国境の町・完結
部屋を包み込んだ光がなくなると、そこには二人の少年が立っていた。
アールが出した拳をマールが受け止めている。二人の少年はどちらも黄金の光を出し、動きを止めている。先に言葉を発したのはアールの方だった。
「何だ…この光は…」
「言っただろ、きみもぼくも他の誰かじゃない。ましてや誰かの出来損ないなんかじゃないんだ。」
拳を下ろしたアールに淡々と語るマール。黄金の光は目視が難しい程に弱まった。
「きみの名前を教えて欲しい。」
「俺はアール、まだこれだけだ。」
「ふざけるなぁ!」
二人の少年の会話に割り込んできたのは、衝撃により吹き飛ばされていた青年、アルマールだった。
「何故お前等のような試作品の失敗作が英雄の資質に覚醒できる?俺はお前等より強い!見た目だってオリジナルに近い!英雄の資質が無いだけだ!!」
狂乱して叫ぶアルマール。立ち上がった彼はふらついた足取りで近くの実験机に向かう。
「この薬さえあれば…俺はアルマールに…英雄になれる…」
机の中に残っていた英雄の薬の試作品を飲み干したアルマールは黄金の光を体から放出する。
「今に見てやがれ失敗作のゴミクズども!俺は完全になる!俺はアルマールになるんだ!ヒャーハッハハハ…」
光に包まれたアルマールをマールは悲しそうに見つめ、アールは無表情で見ていた。
「ぼくの声は、思いは、彼には届かなかったんだ。」
「お前が悔やむことじゃない。」
光の中から黄金の毛を生やした一匹の獣が現れた。獣は英雄の薬を飲み続ける。獣の喉が動く度に黄金の光が体から溢れ出る。最後の瓶を空にしたとき、アルマールだった獣は、獣を大きく超えた異質な存在になっていた。
「話は終わったの?」
「とんでもないものになったわね、あいつ…」
武器を構え少年たちの横に並ぶレナとミレイ、しかし再び黄金の光を出したマールは一歩だけ足を進める。
「みんなはここで待ってて、ぼくだけでやる。」
「でも、あんなのに一人でって、」
「そうだ、無茶だ。」
止めようとするレナとミレイを見て、ため息をつきながら二人の腕をつかむアール、
光を放ち獣の方に行くマールに問いかける。
「一人で大丈夫なんだな。」
「うん、大丈夫だよ。」
「行って来い、お前が行きたいというならな。」
話を終えたマールは獣と対峙する。
「放せ!マール君を助けなければ!」
暴れるミレイを抑えているアールは落ち着いているレナに気付く。
「大丈夫よミレイ、きっとマールは大丈夫。」
落ち着いてミレイに語りかけるレナにミレイは少しだけ不満そうに、
「危なくなったら助けに行くぞ。」
とだけ言って、暴れることをやめ、獣に立ち向かうマールを見守った。
_________________________________________
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
獣が黄金と共に咆哮を放つ。衝撃が部屋中に走る、しかし部屋はマールの発する黄金の波動に守られている。
『なないろのそらよ、せかいのことわりよ、はがねのいしをもってぐしゃをいろなきうみにしずめよ
【虹式の七重封印(シールオブセブンカラーズ)】』
人間と魔族の力の全てを極限まで弱める最上級の封印魔術により、獣の動きが弱まる。だが黄金の光はまだ互いの体から溢れ、拮抗を続けている。その光は人間の力でも魔族の力でもないのだ。
突然マールは黄金の光を強める。強い意志を宿した目は閉じられる。
一瞬の静寂のうち、何かは唱えられた。
【異世界より飛来せし真実そのものよ、我が仇なす者に絶対の死の真実を与えよ】
魔術ではない何かをマールが唱えた瞬間、世界に異質な何かが訪れた。何かが顕れた瞬間、黄金の獣は死んだ。
光が霧散する。戦いは終わった。
_________________________________________
「終わったよ、ただいま、レナさん。」
体から溢れる黄金の光を止めて、いつものような無邪気な笑みを浮かべるマール。
「随分とあっけない幕切れだったな。」
マールの勝利を確信していたアールは口元を少しだけ緩め呟く。
「よかった、本当によかった。」
涙を流しマールの無事を自分の事のように喜んでいるミレイ。
「あらあら、戦いは終わったの。」
「さっきまで強い気配を感じたんだが、戦えなくて残念だ。」
いつの間にか部屋の中にいた二人の給仕、どちらも戦い足りないという顔をしている。
そしてそこには、マールの勝利を信じていたレナが、
「おかえりなさい、マール。」
笑顔で帰ってきたマールを迎えたレナに、マールはもう一度、
「ただいま、レナさん。」
笑顔で答えたのであった。
____________________________________________
それから、アール君はミレイのところで働くことになったわ。行き場の無いアール君と、優秀な部下が欲しかったミレイと利害が一致したみたい。
「さあ、きびきび働いて貰うぞアール。」
「はいはい、全く人づかいが荒い。」
活き活きとしたミレイにしぶしぶ従いながらアール君もまんざらではないみたい。
そういえばアール君が言ってたわ。
「お前には借りができてしまったからな、いつか必ず返す。」
マールはもう気にしてないのにね。
アーレスさんと給仕さんたちは、魔王軍からたくさん報酬金と感謝状をを貰ってたわ。これがきっかけでアーレス
さんの取引先に親魔物領の大きな国とかが増えたみたい。
「ふふふ、だから人助けはやめられません。」
もしかして全部計算してやってたのかしら、本当に凄い人だわ。
そして私は、私たちは、
「レナさーんこっちですって。」
私はマールと一緒に芸術の町に行くことにしたわ。マール一人で旅させるのは危なすぎると思ったのよ、でも本当は恩返しのためなの。マールのあの絵が私を過去から解き放ってくれた。ただの絵だったのにあの絵を見ただけで、私の中の迷いがなくなった。今思うと不思議で仕方なかったけど
「ちょっと待ちなさいマール。」
今はマールと一緒にこの旅を楽しみましょう。
晴れ渡る青空の下、二人の冒険は始まった。
___________________________________________
薄暗い部屋の中、大きな機械の中から白衣の男が出てきた。精神に深い衝撃を受けたその男は、突然笑い出した。
「ヒャーッハッハッハッハハハハハ!」
狂ったかのように笑い出す男に気の弱そうな青年が駆け寄る。
「しゅっ主任、大丈夫ですか。」
「ヒャーッハッハッハハハハハハ!!!」
弱弱しい青年の声に耳を貸さずに笑い続ける狂人。その狂笑はそれから一時間あまり続いた。
「失礼、心配を掛けましたね、"ガスト"君。」
ガストと呼ばれた青年はまずは一安心という表情で緊張の糸を緩めた。
「主任、今度はどんな楽しい発明をしたんですか?」
青年の期待を帯びたまなざしに、気をよくした男は続ける。
「発見は二つあります。一つ目は”英雄の資質”の仕組みや効果。」
「じゃあ二つ目は?」
目を輝かせるガストは、懸命に自らの上司の話を聞こうとする。
「二つ目は”魔術以外の大きな力”の存在です。その力は私の”惑星断層の結界”を軽々と打ち破る程のものです。」
「それは凄い!!」
「さぁ!研究を再開しますよ!我々が運命を手にする日は近いのです。」
薄暗い研究室の中、二人の研究は始まった。
アールが出した拳をマールが受け止めている。二人の少年はどちらも黄金の光を出し、動きを止めている。先に言葉を発したのはアールの方だった。
「何だ…この光は…」
「言っただろ、きみもぼくも他の誰かじゃない。ましてや誰かの出来損ないなんかじゃないんだ。」
拳を下ろしたアールに淡々と語るマール。黄金の光は目視が難しい程に弱まった。
「きみの名前を教えて欲しい。」
「俺はアール、まだこれだけだ。」
「ふざけるなぁ!」
二人の少年の会話に割り込んできたのは、衝撃により吹き飛ばされていた青年、アルマールだった。
「何故お前等のような試作品の失敗作が英雄の資質に覚醒できる?俺はお前等より強い!見た目だってオリジナルに近い!英雄の資質が無いだけだ!!」
狂乱して叫ぶアルマール。立ち上がった彼はふらついた足取りで近くの実験机に向かう。
「この薬さえあれば…俺はアルマールに…英雄になれる…」
机の中に残っていた英雄の薬の試作品を飲み干したアルマールは黄金の光を体から放出する。
「今に見てやがれ失敗作のゴミクズども!俺は完全になる!俺はアルマールになるんだ!ヒャーハッハハハ…」
光に包まれたアルマールをマールは悲しそうに見つめ、アールは無表情で見ていた。
「ぼくの声は、思いは、彼には届かなかったんだ。」
「お前が悔やむことじゃない。」
光の中から黄金の毛を生やした一匹の獣が現れた。獣は英雄の薬を飲み続ける。獣の喉が動く度に黄金の光が体から溢れ出る。最後の瓶を空にしたとき、アルマールだった獣は、獣を大きく超えた異質な存在になっていた。
「話は終わったの?」
「とんでもないものになったわね、あいつ…」
武器を構え少年たちの横に並ぶレナとミレイ、しかし再び黄金の光を出したマールは一歩だけ足を進める。
「みんなはここで待ってて、ぼくだけでやる。」
「でも、あんなのに一人でって、」
「そうだ、無茶だ。」
止めようとするレナとミレイを見て、ため息をつきながら二人の腕をつかむアール、
光を放ち獣の方に行くマールに問いかける。
「一人で大丈夫なんだな。」
「うん、大丈夫だよ。」
「行って来い、お前が行きたいというならな。」
話を終えたマールは獣と対峙する。
「放せ!マール君を助けなければ!」
暴れるミレイを抑えているアールは落ち着いているレナに気付く。
「大丈夫よミレイ、きっとマールは大丈夫。」
落ち着いてミレイに語りかけるレナにミレイは少しだけ不満そうに、
「危なくなったら助けに行くぞ。」
とだけ言って、暴れることをやめ、獣に立ち向かうマールを見守った。
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「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
獣が黄金と共に咆哮を放つ。衝撃が部屋中に走る、しかし部屋はマールの発する黄金の波動に守られている。
『なないろのそらよ、せかいのことわりよ、はがねのいしをもってぐしゃをいろなきうみにしずめよ
【虹式の七重封印(シールオブセブンカラーズ)】』
人間と魔族の力の全てを極限まで弱める最上級の封印魔術により、獣の動きが弱まる。だが黄金の光はまだ互いの体から溢れ、拮抗を続けている。その光は人間の力でも魔族の力でもないのだ。
突然マールは黄金の光を強める。強い意志を宿した目は閉じられる。
一瞬の静寂のうち、何かは唱えられた。
【異世界より飛来せし真実そのものよ、我が仇なす者に絶対の死の真実を与えよ】
魔術ではない何かをマールが唱えた瞬間、世界に異質な何かが訪れた。何かが顕れた瞬間、黄金の獣は死んだ。
光が霧散する。戦いは終わった。
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「終わったよ、ただいま、レナさん。」
体から溢れる黄金の光を止めて、いつものような無邪気な笑みを浮かべるマール。
「随分とあっけない幕切れだったな。」
マールの勝利を確信していたアールは口元を少しだけ緩め呟く。
「よかった、本当によかった。」
涙を流しマールの無事を自分の事のように喜んでいるミレイ。
「あらあら、戦いは終わったの。」
「さっきまで強い気配を感じたんだが、戦えなくて残念だ。」
いつの間にか部屋の中にいた二人の給仕、どちらも戦い足りないという顔をしている。
そしてそこには、マールの勝利を信じていたレナが、
「おかえりなさい、マール。」
笑顔で帰ってきたマールを迎えたレナに、マールはもう一度、
「ただいま、レナさん。」
笑顔で答えたのであった。
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それから、アール君はミレイのところで働くことになったわ。行き場の無いアール君と、優秀な部下が欲しかったミレイと利害が一致したみたい。
「さあ、きびきび働いて貰うぞアール。」
「はいはい、全く人づかいが荒い。」
活き活きとしたミレイにしぶしぶ従いながらアール君もまんざらではないみたい。
そういえばアール君が言ってたわ。
「お前には借りができてしまったからな、いつか必ず返す。」
マールはもう気にしてないのにね。
アーレスさんと給仕さんたちは、魔王軍からたくさん報酬金と感謝状をを貰ってたわ。これがきっかけでアーレス
さんの取引先に親魔物領の大きな国とかが増えたみたい。
「ふふふ、だから人助けはやめられません。」
もしかして全部計算してやってたのかしら、本当に凄い人だわ。
そして私は、私たちは、
「レナさーんこっちですって。」
私はマールと一緒に芸術の町に行くことにしたわ。マール一人で旅させるのは危なすぎると思ったのよ、でも本当は恩返しのためなの。マールのあの絵が私を過去から解き放ってくれた。ただの絵だったのにあの絵を見ただけで、私の中の迷いがなくなった。今思うと不思議で仕方なかったけど
「ちょっと待ちなさいマール。」
今はマールと一緒にこの旅を楽しみましょう。
晴れ渡る青空の下、二人の冒険は始まった。
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薄暗い部屋の中、大きな機械の中から白衣の男が出てきた。精神に深い衝撃を受けたその男は、突然笑い出した。
「ヒャーッハッハッハッハハハハハ!」
狂ったかのように笑い出す男に気の弱そうな青年が駆け寄る。
「しゅっ主任、大丈夫ですか。」
「ヒャーッハッハッハハハハハハ!!!」
弱弱しい青年の声に耳を貸さずに笑い続ける狂人。その狂笑はそれから一時間あまり続いた。
「失礼、心配を掛けましたね、"ガスト"君。」
ガストと呼ばれた青年はまずは一安心という表情で緊張の糸を緩めた。
「主任、今度はどんな楽しい発明をしたんですか?」
青年の期待を帯びたまなざしに、気をよくした男は続ける。
「発見は二つあります。一つ目は”英雄の資質”の仕組みや効果。」
「じゃあ二つ目は?」
目を輝かせるガストは、懸命に自らの上司の話を聞こうとする。
「二つ目は”魔術以外の大きな力”の存在です。その力は私の”惑星断層の結界”を軽々と打ち破る程のものです。」
「それは凄い!!」
「さぁ!研究を再開しますよ!我々が運命を手にする日は近いのです。」
薄暗い研究室の中、二人の研究は始まった。
11/02/01 18:54更新 / クンシュウ
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