正夢で逢えたなら
――今日もまたあの夢を見るのだろうか。
ベッドに潜り込んでそう考える。
ここ1か月近くもずっと全く同じ内容だった。
夢占いを取り扱ってる易者を知ってはいるが相談するのも憚られる。
なにせ内容が『目が覚めるような美人に犯される』というものなのだ。
いや、夢なんだから目が覚めるようなと言うのはおかしい表現か。
まぁ何はともかくすごい美人だと言うのには変わりはない。
――ほんとすごい美人なんだよなぁ。
腰に届きそうなほど長い髪は透き通るような水色で跨られるたびに揺れ動いていた。
自身の上で激しく動くから、髪だけではなくたっぷりと肉のついた胸も縦横無尽に揺れる。
視線を上にずらせば端整な顔は嗜虐的な色を含み悦びに満ちていたのを夢だと言うのに鮮明に覚えている。
そして下半身を見遣れば俺のモノを女性器が激しく咥えこみ、すらりと伸びた足は……
――やっぱり、思い出せない……
そう、思い出せない。
先ほど鮮明に覚えていると思ったはずなのになぜか下半身の方は記憶が曖昧だ。
初めてこの夢を見た日からずっと思い出せないのだ。
そんな風に色々と考えているうちにまどろみに沈んでいくのが常だったが、まだ眠くなってこない。
普段なら目を閉じて数分もすればあの夢を見ることになるのだが、今日は夢以外にも気になることがあったのだ。
俺は親魔物国家にある道具屋で働いている。
冒険に欠かせないような薬草から家事に使うような日用品まで幅広く扱っている。
俺の雇い主がサキュバス夫婦なので、魔物御用達のえっちいことに使う道具なんかもある。
その雇い主である夫婦から呼び出しをくらったのは今日昼過ぎのことだった。
「コータ、ちょっと良いかい？」
「なんですか店長、いちゃつきながら呼ばないでくださいよ」
「いいじゃないの、私達の絆は切っても切れないのよ？」
「絆が繋がってるなら手くらい離して下さいよ副店長」
商品管理のノートにペンを走らせる腕を止めて二人の方を見る。
ちなみに夫のライトさんが店長でサキュバスのアイリンさんが副店長である。
仕事中でも暇さえあれば手をつないだりするのはちょっと、いやかなりやめてほしいが良い人たちだ。
「いやよ、心でも体でも繋がっていたいのが魔物なのよ、覚えておきなさいコータ」
「はいはい肝に銘じますよっと……で、何の用です？」
「うん、コータには明日にでも店の方に入ってもらおうと思って」
「……はい？」
俺が疑問に思ったのには理由がある。
この店は魔物が経営しているということで多くの魔物が来店する。
先述したえっちい道具なんかも結構売れ行きが良かったりするのだ。
そして来店する魔物の中にはあわよくば商品以外に店員もイタダこうとする者らがいるのだ。
それを避けるために店の掃除や店番なんかは既婚の人が、事務室での裏方を独身の人がするのだが……。
「店長、俺独身ですよ？」
そう、生まれてこの方俺には一度も彼女がいないのだ。
そんな俺が店の方に移動だなんて疑問に思うのも当然と言えよう。
しかし副店長の方がさらに謎な言葉を発してきたのだ。
「大丈夫よ、コータにはもう匂いがたっぷりついてるし」
「はい？ においですか？ 俺って臭いですかね」
「そうじゃないわよぉ、魔物の匂いがついてるのよ」
「え、俺に相手なんて居ないですよ？」
「まあ店の仕事に移動は決定だから。よろしく頼むね、コータ」
手を絡ませて移動していく二人を見送る俺。
魔物の匂いとかなんとか言われたが自分には全く身に覚えがない。
そんな風に考えながらも今日の仕事をしようとペンを再びとりデータを記入していった。
そうだ、明日から店の方に移動なんだよなぁ。
少し前に店で仕事してる先輩が引っ越して仕事をやめたのでその埋め合わせだろうか。
事務の仕事は店長たちの補佐の割合が大きかったので人数が減っても問題ないのだろう。
けれど独身の俺が店番なぁ……というか魔物の匂いって一体……
目を閉じながら色々と考えていると、物音が聞こえてきた。
――何の音だ？
夜の静寂のためほんの小さな音でも気になってしまう。
どっかの部屋の窓でも閉め忘れたかと目を開けたら目があった。
目があったというのは眼球だけが存在していたのではなく（そんなのホラーだ）視線があったという意味で。
瞬きをしてもう一度よく見てみると、俺の顔を覗き込んでくる人が居たのだ。
「……ぇ？」
「わ、あの、えっと……うぅぅ」
暗闇に目が慣れて全体像が見えてきた。
ショートカットの髪だが前髪は長く目が隠れそうなほど。
少し視線をずらせば真っ黒い服に包まれた豊満な胸部が目に入ってくる。
さらに視線を舌の方にずらすと馬の下半身を持っていることが分かる。
その魔物は驚き戸惑っている、いや驚いたのは俺の方なのだが。
「……誰？」
「あ、あのわたし、えっと、その……」
手をぶんぶんと動かしなんだか慌てているようだ。
彼女をじぃっと見るとなんだか涙目になっているのが分かる。
多分寝起きのせいで俺の表情が怖かったのだろう。
「……とりあえず、コーヒーでも飲んで落ちつこうか」
「あ、あの、えと、お砂糖と、牛乳、お願いします」
そんな要求は出来るんだなぁなんて思いながらベッドから這い出して台所の方へと移動する俺であった。
居間の机には湯気を立たせたカップがふたつ。
その机の片方には俺が椅子に座り、もう片方は魔物が座っている。
人間の来客はあるから椅子は用意されてたが魔物が来るとは思わなかったため床に座ってもらってる。
灯りをつけて顔がよく見えてきて、どこかで見たような顔立ちだな、なんて思いながら声をかける。
「まずは自己紹介かな、俺は」
「し、知ってます。コータさん、です」
「……そうだけど」
なんで知ってるんだよ、って突っ込んで良いところなのだろうか。
というかそもそも不法侵入だぞこの人、いや魔物なんだけどさ。
そんな事を考えながら熱めに淹れたコーヒーを飲み、彼女を見る。
角砂糖を3つ、牛乳もなみなみと注いで少しずつ飲んでいる姿は子どもみたいだ。
しかし体は十分に成熟していて身長も俺より高い、まあ馬の下半身だから背が高いのは当然か。
顔を見ると水色の短めの髪に柔和そうな眼つきでにこにこしながらカップを傾けている。
どっかで見たことある髪色だなぁなんて考えてたら思い出した。
「夢で見たんだ」
「はぅぅッ！？」
「あ、いや、そんな驚かないでくれ」
そう、夢であった美人もこんな髪の色だったんだ。
夢で会ったのはこの魔物だったのか、いやでも表情や服装なんかはだいぶ違うような。
とりあえず色々と説明してもらわないことには何にもならないな、と思考を切り替える。
「まず、君の名前は？」
「あ、えと、ユニウです」
「ユニウさんね。なんて種族の魔物なんだ？」
「え、と、ナイトメアって、言います」
ナイトメア、どんな魔物だったかな。
馬の身体的特徴を持つ魔物はケンタウロスくらいしか知らないが、その亜種だろうか。
分からないことは本人に聞くのが一番手っ取り早いので質問を続ける。
「どんな魔物なんだ、ナイトメアってのは」
「あの、夢、入って、精、」
「夢？ あの美人の夢はユニウさんか」
「あ、はい、見せて、精を」
長ったらしい質問責めを割愛すると。
ナイトメアは臆病な魔物で、夢の中では理想とするような強気な姿を見せる。
夢で性行為をすればそれを通じて男性の精を食べることができる。
裏方で働いている俺をたまたま覗き見たらしく一目惚れをして。
一月前から夜な夜な家に忍び込んでは淫らな夢を見せていた。
「ストーカーじゃねえか」
「ぁぅ、その、ごめんなさいぃ……」
「そう言う種族なんだから仕方ないってのは分かるけどよ……」
「ぅぅ……」
一か月も夢でとは言え精を食べられたんだ、アイリンさんが匂い付いてるとか言う訳だ。
今日眠れずに考えていたことは全部理由が分かった、問題はこれからだ。
と言っても解決方法なんて分かりきっているんだが。
「ユニウさん」
「は、はい、その」
「よろしく、ってことで良いかな？」
「あ、えと……はい？」
「今までのことは水に流してさ、過去の話なんだし。これから一緒に住もうってことで」
「そ、その、いいんです、か？」
「美人に勝てないのは男の性ってやつでね」
長い髪の奥でぱちくりと瞬きしているユニウさんの顔が見える。
夢と雰囲気は違うが生身でも美人だななんて見つめてやると赤らんでいるのが分かる。
「あ、あの、えっと、よろしくお願いします」
「うん、よろしく。それじゃ寝よっか」
「ね、ねねねねねッッ！？」
「いや明日も仕事だし」
結構いい時間だし明日から仕事場でやること変わるから出勤時間早めにするつもりだし。
そんな俺の思考を知ってか知らずか彼女は最初に目を合わせた時と同じくらい慌てだした。
どうしたの、と声をかける前に彼女は何かを囁き、その小さな声が俺の耳に届くとともに意識を手放した。
次に耳に聞こえてきたのは、ぱんぱんと肉がぶつかり音にぬぷぬぷと絡み合う水の音であった。
目を開けるといつもの夢と同じように美人に跨られている状態だった。
淫靡な眼つき、上気した頬、舌をぺろりと出し誘惑してくる唇。
その顔は先ほどと似てはいるものの髪の長さなどが違うのでいつも見ていた夢の中なのだと気付けた。
「ゆ、ユニウさん、一体……」
「だって、コータさんが『寝よっか』って誘ってきたんじゃないですかぁ♪」
「いや、普通に夜遅かったから寝ようと思っただけで……」
「大丈夫ですよぉ、ここは夢の中だから身体はきちんと休まってます」
その後も色々と質問を重ねるが、居間でコーヒーを飲みながら問答してた時と異なりスムーズに話をしてくれた。
簡単な魔法はお手の物らしく、俺の先の発言を受けて眠らせる魔法をかけて、夢の中に入り込んできたらしい。
説明をしてくれる間も腰を浮かせ柔らかな肉をぶつけ、女性器で深く咥えこむ動きをやめる様子は見られない。
「というか、下半身、人間と同じなんですね……」
「えぇ、夢の中なら、人間と同じ形をとれるの♪」
またも色々と聞くと、どうやら今までも人間の姿を夢で見せていたらしい。
理想の自分の姿で魅せて精を食べるナイトメアといえど、なかなか集中力が必要だったらしい。
どうやら集中力の途切れなどのために俺が下半身はあまり記憶できていなかったようだ。
ではなぜわざわざ集中しなければならない人間の姿を取ったかと問うたら。
前の人間の性器ですると馬の下半身をどう腰かけさせても寝そべった俺と上手に性交が出来ず。
後ろの馬の性器ですると馬のお腹などで快楽に歪む俺の顔が見えなくなってしまうから物足りなく。
人間の姿なら腰を振りながら俺の顔を堪能できるため人間の身体で犯していた、とのことだった。
「ふふ、コータの顔、もぉっと見せて♪」
夢の中だと言うのに俺のモノには筆舌出来ない快楽が押し寄せてくる。
その快感に俺は耐え切れず彼女のナカへと白濁を注ぎ込んでいく。
「あっ……キテるぅ♪ コータぁ♪♪」
「ゆ、ユニウ、さん……」
彼女の天井へと一滴のこらず出しきった俺は、またも意識を失っていった。
朝、だった。
目を開ければベッドの上に居た。
昨日のこと全部夢なのではなかろうかと疑ってしまったが、ベッドから這い出て居間へ行けばユニウさんが居た。
「ぉ、おはよぅ、ございます……」
「あ、うん。おはよう」
朝食を用意してくれていたらしく、机の上にはパンやらサラダやらが並んでいた。
顔をさっさと洗って椅子に座り、ご飯を食べながら彼女に色々と話しかけてみる。
「夢の中じゃすごいお喋りだったけど、今はなんか昨晩と同じだね」
「ぁ、あの、えっと、」
「それが悪いとかじゃないよ、勘違いしないでね」
「あ、はい……」
「魔物娘って精が食料なんでしょ？」
「あ、えと、そうです……」
「じゃあさ、これからは夢じゃなくて、現実でさ」
夢の中の性交を通じて精を摂取するんじゃなくて。
現実でちゃんと繋がりたいな、って思うんだ。
そんな風に話すとユニウさんはやっぱり顔を赤らめている。
「あ、えっとその、不束者でしゅが……噛んじゃいましたぁ」
「……先は長そうだね、当分は夢を通じてかなぁ」
「でも、えっと、その……」
「うん？」
「これから、ずっと一緒、です」
「……そだね、先が長くてもいつかは治るよね」
「はい、その、そしたら」
「うん」
いつかは正夢になりますように。
ベッドに潜り込んでそう考える。
ここ1か月近くもずっと全く同じ内容だった。
夢占いを取り扱ってる易者を知ってはいるが相談するのも憚られる。
なにせ内容が『目が覚めるような美人に犯される』というものなのだ。
いや、夢なんだから目が覚めるようなと言うのはおかしい表現か。
まぁ何はともかくすごい美人だと言うのには変わりはない。
――ほんとすごい美人なんだよなぁ。
腰に届きそうなほど長い髪は透き通るような水色で跨られるたびに揺れ動いていた。
自身の上で激しく動くから、髪だけではなくたっぷりと肉のついた胸も縦横無尽に揺れる。
視線を上にずらせば端整な顔は嗜虐的な色を含み悦びに満ちていたのを夢だと言うのに鮮明に覚えている。
そして下半身を見遣れば俺のモノを女性器が激しく咥えこみ、すらりと伸びた足は……
――やっぱり、思い出せない……
そう、思い出せない。
先ほど鮮明に覚えていると思ったはずなのになぜか下半身の方は記憶が曖昧だ。
初めてこの夢を見た日からずっと思い出せないのだ。
そんな風に色々と考えているうちにまどろみに沈んでいくのが常だったが、まだ眠くなってこない。
普段なら目を閉じて数分もすればあの夢を見ることになるのだが、今日は夢以外にも気になることがあったのだ。
俺は親魔物国家にある道具屋で働いている。
冒険に欠かせないような薬草から家事に使うような日用品まで幅広く扱っている。
俺の雇い主がサキュバス夫婦なので、魔物御用達のえっちいことに使う道具なんかもある。
その雇い主である夫婦から呼び出しをくらったのは今日昼過ぎのことだった。
「コータ、ちょっと良いかい？」
「なんですか店長、いちゃつきながら呼ばないでくださいよ」
「いいじゃないの、私達の絆は切っても切れないのよ？」
「絆が繋がってるなら手くらい離して下さいよ副店長」
商品管理のノートにペンを走らせる腕を止めて二人の方を見る。
ちなみに夫のライトさんが店長でサキュバスのアイリンさんが副店長である。
仕事中でも暇さえあれば手をつないだりするのはちょっと、いやかなりやめてほしいが良い人たちだ。
「いやよ、心でも体でも繋がっていたいのが魔物なのよ、覚えておきなさいコータ」
「はいはい肝に銘じますよっと……で、何の用です？」
「うん、コータには明日にでも店の方に入ってもらおうと思って」
「……はい？」
俺が疑問に思ったのには理由がある。
この店は魔物が経営しているということで多くの魔物が来店する。
先述したえっちい道具なんかも結構売れ行きが良かったりするのだ。
そして来店する魔物の中にはあわよくば商品以外に店員もイタダこうとする者らがいるのだ。
それを避けるために店の掃除や店番なんかは既婚の人が、事務室での裏方を独身の人がするのだが……。
「店長、俺独身ですよ？」
そう、生まれてこの方俺には一度も彼女がいないのだ。
そんな俺が店の方に移動だなんて疑問に思うのも当然と言えよう。
しかし副店長の方がさらに謎な言葉を発してきたのだ。
「大丈夫よ、コータにはもう匂いがたっぷりついてるし」
「はい？ においですか？ 俺って臭いですかね」
「そうじゃないわよぉ、魔物の匂いがついてるのよ」
「え、俺に相手なんて居ないですよ？」
「まあ店の仕事に移動は決定だから。よろしく頼むね、コータ」
手を絡ませて移動していく二人を見送る俺。
魔物の匂いとかなんとか言われたが自分には全く身に覚えがない。
そんな風に考えながらも今日の仕事をしようとペンを再びとりデータを記入していった。
そうだ、明日から店の方に移動なんだよなぁ。
少し前に店で仕事してる先輩が引っ越して仕事をやめたのでその埋め合わせだろうか。
事務の仕事は店長たちの補佐の割合が大きかったので人数が減っても問題ないのだろう。
けれど独身の俺が店番なぁ……というか魔物の匂いって一体……
目を閉じながら色々と考えていると、物音が聞こえてきた。
――何の音だ？
夜の静寂のためほんの小さな音でも気になってしまう。
どっかの部屋の窓でも閉め忘れたかと目を開けたら目があった。
目があったというのは眼球だけが存在していたのではなく（そんなのホラーだ）視線があったという意味で。
瞬きをしてもう一度よく見てみると、俺の顔を覗き込んでくる人が居たのだ。
「……ぇ？」
「わ、あの、えっと……うぅぅ」
暗闇に目が慣れて全体像が見えてきた。
ショートカットの髪だが前髪は長く目が隠れそうなほど。
少し視線をずらせば真っ黒い服に包まれた豊満な胸部が目に入ってくる。
さらに視線を舌の方にずらすと馬の下半身を持っていることが分かる。
その魔物は驚き戸惑っている、いや驚いたのは俺の方なのだが。
「……誰？」
「あ、あのわたし、えっと、その……」
手をぶんぶんと動かしなんだか慌てているようだ。
彼女をじぃっと見るとなんだか涙目になっているのが分かる。
多分寝起きのせいで俺の表情が怖かったのだろう。
「……とりあえず、コーヒーでも飲んで落ちつこうか」
「あ、あの、えと、お砂糖と、牛乳、お願いします」
そんな要求は出来るんだなぁなんて思いながらベッドから這い出して台所の方へと移動する俺であった。
居間の机には湯気を立たせたカップがふたつ。
その机の片方には俺が椅子に座り、もう片方は魔物が座っている。
人間の来客はあるから椅子は用意されてたが魔物が来るとは思わなかったため床に座ってもらってる。
灯りをつけて顔がよく見えてきて、どこかで見たような顔立ちだな、なんて思いながら声をかける。
「まずは自己紹介かな、俺は」
「し、知ってます。コータさん、です」
「……そうだけど」
なんで知ってるんだよ、って突っ込んで良いところなのだろうか。
というかそもそも不法侵入だぞこの人、いや魔物なんだけどさ。
そんな事を考えながら熱めに淹れたコーヒーを飲み、彼女を見る。
角砂糖を3つ、牛乳もなみなみと注いで少しずつ飲んでいる姿は子どもみたいだ。
しかし体は十分に成熟していて身長も俺より高い、まあ馬の下半身だから背が高いのは当然か。
顔を見ると水色の短めの髪に柔和そうな眼つきでにこにこしながらカップを傾けている。
どっかで見たことある髪色だなぁなんて考えてたら思い出した。
「夢で見たんだ」
「はぅぅッ！？」
「あ、いや、そんな驚かないでくれ」
そう、夢であった美人もこんな髪の色だったんだ。
夢で会ったのはこの魔物だったのか、いやでも表情や服装なんかはだいぶ違うような。
とりあえず色々と説明してもらわないことには何にもならないな、と思考を切り替える。
「まず、君の名前は？」
「あ、えと、ユニウです」
「ユニウさんね。なんて種族の魔物なんだ？」
「え、と、ナイトメアって、言います」
ナイトメア、どんな魔物だったかな。
馬の身体的特徴を持つ魔物はケンタウロスくらいしか知らないが、その亜種だろうか。
分からないことは本人に聞くのが一番手っ取り早いので質問を続ける。
「どんな魔物なんだ、ナイトメアってのは」
「あの、夢、入って、精、」
「夢？ あの美人の夢はユニウさんか」
「あ、はい、見せて、精を」
長ったらしい質問責めを割愛すると。
ナイトメアは臆病な魔物で、夢の中では理想とするような強気な姿を見せる。
夢で性行為をすればそれを通じて男性の精を食べることができる。
裏方で働いている俺をたまたま覗き見たらしく一目惚れをして。
一月前から夜な夜な家に忍び込んでは淫らな夢を見せていた。
「ストーカーじゃねえか」
「ぁぅ、その、ごめんなさいぃ……」
「そう言う種族なんだから仕方ないってのは分かるけどよ……」
「ぅぅ……」
一か月も夢でとは言え精を食べられたんだ、アイリンさんが匂い付いてるとか言う訳だ。
今日眠れずに考えていたことは全部理由が分かった、問題はこれからだ。
と言っても解決方法なんて分かりきっているんだが。
「ユニウさん」
「は、はい、その」
「よろしく、ってことで良いかな？」
「あ、えと……はい？」
「今までのことは水に流してさ、過去の話なんだし。これから一緒に住もうってことで」
「そ、その、いいんです、か？」
「美人に勝てないのは男の性ってやつでね」
長い髪の奥でぱちくりと瞬きしているユニウさんの顔が見える。
夢と雰囲気は違うが生身でも美人だななんて見つめてやると赤らんでいるのが分かる。
「あ、あの、えっと、よろしくお願いします」
「うん、よろしく。それじゃ寝よっか」
「ね、ねねねねねッッ！？」
「いや明日も仕事だし」
結構いい時間だし明日から仕事場でやること変わるから出勤時間早めにするつもりだし。
そんな俺の思考を知ってか知らずか彼女は最初に目を合わせた時と同じくらい慌てだした。
どうしたの、と声をかける前に彼女は何かを囁き、その小さな声が俺の耳に届くとともに意識を手放した。
次に耳に聞こえてきたのは、ぱんぱんと肉がぶつかり音にぬぷぬぷと絡み合う水の音であった。
目を開けるといつもの夢と同じように美人に跨られている状態だった。
淫靡な眼つき、上気した頬、舌をぺろりと出し誘惑してくる唇。
その顔は先ほどと似てはいるものの髪の長さなどが違うのでいつも見ていた夢の中なのだと気付けた。
「ゆ、ユニウさん、一体……」
「だって、コータさんが『寝よっか』って誘ってきたんじゃないですかぁ♪」
「いや、普通に夜遅かったから寝ようと思っただけで……」
「大丈夫ですよぉ、ここは夢の中だから身体はきちんと休まってます」
その後も色々と質問を重ねるが、居間でコーヒーを飲みながら問答してた時と異なりスムーズに話をしてくれた。
簡単な魔法はお手の物らしく、俺の先の発言を受けて眠らせる魔法をかけて、夢の中に入り込んできたらしい。
説明をしてくれる間も腰を浮かせ柔らかな肉をぶつけ、女性器で深く咥えこむ動きをやめる様子は見られない。
「というか、下半身、人間と同じなんですね……」
「えぇ、夢の中なら、人間と同じ形をとれるの♪」
またも色々と聞くと、どうやら今までも人間の姿を夢で見せていたらしい。
理想の自分の姿で魅せて精を食べるナイトメアといえど、なかなか集中力が必要だったらしい。
どうやら集中力の途切れなどのために俺が下半身はあまり記憶できていなかったようだ。
ではなぜわざわざ集中しなければならない人間の姿を取ったかと問うたら。
前の人間の性器ですると馬の下半身をどう腰かけさせても寝そべった俺と上手に性交が出来ず。
後ろの馬の性器ですると馬のお腹などで快楽に歪む俺の顔が見えなくなってしまうから物足りなく。
人間の姿なら腰を振りながら俺の顔を堪能できるため人間の身体で犯していた、とのことだった。
「ふふ、コータの顔、もぉっと見せて♪」
夢の中だと言うのに俺のモノには筆舌出来ない快楽が押し寄せてくる。
その快感に俺は耐え切れず彼女のナカへと白濁を注ぎ込んでいく。
「あっ……キテるぅ♪ コータぁ♪♪」
「ゆ、ユニウ、さん……」
彼女の天井へと一滴のこらず出しきった俺は、またも意識を失っていった。
朝、だった。
目を開ければベッドの上に居た。
昨日のこと全部夢なのではなかろうかと疑ってしまったが、ベッドから這い出て居間へ行けばユニウさんが居た。
「ぉ、おはよぅ、ございます……」
「あ、うん。おはよう」
朝食を用意してくれていたらしく、机の上にはパンやらサラダやらが並んでいた。
顔をさっさと洗って椅子に座り、ご飯を食べながら彼女に色々と話しかけてみる。
「夢の中じゃすごいお喋りだったけど、今はなんか昨晩と同じだね」
「ぁ、あの、えっと、」
「それが悪いとかじゃないよ、勘違いしないでね」
「あ、はい……」
「魔物娘って精が食料なんでしょ？」
「あ、えと、そうです……」
「じゃあさ、これからは夢じゃなくて、現実でさ」
夢の中の性交を通じて精を摂取するんじゃなくて。
現実でちゃんと繋がりたいな、って思うんだ。
そんな風に話すとユニウさんはやっぱり顔を赤らめている。
「あ、えっとその、不束者でしゅが……噛んじゃいましたぁ」
「……先は長そうだね、当分は夢を通じてかなぁ」
「でも、えっと、その……」
「うん？」
「これから、ずっと一緒、です」
「……そだね、先が長くてもいつかは治るよね」
「はい、その、そしたら」
「うん」
いつかは正夢になりますように。
11/11/01 22:00更新 / G7B