不器用な男は河童と歩む
水の流れる涼しげな音を聞きながら、俺は釣り竿の先をぼぉっと眺めていた。
左を見れば、先ほどまでに釣れた3匹の川魚が容器の中ですいすいと泳いでいる。
右を見れば、足先を川へと放り投げぱちゃぱちゃと水面を蹴り上げている河童がいる。
「なぁミドリ、魚が逃げると何度言えば分かるんだ？」
「だぁってつまんないんだもん。リョウも胡坐崩して足入れれば？ 冷たくて気持ちいいよ」
その河童の名はミドリといい、俺ことリョウの幼なじみである。
彼女との付き合いは俺がここに住み始めた頃から俺も彼女も二十歳になる今現在まで続いているのだ。
十年近くも彼女と一緒にいるのだなぁと懐かしく思うのも当然と言えるほどの年月が経っている。
彼女との出会いもこんな暑い夏の日だったとその日のことを思い出す。
11年前の春、祖父母の住む村に越してきた僕を待っていたのは広がる大自然であった。
流行りの病にかかってしまい、療養のために父母のもとを離れ自然あふれるこの村に来たのだ。
若い人たちはもっと栄えている場所へと出稼ぎに行っているらしく、子どもは僕ひとりであった。
ご近所のおじさん・おばさんたちに親切にして貰ってはいるものの、僕も好奇心旺盛な腕白坊主。
春から夏へと季節が移り変わり、すっかり病気も治っていた僕は村の外へ探検に出かけたのである。
「あ、小川だ！ ……ん、誰かいるぞ？」
みんみんと鳴く蝉の音に混じる小川のせせらぎに導かれ、僕はそこで彼女と出会った。
髪はおかっぱで艶やかな黒であったが、頭頂部には大きく丸いお皿が備わっている。
背中には亀にも似た甲羅があり、服装もゆったりとした着物ではなく身体にぴちっと張り付いている。
そしてなにより自分と違うのは、若葉のように鮮やかな薄緑色の肌と、指の間にある薄い膜であった。
「こんにちは！」
目をくりくりと輝かせながら大きな声で挨拶をしてくる少女。
自分とまったく違う容姿にほんの少しの畏怖を感じていた僕も大きな声で挨拶を返す。
「こんにちは！ 僕はリョウ、君の名前は？」
「私はミドリ！ 人間を見るのって私初めて！」
「君は人間じゃないの？ 君は一体なぁに？」
「河童って言うんだよ！ 河童見るの初めて？」
「初めて見た！ 河童かぁ、なんかすごいね！」
言葉を交わし始めてすぐに仲良くなった僕たち。
好奇心が人並み以上にあった僕は彼女にたくさんの質問を浴びせた。
何歳なの？ 好きな色は？ 好きな食べ物は？ どうしてここにいるの？ などと言う僕に対し、
9歳だよ！ 名前と一緒！ キュウリが大好き！ 私ここに住んでるの！ と矢継早に答える彼女。
同い年だと言うことも分かって、さらに親近感を覚えた僕は彼女とたくさんお喋りをした。
1時間も喋り倒しただろうか、彼女は僕にこう問いかけてきた。
「ねぇリョウ、お相撲しない？」
「すもう？ 相撲って、まぁるい円の中で押し合いっこするあの相撲？」
「そうそう！ 私のお母さんが昔したって言っててね、人間と出会ったらお相撲したいなってずぅっと思ってたの！」
「うーん……いいよ、お相撲しよっか！」
「やったぁ！ じゃあこっちこっち、ここなら倒れても痛くないよ！」
僕の手を取って嬉しそうに走り出し、案内するミドリ。
先ほどまで居た石ころだらけの地面ではなく、そこにはやわらかい土が広がっていた。
「『はっけよーい、のこった』って言ったら始めるんだよ！」
「分かった！ 体動かすの久しぶりだけど負けないからね！」
「久しぶり？ リョウすごい元気いっぱいなのに運動しないの？」
「ちょっと前まで病気でずっと寝てたんだ。元気になったしいっぱい運動するぞぉ！」
そう言うとミドリは先ほどまでの嬉しそうな表情を一気に暗いものへと変えてしまった。
どうしたんだろう、と彼女の顔を覗き込むとミドリは僕のことをじぃっと見つめてこう言った。
「無茶してなぁい？ 運動だめなら他の遊びでもいいよ？」
どうやら僕のことを心配してくれているらしいミドリ。
僕の病気は数か月も自然に囲まれていたため、すっかり完治しているとここのお医者様の太鼓判つきである。
僕はにっこりと笑って彼女に返事をする。
「大丈夫だよ！ ミドリは相撲がしたかったんでしょ？ 僕でよければ一緒にしよ！」
「……うん！ でも、体が苦しくなったら途中でもちゃんと言ってね？」
「分かった、約束する、はい指切り！」
「うん、指切り！ 約束だからね！」
僕も彼女も右手の小指を絡ませ合って約束する。
彼女の指と指の間の膜 ―彼女いわく水かき、先ほどの質問でそう聞いた― はどうやらかなり伸縮性に優れているようだった。
指切りげんまんで始まる馴染みのフレーズを唱えている間、小指に感じるすべすべとした感触を堪能していた。
「指切った！ それじゃお相撲しよ！」
「うん！ ミドリ、僕負けないからね！」
「私も負けないから！ はっけよーい……のこった！」
彼女の掛け声とともに組み合う僕たち。
彼女は僕の着物の帯をつかみ、僕は彼女の腰辺りを持って押し合った。
彼女の腰はすらっとしているのにとても柔らかく、なんだか変なことを考えてしまいそうだった。
いかんと頭を振りそのことから意識をそらして彼女を懸命に押すものの、久しぶりの運動で体がうまく動かない。
1分と経たないうちに彼女が思い切り僕を押しのけて背中を地面へ付けてしまった。
「あたっ！ ……はぁ、僕の負けだね」
「……う、うん……」
地面へと寝そべってしまった僕に跨っているミドリ。
負けてしまった僕は少し笑いながら彼女に話しかけるも、彼女の様子がなんだかおかしかった。
頬に軽く赤色が混じり照れているようであったが、それは勝利を喜んでいるようには見えなかった。
「ねぇ、ミドリ？ 僕の上からおりて？」
「え、あぅ、その、降りるよ？ 降りるけど……」
言葉を濁しつつ僕の顔を見るものの彼女は全く動こうとはしなかった。
顔を赤らめたままで、もじもじと体を捩らせているものの、降りる様子は見られない。
十分ほど押し問答をしてようやくどいてくれた彼女の顔はやっぱり赤らんでいたのであった。
その日は相撲が終わった後に別れて、それから彼女とは毎日のように遊ぶようになっていた。
とは言っても、相撲をしたのは初めて会ったその日だけで、それ以降はお喋りするのが多かった。
「ねぇリョウ、リョウってば！」
「……うん？ どうしたミドリ」
「どうしたじゃないよ、またぼけーっとしてさ。暑いよぉー、つまらないよぉー」
どうやら彼女と出会った日のことを思い出してるうちにまた呆けていたらしい。
彼女の声に意識を覚醒させて、また竿の先に視線を向ける。
「おいミドリ、水面を蹴るなと言ってるだろ。魚が逃げるじゃないか」
「だって釣り見ててもつまらないんだもん。それに水の中気持ちいいんだもん」
「夕食には4匹必要だろ、爺ちゃん婆ちゃん俺にミドリ。今日は俺の家で飯食う約束だろ？」
「そうだけど3匹でも良いじゃん。リョウと私で1匹をはんぶんこすればさ」
「この前家に来た時もそうして頭と尻尾で喧嘩になっただろうが」
「リョウが『頭の方がいい』って聞かないからいけないんだよ」
「……この話はやめだやめ、俺はあと1匹釣るぞ」
竿の先は揺れ動く様子を微塵も見せない。
だと言うのに水面はミドリの足の挙動に合わせて揺れ動いている。
「ミドリ、足を動かすのを止めろ」
「じゃあお話してよ、釣り竿見てばっかじゃなくて私の方見てさ」
「それじゃ結局釣れないだろうが」
「リョウも釣れないなぁ」
「そうか、魚も釣れない」
彼女も俺も互いに黙りこみ、水の跳ねる音と蝉の鳴き声が空間を支配していく。
――何か話しかけるか、さて何を話すか……。
たわいのない話など3匹釣り上げる間にし尽くしている。
まぁ何か口に出せば場は持つだろう、と考えなしに言葉を発した。
「なぁミドリ」
「なによぉ。止めろって言っても嫌だからね」
「互いに二十歳になったな」
「……そうだね。時間が経つのって早いね」
「だな。楽しい時間ならなおさら早く感じる」
「……リョウは私と居て、楽しいんだ？」
「まぁな、そうで無ければずっと一緒に居やしない。ミドリは？」
「私も一緒だよ。楽しいよ、でも足りない」
「……足りない、か」
「ねぇ、リョウ。私ね、ずっと前から」
「好きだぞ、ミドリ」
水の跳ねる音が止む。
竿から視線を右へずらしミドリの方へと顔を向けると、彼女は少し涙ぐみながらも嬉しそうに微笑んでいた。
「……なぁんでそういうこと顔も見ないで言うのかなぁ」
「すまんな。俺は不器用なんだ」
「昔はすっごい素直だったのになぁ」
「昔の話だ。だが好きな気持ちは昔から変わらないぞ」
「そっか、私も一緒。昔からずっと好きだよ」
「そうか。……なんだか照れくさいものだな」
「リョウがそんなだから私から言おうかなって思ったのにな」
「こういうのは男から言うものだって爺ちゃんがな」
「今日お礼言わないとだね」
「報告もしないとな」
とても穏やかな時間が流れていく。
揺れる竿先に気付き釣り竿を引き上げると一匹の川魚がかかっていた。
「4匹目だね」
「そうだな、目標達成だ」
魚を容器へ放り込み道具を片づけ始める俺と、手持無沙汰な彼女。
粗方片づけ終わって、彼女の方へ体を向けて大きく深呼吸する。
「もう一度言う。ミドリ、好きだ。こんな俺だが良いか？」
「もう、しょうがないなぁリョウは。私が貰ってあげるよ」
そう言って俺に抱きついてくるミドリ。
壊れそうなほど華奢な体を抱き寄せると、彼女の体が震えているのに気付く。
耳に聞こえる咽び泣く彼女の声に気付き、俺は彼女の体をきつく抱きしめる。
「なんで泣いてるんだ、ミドリ？」
「だって……だってさ？ じゅ、十年以上も、待ったんだよぉ？」
「……待たせて、済まなかった」
「もう、我慢しなくても、良いんだよね？」
「あぁ。これからもずっと一緒だ」
そう言い終わるや否や、彼女は俺をそっと押し倒してきた。
あの日と同じく、地面に寝そべっている俺と跨っている彼女。
彼女の目には涙が溜まり、頬には涙の流れた後がある。
手を伸ばし親指で拭ってやると、彼女はやっと泣きやんでほほ笑んでくれた。
「ありがと、リョウ。ねぇ、我慢しなくて、良いんだよね？」
「良いぞ、しよう。だが初めてなんだ、無理はするなよ？」
「うん、大丈夫。約束する」
あの日は俺が彼女と約束したな、と感慨にふけっている間にミドリは俺の着物をはだけさせ、局部を露出させていく。
俺の性器も期待をしているのであろう、彼女が脱がして竿に指を這わせて先端に水かきで刺激を与えるだけで怒張する。
彼女の女性器も俺と同様に期待で準備はできているようで、服のような鱗をずらさずとも愛液が滴っているのが分かる。
ミドリは左手で鱗をずらして女性器を露出させ、右手で俺のモノを導いて彼女の膣内へと突き刺さらせた。
「いッ……たぁい……」
結合部から赤い血が流れ出すと同時にミドリの口から声が漏れる。
彼女は痛がっていると言うのに俺の性器は処女膜を破った快感で硬さをさらに増すばかりである。
彼女の膣内は圧力がすごく俺のモノはその快感を受け硬く熱く脈動する。
体は性的に反応せざるをえないものの、頭は彼女のことを心配せずにはいられない。
「大丈夫か、ミドリ？ 初めては痛いと聞く、やめるか？」
「う、うぅん、だいじょぉぶ……リョウと、繋がってるのが、嬉しいからぁ♪」
挿入した瞬間は苦痛に顔が歪んでいたが、確かに今の彼女の表情には快楽が混じっていた。
ゆっくりと腰を浮かせては、また奥まで俺のモノを深く招き入れる彼女の女性器。
次第に痛みも薄らいでいったのであろう、彼女の動きはどんどんと激しさを増していく。
「み、ミドリ、出すぞ……ッ」
「来てぇ♪ リョウっ、リョウ♪♪」
襲い来る快感が俺のモノを射精へと導く。
彼女が一層腰を深く落とすと同時に、俺は絶頂に達し彼女の最奥へと精液を注ぎ込む。
数十秒も射精をし続けたにもかかわらず、俺の性器はその硬さを一向に失おうとしない。
「ねぇリョウ、私まだ足りないのぉ♪ もっと、もっと繋がりたいのぉ♪」
「俺もだ、俺もまだまだし足りない。深く愛し合おう、ミドリ」
「うん♪ もっと繋がろう♪」
俺たちは快楽を貪り合った。
一緒にいたのに繋がれなかった空白を埋めるかのように激しく深く繋がり合った。
夕焼け時にもなると、夏といえども心地よい風が吹き涼しく感じる。
あの後数時間も繋がり合った俺たちは、川で水浴びをして汚れを落とした。
今は約束通りに晩飯のために俺の家へと向かっているところである。
「えへへぇ、リョウ？」
「どうかしたか」
「ちゃんとご報告しようね、晴れて初夜も済ませましたって」
「……昼だったがな。それに結婚の報告だけで十分だ」
「細かいことはいいの。大事なのは愛の言葉を囁き合いましたってことよ」
「いかん、やはり照れくさいな。報告は俺からする、ミドリは余計なこと言うな」
「素直じゃないなぁ、私の夫は。まぁそこも可愛らしいんだけどね」
走りだす彼女の手に引っ張られそうになるものの、力強く握り返すだけの俺。
一緒に走ってくれないことを不服に思ったのか、彼女は俺の方を向いて文句を言う。
「なによぉ、早く行きましょうよ。走ればすぐじゃない」
「いや、今日は歩いて帰ろう。二人の時間だ、ゆっくり、な」
恥ずかしさに顔が紅潮するのを自覚しながら彼女にそう告げる。
その間も繋がった手を離すことはない。
「……ふぅん、二人で居たいってことか。リョウは甘えんぼだなぁ」
「そ、そうじゃないぞ。疲れたのもあるしゆっくり歩きたいだけだ」
ただの言い訳なのは彼女も気付いているのだろう、何より俺自身が一番よく知っている。
そんな俺に「やっぱり素直じゃないなぁ」と、歩幅を合わせて彼女はそう微笑んでくれた。
左を見れば、先ほどまでに釣れた3匹の川魚が容器の中ですいすいと泳いでいる。
右を見れば、足先を川へと放り投げぱちゃぱちゃと水面を蹴り上げている河童がいる。
「なぁミドリ、魚が逃げると何度言えば分かるんだ？」
「だぁってつまんないんだもん。リョウも胡坐崩して足入れれば？ 冷たくて気持ちいいよ」
その河童の名はミドリといい、俺ことリョウの幼なじみである。
彼女との付き合いは俺がここに住み始めた頃から俺も彼女も二十歳になる今現在まで続いているのだ。
十年近くも彼女と一緒にいるのだなぁと懐かしく思うのも当然と言えるほどの年月が経っている。
彼女との出会いもこんな暑い夏の日だったとその日のことを思い出す。
11年前の春、祖父母の住む村に越してきた僕を待っていたのは広がる大自然であった。
流行りの病にかかってしまい、療養のために父母のもとを離れ自然あふれるこの村に来たのだ。
若い人たちはもっと栄えている場所へと出稼ぎに行っているらしく、子どもは僕ひとりであった。
ご近所のおじさん・おばさんたちに親切にして貰ってはいるものの、僕も好奇心旺盛な腕白坊主。
春から夏へと季節が移り変わり、すっかり病気も治っていた僕は村の外へ探検に出かけたのである。
「あ、小川だ！ ……ん、誰かいるぞ？」
みんみんと鳴く蝉の音に混じる小川のせせらぎに導かれ、僕はそこで彼女と出会った。
髪はおかっぱで艶やかな黒であったが、頭頂部には大きく丸いお皿が備わっている。
背中には亀にも似た甲羅があり、服装もゆったりとした着物ではなく身体にぴちっと張り付いている。
そしてなにより自分と違うのは、若葉のように鮮やかな薄緑色の肌と、指の間にある薄い膜であった。
「こんにちは！」
目をくりくりと輝かせながら大きな声で挨拶をしてくる少女。
自分とまったく違う容姿にほんの少しの畏怖を感じていた僕も大きな声で挨拶を返す。
「こんにちは！ 僕はリョウ、君の名前は？」
「私はミドリ！ 人間を見るのって私初めて！」
「君は人間じゃないの？ 君は一体なぁに？」
「河童って言うんだよ！ 河童見るの初めて？」
「初めて見た！ 河童かぁ、なんかすごいね！」
言葉を交わし始めてすぐに仲良くなった僕たち。
好奇心が人並み以上にあった僕は彼女にたくさんの質問を浴びせた。
何歳なの？ 好きな色は？ 好きな食べ物は？ どうしてここにいるの？ などと言う僕に対し、
9歳だよ！ 名前と一緒！ キュウリが大好き！ 私ここに住んでるの！ と矢継早に答える彼女。
同い年だと言うことも分かって、さらに親近感を覚えた僕は彼女とたくさんお喋りをした。
1時間も喋り倒しただろうか、彼女は僕にこう問いかけてきた。
「ねぇリョウ、お相撲しない？」
「すもう？ 相撲って、まぁるい円の中で押し合いっこするあの相撲？」
「そうそう！ 私のお母さんが昔したって言っててね、人間と出会ったらお相撲したいなってずぅっと思ってたの！」
「うーん……いいよ、お相撲しよっか！」
「やったぁ！ じゃあこっちこっち、ここなら倒れても痛くないよ！」
僕の手を取って嬉しそうに走り出し、案内するミドリ。
先ほどまで居た石ころだらけの地面ではなく、そこにはやわらかい土が広がっていた。
「『はっけよーい、のこった』って言ったら始めるんだよ！」
「分かった！ 体動かすの久しぶりだけど負けないからね！」
「久しぶり？ リョウすごい元気いっぱいなのに運動しないの？」
「ちょっと前まで病気でずっと寝てたんだ。元気になったしいっぱい運動するぞぉ！」
そう言うとミドリは先ほどまでの嬉しそうな表情を一気に暗いものへと変えてしまった。
どうしたんだろう、と彼女の顔を覗き込むとミドリは僕のことをじぃっと見つめてこう言った。
「無茶してなぁい？ 運動だめなら他の遊びでもいいよ？」
どうやら僕のことを心配してくれているらしいミドリ。
僕の病気は数か月も自然に囲まれていたため、すっかり完治しているとここのお医者様の太鼓判つきである。
僕はにっこりと笑って彼女に返事をする。
「大丈夫だよ！ ミドリは相撲がしたかったんでしょ？ 僕でよければ一緒にしよ！」
「……うん！ でも、体が苦しくなったら途中でもちゃんと言ってね？」
「分かった、約束する、はい指切り！」
「うん、指切り！ 約束だからね！」
僕も彼女も右手の小指を絡ませ合って約束する。
彼女の指と指の間の膜 ―彼女いわく水かき、先ほどの質問でそう聞いた― はどうやらかなり伸縮性に優れているようだった。
指切りげんまんで始まる馴染みのフレーズを唱えている間、小指に感じるすべすべとした感触を堪能していた。
「指切った！ それじゃお相撲しよ！」
「うん！ ミドリ、僕負けないからね！」
「私も負けないから！ はっけよーい……のこった！」
彼女の掛け声とともに組み合う僕たち。
彼女は僕の着物の帯をつかみ、僕は彼女の腰辺りを持って押し合った。
彼女の腰はすらっとしているのにとても柔らかく、なんだか変なことを考えてしまいそうだった。
いかんと頭を振りそのことから意識をそらして彼女を懸命に押すものの、久しぶりの運動で体がうまく動かない。
1分と経たないうちに彼女が思い切り僕を押しのけて背中を地面へ付けてしまった。
「あたっ！ ……はぁ、僕の負けだね」
「……う、うん……」
地面へと寝そべってしまった僕に跨っているミドリ。
負けてしまった僕は少し笑いながら彼女に話しかけるも、彼女の様子がなんだかおかしかった。
頬に軽く赤色が混じり照れているようであったが、それは勝利を喜んでいるようには見えなかった。
「ねぇ、ミドリ？ 僕の上からおりて？」
「え、あぅ、その、降りるよ？ 降りるけど……」
言葉を濁しつつ僕の顔を見るものの彼女は全く動こうとはしなかった。
顔を赤らめたままで、もじもじと体を捩らせているものの、降りる様子は見られない。
十分ほど押し問答をしてようやくどいてくれた彼女の顔はやっぱり赤らんでいたのであった。
その日は相撲が終わった後に別れて、それから彼女とは毎日のように遊ぶようになっていた。
とは言っても、相撲をしたのは初めて会ったその日だけで、それ以降はお喋りするのが多かった。
「ねぇリョウ、リョウってば！」
「……うん？ どうしたミドリ」
「どうしたじゃないよ、またぼけーっとしてさ。暑いよぉー、つまらないよぉー」
どうやら彼女と出会った日のことを思い出してるうちにまた呆けていたらしい。
彼女の声に意識を覚醒させて、また竿の先に視線を向ける。
「おいミドリ、水面を蹴るなと言ってるだろ。魚が逃げるじゃないか」
「だって釣り見ててもつまらないんだもん。それに水の中気持ちいいんだもん」
「夕食には4匹必要だろ、爺ちゃん婆ちゃん俺にミドリ。今日は俺の家で飯食う約束だろ？」
「そうだけど3匹でも良いじゃん。リョウと私で1匹をはんぶんこすればさ」
「この前家に来た時もそうして頭と尻尾で喧嘩になっただろうが」
「リョウが『頭の方がいい』って聞かないからいけないんだよ」
「……この話はやめだやめ、俺はあと1匹釣るぞ」
竿の先は揺れ動く様子を微塵も見せない。
だと言うのに水面はミドリの足の挙動に合わせて揺れ動いている。
「ミドリ、足を動かすのを止めろ」
「じゃあお話してよ、釣り竿見てばっかじゃなくて私の方見てさ」
「それじゃ結局釣れないだろうが」
「リョウも釣れないなぁ」
「そうか、魚も釣れない」
彼女も俺も互いに黙りこみ、水の跳ねる音と蝉の鳴き声が空間を支配していく。
――何か話しかけるか、さて何を話すか……。
たわいのない話など3匹釣り上げる間にし尽くしている。
まぁ何か口に出せば場は持つだろう、と考えなしに言葉を発した。
「なぁミドリ」
「なによぉ。止めろって言っても嫌だからね」
「互いに二十歳になったな」
「……そうだね。時間が経つのって早いね」
「だな。楽しい時間ならなおさら早く感じる」
「……リョウは私と居て、楽しいんだ？」
「まぁな、そうで無ければずっと一緒に居やしない。ミドリは？」
「私も一緒だよ。楽しいよ、でも足りない」
「……足りない、か」
「ねぇ、リョウ。私ね、ずっと前から」
「好きだぞ、ミドリ」
水の跳ねる音が止む。
竿から視線を右へずらしミドリの方へと顔を向けると、彼女は少し涙ぐみながらも嬉しそうに微笑んでいた。
「……なぁんでそういうこと顔も見ないで言うのかなぁ」
「すまんな。俺は不器用なんだ」
「昔はすっごい素直だったのになぁ」
「昔の話だ。だが好きな気持ちは昔から変わらないぞ」
「そっか、私も一緒。昔からずっと好きだよ」
「そうか。……なんだか照れくさいものだな」
「リョウがそんなだから私から言おうかなって思ったのにな」
「こういうのは男から言うものだって爺ちゃんがな」
「今日お礼言わないとだね」
「報告もしないとな」
とても穏やかな時間が流れていく。
揺れる竿先に気付き釣り竿を引き上げると一匹の川魚がかかっていた。
「4匹目だね」
「そうだな、目標達成だ」
魚を容器へ放り込み道具を片づけ始める俺と、手持無沙汰な彼女。
粗方片づけ終わって、彼女の方へ体を向けて大きく深呼吸する。
「もう一度言う。ミドリ、好きだ。こんな俺だが良いか？」
「もう、しょうがないなぁリョウは。私が貰ってあげるよ」
そう言って俺に抱きついてくるミドリ。
壊れそうなほど華奢な体を抱き寄せると、彼女の体が震えているのに気付く。
耳に聞こえる咽び泣く彼女の声に気付き、俺は彼女の体をきつく抱きしめる。
「なんで泣いてるんだ、ミドリ？」
「だって……だってさ？ じゅ、十年以上も、待ったんだよぉ？」
「……待たせて、済まなかった」
「もう、我慢しなくても、良いんだよね？」
「あぁ。これからもずっと一緒だ」
そう言い終わるや否や、彼女は俺をそっと押し倒してきた。
あの日と同じく、地面に寝そべっている俺と跨っている彼女。
彼女の目には涙が溜まり、頬には涙の流れた後がある。
手を伸ばし親指で拭ってやると、彼女はやっと泣きやんでほほ笑んでくれた。
「ありがと、リョウ。ねぇ、我慢しなくて、良いんだよね？」
「良いぞ、しよう。だが初めてなんだ、無理はするなよ？」
「うん、大丈夫。約束する」
あの日は俺が彼女と約束したな、と感慨にふけっている間にミドリは俺の着物をはだけさせ、局部を露出させていく。
俺の性器も期待をしているのであろう、彼女が脱がして竿に指を這わせて先端に水かきで刺激を与えるだけで怒張する。
彼女の女性器も俺と同様に期待で準備はできているようで、服のような鱗をずらさずとも愛液が滴っているのが分かる。
ミドリは左手で鱗をずらして女性器を露出させ、右手で俺のモノを導いて彼女の膣内へと突き刺さらせた。
「いッ……たぁい……」
結合部から赤い血が流れ出すと同時にミドリの口から声が漏れる。
彼女は痛がっていると言うのに俺の性器は処女膜を破った快感で硬さをさらに増すばかりである。
彼女の膣内は圧力がすごく俺のモノはその快感を受け硬く熱く脈動する。
体は性的に反応せざるをえないものの、頭は彼女のことを心配せずにはいられない。
「大丈夫か、ミドリ？ 初めては痛いと聞く、やめるか？」
「う、うぅん、だいじょぉぶ……リョウと、繋がってるのが、嬉しいからぁ♪」
挿入した瞬間は苦痛に顔が歪んでいたが、確かに今の彼女の表情には快楽が混じっていた。
ゆっくりと腰を浮かせては、また奥まで俺のモノを深く招き入れる彼女の女性器。
次第に痛みも薄らいでいったのであろう、彼女の動きはどんどんと激しさを増していく。
「み、ミドリ、出すぞ……ッ」
「来てぇ♪ リョウっ、リョウ♪♪」
襲い来る快感が俺のモノを射精へと導く。
彼女が一層腰を深く落とすと同時に、俺は絶頂に達し彼女の最奥へと精液を注ぎ込む。
数十秒も射精をし続けたにもかかわらず、俺の性器はその硬さを一向に失おうとしない。
「ねぇリョウ、私まだ足りないのぉ♪ もっと、もっと繋がりたいのぉ♪」
「俺もだ、俺もまだまだし足りない。深く愛し合おう、ミドリ」
「うん♪ もっと繋がろう♪」
俺たちは快楽を貪り合った。
一緒にいたのに繋がれなかった空白を埋めるかのように激しく深く繋がり合った。
夕焼け時にもなると、夏といえども心地よい風が吹き涼しく感じる。
あの後数時間も繋がり合った俺たちは、川で水浴びをして汚れを落とした。
今は約束通りに晩飯のために俺の家へと向かっているところである。
「えへへぇ、リョウ？」
「どうかしたか」
「ちゃんとご報告しようね、晴れて初夜も済ませましたって」
「……昼だったがな。それに結婚の報告だけで十分だ」
「細かいことはいいの。大事なのは愛の言葉を囁き合いましたってことよ」
「いかん、やはり照れくさいな。報告は俺からする、ミドリは余計なこと言うな」
「素直じゃないなぁ、私の夫は。まぁそこも可愛らしいんだけどね」
走りだす彼女の手に引っ張られそうになるものの、力強く握り返すだけの俺。
一緒に走ってくれないことを不服に思ったのか、彼女は俺の方を向いて文句を言う。
「なによぉ、早く行きましょうよ。走ればすぐじゃない」
「いや、今日は歩いて帰ろう。二人の時間だ、ゆっくり、な」
恥ずかしさに顔が紅潮するのを自覚しながら彼女にそう告げる。
その間も繋がった手を離すことはない。
「……ふぅん、二人で居たいってことか。リョウは甘えんぼだなぁ」
「そ、そうじゃないぞ。疲れたのもあるしゆっくり歩きたいだけだ」
ただの言い訳なのは彼女も気付いているのだろう、何より俺自身が一番よく知っている。
そんな俺に「やっぱり素直じゃないなぁ」と、歩幅を合わせて彼女はそう微笑んでくれた。
11/08/24 20:02更新 / G7B