誇りと悦びと
街道近くの崖の洞穴。
そこが、攻めるべき目標だった。
「あれがドラゴンの巣穴か」
最近現れたそれに街道を通る人々からの被害報告が後を断たず、国が討伐に乗り出したのだ。
派遣されてきたのは、王の側近の騎士団。
その実力は近隣諸国にも響き渡り、団長であるグライフは大陸一の腕前だとさえ言われている。
「よもや、本当にドラゴンの鱗を裂く機会が来ようとはな」
鱗裂きのグライフ。
それが異名だった。
鋼のようなドラゴンの鱗すら易々と切り裂く。
・・・という触れ込みだったが、あくまで比喩の話。本当にドラゴンを相手取ったことはなく、むしろ見るのも初めてだった。
「団長、巣穴への道を見つけました」
「よし、今行く」
巣穴の前の小さな足場を慎重に進み、入り口に立つ。
部下達は最悪の事態を想定し、待機させた。
足場が悪くあまり人数が入れないのもあるが。
ぐぉぉぉぉぉ・・・・
吐息、なのか?
未知の音に身構える。
手が震えるのが判る。
深呼吸。
戦士に必要なのは、いざというときに、必要以上に緊張しないことだ。
師匠からの教えであり、部下への教訓にもしている言葉を、改めて自分に飲ませる。
ぐぉぉ。
はたと、その音が止まる。
「今すぐに立ち去れ、人間。ここは我が城。ドラゴンの巣穴だ」
剣の柄に、手をかける。
洞穴の奥、入り口からの光が届かない闇から、ゆっくりとそれが現れる。
「お、女・・・?」
「ん?なんだ、我が姿を見るのは初めてか」
ドラゴンが自身の手を、身体を、ちらりと見て言った。
翼に尻尾、半身を鱗で覆われているのは確かにドラゴンと言えばドラゴンだったが。
どちらかといえば、女がそれらを身に纏っている印象の方が強い。
「魔王が代わり、魔力の性質が変わってしまったようでな。
おおかた、翼のある巨大なトカゲを想像していたのだろうが」
「姿はどうでもいい。人を襲うのをやめろ」
「人間風情が命令とはな。やはりこの姿は嘗められやすくて敵わん」
こちらの言うことを意にも介さない様子だ。
「もう一度言う。人を襲うのをやめろ。さもなければ、ここで斬って捨てる」
「ほざけ!」
咆哮。そして、口から漏れ出す炎。
それは大きくはなかったが、例え姿が変わっても、以前と同様、作り話から飛び出したかのような、強大な力があることを誇示していた。
「今ならまだ許してやろう。我が巣穴から出て行け」
「断る。私はこの国の平和を背負う者だ。その背を向けるわけにはいかん」
「ならば、その誇るべき背中以外を八つ裂きにしてくれよう!
果敢にも龍に挑んだ栄誉をくれてやる、死に絶えよ!」
「はぁぁぁぁあ!!」
がぁぁぁぁああ!!
二つの咆哮が、衝突した。
「表を上げよ」
城の玉座の間。
王と、その近衛兵が並ぶ広間。
その玉座の正面で跪き、顔を上げるグライフ。
「こたびの働き、大義であった」
「ありがたき幸せ」
「・・・のだが、なに、それ?」
急に崩れた緊張感と共に、王が指差す先。
「んダァァァリィィィン!!ね、新しい愛の巣はどこにするの?ここ?
あの邪魔なのブッ飛ばしてこのお城を巣にしちゃうの?」
グライフにすり寄るドラゴンだった。
王も、グライフも、近衛兵たちも、その場の全員が、妙な汗をかくのを感じた。
あの後、かろうじて勝ちはしたものの、その瞬間からこの様子だ。
「えぇと・・・一応、ドラゴンです」
「うん、報告と同じ、鱗を纏った女なのはわかるんだけど、その、威厳とか・・・
伝説の怪物らしさ、どこいっちゃったの?」
「どうやら、負けを認めた相手に懐く性質があるようで・・・」
「もうっ、ダーリン私の話を聞いてよ!・・・あ、ほっぺたに傷が。私の爪痕ね。
あのときはごめんね。今舐めてあげるから」
「いや、大丈夫、大丈夫だから・・・」
「と、とりあえず、これで街道の平和は守られたが・・・」
「申し訳ありません、流石に無抵抗の相手にトドメを刺すのは気が引けて・・・」
「ダーリンのためなら私なんでもするけど、死ぬのだけはご免よ!これから始まる二人のハッピーライフのために!」
「あ、うん・・・その・・・グライフ卿、長期休暇あげるから、それの処理、よろしく」
「え、あ、王様!王様!待ってください!王様!」
逃げるように玉座を後にする王。
「やったねダーリンお休みだって!さぁ二人で愛を語らいましょう!」
「誰か・・・助けて」
玉座の間にいた近衛兵全員が、グライフに同情した。
が、曲がりなりにも彼に侍るのはドラゴン。誰一人、手出しはできなかった。
城の一角、グライフに充てがわれた部屋。
そこにグライフとドラゴンはいた。
「ここが愛の巣ね!あぁ、ダーリンが暮らしてきた匂いがいっぱい!」
プレートメイルを脱ぐと、どっと疲れが押し寄せた。
正直、「これ」になるくらいなら、ドラゴンを3体同時に倒す方がまだ楽なのではなかろうか。
そんなことを考えていた。
「あぁん!ダーリンのムレた汗のにほひが!濡れるッ!」
「いやあの、お願いだからもう少し落ち着いてもらえないだろうか・・・」
「あ、そうよね。せっかく自分の巣にいるんだからゆっくりしたいわよね。
ごめんなさいね」
こちらに従順なのがせめてもの救いか。
そのとき、ドアがノックされ、使用人が入ってくる。
「失礼します。洗濯が終わりましたので、お着替えをお持ち・・・」
「無礼者!我が夫の巣に入り込むとは何事だ!今すぐ出て行かなければ、
我が炎にて消し炭にしてくれようぞ!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
使用人は、着替えを放り出し逃げ出した。
止める間もなかった。
「もう、本当に失礼な人ね。さ、ダーリン。邪魔者はいなくなったから
ゆっくり休んでね。あ、そっちの『ご休憩』も大歓迎よ♡」
「いやあの、あの人、私の身の回りの世話をしてくれてるだけなんだが・・・」
「あっ、ごめんなさい、奴隷か何かだったの。私てっきり、
ダーリンの強さに惚れ込んだ他のメスかと」
「あ、うん・・・」
ダメだ価値観がかなり違う。
とりあえず、使用人の彼女には後で謝らなければ。
そう思いながら、使用人が持ってきた洗濯物を拾いに行く。
「あ、ダーリンは座ってて。私がやるから。エサを取ってくるのも、
寝床を片付けるのも、身の回りのお世話はぜーんぶ私がしてあげる。
もちろん、『ソッチ』のお世話もね♡」
ドラゴンに連れ攫われるおとぎ話はいくつも聞いた事があるが。
ドラゴンを連れ帰った先で軟禁生活じみたことになる話は聞いた事がない。
下手すると、自分がその聞いた事がないおとぎ話の第一号として、永劫語り継がれてしまうのではないか。
最低限それだけは避けなければ。
「人間の服って面倒ね。まぁ毛皮も鱗もないんじゃ、しょうがないと思うけど。
あ、これどうすればいいの?」
「あぁ、そこの箪笥に入れておいてくれ」
「タンス?あぁ、この棚ね」
引き出しを引き。
くしゃり、と洗濯物を丸め込むと。
無理矢理に突っ込み。
バン!
力任せに閉じられた。
「これでいいのね!簡単簡単!」
彼女の手形に凹んだ箪笥を見ながら。
さらに疲れが増した気がした。
小鳥のさえずりを聞きながら、白々と明け始めた空を見る。
生活の基礎を教えるだけで一晩かかった。
「もう、人間の暮らしも不便ね。
でもダーリンと一緒に暮らすために頑張っちゃうから♡」
自分はこうもぐったりしてるのになんで彼女は元気なんだろう。
「少し疲れた。ちょっと休むから、朝食が来たら起こしてくれ」
「あん、ダメよダーリン。ベッドに入るときは一緒。
そのまま襲ってくれても構わないわよ♡」
言い返す気力も追い返す体力もなく、ドラゴンと一緒にベッドに入る。
そういえば、彼女の名前訊いてないな。
気にはなったが、それよりも疲れが勝っていた。
「ダーリン、鱗、痛くない?腕枕してあげようか?膝枕の方が好き?
なんだったら胸枕でも・・・」
大丈夫、大丈夫。
それだけ伝えて。
ろうそくの火を吹き消すように、意識を落とした。
「・・・んもう、ダーリンのいけず」
こんこん。
ノックの音で目を覚ますドラゴン。
「誰ぞ!我らが愛の巣に足を踏み入れんとする者は!!」
ひっ、という小さな悲鳴を聞く。
「お、お食事をお持ちしました!」
「入れ」
「し、失礼します」
おそるおそる、扉が開く。
昨日の使用人だった。
「おぬしか。昨日は脅してすまなかった。あの時の対応を夫に嗜められてしまったよ」
「ひぃ、だ、だいじょうぶです・・・」
「して、食事の方は?」
「あ、こ、こちらです」
トーストやゆで卵などが乗ったカートが、良い香りを連れて部屋に運ばれる。
「あの、グライフ様は・・・」
「まだ就寝中だ。後は妻である私がやっておこう」
「へ?あ、はい。それでは、失礼します・・・」
妻、という単語に違和感を覚えながら、部屋を後にする使用人。
ぱたり。
静かに扉が閉められた後。
「んダァァァリィィィン!お食事の時間よ!お・き・て!」
その声を扉越しに聞きながら、使用人の困惑がさらに広がる事になった。
まだ疲れを残す身体を引きずりながら、訓練場へと顔を出す。
もちろん、脇には引きはがすこともままならないくらいにべったりとひっつくドラゴン。
「ダーリン、せっかくお休み貰ったのに訓練?」
「すまない。昔からの習慣でね。どうも身体を動かす時間が無いと落ち着かないんだ」
「ううん、そんながんばりやさんのダーリン素敵♡もっともっと強いオスになってね♡」
強くなった結果がこれである。
もっと強くなるともっとこんなのが増えるのか、と想像すると、乾いた笑いしか出ない。
「グライフ団長!おはようございま・・・す・・・」
「あぁ、おはよう」
ドラゴンの存在を見て、消え入るような挨拶になる団員。
平和な日常に降って涌いた伝説の怪物。それに怯まない方がおかしいので当然ではあるが。
「あ、団員の人?ダーリンのお手伝いで私が鍛えてあげようか」
団員の顔から血の気が引いて、皆揃って青くなっている。
「はは、大型の集団演習でもやるときには力を貸してもらおうかな」
「はぁーい♡」
「じょ、冗談じゃ・・・」
「いい機会じゃないか。強力な魔物との演習なんてそうそうできないぞ」
さらに青くなる団員をからかいつつ、素振りを始める。
横で「フレーフレーダーリン♡がんばれがんばれダーリン♡」と応援するドラゴンに若干気が散りつつも、ノルマを終える。
日課を終えて、一日の始まりを身体が感じたか、多少だが疲れが薄らいだ気がした。
「ふぅ」
「お疲れさまダーリン。はい、タオル」
「あぁ、ありがとう」
「んぁあ!ダーリンの汗の匂い!汗の匂い!濃厚なオスのかほり!」
「・・・頼むから皆の前でその反応はやめてくれ」
「え?私たちのラブラブっぷりを見せつけちゃダメなの?」
「どちらかというとそっちではないが・・・いやまぁ、とりあえず公衆の面前では
落ち着いてくれると助かる」
軽く引き始めた団員たちを見ながら言う。
「ぶぅ。私の愛、まだまだ伝え足りないのに」
ぶーたれて膨らむ頬。
尖らした口の先から小さな火が出て、黒くくすぶる。
・・・あまり規制しすぎると、いつか爆発しそうだ。精神的にも、物理的にも。
そんなそら恐ろしい未来がちらりと脳裏をよぎった。
汗で濡れた下着を取り替え---そこでまた「アレ」があったが---ドラゴンを連れ、城の中を案内する。
すれ違う人全員から怯えの表情を向けられながら、城内の施設を説明していく。
まだ共に過していくらも経たないが、人を襲う魔物ではなくなったのは、確かなはずだ。
それでも、こうして恐怖の感情ばかり向けられる彼女を、少し哀れに思う。
「どうしたのダーリン。浮かない顔して」
「いや、君が怖がられるのが、なんか、かわいそうな気がして」
すぐ隣でその表情を一緒に受けていたから判る。
すぐ隣で視界を共有していたから判る。
恐怖。
それは拒絶。
全員からの、拒絶。
城内だからみんな知った顔だし、こちらの事情を知っている分、まだマシだろう。
これで街に出た時は・・・パニックになることは間違いない。
無害・・・というには自分に害が及びすぎてる気がするが。
それでも、恐怖で迎えられる存在ではなくなったはずだ。
「・・・構わん。我々は、温かな感情を向けられる存在ではない」
急に口調が変わったドラゴンに驚く。
「誇りのために、数多の破壊を振りまいてきた種族だ。当然だろう」
「しかし・・・」
「それに憐憫など感じてもらう必要はない。誇りの代償として、
この世に生を受けた瞬間から背負ってきたものだ。
それは我々の生きる糧として、存在している。存在理由として、存在している。
だから、周囲の怯えた視線など、誇りの象徴として甘受するだけで、
哀れみを向けられることではない。
・・・最も我の場合は、その矜持を、ぬしに砕かれてしまったがな」
自嘲気味な笑み。
魔物の頂点に立つ種族。
その誇りを。
砕いた。
人間が。
自分が。
「だから今は、強いオスになびいた、ただのメストカゲだよ。
それ以上でもそれ以下でもない。
淫魔の魔力で抑えがきかないのは我ながら情けなく思うが・・・
それでも、このメストカゲを気にかけてくれるなら、『そっちの私』も、
邪険にしないでもらえると有り難い」
最も強い魔物の見せた、弱い部分。
魔王が淫魔に代替わりし、魔物全体が淫魔化している。
それは聞いた事があるし、騎士としてそうなった魔物を追い払う仕事もしたことがある。
彼女もそうだとは思っていた。色欲に溺れ、暴走する魔物。
が。
残っていた誇り高い部分。
身を焼く欲を抑え、己が矜持を示すために出てきた部分。
肉欲を欲する自分もまた自分で。
それを受け入れて欲しいと。
「だからダーリン、早く子作りしよ♡」
受け入れる気分がざっと引いていくのが判った。
昼食を終え、一息吐く。
使用人が食器を片付ける音を聞きながら、膨れた腹をさする。
「ご苦労。あぁ、茶器はそのままにしておいてくれ。いい茶葉だな。気に入ったよ。
・・・ダーリン、お茶菓子貰う?わかったわ♡
・・・いや、茶請けはいい。レモンはあるか?あぁ、貰おう」
なかなか忙しい性格だな。
使用人に声をかけるドラゴンを見ながら、そう思った。
「人間の生活の勝手が判ってきたみたいで良かったよ」
「そりゃあ、ダーリンとのスィートライフのためだもの、がんばっちゃうわ♡」
「スィートがどう、というのはともかく・・・まぁ、この調子で、
城の人ともよろしくやってくれ」
「私としてはダーリン以外はどうでもいいんだけど、
ダーリンがそう言うならしょうがないか」
その後も、彼女は大きなトラブルを起こす事もなく---小さなトラブルが日常茶飯事なのはご愛嬌だったが---城の生活を続けた。
使用人たちは、敬意を持って接すれば、敬意ある対応が返ってくるということを理解してくれたようだし、
騎士団の面々も、殺されることはないと判ったか、果敢にも一対一を挑む者も現れ、
城に出入りする貴族たちも、元々優雅な立ち居振る舞いの彼女を、多少は奇異の目で見たが、受け入れたようだった。
使用人が力仕事で困っていると助け。
日々挑んでくる騎士団員を返り討ちにし。
貴族から着飾るよう勧められては困惑し。
グライフに情事をせがんでは曖昧な返事を返され。
そんなことが日常になってきた。
彼女がいるのが、当たり前になっていた。
そんな、ある日の夜だった。
「そういえば・・・」
「どうしたのダーリン?」
椅子代わりに腰を下ろしたベッドで、隣に座る彼女に訊いた。
「すっかり訊きそびれてしまっていたが、名前って、あるのか?」
実に今更すぎる質問だったが、彼女自身が「ドラゴンさん」などと呼ばれるのに異議を挟んでいなかったため、気にしていなかった。
「ダーリンが呼びたいように呼んで♡
メストカゲでも肉奴隷でも性欲処理装置でも何でもいいわ♡」
「いや、流石にそれは遠慮させてもらうが・・・」
「みんな困ってないみたいだし、いいじゃない」
「それはそう、なんだが」
「んもう、ダーリンが望めば、私の恥ずかしい部分まで全部見せちゃうわよ♡
全部アナタの好きにしていいんだから、名前なんてどうだっていいじゃないのよ」
「だが、君が持って生まれたものを知らないのも、なんというか・・・嫌、なんだ」
「えっ・・・」
「自分でもよくは判らないけど・・・もっと、君について、知りたい。そう思った。
こうして一緒に暮らしていて・・・楽しい。上手く言えないが、こう、元気になれる。
多少のトラブルはあったけど・・・ずっとこうしていられたらいいな、と思った。
だが、今更だが、君のことを・・・名前すらも、よく判っていないことに気付いた。
だから、知りたいと、思ったんだ」
一瞬、困ったような顔をするドラゴン。
そうだな、いい機会だし、話しておこう。
そうつぶやき、今までの笑顔を消し、真剣な表情を見せる。
「ぬしは・・・『真名』というのを、知っているか?」
初耳だ。
「『名前』とは、個を表す記号であると同時に、個を縛る意味もある。
『名前』により個を縛ることで個は形を成せる。逆を言ってしまえば、
『名前』には個を制御する、それだけの力があるものなのだ。
呪い、と感じたなら、大まかには合っている。本来、『名前』とはそういうものだ」
改めて、自分の名前を、心の中で反芻する。
「世にある多くはただの記号としてのものばかりだが、我々ドラゴンは
強大な力を扱うために、呪術としての名前を持つ。それが『真名』だ。
多くは真名の他に、記号として別の名前を持つが・・・
我はそういうのは性に合わなくてな。
真名は、呪いとしての側面が強い。だからこそ強い力を扱えるが、
逆に縛られる力も強くなる。なので、本来は、よほど信頼する相手にしか教えんのだ」
「そう、なのか・・・」
つまり、自分は信頼されていないということなのか。
そんな自分の表情を読んでか、ドラゴンが続ける。
「まぁ、ぬしに真名を教えるのは、我とてやぶさかではないし、
教えたいとすら思っている」
ちょっとだけ、頬を赤くしながら言った。
「話は変わるが、『龍騎兵(ドラグナー)』は知っているだろう?
龍を打ち負かし、その力を従える者だ。
今のぬしがそう思われているようだが・・・正確には違う。
あれは真名を相手に明かし、魔力を共有することで、
本来人間が到達出来ない強さを得るものなのだ」
魔力の共有、つまり。
「しかし、今は魔王の魔力が強く入ってしまっている。今その契約を結び、
力を行使すれば、淫魔の魔力がぬしに流れ込む・・・
インキュバスへと変わってしまうだろう。
多少であれば、我が制御できるのだが・・・日々少しずつ漏れるだろう
魔力までは抑えられん。だから、名を教えるわけにはいかんのだ。
まぁ、いいではないか。これで慣れてしまったし、
今更知らずとも困ることではあるまい?」
優しく、慈愛に満ちた顔をして、続けた。
「何もな、ぬしを好いているのは『あちらの私』だけではないよ。
『あちら』も『こちら』も、ただの『私』だ。
私は、ぬしを愛している。
だからこそ、そのままであって欲しいと思っているのだよ」
突然の告白に、「あちら」のドラゴンとはまた違う恥ずかしさがこみ上げ、思わずうつむく。
だが。
「確かに、そうではあるが・・・なんというか、上手く言い表せないが・・・
寂しい、気がする」
「寂しい・・・?」
不意の言葉に、きょとんとするドラゴン。
「縛る、と言えば確かにそうなんだろうけど、でも、それでは君はいつまで経っても
『ドラゴン』のままだ。大きなくくりの中の一つでしかない。
それは、なんだろう・・・群衆の一つ、みたいに言われている気がして・・・」
改めて、ドラゴンに向き合う。
「それを寂しいと思うこの気持ちは、たぶん、恋とか愛、なんだと思う。
私は、普段騒がしく、普段蠱惑的に誘ってきて、時折誇り高く、時折孤高な、
君が、認められていない気がしてしまうんだ。
君は群衆の一人ではない。私の知る君であってほしい。
その気持ちは、たぶん、恋とか愛・・・なんだと思う。
この歳で恋愛沙汰に疎く、そうだと言い切れないのは情けない限りだが」
きょとんとした表情のまま、顔を真っ赤にするドラゴン。
思考が停止しているようなドラゴンに、恥じる感情を極力抑え、言う。
「私から言うのは初めてかも知れんな・・・
君が、好きだ。ずっと、共にいてほしい」
さらに赤くなった顔をそむけるドラゴン。
それはただ身体を求めるときとも、矜持を語るときとも違う。
見た目相応の、乙女の仕草に見えた。
「な、何を突然言い出すかと思えば・・・」
「だから、知りたいと思った。名前のことも含め、君の全てを」
「・・・そうか」
ふぅ、と、自分を落ち着かせるためか、深呼吸をするドラゴン。
多少は赤みが取れた顔を向け、真顔で言った。
「今一度、聞かせて欲しい。先ほどの話を聞いてなお、我が名を求めるか?」
必要以上に緊張しないよう、落ち着いて、言った。
「あぁ」
「・・・そうか、ならば、明かそう」
すっと、こちらに顔を近づけるドラゴン。
耳元で、小さく、囁く。
「・・・それが、我が、真名だ」
それを、その名前を、反復した。
瞬間。
身体の中に、何かが流れ込む感覚。
蝕まれるような、作り変わるような。
力が、溢れる。
今なら、大国の軍勢すら一人で・・・いや、「二人」で押し返せる。
そんな気すらしてくる。
「契約が完了したようだな。これで、ぬしも龍騎兵だ。いや・・・
我が、最愛のパートナーだ。主殿」
「あ、あぁ」
そう答えるのが精一杯だった。
身体が、上気する。
心臓が、跳ねる。
彼女が、欲しい。
その感情が、高まる。
「・・・早速、魔力にやられているようだな」
「これ、が・・・」
「今はまだ力を行使していないからマシだ。今後はもっと酷いことになるだろう」
きっと、彼女は、これよりさらに強い衝動に駆られて暮らしていた。
それを、矜持だけで押さえ込んできた。
敵わないな。
その心にだけは。
「後悔、しているか?」
「いいや。気に入った。愛おしい人を愛おしいと、はっきり言える勇気を貰った気分だ」
「ふっ、馬鹿者が。熱に浮かされた頭で言われても嬉しくはないわ」
「万年熱に浮かされてるような行動をしてきた奴に言われたくないよ」
「はははっ、それもそうだ」
それはとても自然に。
自分でも気付かないくらい自然に。
彼女の唇を、奪っていた。
「好きだ。契約がどうこうでも、魔力がどうこうでもない。本心から言わせてもらう。
愛してる。私の側にいてほしい」
「ふっ、やっと墜ちおったか。誇り高き龍にあれほどのことをさせておいて今更とは。
これでも、顔や体型には自信があったんだぞ」
「こっちも抑えるのに必死だったよ」
「阿呆。それは我とて同じだ」
「もう、我慢の必要はないな、お互い」
「だな」
再度の口づけ。
少し、長く。
確かめるように。
「・・・さて、我もそろそろ限界だ。こうもされては劣情ばかりが昂ってしまう。
『誇り』は、必要な時まで眠っていてもらおう」
「私としては、『こっち』の方が気に入っているのだがな」
「ははは、欲望丸出しで唇を奪っておいてよく言う。
今の我には、これだけで充分だよ。主殿の心を奪えた。
それだけで、このちっぽけな誇りは満足だ。あとは『あっち』に任せるさ」
「散々焦らしてしまった分、返してやらないとな」
「そうしてやってくれ。・・・ふふっ、では、始めようか、『ダーリン』」
最後の言葉は、どちらの彼女だったのか。
どちらでもいいか。
どちらも、最愛の彼女には違いないのだから。
彼女がのしかかるように唇を求める。
押し倒されながら、それに応える。
熱い。
覆い被さり、押し付けられた豊満な胸も、絡んでくる脚も。
炎を吐く口も、舌先から奥まで、焼け付くように熱かった。
今、自分の舌がからんでいるのは、果たして炎か舌か。
今、自分が飲み込んでいるのは、果たして熱湯か唾液か。
今、自分が抱擁しているのは、溶岩かドラゴンか。
ちゅっ、ちゅっ、くちゅっ。
混濁する意識をさらに白く塗り替えるように、唾液の混ざる音と熱が自分を攻める。
ふーっ、ふっ、ふっ、ふーっ
二つの吐息が、混ざる。
彼女が、口を離す。
「さ、ダーリン。もっといいこと、しよ?」
くるり、と身体を反転させ、こちらに尻を向け、全体重で押さえ込むように重なる。
「んもう、何もしてないのにダーリンのダーリンがこんなになっちゃてる。
つっけんどんなダーリンをおっきくさせるのが楽しみだったのに」
「言っただろう、もう我慢しないって。本当は毎日こうなってたんだよ」
「ふふっ、それじゃ、我慢した分、いーっぱい射精(だ)してもらわなきゃ♡」
言うが早いか、既に張ったそれを取り出す。
「すんすん・・・あぁ、やっぱりいい匂い・・・」
極上の料理を前にしたような声を聞いた。
「あら、もう先っぽから・・・ホントに我慢の限界だったみたいね」
「そこに魔力まで喰らったんだ。仕方ないさ。
そういう君だって、何もしてないのに酷い有様になってるぞ」
尻尾を上げ、見せつけるように目の前に突き出された割れ目は既にしとどに濡れそぼり、
愛するものを今か今かと待ちわびているようにひくついていた。
「ご馳走を目の前にしてるんですもの、待て、なんてしないわよね、お互い」
「もちろんだ」
同時に、むしゃぶりついた。
先ほど舌で感じた灼熱を股間から感じる。
敏感なそこに伝わるそれは、火傷しそうな程に熱く、熱く、熱く。
こちらをさらに火照らすように、さらに高みへと誘うように。
ねっとりと絡み付いた。
眼前の秘部からも熱い、熱い、ひたすら熱い体液が迸っていた。
ただそれを飲んだ。舐った。求めた。貪った。しゃぶった。吸い付いた。
今までの分まで取り返そうとするように。
じゅぶ、じゅる、ぴちゃ、ちゅる、じゅく、ぺちゃ
ただのメストカゲと成り果てた魔物と。
ただのオスザルと成り果てた人間が。
淫猥な音を混ぜる。
ただの欲の塊と成り果てた二人が。
ただの獣と成り果てた二人が。
互いを求める。
己を満たすために。
んっ、じゅぶっ、んっ、んんっ、じゅるっ、んっ
どちらからか、声が漏れる。
互いに相手のものだと思いながら。
どちらとも、声を漏らす。
「んっ、か、は、あ、射精(で)る・・・んくぅ!」
ビクン。
怒張が跳ねる。
それまでの我慢を吐き出すように。
「ん、んんんっ、ん、ん!」
彼女が受け止める。
それまでの我慢を満たすように。
「ん、んんんんん!ば、あ、れ、ひぇる・・・れひぇる・・・」
放たれた愚息は、それでも足りないとばかりに彼女を汚す。
顔を。髪を。胸を。
こくん。
小さな、嚥下の音。
「ダーリンのせーし、いっぱい・・・あぁ、ダーリンのえっちな匂いがいっぱい・・・」
まだ上着を着ている胸元に、熱い液体が掛かる。
彼女の潮。
欲望の汚濁を感じ、果てた証拠。
「満足、した?」
「ぜんぜん。もっと。ちょうだい?ダーリン」
身体を起こし、向きを変え、愚息の真上に腰を下ろす。
それは今までに見たことがないほど妖艶で。
それは今までに見たことがないほど蕩けた顔。
「ちょうだい。ダーリンのお汁。ダーリンの匂い。ダーリンの愛」
声と一緒に、ねだるように動く腰。
柔らかな股の襞に埋もれた愚息をこすり上げる。
舐めるように。
下の口で、舐め上げるように。
「私も欲しい。君の熱が。君の刺激が。君の愛が」
応えるように、腰を突き上げてやる。
こすれ合う陰部が、くちゃくちゃと音を立てる。
「ダーリンのおちんちんがクリに当たってる・・・んっ、あ、ビクってしてる・・・♡
固くて・・・んっ、はち切れそうで・・・
ふぁぁっ、まだまだいっぱい射精(で)そう・・・」
「もちろんだ。君が疲れ果てて寝るまで、いっぱい射精(だ)してやる」
「あはっ、腕っ節じゃ負けちゃったけど、こっちは負ける気がしないわよ♡」
「こっちだって。龍に乗られた龍騎兵なんて格好が付かないからな。
尻を振りながら泣いて媚びるまで、汚い汁が子宮から溢れ出すまで、
歓喜の震えが止まらなくなるまで、快楽の頂点が判らなくなるまで。
君が愛で満たされるまで、続けてやる」
「んふふ、楽しみ♡」
少し腰を持ち上げる彼女。
愚息の先端を掴み。
自らの膣(なか)に、招き入れる。
大洪水を起こしているそこに、飲み込まれる。
熱が、襞のうねりが。
先端から。
「あ、は、あぁ」
幹を通り。
「あ、あああぁぁぁあ!」
根元まで。
「んあ、あぁあぁ、ダーリン!ダーリン!ダーリン!
繋がったよ!ダーリンと繋がれたよ!嬉しい!嬉しい!」
思考を放棄した、ただ感情だけを伝える言葉。
己の嬉しさを伝えるように、艶かしく揺らされる腰。
鈴口にこする、少し固い感触。
彼女自身が、それを確かめるように。
ここを狙えと誘うように。
子宮口が、こすられる。
「お、奥っ、一番、深いところっ、こりこりって、ダーリンのが、気持ちいいっ!」
味わうように、ゆったりと。
それが続けられる。
「いいっ、奥、当たって、んっ!もっと!もっと!」
「こう・・・か!」
不意に、突き上げる。
「ひゃん!」
突き上げる。
「ひゃっ!」
突き上げる。
「あぁああ!」
ゆっくりとしたそれとは違う、力強いピストン。
突き上げる度に上がる、彼女の嬌声。
彼女の奥に当たるように。
彼女の奥まで届くように。
力一杯、突き上げる。
「やっ、ダーリン、はげしっ、すぎぃ・・・」
「まだまだ、だよ」
上体を起こし、彼女の胸を揉みしだく。
腰を小刻みに揺らしながら、それに合わせ揺れる胸を、手で蹂躙する。
鱗の固さの奥にある、柔らなそれを潰すかのように。
「やっ、はっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
腰の動きに合わせ、小刻みな声が聞こえる。
「あっ、あっ、キス、ダーリン、キス、して、ダーリン、ほしいの」
先ほどの白濁液を付けた顔のまま、おねだりをされた。
自分でも気付かなかった下卑た感情、支配欲が、むくむくと膨らむ。
「もっと、丁寧にお願いしないと、あげないよ」
「いじ、わるぅ・・・」
はぁはぁと息を切らせながら、言った。
「おねがい、します、あわれな、メス、トカゲに、愛を、ください」
「合格」
腰の動きをゆるめ、唇に吸い付く。
待っていたとばかりに、彼女の舌が入り込む。
んじゅ、ちゅる、くちゅる
興奮により粘度を増した体液が、絡む。
灼熱した彼女の唾液を貪り。
灼熱した自身の唾液を渡す。
ねばり、絡み、混ざり、飲み込み。
それが口の端から垂れているのも気にせず。
求め合う。
満足したのか、彼女が離れる。
つう、と、舌と舌を、糸が結ぶ。
ただ呆然と、息を荒げる彼女。
「攻守交代だ」
四つん這いになるように、彼女に促す。
熱にぼーっとした顔で、素直に従う彼女。
「もう一度おねだりしてごらん」
「はぁ、はぁ、くだ、さい。メストカゲに、おちんちん、ください。
えっちなお汁、いっぱい、ください。
孕むまで、いっぱい、汚して、ください」
尻尾を持ち上げ、ひくつく秘部を晒し尻を振る。
その姿は、ただの雌だった。
それに気を良くしたただの雄は。
「よくできました」
そう言って、愛液で濡れた穴に、愛液まみれの肉棒を突き入れた。
「はぁあぁあぁぁ!!」
衝撃に、彼女の尻尾がぴんと伸びる。
それを脇に避けながら、彼女に覆い被さる。
野性が知る、征服の証。
野性が持つ、屈服の証。
マウントポジションで胸を揉みしだきながら、突きを再開する。
「あっ、あっ、ダーリン、ダーリン、ダーリン♡」
雌の叫びが、脳髄へと響く。
「ダーリンに、支配、されてる!ダーリンに、犯されてる!
ダーリンに、いっぱいに、されてる!ダーリンのものになってる!」
「嬉しいよ。強く美しい獣を侍らせることができて」
「私も!嬉しい!嬉しい!嬉しい!
ダーリンの側にいられるのが!ダーリンのものになれるのが!」
覇者の面影は既に無く。
愛しい雄に支配される悦びと。
愛しい男に付き従える誇り。
それだけを持った、美しい獣と化していた。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
汗と愛液でずぶ濡れになった肉が打ち付けられ、音を立てる。
一層深く、一層早く、一層求めるように、一層高みへと。
本能が、そうさせる。
「あっ、あっ、ダーリン!もっと、もっと!奥まで!
突き、破る、くらい、奥に、ちょうだい!」
言われずとも、そうしていた。
そうしたいから、そうしていた。
彼女の全てを支配するために。
彼女の全てを味わうために。
彼女の全てを自分で満たすために。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「ダーリンの、おっきいのが!きてるっ!んぁあっ!いっぱい、いっぱい暴れてる!」
きゅう、と、掴んでいた乳房を握りつぶす。
自分のものだ、と言わんばかりに。
「ひゃぁあぁあぁぁあ!おっぱい、痛い!痛い、けど、気持ち、いい!」
うなじを舐め上げ。
「あぁあぁぁあ!」
吸い付く。強く。
「は、あ、んあ、あぁああ!」
自分からもたらされる刺激全てを、快楽とするように。
一挙手一投足に、嬌声が上がる。
吸われ、赤く内出血したうなじに、さらに支配欲を満たされる。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「あぁあ、やだ、まだ、イクの、やだ、もっと、ダーリンと、つながって、いたい!」
膣が、締まる。
大好きな肉棒をさらに感じようとするように。
襞が、絡む。
愛しい男性を逃がすまいとするように。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「私も、もう、そろそろ、限界、だ。
一緒に、イこう」
「うんっ!イクっ、一緒に、イクっ!あっ、はっ、ああっ!」
ぱんっぱんっぱんっぱんっぱんっぱんっ!
ペースを早める。
自らが果てるために。
相手を果てさせるために。
己の欲を解き放つために。
相手の欲を満たすために。
「あっ、あっ、あっ、イク、イク、イク、イクっ!あっ!あぁぁああぁああ!!」
「あぁあぁあああっ、か、くっ!」
ビクン。
怒張が鼓動する。
それを押さえつけるように、肉壷が収縮する。
どくん。
睾丸から熱が迫り上がる。
どくん。
熱の塊が、尿道を通る。
どくん。
先端から、その先へ。
どくん。
種を待つ、彼女の膣(なか)へ。
「あ、つい、ダーリンの、熱いのが、いっぱい・・・」
尚、きゅうきゅうと締め付ける膣に、さらなる射精感を覚える。
どくん。どくん。どくん。
「まだ射精(で)てる・・・まだ射精(だ)されちゃってる・・・
お腹、いっぱいにされちゃってる・・・」
どくん。どくん。どくん。
身体が、激しい運動の疲れを訴えている。
それに反して、愚息はまだ足りないと言っている。
彼女を汚しきらないと満足しないと言っている。
「ぅあ、くっ!」
彼女からそれを引抜く。
なおも白濁を吐き続けるそれは、彼女の尻を、尻尾を、肛門を汚し尽くす。
「熱いの、お尻、かかってる・・・汚されちゃってる・・・マーキングされちゃってる」
熱を感じ、不浄の穴がひくひくと動く。
怒張の形に広がった陰部が、栓を失い精を吐き出す。
「あ、ふれて・・・熱いの、溢れて・・・もったいない・・・」
口では言っているものの、彼女も精魂尽き果てたようで、その姿勢のまま動きはしなかった。
ベッドに大の字になり、荒い息を整えようとする。
投げ出した腕に、やっとの思いという感じで、ゆっくりと彼女が収まる。
「んふっ、ダーリン、いっぱ射精(で)たね」
「あぁ・・・こんなに射精(だ)したのは、生涯初めてかも知れない」
まだ余韻を垂れ流す愚息の先端に、彼女の指が伸びる。
粘度の高いそれをつまみ上げると、軽く弄びながら、口へ運ぶ。
「ちゅぅ・・・ん、濃くておいしい♡」
疲れた顔が笑顔に変わる。
「流石に、疲れた」
「そんなんじゃダメよダーリン、次はデきちゃうまでぶっ続けなんだから♡」
「ははは・・・それは龍騎兵としての力を使わざるを得ないな」
「そんなことで力を使っては、インキュバス化も時間の問題になってしまうぞ」
急に出て来た真面目な彼女に言い放つ。
「いいさ。君が隣にいてくれるだけで、私は満足だ。
それに、淫魔にでもならないと、君に満足して貰えそうにないしな」
「ふふっ、それでは『こっち』の私は、本当にお役御免になってしまうな」
「言っただろう。私は、どちらの君も大好きだ。
なんだったら、その『誇り』も、白く汚してしまいたい程に、な」
「困った主殿だな、全く」
唇を寄せ合う。
互いを確認するように。
「張り切りすぎた。少し、眠らせてもらうよ」
「あぁ、お休み、ダーリン」
まだ熱い彼女の身体を抱き寄せながら。
三つの心が離れないように抱きしめながら。
睡魔の誘うまま、意識を流した。
そこが、攻めるべき目標だった。
「あれがドラゴンの巣穴か」
最近現れたそれに街道を通る人々からの被害報告が後を断たず、国が討伐に乗り出したのだ。
派遣されてきたのは、王の側近の騎士団。
その実力は近隣諸国にも響き渡り、団長であるグライフは大陸一の腕前だとさえ言われている。
「よもや、本当にドラゴンの鱗を裂く機会が来ようとはな」
鱗裂きのグライフ。
それが異名だった。
鋼のようなドラゴンの鱗すら易々と切り裂く。
・・・という触れ込みだったが、あくまで比喩の話。本当にドラゴンを相手取ったことはなく、むしろ見るのも初めてだった。
「団長、巣穴への道を見つけました」
「よし、今行く」
巣穴の前の小さな足場を慎重に進み、入り口に立つ。
部下達は最悪の事態を想定し、待機させた。
足場が悪くあまり人数が入れないのもあるが。
ぐぉぉぉぉぉ・・・・
吐息、なのか?
未知の音に身構える。
手が震えるのが判る。
深呼吸。
戦士に必要なのは、いざというときに、必要以上に緊張しないことだ。
師匠からの教えであり、部下への教訓にもしている言葉を、改めて自分に飲ませる。
ぐぉぉ。
はたと、その音が止まる。
「今すぐに立ち去れ、人間。ここは我が城。ドラゴンの巣穴だ」
剣の柄に、手をかける。
洞穴の奥、入り口からの光が届かない闇から、ゆっくりとそれが現れる。
「お、女・・・?」
「ん?なんだ、我が姿を見るのは初めてか」
ドラゴンが自身の手を、身体を、ちらりと見て言った。
翼に尻尾、半身を鱗で覆われているのは確かにドラゴンと言えばドラゴンだったが。
どちらかといえば、女がそれらを身に纏っている印象の方が強い。
「魔王が代わり、魔力の性質が変わってしまったようでな。
おおかた、翼のある巨大なトカゲを想像していたのだろうが」
「姿はどうでもいい。人を襲うのをやめろ」
「人間風情が命令とはな。やはりこの姿は嘗められやすくて敵わん」
こちらの言うことを意にも介さない様子だ。
「もう一度言う。人を襲うのをやめろ。さもなければ、ここで斬って捨てる」
「ほざけ!」
咆哮。そして、口から漏れ出す炎。
それは大きくはなかったが、例え姿が変わっても、以前と同様、作り話から飛び出したかのような、強大な力があることを誇示していた。
「今ならまだ許してやろう。我が巣穴から出て行け」
「断る。私はこの国の平和を背負う者だ。その背を向けるわけにはいかん」
「ならば、その誇るべき背中以外を八つ裂きにしてくれよう!
果敢にも龍に挑んだ栄誉をくれてやる、死に絶えよ!」
「はぁぁぁぁあ!!」
がぁぁぁぁああ!!
二つの咆哮が、衝突した。
「表を上げよ」
城の玉座の間。
王と、その近衛兵が並ぶ広間。
その玉座の正面で跪き、顔を上げるグライフ。
「こたびの働き、大義であった」
「ありがたき幸せ」
「・・・のだが、なに、それ?」
急に崩れた緊張感と共に、王が指差す先。
「んダァァァリィィィン!!ね、新しい愛の巣はどこにするの?ここ?
あの邪魔なのブッ飛ばしてこのお城を巣にしちゃうの?」
グライフにすり寄るドラゴンだった。
王も、グライフも、近衛兵たちも、その場の全員が、妙な汗をかくのを感じた。
あの後、かろうじて勝ちはしたものの、その瞬間からこの様子だ。
「えぇと・・・一応、ドラゴンです」
「うん、報告と同じ、鱗を纏った女なのはわかるんだけど、その、威厳とか・・・
伝説の怪物らしさ、どこいっちゃったの?」
「どうやら、負けを認めた相手に懐く性質があるようで・・・」
「もうっ、ダーリン私の話を聞いてよ!・・・あ、ほっぺたに傷が。私の爪痕ね。
あのときはごめんね。今舐めてあげるから」
「いや、大丈夫、大丈夫だから・・・」
「と、とりあえず、これで街道の平和は守られたが・・・」
「申し訳ありません、流石に無抵抗の相手にトドメを刺すのは気が引けて・・・」
「ダーリンのためなら私なんでもするけど、死ぬのだけはご免よ!これから始まる二人のハッピーライフのために!」
「あ、うん・・・その・・・グライフ卿、長期休暇あげるから、それの処理、よろしく」
「え、あ、王様!王様!待ってください!王様!」
逃げるように玉座を後にする王。
「やったねダーリンお休みだって!さぁ二人で愛を語らいましょう!」
「誰か・・・助けて」
玉座の間にいた近衛兵全員が、グライフに同情した。
が、曲がりなりにも彼に侍るのはドラゴン。誰一人、手出しはできなかった。
城の一角、グライフに充てがわれた部屋。
そこにグライフとドラゴンはいた。
「ここが愛の巣ね!あぁ、ダーリンが暮らしてきた匂いがいっぱい!」
プレートメイルを脱ぐと、どっと疲れが押し寄せた。
正直、「これ」になるくらいなら、ドラゴンを3体同時に倒す方がまだ楽なのではなかろうか。
そんなことを考えていた。
「あぁん!ダーリンのムレた汗のにほひが!濡れるッ!」
「いやあの、お願いだからもう少し落ち着いてもらえないだろうか・・・」
「あ、そうよね。せっかく自分の巣にいるんだからゆっくりしたいわよね。
ごめんなさいね」
こちらに従順なのがせめてもの救いか。
そのとき、ドアがノックされ、使用人が入ってくる。
「失礼します。洗濯が終わりましたので、お着替えをお持ち・・・」
「無礼者!我が夫の巣に入り込むとは何事だ!今すぐ出て行かなければ、
我が炎にて消し炭にしてくれようぞ!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
使用人は、着替えを放り出し逃げ出した。
止める間もなかった。
「もう、本当に失礼な人ね。さ、ダーリン。邪魔者はいなくなったから
ゆっくり休んでね。あ、そっちの『ご休憩』も大歓迎よ♡」
「いやあの、あの人、私の身の回りの世話をしてくれてるだけなんだが・・・」
「あっ、ごめんなさい、奴隷か何かだったの。私てっきり、
ダーリンの強さに惚れ込んだ他のメスかと」
「あ、うん・・・」
ダメだ価値観がかなり違う。
とりあえず、使用人の彼女には後で謝らなければ。
そう思いながら、使用人が持ってきた洗濯物を拾いに行く。
「あ、ダーリンは座ってて。私がやるから。エサを取ってくるのも、
寝床を片付けるのも、身の回りのお世話はぜーんぶ私がしてあげる。
もちろん、『ソッチ』のお世話もね♡」
ドラゴンに連れ攫われるおとぎ話はいくつも聞いた事があるが。
ドラゴンを連れ帰った先で軟禁生活じみたことになる話は聞いた事がない。
下手すると、自分がその聞いた事がないおとぎ話の第一号として、永劫語り継がれてしまうのではないか。
最低限それだけは避けなければ。
「人間の服って面倒ね。まぁ毛皮も鱗もないんじゃ、しょうがないと思うけど。
あ、これどうすればいいの?」
「あぁ、そこの箪笥に入れておいてくれ」
「タンス?あぁ、この棚ね」
引き出しを引き。
くしゃり、と洗濯物を丸め込むと。
無理矢理に突っ込み。
バン!
力任せに閉じられた。
「これでいいのね!簡単簡単!」
彼女の手形に凹んだ箪笥を見ながら。
さらに疲れが増した気がした。
小鳥のさえずりを聞きながら、白々と明け始めた空を見る。
生活の基礎を教えるだけで一晩かかった。
「もう、人間の暮らしも不便ね。
でもダーリンと一緒に暮らすために頑張っちゃうから♡」
自分はこうもぐったりしてるのになんで彼女は元気なんだろう。
「少し疲れた。ちょっと休むから、朝食が来たら起こしてくれ」
「あん、ダメよダーリン。ベッドに入るときは一緒。
そのまま襲ってくれても構わないわよ♡」
言い返す気力も追い返す体力もなく、ドラゴンと一緒にベッドに入る。
そういえば、彼女の名前訊いてないな。
気にはなったが、それよりも疲れが勝っていた。
「ダーリン、鱗、痛くない?腕枕してあげようか?膝枕の方が好き?
なんだったら胸枕でも・・・」
大丈夫、大丈夫。
それだけ伝えて。
ろうそくの火を吹き消すように、意識を落とした。
「・・・んもう、ダーリンのいけず」
こんこん。
ノックの音で目を覚ますドラゴン。
「誰ぞ!我らが愛の巣に足を踏み入れんとする者は!!」
ひっ、という小さな悲鳴を聞く。
「お、お食事をお持ちしました!」
「入れ」
「し、失礼します」
おそるおそる、扉が開く。
昨日の使用人だった。
「おぬしか。昨日は脅してすまなかった。あの時の対応を夫に嗜められてしまったよ」
「ひぃ、だ、だいじょうぶです・・・」
「して、食事の方は?」
「あ、こ、こちらです」
トーストやゆで卵などが乗ったカートが、良い香りを連れて部屋に運ばれる。
「あの、グライフ様は・・・」
「まだ就寝中だ。後は妻である私がやっておこう」
「へ?あ、はい。それでは、失礼します・・・」
妻、という単語に違和感を覚えながら、部屋を後にする使用人。
ぱたり。
静かに扉が閉められた後。
「んダァァァリィィィン!お食事の時間よ!お・き・て!」
その声を扉越しに聞きながら、使用人の困惑がさらに広がる事になった。
まだ疲れを残す身体を引きずりながら、訓練場へと顔を出す。
もちろん、脇には引きはがすこともままならないくらいにべったりとひっつくドラゴン。
「ダーリン、せっかくお休み貰ったのに訓練?」
「すまない。昔からの習慣でね。どうも身体を動かす時間が無いと落ち着かないんだ」
「ううん、そんながんばりやさんのダーリン素敵♡もっともっと強いオスになってね♡」
強くなった結果がこれである。
もっと強くなるともっとこんなのが増えるのか、と想像すると、乾いた笑いしか出ない。
「グライフ団長!おはようございま・・・す・・・」
「あぁ、おはよう」
ドラゴンの存在を見て、消え入るような挨拶になる団員。
平和な日常に降って涌いた伝説の怪物。それに怯まない方がおかしいので当然ではあるが。
「あ、団員の人?ダーリンのお手伝いで私が鍛えてあげようか」
団員の顔から血の気が引いて、皆揃って青くなっている。
「はは、大型の集団演習でもやるときには力を貸してもらおうかな」
「はぁーい♡」
「じょ、冗談じゃ・・・」
「いい機会じゃないか。強力な魔物との演習なんてそうそうできないぞ」
さらに青くなる団員をからかいつつ、素振りを始める。
横で「フレーフレーダーリン♡がんばれがんばれダーリン♡」と応援するドラゴンに若干気が散りつつも、ノルマを終える。
日課を終えて、一日の始まりを身体が感じたか、多少だが疲れが薄らいだ気がした。
「ふぅ」
「お疲れさまダーリン。はい、タオル」
「あぁ、ありがとう」
「んぁあ!ダーリンの汗の匂い!汗の匂い!濃厚なオスのかほり!」
「・・・頼むから皆の前でその反応はやめてくれ」
「え?私たちのラブラブっぷりを見せつけちゃダメなの?」
「どちらかというとそっちではないが・・・いやまぁ、とりあえず公衆の面前では
落ち着いてくれると助かる」
軽く引き始めた団員たちを見ながら言う。
「ぶぅ。私の愛、まだまだ伝え足りないのに」
ぶーたれて膨らむ頬。
尖らした口の先から小さな火が出て、黒くくすぶる。
・・・あまり規制しすぎると、いつか爆発しそうだ。精神的にも、物理的にも。
そんなそら恐ろしい未来がちらりと脳裏をよぎった。
汗で濡れた下着を取り替え---そこでまた「アレ」があったが---ドラゴンを連れ、城の中を案内する。
すれ違う人全員から怯えの表情を向けられながら、城内の施設を説明していく。
まだ共に過していくらも経たないが、人を襲う魔物ではなくなったのは、確かなはずだ。
それでも、こうして恐怖の感情ばかり向けられる彼女を、少し哀れに思う。
「どうしたのダーリン。浮かない顔して」
「いや、君が怖がられるのが、なんか、かわいそうな気がして」
すぐ隣でその表情を一緒に受けていたから判る。
すぐ隣で視界を共有していたから判る。
恐怖。
それは拒絶。
全員からの、拒絶。
城内だからみんな知った顔だし、こちらの事情を知っている分、まだマシだろう。
これで街に出た時は・・・パニックになることは間違いない。
無害・・・というには自分に害が及びすぎてる気がするが。
それでも、恐怖で迎えられる存在ではなくなったはずだ。
「・・・構わん。我々は、温かな感情を向けられる存在ではない」
急に口調が変わったドラゴンに驚く。
「誇りのために、数多の破壊を振りまいてきた種族だ。当然だろう」
「しかし・・・」
「それに憐憫など感じてもらう必要はない。誇りの代償として、
この世に生を受けた瞬間から背負ってきたものだ。
それは我々の生きる糧として、存在している。存在理由として、存在している。
だから、周囲の怯えた視線など、誇りの象徴として甘受するだけで、
哀れみを向けられることではない。
・・・最も我の場合は、その矜持を、ぬしに砕かれてしまったがな」
自嘲気味な笑み。
魔物の頂点に立つ種族。
その誇りを。
砕いた。
人間が。
自分が。
「だから今は、強いオスになびいた、ただのメストカゲだよ。
それ以上でもそれ以下でもない。
淫魔の魔力で抑えがきかないのは我ながら情けなく思うが・・・
それでも、このメストカゲを気にかけてくれるなら、『そっちの私』も、
邪険にしないでもらえると有り難い」
最も強い魔物の見せた、弱い部分。
魔王が淫魔に代替わりし、魔物全体が淫魔化している。
それは聞いた事があるし、騎士としてそうなった魔物を追い払う仕事もしたことがある。
彼女もそうだとは思っていた。色欲に溺れ、暴走する魔物。
が。
残っていた誇り高い部分。
身を焼く欲を抑え、己が矜持を示すために出てきた部分。
肉欲を欲する自分もまた自分で。
それを受け入れて欲しいと。
「だからダーリン、早く子作りしよ♡」
受け入れる気分がざっと引いていくのが判った。
昼食を終え、一息吐く。
使用人が食器を片付ける音を聞きながら、膨れた腹をさする。
「ご苦労。あぁ、茶器はそのままにしておいてくれ。いい茶葉だな。気に入ったよ。
・・・ダーリン、お茶菓子貰う?わかったわ♡
・・・いや、茶請けはいい。レモンはあるか?あぁ、貰おう」
なかなか忙しい性格だな。
使用人に声をかけるドラゴンを見ながら、そう思った。
「人間の生活の勝手が判ってきたみたいで良かったよ」
「そりゃあ、ダーリンとのスィートライフのためだもの、がんばっちゃうわ♡」
「スィートがどう、というのはともかく・・・まぁ、この調子で、
城の人ともよろしくやってくれ」
「私としてはダーリン以外はどうでもいいんだけど、
ダーリンがそう言うならしょうがないか」
その後も、彼女は大きなトラブルを起こす事もなく---小さなトラブルが日常茶飯事なのはご愛嬌だったが---城の生活を続けた。
使用人たちは、敬意を持って接すれば、敬意ある対応が返ってくるということを理解してくれたようだし、
騎士団の面々も、殺されることはないと判ったか、果敢にも一対一を挑む者も現れ、
城に出入りする貴族たちも、元々優雅な立ち居振る舞いの彼女を、多少は奇異の目で見たが、受け入れたようだった。
使用人が力仕事で困っていると助け。
日々挑んでくる騎士団員を返り討ちにし。
貴族から着飾るよう勧められては困惑し。
グライフに情事をせがんでは曖昧な返事を返され。
そんなことが日常になってきた。
彼女がいるのが、当たり前になっていた。
そんな、ある日の夜だった。
「そういえば・・・」
「どうしたのダーリン?」
椅子代わりに腰を下ろしたベッドで、隣に座る彼女に訊いた。
「すっかり訊きそびれてしまっていたが、名前って、あるのか?」
実に今更すぎる質問だったが、彼女自身が「ドラゴンさん」などと呼ばれるのに異議を挟んでいなかったため、気にしていなかった。
「ダーリンが呼びたいように呼んで♡
メストカゲでも肉奴隷でも性欲処理装置でも何でもいいわ♡」
「いや、流石にそれは遠慮させてもらうが・・・」
「みんな困ってないみたいだし、いいじゃない」
「それはそう、なんだが」
「んもう、ダーリンが望めば、私の恥ずかしい部分まで全部見せちゃうわよ♡
全部アナタの好きにしていいんだから、名前なんてどうだっていいじゃないのよ」
「だが、君が持って生まれたものを知らないのも、なんというか・・・嫌、なんだ」
「えっ・・・」
「自分でもよくは判らないけど・・・もっと、君について、知りたい。そう思った。
こうして一緒に暮らしていて・・・楽しい。上手く言えないが、こう、元気になれる。
多少のトラブルはあったけど・・・ずっとこうしていられたらいいな、と思った。
だが、今更だが、君のことを・・・名前すらも、よく判っていないことに気付いた。
だから、知りたいと、思ったんだ」
一瞬、困ったような顔をするドラゴン。
そうだな、いい機会だし、話しておこう。
そうつぶやき、今までの笑顔を消し、真剣な表情を見せる。
「ぬしは・・・『真名』というのを、知っているか?」
初耳だ。
「『名前』とは、個を表す記号であると同時に、個を縛る意味もある。
『名前』により個を縛ることで個は形を成せる。逆を言ってしまえば、
『名前』には個を制御する、それだけの力があるものなのだ。
呪い、と感じたなら、大まかには合っている。本来、『名前』とはそういうものだ」
改めて、自分の名前を、心の中で反芻する。
「世にある多くはただの記号としてのものばかりだが、我々ドラゴンは
強大な力を扱うために、呪術としての名前を持つ。それが『真名』だ。
多くは真名の他に、記号として別の名前を持つが・・・
我はそういうのは性に合わなくてな。
真名は、呪いとしての側面が強い。だからこそ強い力を扱えるが、
逆に縛られる力も強くなる。なので、本来は、よほど信頼する相手にしか教えんのだ」
「そう、なのか・・・」
つまり、自分は信頼されていないということなのか。
そんな自分の表情を読んでか、ドラゴンが続ける。
「まぁ、ぬしに真名を教えるのは、我とてやぶさかではないし、
教えたいとすら思っている」
ちょっとだけ、頬を赤くしながら言った。
「話は変わるが、『龍騎兵(ドラグナー)』は知っているだろう?
龍を打ち負かし、その力を従える者だ。
今のぬしがそう思われているようだが・・・正確には違う。
あれは真名を相手に明かし、魔力を共有することで、
本来人間が到達出来ない強さを得るものなのだ」
魔力の共有、つまり。
「しかし、今は魔王の魔力が強く入ってしまっている。今その契約を結び、
力を行使すれば、淫魔の魔力がぬしに流れ込む・・・
インキュバスへと変わってしまうだろう。
多少であれば、我が制御できるのだが・・・日々少しずつ漏れるだろう
魔力までは抑えられん。だから、名を教えるわけにはいかんのだ。
まぁ、いいではないか。これで慣れてしまったし、
今更知らずとも困ることではあるまい?」
優しく、慈愛に満ちた顔をして、続けた。
「何もな、ぬしを好いているのは『あちらの私』だけではないよ。
『あちら』も『こちら』も、ただの『私』だ。
私は、ぬしを愛している。
だからこそ、そのままであって欲しいと思っているのだよ」
突然の告白に、「あちら」のドラゴンとはまた違う恥ずかしさがこみ上げ、思わずうつむく。
だが。
「確かに、そうではあるが・・・なんというか、上手く言い表せないが・・・
寂しい、気がする」
「寂しい・・・?」
不意の言葉に、きょとんとするドラゴン。
「縛る、と言えば確かにそうなんだろうけど、でも、それでは君はいつまで経っても
『ドラゴン』のままだ。大きなくくりの中の一つでしかない。
それは、なんだろう・・・群衆の一つ、みたいに言われている気がして・・・」
改めて、ドラゴンに向き合う。
「それを寂しいと思うこの気持ちは、たぶん、恋とか愛、なんだと思う。
私は、普段騒がしく、普段蠱惑的に誘ってきて、時折誇り高く、時折孤高な、
君が、認められていない気がしてしまうんだ。
君は群衆の一人ではない。私の知る君であってほしい。
その気持ちは、たぶん、恋とか愛・・・なんだと思う。
この歳で恋愛沙汰に疎く、そうだと言い切れないのは情けない限りだが」
きょとんとした表情のまま、顔を真っ赤にするドラゴン。
思考が停止しているようなドラゴンに、恥じる感情を極力抑え、言う。
「私から言うのは初めてかも知れんな・・・
君が、好きだ。ずっと、共にいてほしい」
さらに赤くなった顔をそむけるドラゴン。
それはただ身体を求めるときとも、矜持を語るときとも違う。
見た目相応の、乙女の仕草に見えた。
「な、何を突然言い出すかと思えば・・・」
「だから、知りたいと思った。名前のことも含め、君の全てを」
「・・・そうか」
ふぅ、と、自分を落ち着かせるためか、深呼吸をするドラゴン。
多少は赤みが取れた顔を向け、真顔で言った。
「今一度、聞かせて欲しい。先ほどの話を聞いてなお、我が名を求めるか?」
必要以上に緊張しないよう、落ち着いて、言った。
「あぁ」
「・・・そうか、ならば、明かそう」
すっと、こちらに顔を近づけるドラゴン。
耳元で、小さく、囁く。
「・・・それが、我が、真名だ」
それを、その名前を、反復した。
瞬間。
身体の中に、何かが流れ込む感覚。
蝕まれるような、作り変わるような。
力が、溢れる。
今なら、大国の軍勢すら一人で・・・いや、「二人」で押し返せる。
そんな気すらしてくる。
「契約が完了したようだな。これで、ぬしも龍騎兵だ。いや・・・
我が、最愛のパートナーだ。主殿」
「あ、あぁ」
そう答えるのが精一杯だった。
身体が、上気する。
心臓が、跳ねる。
彼女が、欲しい。
その感情が、高まる。
「・・・早速、魔力にやられているようだな」
「これ、が・・・」
「今はまだ力を行使していないからマシだ。今後はもっと酷いことになるだろう」
きっと、彼女は、これよりさらに強い衝動に駆られて暮らしていた。
それを、矜持だけで押さえ込んできた。
敵わないな。
その心にだけは。
「後悔、しているか?」
「いいや。気に入った。愛おしい人を愛おしいと、はっきり言える勇気を貰った気分だ」
「ふっ、馬鹿者が。熱に浮かされた頭で言われても嬉しくはないわ」
「万年熱に浮かされてるような行動をしてきた奴に言われたくないよ」
「はははっ、それもそうだ」
それはとても自然に。
自分でも気付かないくらい自然に。
彼女の唇を、奪っていた。
「好きだ。契約がどうこうでも、魔力がどうこうでもない。本心から言わせてもらう。
愛してる。私の側にいてほしい」
「ふっ、やっと墜ちおったか。誇り高き龍にあれほどのことをさせておいて今更とは。
これでも、顔や体型には自信があったんだぞ」
「こっちも抑えるのに必死だったよ」
「阿呆。それは我とて同じだ」
「もう、我慢の必要はないな、お互い」
「だな」
再度の口づけ。
少し、長く。
確かめるように。
「・・・さて、我もそろそろ限界だ。こうもされては劣情ばかりが昂ってしまう。
『誇り』は、必要な時まで眠っていてもらおう」
「私としては、『こっち』の方が気に入っているのだがな」
「ははは、欲望丸出しで唇を奪っておいてよく言う。
今の我には、これだけで充分だよ。主殿の心を奪えた。
それだけで、このちっぽけな誇りは満足だ。あとは『あっち』に任せるさ」
「散々焦らしてしまった分、返してやらないとな」
「そうしてやってくれ。・・・ふふっ、では、始めようか、『ダーリン』」
最後の言葉は、どちらの彼女だったのか。
どちらでもいいか。
どちらも、最愛の彼女には違いないのだから。
彼女がのしかかるように唇を求める。
押し倒されながら、それに応える。
熱い。
覆い被さり、押し付けられた豊満な胸も、絡んでくる脚も。
炎を吐く口も、舌先から奥まで、焼け付くように熱かった。
今、自分の舌がからんでいるのは、果たして炎か舌か。
今、自分が飲み込んでいるのは、果たして熱湯か唾液か。
今、自分が抱擁しているのは、溶岩かドラゴンか。
ちゅっ、ちゅっ、くちゅっ。
混濁する意識をさらに白く塗り替えるように、唾液の混ざる音と熱が自分を攻める。
ふーっ、ふっ、ふっ、ふーっ
二つの吐息が、混ざる。
彼女が、口を離す。
「さ、ダーリン。もっといいこと、しよ?」
くるり、と身体を反転させ、こちらに尻を向け、全体重で押さえ込むように重なる。
「んもう、何もしてないのにダーリンのダーリンがこんなになっちゃてる。
つっけんどんなダーリンをおっきくさせるのが楽しみだったのに」
「言っただろう、もう我慢しないって。本当は毎日こうなってたんだよ」
「ふふっ、それじゃ、我慢した分、いーっぱい射精(だ)してもらわなきゃ♡」
言うが早いか、既に張ったそれを取り出す。
「すんすん・・・あぁ、やっぱりいい匂い・・・」
極上の料理を前にしたような声を聞いた。
「あら、もう先っぽから・・・ホントに我慢の限界だったみたいね」
「そこに魔力まで喰らったんだ。仕方ないさ。
そういう君だって、何もしてないのに酷い有様になってるぞ」
尻尾を上げ、見せつけるように目の前に突き出された割れ目は既にしとどに濡れそぼり、
愛するものを今か今かと待ちわびているようにひくついていた。
「ご馳走を目の前にしてるんですもの、待て、なんてしないわよね、お互い」
「もちろんだ」
同時に、むしゃぶりついた。
先ほど舌で感じた灼熱を股間から感じる。
敏感なそこに伝わるそれは、火傷しそうな程に熱く、熱く、熱く。
こちらをさらに火照らすように、さらに高みへと誘うように。
ねっとりと絡み付いた。
眼前の秘部からも熱い、熱い、ひたすら熱い体液が迸っていた。
ただそれを飲んだ。舐った。求めた。貪った。しゃぶった。吸い付いた。
今までの分まで取り返そうとするように。
じゅぶ、じゅる、ぴちゃ、ちゅる、じゅく、ぺちゃ
ただのメストカゲと成り果てた魔物と。
ただのオスザルと成り果てた人間が。
淫猥な音を混ぜる。
ただの欲の塊と成り果てた二人が。
ただの獣と成り果てた二人が。
互いを求める。
己を満たすために。
んっ、じゅぶっ、んっ、んんっ、じゅるっ、んっ
どちらからか、声が漏れる。
互いに相手のものだと思いながら。
どちらとも、声を漏らす。
「んっ、か、は、あ、射精(で)る・・・んくぅ!」
ビクン。
怒張が跳ねる。
それまでの我慢を吐き出すように。
「ん、んんんっ、ん、ん!」
彼女が受け止める。
それまでの我慢を満たすように。
「ん、んんんんん!ば、あ、れ、ひぇる・・・れひぇる・・・」
放たれた愚息は、それでも足りないとばかりに彼女を汚す。
顔を。髪を。胸を。
こくん。
小さな、嚥下の音。
「ダーリンのせーし、いっぱい・・・あぁ、ダーリンのえっちな匂いがいっぱい・・・」
まだ上着を着ている胸元に、熱い液体が掛かる。
彼女の潮。
欲望の汚濁を感じ、果てた証拠。
「満足、した?」
「ぜんぜん。もっと。ちょうだい?ダーリン」
身体を起こし、向きを変え、愚息の真上に腰を下ろす。
それは今までに見たことがないほど妖艶で。
それは今までに見たことがないほど蕩けた顔。
「ちょうだい。ダーリンのお汁。ダーリンの匂い。ダーリンの愛」
声と一緒に、ねだるように動く腰。
柔らかな股の襞に埋もれた愚息をこすり上げる。
舐めるように。
下の口で、舐め上げるように。
「私も欲しい。君の熱が。君の刺激が。君の愛が」
応えるように、腰を突き上げてやる。
こすれ合う陰部が、くちゃくちゃと音を立てる。
「ダーリンのおちんちんがクリに当たってる・・・んっ、あ、ビクってしてる・・・♡
固くて・・・んっ、はち切れそうで・・・
ふぁぁっ、まだまだいっぱい射精(で)そう・・・」
「もちろんだ。君が疲れ果てて寝るまで、いっぱい射精(だ)してやる」
「あはっ、腕っ節じゃ負けちゃったけど、こっちは負ける気がしないわよ♡」
「こっちだって。龍に乗られた龍騎兵なんて格好が付かないからな。
尻を振りながら泣いて媚びるまで、汚い汁が子宮から溢れ出すまで、
歓喜の震えが止まらなくなるまで、快楽の頂点が判らなくなるまで。
君が愛で満たされるまで、続けてやる」
「んふふ、楽しみ♡」
少し腰を持ち上げる彼女。
愚息の先端を掴み。
自らの膣(なか)に、招き入れる。
大洪水を起こしているそこに、飲み込まれる。
熱が、襞のうねりが。
先端から。
「あ、は、あぁ」
幹を通り。
「あ、あああぁぁぁあ!」
根元まで。
「んあ、あぁあぁ、ダーリン!ダーリン!ダーリン!
繋がったよ!ダーリンと繋がれたよ!嬉しい!嬉しい!」
思考を放棄した、ただ感情だけを伝える言葉。
己の嬉しさを伝えるように、艶かしく揺らされる腰。
鈴口にこする、少し固い感触。
彼女自身が、それを確かめるように。
ここを狙えと誘うように。
子宮口が、こすられる。
「お、奥っ、一番、深いところっ、こりこりって、ダーリンのが、気持ちいいっ!」
味わうように、ゆったりと。
それが続けられる。
「いいっ、奥、当たって、んっ!もっと!もっと!」
「こう・・・か!」
不意に、突き上げる。
「ひゃん!」
突き上げる。
「ひゃっ!」
突き上げる。
「あぁああ!」
ゆっくりとしたそれとは違う、力強いピストン。
突き上げる度に上がる、彼女の嬌声。
彼女の奥に当たるように。
彼女の奥まで届くように。
力一杯、突き上げる。
「やっ、ダーリン、はげしっ、すぎぃ・・・」
「まだまだ、だよ」
上体を起こし、彼女の胸を揉みしだく。
腰を小刻みに揺らしながら、それに合わせ揺れる胸を、手で蹂躙する。
鱗の固さの奥にある、柔らなそれを潰すかのように。
「やっ、はっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
腰の動きに合わせ、小刻みな声が聞こえる。
「あっ、あっ、キス、ダーリン、キス、して、ダーリン、ほしいの」
先ほどの白濁液を付けた顔のまま、おねだりをされた。
自分でも気付かなかった下卑た感情、支配欲が、むくむくと膨らむ。
「もっと、丁寧にお願いしないと、あげないよ」
「いじ、わるぅ・・・」
はぁはぁと息を切らせながら、言った。
「おねがい、します、あわれな、メス、トカゲに、愛を、ください」
「合格」
腰の動きをゆるめ、唇に吸い付く。
待っていたとばかりに、彼女の舌が入り込む。
んじゅ、ちゅる、くちゅる
興奮により粘度を増した体液が、絡む。
灼熱した彼女の唾液を貪り。
灼熱した自身の唾液を渡す。
ねばり、絡み、混ざり、飲み込み。
それが口の端から垂れているのも気にせず。
求め合う。
満足したのか、彼女が離れる。
つう、と、舌と舌を、糸が結ぶ。
ただ呆然と、息を荒げる彼女。
「攻守交代だ」
四つん這いになるように、彼女に促す。
熱にぼーっとした顔で、素直に従う彼女。
「もう一度おねだりしてごらん」
「はぁ、はぁ、くだ、さい。メストカゲに、おちんちん、ください。
えっちなお汁、いっぱい、ください。
孕むまで、いっぱい、汚して、ください」
尻尾を持ち上げ、ひくつく秘部を晒し尻を振る。
その姿は、ただの雌だった。
それに気を良くしたただの雄は。
「よくできました」
そう言って、愛液で濡れた穴に、愛液まみれの肉棒を突き入れた。
「はぁあぁあぁぁ!!」
衝撃に、彼女の尻尾がぴんと伸びる。
それを脇に避けながら、彼女に覆い被さる。
野性が知る、征服の証。
野性が持つ、屈服の証。
マウントポジションで胸を揉みしだきながら、突きを再開する。
「あっ、あっ、ダーリン、ダーリン、ダーリン♡」
雌の叫びが、脳髄へと響く。
「ダーリンに、支配、されてる!ダーリンに、犯されてる!
ダーリンに、いっぱいに、されてる!ダーリンのものになってる!」
「嬉しいよ。強く美しい獣を侍らせることができて」
「私も!嬉しい!嬉しい!嬉しい!
ダーリンの側にいられるのが!ダーリンのものになれるのが!」
覇者の面影は既に無く。
愛しい雄に支配される悦びと。
愛しい男に付き従える誇り。
それだけを持った、美しい獣と化していた。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
汗と愛液でずぶ濡れになった肉が打ち付けられ、音を立てる。
一層深く、一層早く、一層求めるように、一層高みへと。
本能が、そうさせる。
「あっ、あっ、ダーリン!もっと、もっと!奥まで!
突き、破る、くらい、奥に、ちょうだい!」
言われずとも、そうしていた。
そうしたいから、そうしていた。
彼女の全てを支配するために。
彼女の全てを味わうために。
彼女の全てを自分で満たすために。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「ダーリンの、おっきいのが!きてるっ!んぁあっ!いっぱい、いっぱい暴れてる!」
きゅう、と、掴んでいた乳房を握りつぶす。
自分のものだ、と言わんばかりに。
「ひゃぁあぁあぁぁあ!おっぱい、痛い!痛い、けど、気持ち、いい!」
うなじを舐め上げ。
「あぁあぁぁあ!」
吸い付く。強く。
「は、あ、んあ、あぁああ!」
自分からもたらされる刺激全てを、快楽とするように。
一挙手一投足に、嬌声が上がる。
吸われ、赤く内出血したうなじに、さらに支配欲を満たされる。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「あぁあ、やだ、まだ、イクの、やだ、もっと、ダーリンと、つながって、いたい!」
膣が、締まる。
大好きな肉棒をさらに感じようとするように。
襞が、絡む。
愛しい男性を逃がすまいとするように。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「私も、もう、そろそろ、限界、だ。
一緒に、イこう」
「うんっ!イクっ、一緒に、イクっ!あっ、はっ、ああっ!」
ぱんっぱんっぱんっぱんっぱんっぱんっ!
ペースを早める。
自らが果てるために。
相手を果てさせるために。
己の欲を解き放つために。
相手の欲を満たすために。
「あっ、あっ、あっ、イク、イク、イク、イクっ!あっ!あぁぁああぁああ!!」
「あぁあぁあああっ、か、くっ!」
ビクン。
怒張が鼓動する。
それを押さえつけるように、肉壷が収縮する。
どくん。
睾丸から熱が迫り上がる。
どくん。
熱の塊が、尿道を通る。
どくん。
先端から、その先へ。
どくん。
種を待つ、彼女の膣(なか)へ。
「あ、つい、ダーリンの、熱いのが、いっぱい・・・」
尚、きゅうきゅうと締め付ける膣に、さらなる射精感を覚える。
どくん。どくん。どくん。
「まだ射精(で)てる・・・まだ射精(だ)されちゃってる・・・
お腹、いっぱいにされちゃってる・・・」
どくん。どくん。どくん。
身体が、激しい運動の疲れを訴えている。
それに反して、愚息はまだ足りないと言っている。
彼女を汚しきらないと満足しないと言っている。
「ぅあ、くっ!」
彼女からそれを引抜く。
なおも白濁を吐き続けるそれは、彼女の尻を、尻尾を、肛門を汚し尽くす。
「熱いの、お尻、かかってる・・・汚されちゃってる・・・マーキングされちゃってる」
熱を感じ、不浄の穴がひくひくと動く。
怒張の形に広がった陰部が、栓を失い精を吐き出す。
「あ、ふれて・・・熱いの、溢れて・・・もったいない・・・」
口では言っているものの、彼女も精魂尽き果てたようで、その姿勢のまま動きはしなかった。
ベッドに大の字になり、荒い息を整えようとする。
投げ出した腕に、やっとの思いという感じで、ゆっくりと彼女が収まる。
「んふっ、ダーリン、いっぱ射精(で)たね」
「あぁ・・・こんなに射精(だ)したのは、生涯初めてかも知れない」
まだ余韻を垂れ流す愚息の先端に、彼女の指が伸びる。
粘度の高いそれをつまみ上げると、軽く弄びながら、口へ運ぶ。
「ちゅぅ・・・ん、濃くておいしい♡」
疲れた顔が笑顔に変わる。
「流石に、疲れた」
「そんなんじゃダメよダーリン、次はデきちゃうまでぶっ続けなんだから♡」
「ははは・・・それは龍騎兵としての力を使わざるを得ないな」
「そんなことで力を使っては、インキュバス化も時間の問題になってしまうぞ」
急に出て来た真面目な彼女に言い放つ。
「いいさ。君が隣にいてくれるだけで、私は満足だ。
それに、淫魔にでもならないと、君に満足して貰えそうにないしな」
「ふふっ、それでは『こっち』の私は、本当にお役御免になってしまうな」
「言っただろう。私は、どちらの君も大好きだ。
なんだったら、その『誇り』も、白く汚してしまいたい程に、な」
「困った主殿だな、全く」
唇を寄せ合う。
互いを確認するように。
「張り切りすぎた。少し、眠らせてもらうよ」
「あぁ、お休み、ダーリン」
まだ熱い彼女の身体を抱き寄せながら。
三つの心が離れないように抱きしめながら。
睡魔の誘うまま、意識を流した。
15/07/01 05:53更新 / cover-d