青白く幻想的な夜に
いつの頃からだったかわからない、それくらい昔から。
人間と魔族が対立していた。
魔族。
俺も、かなり昔―――ガキの頃、襲われたことがある。
親父もお袋も妹も肉塊に成り果てて。
かろうじて暖炉の中に隠れていた俺は見た。
異形の怪物。
畏敬の怪物。
人の及ばぬ力を持って、以て。
侵攻するもの。
領地を巡り、争う。
軍勢を率いるトップがいて。
それに続く兵がいて。
魔の力と鉄の塊が衝突し。
体液が舞う。
空を翔る翼を矢が引き裂き。
断末魔。
戦場に転がる。
骸。
ただ物言わぬ、骸。
「なんだ、姿が違ったって、やってることは人間と変わらないじゃん」
そんなことを思っていた。
想っていた。
「やってることが変わらないなら、解り合うことだって、できるんじゃないか」
と。
恐怖という感情がないわけではない。
でも、それ以上に。
俺みたいな寂しい奴を増やさない方が、大切なんじゃないかと。
幼心に、思っていた。
今から思えば能天気な考え方だと思うけど。
今でもそれを引きずっているんだから、笑うに笑えない。
それは唐突に訪れた。
人もトップが変われば変わるように。
魔族の変化もまた、トップの交代だった。
人と魔族は一つに統合されるべきである。
そう方針変えしたのは、つい数年前。
教団の人間ならば、鼻で笑うところだろう。
しかし俺は。
教団には、上っ面だけ「そういう顔」してる俺は。
あぁ、やっぱり。
そう想った。
思った。
無駄に争うのは嫌なんだ。
あいつらも―――
そんなヒネた性格の俺に、わけのわからない出会いが訪れる。
二十歳の、まだ肌寒い春だった。
いつも通り、街の小さな食堂での仕事を終えた俺は、街から少し離れた我が家へと、家路を、特に何を考えるでもなく歩いていた。
もちろん夕飯時はとっくに過ぎて、徐々に街の灯も消えかけてきている時間。
空には満月が出ていて。
ランプは持っていたが、点けるのは、はばかられた。
青白く、神秘的に。
薄暗い道を照らすのは、それだけ。
それだけだった。
こういう風景も、嫌いじゃない。
家族が殺された夜のように、青白い、神秘的な夜も。
あの日のことを考えていたから。
だからこそ、気付くのが遅れた。
青白い夜に、青白く、神秘的に。
ひと際輝く、その影に。
「・・・・!!」
声にならない声を上げる。
それはどう見ても透けていて。
それはどう見ても脚が無く。
それはどう見ても浮いていて。
それはどう見ても・・・「ゴースト」だったからだ。
若くして亡くなったのだろうか。あどけなさの残る顔立ちで。
焦点の定まらない目で、月を仰ぐ。
その姿は月と同じくらい、果敢(はか)なく見え、
破瓜なく散った、純潔な美しさを湛えていた。
見入っていたのか、恐れていたのか、自分でもわからない。
木々に覆われた街道の途中。
ぽっかりと平原になっている広場で。
それは漂っていた。
脚は棒のように言う事を聞かず。
ただただ、向こうがこちらに気付くまで、そのままの姿勢を取ることしかできなかった。
気付いたそれは、ゆらり、と、こちらを見ると。
すっと近づいてきて。
一瞬、躊躇い。
口元を動かす。
何を言ったのか、聞こえなかった。
そして俺の身体をすり抜け。
自分の記憶かと疑うほど、鮮明に、脳内に映る。
焼け落ちる家。
家の外へと向かう視線。
扉を開けたその先で。
魔物。
旧体制時代の、異形の怪物。
見ただけで、抗うことを選択肢から外させる、爪。
薄暗い月明かりに照らされ、閃き。
それが、野太い腕から振り下ろされ。
そこで、道に倒れている自分に気付く。
起き上がろうにも、上手く力が入らない。
そしてそれ以上に気になる謎。
あのゴーストは、なぜ、ただ月を観ていたのだろうか。
その後のあれは一体何だったのか。
いまだ心の内に残る、むず痒さ。
そして鼻の奥に来る、むず痒さ。
「ふえっくし!」
得心はいかなかったが、一つだけ言える。
・・・こりゃ風邪引いたな。
翌日朝。
這うように家に辿り着いたまではいいが、見事に大風邪を引いた俺は、仕事場である食堂に顔を出し。
「まぁ、体調悪くなるときだってあるさ。だからさっさと帰って休め。一週間くらい休め。そしてこっち来るな。厨房でクシャミするな鼻水垂らすな風邪うつすな」
と許しを頂き、こうしてベッドで横になっている。
昨晩の出来事が脳裏に過る。
ゴースト。
俺だって、魔物の跋扈する世界でこれまで生きてきたのだ。
新体制の魔物にだって会ったことはある。
揃いも揃って蠱惑的で、前と違い、襲われる、の後ろに(性的な意味で)と付けなければいけないような奴らだ。
一応普通の生活を続けたいので逃げ回ってはいるが。
しかし、あのゴーストはどうしたことだろう。
力が出なかったあたり、多少の精は奪われたようだが――恐らく、昔から、の方法で――固執されるようなこともなく。
目を瞑る。
今はうすぼんやりとしか思い出せないが、あの光景。
爪。そして月。
振り下ろされたところで途切れ、虚無。
そこで思い至る。
あぁ、あれは、彼女の最期に見た光景なのだろう、と。
満月で思い出してしまったのだろう、と。
俺と、同じなのだろう、と。
俺と、運の差でしかなかったのだろう。
魔物に襲われ・・・生きているか、否か。
そっと目を開けると、
白昼堂々、ゴーストが目の前にいた。
当たり前だが驚いた。
驚いて、起き上がろうとした・・・んだと思う。
とっさのことで、どう動こうとしていたのかすらわからない。
しかしそれで「起き上がる」という結果は出ず、そこで気付く。
身体が動かない。
ただただ、目の前の少女の顔を凝視することしかできない。
どこか物悲しげな表情のゴースト。
すべての感覚は目の前の少女を観察することに向けられる。
いや、意図的に向けられた、と言うべきか。
何をされるのか、わからない。
わからない。わからない。
未来の選択肢が見えない。
ない。
すると、少女は顔を近付け。
額が触れたと思われる瞬間。
突如、巻き起こる恐怖の感情。
汗が、呼吸が、心臓が、警鐘を鳴らす。
命の危機。
数秒あるかないか。その間だけ。
それはすぐに過ぎ去り、また、観察に専念しようとする自分に戻る。
彼女は顔を離していた。といっても、超至近距離にいるのは変わらずだったが。
わからない。
先程とは、違う恐怖。
飛び抜けた未知に相対した、恐怖。
しかしそれを感じたのもつかの間。
彼女がまた顔を近づける。
今度は安心してしまう。
そしてその安心も、彼女が顔を離すとすぐに去り。
困惑。
自分はどうなってしまったのか。
恐怖が加速する。
再度の顔の接近。
また安心。
今度は、少し、長い。
その安堵の中で気付く。
これは俺の感情ではない。
彼女の感情だ。
ゴーストは物理に干渉できない、と聞いた事がある。
それは空気に関しても言えるのだろう。
つまり、空気の波である音、声も出せない。
彼女達の伝達手段こそ、「自分の感情を直接相手に送り込む」ということなのだろう。
彼女の安堵を受けながら。
それが自分の安堵になって行くのを感じた。
嬉しい。
理解して貰えたことに対してたろうか。
そういう気持ちがわき上がる。
そして申し訳ない気持ち。
どういうことだろう。
こうして風邪引いて寝込んでることに対してだろうか。
嬉しさ。そして後ろめたさ。
どうやら、正解のようだ。
そして謝罪の念。
いつしか俺は恐怖を忘れ、
安息の中、目を閉じていた。
感情が、混ざる。
穏やかな彼女の心と。
それを感じた、自分の心。
心地いい。
俺が敵意を放っていないのを察してか、返ってくる感情も、ゆっくりと、穏やかで。
そして、戸惑い。
・・・・戸惑い?
不意に向けられた感情に疑問を持ち身体を起こす。
しかしそこには既にゴーストの姿は無く。
「身体を起こす」という行動ができたと気付くまで、たっぷり5分を要した。
体調が悪い上に不思議な体験をしたというのに、その日の寝付きはとてもよかった。
まるで何かに引き込まれるように。
すとん、と眠りに落ちた。
そして起きた。
朝まで何も無かった。
だったらどんなに良かったか。
見知らぬ部屋に居た。
少し大きめで、やわらかく、かわいらしいフリルのついた掛け布団のベッドと。
白く、花柄の模様が美しい箪笥。
小物棚にはぬいぐるみが置いてある。
ベッドが大きいせいもあってか、やや手狭な感じではあるが、それも年頃の少女の部屋と考えれば納得できる。
一番納得がいかないのは。
何故俺はこんなところで寝ていたのだろう。
その一点である。
いや三点。
なぜ全裸なのか。
そして腹部から下半身にかけて伝わる人肌の温度と重さは何なのか。
恐る恐る、布団を持ち上げる。
そして戻す。
何もいなかったと信じたい。
例えばふわりとした柔らかく艶のある髪とかぺたりと吸い付くような張りのある肌とか密着しているのに僅かにしか感じとれない胸とか少しずつだがくびれの出てきた腰回りとか完全に乗っかっているのに重くない体重とかそんないろんなところの法律に引っかかりそうな発展途中な全裸の少女などいなかったと信じたい。
と、云うより認識したくない。
状況は確実に犯罪者のソレだ。
弁明の余地があるとすれば、相手がしっかりと腰に手を回し、俺を離すまいとしていることくらい。
身動きが取れない。
あの時とは別の意味合いで。
「夢なの」
声が聞こえた。
もぞもぞと、布団から彼女の頭が出る。
「これは、夢。お話できるのも、こうやって触れるのも・・・あったかい、って感じられるの、も」
澄んだ声。
「だから、悪い夢にはしたくないの。私の、ぜんぶ。ホントの私は、今、ここにしか居られないから」
ゴースト。
今さらながら気付いた。
「だから、向こうの私も嫌いにならないで欲しいの。あのね・・・」
消え入るような声。
心無しか、彼女の体温が上がった気がする。
「あのね、だから、嫌いにならないでほしいから、その・・・きもちい・・こと、して・・あ・・・」
聞こえるか聞こえないか。
唐突に、腰に回されていた手が解かれ。
彼女が布団に潜り込み。
「もの」に、熱く、滑る感触。
「ぬぁっ!?」
驚き、声を上げる。
舐められている。
布団を被っていて直接は見えないが。
見えないからこそ感じる。
清楚な少女が、澄んだ声を発する口が、清らかなはずの舌が。
汚れた男性自身を、舐(ねぶ)る感触を。
「ぉ、おい、やめろって・・・」
言うが、自分の声が弱いことに気付く。
少女の奉仕。背徳。
それに興奮を覚える自分。
いきり勃つ。
「ぁ・・・ふぁ・・・」
怒張したそれを見てか、少女は驚いたようだった。
熱く濡れた感触が離れる。
少し時間を置き、細いものが数本、まとわりつく感覚。
指。
汚れを知らないだろう、細く、しなやかな、指。
小さく、確かめるように、上下に動いた後。
再開される、奉仕。
小さく、遠く。自分とは関係ない場所で行われているように聞こえる、湿った音。
そしてその合間、聞こえ、男根にも触れる息づかい。
次第に熱く、早く。
これまでにない、興奮。
ただただ、驚くしかなかった。自分に、少女に。
「ぁ・・・はふ・・・ん・・・んふっ・・・ふん・・・・」
舌先がくすぐったい。
それが離され、
「ん、んん、ふむぅ・・・」
全体を、湿った感触が覆う。
「や、やめ、そこまで・・・」
「きらい?」
唐突。
布団の中からの声。
訊かれ。
「きもちいいの、きらい・・・?」
「それは・・・」
好きだ。
答えられるはずがない。
このまま、最後まで。
応えられるはずがない。
少女にそんなことさせるのか?
堪えられるはずがない。
「いいの」
少女が言う。
「いいの、何も、気にしなくて・・・夢だから、お願い」
何も言えなくなる。
不器用だが、男性を悦ばせる、最高の手段。
嫌われたくない。
人ならざる身になってしまった少女の、決死の努力。
ただ、少女の頭を撫でてやることしか、できなかった。
「ぁ・・・」
俺の愛撫をひとしきり堪能して。
再開される奉仕。
「ん・・・んふっ、んふぅ・・・ふっ」
ゆっくりと、先程よりも熱く、飲み込まれる。
引き抜かれるようにしごき上げられ。
さらに奥までくわえ込まれ。
吸い上げられるように引き抜かれ。
水音。
それがいつしか、違う場所から聞こえるのに気付いた。
自愛。
年端もいかぬ少女の、自慰。
俺を悦ばせながら、自らも達しようとしているのだ。
本人すら気付いていないだろう、魔物としての本性。
それでも、奉仕が止む気配はない。
どころか、加速。
奉仕が早まる。
息づかいが荒くなる。
例えようもない快楽が襲う。
滑り、湿り、唾液に塗れた、肉棒と口が擦れる水音。
滴り、浸り、溢れる愛液が奏でる、幼い肉壷の水音。
滾り、逸り、気付かぬうちに重なり、漏れ出る吐息。
「ぅあ・・・離せ、もう・・・」
耐えられない。
それでも止まない。
「くぁ・・・射精(で)る・・・!」
「ん・・・んんっ!ぷふぁあぁ!」
絶頂。
同時に。
脱力。
「はぁ、はぁ・・・あ!」
慌てて、布団を剥がす。
額に汗を浮かべ、ぐったりする少女。
「お、おい・・・」
抱きかかえる。
綺麗な顔や髪は、俺が放った欲望に白く汚れていた。
「ぁ・・・」
力なく声を発する。
口の端から、白濁した汚液が滴っている。
中に出たのに驚き、離したら顔にも掛かった、というところか。
「ぁ、えへへ・・・」
力なく笑い、
「ん」
口の中に残ったものを嚥下し、
「苦い、ね・・・でも、おいしい」
そう言った。
「無理しなくて良かったんだぞ」
「ううん、平気。夢、だもん」
夢でも駄目だろう。
「いいの。もう、私、人間じゃないもん、ね・・・」
悲しそうに言う。
「生きてた頃はね、コーヒーとか飲めなかった。でもね、さっきは、おいしい、って感じたの。
魔物はね、精を好きになるようになってるんだって。私、そうなっちゃったみたい」
「みたい、って・・・」
「うん、こういうことするの、初めて」
「初めて、って・・・今までは?」
「昔みたいなやりかた。取り憑いて、少し分けてもらうの」
月夜のあれだ。
「ごめんね、月で思い出しちゃったこと、取り憑いた時に、見せちゃったみたい」
そんなことはいい。
今まで独りで抱えてきたのか。
あれを。
あの恐怖を。
襲われる恐怖だけなら理解できた。
その後だ。
死に至るまでの痛み。
自身が消えて行く恐怖。
それも抱えてきたのだろう。
そこは、そこだけは理解できない。
俺は、死んだことがないから。
「今日は、お詫び。もう、迷惑、かけないね。ごめんね」
「馬鹿野郎」
独りで重いもの背負っておいて、まだそんなことを言うのか。
「馬鹿野郎」
放っておけるか。
「馬鹿野郎・・・精が無ければ、また、人に取り憑くしかないんだろ?」
「うん・・・でも、もういいの。これからは、おなかすいても、我慢するから」
「馬鹿野郎。それじゃお前、消えちまうだろう」
「・・・・大丈夫、だよ」
そんな、大丈夫なわけ、
「大丈夫なわけ、あるかよ・・・」
「うん、でも、もう・・・行くね」
「待て、まだ・・・」
「言いたり、な・・・」
少女の身体を抱こうとし、虚空を掴む。
気付くとベッドの上だった。
少女趣味な部屋のではなく。
殺風景な、男やもめの部屋の。
「あ・・・ゆ、夢・・・」
夢。
彼女が言った通り。
夢。
しかしそれは、夢や妄想で片付けるにはあまりに現実的過ぎて。
「・・・」
思わずパンツを見る。
大丈夫そうだった。
昨日に比べれば、驚くほどに、体調は回復していた。
完全に、とはまではいかなかったが、多少だるい、程度にはなっていた。
一応、まだ本調子ではない身体を気遣い二度寝をし。
何をするでもなくごろごろとし。
窓を刺す西日に、そんな時間かと思っていたら。
夜。
家を出て、伸びをする。
夜にする行動じゃないな、と思いながら。
月明かりの下、鈍った身体をほぐすように、散歩をした。
一昨日ほどではなかったが、まだ薄く明かりを降らせる月。
青白い明かりに誘われるように。
青白い世界に浮かび上がる道を歩く。
彼女は、どこへ行ってしまったのだろう。
それだけを、考えていた。
逃げる記憶。
引き裂かれる記憶。
薄らいでいく意識の記憶。
命を落としたのは彼女で。
俺ではない。
でも。
それでも。
気になった。
悲劇を許せなかったからか。
違う。
ただ、悲しいと思ったからだ。
終わったことに、いつまでも縛り付けられるのが、悲しいと思ったからだ。
誰が助けてくれるわけでもなく。
誰が手を差し伸べてくれるわけでもなく。
誰が気に掛けてくれるわけでもなく。
誰が救ってくれるわけでもなく。
誰が力添えをしてくれるわけでもなく。
誰が解放してくれるわけでもない。
ただ、独りで。
尽きた命を思い出しながら。
尽きぬ時間を過しているのだ。
ただの哀れみかもしれないし。
ただの同情かもしれないし。
ただの情けかもしれないし。
ただの憐憫かもしれない。
それでも。
胸にある悲しいという気持ちは、俺のもので。
せめて俺だけでも、それを分かち合ってやれたらと。
その衝動だけは、本物だった。
ふと見上げた月は青白い光を放ち。
見下ろした先、街道の脇に漂う、彼女を映し出した。
「――――っ!」
脚が動くのは、早かった。
それが条件反射であるように。
彼女へと走る。
自分でも理解できない。
ただ、半透明の彼女が。
どこかに、行ってしまいそうで。
手の届かないところに、逝ってしまいそうで。
こちらに気付き、逃げ出そうとする彼女に。
手を伸ばし。
触れ。
すり抜けた。
黒い柱が、何本も建っている。
それが焼け落ちた家の名残であり、それが集落であると気付くまで、しばらくかかった。
それほどまでに、跡形もなくなっていた。
そのうちの一つの側に。
小さな人形(ひとがた)。
腐敗が始まり、変色しはじめた、小さな躯。
あの夜の、続き。
ゆっくりと、空が変わり始める。
夜から、朝へと。
晴れから、雨へと。
それは次第に加速し。
めまぐるしく入れ替わり始める。
柱は朽ち、倒れ。
踏み固められたはずの人家の周りに草が生え揃い。
いつの間にか、少女の身体は分解され、消えていた。
草は生い茂り、枯れを繰り返し。
木々は萌え、散りを繰り返し。
街道は人々の残像だけを映し続け。
何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も。
平原はゆるやかに森に浸食され。
木々は穏やかに枝の形を変えたかと思えば、突然倒れ朽ち。
人々の影を乗せた街道は、じわりじわりと削れてゆく。
何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も。
いつしかその流れはゆるやかになり。
ある夜。
「俺」が、現れる。
気がつくと、倒れていた。
どうやら、彼女の身体を掴もうとして、勢いを出しすぎたらしい。
何故か視界がぼやける。
「涙・・・?」
泣いていた。
当たり前だ。
彼女が体験した時間は、きっと、長い。
永い。
それはきっと、途方もない時間で。
その中できっと、独りで過していた。
今だ流れそうになる涙を拭くと、彼女が、心配そうにこちらを見ていた。
街道の草むらに座り直し、彼女に手を差し伸べる。
それに、自らの手を重ねる少女。
小さな不安が、伝わる。
でも、温かい、不安。
心配。
感謝を返してやる。
安堵が返ってくる。
埒があかんな、この会話。
そう思ったので、自分の家を思い浮かべる。
来い。
そう言うつもりで。
戸惑いの感情が、手を伝う。
怒ってない。
平静を伝え。
彼女が頷くのを見て、手を離す。
家に着くなり、ベッドに寝転がる。
何をしたいか察したように、彼女は俺の上を飛んだ。
見ていると次第に眠気が来て。
散々ごろごろしていた割に、寝付くのは早かった。
起きる・・・いや、「起きたつもり」でいると、見慣れた部屋だった。
少女の部屋ではない。
「あの、これで、よかった?」
澄んだ、しかし、どこか舌足らずな声が聞こえる。
彼女は、ベッドの側の椅子に座っていた。
「あぁ、問題ない」
「あの、ご、ごめんなさい」
健気な彼女は、俺に不快なものを見せてしまったと思っているようだ。
「大丈夫、俺の方こそ、女の子の秘密見ちゃったみたいで、ごめん」
「う、ううん。平気」
「あそこは・・・」
「おうち。おうちのあった、村。でも、なくなっちゃった」
なぜ街道のあそこだけ、森になってないかと疑問ではあった。
切り拓いていたからだ。
村を造るために。
毎日仕事で使っているのに、気付かなかった。
「あの、ね、ごめんね、さっき、『見え』ちゃったんだけど」
少女が訊く。
「あなたも、魔物に・・・」
「・・・あぁ」
そう。同じ。
共に、魔物に襲われた者同士。
「じゃあ、私と、一緒なんだ・・・」
曇る、顔。
「一緒じゃ・・・ない」
「えっ」
「俺は、生きている」
決定的な違い。
「君は、命を落とした」
決定的な差。
それは、とても、遠い距離。
触れようとしても、届かないほどに。
見ようとしても、霞むほどに。
聞こうとしても、静寂しか感じられないほどに。
「同じじゃ、ない。幸せと、不幸ほど、大きな差だ」
えへへ、と力なく笑う彼女。
「大丈夫だよ。こうやってお話できてるし、ちゃんと、触れるよ。あったかい手、感じられるよ」
彼女の手が、俺の手に重なる。
「夢の中で・・・だろ」
夢の中なら。
いや。
夢でも見ないと、それは叶えられない。
なんでも叶う世界でなければ、それすらも、ままならない。
そんな距離。
生と、死の距離。
「ずっと、一人・・・だったんだろう?」
「・・・うん。なぜか、私だけ、こうなっちゃった」
「あの場所に、未練があって・・・」
「うん。もっと、いっぱい、いろいろ・・・したかったな」
要領を得ない。
当たり前だ。それは、短絡的なものへの執着ではなく。
「もっと、いっぱい・・・生きたかったな」
そのとき失ったもの。
そのとき閉ざされた、未来への執着。
「生」という、可能性への執着。
死してなお、大丈夫と言った、彼女の、本音。
「お父さんとか、お母さんとか、お隣のシンシアちゃんとか、パン屋のおじさんとか」
そのとき失ったもの。
「みんなと、もっと、一緒に、いたかったな」
多すぎる。
その小さな身体に、それら全てを押し込めて。
その小さな身体で、今までの時間を受け止めてきたのだ。
「・・・ないて、るの?」
あまりに自然に。
あまりに突然に。
涙が、溢れていた。
「やっぱり、転んで怪我してたんだね。どこ?痛い?大丈夫?」
「うん。痛い。とっても。心が」
きょとんとする少女。
「どうして・・・誰かに、気付いてもらおうとしなかったんだ?」
「うんと・・・よくない、と思ったの」
「え?」
「私、もう、魔物、でしょ。だから、誰かが恐いって思うの、嫌だったの。
嫌だったし、それは、よくないって思ったの。だから」
拙いが、確実に、伝わる。
少女の、優しさが。
「おなかがすいたときは、ちょっとだけ、恐い思いさせちゃったかもしれないけど。
でも、できるだけ、しないようにがんばったよ」
大した事でもないよ、というように、屈託なく笑う少女。
大きな男である俺は、酷い顔をして、泣いていた。
「あ、あの夜は、たまたま。ちょっと、おなかがすき過ぎて、気持ちが伝わっちゃうの、忘れちゃってたの。ホントに、ごめんね」
どこまでも、こちらを心配する彼女。
どうして、こんなに優しい子が命を落としてしまったのか。
どうして、こんなに健気な子が死ななければいけなかったのか。
彼女の代わりに、とでも言わんばかりに、涙が溢れ出て。
ただ、いろんな気持ちが混ざり合って。
言葉に、できなくて。
彼女を、抱きしめた。
「もう、いいんだよ。
もう、一人で背負い込まなくていいんだよ。
もう、一人で辛い思いをしなくていいんだよ。
もう、一人で悩まなくていいんだよ。
もう、ずっと、俺が、一緒にいてやるから」
「・・・だめだよ。そんなの」
「いいんだ。そうさせてくれ」
「逃げちゃうよ、私」
「未練のある村から離れられないだろ?」
「振り切るもん」
「追いかける」
「天国に行っちゃうもん」
「地獄の果てでも、追いかける」
「死んじゃった人を、いつまでも悲しむのって、よくないよ。
おばあちゃんが死んじゃったとき、お母さんが言ってたもん」
「死んじゃった人が、いつまでも悲しんでるんだ。それだってよくない。
じいちゃんになっても、側にいてやるから」
「しつこいんだね」
「何十年も同じ場所にいる奴に言われちゃオシマイだな」
「・・・ふふっ、だね」
笑顔。
それを見て。
「・・・はははっ」
やっと、止まる涙。
「俺にできることなら、なんでも言ってくれよ」
「それじゃあ・・・あ、ううん、なんでもない」
「遠慮するなって」
暫くの沈黙。
彼女は、意を決したように、言った。
「私と、えっち、して」
唐突に。
こっちが赤くなった。
「え、あのその、ええと、あぁ、精の補充ね」
「うん。そう、なんだけど」
歯切れが悪い。
「あのね。魔物の魔力を受けすぎると、魔物みたいになっちゃうの。
だから、私と一緒にいすぎると、魔物みたいになっちゃうの。
それでも、いいの?人間じゃ、なくなっちゃうんだけど、いいの?」
ここまで来て、こっちの心配をされてしまった。
本当に―――愛おしい。
返事の代わりに、キスを返す。
短く、唇を合わせる、キス。
「ぁ―――」
少女が、小さく、言葉を漏らす。
その隙に、再度キス。
今度は、舌を入れる、大人のキス。
少女の唾液を味わうように、その口内を蹂躙する。
ちゅ、ちゅる
一度、舌を離す。
少女の顔は完全に上気し、あどけない容姿から色香を放っていた。
「ほんとうに、いいの?」
最後通達とばかりに、訊いてきた。
離れた方が身のためだよ、とでも言わんばかりに。
無視して、キスを再開する。
これが答えだと、見せつけるように。
不器用な舌使いで、彼女も絡み始める。
互いの喉の奥に、甘露があるかのように。
深く、深く。
水音を、立てながら。
少女の肩が、わずかに動く。
それは二人の身体の隙間に向かい。
手のひらが、少女の脚の間に向かう。
唇を離すと、きゅうと股間を抑える彼女がいた。
「あ、あの、ね。まえに、せーし、飲んだときから、ね。ここが、むずむずするの」
自身の身体の変化に戸惑う言葉。
「あの、ね。私、えっちな魔物に、なっちゃった、みたいなの。
前は、こんなに、むずむず、しなかったのに。今、とっても、せつないの・・・」
それは、彼女を形作った前の魔王の魔力と、今の魔王の魔力の入れ替わりによるものなのか。
生憎と、そっちの知識は持ち合わせていなかった。
だから、彼女の求めることをしてやるしか、俺にはできない。
「ベッドにおいで」
少女を誘う。
椅子からふわりと舞うと、ベッドへと降りる。
「スカート、めくってごらん」
そこにはショーツはなく。
不自然なまでに濡れた、幼い秘部があった。
「むずむず、止めて・・・?」
上目遣いでおねだりされた。
そういう趣味があったとはという自覚はないが。
先日のアレを思い出し。
悪戯心が、顔を出す。
「じゃあ、まずは、どうしてほしいか、自分でやってごらん」
「うん・・・」
クッションに背を投げる少女。
スカートの裾を口に咥え、こちらに見えるように、見せつけるように、大きく脚を広げる。
脚先こそなかったが、太ももと、その奥は、人間の少女のそれだった。
小さな指が、小さな割れ目に向かい。
くちゅり、くちゅり。
小さな水音を立て、それが始まった。
「ふぅっ!ん、く、ん・・・」
スカートを食いしばるように、自らが与えた衝撃に耐える。
そうしないと、すぐに達してしまうようにも見えた。
くちゅり、くちゅり。
未熟な身体から発せられる、淫靡な音。
欲望を、かき混ぜる音。
欲望を、かき立てる音。
空いた手は、すがるように、必死に、シーツを掴む。
「ん、んくっ、んぅん、ん、ん!」
程よく昂ってきたところで。
「もっとよく、見せて」
「ん・・・ん」
細い指が、秘められた花園を開く。
桃色の小さな花が、開く。
甘い少女の匂いが消え。
雌の香りが、匂い立つ。
「そのまま。続けて」
「ん」
かすかに、こくりと頷くと。
それが再開された。
広げた指はそのままに。
どうすればいいか、既に知っているように。
どうすれば気持ちいいか、既に知っているように。
空いた手が、先端の蕾へと伸びる。
「んんん!ん、ん、ん、ん、んん!」
くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ
加速する、動き。
加速する、呻き。
「ん、んく、んんん、ん、か、は、はぁ、はぁ、はぁ、あ、あぁあ!」
スカートを咥えていた口が開く。
「あ、あぁあぁ、あ、あああ!!」
語彙も何もなく、ただ発せられる、嬌声。
ただ空気を求めるように開いた口からは涎が垂れ。
その内側は、窓の月明かりに妖しく光り。
ただそれを求めるように、キスをした。
「ん、ん、ん、ん、ん!」
喉の奥から漏れるそれを、振動として聞きながら。
貪る。
少女の舌を、貪る。
少女の体液を、貪る。
少女を、貪る。
服の上から、手を這わせる。
腰に、下腹部に、みぞおちに。
胸に。
「んんん!ん!んんんん!」
塞がれた口から、さらに溢れる、振動。
薄い服の上から、小さな突起をつまみ上げる。
「んんんんん!ぱぁ、は、あ、は、はぁ、あ、あ、ああぁぁぁあ!」
息苦しさに、離される口。
解放を待っていたとばかりに、漏れる、雌の声。
「あ、や、あ、いい、きもち、いい、けど、なにか、くる、きちゃう」
戸惑いと、好奇心と、不安と、高揚と。
御しきれない感情が、少女を襲っている。
「大丈夫。そのまま、続けて」
無意識に行っていた、前とは違う。
自ら望んで、達するように。
自ら求めて、果てるように。
促した。
やさしく、胸をなで上げる。
やらしく、胸をなで上げる。
促すように。
「はぁあん!は、はぁ、あ、んあ、きちゃう、きちゃう、きちゃう、きあ、ああああああぁぁああぁあ!」
絶頂。
年端もいかない少女の、絶頂。
「あ、は、や、出る、出ちゃう、なにか、でちゃ」
言いかけたところで。
吹き出す、潮。
幼い水源から湧き出る、体液。
その光景はとても蠱惑的で、犯罪的で、魅力的で、退廃的で、扇情的で、禁忌的で。
ただ、惹き付けられた。
「あ、はぁ、あぁぁぁぁ」
脱力。
そして、涙。
「ご、ごめん、なさい、ベッド、よごし、ちゃった。ごめんなさい、汚い、よね」
息を荒げながら伝える彼女。
嗜虐心が、満たされるのを感じる。
「いいんだよ、どうせ夢だ」
「うん・・・」
「大丈夫。女の子は、気持ちよくなると、そうなっちゃうんだよ」
「そう、なの?」
「教えてあげなきゃね。これから、いっぱい。気持ちいいこととか、男を悦ばせる方法とか」
「でも、そんなことしたら、もっと、えっちな魔物に、なっちゃう・・・」
「いいんだよ、それで。いつまでも、一緒にいてあげるから」
額に、キス。
親愛の、キス。
「・・・うん」
立ち上がり、裸になり、ベッドの端に腰を下ろす。
少女の痴態を思う様観察したそれは、早くしろと言わんばかりに灼熱し、痛いほど張っていた。
「おいで」
膝を叩くと、まだ冷めやらぬように、ふらふらと彼女が飛んできた。
相向かいになって座る彼女。
視線は、グロテスクなほど大きくなったそれに向いていた。
「・・・どうしたの?」
「あの、ね。『おいしそう』って、思っちゃったの」
「すっかりエッチになっちゃったね」
「えっちな女の子、嫌い?」
「いいや、大好き」
腰を浮かして、と促す。
こくん。
はっきりと、頷く少女。
おそるおそる、少女の腰が近づく。
怒張の先端を持ち、自分の膣(なか)へ導くために。
怖々と、腰が、下ろされる。
先端が、触れる。
「ひゃっ・・・」
驚きの悲鳴。
歓喜の悲鳴。
「あ、あ、あ」
少しずつ、小さな穴に飲み込まれる、愚息。
少しずつ、大きくなっていく、嬌声。
少しずつ、熱と湿り気が伝わる。
少しずつ、少しずつ。
「う、きつ、い・・・」
見た目相応のサイズしかない穴は。
見た目不相応のサイズの肉棒を飲み込む。
締め付けられる。
熱に、肉に、ぬめりに、襞に。
悦ぶように、股間に血が集まり、脈打つのが判る。
「あ、あ、あぁ、あ」
もう少し。
「ああああぁあぁあああぁあ!!」
入った。
全部。
「あ、はぁ、はぁ、はぁ」
「痛くなかった?」
「だい、じょうぶ。ちょっと、イっちゃった、だけ」
息を荒げながらそう言った。
膝に乗せているのにまだ下に見える顔に、キスをねだる。
「ん、ふ、んちゅ、ちゅる」
互いに、繋がった悦びを伝えるように。
もっと、身も心も一つになろうと求めるように。
顔を離し、伝える。
「もっと、気持ちよくなろう」
「・・・うん」
少女の腰が、ゆっくりと浮く。
「ふぁ、あ、あ」
そして、ゆっくりと、沈む。
「あぁあ、ああ、んあ」
少女の動きに合わせ、愚息に、搾られる感覚が伝わる。
柔らかな襞に包まれ。
愛の体液に濡れ。
焼け付くような、幼い体温が伝わる。
「う、っく、これは、もた、ない・・・」
それは、かつて体験したことのない悦楽で。
今までにない享楽で。
いくらでも浸っていたい、快楽。
「あ、あぁ、あ、あ、あ、あ!」
それは彼女も同じなようで。
急かすように、貪るように。
早くなる、動き。
ちゅく、ちゅく、ずちゅ、じゅく
小さな女性器から漏れる、卑猥な音。
「あ、ああ、んあぁ、あ、くっ、あ、んあ、ふ、あああ!」
小さな口から漏れる、悦びの声。
耳から、脳髄へ。
あどけない身体が、精一杯求めるのが、聞こえる。
彼女の身体を抱く。
無意識だろうか、抱き返す彼女。
持ち上げては、下ろす。
彼女がそういう道具であるように。
肉棒をしごき上げる道具であるように。
持ち上げては、下ろす。
強引に、貪欲に。
「あっ、あっ、ふぁぁ、あっ、んあっ」
もっと欲しい。
突き上げるように、腰を動かす。
深く、さらに深く。
その奥の快楽を感じるために。
「あ、やだ、また、イく、また、きちゃう、でちゃう」
「いいよ、俺も、そろそろだ」
「一緒、一緒がいい、いっしょに、イこ、一緒に」
「もちろん・・・だ!」
応えるように。
一層強く、腰を突き入れる。
彼女を貫くように。
彼女の奥まで、届くように。
「奥、届いて、気持ち、いいの、とどい、あ、イく、イく、だめ、もう、あ、あ、あぁぁぁあ!!」
「ぐっ!」
どくん。
迫り上がる、熱。
どくん。
睾丸から。
どくん。
尿道を通り。
どくん。
彼女へと。
「あ、ぴくぴく、って、うごい、て、あ、出るっ!」
男根の根元に、生暖かく、湿る感触。
陰嚢を伝い、尻まで、潮で濡れる。
きゅう、と、幼い膣がさらに締まる。
欲しがる。
精を。
どくん。
呼応するように。
どくん。
さらに吐き出される。
二人で、きつく抱き合う。
接合部が、そうであるように。
「あつい、の、おなか、いっぱいに・・・」
「うっ、く!」
最後の一滴を出し終える感覚を覚え。
脱力し、彼女を抱えたまま、ベッドへ身体を投げ出す。
はぁ、はぁ、はぁ
互いの呼吸を感じながら。
陰部の繋がりを感じながら。
しばらく、そうしていた。
「え、えへへ・・・しちゃった、はじめて」
いたずらが成功したときのような笑顔で、彼女が笑った。
「お望みとあらば次も用意してありますよ、姫」
悪戯っぽく、言い返す。
「もう、えっち・・・じゃあ、ちょっと休んだら、ね」
「はいはい」
「よいしょ」
身体を起こす彼女。
「んっ・・・」
抜かれる感覚。
ごぼり。
そう聞こえそうなくらい、彼女の股から、白濁した液が溢れる。
それは彼女の白い脚を伝い。
それでも足りない分が、俺の腹に、落ちる。
「あ、でちゃった・・・ん」
指でそれを掬い摂り、口へ運ぶ。
「ちゅぷ・・・ん、おいしい」
えへへ、と、またはにかむ彼女。
身体を倒し、大の字に投げ出された俺の腕に納まる。
そのまま、目を閉じ。
寝息。
安らかな、寝息。
それを子守唄にしながら。
俺の意識も、落ちていった。
「ぁ・・・あ?」
目を覚まし、起き上がる。
まだ混濁する意識で、周囲を確認する。
相変わらず自分の部屋。
外はまだ夜中で。
月が、窓から照らしていた。
彼女。
彼女はどこに。
そこで、気付く。
ベッドに突いた自分の手が、半透明な何かを貫通していることに。
月明かりに浮かぶ、ゴーストの寝顔がそこにあることに。
横向きに、さもその方向に愛しい誰かがいるかのように。
満足そうに、眠っていた。
布団は当然にすり抜け、肩が虚空に出てしまっていて。
歳の割にちょっと大きめなお尻も見え隠れしていて。
身体の半分は、俺自身に埋もれていた。
「全く・・・」
彼女と、重なるように、寝転がる。
そして、自分の肩を抱くように、腕を回す。
「こっちの方がより重なれるなんて、なんの皮肉だよ」
そう一人ごちて。
また、淫らな夢の中へと、戻っていった。
人間と魔族が対立していた。
魔族。
俺も、かなり昔―――ガキの頃、襲われたことがある。
親父もお袋も妹も肉塊に成り果てて。
かろうじて暖炉の中に隠れていた俺は見た。
異形の怪物。
畏敬の怪物。
人の及ばぬ力を持って、以て。
侵攻するもの。
領地を巡り、争う。
軍勢を率いるトップがいて。
それに続く兵がいて。
魔の力と鉄の塊が衝突し。
体液が舞う。
空を翔る翼を矢が引き裂き。
断末魔。
戦場に転がる。
骸。
ただ物言わぬ、骸。
「なんだ、姿が違ったって、やってることは人間と変わらないじゃん」
そんなことを思っていた。
想っていた。
「やってることが変わらないなら、解り合うことだって、できるんじゃないか」
と。
恐怖という感情がないわけではない。
でも、それ以上に。
俺みたいな寂しい奴を増やさない方が、大切なんじゃないかと。
幼心に、思っていた。
今から思えば能天気な考え方だと思うけど。
今でもそれを引きずっているんだから、笑うに笑えない。
それは唐突に訪れた。
人もトップが変われば変わるように。
魔族の変化もまた、トップの交代だった。
人と魔族は一つに統合されるべきである。
そう方針変えしたのは、つい数年前。
教団の人間ならば、鼻で笑うところだろう。
しかし俺は。
教団には、上っ面だけ「そういう顔」してる俺は。
あぁ、やっぱり。
そう想った。
思った。
無駄に争うのは嫌なんだ。
あいつらも―――
そんなヒネた性格の俺に、わけのわからない出会いが訪れる。
二十歳の、まだ肌寒い春だった。
いつも通り、街の小さな食堂での仕事を終えた俺は、街から少し離れた我が家へと、家路を、特に何を考えるでもなく歩いていた。
もちろん夕飯時はとっくに過ぎて、徐々に街の灯も消えかけてきている時間。
空には満月が出ていて。
ランプは持っていたが、点けるのは、はばかられた。
青白く、神秘的に。
薄暗い道を照らすのは、それだけ。
それだけだった。
こういう風景も、嫌いじゃない。
家族が殺された夜のように、青白い、神秘的な夜も。
あの日のことを考えていたから。
だからこそ、気付くのが遅れた。
青白い夜に、青白く、神秘的に。
ひと際輝く、その影に。
「・・・・!!」
声にならない声を上げる。
それはどう見ても透けていて。
それはどう見ても脚が無く。
それはどう見ても浮いていて。
それはどう見ても・・・「ゴースト」だったからだ。
若くして亡くなったのだろうか。あどけなさの残る顔立ちで。
焦点の定まらない目で、月を仰ぐ。
その姿は月と同じくらい、果敢(はか)なく見え、
破瓜なく散った、純潔な美しさを湛えていた。
見入っていたのか、恐れていたのか、自分でもわからない。
木々に覆われた街道の途中。
ぽっかりと平原になっている広場で。
それは漂っていた。
脚は棒のように言う事を聞かず。
ただただ、向こうがこちらに気付くまで、そのままの姿勢を取ることしかできなかった。
気付いたそれは、ゆらり、と、こちらを見ると。
すっと近づいてきて。
一瞬、躊躇い。
口元を動かす。
何を言ったのか、聞こえなかった。
そして俺の身体をすり抜け。
自分の記憶かと疑うほど、鮮明に、脳内に映る。
焼け落ちる家。
家の外へと向かう視線。
扉を開けたその先で。
魔物。
旧体制時代の、異形の怪物。
見ただけで、抗うことを選択肢から外させる、爪。
薄暗い月明かりに照らされ、閃き。
それが、野太い腕から振り下ろされ。
そこで、道に倒れている自分に気付く。
起き上がろうにも、上手く力が入らない。
そしてそれ以上に気になる謎。
あのゴーストは、なぜ、ただ月を観ていたのだろうか。
その後のあれは一体何だったのか。
いまだ心の内に残る、むず痒さ。
そして鼻の奥に来る、むず痒さ。
「ふえっくし!」
得心はいかなかったが、一つだけ言える。
・・・こりゃ風邪引いたな。
翌日朝。
這うように家に辿り着いたまではいいが、見事に大風邪を引いた俺は、仕事場である食堂に顔を出し。
「まぁ、体調悪くなるときだってあるさ。だからさっさと帰って休め。一週間くらい休め。そしてこっち来るな。厨房でクシャミするな鼻水垂らすな風邪うつすな」
と許しを頂き、こうしてベッドで横になっている。
昨晩の出来事が脳裏に過る。
ゴースト。
俺だって、魔物の跋扈する世界でこれまで生きてきたのだ。
新体制の魔物にだって会ったことはある。
揃いも揃って蠱惑的で、前と違い、襲われる、の後ろに(性的な意味で)と付けなければいけないような奴らだ。
一応普通の生活を続けたいので逃げ回ってはいるが。
しかし、あのゴーストはどうしたことだろう。
力が出なかったあたり、多少の精は奪われたようだが――恐らく、昔から、の方法で――固執されるようなこともなく。
目を瞑る。
今はうすぼんやりとしか思い出せないが、あの光景。
爪。そして月。
振り下ろされたところで途切れ、虚無。
そこで思い至る。
あぁ、あれは、彼女の最期に見た光景なのだろう、と。
満月で思い出してしまったのだろう、と。
俺と、同じなのだろう、と。
俺と、運の差でしかなかったのだろう。
魔物に襲われ・・・生きているか、否か。
そっと目を開けると、
白昼堂々、ゴーストが目の前にいた。
当たり前だが驚いた。
驚いて、起き上がろうとした・・・んだと思う。
とっさのことで、どう動こうとしていたのかすらわからない。
しかしそれで「起き上がる」という結果は出ず、そこで気付く。
身体が動かない。
ただただ、目の前の少女の顔を凝視することしかできない。
どこか物悲しげな表情のゴースト。
すべての感覚は目の前の少女を観察することに向けられる。
いや、意図的に向けられた、と言うべきか。
何をされるのか、わからない。
わからない。わからない。
未来の選択肢が見えない。
ない。
すると、少女は顔を近付け。
額が触れたと思われる瞬間。
突如、巻き起こる恐怖の感情。
汗が、呼吸が、心臓が、警鐘を鳴らす。
命の危機。
数秒あるかないか。その間だけ。
それはすぐに過ぎ去り、また、観察に専念しようとする自分に戻る。
彼女は顔を離していた。といっても、超至近距離にいるのは変わらずだったが。
わからない。
先程とは、違う恐怖。
飛び抜けた未知に相対した、恐怖。
しかしそれを感じたのもつかの間。
彼女がまた顔を近づける。
今度は安心してしまう。
そしてその安心も、彼女が顔を離すとすぐに去り。
困惑。
自分はどうなってしまったのか。
恐怖が加速する。
再度の顔の接近。
また安心。
今度は、少し、長い。
その安堵の中で気付く。
これは俺の感情ではない。
彼女の感情だ。
ゴーストは物理に干渉できない、と聞いた事がある。
それは空気に関しても言えるのだろう。
つまり、空気の波である音、声も出せない。
彼女達の伝達手段こそ、「自分の感情を直接相手に送り込む」ということなのだろう。
彼女の安堵を受けながら。
それが自分の安堵になって行くのを感じた。
嬉しい。
理解して貰えたことに対してたろうか。
そういう気持ちがわき上がる。
そして申し訳ない気持ち。
どういうことだろう。
こうして風邪引いて寝込んでることに対してだろうか。
嬉しさ。そして後ろめたさ。
どうやら、正解のようだ。
そして謝罪の念。
いつしか俺は恐怖を忘れ、
安息の中、目を閉じていた。
感情が、混ざる。
穏やかな彼女の心と。
それを感じた、自分の心。
心地いい。
俺が敵意を放っていないのを察してか、返ってくる感情も、ゆっくりと、穏やかで。
そして、戸惑い。
・・・・戸惑い?
不意に向けられた感情に疑問を持ち身体を起こす。
しかしそこには既にゴーストの姿は無く。
「身体を起こす」という行動ができたと気付くまで、たっぷり5分を要した。
体調が悪い上に不思議な体験をしたというのに、その日の寝付きはとてもよかった。
まるで何かに引き込まれるように。
すとん、と眠りに落ちた。
そして起きた。
朝まで何も無かった。
だったらどんなに良かったか。
見知らぬ部屋に居た。
少し大きめで、やわらかく、かわいらしいフリルのついた掛け布団のベッドと。
白く、花柄の模様が美しい箪笥。
小物棚にはぬいぐるみが置いてある。
ベッドが大きいせいもあってか、やや手狭な感じではあるが、それも年頃の少女の部屋と考えれば納得できる。
一番納得がいかないのは。
何故俺はこんなところで寝ていたのだろう。
その一点である。
いや三点。
なぜ全裸なのか。
そして腹部から下半身にかけて伝わる人肌の温度と重さは何なのか。
恐る恐る、布団を持ち上げる。
そして戻す。
何もいなかったと信じたい。
例えばふわりとした柔らかく艶のある髪とかぺたりと吸い付くような張りのある肌とか密着しているのに僅かにしか感じとれない胸とか少しずつだがくびれの出てきた腰回りとか完全に乗っかっているのに重くない体重とかそんないろんなところの法律に引っかかりそうな発展途中な全裸の少女などいなかったと信じたい。
と、云うより認識したくない。
状況は確実に犯罪者のソレだ。
弁明の余地があるとすれば、相手がしっかりと腰に手を回し、俺を離すまいとしていることくらい。
身動きが取れない。
あの時とは別の意味合いで。
「夢なの」
声が聞こえた。
もぞもぞと、布団から彼女の頭が出る。
「これは、夢。お話できるのも、こうやって触れるのも・・・あったかい、って感じられるの、も」
澄んだ声。
「だから、悪い夢にはしたくないの。私の、ぜんぶ。ホントの私は、今、ここにしか居られないから」
ゴースト。
今さらながら気付いた。
「だから、向こうの私も嫌いにならないで欲しいの。あのね・・・」
消え入るような声。
心無しか、彼女の体温が上がった気がする。
「あのね、だから、嫌いにならないでほしいから、その・・・きもちい・・こと、して・・あ・・・」
聞こえるか聞こえないか。
唐突に、腰に回されていた手が解かれ。
彼女が布団に潜り込み。
「もの」に、熱く、滑る感触。
「ぬぁっ!?」
驚き、声を上げる。
舐められている。
布団を被っていて直接は見えないが。
見えないからこそ感じる。
清楚な少女が、澄んだ声を発する口が、清らかなはずの舌が。
汚れた男性自身を、舐(ねぶ)る感触を。
「ぉ、おい、やめろって・・・」
言うが、自分の声が弱いことに気付く。
少女の奉仕。背徳。
それに興奮を覚える自分。
いきり勃つ。
「ぁ・・・ふぁ・・・」
怒張したそれを見てか、少女は驚いたようだった。
熱く濡れた感触が離れる。
少し時間を置き、細いものが数本、まとわりつく感覚。
指。
汚れを知らないだろう、細く、しなやかな、指。
小さく、確かめるように、上下に動いた後。
再開される、奉仕。
小さく、遠く。自分とは関係ない場所で行われているように聞こえる、湿った音。
そしてその合間、聞こえ、男根にも触れる息づかい。
次第に熱く、早く。
これまでにない、興奮。
ただただ、驚くしかなかった。自分に、少女に。
「ぁ・・・はふ・・・ん・・・んふっ・・・ふん・・・・」
舌先がくすぐったい。
それが離され、
「ん、んん、ふむぅ・・・」
全体を、湿った感触が覆う。
「や、やめ、そこまで・・・」
「きらい?」
唐突。
布団の中からの声。
訊かれ。
「きもちいいの、きらい・・・?」
「それは・・・」
好きだ。
答えられるはずがない。
このまま、最後まで。
応えられるはずがない。
少女にそんなことさせるのか?
堪えられるはずがない。
「いいの」
少女が言う。
「いいの、何も、気にしなくて・・・夢だから、お願い」
何も言えなくなる。
不器用だが、男性を悦ばせる、最高の手段。
嫌われたくない。
人ならざる身になってしまった少女の、決死の努力。
ただ、少女の頭を撫でてやることしか、できなかった。
「ぁ・・・」
俺の愛撫をひとしきり堪能して。
再開される奉仕。
「ん・・・んふっ、んふぅ・・・ふっ」
ゆっくりと、先程よりも熱く、飲み込まれる。
引き抜かれるようにしごき上げられ。
さらに奥までくわえ込まれ。
吸い上げられるように引き抜かれ。
水音。
それがいつしか、違う場所から聞こえるのに気付いた。
自愛。
年端もいかぬ少女の、自慰。
俺を悦ばせながら、自らも達しようとしているのだ。
本人すら気付いていないだろう、魔物としての本性。
それでも、奉仕が止む気配はない。
どころか、加速。
奉仕が早まる。
息づかいが荒くなる。
例えようもない快楽が襲う。
滑り、湿り、唾液に塗れた、肉棒と口が擦れる水音。
滴り、浸り、溢れる愛液が奏でる、幼い肉壷の水音。
滾り、逸り、気付かぬうちに重なり、漏れ出る吐息。
「ぅあ・・・離せ、もう・・・」
耐えられない。
それでも止まない。
「くぁ・・・射精(で)る・・・!」
「ん・・・んんっ!ぷふぁあぁ!」
絶頂。
同時に。
脱力。
「はぁ、はぁ・・・あ!」
慌てて、布団を剥がす。
額に汗を浮かべ、ぐったりする少女。
「お、おい・・・」
抱きかかえる。
綺麗な顔や髪は、俺が放った欲望に白く汚れていた。
「ぁ・・・」
力なく声を発する。
口の端から、白濁した汚液が滴っている。
中に出たのに驚き、離したら顔にも掛かった、というところか。
「ぁ、えへへ・・・」
力なく笑い、
「ん」
口の中に残ったものを嚥下し、
「苦い、ね・・・でも、おいしい」
そう言った。
「無理しなくて良かったんだぞ」
「ううん、平気。夢、だもん」
夢でも駄目だろう。
「いいの。もう、私、人間じゃないもん、ね・・・」
悲しそうに言う。
「生きてた頃はね、コーヒーとか飲めなかった。でもね、さっきは、おいしい、って感じたの。
魔物はね、精を好きになるようになってるんだって。私、そうなっちゃったみたい」
「みたい、って・・・」
「うん、こういうことするの、初めて」
「初めて、って・・・今までは?」
「昔みたいなやりかた。取り憑いて、少し分けてもらうの」
月夜のあれだ。
「ごめんね、月で思い出しちゃったこと、取り憑いた時に、見せちゃったみたい」
そんなことはいい。
今まで独りで抱えてきたのか。
あれを。
あの恐怖を。
襲われる恐怖だけなら理解できた。
その後だ。
死に至るまでの痛み。
自身が消えて行く恐怖。
それも抱えてきたのだろう。
そこは、そこだけは理解できない。
俺は、死んだことがないから。
「今日は、お詫び。もう、迷惑、かけないね。ごめんね」
「馬鹿野郎」
独りで重いもの背負っておいて、まだそんなことを言うのか。
「馬鹿野郎」
放っておけるか。
「馬鹿野郎・・・精が無ければ、また、人に取り憑くしかないんだろ?」
「うん・・・でも、もういいの。これからは、おなかすいても、我慢するから」
「馬鹿野郎。それじゃお前、消えちまうだろう」
「・・・・大丈夫、だよ」
そんな、大丈夫なわけ、
「大丈夫なわけ、あるかよ・・・」
「うん、でも、もう・・・行くね」
「待て、まだ・・・」
「言いたり、な・・・」
少女の身体を抱こうとし、虚空を掴む。
気付くとベッドの上だった。
少女趣味な部屋のではなく。
殺風景な、男やもめの部屋の。
「あ・・・ゆ、夢・・・」
夢。
彼女が言った通り。
夢。
しかしそれは、夢や妄想で片付けるにはあまりに現実的過ぎて。
「・・・」
思わずパンツを見る。
大丈夫そうだった。
昨日に比べれば、驚くほどに、体調は回復していた。
完全に、とはまではいかなかったが、多少だるい、程度にはなっていた。
一応、まだ本調子ではない身体を気遣い二度寝をし。
何をするでもなくごろごろとし。
窓を刺す西日に、そんな時間かと思っていたら。
夜。
家を出て、伸びをする。
夜にする行動じゃないな、と思いながら。
月明かりの下、鈍った身体をほぐすように、散歩をした。
一昨日ほどではなかったが、まだ薄く明かりを降らせる月。
青白い明かりに誘われるように。
青白い世界に浮かび上がる道を歩く。
彼女は、どこへ行ってしまったのだろう。
それだけを、考えていた。
逃げる記憶。
引き裂かれる記憶。
薄らいでいく意識の記憶。
命を落としたのは彼女で。
俺ではない。
でも。
それでも。
気になった。
悲劇を許せなかったからか。
違う。
ただ、悲しいと思ったからだ。
終わったことに、いつまでも縛り付けられるのが、悲しいと思ったからだ。
誰が助けてくれるわけでもなく。
誰が手を差し伸べてくれるわけでもなく。
誰が気に掛けてくれるわけでもなく。
誰が救ってくれるわけでもなく。
誰が力添えをしてくれるわけでもなく。
誰が解放してくれるわけでもない。
ただ、独りで。
尽きた命を思い出しながら。
尽きぬ時間を過しているのだ。
ただの哀れみかもしれないし。
ただの同情かもしれないし。
ただの情けかもしれないし。
ただの憐憫かもしれない。
それでも。
胸にある悲しいという気持ちは、俺のもので。
せめて俺だけでも、それを分かち合ってやれたらと。
その衝動だけは、本物だった。
ふと見上げた月は青白い光を放ち。
見下ろした先、街道の脇に漂う、彼女を映し出した。
「――――っ!」
脚が動くのは、早かった。
それが条件反射であるように。
彼女へと走る。
自分でも理解できない。
ただ、半透明の彼女が。
どこかに、行ってしまいそうで。
手の届かないところに、逝ってしまいそうで。
こちらに気付き、逃げ出そうとする彼女に。
手を伸ばし。
触れ。
すり抜けた。
黒い柱が、何本も建っている。
それが焼け落ちた家の名残であり、それが集落であると気付くまで、しばらくかかった。
それほどまでに、跡形もなくなっていた。
そのうちの一つの側に。
小さな人形(ひとがた)。
腐敗が始まり、変色しはじめた、小さな躯。
あの夜の、続き。
ゆっくりと、空が変わり始める。
夜から、朝へと。
晴れから、雨へと。
それは次第に加速し。
めまぐるしく入れ替わり始める。
柱は朽ち、倒れ。
踏み固められたはずの人家の周りに草が生え揃い。
いつの間にか、少女の身体は分解され、消えていた。
草は生い茂り、枯れを繰り返し。
木々は萌え、散りを繰り返し。
街道は人々の残像だけを映し続け。
何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も。
平原はゆるやかに森に浸食され。
木々は穏やかに枝の形を変えたかと思えば、突然倒れ朽ち。
人々の影を乗せた街道は、じわりじわりと削れてゆく。
何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も。
いつしかその流れはゆるやかになり。
ある夜。
「俺」が、現れる。
気がつくと、倒れていた。
どうやら、彼女の身体を掴もうとして、勢いを出しすぎたらしい。
何故か視界がぼやける。
「涙・・・?」
泣いていた。
当たり前だ。
彼女が体験した時間は、きっと、長い。
永い。
それはきっと、途方もない時間で。
その中できっと、独りで過していた。
今だ流れそうになる涙を拭くと、彼女が、心配そうにこちらを見ていた。
街道の草むらに座り直し、彼女に手を差し伸べる。
それに、自らの手を重ねる少女。
小さな不安が、伝わる。
でも、温かい、不安。
心配。
感謝を返してやる。
安堵が返ってくる。
埒があかんな、この会話。
そう思ったので、自分の家を思い浮かべる。
来い。
そう言うつもりで。
戸惑いの感情が、手を伝う。
怒ってない。
平静を伝え。
彼女が頷くのを見て、手を離す。
家に着くなり、ベッドに寝転がる。
何をしたいか察したように、彼女は俺の上を飛んだ。
見ていると次第に眠気が来て。
散々ごろごろしていた割に、寝付くのは早かった。
起きる・・・いや、「起きたつもり」でいると、見慣れた部屋だった。
少女の部屋ではない。
「あの、これで、よかった?」
澄んだ、しかし、どこか舌足らずな声が聞こえる。
彼女は、ベッドの側の椅子に座っていた。
「あぁ、問題ない」
「あの、ご、ごめんなさい」
健気な彼女は、俺に不快なものを見せてしまったと思っているようだ。
「大丈夫、俺の方こそ、女の子の秘密見ちゃったみたいで、ごめん」
「う、ううん。平気」
「あそこは・・・」
「おうち。おうちのあった、村。でも、なくなっちゃった」
なぜ街道のあそこだけ、森になってないかと疑問ではあった。
切り拓いていたからだ。
村を造るために。
毎日仕事で使っているのに、気付かなかった。
「あの、ね、ごめんね、さっき、『見え』ちゃったんだけど」
少女が訊く。
「あなたも、魔物に・・・」
「・・・あぁ」
そう。同じ。
共に、魔物に襲われた者同士。
「じゃあ、私と、一緒なんだ・・・」
曇る、顔。
「一緒じゃ・・・ない」
「えっ」
「俺は、生きている」
決定的な違い。
「君は、命を落とした」
決定的な差。
それは、とても、遠い距離。
触れようとしても、届かないほどに。
見ようとしても、霞むほどに。
聞こうとしても、静寂しか感じられないほどに。
「同じじゃ、ない。幸せと、不幸ほど、大きな差だ」
えへへ、と力なく笑う彼女。
「大丈夫だよ。こうやってお話できてるし、ちゃんと、触れるよ。あったかい手、感じられるよ」
彼女の手が、俺の手に重なる。
「夢の中で・・・だろ」
夢の中なら。
いや。
夢でも見ないと、それは叶えられない。
なんでも叶う世界でなければ、それすらも、ままならない。
そんな距離。
生と、死の距離。
「ずっと、一人・・・だったんだろう?」
「・・・うん。なぜか、私だけ、こうなっちゃった」
「あの場所に、未練があって・・・」
「うん。もっと、いっぱい、いろいろ・・・したかったな」
要領を得ない。
当たり前だ。それは、短絡的なものへの執着ではなく。
「もっと、いっぱい・・・生きたかったな」
そのとき失ったもの。
そのとき閉ざされた、未来への執着。
「生」という、可能性への執着。
死してなお、大丈夫と言った、彼女の、本音。
「お父さんとか、お母さんとか、お隣のシンシアちゃんとか、パン屋のおじさんとか」
そのとき失ったもの。
「みんなと、もっと、一緒に、いたかったな」
多すぎる。
その小さな身体に、それら全てを押し込めて。
その小さな身体で、今までの時間を受け止めてきたのだ。
「・・・ないて、るの?」
あまりに自然に。
あまりに突然に。
涙が、溢れていた。
「やっぱり、転んで怪我してたんだね。どこ?痛い?大丈夫?」
「うん。痛い。とっても。心が」
きょとんとする少女。
「どうして・・・誰かに、気付いてもらおうとしなかったんだ?」
「うんと・・・よくない、と思ったの」
「え?」
「私、もう、魔物、でしょ。だから、誰かが恐いって思うの、嫌だったの。
嫌だったし、それは、よくないって思ったの。だから」
拙いが、確実に、伝わる。
少女の、優しさが。
「おなかがすいたときは、ちょっとだけ、恐い思いさせちゃったかもしれないけど。
でも、できるだけ、しないようにがんばったよ」
大した事でもないよ、というように、屈託なく笑う少女。
大きな男である俺は、酷い顔をして、泣いていた。
「あ、あの夜は、たまたま。ちょっと、おなかがすき過ぎて、気持ちが伝わっちゃうの、忘れちゃってたの。ホントに、ごめんね」
どこまでも、こちらを心配する彼女。
どうして、こんなに優しい子が命を落としてしまったのか。
どうして、こんなに健気な子が死ななければいけなかったのか。
彼女の代わりに、とでも言わんばかりに、涙が溢れ出て。
ただ、いろんな気持ちが混ざり合って。
言葉に、できなくて。
彼女を、抱きしめた。
「もう、いいんだよ。
もう、一人で背負い込まなくていいんだよ。
もう、一人で辛い思いをしなくていいんだよ。
もう、一人で悩まなくていいんだよ。
もう、ずっと、俺が、一緒にいてやるから」
「・・・だめだよ。そんなの」
「いいんだ。そうさせてくれ」
「逃げちゃうよ、私」
「未練のある村から離れられないだろ?」
「振り切るもん」
「追いかける」
「天国に行っちゃうもん」
「地獄の果てでも、追いかける」
「死んじゃった人を、いつまでも悲しむのって、よくないよ。
おばあちゃんが死んじゃったとき、お母さんが言ってたもん」
「死んじゃった人が、いつまでも悲しんでるんだ。それだってよくない。
じいちゃんになっても、側にいてやるから」
「しつこいんだね」
「何十年も同じ場所にいる奴に言われちゃオシマイだな」
「・・・ふふっ、だね」
笑顔。
それを見て。
「・・・はははっ」
やっと、止まる涙。
「俺にできることなら、なんでも言ってくれよ」
「それじゃあ・・・あ、ううん、なんでもない」
「遠慮するなって」
暫くの沈黙。
彼女は、意を決したように、言った。
「私と、えっち、して」
唐突に。
こっちが赤くなった。
「え、あのその、ええと、あぁ、精の補充ね」
「うん。そう、なんだけど」
歯切れが悪い。
「あのね。魔物の魔力を受けすぎると、魔物みたいになっちゃうの。
だから、私と一緒にいすぎると、魔物みたいになっちゃうの。
それでも、いいの?人間じゃ、なくなっちゃうんだけど、いいの?」
ここまで来て、こっちの心配をされてしまった。
本当に―――愛おしい。
返事の代わりに、キスを返す。
短く、唇を合わせる、キス。
「ぁ―――」
少女が、小さく、言葉を漏らす。
その隙に、再度キス。
今度は、舌を入れる、大人のキス。
少女の唾液を味わうように、その口内を蹂躙する。
ちゅ、ちゅる
一度、舌を離す。
少女の顔は完全に上気し、あどけない容姿から色香を放っていた。
「ほんとうに、いいの?」
最後通達とばかりに、訊いてきた。
離れた方が身のためだよ、とでも言わんばかりに。
無視して、キスを再開する。
これが答えだと、見せつけるように。
不器用な舌使いで、彼女も絡み始める。
互いの喉の奥に、甘露があるかのように。
深く、深く。
水音を、立てながら。
少女の肩が、わずかに動く。
それは二人の身体の隙間に向かい。
手のひらが、少女の脚の間に向かう。
唇を離すと、きゅうと股間を抑える彼女がいた。
「あ、あの、ね。まえに、せーし、飲んだときから、ね。ここが、むずむずするの」
自身の身体の変化に戸惑う言葉。
「あの、ね。私、えっちな魔物に、なっちゃった、みたいなの。
前は、こんなに、むずむず、しなかったのに。今、とっても、せつないの・・・」
それは、彼女を形作った前の魔王の魔力と、今の魔王の魔力の入れ替わりによるものなのか。
生憎と、そっちの知識は持ち合わせていなかった。
だから、彼女の求めることをしてやるしか、俺にはできない。
「ベッドにおいで」
少女を誘う。
椅子からふわりと舞うと、ベッドへと降りる。
「スカート、めくってごらん」
そこにはショーツはなく。
不自然なまでに濡れた、幼い秘部があった。
「むずむず、止めて・・・?」
上目遣いでおねだりされた。
そういう趣味があったとはという自覚はないが。
先日のアレを思い出し。
悪戯心が、顔を出す。
「じゃあ、まずは、どうしてほしいか、自分でやってごらん」
「うん・・・」
クッションに背を投げる少女。
スカートの裾を口に咥え、こちらに見えるように、見せつけるように、大きく脚を広げる。
脚先こそなかったが、太ももと、その奥は、人間の少女のそれだった。
小さな指が、小さな割れ目に向かい。
くちゅり、くちゅり。
小さな水音を立て、それが始まった。
「ふぅっ!ん、く、ん・・・」
スカートを食いしばるように、自らが与えた衝撃に耐える。
そうしないと、すぐに達してしまうようにも見えた。
くちゅり、くちゅり。
未熟な身体から発せられる、淫靡な音。
欲望を、かき混ぜる音。
欲望を、かき立てる音。
空いた手は、すがるように、必死に、シーツを掴む。
「ん、んくっ、んぅん、ん、ん!」
程よく昂ってきたところで。
「もっとよく、見せて」
「ん・・・ん」
細い指が、秘められた花園を開く。
桃色の小さな花が、開く。
甘い少女の匂いが消え。
雌の香りが、匂い立つ。
「そのまま。続けて」
「ん」
かすかに、こくりと頷くと。
それが再開された。
広げた指はそのままに。
どうすればいいか、既に知っているように。
どうすれば気持ちいいか、既に知っているように。
空いた手が、先端の蕾へと伸びる。
「んんん!ん、ん、ん、ん、んん!」
くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ
加速する、動き。
加速する、呻き。
「ん、んく、んんん、ん、か、は、はぁ、はぁ、はぁ、あ、あぁあ!」
スカートを咥えていた口が開く。
「あ、あぁあぁ、あ、あああ!!」
語彙も何もなく、ただ発せられる、嬌声。
ただ空気を求めるように開いた口からは涎が垂れ。
その内側は、窓の月明かりに妖しく光り。
ただそれを求めるように、キスをした。
「ん、ん、ん、ん、ん!」
喉の奥から漏れるそれを、振動として聞きながら。
貪る。
少女の舌を、貪る。
少女の体液を、貪る。
少女を、貪る。
服の上から、手を這わせる。
腰に、下腹部に、みぞおちに。
胸に。
「んんん!ん!んんんん!」
塞がれた口から、さらに溢れる、振動。
薄い服の上から、小さな突起をつまみ上げる。
「んんんんん!ぱぁ、は、あ、は、はぁ、あ、あ、ああぁぁぁあ!」
息苦しさに、離される口。
解放を待っていたとばかりに、漏れる、雌の声。
「あ、や、あ、いい、きもち、いい、けど、なにか、くる、きちゃう」
戸惑いと、好奇心と、不安と、高揚と。
御しきれない感情が、少女を襲っている。
「大丈夫。そのまま、続けて」
無意識に行っていた、前とは違う。
自ら望んで、達するように。
自ら求めて、果てるように。
促した。
やさしく、胸をなで上げる。
やらしく、胸をなで上げる。
促すように。
「はぁあん!は、はぁ、あ、んあ、きちゃう、きちゃう、きちゃう、きあ、ああああああぁぁああぁあ!」
絶頂。
年端もいかない少女の、絶頂。
「あ、は、や、出る、出ちゃう、なにか、でちゃ」
言いかけたところで。
吹き出す、潮。
幼い水源から湧き出る、体液。
その光景はとても蠱惑的で、犯罪的で、魅力的で、退廃的で、扇情的で、禁忌的で。
ただ、惹き付けられた。
「あ、はぁ、あぁぁぁぁ」
脱力。
そして、涙。
「ご、ごめん、なさい、ベッド、よごし、ちゃった。ごめんなさい、汚い、よね」
息を荒げながら伝える彼女。
嗜虐心が、満たされるのを感じる。
「いいんだよ、どうせ夢だ」
「うん・・・」
「大丈夫。女の子は、気持ちよくなると、そうなっちゃうんだよ」
「そう、なの?」
「教えてあげなきゃね。これから、いっぱい。気持ちいいこととか、男を悦ばせる方法とか」
「でも、そんなことしたら、もっと、えっちな魔物に、なっちゃう・・・」
「いいんだよ、それで。いつまでも、一緒にいてあげるから」
額に、キス。
親愛の、キス。
「・・・うん」
立ち上がり、裸になり、ベッドの端に腰を下ろす。
少女の痴態を思う様観察したそれは、早くしろと言わんばかりに灼熱し、痛いほど張っていた。
「おいで」
膝を叩くと、まだ冷めやらぬように、ふらふらと彼女が飛んできた。
相向かいになって座る彼女。
視線は、グロテスクなほど大きくなったそれに向いていた。
「・・・どうしたの?」
「あの、ね。『おいしそう』って、思っちゃったの」
「すっかりエッチになっちゃったね」
「えっちな女の子、嫌い?」
「いいや、大好き」
腰を浮かして、と促す。
こくん。
はっきりと、頷く少女。
おそるおそる、少女の腰が近づく。
怒張の先端を持ち、自分の膣(なか)へ導くために。
怖々と、腰が、下ろされる。
先端が、触れる。
「ひゃっ・・・」
驚きの悲鳴。
歓喜の悲鳴。
「あ、あ、あ」
少しずつ、小さな穴に飲み込まれる、愚息。
少しずつ、大きくなっていく、嬌声。
少しずつ、熱と湿り気が伝わる。
少しずつ、少しずつ。
「う、きつ、い・・・」
見た目相応のサイズしかない穴は。
見た目不相応のサイズの肉棒を飲み込む。
締め付けられる。
熱に、肉に、ぬめりに、襞に。
悦ぶように、股間に血が集まり、脈打つのが判る。
「あ、あ、あぁ、あ」
もう少し。
「ああああぁあぁあああぁあ!!」
入った。
全部。
「あ、はぁ、はぁ、はぁ」
「痛くなかった?」
「だい、じょうぶ。ちょっと、イっちゃった、だけ」
息を荒げながらそう言った。
膝に乗せているのにまだ下に見える顔に、キスをねだる。
「ん、ふ、んちゅ、ちゅる」
互いに、繋がった悦びを伝えるように。
もっと、身も心も一つになろうと求めるように。
顔を離し、伝える。
「もっと、気持ちよくなろう」
「・・・うん」
少女の腰が、ゆっくりと浮く。
「ふぁ、あ、あ」
そして、ゆっくりと、沈む。
「あぁあ、ああ、んあ」
少女の動きに合わせ、愚息に、搾られる感覚が伝わる。
柔らかな襞に包まれ。
愛の体液に濡れ。
焼け付くような、幼い体温が伝わる。
「う、っく、これは、もた、ない・・・」
それは、かつて体験したことのない悦楽で。
今までにない享楽で。
いくらでも浸っていたい、快楽。
「あ、あぁ、あ、あ、あ、あ!」
それは彼女も同じなようで。
急かすように、貪るように。
早くなる、動き。
ちゅく、ちゅく、ずちゅ、じゅく
小さな女性器から漏れる、卑猥な音。
「あ、ああ、んあぁ、あ、くっ、あ、んあ、ふ、あああ!」
小さな口から漏れる、悦びの声。
耳から、脳髄へ。
あどけない身体が、精一杯求めるのが、聞こえる。
彼女の身体を抱く。
無意識だろうか、抱き返す彼女。
持ち上げては、下ろす。
彼女がそういう道具であるように。
肉棒をしごき上げる道具であるように。
持ち上げては、下ろす。
強引に、貪欲に。
「あっ、あっ、ふぁぁ、あっ、んあっ」
もっと欲しい。
突き上げるように、腰を動かす。
深く、さらに深く。
その奥の快楽を感じるために。
「あ、やだ、また、イく、また、きちゃう、でちゃう」
「いいよ、俺も、そろそろだ」
「一緒、一緒がいい、いっしょに、イこ、一緒に」
「もちろん・・・だ!」
応えるように。
一層強く、腰を突き入れる。
彼女を貫くように。
彼女の奥まで、届くように。
「奥、届いて、気持ち、いいの、とどい、あ、イく、イく、だめ、もう、あ、あ、あぁぁぁあ!!」
「ぐっ!」
どくん。
迫り上がる、熱。
どくん。
睾丸から。
どくん。
尿道を通り。
どくん。
彼女へと。
「あ、ぴくぴく、って、うごい、て、あ、出るっ!」
男根の根元に、生暖かく、湿る感触。
陰嚢を伝い、尻まで、潮で濡れる。
きゅう、と、幼い膣がさらに締まる。
欲しがる。
精を。
どくん。
呼応するように。
どくん。
さらに吐き出される。
二人で、きつく抱き合う。
接合部が、そうであるように。
「あつい、の、おなか、いっぱいに・・・」
「うっ、く!」
最後の一滴を出し終える感覚を覚え。
脱力し、彼女を抱えたまま、ベッドへ身体を投げ出す。
はぁ、はぁ、はぁ
互いの呼吸を感じながら。
陰部の繋がりを感じながら。
しばらく、そうしていた。
「え、えへへ・・・しちゃった、はじめて」
いたずらが成功したときのような笑顔で、彼女が笑った。
「お望みとあらば次も用意してありますよ、姫」
悪戯っぽく、言い返す。
「もう、えっち・・・じゃあ、ちょっと休んだら、ね」
「はいはい」
「よいしょ」
身体を起こす彼女。
「んっ・・・」
抜かれる感覚。
ごぼり。
そう聞こえそうなくらい、彼女の股から、白濁した液が溢れる。
それは彼女の白い脚を伝い。
それでも足りない分が、俺の腹に、落ちる。
「あ、でちゃった・・・ん」
指でそれを掬い摂り、口へ運ぶ。
「ちゅぷ・・・ん、おいしい」
えへへ、と、またはにかむ彼女。
身体を倒し、大の字に投げ出された俺の腕に納まる。
そのまま、目を閉じ。
寝息。
安らかな、寝息。
それを子守唄にしながら。
俺の意識も、落ちていった。
「ぁ・・・あ?」
目を覚まし、起き上がる。
まだ混濁する意識で、周囲を確認する。
相変わらず自分の部屋。
外はまだ夜中で。
月が、窓から照らしていた。
彼女。
彼女はどこに。
そこで、気付く。
ベッドに突いた自分の手が、半透明な何かを貫通していることに。
月明かりに浮かぶ、ゴーストの寝顔がそこにあることに。
横向きに、さもその方向に愛しい誰かがいるかのように。
満足そうに、眠っていた。
布団は当然にすり抜け、肩が虚空に出てしまっていて。
歳の割にちょっと大きめなお尻も見え隠れしていて。
身体の半分は、俺自身に埋もれていた。
「全く・・・」
彼女と、重なるように、寝転がる。
そして、自分の肩を抱くように、腕を回す。
「こっちの方がより重なれるなんて、なんの皮肉だよ」
そう一人ごちて。
また、淫らな夢の中へと、戻っていった。
15/06/24 21:51更新 / cover-d