鳥かごの中の想い
今日もまた、穏やかな朝だ。
城から離れた農村の朝。
日はまだ半分と顔を出しておらず、西の空へ、朝と夜との境界が、グラデーションを描いていた。
頬を撫でる風は夜露のわずかな湿気と、ほのかな土の香りを運んできた。
ささささささ・・・・
すっかり黄金色になった麦畑が、収穫を急くように鳴っている。
農家の朝は早い。
必然的に、警備員の---彼の朝もまた、早くから始まるのだった。
柔らかなパンと甘くこってりとした牛乳、パリパリのサラダに、端の香ばしく焼けた目玉焼き。
簡素ながらも、どれも質の良い朝食だ。
この村で暮らす上で、食事だけは事欠いたことがない。
むしろ城下町にいた頃より充実してさえいる。
城からの給料よりも、村民からのもらい物の方が値打ちがあるのには苦笑いするしかないが。
ふぅ。
腹をさすり、朝っぱらから十二分に胃が満ちたのを感じた。
「さて、と・・・そろそろ行くか」
外から聞こえ始めた、台車の車軸が軋む音に返事をし、彼の一日が始まった。
「おはよーさーん」
麦畑の中から、小柄なおじさんが声をかける。
「あぁ、おはようございます」
「今日もいい天気だねぇ、絶好の麦刈り日和だ!」
「えぇ、とても気持ちがいいです」
「兄ちゃんも仕事頑張ってなー!」
「はい、それでは」
皮鎧に身を包み、麦畑の中を切る轍(わだち)を進む。
黄金色の大海原を割く道は何事もなく続いており、自分の---警備員の存在を否定するかのような、牧歌的な光景が広がっていた。
世間では魔物の出現や被害の話を聞くが、ここにはそういった話はまるでなく、また、無縁であるようだった。
「よう、おはようさん」
「おはようございます、村長」
杖をつき、麦畑を眺める老人に出会う。
「お前さんが来たのは麦の種まきをしていた頃だったよなぁ。もう半年以上前の話になるのか。どうだい、村の生活には慣れたかい」
「おかげさまで。いいところですね」
「若い者にはつまらんだろう、こんな何もないところ」
「いえ、俺たちみたいな仕事は、暇してるのが一番なんですよ。何も問題が無い、ってことですし」
村長はかかかと笑った。かと思うと、ふと真面目な顔になる。
「本当は心苦しいんだよ。君のような真面目な青年を、こんなへんぴな場所で飼い殺すようなのは。みんな城の方に行ってしまって若いのもいない。本当なら嫁の一人も・・・」
「いいんですよ、そんなの」
言葉を切るように、彼が答えた。
村長はその言葉からか、陰りを見せた彼の表情を見てか、それ以上話すのを止めたようだった。
「おーい!ちょっと手を貸しておくれよ!台車が脱輪しちまったよ!」
恰幅のいいおばさんからの声。
「あ、すみません、ちょっと行ってきます」
村長の次の言葉を待たず、逃げるように立ち去った。
一日の仕事---大半が農作業の手伝いだが---を終え、家のベッドに横たわる。
一日を思い返し、村長との会話が脳裏に過る。
嫁。
別に独り身が好きなわけでも女性が嫌いなわけでもない。
ただ---恐いのだ。
城の警護をしていた頃。
プレートメイルに身を包み、絢爛豪華な城に出入りしていた頃。
城下を襲う魔物---旧い魔物とも何度か渡り合った。
自慢する気はないが、それなりに実力もあったし、小さいが隊を任されたことだってある。
そんな中。
縁談の話があった。
ある程度の役職にいるのだから、家庭くらい持たないといけない。
風習として、だった。
断る理由もないので受けた。
美人で気の利く人だった。
自分にはもったいないと思ったが、それでも、可能な限り大切にしようと思った。
思っていた。
がむしゃらに働き、少しでも良い暮らしをさせてあげようと思った。
思っていた。
ろくに休みも取らず、朝から晩まで働き、家では寝るだけになっていた。
それでも彼女は微笑みで迎えてくれたし、それでいいんだと思っていた。
思ってしまっていた。
ほころびに気付くことなく。
唐突に、
あっさりと、
それは終わっていた。
終わってしまっていた。
大切にしていたもの。
しようとしていたものが。
「ごめんなさい」
それだけ書かれた紙だけを、今まで一緒だった証拠として。
惨めだった。
街を護る男は、一人の女の心も護れなかった。
折れた心のまま、この街にはいたくないことを告げた。
警護団の証のプレートメイルを返し、安物の皮鎧を受け取り。
街の喧噪に背を向け、小さな荷物を手に。
小雨の降りしきる中、冷えきった心と共に。
逃げるように、去った。
「---す」
意識が戻り始める。
「--は--す」
昨日は・・・そうか、ベッドに倒れて・・・
「おは---ます」
次第に違和感に気付き始める。
「おはようございます」
「うぉっ!?」
目の前に若い女性がいた。
後ずさるつもりが、勢いで壁に頭をぶつける。
「だ、大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない。主にこの状況が。
涙目になりながら状況を確認する。
自分の家で、自分のベッドで、そこまでは昨日のままだ。
メイド服を着た彼女だけが、明らかに、唐突に、増えている。
「あの、お怪我は---」
「誰だ、お前は!」
彼女の言葉を遮るように言い放つ。
「は、はい。唐突の来訪、ご容赦願います。私、キキーモラと申します」
「---っ、魔物かっ!」
とにかく武器になるものを求めた。
端から見れば手をばたつかせて滑稽に見えるだろうが、必死だった。
「え、と・・・こちらですか?」
彼女から差し出された剣をひったくるようにつかみ、鞘から出すのも忘れ切っ先を向ける。
それが小刻みに震えていることも、当然ながら気付いていない。
魔物の侵入を許した。それだけで、冷静ではいられなかったのだ。
「な、何が目的だ!」
油断なく剣を構えたまま---鞘から抜いていないのでつもり、でしかなかったが---叫んだ。
「私たちは、誰かに仕えることを至上の喜びとしております。是非とも、貴方様のお側に置いて頂けないかと---」
「断るっ!」
間髪入れずに言った。
「お、俺はワイバーンの群れを倒したこともある!辺境にいるからと油断してると痛い目---」
ぐぅ。
ただならぬ状況であったが、こちらもただならぬ状況だと腹の虫が知らせた。
よく考えてみれば、昨晩は何も食べてない。
「ふふっ、お食事の用意はできていますよ」
微笑み、背中を向け、キッチンへと歩く彼女。
そこに敵意や悪意を見出そうとしたが、無理だった。なにより、自らの失態に呆れ、毒気を抜かれてしまっていた。
仕方なくベッドから這い出る。
「今スクランブルエッグが出来ます。どうぞ、お先にお顔を洗ってきてください」
未だ状況を理解できないまま、生返事を返し、外の井戸へ向かう。
冷えた井戸水に助けを求めるように、何度も顔を流した。
落ち着け。冷静になれ。
何故こんな状況になったのか。
「夜に鍵を掛けずに寝た」
---あまりに馬鹿げた結論だった。
とりあえず先を考えろ。
あいつは俺をどうしようとしているのか。
そこではたと気付いた。
俺はどこから剣を取った?
あいつの手から。
そのまま俺を殺せたはずだし、寝込みを襲うことなどいくらでもできたはずだ。
それほど間の抜けた魔物なのか----それとも、本当に敵意はないのか。
今一度、冷えた水で顔を流す。
魔物を放っておいて被害が出ることだけは避けたい。
とりあえず監視だけはしておかなければ。あるいは隙を見て----
「朝食の準備が整いましたよ。どうぞこちらへいらしてください」
剣を握り直し、家のドアを開けた。
部屋の中は香りで満ちていた。
焼き直され、香ばしくなったパン。こちらも温められたか、湯気と共に甘い香りを立てる牛乳。
バターの香りはスクランブルエッグ。それと---
「ハーブティーはお嫌いではありませんか?こちらに来る途中、ハーブの群生地を見つけたので淹れてみたのですが」
どれも食欲をそそるものばかりだ。
先ほどは緊張のあまり気付かなかったが、どうやら腹の虫はこれらに反応していたらしい。
「お席にどうぞ。お口に合えば良いのですが」
促されるまま席に着く。が、剣だけはいつでも取れるよう、テーブルに立てかけておいた。
城に仕えているときは、毒味も仕事の一つだった。
異常があればすぐに吐き出せる自信はあるが・・・
「・・・どうされました?」
あまりに訝しがるためか、警戒させてしまったようだ。
食べない、というのがベターな選択肢なのだが、奇麗に並べられた料理を前にしては、腹の虫を抑える事はできそうにない。
おそるおそる、スクランブルエッグを口に運ぶ。
・・・異常、アリ。
かなり美味い。単に空きっ腹だったことを除いても、ふわふわとした食感と程よいバターの塩が、よく合っていた。
あとは堰を切ったように食べ続けていた。その間も彼女を見ていたが、ただ笑みを浮かべて給仕をしていただけで、怪しいそぶりを見せなかった。
全て食べ終わり。
「ハーブティーのおかわりはいかが致します?」
「・・・あ、あぁ」
食器を片付ける彼女の姿を見る。
手の周りに羽毛らしきものが見え、尻尾・・・いや、尾羽か?がある。丈の長いスカートから覗く足はヒールのようでもあるが、恐らく鳥の足が変化したものだろう。
旧い魔物の相手はしていたが、この手の---新しいタイプの魔物は初めて見た。
男を好んで襲う習性があるとは、城にいた頃に聞いたが・・・詳しく、どう、というのは、先輩が口ごもってしまったため良くは知らない。
「何が・・・」
「はい?」
「何が目的なんだ?」
「はい。私たちキキーモラは誰かにお仕えするのを喜びとしており、どうかお仕えさせていただけないかと、こうして参りました」
嘘を言っている様子はない。もちろん、そういう素振りを見せていないだけ、かもしれないが。
「俺が知っている魔物は、人を襲う。お前は・・・」
「この辺りはまだ私たちのような魔物はあまり侵攻していないようですね。お話致します」
とつとつと語られた--途中、ハーブティーのおかわりをもらいながら--それは、驚くべきものだった。
魔王が代わり、人類と種族を統合する計画があること。
つまり、かつてのような武力による敵対ではなく、親和を求めていること。
「私の姿もその一つ・・・お察しの通り、元は鳥のような魔物でした」
かつて戦った魔物と姿を合わせようとするが・・・あまりにかけ離れている。
これも親和のための策なのだろうか。
「私たちキキーモラは、こうして人間に仕えることを選んだ種族です」
にわかには信じがたいことが並ぶ。
「もちろん、すぐに信じて頂けるとは思っていません。どうか、暫くの間で構いませんので、置いて頂けないでしょうか」
もし、本当に親和を望んでいるのであれば、このまま手にかけるのは良くない話である。
争いなどないに越した事はなく、それを否定、まして殺害などという手段で否定してしまうのは、今後を考えても避けたい。
やはり、監視下に置いて様子を見るのがいいだろう。
「わかった。だが、少しでも害を成せば・・・」
「心得ております」
剣を抜き脅してやる心づもりだったが、首を差し出すかのように深々を頭を下げられてしまった。
それから時が経つのは早かった。
もともと腰の低い彼女は村に馴染むのも早く、警戒心の薄い村民は彼女が魔物であると言われても、最初の印象だけで無害と判断してしまったようだった。
青年は村の警備--というより農作業--を続け、彼女は彼を支え続けた。
一月、二月と経ち、彼女の存在に慣れてきた。
ただただ、自分の世話を続ける彼女。
その笑顔に偽りはなく。
彼女が幸せであるということだけが、伝わってきた。
しかしそれを見る度。それを見る程。
彼の心には、またあのときの事が過っていた。
失うことの恐怖。
献身的な彼女を見るたび・・・ただ仕事に明け暮れた自分を、笑顔で、笑顔だけで迎えたことが思い出される。
するりと手を離れる、幸せ。
彼女の笑顔を見るたび・・・それだけが、不安になる。
それと同時に。
その不安が、彼女---キキーモラがいることに、幸せを感じている自分に気付かせた。
疲れて帰った家が明るい、幸せ。
誰かが待っていてくれる、幸せ。
温かな料理を食べられる、幸せ。
それが突然消えてしまう、恐怖。
自分を支える笑顔がある、幸せ。
かつての過ちを繰り返す、恐怖。
それでも、手に入れたいと切望したもの---幸せ。
二つの狭間で大きく揺らぎ。
心が、次第に、疲れていくのを、感じた。
それが、狂気と似ていることには、気付かなかった。
ある夜。
「ちょっと」
「はい」
彼は彼女を呼んだ。
「ベッドの上に座ってみてくれないか?」
「こう、ですか?」
ベッドの上に正座する。
「そう、そのまま、動かないで」
彼は彼女の後ろに回り・・・手を、縄で縛り上げた。
「え?ちょっ・・・」
「動くな!」
普段の彼とはまるで違う気迫に押され、それ以上の言葉を出せなくなる。
縄は首に、胴に、乱暴に、滅茶苦茶に、加減なくまとわりつく。
次第に、上半身の身動きが取れなくなる。
ぎちり。ぎちり。
縄は彼女の柔らかな肌に食い込み、容赦なく跡を残していく。
それでも、彼女は抵抗はしなかった。
縄の残りが少なくなり、ようやく彼の動きが止まる。
力まかせに動いたせいか、息を荒げている。
「・・・っ、こ、れは・・・」
痛みに耐えながらも、なんとか声を出す彼女。
次の瞬間。
彼が抱きついてきた。
大の男の力で、全力で、押しつぶされるかのように。
・・・っ、はかっ
肺の空気が漏れる。
締め上げるように。逃がさないように。
力の限り、抱きしめられた。
それでも。
それでも、彼女は呻きを上げなかった。
彼女は気付いたからだ。
それは赤ん坊が手に触れたものを離すまいと握るように。
それは子供が気に入った玩具を胸に抱きとめるように。
悪意のない、純粋過ぎるものだと気付いていたから。
存在を、確かめるように。
ただ、逃がさないように。
それを手放さないために。
強く、強く。
思いの限り。
だから、何も、抵抗は、しなかった。
どれくらい経っただろうか。
不意に、彼の力が抜ける。
「・・・ごめん」
謝罪。
「ごめん」
それは誰に対してのものだったのだろう。
ぽとり、と、うなじに生暖かい雫を感じた。
涙。
「前、家庭を持っていた」
彼は語り出した。
「幸せだった。幸せだったけど、幸せにしてやることはできなかった。
俺のせいで壊してしまった。逃げてしまった。
だから。だからもう逃がしたくなかった。
自分が悪いのは判っている。直したつもりでいる。でも、どうしても、恐かった。
失うことが、恐かった。
鳥かごに入れてでも、君を、手放したく、なかった。だから、だから・・・」
拙い言葉。
「・・・こんなことをしても、駄目なのは判ってる。
君の心を離れさせてしまうだけだって」
涙声。
「今気付いた。今更。
でも、やらずにはいられなかった。
どうしても、君を・・・」
「私、嬉しいです」
不意の言葉に、驚く彼。
「私たちは、誰かに仕えることを喜びとしています。例え所有物扱いでもいい。主人のためになれたら・・・ずっと、そう思っていました」
今振り向いたら、彼はぐしゃぐしゃの顔できょとんとしているんだろうな。
そう思いながら続ける。
「だから、嬉しいんです。離すまいとしてくれたことが。これでやっと、貴方に認められた気がして。貴方の大切なものになれた気がして」
「俺は・・・」
「ふふっ、縛られながら嬉しいだなんて、変態さんみたいですね、私」
自嘲気味に笑って。
「どうか、悲しまないで下さい。どうか、謝らないで下さい。そして、言わせて下さい。
貴方に出会えて、よかった」
小さな衝撃。背中に、彼の頭が当たった衝撃。
「そして---どうか、これからも、私を、よろしくお願いします」
服の背中は、既に彼の涙でずぶ濡れで、荒い吐息で灼熱しているのも判った。
声を殺して、泣いているのが判った。
どれくらいそうしていただろうか。
「・・・遅くなったけど、言わせてくれ」
落ち着いた声で、はっきりと、言った。
「これからも、俺を支えて欲しい。これから先も、俺と一緒にいてほしい。これからずっと、共に歩んで欲しい」
応えは決まっていた。
「誓います。この身、果てるまで」
彼が、彼女の前に回り込み、顔を覗き込む。
彼女は相変わらず、嬉しそうに微笑んでいた。
彼は見るも無惨に、目を腫らしていた。
次第に顔が近づき。
唇が重なる。
先ほどとは違う、力強くも、優しい、包容。
「・・・君が、欲しい」
「ふふっ、こんなことまでしておいて、今更訊きますか?」
縄で縛られた身体をよじりながら、可笑しそうに笑った。
「身も、心も、既に貴方のものですよ。どうぞ、存分にご堪能くださいな」
「・・・ははっ、じゃあ、遠慮なく」
もう一度、キスをする。
今度は、親愛のキスではない。
互いに、互いを求めるキス。
舌をからめ、舐り、五感全てで相手を感じようとするかのように。
んっ、んんっ
喉から漏れる甘い呻きと、粘り気のある水音が響く。
熱を持ち始めた身体を冷やすように、呼吸が荒くなる。
口を塞がれ行き先を失った空気が、荒い鼻息として互いにかかる。
それすらも、二人には甘美なものに感じられた。
んちゅっ・・・はぁ、はぁ
どちらから、ともなく、顔を離し、二つの呼気だけが響く。
「縄・・・外そうか」
「いえ、今は・・・今だけは、貴方の所有物で、いさせてくださいな」
潤んだ瞳と上気した頬で応えた。
「ふふっ、やっぱり私、変態さんですね」
「かもね」
「さぁ、どうぞ。欲望のままに、私をお使いください」
ゆっくりとそう言う彼女の口は、先ほどの口づけで溢れた唾液がきらめいていた。
それはとても艶かしく、とても扇情的で。
我慢という言葉が馬鹿らしくなるようだった。
あぁ、これが新魔王の計画で、彼女達が女性の姿をしている理由か。
侵攻より恐ろしい、搾取じゃないか。
ちらとそんなことを思ったが。
刹那には吹き飛んでいた。
服が邪魔であるかのように脱ぎ捨てる。
汚れた欲望の象徴を彼女の顔に近づけると、彼女はそうすることが自然であるかのように咥えた。
ちゅるっ、ちゅるっ
敏感な部分に伝わる、柔らかな舌の感触と熱。
数度出し入れされただけで、かつてないほどの滾るのが判った。
ちゅぷっ。
口を離し、そそり勃つそれに、鼻を近づける彼女
匂いを確かめるように、深く呼吸をする。
うっとりとした表情を見せる。それは、自分に仕えている喜びの表情ではない。
一匹の雌が見せる、悦びの表情。
求める雄を見つけた、悦びの表情。
舌を伸ばし、全てを味わい尽くすように、裏筋から竿先まで舐め上げる。
時に鈴口を舌で弄び、時に陰嚢にしゃぶりつき。
それだけで軽い射精感を覚えるほどに、熟達した技術だった。
「あぁ、先端からお汁が・・・ふふっ、気に入って頂けたようですね」
ちゅるり、と先走りを吸い取り、彼女は言った。
「どうぞ、思いのまま、すべて吐き出して下さいませ」
小さな口を、精一杯開ける彼女。
口内は高ぶりで粘り気を増した唾液が糸を引き、てらてらと光っていた。
その淫靡な光景に、理性など、とうに弾け飛んでいた。
誘われるままに愚息を突き入れ、彼女の頭を抑えこみ、ただただ快楽を追い求め、腰を振っていた。
んじゅっ、んぶっ、んっ、んぐっ、んじゅっ
乱暴に、暴力的に、力まかせに、獣のように。
んじゅっ、んじゅるっ、ごぶっ、んじゅっ
愛しい顔が歪む様を見下ろしながら。
愛しい顔が苦悶するのを見下しながら。
ただ、快楽を得るために。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・うぐっ」
溢れ出た、という感じが近い。
止められていたものが抜けていくように。
熱い欲を、ぶちまけた。
ん、んぐっ、んぐっ
嚥下の音が聞こえる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、え、あ、ご、ごめん!」
野性に押し込められていた理性が戻る。
彼女は無理矢理ねじ込まれた肉棒と、そこから吐き出された白濁を飲むため、目の端に涙を貯めながら、耐えているようだった。
慌てて抜くと、欲望の残滓が、つ、と糸を引き、まだ満足できないとばかりに先端から溢れさせていた。
「あ、まだ・・・んちゅる」
それを彼女が追いかけ、一滴たりとも逃すまいと吸い上げた。
先端を吸い、こちらが心配になるほど深く咥え込む。
小さな口をいっぱいまで広げ、まるで甘露を求めるように、根元から搾り取った。
それだけで再度果てそうになるのを堪え、彼女と視線を合わせた。
「ごめん!なんか・・・その、我慢、できなくて」
こくん、と、最後の一滴を飲み終えた彼女は。
「いえ、嬉しいです。私に夢中になってくれたのが。私で満足して頂けるのが」
また笑顔を取り戻し、言った。
「ただ、ちょっと、その・・・濃いのがいっぱいで、飲むのに苦労しちゃった、というか・・・」
顔を赤らめ、恥じるように視線をそらす。
「あ、まぁ、その・・・ごめん」
・・・沈黙。
「・・・ふふっ」
「はははっ」
何が可笑しかったのか、互いの顔を見て笑い出す。
和やかな空気。
心が満たされていくのを感じながら。
「そちらは・・・まだ満足し足りないみたいですね、ふふっ」
未だ収まらない怒張を見ながら、彼女は言った。
「あ、あぁ・・・なんか本当、ごめん」
「もう、謝ってばかり。謝らないでください、って言いましたのに」
ふざけた風に、彼女は言った。
「ならば、お気の済むよう、私からお詫びの印を要求させて頂きます」
きょとんとする彼。
一段と顔を赤くした彼女。
それは、これから見せる自らの痴態を恥じたのか、主人に求めた自分を恥じたのか、定かではなかった。
ゆっくりと、もじもじと。縄で縛られた身体をよじりながら、彼女は腰を突き出した。
「その、どうか、お情けを、頂けますか・・・?」
ふさっとした尻尾の下、スカートの上からでも判る、形の良い尻を見た。
ショーツどころか、スカートにまでできた大きな染みが、彼女の我慢を物語っていた。
あれだけ乱暴に扱われながらも、彼女は、待っていたのだ。
「わかった。だけど、そっちから要求したからには、加減はしないよ?」
「心得ております」
後ろから抱きしめ、キスを交わす。
ぬちゃりと、苦みのある精の残りが感じられたが、どうでも良かった。
彼女と同じ味を共有できたことに、興奮すら覚える。
背中の一物の動きを感じたか、彼女が言う。
「ふふっ、ご自身のものを味わいながら、なお滾らせるなんて、貴方もなかなかお好きなのですね」
「いいじゃないか。これで変態同士だ。変態らしく、淫らになろう」
精は、魔を強くする。
魔術の基礎で知ってはいた。
それは即ち、魔物を助長させることになる。
だが、そんなことはどうでもよかった。
今だけは、ほとんどのものは---世界の理でさえも---無価値であった。
目の前の、愛しいものを除いては。
「君と一緒なら、どこまでも、堕ちていける」
「だーめ。キキーモラは、働き者の味方なんですよ?」
子供をたしなめるように言った。
「知るか。今はただ、互いを求めるだけの雄と雌だ」
「まるでケダモノですね」
「嫌いか?」
「いいえ---どうぞ、滅茶苦茶にして下さいませ」
唇をむさぼりながら、程よい膨らみに右手をかける。
ん、ふぅっ
彼女の反応を唇で押さえつけながら、服の上から揉みしだく。
ふぅー、ん、くちゅっ、ふぅー
布越しでもわかる柔らかさに、やっぱり縄を解いて脱いでもらった方がよかったな、などと思いながらも。
左の手で、膝から、太ももへ、そして、秘部へと、這わせる。
柔らかく、滑らかな、女性の肌。
それを感じながら、ショーツの前面を、優しくなで回す。
ん、んんんんっ、ぷはぁ、あ、あぁぁ
堪らず離した口から、彼女が声を上げる。
下半身への愛撫を続けながら、服越しにも判るほどの、胸のしこりをつまみ上げた。
「ひぁっ、ああぁ!や、一緒に、いじるの、だ、だめです!」
「加減はしないって言ったよね?」
「で、も、そんなひゃうっ!」
既に水に浸かったかのように濡れたショーツに手を入れる。
割れ目の周りの柔らかな肉をなで上げる。
ひゃん!
時に、優しく、時に、強めに。
頃合いを見て、濡れに濡れた水源へと指を這わせる。
あ、んっ、あぁっ
まだ、その奥へは入れない。
壊れてしまうものを扱うように、触れるか触れないかの境目を探りながら。
彼女がかぶりを振る。
焦らされるのが嫌いらしい。
ならば、と、その先端の突起へと向かう。
ひっ
触れただけで、いい反応をされた。
そのままこね回す。
「あ、あ、ああぁああああ!」
両手にそれぞれ、別の突起を弄ぶ。
くちゃくちゃとさらに水気を増す秘部。
頃合いかな、と、その手を止める。
「あ、え、あ・・・?」
困惑する彼女の背中に、すっかり固さを戻したモノを押し当てながら、囁く。
「そろそろ、いいかな」
彼女の痴態を思う様堪能した愚息は、元に戻って、それどころか、痛いくらいに張っていた。
「あ、はい。申し訳ありません、すっかり私だけ愉しんでしまったようで・・・」
「ううん、とっても、可愛かったよ」
快楽に上気したそれとは別に、彼女の顔が真っ赤になる。
もう、と口では文句をいいながら、縛られた上半身をクッションに倒し、こちらに尻を向ける姿勢を取る。
「では、お願いします・・・」
スカートをたくし上げ、濡れたショーツをゆっくり、優しく、下げる。
露(あらわ)になったそれは、男性を迎え入れるのを、今か今かと待ちわびているようだった。
足先こそ鳥のようであったが、それは、人間のそれと同じように、魅力的であった。
この瞬間を待ちわびていたとばかりに、愚息が跳ねる。
それを見たか見ていないか定かではないが。
「ふふっ、どうされました?」
誘うような、彼女の声。
「うん、見とれてた」
素直に返す。
「もう、私の痴態だけじゃ飽き足らず、恥ずかしいところまでまじまじと観察なさるなんて、本当に変態さんなんですね」
「嫌いになった?」
「いいえ、早く欲しいだけですよ」
「この変態さんめ」
「ふふっ」
急かされたなら、くれてやろう。
こちらも我慢が利かなくなってきたところだ。
怒張した先端を割れ目に充てがい、こするように、濡らすように動かす。
動きに合わせ、小さくうめく彼女に、下卑た支配欲を満たされながら。
「いくよ」
「・・・はい」
確かめるように、味わうように。
緩やかに、突いた。
彼女の小さな悲鳴。
それを聞きながら、違和感に気付く。
先端が入ったところで、抵抗を受けたのだ。
「・・・もしかして」
「・・・っ・・・はい。主人に、全てを捧げるのが、我々ですから。もちろん、初めても」
少し苦しそうに言った。
「生娘は、お嫌い、でした?」
「いや。想われてるな、って。そう思っただけ」
どこまでも、愛おしい。
そんな彼女と、今、一つになる。
満たされている。幸せに。
「・・・それじゃ、初物、いただきます」
「ふふっ、召し上がれ」
少し腰を引き。
抵抗を続ける膜を。
ゆっくりと。
貫いた。
あああああぁあぁあっ
悲鳴。
破瓜の痛みに耐える悲鳴。
主人に捧げた歓喜の悲鳴。
「お、あじ、は、いかが、でし、たか・・・」
脂汗を滲ませながら、満足そうな顔をしながら、彼女は訊いた。
自分を心配させまいと軽口でごまかそうとしている。
「まだまだ。メインはこれからだよ」
「ふふっ、そうでしたね」
彼女の半身をひねらせ、繋がったまま、ついばむように口づけをする。
彼女の準備が整うまで。
「もう、大丈夫ですよ」
弱々しく言った。
「それじゃ、動くよ」
ゆっくりと、彼女に負担をかけないように。
「う、くっ」
「大丈夫か?」
「全然平気です・・・ただ、初めての男性の感覚が、凄くて・・・」
痛みはすっかり取れたようだった。
これも、男性の精を取ろうとする本能故、なのだろうか。
「続けるよ」
そのまま、やさしく、動く。
彼女の膣(なか)は、熱く蠢き、厚く肉棒を包み込んだ。
「は、ああぁあ!んあ!あっ、あっ!」
ひと突き、ふた突きするたび、彼女の反応が大きくなる。
ひと突き、ふた突きするたび、自分の動きが早くなっているのに気付く。
快楽。
欲しい。
感じたことのない、焦燥感。
快楽。
寄越せ。
感じたことのない、渇望感。
快楽。
もっと。
感じたことのない、底なしの欲望。
快楽。
彼女と、共に。
ただただ、獣のように、腰を振る自分。
ただただ、獣のように、悦びに吠える彼女。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
肉を打ち付ける音がこだまする。
はぁっ、はぁっ、ん、あ、ん、んっ、あ、ああ、あああぁあぁあ!!
荒い息と、吠える声が、二つ、重なる。
彼女。
彼女が見たい。
少しだけ動きを止め、彼女の脚を自分の肩にかけ、彼女がよく見えるようにした。
雄を受け入れた雌の、とろけた顔。
それが見たかった。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
さらに早く、さらに深く。
あっ、あっ、あっ、あっ
さらに求め、さらに貪り。
これが魔力、なのだろうか。
もはや狂気。
それでも---それを、受け入れてしまう、自分がいる。
ずっと、この狂気に---愛を糧に生きるだけの、狂気に---踊らされていたい。
「あ、あああっ、い、イき、そ、あ、あ!!」
きゅう、と、ヴァギナが締まる。
「うっ!」
迸る、熱。
「あ、熱い、熱いのが、きて、なか、いっぱ、あ、イく、あ、あぁぁああぁあ!」
ビクン、ビクン
止まらない。
彼女のそれも、精の味に反応したのか、一層強く蠢く。
搾り取るように。
それが本能とでも言うように。
ぐったりと、彼女に覆い被さる。
共に、熱くなった身体を寄せ合いながら。
まだ足りないとばかりに射精(で)続ける感覚に浸っていた。
「ふぅ、うっ」
なんとか上体を上げ、引き抜く。
ごぶっ
栓の抜けた膣から、信じられない量の精が溢れる。
「あ、いっぱい、流れて・・・」
もったいない。彼女はそんな表情をしていた。
縛られたままで手が動かないだけで、今にもそれを掬(すく)って飲み干しそうだった。
「大丈夫、いっぱい、あげるから。これから、ずっと」
「・・・はい」
満足そうに微笑む彼女。
それを抱きしめた。
手放すまいと。
逃がすまいと。
翼を縛られた鳥を。
縛られてなお、自分を慕う鳥を。
疲れて消えそうな意識の中で。
いつか、魔力の狂気に捕われる事になろうとも。
彼女との時間だけは、決して消えないと。
腕の中の暖かさに安堵しながら。
二つの寝息が重なり、夜の帳へ消えていった。
城から離れた農村の朝。
日はまだ半分と顔を出しておらず、西の空へ、朝と夜との境界が、グラデーションを描いていた。
頬を撫でる風は夜露のわずかな湿気と、ほのかな土の香りを運んできた。
ささささささ・・・・
すっかり黄金色になった麦畑が、収穫を急くように鳴っている。
農家の朝は早い。
必然的に、警備員の---彼の朝もまた、早くから始まるのだった。
柔らかなパンと甘くこってりとした牛乳、パリパリのサラダに、端の香ばしく焼けた目玉焼き。
簡素ながらも、どれも質の良い朝食だ。
この村で暮らす上で、食事だけは事欠いたことがない。
むしろ城下町にいた頃より充実してさえいる。
城からの給料よりも、村民からのもらい物の方が値打ちがあるのには苦笑いするしかないが。
ふぅ。
腹をさすり、朝っぱらから十二分に胃が満ちたのを感じた。
「さて、と・・・そろそろ行くか」
外から聞こえ始めた、台車の車軸が軋む音に返事をし、彼の一日が始まった。
「おはよーさーん」
麦畑の中から、小柄なおじさんが声をかける。
「あぁ、おはようございます」
「今日もいい天気だねぇ、絶好の麦刈り日和だ!」
「えぇ、とても気持ちがいいです」
「兄ちゃんも仕事頑張ってなー!」
「はい、それでは」
皮鎧に身を包み、麦畑の中を切る轍(わだち)を進む。
黄金色の大海原を割く道は何事もなく続いており、自分の---警備員の存在を否定するかのような、牧歌的な光景が広がっていた。
世間では魔物の出現や被害の話を聞くが、ここにはそういった話はまるでなく、また、無縁であるようだった。
「よう、おはようさん」
「おはようございます、村長」
杖をつき、麦畑を眺める老人に出会う。
「お前さんが来たのは麦の種まきをしていた頃だったよなぁ。もう半年以上前の話になるのか。どうだい、村の生活には慣れたかい」
「おかげさまで。いいところですね」
「若い者にはつまらんだろう、こんな何もないところ」
「いえ、俺たちみたいな仕事は、暇してるのが一番なんですよ。何も問題が無い、ってことですし」
村長はかかかと笑った。かと思うと、ふと真面目な顔になる。
「本当は心苦しいんだよ。君のような真面目な青年を、こんなへんぴな場所で飼い殺すようなのは。みんな城の方に行ってしまって若いのもいない。本当なら嫁の一人も・・・」
「いいんですよ、そんなの」
言葉を切るように、彼が答えた。
村長はその言葉からか、陰りを見せた彼の表情を見てか、それ以上話すのを止めたようだった。
「おーい!ちょっと手を貸しておくれよ!台車が脱輪しちまったよ!」
恰幅のいいおばさんからの声。
「あ、すみません、ちょっと行ってきます」
村長の次の言葉を待たず、逃げるように立ち去った。
一日の仕事---大半が農作業の手伝いだが---を終え、家のベッドに横たわる。
一日を思い返し、村長との会話が脳裏に過る。
嫁。
別に独り身が好きなわけでも女性が嫌いなわけでもない。
ただ---恐いのだ。
城の警護をしていた頃。
プレートメイルに身を包み、絢爛豪華な城に出入りしていた頃。
城下を襲う魔物---旧い魔物とも何度か渡り合った。
自慢する気はないが、それなりに実力もあったし、小さいが隊を任されたことだってある。
そんな中。
縁談の話があった。
ある程度の役職にいるのだから、家庭くらい持たないといけない。
風習として、だった。
断る理由もないので受けた。
美人で気の利く人だった。
自分にはもったいないと思ったが、それでも、可能な限り大切にしようと思った。
思っていた。
がむしゃらに働き、少しでも良い暮らしをさせてあげようと思った。
思っていた。
ろくに休みも取らず、朝から晩まで働き、家では寝るだけになっていた。
それでも彼女は微笑みで迎えてくれたし、それでいいんだと思っていた。
思ってしまっていた。
ほころびに気付くことなく。
唐突に、
あっさりと、
それは終わっていた。
終わってしまっていた。
大切にしていたもの。
しようとしていたものが。
「ごめんなさい」
それだけ書かれた紙だけを、今まで一緒だった証拠として。
惨めだった。
街を護る男は、一人の女の心も護れなかった。
折れた心のまま、この街にはいたくないことを告げた。
警護団の証のプレートメイルを返し、安物の皮鎧を受け取り。
街の喧噪に背を向け、小さな荷物を手に。
小雨の降りしきる中、冷えきった心と共に。
逃げるように、去った。
「---す」
意識が戻り始める。
「--は--す」
昨日は・・・そうか、ベッドに倒れて・・・
「おは---ます」
次第に違和感に気付き始める。
「おはようございます」
「うぉっ!?」
目の前に若い女性がいた。
後ずさるつもりが、勢いで壁に頭をぶつける。
「だ、大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない。主にこの状況が。
涙目になりながら状況を確認する。
自分の家で、自分のベッドで、そこまでは昨日のままだ。
メイド服を着た彼女だけが、明らかに、唐突に、増えている。
「あの、お怪我は---」
「誰だ、お前は!」
彼女の言葉を遮るように言い放つ。
「は、はい。唐突の来訪、ご容赦願います。私、キキーモラと申します」
「---っ、魔物かっ!」
とにかく武器になるものを求めた。
端から見れば手をばたつかせて滑稽に見えるだろうが、必死だった。
「え、と・・・こちらですか?」
彼女から差し出された剣をひったくるようにつかみ、鞘から出すのも忘れ切っ先を向ける。
それが小刻みに震えていることも、当然ながら気付いていない。
魔物の侵入を許した。それだけで、冷静ではいられなかったのだ。
「な、何が目的だ!」
油断なく剣を構えたまま---鞘から抜いていないのでつもり、でしかなかったが---叫んだ。
「私たちは、誰かに仕えることを至上の喜びとしております。是非とも、貴方様のお側に置いて頂けないかと---」
「断るっ!」
間髪入れずに言った。
「お、俺はワイバーンの群れを倒したこともある!辺境にいるからと油断してると痛い目---」
ぐぅ。
ただならぬ状況であったが、こちらもただならぬ状況だと腹の虫が知らせた。
よく考えてみれば、昨晩は何も食べてない。
「ふふっ、お食事の用意はできていますよ」
微笑み、背中を向け、キッチンへと歩く彼女。
そこに敵意や悪意を見出そうとしたが、無理だった。なにより、自らの失態に呆れ、毒気を抜かれてしまっていた。
仕方なくベッドから這い出る。
「今スクランブルエッグが出来ます。どうぞ、お先にお顔を洗ってきてください」
未だ状況を理解できないまま、生返事を返し、外の井戸へ向かう。
冷えた井戸水に助けを求めるように、何度も顔を流した。
落ち着け。冷静になれ。
何故こんな状況になったのか。
「夜に鍵を掛けずに寝た」
---あまりに馬鹿げた結論だった。
とりあえず先を考えろ。
あいつは俺をどうしようとしているのか。
そこではたと気付いた。
俺はどこから剣を取った?
あいつの手から。
そのまま俺を殺せたはずだし、寝込みを襲うことなどいくらでもできたはずだ。
それほど間の抜けた魔物なのか----それとも、本当に敵意はないのか。
今一度、冷えた水で顔を流す。
魔物を放っておいて被害が出ることだけは避けたい。
とりあえず監視だけはしておかなければ。あるいは隙を見て----
「朝食の準備が整いましたよ。どうぞこちらへいらしてください」
剣を握り直し、家のドアを開けた。
部屋の中は香りで満ちていた。
焼き直され、香ばしくなったパン。こちらも温められたか、湯気と共に甘い香りを立てる牛乳。
バターの香りはスクランブルエッグ。それと---
「ハーブティーはお嫌いではありませんか?こちらに来る途中、ハーブの群生地を見つけたので淹れてみたのですが」
どれも食欲をそそるものばかりだ。
先ほどは緊張のあまり気付かなかったが、どうやら腹の虫はこれらに反応していたらしい。
「お席にどうぞ。お口に合えば良いのですが」
促されるまま席に着く。が、剣だけはいつでも取れるよう、テーブルに立てかけておいた。
城に仕えているときは、毒味も仕事の一つだった。
異常があればすぐに吐き出せる自信はあるが・・・
「・・・どうされました?」
あまりに訝しがるためか、警戒させてしまったようだ。
食べない、というのがベターな選択肢なのだが、奇麗に並べられた料理を前にしては、腹の虫を抑える事はできそうにない。
おそるおそる、スクランブルエッグを口に運ぶ。
・・・異常、アリ。
かなり美味い。単に空きっ腹だったことを除いても、ふわふわとした食感と程よいバターの塩が、よく合っていた。
あとは堰を切ったように食べ続けていた。その間も彼女を見ていたが、ただ笑みを浮かべて給仕をしていただけで、怪しいそぶりを見せなかった。
全て食べ終わり。
「ハーブティーのおかわりはいかが致します?」
「・・・あ、あぁ」
食器を片付ける彼女の姿を見る。
手の周りに羽毛らしきものが見え、尻尾・・・いや、尾羽か?がある。丈の長いスカートから覗く足はヒールのようでもあるが、恐らく鳥の足が変化したものだろう。
旧い魔物の相手はしていたが、この手の---新しいタイプの魔物は初めて見た。
男を好んで襲う習性があるとは、城にいた頃に聞いたが・・・詳しく、どう、というのは、先輩が口ごもってしまったため良くは知らない。
「何が・・・」
「はい?」
「何が目的なんだ?」
「はい。私たちキキーモラは誰かにお仕えするのを喜びとしており、どうかお仕えさせていただけないかと、こうして参りました」
嘘を言っている様子はない。もちろん、そういう素振りを見せていないだけ、かもしれないが。
「俺が知っている魔物は、人を襲う。お前は・・・」
「この辺りはまだ私たちのような魔物はあまり侵攻していないようですね。お話致します」
とつとつと語られた--途中、ハーブティーのおかわりをもらいながら--それは、驚くべきものだった。
魔王が代わり、人類と種族を統合する計画があること。
つまり、かつてのような武力による敵対ではなく、親和を求めていること。
「私の姿もその一つ・・・お察しの通り、元は鳥のような魔物でした」
かつて戦った魔物と姿を合わせようとするが・・・あまりにかけ離れている。
これも親和のための策なのだろうか。
「私たちキキーモラは、こうして人間に仕えることを選んだ種族です」
にわかには信じがたいことが並ぶ。
「もちろん、すぐに信じて頂けるとは思っていません。どうか、暫くの間で構いませんので、置いて頂けないでしょうか」
もし、本当に親和を望んでいるのであれば、このまま手にかけるのは良くない話である。
争いなどないに越した事はなく、それを否定、まして殺害などという手段で否定してしまうのは、今後を考えても避けたい。
やはり、監視下に置いて様子を見るのがいいだろう。
「わかった。だが、少しでも害を成せば・・・」
「心得ております」
剣を抜き脅してやる心づもりだったが、首を差し出すかのように深々を頭を下げられてしまった。
それから時が経つのは早かった。
もともと腰の低い彼女は村に馴染むのも早く、警戒心の薄い村民は彼女が魔物であると言われても、最初の印象だけで無害と判断してしまったようだった。
青年は村の警備--というより農作業--を続け、彼女は彼を支え続けた。
一月、二月と経ち、彼女の存在に慣れてきた。
ただただ、自分の世話を続ける彼女。
その笑顔に偽りはなく。
彼女が幸せであるということだけが、伝わってきた。
しかしそれを見る度。それを見る程。
彼の心には、またあのときの事が過っていた。
失うことの恐怖。
献身的な彼女を見るたび・・・ただ仕事に明け暮れた自分を、笑顔で、笑顔だけで迎えたことが思い出される。
するりと手を離れる、幸せ。
彼女の笑顔を見るたび・・・それだけが、不安になる。
それと同時に。
その不安が、彼女---キキーモラがいることに、幸せを感じている自分に気付かせた。
疲れて帰った家が明るい、幸せ。
誰かが待っていてくれる、幸せ。
温かな料理を食べられる、幸せ。
それが突然消えてしまう、恐怖。
自分を支える笑顔がある、幸せ。
かつての過ちを繰り返す、恐怖。
それでも、手に入れたいと切望したもの---幸せ。
二つの狭間で大きく揺らぎ。
心が、次第に、疲れていくのを、感じた。
それが、狂気と似ていることには、気付かなかった。
ある夜。
「ちょっと」
「はい」
彼は彼女を呼んだ。
「ベッドの上に座ってみてくれないか?」
「こう、ですか?」
ベッドの上に正座する。
「そう、そのまま、動かないで」
彼は彼女の後ろに回り・・・手を、縄で縛り上げた。
「え?ちょっ・・・」
「動くな!」
普段の彼とはまるで違う気迫に押され、それ以上の言葉を出せなくなる。
縄は首に、胴に、乱暴に、滅茶苦茶に、加減なくまとわりつく。
次第に、上半身の身動きが取れなくなる。
ぎちり。ぎちり。
縄は彼女の柔らかな肌に食い込み、容赦なく跡を残していく。
それでも、彼女は抵抗はしなかった。
縄の残りが少なくなり、ようやく彼の動きが止まる。
力まかせに動いたせいか、息を荒げている。
「・・・っ、こ、れは・・・」
痛みに耐えながらも、なんとか声を出す彼女。
次の瞬間。
彼が抱きついてきた。
大の男の力で、全力で、押しつぶされるかのように。
・・・っ、はかっ
肺の空気が漏れる。
締め上げるように。逃がさないように。
力の限り、抱きしめられた。
それでも。
それでも、彼女は呻きを上げなかった。
彼女は気付いたからだ。
それは赤ん坊が手に触れたものを離すまいと握るように。
それは子供が気に入った玩具を胸に抱きとめるように。
悪意のない、純粋過ぎるものだと気付いていたから。
存在を、確かめるように。
ただ、逃がさないように。
それを手放さないために。
強く、強く。
思いの限り。
だから、何も、抵抗は、しなかった。
どれくらい経っただろうか。
不意に、彼の力が抜ける。
「・・・ごめん」
謝罪。
「ごめん」
それは誰に対してのものだったのだろう。
ぽとり、と、うなじに生暖かい雫を感じた。
涙。
「前、家庭を持っていた」
彼は語り出した。
「幸せだった。幸せだったけど、幸せにしてやることはできなかった。
俺のせいで壊してしまった。逃げてしまった。
だから。だからもう逃がしたくなかった。
自分が悪いのは判っている。直したつもりでいる。でも、どうしても、恐かった。
失うことが、恐かった。
鳥かごに入れてでも、君を、手放したく、なかった。だから、だから・・・」
拙い言葉。
「・・・こんなことをしても、駄目なのは判ってる。
君の心を離れさせてしまうだけだって」
涙声。
「今気付いた。今更。
でも、やらずにはいられなかった。
どうしても、君を・・・」
「私、嬉しいです」
不意の言葉に、驚く彼。
「私たちは、誰かに仕えることを喜びとしています。例え所有物扱いでもいい。主人のためになれたら・・・ずっと、そう思っていました」
今振り向いたら、彼はぐしゃぐしゃの顔できょとんとしているんだろうな。
そう思いながら続ける。
「だから、嬉しいんです。離すまいとしてくれたことが。これでやっと、貴方に認められた気がして。貴方の大切なものになれた気がして」
「俺は・・・」
「ふふっ、縛られながら嬉しいだなんて、変態さんみたいですね、私」
自嘲気味に笑って。
「どうか、悲しまないで下さい。どうか、謝らないで下さい。そして、言わせて下さい。
貴方に出会えて、よかった」
小さな衝撃。背中に、彼の頭が当たった衝撃。
「そして---どうか、これからも、私を、よろしくお願いします」
服の背中は、既に彼の涙でずぶ濡れで、荒い吐息で灼熱しているのも判った。
声を殺して、泣いているのが判った。
どれくらいそうしていただろうか。
「・・・遅くなったけど、言わせてくれ」
落ち着いた声で、はっきりと、言った。
「これからも、俺を支えて欲しい。これから先も、俺と一緒にいてほしい。これからずっと、共に歩んで欲しい」
応えは決まっていた。
「誓います。この身、果てるまで」
彼が、彼女の前に回り込み、顔を覗き込む。
彼女は相変わらず、嬉しそうに微笑んでいた。
彼は見るも無惨に、目を腫らしていた。
次第に顔が近づき。
唇が重なる。
先ほどとは違う、力強くも、優しい、包容。
「・・・君が、欲しい」
「ふふっ、こんなことまでしておいて、今更訊きますか?」
縄で縛られた身体をよじりながら、可笑しそうに笑った。
「身も、心も、既に貴方のものですよ。どうぞ、存分にご堪能くださいな」
「・・・ははっ、じゃあ、遠慮なく」
もう一度、キスをする。
今度は、親愛のキスではない。
互いに、互いを求めるキス。
舌をからめ、舐り、五感全てで相手を感じようとするかのように。
んっ、んんっ
喉から漏れる甘い呻きと、粘り気のある水音が響く。
熱を持ち始めた身体を冷やすように、呼吸が荒くなる。
口を塞がれ行き先を失った空気が、荒い鼻息として互いにかかる。
それすらも、二人には甘美なものに感じられた。
んちゅっ・・・はぁ、はぁ
どちらから、ともなく、顔を離し、二つの呼気だけが響く。
「縄・・・外そうか」
「いえ、今は・・・今だけは、貴方の所有物で、いさせてくださいな」
潤んだ瞳と上気した頬で応えた。
「ふふっ、やっぱり私、変態さんですね」
「かもね」
「さぁ、どうぞ。欲望のままに、私をお使いください」
ゆっくりとそう言う彼女の口は、先ほどの口づけで溢れた唾液がきらめいていた。
それはとても艶かしく、とても扇情的で。
我慢という言葉が馬鹿らしくなるようだった。
あぁ、これが新魔王の計画で、彼女達が女性の姿をしている理由か。
侵攻より恐ろしい、搾取じゃないか。
ちらとそんなことを思ったが。
刹那には吹き飛んでいた。
服が邪魔であるかのように脱ぎ捨てる。
汚れた欲望の象徴を彼女の顔に近づけると、彼女はそうすることが自然であるかのように咥えた。
ちゅるっ、ちゅるっ
敏感な部分に伝わる、柔らかな舌の感触と熱。
数度出し入れされただけで、かつてないほどの滾るのが判った。
ちゅぷっ。
口を離し、そそり勃つそれに、鼻を近づける彼女
匂いを確かめるように、深く呼吸をする。
うっとりとした表情を見せる。それは、自分に仕えている喜びの表情ではない。
一匹の雌が見せる、悦びの表情。
求める雄を見つけた、悦びの表情。
舌を伸ばし、全てを味わい尽くすように、裏筋から竿先まで舐め上げる。
時に鈴口を舌で弄び、時に陰嚢にしゃぶりつき。
それだけで軽い射精感を覚えるほどに、熟達した技術だった。
「あぁ、先端からお汁が・・・ふふっ、気に入って頂けたようですね」
ちゅるり、と先走りを吸い取り、彼女は言った。
「どうぞ、思いのまま、すべて吐き出して下さいませ」
小さな口を、精一杯開ける彼女。
口内は高ぶりで粘り気を増した唾液が糸を引き、てらてらと光っていた。
その淫靡な光景に、理性など、とうに弾け飛んでいた。
誘われるままに愚息を突き入れ、彼女の頭を抑えこみ、ただただ快楽を追い求め、腰を振っていた。
んじゅっ、んぶっ、んっ、んぐっ、んじゅっ
乱暴に、暴力的に、力まかせに、獣のように。
んじゅっ、んじゅるっ、ごぶっ、んじゅっ
愛しい顔が歪む様を見下ろしながら。
愛しい顔が苦悶するのを見下しながら。
ただ、快楽を得るために。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・うぐっ」
溢れ出た、という感じが近い。
止められていたものが抜けていくように。
熱い欲を、ぶちまけた。
ん、んぐっ、んぐっ
嚥下の音が聞こえる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、え、あ、ご、ごめん!」
野性に押し込められていた理性が戻る。
彼女は無理矢理ねじ込まれた肉棒と、そこから吐き出された白濁を飲むため、目の端に涙を貯めながら、耐えているようだった。
慌てて抜くと、欲望の残滓が、つ、と糸を引き、まだ満足できないとばかりに先端から溢れさせていた。
「あ、まだ・・・んちゅる」
それを彼女が追いかけ、一滴たりとも逃すまいと吸い上げた。
先端を吸い、こちらが心配になるほど深く咥え込む。
小さな口をいっぱいまで広げ、まるで甘露を求めるように、根元から搾り取った。
それだけで再度果てそうになるのを堪え、彼女と視線を合わせた。
「ごめん!なんか・・・その、我慢、できなくて」
こくん、と、最後の一滴を飲み終えた彼女は。
「いえ、嬉しいです。私に夢中になってくれたのが。私で満足して頂けるのが」
また笑顔を取り戻し、言った。
「ただ、ちょっと、その・・・濃いのがいっぱいで、飲むのに苦労しちゃった、というか・・・」
顔を赤らめ、恥じるように視線をそらす。
「あ、まぁ、その・・・ごめん」
・・・沈黙。
「・・・ふふっ」
「はははっ」
何が可笑しかったのか、互いの顔を見て笑い出す。
和やかな空気。
心が満たされていくのを感じながら。
「そちらは・・・まだ満足し足りないみたいですね、ふふっ」
未だ収まらない怒張を見ながら、彼女は言った。
「あ、あぁ・・・なんか本当、ごめん」
「もう、謝ってばかり。謝らないでください、って言いましたのに」
ふざけた風に、彼女は言った。
「ならば、お気の済むよう、私からお詫びの印を要求させて頂きます」
きょとんとする彼。
一段と顔を赤くした彼女。
それは、これから見せる自らの痴態を恥じたのか、主人に求めた自分を恥じたのか、定かではなかった。
ゆっくりと、もじもじと。縄で縛られた身体をよじりながら、彼女は腰を突き出した。
「その、どうか、お情けを、頂けますか・・・?」
ふさっとした尻尾の下、スカートの上からでも判る、形の良い尻を見た。
ショーツどころか、スカートにまでできた大きな染みが、彼女の我慢を物語っていた。
あれだけ乱暴に扱われながらも、彼女は、待っていたのだ。
「わかった。だけど、そっちから要求したからには、加減はしないよ?」
「心得ております」
後ろから抱きしめ、キスを交わす。
ぬちゃりと、苦みのある精の残りが感じられたが、どうでも良かった。
彼女と同じ味を共有できたことに、興奮すら覚える。
背中の一物の動きを感じたか、彼女が言う。
「ふふっ、ご自身のものを味わいながら、なお滾らせるなんて、貴方もなかなかお好きなのですね」
「いいじゃないか。これで変態同士だ。変態らしく、淫らになろう」
精は、魔を強くする。
魔術の基礎で知ってはいた。
それは即ち、魔物を助長させることになる。
だが、そんなことはどうでもよかった。
今だけは、ほとんどのものは---世界の理でさえも---無価値であった。
目の前の、愛しいものを除いては。
「君と一緒なら、どこまでも、堕ちていける」
「だーめ。キキーモラは、働き者の味方なんですよ?」
子供をたしなめるように言った。
「知るか。今はただ、互いを求めるだけの雄と雌だ」
「まるでケダモノですね」
「嫌いか?」
「いいえ---どうぞ、滅茶苦茶にして下さいませ」
唇をむさぼりながら、程よい膨らみに右手をかける。
ん、ふぅっ
彼女の反応を唇で押さえつけながら、服の上から揉みしだく。
ふぅー、ん、くちゅっ、ふぅー
布越しでもわかる柔らかさに、やっぱり縄を解いて脱いでもらった方がよかったな、などと思いながらも。
左の手で、膝から、太ももへ、そして、秘部へと、這わせる。
柔らかく、滑らかな、女性の肌。
それを感じながら、ショーツの前面を、優しくなで回す。
ん、んんんんっ、ぷはぁ、あ、あぁぁ
堪らず離した口から、彼女が声を上げる。
下半身への愛撫を続けながら、服越しにも判るほどの、胸のしこりをつまみ上げた。
「ひぁっ、ああぁ!や、一緒に、いじるの、だ、だめです!」
「加減はしないって言ったよね?」
「で、も、そんなひゃうっ!」
既に水に浸かったかのように濡れたショーツに手を入れる。
割れ目の周りの柔らかな肉をなで上げる。
ひゃん!
時に、優しく、時に、強めに。
頃合いを見て、濡れに濡れた水源へと指を這わせる。
あ、んっ、あぁっ
まだ、その奥へは入れない。
壊れてしまうものを扱うように、触れるか触れないかの境目を探りながら。
彼女がかぶりを振る。
焦らされるのが嫌いらしい。
ならば、と、その先端の突起へと向かう。
ひっ
触れただけで、いい反応をされた。
そのままこね回す。
「あ、あ、ああぁああああ!」
両手にそれぞれ、別の突起を弄ぶ。
くちゃくちゃとさらに水気を増す秘部。
頃合いかな、と、その手を止める。
「あ、え、あ・・・?」
困惑する彼女の背中に、すっかり固さを戻したモノを押し当てながら、囁く。
「そろそろ、いいかな」
彼女の痴態を思う様堪能した愚息は、元に戻って、それどころか、痛いくらいに張っていた。
「あ、はい。申し訳ありません、すっかり私だけ愉しんでしまったようで・・・」
「ううん、とっても、可愛かったよ」
快楽に上気したそれとは別に、彼女の顔が真っ赤になる。
もう、と口では文句をいいながら、縛られた上半身をクッションに倒し、こちらに尻を向ける姿勢を取る。
「では、お願いします・・・」
スカートをたくし上げ、濡れたショーツをゆっくり、優しく、下げる。
露(あらわ)になったそれは、男性を迎え入れるのを、今か今かと待ちわびているようだった。
足先こそ鳥のようであったが、それは、人間のそれと同じように、魅力的であった。
この瞬間を待ちわびていたとばかりに、愚息が跳ねる。
それを見たか見ていないか定かではないが。
「ふふっ、どうされました?」
誘うような、彼女の声。
「うん、見とれてた」
素直に返す。
「もう、私の痴態だけじゃ飽き足らず、恥ずかしいところまでまじまじと観察なさるなんて、本当に変態さんなんですね」
「嫌いになった?」
「いいえ、早く欲しいだけですよ」
「この変態さんめ」
「ふふっ」
急かされたなら、くれてやろう。
こちらも我慢が利かなくなってきたところだ。
怒張した先端を割れ目に充てがい、こするように、濡らすように動かす。
動きに合わせ、小さくうめく彼女に、下卑た支配欲を満たされながら。
「いくよ」
「・・・はい」
確かめるように、味わうように。
緩やかに、突いた。
彼女の小さな悲鳴。
それを聞きながら、違和感に気付く。
先端が入ったところで、抵抗を受けたのだ。
「・・・もしかして」
「・・・っ・・・はい。主人に、全てを捧げるのが、我々ですから。もちろん、初めても」
少し苦しそうに言った。
「生娘は、お嫌い、でした?」
「いや。想われてるな、って。そう思っただけ」
どこまでも、愛おしい。
そんな彼女と、今、一つになる。
満たされている。幸せに。
「・・・それじゃ、初物、いただきます」
「ふふっ、召し上がれ」
少し腰を引き。
抵抗を続ける膜を。
ゆっくりと。
貫いた。
あああああぁあぁあっ
悲鳴。
破瓜の痛みに耐える悲鳴。
主人に捧げた歓喜の悲鳴。
「お、あじ、は、いかが、でし、たか・・・」
脂汗を滲ませながら、満足そうな顔をしながら、彼女は訊いた。
自分を心配させまいと軽口でごまかそうとしている。
「まだまだ。メインはこれからだよ」
「ふふっ、そうでしたね」
彼女の半身をひねらせ、繋がったまま、ついばむように口づけをする。
彼女の準備が整うまで。
「もう、大丈夫ですよ」
弱々しく言った。
「それじゃ、動くよ」
ゆっくりと、彼女に負担をかけないように。
「う、くっ」
「大丈夫か?」
「全然平気です・・・ただ、初めての男性の感覚が、凄くて・・・」
痛みはすっかり取れたようだった。
これも、男性の精を取ろうとする本能故、なのだろうか。
「続けるよ」
そのまま、やさしく、動く。
彼女の膣(なか)は、熱く蠢き、厚く肉棒を包み込んだ。
「は、ああぁあ!んあ!あっ、あっ!」
ひと突き、ふた突きするたび、彼女の反応が大きくなる。
ひと突き、ふた突きするたび、自分の動きが早くなっているのに気付く。
快楽。
欲しい。
感じたことのない、焦燥感。
快楽。
寄越せ。
感じたことのない、渇望感。
快楽。
もっと。
感じたことのない、底なしの欲望。
快楽。
彼女と、共に。
ただただ、獣のように、腰を振る自分。
ただただ、獣のように、悦びに吠える彼女。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
肉を打ち付ける音がこだまする。
はぁっ、はぁっ、ん、あ、ん、んっ、あ、ああ、あああぁあぁあ!!
荒い息と、吠える声が、二つ、重なる。
彼女。
彼女が見たい。
少しだけ動きを止め、彼女の脚を自分の肩にかけ、彼女がよく見えるようにした。
雄を受け入れた雌の、とろけた顔。
それが見たかった。
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
さらに早く、さらに深く。
あっ、あっ、あっ、あっ
さらに求め、さらに貪り。
これが魔力、なのだろうか。
もはや狂気。
それでも---それを、受け入れてしまう、自分がいる。
ずっと、この狂気に---愛を糧に生きるだけの、狂気に---踊らされていたい。
「あ、あああっ、い、イき、そ、あ、あ!!」
きゅう、と、ヴァギナが締まる。
「うっ!」
迸る、熱。
「あ、熱い、熱いのが、きて、なか、いっぱ、あ、イく、あ、あぁぁああぁあ!」
ビクン、ビクン
止まらない。
彼女のそれも、精の味に反応したのか、一層強く蠢く。
搾り取るように。
それが本能とでも言うように。
ぐったりと、彼女に覆い被さる。
共に、熱くなった身体を寄せ合いながら。
まだ足りないとばかりに射精(で)続ける感覚に浸っていた。
「ふぅ、うっ」
なんとか上体を上げ、引き抜く。
ごぶっ
栓の抜けた膣から、信じられない量の精が溢れる。
「あ、いっぱい、流れて・・・」
もったいない。彼女はそんな表情をしていた。
縛られたままで手が動かないだけで、今にもそれを掬(すく)って飲み干しそうだった。
「大丈夫、いっぱい、あげるから。これから、ずっと」
「・・・はい」
満足そうに微笑む彼女。
それを抱きしめた。
手放すまいと。
逃がすまいと。
翼を縛られた鳥を。
縛られてなお、自分を慕う鳥を。
疲れて消えそうな意識の中で。
いつか、魔力の狂気に捕われる事になろうとも。
彼女との時間だけは、決して消えないと。
腕の中の暖かさに安堵しながら。
二つの寝息が重なり、夜の帳へ消えていった。
15/06/18 07:26更新 / cover-d