読切小説
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元勇者は熊に抱かれ眠る
鼻腔をくすぐる甘い蜜の匂い、耳朶に響く結合部から漏れ出る水音。
上下するたびにさらさらと揺れる短めの茶髪にぴくぴくと微動する耳。
快楽を楽しんでいる眼、朱に染まる頬、だらしなく垂れた唾液が光る唇。
これでもかと言わんばかりに縦横無尽に動き回るボリュームのある大きな胸。
そしてなによりも、動くたびに俺の男性器へと激しい快感を与えてくる女性器。
五感全てを通じて襲って来る気持ちよさに俺は何度目とも分からぬ絶頂へと達する。

「出る……ッ!」

俺がそう言うと彼女の優しげにかつ淫らに頬笑み、挙動を一層強いものにする。
その刺激に俺のモノは耐え切れるはずもなく、白濁を彼女の膣内へと放出する。
最早日常と化した彼女との性行為に、ふと彼女と出会った日のことを思い出す。





俺はあの日、迷っていた。
森にも迷っていたが、それ以上にこれからどうすべきかと迷っていた。
魔物達が女性の姿になり、周囲の男性らもどんどんと魔物らと暮らすようになった。
そんな中俺は、いまだに勇者として魔物を敵視して世界各地を回っていたのである。
教団に拾ってもらった俺にとって、教団の言うことは命の次、いや同等以上に大切だったのだ。
魔物の巣食う街があれば、教団の命を受けその地へと赴き魔物らを討伐しようとしていた。
しかし、どの街も魔物らが人間を暴力的に支配していることなど今まで一度もなかったのだ。
それどころか、魔物と一緒にいる人間らは誰もが皆幸せそうに日常を謳歌していたのである。

――俺の行動には果たして何の意味があった? 俺は勇者として正しい行動をしていたのか?

思考に思考を重ねながらも足取りを止めることなくとりあえず森を歩いていく。
現在地も分からず、行き先も分からず、目的も分からず、ただただ足を動かしていく。
俺は、迷っていたんだ。





数時間も森を練り歩いたであろうか、俺は出会った。
物思いに耽っていた俺の目の前に一人の魔物が居たのだ。
ぼぉっとしてるとも思える柔和な表情を浮かべる頭部に、熊のような丸みを帯びた大きな耳。
手足や胴体を覆っている茶色の体毛に、手足の先には硬そうな印象を与える爪が生えている。
時折舐める右腕に付いているのはハチミツであろうか、空気に仄かに甘いにおいが混じっている。

――グリズリー、教団の教えだと凶暴な魔物らしいが……。

そう、俺が知っている魔物らの情報はどれもこれもが教団からの伝聞でしかない。
今まで訪れた場所で見かけた魔物夫婦を見る限り、間違っているとしか思えない情報。
考え始めると、腰に提げてある鞘から剣を抜こうとする手も自然と止まってしまう。

――俺は剣を抜いて一体この魔物をどうしようというのだ?

追い払う? たとえ魔物を追い払っても俺の悩みが消えることはない。
斬り殺す? 殺せるはずもない、今の魔物たちは人間に被害を与える存在ではない。
ならば俺はどうすればいい? 勇者として俺は一体この魔物に何をすればいいんだ?
迷いに迷って、悩みに悩んで、俺はどうしたいのか、どうすべきなのかと自問する。
一歩一歩着実に近づいてくる魔物に対して、俺は進むこともできない思考の泥沼にはまり込む。

――誰か俺を助けてくれ、俺にどうすればいいのか教えてくれ……っ!

泥沼状態から俺を引き上げてくれたのは、温かな彼女の腕だった。
いつの間にか目前にまで近づいていた彼女が俺をきつく、しかし優しく抱きしめていたのだ。
体全体で感じる彼女の体温は、俺の冷え切った心にまでじんわりと染み渡っていくようだった。
彼女の顔を見遣ると、出会った時よりさらに柔和な表情を浮かべており、俺は戸惑ってしまう。
目が合うと、彼女は背中にまわしていた左手を動かし、まるで子どもをあやすかのように俺の頭を優しく撫でた。
俺は彼女に全て許されたような気がして、勇者としてではなくただ一人の男として彼女にすがりつき泣いていた。





十数分ほど泣き腫らしたであろうか、その間も彼女はずっと俺を優しく抱擁してくれていた。
涙もすべて出し切り俺が泣きやんだことに気付いた彼女は、背中に回していた右手と頭に添えていた左手を俺の頬へと移動させた。
見た目で硬いかと思っていた爪が頬を傷つけることもなく、優しい手つきで俺の顔に手を添える。
その際に、彼女が時折舐めていた右腕から発せられていた仄かな香りを思い切り吸い込んだ。

――甘い香りだ……ふわふわして、ほんわかして、気持ちいい……。

彼女の手が頬に添えられたことにより、右腕にしみ込んだ蜜の香りを強く感じた。
それは少し嗅ぐだけで脳髄を蕩けさせてしまうようなとても甘い香りだった。
その香りを堪能している俺に彼女は顔を近づけ、唇にひとつ口付けを落とす。
軽く触れ合うだけの優しいキス、ただそれだけのキスなのにとても愛おしく感じた。

――もっと口付けを交わしたい、もっと深くキスしたい……。

優しげに微笑む彼女に今度は自分から手を伸ばす。
さらりとした髪に手を添えると、彼女はゆっくりと瞳を閉じた。
そんな彼女にそっと顔を近づけ、唇を触れ合わせる。
俺の本能がさらなる繋がりを求め、触れ合うだけでは満足せず舌をねじ込む。
ねじ込んだ舌に彼女の舌が絡んでくる、互いに互いを貪り合った。

――彼女も俺と同じ気持ちだったんだ……。

俺がしたいと思ったことを受け入れ、彼女も同じことをしてくれたこと。
深く絡み合う舌から彼女の唾液の甘さを感じながら俺はとても嬉しくなった。
数分ほども俺たちはディープキスをしていた。





ぷはぁと呼気を漏らす俺と彼女。
もっと彼女と触れ合いたい、もっと彼女と繋がりたい。
そう考えているのも俺だけじゃなかったのだろう、彼女は俺の体をそっと押し倒した。

――あぁ、とうとうするんだな……。

背中に地面の感触を感じながら彼女を見つめる。
どういう仕組みなのだろうか、俺に跨った彼女の胴体部分の体毛が一瞬で消えさった。
既にぴんと張っている薄桃色の乳首の目立つ乳房はとても柔かそうにぷるんと震える。
視線を下方へ移すと、女性器は十分に濡れており、とろりとした愛液が淫靡な印象を与える。
彼女は俺のズボンを素早くずり下ろすと、既に堅くそそり立つ俺のモノを見て笑顔を淫らなものへと変貌させる。
俺の男性器に手を添えると、彼女は腰を軽く上げ濡れた女性器にあてがい、一気に腰を落とした。

「……ッ!!」

あまりの快感に声を上げそうになる俺。
火傷しそうなほどに熱く、千切れそうなほどにきつく、それなのにその刺激が気持ち良すぎる。
最奥まで到達しただけで頭で処理できないほどの快楽、もし動いたらどれほど気持ちいいだろうか。
俺の思考を知ってか知らずか、彼女はそのままその体を上下に動かし始めた。
目に広がるのは淫猥に笑う顔や、体の動きに合わせてたゆんと動き回る乳房。
その光景だけでさえも脳に快楽を与えるというのに、それ以上に男性器へと快楽が流れ込む。
彼女が腰をグラインドさせるたびに言葉にできない快感を直に感じて意識が飛びそうになる。
俺は何とか結合部からじゅぽじゅぽと響き渡る水音にかき消されそうなほど小さな声を発する。

「で……出る……ッ」

彼女の耳に届いたのだろう、彼女はその顔をさらに淫靡にゆがませていた。
表情の変化を見るやいなや、今までの快感に耐えきれなくなった俺のモノは白濁液を一気に注ぎ込む。
膣内へと大量の精液を流しこまれた彼女は、とても嬉しそうに淫らな笑顔を浮かべている。
俺の男性器は1分近くも脈動し続け全てを彼女にぶちまけ、初めての性交の刺激に俺はそのまま気を失ってしまった。





その後、気を失った俺を彼女は住み家へと連れ込み、同棲するようになり今に至る。
大きな葉が重なり出来ている寝床があるだけの洞窟だが、俺にとっては天国も同然だ。
昼は互いを求めあって性行為をして深く繋がり合い、夜は彼女の胸に抱かれて眠る毎日。
昼の彼女の表情は日を重ねるごとに、性交を重ねるごとにその淫靡さを増していく。
夜に俺を抱いて眠る彼女の表情は聖母のように優しげで、少女のように無垢である。
今も行為が終わり、彼女は笑みを浮かべて俺を優しく抱きしめてくれている。
彼女に包まれているだけで、彼女に出会う以前の苦しみを思い出すことはない。

――どうかいつまでもこんな日々が続きますように。

俺は彼女に抱かれながらまどろみに身を任せて眠った。
11/08/22 20:02更新 / G7B

■作者メッセージ
勇者として戦ってきた人たちは魔物と戦ってしまった過去にとらわれて悩むだろうな、と思いつつ書きました。
母性溢れるグリズリーさんならそんな過去も全部ひっくるめて全力で愛してくれるだろうなぁという妄想。
そしてまた名前をつけ忘れ、しかも今度は二人とも設定し損ねるという体たらく。
なんていうかグリズリーもいいよね、まぁ全魔物それぞれが魅力的なんですけど。

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