせんそうしないようにしたいです。そうすれば、みんながしあわせです。
(以下略)





    〜中学生時代〜

「き、貴様ッ…俺を、かの黒竜王の堕天転生体(ルシフェル・リターナー)
 と知った上で、牙を向けるのか?」
「うるせーよ。何が黒竜王だよ、気持ち悪い。」
「さっさと出せって。持ってんだろ?かつて世界を影で支配してたんだから(笑)」
「ふん、貴様等のような狂神(マルダ)に魅入られし者などに…ぐッ!?」
「はいはい、そんなのいいから。これ以上パンチ欲しくないなら財布。」
「誰の命令(オーダー)も聞く気はない。禁忌の炎が無くとも貴様等など…あがッ!!」
「財布。次本気でやるよ?」

『おい!お前ら、そこで何してる!!』

「やべ!ゴリT来たぞ!」
「チッ、次ねえからな!」
「はぁ…うぅっ…。いずれ…希望と絶望が交わり、”紡がれざる時”が訪れる。
 そうなれば、貴様等のような矮小な魂の持ち主など…」
「おい、大丈夫か?間田。」
「…はい。」
「…またあいつらだな?全く…怪我はないか?」
「大丈夫です。」
「おとといガラス割った容疑もあるからな。明日にでも、直接話聞いておこう。
 お前は今日はもう、まっすぐ帰りなさい。」
「はい。」
「あいつらの他にも、最近色々と物騒だからな。
 お前も、友達とかと一緒に帰るんだぞ。」
「……はい。」





    〜ついこの前〜

「豚串四本とハツ二本。あと焼酎。」
「俺も同じの。鳥飯も頼むわ。」
「あいよー!」



「…なあ。」
「何だ?」
「世の中に疲れたことって、ないか?」
「…いきなりどうしたよ、出一?そんな事言って。」
「…最近さ、俺、将来どうなるんだろうなぁ…って考えちゃってさ。
 結婚できるのかとか、老後とか…考えてたけど、ろくな未来が見えないんだよ。」
「そんな事ありませんって、ダンナ。まだまだこれからでしょ?」
「そうは言うけどね大将。
 十年近く、馬車馬も真っ青なくらい働いてるってのに、
 家どころか新車一つ買えやしないんだよ。ふざけてんのか、クソ…」
「ああ…わかりますよ。うちも20年以上やってるのに、未だにカツカツで…」
「大将もそう思うだろ?やっぱりさ、カネの配分が間違ってると思うんだよ。
 俺らが必死に日銭を稼いでる横で、社長や重役はただ怒鳴り散らして。
 資産家は金をあっちへやったり、こっちへやったり、ハンコ押したりするだけで
 どんどん金が入ってきて…絶対間違ってるよ。はぁ〜あ…
 誰か、いい方に変えてくれないかな…日本。」
「…政治家やるだけの金も学も、ごく一握りの人しか持てないもんだしな。
 しかもそのごく一握りは最近みんなアレだし。
 昔はよく、『俺がこの国を支配してたら、こんな事にはなってないのに〜』
 みたいな妄想をしたもんだけど、現実じゃあ、ねえ…」
「現実、か…。」
「嫌な言葉だよなぁ…」
「…いつからだろう。夢とか見る余裕もなくなっちまって…
 せめてもう一度くらい、英雄になるとか、国を動かすとか、何十人もハーレム作るとか…
 思いっきりデカくて現実離れした夢、追っかけてみてえなぁ…。」





    〜そして、今〜


「…どこまで俺を追い詰めりゃ気が済むのかね、現実様は…」

 後輩がやらかした大ミスの責任の余波を受け、左遷により地方に引越し。
それから数日が経ち、ようやく主要なものの荷解きが終わった所であった。

「どうしろってんだよ…」

 引越しも済んでしまい、半ば諦めかけてはいるが、愚痴らずにはいられない。
友達も、馴染みの焼き鳥屋も無いし、給料もさらに減って、その上…
自分のこれからの境遇を思い浮かべ、気持ちがどんどん暗くなる。

(…俺が、何したってんだ…
 実は悪魔だったキリストと仏陀を心臓に封じて云々とか妄想したこともあったけど、
 それがいけなかったのですか?神よ。それとも、本で見た聖遺物の…)

 …思いがけず黒歴史を次々思い出してしまい、死にたくなってきて頭を抱えた。

「…テレビでも見るか…」

 無心にテレビを見ていれば、渦巻く黒歴史も薄れるだろうと思い、電源をつけた。

『(テレテテレッテ〜ン…テレッテン!)モンスターズ・ミラクル・マーケット!』
「なんだ、通販番組か…。俺には興味も金もありません。パス!」

 そう言って、リモコンのボタンを押す。…だが。

「…あれ?変わらない。電池切れか?」

 と思ったが、音量調節は出来る。向ける位置が悪いわけでもなさそうだ。
だが、何度やっても電源とチャンネルのボタンだけが利かない。本体のボタンも。

「どういう事だ…?」

 あれこれやっている内に、見る気が無くても映像が目に入ってくる。
…そして、司会をやってる女性二人の顔を見て、チャンネルを変える気は吹き飛んだ。

「…おぉ!?」

 未だかつて見た事の無い、とんでもない美人。
かたや真面目そうな秘書タイプ、かたや全て受け止めてくれそうなお姉さんタイプ、
顔も体型も雰囲気も違えど、二人とも美術品のような美しさと共に、
男なら誰しも情欲を抱かずにはいられないような、いっそ危険な妖艶さを孕んでいる。
明らかに通販番組には場違いな人物だった。

「…もうちょっと、見てみようかな。」

 おそらく美女で釣る戦略なのだろうとは思ったが、
面白いかどうか分からない他の番組よりも、この美女二人を眺めていた方がよっぽどいい。
そう結論を出し、チャンネルを変えることを諦めた。

「…それにしてもこの二人、何者なんだ?
 芸能人…にしては、テレビでもネットでも見た事無いし…」

 こんな超絶美人なら、どこの何に出ていたって話題になるだろうが、
そんな話題は聞いた事が無い。

「後でネットで調べてみるか…?」

 怪しくは思ったが、とりあえず番組を見る。

『おすすめは、このお徳用ソーダゼリー!
 日々が辛い貴方に、非日常が欲しい貴方に!
 一国の主という、壮大な夢を追ってみませんか?』
「ハハ、ゼリーなのに、随分とでかい宣伝文句だな…ってでかー!!?
 ありかよ、こんなお徳用!?」

 お姉さんタイプの女性に促され、秘書タイプの女性が持ってきたのは、
バケツほどの大きさの容器に入った青いゼリーだった。



 …しかも、バケツはバケツでも、ゴミ捨て場などにあるポリバケツ程の大きさである。



『どうです、大きいでしょう?』
「すごく…大きいです……って、こんなに食えるか!」

 思わず、テレビにツッコミを入れてしまう。

『大丈夫。誰でも、必ず食べられます!
 しかも、全て同じソーダゼリーでありながら、食べられる度に、味は千差万別!
 食べ飽きせず、また腐らせる心配もありません!』
「ますますどんなゼリーだよ、ワケが分からん…。」

 最初にあった説明といい、説明を全て鵜呑みにするなら、
あまりに普通とはかけ離れたゼリーだ。

「……でも…そうだな、こんなに変なの、ネタにはなりそうだ。
 確かめて、みようかな…。」

 人間は、妙なもの、不思議なものを見ると、それを調べてみたくなる性質がある。
そのゼリーも、客観的に見てあまりにもおかしな代物だった。
…それ故に、彼はそのゼリーに、大きな興味を持った。
或いはそのゼリーに、何かしらの『非日常』を見たのかもしれない。
もはや彼は、司会の美女二人の正体よりも、ゼリーの方に心を引かれていた。

「でも、金がなぁ…あれだけでかけりゃ値段だって1万は下ら…」
『このお徳用、今なら何と、たったの1500円でのご提供です!』
「安ッ!?それなら…」

 まだ半信半疑だったが、彼はこの妙なゼリーの正体を確かめるべく、一つ注文した。
ここ十何年も感じていなかった、未知の物への期待感に胸を高鳴らせながら。





 数日後…

「本当に、このサイズだった…」

 居間に鎮座する、ポリバケツ並みの大きさのゼリー。

(…配達の子、ごめんよ。こんなん頼んで。)

 これだけ巨大だと重さも相当なもので、
大人の男である彼でも、箱ごとここまで運ぶのに十数分を要した。

「苦労した価値があるのかどうか…早速試してみるか。
 ガッカリさせてくれるなよ…!」

 片手で容器を、もう片手で蓋を固定し、一気にばりっと蓋を引きはがした。
スプーンを持ち、さあ食べようと中を覗き込むと…

「ん〜…ぷちゅっ♪」
「……!?ぷはっ………え!?」

 いきなりゼリーの表面から女の顔が飛び出し、こちらにキスをしてきたように見えた。
何が起こったのかわからず、顔を上げ、しばし硬直する出一。

「うふふふ…驚かれましたか?」

 容器の中から浮き上がるように、全身真っ青で半透明な女が現れた。
半透明だが、その顔立ちは素晴らしく整っており、
彫像のような見事なボディラインと、驚くほど豊満な胸を兼ね備え、
頭には、何やらティアラのようなものを頂いている。

「始めまして。間田 出一様…で、よろしかったですわね?」
「え…は、はい。」
「私の名前は、ファンデ=スパーク=リング=ブルーハワイと申します。
 『ファンデ』と気軽にお呼び下さい♪」
「は、はあ。」
「それで、こちらが…あら、これじゃ出せませんわね。ちょっと失礼…」

 すると、ファンデは容器ごと横に倒れ、中身を床にぶちまけた。

「ちょ、床が…!?」
「大丈夫。お部屋を汚したりはしませんわ。」

 ファンデが起き上がると共に、二人の別の女が液溜まりの中から湧き上がってきた。
二人ともとても美しく、顔は少し違うが、どことなくファンデの面影がある。
また、メイドが付けるヘッドドレスのような物が頭についていた。

「私達の側近、兼、従者の二人ですわ。ほら、ご挨拶なさい。」
「は、はじめまして、です。ご主人さま。」
「へぇ、あんたが?まあ、よろしくね。」
「何なりと命令してくださって構いませんわよ。」
「あ、よ、よろしく……って、待った待った。」

 流されるままになっていた出一だったが、ここでようやく我に返った。

「えーと…あんたら、何者だ?」
「えっ?私を購入したのでしょう?」
「そ、そうですよね?」
「ひょっとして、忘れてたの?」
「え…いや、徳用ゼリーは頼んだけど…あんたらが?」
「はい。」
「…食っていいの?」
「まぁ、そんなストレートに仰られては恥ずかしいですわ♪」
「…そんなもんなのか?」
「あら、人間の方も、そういうものではないのですか?」
「いや、人間はふつう人間食べないし。」
「え、それは当たり前ですわよね?」
「?」
「?」


「…いや、話を戻そう。あんたらは一体何者なんだ?」
「貴方様に『徳用ソーダゼリー』として購入して頂いた者達ですわ。」
「という事は、食べ物なんだな?」
「食べる事はできますけれど、厳密に言うと食べ物ではありませんの。」
「えっ、じゃあ、食べ物でないなら何なんだ?」
「…ああ!そういう事でしたか。
 私はクイーンスライム。このスライムの国の女王であり、国そのものなのです。」
「…スライム?」
「はい。」
「が、どうしてゼリーとして?」
「簡単に言いますと、夫探しですわね。」
「夫探しィ?」
「ええ。もう少し詳しく説明いたしますと…」



 (説明中)



「…ホントに?」
「ええ。私のような女性が、この世界にいまして?」
「……いないな。全く。」
「そうでしょう?」
「で、つまりは…?」
「はい。貴方様には、私の夫に…そして、私の国の王になって頂きたいのです!」
「お、俺が…王に?」
「はい。…やって頂けますね?」
「……」

 夢にまで見た非日常、大きな夢を、いきなり目の前にぶら下げられた。
それに対し、彼は…

「………ムリ。」

 しかし、否定してしまった。

「どうしてですか!?」
「……そんな器じゃねえよ。俺は。というか、何で俺に?」
「貴方が気に入ったからです。器なんて関係ありませんわ。
 それに王の仕事と言っても、面倒な事はありませんのよ?」
「…具体的には?」
「ただ、私と、側近達を抱いて、精を注いでくれるだけでよろしいのです。」
「抱く…?」
「性交ですわ。さっきお話ししましたでしょう?」
「聞いたけど…ホントかよ?そんな上手い話があるわけ…」
「『ない』と、どうして言い切れるんですの?」

 彼女は、不敵な笑みを浮かべた。

「…!?」
「私の存在や私の世界の存在は信じても、詳しい事は何も知らないでしょう?」
「う………まぁ、それは…」
「だったら、詳しい私に任せてみてはもらえませんか?身も、心も。
 後悔はさせませんわよ。」
「…でも、やっぱりデメリットもあるんだろ?」
「悪い事かどうかはわかりませんが…
 ここでは、国づくりには狭すぎるので、私の故郷、魔界に移っていただきます。
 当然ながら、今のお仕事とは両立できませんわ。」
「……ムムム……悪い。今すぐは返事できない。
 あんたらを抱くってのも、まだちょっと…会ったばかりだし…」
「…わかりました。でも、私達もすぐには帰れません。
 人間のような食事は必要ありませんし、身の周りのお手伝いも致しますから、
 答えが出るまで、家に置かせて下さいませね。」
「当分かかるだろうけど…いいか?」
「ええ。よろしくお願い致しますわ♪」





「ただいまー…」

 支社での仕事が始まって以来、彼は心身ともに日に日に疲れていった。
最初は支社だからと高を括っていたが、そこでは元々の人手不足に加え、
本社の人間に対して妙な執着を持ち、タチの悪い事で有名な上司に目をつけられて、
彼は日々、いびりと、押し付けられる無茶な仕事に耐えなければならなくなってしまった。
当然、数少ない憩いの場所も、気の許せる知り合いもおらず、
さらには、同僚にまで左遷された奴とナメられ始めている。
早い話が、職場で、転校生へのいじめのような事態に晒されているのだ。

「お帰りなさい♪」
「…はぁ……風呂でも入るか…。」
「…い、何時にも増してお疲れのようですが…どうなさいました?」
「いや、大丈夫だから。気にしないでくれ…」
「そう言われましても、気になりますわ…あ、そうだ。
 お風呂よりも、もっと疲れが取れて、綺麗になるものがありますわ。如何です?」
「そうだな……じゃあ、頼む。」
「はーい♪ではまず、服を全てお脱ぎになって下さい。」
「えぇ…変な事しないか?」
「それって普通、女の子のセリフじゃない?」
「まぁ、しませんので、ご安心くださいな。
 あ、でも其方から変な事して頂くのは大歓迎ですわ♪」
「いや、しない。」
「…そうですか。(もぅ…。)
 それでは脱いで、私たちに寄りかかり、身を任せて下さい…」
「分かった…」

 言われた通り出一は服を脱ぎ、ファンデに身を預ける。
従者達はファンデに寄り集まって、三人は一つの大きなスライムの塊となり、
彼の全身を優しく受け止め、仰向けにした。

「王の特権、最高のマッサージ『クイーン・バス』で、ごゆっくり癒されて下さいね…」

 彼の全身が、ずぶずぶと青い塊の中にめり込んでいく。
頭に、顔まで飲み込まれたため、最初彼は少しもがいたが、
苦しくはならないという事がわかると安心し、力を抜いた。

「相当に体を酷使なさっていたようですわね。汗もこんなに…♪」

 周囲のスライムは、彼の体調を調べるかのように全身を撫で回した後、
ゆっくりと全身を揉み始めた。

(うっ、はぁぁ…気持ちいい……)

 凝り固まった肩や腕の筋肉を、強すぎず、弱すぎずの絶妙な力加減でほぐされる。
背筋に沿って、優しく筋肉を刺激すると共に、骨と骨の歪みを無理なく修正していく。
マッサージチェアのような機械的な同じ刺激ではなく、少しずつ変化をつけて、
彼の全身から疲労を搾り出すように、全てのスライムがうごめく。
それと同時に、汗や垢、角質など、彼の体に溜まった老廃物が剥がれていく。
たちまち彼は、疲労が抜けていく快感と安心感に包まれ、意識がぼんやりとしてきた。
そんな中、彼の腹が音を立てる。

(あ、そういえば、腹も減ってたな…。晩飯何にしよう…冷蔵庫に何かあったかな…)

 ぼやけた思考の中でそう考えた直後、口が開けられ、中にスライムが進入してきた。

「わざわざ動く必要はありませんわ。
 私を召し上がって下さい。美味しいらしいですよ。」
(いいのか…?)
「ええ。痛くも痒くもありませんから、どうぞお好きなだけ♪」

 それを聞いた彼は、ゆっくりと口に入ってきたスライムを噛み切り、舌で転がす。
ソーダ…なのかは分からないが、とても爽やかな甘さと風味を感じる。
噛むと、すぐ崩れるでもなく、かといって固いわけでもなく、絶妙な歯ざわり。
加えて最後の喉越しは水のようにスルッとしており、
どれを取っても嫌味が無く、いくらでも、いつまでも食べられそうな程美味しかった。
口を開ける度に、入って来るスライムに噛み付き、転がし、噛み締め、飲み込む。
ファンデのスライムゼリーを、出一は満腹になるまで味わい続けた。

(ごちそうさま…。)

 当然、食べてる間もマッサージは続いており、
マッサージの快感に加えて腹も満たされた出一は、強い眠気を催していた。

「眠っても構いませんよ。明日の支度は私がやっておきますから。」
(ああ…ありが…とう……)

 ファンデが与えてくれるありとあらゆる心地よさに、
自分が地球の重力からも開放され、空中を漂っている錯覚すら覚える。
こんなに心地よい状態で眠れるのは、生まれて初めてではないだろうか…
そんな事を考えながら、彼はまどろみの中に沈んでいった。



 そして、朝…

「おはようございます。如何ですか?」
「…すげえ…何だコレ、体が軽い!だるさも全然無い!
 ありがとうな、三人とも!」
「ふふ、お気に召したようで何よりですわ。」
「これならまた頑張れるな…」
「…でも、出一様、かなり疲労が溜まっていたようですわ。」
「そ、そうですよ。あんなに疲れてまで…どうして働くんですか?」
「…生活のためだよ。」
「私の夫になって頂ければ、辛い労働などせずとも、交わるだけで生きていけますのよ?」
「そうなのか……でも、やっぱり駄目だ。」
「どうして…?私達の事が、お嫌いなんですか?」
「いや、そんな事無い。…駄目っていうか…いや、何でもない。
 も、もう出なきゃいけないから話は後でな。じゃ、行って来ます!」
「あっ、待って下さ…もう!」
「はぐらかすなんて…ど、どんな事情が…?」
「帰ってきたら、またあいつに聞かないと…」

 しかし、彼はその後も口を割る事はなかった。 





 現実はなおも牙を剥く。
あの日以来、出一は毎日ファンデのマッサージを受け続けているのだが、
いくら疲労しても次の朝には全快している彼を、上司は見逃さなかった。
無理をさせても回復してしまうのだから、さらに無理をさせられる悪循環に巻き込まれる。
深夜帰りはおろか、出張でもないのに何日も家に帰れない事はもはや当たり前だ。
おかげで業績は上がっていったが、その恩恵はやはり彼には与えられない。
彼の肉体は保っても、その精神は既に限界に達していた。

「……ただいま。マッサージ、頼む…」
「出一様…どうしてそこまで仕事にしがみつくのですか?
 このままでは、近いうちに、きっと完全に壊されてしまいますわよ!?」
「言いたく、ない…」
「この期に及んで、どうしてそんな事を言うのです!?もう、見ていられませんわ…!」

 ファンデも、従者二人も、目に涙を浮かべる。

「別の世界の、女王様のお前には…わからない、だろう…」
「分からないかもしれません…でも、どんな理由があろうと、
 取り返しのつかないことになってしまったら意味が無いでしょう!?」
「…もう、とっくになってるよ…」
「!?…どういう、事ですか…?」
「俺は、子供の頃からずっと、叶うわけない夢ばかり追いかけて生きてきたんだ。
 自分は特別な存在なんだと思い込んですらいて、毎日妄想に浸って…
 …そこから大人になって、現実を見れるようになるのが遅すぎた。」
「遅すぎた?」
「気付けば、何も大したものは持たないまま、大人になっちまったのさ。
 学も、部活も、資格も、友達も、もちろん彼女も。
 …だから俺には、仕事しかないんだよ。
 中身が真っ黒な会社でも、こんな俺が、大企業に入れたってだけで十二分にありがたい。
 どんなにキツくても、こき使われるしか、俺には無いんだ。
 それを失いたくないんだよ…。」
「貴方は本当に、それでいいんですか!?
 そんな奴隷のような暮らしが生き甲斐なんて、ひどすぎます。悲しすぎます…!」
「じゃあ、どうしろってんだ?王様になれって?
 俺みたいな奴が王になったところで、国はきっと滅びるぞ!」
「能力なんて関係ありません!貴方が好きなんです、貴方だからいいんです!
 私達は、貴方と共にいたい。私達には、貴方が必要なんです!!」

 出一が胸中を告白したように、これまであまり主張をしてこなかったファンデも、
ここにきて、自分の言葉をはっきりと口にし出した。

「…どうしてだよ。どうして俺なんか…」
「…貴方には何も無いなんて事は、絶対にありません。
 現に貴方は、いきなり現れた異形の私達を追い出さず、家に置くほどの度量がある。
 どれだけ虐げられようと、自分の仕事を果たそうと努力する責任感がある。
 元々無関係なはずの私達の国を案じてくれる優しさがある。
 それさえあれば、十分なんです。」
「…でも、それだけなんじゃ…」
「それだけじゃありません。何日も一緒に生活していた私たちには分かります。
 貴方は、貴方が思っているよりも、色々なものを持っています。
 それに体や頭の能力など、生きている限り、いつでも、いくらでも伸ばせますわ。」
「…」
「生き甲斐が無いと言うなら、居場所が無いと言うなら、私達をそれにさせて下さい。
 貴方の命は…こんな、夢の無い生活の為に使い果たされるべきじゃありません。」
「…どうして、俺にそこまで言ってくれるんだ?」
「好きだから。先程そう言ったではありませんか。」
「何日もアンタと話したり、マッサージしたりしてる内に…
 …ちょっとだけ、好きになってきた…みたいな…その…そんな感じなのよ。」
「ご、ご主人様は…私達の事を、どう思っていますか?」

 出一は目を閉じ、ファンデ達が来てからの日々をゆっくり思い返す。
毎日疲れ果てて帰る自分を暖かく迎えてくれて、気持ちいいマッサージもしてくれて、
自分の延々と流れ続ける愚痴を、優しく慰めながら聞いてくれて…
地獄のようなハードワークの苦しみを、ファンデ達はいつも、天国のように癒してくれた。
彼女達が居なければ、彼はここまで持たなかっただろう。

「…君達の事は…透けてるけど、すごく優しい子達だと思ってる。
 会って日も浅いのに、ここまで本気で心配してくれるなんて…初めてだし。
 マッサージも有難いし、素直だし、何よりすごい美人だし…
 それに…三人が来てから、家に帰ると、何だか安心するんだ。」
「…それは、好きになって下さったと言う事で、いいのですね?」
「………俺で…いいの、かな?」

 三人は優しく微笑んだ。

「はい。貴方以外は、もはや考えられません。
 貴方以外に、私の国を幸せに出来る方はいません。」
「きっと、駄目なところばっかだと思うけど…君達の国を、幸せに出来るか?」
「出来ますよ。必ず。」

 出一は少し考え…

「…俺でいいなら、出来る限り、頑張ってみるよ。」

 そして、彼女達を信じてみることにした。

「ありがとうございます…!では、早速国づくりを致しましょう♪」
「えっ…どうやって?」
「もちろん、まずは交わるのです。今まで再三申しましたでしょう?
 さあ、いつものように、服をお脱ぎ下さい♪」
「あ、ああ…」

 いつもやっている事でも、意味が違うとこんなに恥ずかしくなるものか…
そんな事を思いながら、彼は全裸になった。

「それでは、早速…と言いたいところですが、
 私、恥ずかしながら、自分自身はあまり動けませんの。
 貴方も疲れていらっしゃることですし、二人とも、手伝って差し上げて…」
「は、はい!」
「…はーい。(後で、アタシも…)」
「…そう言えば、ずっと聞いてなかったな。君らの名前は?」
「あ、あの、わたしは、ファンデ=スパーク=リング=ブルーハワイと申します。」
「今まで聞くの忘れてたなんて…全く、仕方ないわね。
 ファンデ=スパーク=リング=ブルーハワイよ。忘れたら承知しないんだから。」
「…えぇ?同じ名前?」
「うふふ…そういえば、言ってませんでしたわね。
 私達は、沢山の体が一つに繋がっている、『全てで一つ』のスライムなのです。
 容姿や役割や性格は違えど、全て、紛れも無く『私』そのものなのですわ。
 ですから、名前も共有して構わないという訳なのです。」
「ややこしいな…」
「では、終わった後にでも、名前を考えてあげて下さいな。」
「そうするよ。…しかし、どうやって手伝うんだ?」
「見てなさい、こうするのよ。」
「し、失礼します、ね…」

 おどおどしている方は出一の背後に回り、彼の体を優しく抱きとめ、
気の強そうな方は手を変形させて股間に纏わせた。

「まだあんまり大きくなってないわね。どれ…」

 強気な方の手が出一の物を覆い包み、ゆっくりと扱き出した。

「ぅぉ…!?」

 自身を襲う予想外の感覚と快感に驚き、声を上げる出一。
ゴム手袋で扱かれるような感覚を想像していたのに、やって来たのは口の感覚だった。
風俗での口淫経験が少しばかりある出一だが、
魔物の性技は人のそれとは比較など出来ない。すぐさま射精しそうになってしまった。

「あら、まだ出してはいけませんわよ?相手は私なんですから。」
「はいはい。わかってまーす…」

 女王ファンデの一言で、今度はゆっくり、
出一の昂ぶりを落ち着かせるような優しい触り方へと切り替える。

「ふぅぅ…」

 正直お預けは辛いのだが、この触り方には安心感を覚える。と、そこに…

「3人でやる程ではありませんけど、体の疲れをお取りいたしますね…」

 適度に力が抜けた出一の体を、気弱な従者がゆっくり揉み解す。
凝り固まった肩、足、背中、そして特に腰を念入りにマッサージする。

「ああ、やっぱりイイなぁ…マッサージ…」
「そう。ならコレはどう?」
「ぉあッ!?」

 気の強い方も負けじと、出一の睾丸をマッサージし出した。
揉み解すように、なおかつ強すぎて痛みを与えないように、ふにふにと力を与え、
時折くいっ、くいっと引っ張りを加える。

「おぉぅ…それも結構気持ちいいな。」

 外国にはこういった睾丸のマッサージ(性的なマッサージではない)もあるらしいが、
それよりもこっちの方がいいな、と出一は思った。

「あ、前立腺マッサージもする?クセになるかもよ。」
「…それは止めてくれ。マジで。」
「つまんないの。」

 従者二人のマッサージは結構な時間続けられ、
終わった頃には、出一の体調はすこぶる良くなり、ペニスも完全に力を漲らせていた。
しかも、いつの間にか女王ファンデの目の前まで運ばれている。
それほど夢中になっていたのだろう。

「さて…いよいよ、契りの時ですわね。
 容器の蓋を開けられた時から、貴方様に操を捧げられるこの瞬間を…
 ずっと、ずっと心待ちにしておりました。」
「…待たせてごめん。」
「いえいえ。これから始まる永い永い夫婦生活に比べれば、僅かな時間ですわ。
 …でもこればかりは、もう待ちきれません。さあ、まずは口付けを…♪」
「ん。」

 唇を合わせるや否や、お互い貪るように舌を絡め合う。
男として、どうにかリードしてやりたいと思っていた出一だったが、相手は不定形生物。
人間ではとても有り得ないような舌の動きに、完全にされるがままになってしまう。
オナホールの如く変化したファンデの舌で舌を扱き上げられるという芸当までされ、
改めて、目の前の魔物と言う存在の力を感じた。

「ぷあッ…ふぅ…いきなり、こんなキスするか?」
「しますわよ。それだけ貴方の事を愛しているのですから。
 貴方の唾液、苦いけれど、美味しかったですわ♪」
(苦かったか…煙草やめなきゃな。)
「…でも、これだけじゃ足りませんの。」
「分かってるよ。そのために二人が手伝ってくれたんだし。」
「性的な事にかまけている余裕も無かったのでしょう?
 その溜めに溜めた精を、私に出して下さい…♪」
「おう。…入れるぞ。」

 左手で腰を抱き、右手でファンデの秘所がありそうなところに狙いを定め、
そして…先端が触れたと思ったら、一気に包み込まれた。

「ぁはぁぁ…!!」
「!!…っぉぉ…!」

 彼に最大限の快感を与える為だけに作られたとさえ思える極上の膣内を、
にゅぷぷっ、と一気に貫く感触がすると同時に、ファンデの体中が大きく震える。
耐えなければ、と思う間も無く、出一は溜まった精を吐き出してしまった。

「はーっ…わ、悪い…もう出ちまった…」
「私も、入っただけで達してしまいました…。おあいこですよ。
 それにしても、何て濃厚な精…♪もっともっと出してください♪」
「勿論そうしたいけど…なんか力が抜けて…」

 快感で腰を抜かしたのか、モノはいまだ硬さを保っているのに、動けない。

「それなら…二人とも、動かして差し上げて。」
「はい。」
「アタシの分も残しといてよ?」

 二人は出一の腰と背を支えると、押したり引いたりとリズミカルに動かす。

「ほーら、わっしょい、わっしょい。」
「ど、どうですか?痛くありませんか?」

 自分でも、ファンデでもない、第三者の力によって与えられる快感。
自らコントロールできない、強制的なピストン。
なにやら被虐的なものを感じるも、それがかえって更なる快感を呼んだ。

「ぅぐっ、それ、凄…!!…っと、流されてる、場合じゃ、ないな…」

 やられっぱなしでは居られない。腰は駄目でも手は自由だし、頭も動く。
右腕で力の限りファンデを抱き寄せ、左の指で大きな胸を激しく揉みしだく。
それと同時に、自分からファンデの口に舌を差し込み、舌を絡ませる。
上手いとは言えない技巧だが、それでも思いつく限りの反撃をファンデに浴びせる。
ファンデは嬉しそうに笑いながら、それらの必死の責めをすべて受け入れた。

「ぁ、ふぅ、んぁぁん!はうぅぅ…!!素敵…素敵です、あなた…!!」

 例え拙い愛撫でも、向けられる愛情が強ければ強いほど、魔物の性感は高まってゆく。
言葉が無くても分かる、出一の『愛しい者を満足させてやりたい』という純粋な想いを受け、
ファンデはこの上ない快感と至福を感じた。
そして彼女の体は歓喜に打ち震え、大きな声ではしたなく啼き、嬉し涙を零し、
その限りなく淫らな反応で、出一の雄の本能を強く強く刺激した。
動けなくとも、彼と同じく、自分が出来る最大限の愛を返したのである。

「はぁ…はぁっ…お二人とも、凄く気持ち良さそうです…。」
「んっ、いいなぁ…。後でアタシも、あんな風にしてもらいたいな…。」
「きっとしてくれますよ。出一様なら。あ…♪」
「…そうね。今は我慢して、二人を見守らなきゃ。」

 二人の従者は、本体であるファンデの快感の余波を受けながら、
最愛の王と王妃が愛し合い、乱れる様を微笑んで見守りつつ、手伝いを続けた。

「っはぁっ、そろそろ、また、出る…!」
「わたくしも、ぁっ、もう、いきます、はっ、ああぁ…!!」

 そして二人は、絶頂の直前に、固く抱き合う。
従者達も入れて、愛する三人に抱きしめられながら、出一はその愛を再び弾けさせた。

「あな…たあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「んんんっ…!!ファ、ファンデさま、すごく、いってます…!」
「あぁぁ…!き、きもち、いい…」

 ファンデの大きな絶頂と共に、その凄まじい快感が従者二人にまで伝わる。
もはや三人とも形を保てず、そのままずぶずぶと床に崩れていった。
巻き込まれた出一も、そのまま流れに身を任せ、力を抜いて彼女達の中に浮かぶ。
四人はしばしそのまま、蕩けるような絶頂の余韻を楽しんだ。
王も、王妃も、従者もなく、全てが平等で、全てが幸福な時間が流れていた。

「ふーっ…はぁ…はぁ…。ファンデ…、凄く、気持ちよかった…。」
「貴方も…凄かった、し…美味しかったです…♪」
「あー…なんか、このまま、寝たい…」

 心地よい倦怠感と疲労感は、彼を眠りの世界に招き入れようとしていた。
…だが。

「ごめんなさい…それはまだ出来ません。」
「えっ…何で?」
「…まだ、彼女達が控えてますもの。」

 そう言って、ファンデは手だけを出して指差した。
出一がその方向を向くと、そこには期待と欲情を顔中に湛えた二人の姿が…。

「………いやー、ヤってやりたいのは山々なんだけど…」

 二人の表情が悲しそうに曇る。

(…うわーガッカリしてる。どうにかしないと…)

 どうしたらいいか、ボーっとする頭を必死に回す。

「……そうだ!一緒に送られてきたアレ、持ってきてくれ。」

 二人は冷蔵庫を開け、ファンデ達に同梱されていた『∞クライマックス』を持ってきた。

「どうぞ…。」
「ありがとう。」

 ビンを受け取り、しばし眺める。

「フム…消費期限OK。…薄めて使うのか。」
「水持ってきたわよ。」

 ラベルの指示通り、キャップ一杯をコップの水に注ぐ。

「…民を幸せにするのが、王の務めだしな。こうなったら、徹底的にやってやるよッ!!」

 それを、一息に飲み干した。
従者のマッサージで血行がよくなっているせいか、効果はすぐに現れ、
すっかり柔らかくなっていたペニスが、一気に最大までそそり立つ。
それどころか、眠気も取れ、腰も動くようになった。

「こ…これが、別世界の、力…」
「そうですわ。さあ、まだまだ頑張って下さい、あなた♪」
「…頑張る。」

 そして…

「二人と、同じぐらい、お前も愛してるぞ…!」
「はぁんっ、あっ、あっ…!う、嬉しいです、出一様ぁぁ…!
 やぁっ…もう、いっちゃいます、いっちゃう…ッ!!」

 夜が明けるまで、出一は力の限り、民に尽くすのだった。

「まっ、まだまだ、満足しないんだから…んっ!」
「だったら…満足するまで、はぁっ、やる、だけだ!」
「あっ、また、きた…!すご、あはぁぁ!?」





「…お疲れ様でした、あなた。
 ふふ…こんな素敵な人に出会えて、私は幸せ者ですわね♪」

 三人とも満足させた後、体力を今度こそ使い果たした出一は、
糸が切れたようにファンデ達に埋もれて眠りについた。
その寝顔には、どことなく、何かをやり遂げたような表情が浮かんでいる。
従者二人も、出一に抱きついて眠っているようだった。

「今まで食べられた分を回復してくれたばかりか、もう新たな国民まで…♪」

 ファンデの傍には、いつの間にか4人目のスライムが現れていた。
ファンデに寄り添って眠っている彼女には、まだ被っているものが無い。

「この子の役割は何にしようかしら…?」

 メイドにするか、兵士にしようか、それとも料理人がいいか…色々な役割を考えつつ、
時折、眠る出一を見て、国のこれからに思いを馳せる。

「ふぁ……流石に私も、眠くなってきましたわね。
 役割を決める前に、ひと眠りしましょうか…。」

 横たわって眠ろうとしたが、突如鳴り響いた大きな音楽で起こされた。

「!?
 …何かしら?私の眠りどころか、出一様の安眠の邪魔までするなんて…」

 音のする方を見ると、出一の携帯電話だった。
出一を起こして電話に出させるなんて事は出来ないし、取れない距離でもないので、
ファンデが電話に出た。(出一が使っている所を見ていたので、使い方は知っていた)

「もしもし、間田ですが……!!?」

 いきなり、罵倒と嫌味を織り交ぜつつ、早く来いとまくし立てる声が聞こえた。

「だ、誰ですか!?どうしていきなりそんな事を…!
 人違いではないのですか!?ここは間田 出一さんの家ですわよ!」

 相手は一瞬戸惑ったが、すぐにまた調子が戻り、間違っていない、出一を出せと言う。
ファンデは壁の時計を見て、現在時刻が昼に近い事や、相手の様子から、
これは出一の会社の、恐らくはあのたちの悪い上司だなと推測する。

「出一さんは、今、電話に出られませんの。会社にももう行かないでしょう。
 え、理由?理由は、貴方が一番よく分かっているのではありませんか?
 真面目に働いている人を苛め抜くなんて、人の上に立つ者のする事ではありませんわ。
 …言いたいことはそれだけです。とにかく、出一さんは諦めて下さい。それでは。」

 そう言ってファンデは電話を切り、今度はある番号に電話をかけた。

「…もしもし。ルクリー王女ですかしら?私です、ファンデですわ。
 …はい…はい。…お見通しでしたか。では早速お願いしますわ。
 はい、すぐです。ありがとうございます…」










「……ん…寝てたのか。」
「あら、おはようございます♪」
「なあファンデ、俺、どれくらい寝てた?」
「時計では…もうすぐお昼ですわね。
 昨日はとても激しかったことですし、お疲れになるのも無理はありませんわ。」
「そうか。…何だか、懐かしい夢を見ていた気がするな。」
「どんな夢だったのですか?」
「う〜ん、そうだな…。思い出せるような、思い出せないような…」
「あ、起きてたんだ。新聞持って来てあげたわよー。」
「おう、ありがとな、サイダ。」
「にしても、毎日読んでるけど…前の世界の情報なんて、そんなに気になるの?」
「そりゃ、俺の故郷だしな。それにいい楽しみにもなる。」
「ふーん…。」
「あの、出一様。昼食の用意ができました!」
「ん?昼ご飯なんて珍しいな、スプラ。」
「はい。それが、農場のミツさんのご報告によると、
 睦びの野菜が収穫出来たので、ぜひ初物を出一様に味わって頂きたいそうです。」
「おっ、そうか…もうそんな時期か。
 収穫大変だったろうし、後で労いに行ってやらないとな…。」
「きっと、喜ばれると思いますよ。」
「あ、そうだ。折角だし、今日は収穫祭って事で、国を挙げて宴会でもしないか?」
「宴会!いいじゃない。勿論、出一様も大盤振る舞いよね?」
「おう、勿論だ。」
「大丈夫ですか?あなた。」
「大丈夫。
 この国の国民は、全員平等で、全員、俺の愛する妻なんだぜ?
 愛する皆の為なら、百人だろうが千人だろうが、苦でも何でもないね。」
「うふふふ…なんて頼もしいのかしら。
 それでこそ、この国の王。それでこそ、私達の夫ですわ♪」
「さ。そうと決まれば、まずは腹ごしらえだ。今日も一日、仕事頑張るぞ!」
「「「はいッ!!」」」



 とある魔界の薄暗い空には、今日も『ケンタブルー王国』の国旗が靡いていた。


 
12/12/24 22:00更新 / K助
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■作者メッセージ
難産だった…。
…また大変お待たせしました、お詫びのしようもありません。
もう愛想などとっくに尽かされている事でしょうが、K助です。
年内コンプリートを目指していましたが、結局ここまでズレ込んでしまいました。
短編はちょいちょい書いてるので、今年中にもう一短編くらい上げられるといいなぁ…
あ、あと、メリークリスマスです。
皆様、それぞれ嫁とステキな夜をお楽しみ下さい。
…私は今、遅れた罰としてお預けを食らっていますが。

…俺が悪かったですマーメイドさん。許して下さい。次の小説は頑張って書くから…。
 

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