――ここを抜ければ次の街だな。
そう考えれば木々が生い茂り日の光が当たらない暗い森を歩く足もさくさく進むというものだ。
商売道具のたくさん詰まったリュックを背負い直し、道なき道を進む。
――街に着いたら宿をとって、以前訪れた街で仕入れた商品を道具屋に卸に行こう、結構な値になるはずだ。
そんな風に浮かれていたからか、目の前に巨大なクモの巣が広がっているのに気がつかなかった。

「うわっ！」

巣の存在に気付いたのは真正面からそれへと体当たりし声をあげてしまってからだった。
巣はとても大きく、顔への直撃はなんとか免れているものの首から下には満遍なく糸だらけとなってしまった。
後退しようにも服に付着した糸はねばねばとした様子を見せるだけで離れそうにもない。
糸を燃やそうにも燃料やらは背負ったリュックの中、身体が満足に動かせない自分にはどうしようもない。
さてどうしようと途方に暮れていると、ガサガサと音を立て誰かが近づいてきた。

「……あら♪　こんにちは、旦那様♪　私、ミココと申します」
「あ、こんちはっす……その呼び方は何かな？　俺にはアクルって名前があるんだけど」

近づいてきたのは上半身は妖艶な女体だが、下半身はクモと同じ4対の足であるアラクネであった。
顔を見遣れば暗い森の中でも目立つ青みがかった銀の長髪は一つに結いあげられており、計8つの真っ赤な目はとても嬉しそうである。
自己紹介されたのでし返すものの、要領を得ない呼称に首をかしげる。
呼び方について問いかけると彼女は僕の引っ掛かったクモの巣を指差しこう言った。

「あらぁ、だってこんなに大きな巣に気付かないなんてありえませんわ、私に貰われてくれるのでしょう？」
「え、いや俺気付かなかったんだけど……」
「お知り合いの魔物さんには大きな罠の近くに別の罠を用意するように言われていたのですよ私」
「は、はぁさいですか。ところで俺の話聞いて」
「けれど必要ありませんでしたわね、情熱的な旦那様が結婚したいと意思表示してくださったのですもの」
「いやぁ、そんなつもりは毛頭」
「おぉ、これが噂に聞いたツンデレさんですね♪　嬉しいですね、私たちアラクネが征服欲が顕著なのを知ってそう反抗してくださるとは♪」

なぁんかヤバい方向に話がまとまりつつあるな、と思うもののもう手遅れでありまして。
おそらく先ほど言っていた別の罠 ―俺が引っ掛かったのよりも小さい巣― を片づけ俺の方へさらに近づいてくる。
そしてクモの巣の木々との接続部分を容易に外し、俺の体をくるんで……いやその小さい巣のカスも一緒にくるむのはどうなの？
かと思えば一言「このお荷物はいりませんわね」なんてリュックをおろさせてそこいらに捨てようとする。
リュックが無くなり糸で包み込めるようになったようで、俺は寝袋みたいな格好になり担がれてしまった。

「あの、アラクネさん？」
「旦那様？　愛情たっぷりミココ、と呼んで下さると私それはもう言葉で言い表せないほど喜びますわ♪」
「あ、えと、ミココ、さん？」
「はい♪♪　どうなさいました旦那様？」

ホントに嬉しそうな顔だなぁと見惚れつつ、「そのリュック大事なものだから捨てないでほしいなぁ」と頼み込んでみる。
このまま連れ去られるなら商売できないしいらなくなるかもしれないけど、せっかく集めたものを捨てるのは商人としての矜持が許さない。
ほんの少し悩む素振りを見せたものの、「しょうがない旦那様ですねぇ♪」なんて言う、どうやら一緒に持って行ってくれるようだ。

「さて、旦那様♪　私たちの愛の巣へと向かいましょう♪♪」
「愛の巣ですか……それもクモの巣だったり？」
「？　いえ、木でできたお家ですわよ？　雨風がしのげないようでは愛の巣だなんて呼べませんわ」
「……そうですか」

結婚は人生の墓場である、だっけ？
鬱蒼とした雰囲気の森だ、諺的な意味じゃなくホントにお墓とかあるのかもしれない。
リアル墓場じゃありませんようにと祈りつつ体をミココさんに任せる俺であった。





心配は杞憂であった、暗い森のなかでは比較的日の入る場所にミココさんの家はあった。
家に入るやいなや、リュックを適当に放り投げ『寝室』なんて可愛らしい文字で書かれたプレートが提げられた部屋へと連れて行かれた。
ふかふかとした感触のベッドへと俺を放り込み寝かせると、彼女は嬉しそうな表情を隠そうともせず言い放った。

「さてさて旦那様、早速契りましょうねぇ♪」

俺の体中に巻きついている糸はそのまま局部だけ露出させていくミココさん。
まだ俺のソレは大きくなっていないもののミココさんはうっとりとした表情で眺めている。
「それじゃ私も♪」なんて言って胸部や陰部を露出させた。

「ふふ、すぐ大きくしてぇ、すぐ挿入れて差し上げますね♪」
「あの、ちょっとお願いがあったりなかったりするんだけど」
「どうしました旦那様、何なりとどうぞ♪」

どうせ恥ずかしい部分はすでに見られたし ―というか今もにぎにぎされて気持ち良かったり― 恥ずかしいが言ってしまおう。
軽く深呼吸をした後、疑問符を浮かべている彼女に向かって言った。

「出来ればキスからしてほしいかなぁ、なんて」
「キス、ですか？　構いませんがどうしてでしょう？」
「いや、ファーストキスはずっと思い出になるだろうし最初にしてほしいかなぁって」

恥ずかしい宣言を一息に言うと彼女はその顔をとても淫猥なものにゆがませた。
え、なんか彼女の琴線に触れるようなこと言ったかななんて考える僕に彼女は言う。

「あらあら、旦那様は何もかも初めてなのですねぇ♪　それじゃ私にぜぇんぶお任せください♪♪」

彼女は両手を僕の頬に添え ―あれ俺のチンコ触った手そのまま！？　とか後で思った― ゆっくりと顔を近づけてきた。
唇同士がちょんと触れあったかと思えば、そのまますぐほんの少しざらざらとした、しかし全く不快感のない舌が侵入してくる。
どろりとした唾液が彼女の舌をつたい口に溢れ、絡み合った舌が脳髄を蕩けさせる。
時折混ざる互いの呼吸音が聞こえないほどに水音が響き渡る情熱的な深いキス、それが俺のファーストキスだった。
どれほど経っただろうか、ぷはぁという声とともにキスが終わった。

「ふふ、初めてはいかがでした♪」
「き、気持ち良くって、何も考えれなくって……もう……」
「あらら♪　キスだけで勃ってしまわれましたねぇ♪　そんなに感じてくださるだなんて♪」

彼女の言うとおり、もう痛いほどに俺のチンコは硬くなっていた。
彼女の指が竿を撫で上げるだけでびくんと脈動し、先を弄られさらに大きく動いた。

「それじゃ、このままいたしましょうか♪　私の方もきゅんきゅんなんです♪」

首を上げ視線を彼女の顔から陰部へと向けると、すでに十分に濡れそぼった女性器が目に入った。
その視線に気づいたのだろう、彼女は俺の男性器に添えた手を女性器の先へとあてがう。
しかしそのまますぐに入れることはせず、ただ男性器の先端と女性器の入口を擦り合わせるだけ。
それだけでも十分な刺激で気持ちいいが、やはり膣内へと挿入したい。
おそらく涙目になりつつ視線で訴える俺に向かって彼女は言う。

「ふふふ、挿入れて欲しそうですねぇ♪」
「あ、あぁ……これでも気持ち良すぎるくらいだけど、やっぱりナカに……」
「そうですねぇ、『挿入れさせてくださぁい』って、恥も外聞もなく、情けない声でそう泣いて頼んでくだされば、それはもう素敵な快楽を差し上げますよ♪」

アラクネは征服欲が強いと彼女が自身で言った通りなのだろう、その表情はとても嗜虐的なものだった。
それに対し俺はと言えば、その表情をとても愛おしく感じているのだった。
ミココに征服されたい、ミココの好きに扱われたい、ミココに搾りつくされたい……
悩むこともなく俺は彼女に懇願の言葉を捧げるのであった。

「挿入れさせて……くださいっ……ミココの思うように犯してくださいっ！」
「旦那様は素直な良い子ですねぇ♪　それじゃ、覚悟してくださいねぇ♪♪」

ぬぷぬぷ、と音を立て彼女の中へと入り込む俺の性器。
彼女の愛液が潤滑油となってすんなりと入り込んでいく。
膣内はとても温かく、俺のモノを咥えこみ、えも言われぬほどの気持ちよさであった。
奥まで入りきると、彼女は笑みを浮かべ激しく上下に動き俺のモノをしごき始めた。
初めての経験である俺がその快楽に耐えきれるはずもなく、数分とも立たぬうちに精を吐きだそうと脈動を始める。

「ミ、ミココ……俺、俺ぇ……」
「あらぁ、たった数分で射精してしまいそうなのですねぇ♪　良いですわ、全部出して下さぁい♪♪」

一際締まってくる彼女の膣の刺激が引き金となり、思い切り射精した。
どぷどぷと音を立てそうなほど濃い精液が彼女の中へと注ぎこまれる。

「あはぁ♪　いっぱい射精してくれましたね、旦那様♪」
「あぁ、ミココ、俺まだ……」

一度だしたにも関わらず俺の性器はその硬さを失う様子を微塵も見せない。
まだシたい、シ足りないと彼女に懇願しようとする俺に、彼女は嗜虐的な表情を見せこう言った。
「心配なさらずとも一度じゃ済ませませんわ♪」、と。
そのまま第2回戦へとなだれ込む俺とミココであった。





彼女の気が済んだのであろう、日が暮れるころには一度解放された。
体中糸を巻かれていたというのに痛みはほとんどない。
とりあえずシャワーで体中の粘液やら精液やら愛液やらを落とした俺は、彼女が持って来てくれた荷物の整理をし始めた。

「たしかこのポケットに……あったあった」

目当ての品物を取り出し、彼女がシャワーから上がるのを待つ ―俺が先にシャワーさせてもらった― 。
湯上りの彼女は肌が少々赤みがかり、髪も濡れしっとりとしており、先ほどの行為中とは違った美しさを醸し出していた。

「ふぅ、気持ち良かったです。旦那様も気持ち良かったですか？」
「あぁ、先に入って悪かったな」
「いえいえ構いませんわ。旦那様を立てるのも良妻の務めですわ」

そんな談笑をしつつ、タイミングを計る。
今の会話がひと段落し、俺は今がチャンスとばかりにこう切り出した。

「な、なぁミココ、これ」
「何ですか？　……まぁ、綺麗な指輪たちですね♪」
「俺、商人でさ、これ前の街で仕入れたんだよ、こんだけあれば一つくらいはサイズぴったりのがあるはずだから、結婚指輪にと思って」

彼女の手を取り、適当な指輪を試す俺。
これはちょっと大きいな、いくつか小さいのを……逆に小さすぎだ、それじゃ……おぉ、ぴったりだ。
彼女の左手の薬指にぴったりとはまる白銀の宝石をあしらったひとつの指輪。

「似合ってる。うん、えと、不束者ですが、これからその、よろしく」
「……えぇ、これからもよろしくお願いしますね、旦那様♪」

この笑顔を俺は一生忘れやしないだろう、ミココの笑顔はそう思えるほどの今日一番の素敵なものであった。

■作者メッセージ
……甘いな、落雁食ってるみたいだ。
強気で凶暴で好色なアラクネを書こうとしたのになぜか甘甘になっていた、なんでだろうね。
まぁ甘い個体だっていてもおかしくないよねと自分に言い聞かせてみる。