連載小説
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国境の町・中編・2
教会の中から剣戟と咆哮の重奏が聞こえる。
「これで十五匹目だ!」
ミレイの振った剣は、的確に金の獣の急所を切り裂き燃やしていく、獣の巨体が崩れ落ちる。
「こんなところで立ち止まっている暇なんて無いのに…」
戦いが始まってしばらく時間が経ち、始めは互角以上の戦いをしていたミレイだが、もはや顔に浮かぶ疲労の色を隠せずにいる。獣の数を三分の一程減らしたものの、剣に掛かった炎の魔法も今では僅かに火の粉を散らす程度になっている、限界が近づいているのだ。またも迫り来る獣の爪を避ける、しかしそのときだった。
「そんな…」
ミレイは崩れた祭壇の破片でつまずき転んでしまった。獣の爪がミレイに迫る、
「ごめんね…レナ…」
目を閉じて死神の鎌が振り下ろされる瞬間を待つミレイ、しかしその瞬間は訪れない。
目を開けたミレイの視界には止まった獣がいた。そう、まさに止まったと表現するのが正しいのだ。
「待たせちゃってごめんね、ミレイ。」
聞き慣れた親友の声が聞こえると同時に目の前の獣の体が細切れになる。
「来るのが少し遅いわよ、レナ。」
親友の顔を見たミレイは軽口を叩いた。階段の奥から獣の鳴き声が聞こえてくる。
階段の下から獣が増える。しかし、もうミレイは怯まなかった。
「状況は好転しないわね。」
「あなたとならばなんとかできるわ。」
親友の援軍で気力を取り戻したミレイは剣を構えなおした。だが、この戦力差は簡単には覆らない。
こうしている間にもレナのさらわれた仲間はどうなっているかわからない。焦りのみが膨らむ中、突然何かが獣たちを吹き飛ばした。

「うふふふふ〜お困りかしら〜。」
「マール君を助ける手伝いをしてやる。」
「あなたたちは!」
「誰?」
戦斧を持った給仕服の女と、拳で獣を殴り飛ばした給仕服の女を見てレナは驚き、ミレイは首を傾げた。
突如戦場に現れた二人の給仕は続ける。
「うふふ〜ここは私たちに任せてマール君のところに行きなさい。」
「これはお前が持って行け。」
無愛想な給仕が投げたかばんをレナは受け取る。
「あなたには、これをあげるわ。」
ミレイは不思議な雰囲気の給仕がスカートの中から出した瓶を受け取った。

《不死鳥と魔王の秘薬》
服用した者の体力と魔力を最高の状態まで回復する薬、
回復する為にしてはコストが掛かりすぎるため一線から退き、製造することすら難しい幻の薬の一つ。

「ほんとにいいんですか?」
「うふふ〜道具はね、正しい持ち主に使われる為にあるのよ。」
「だから早く行け、そのかばんを正しい持ち主に返してやるんだ。」
二人の給仕は武器を構え、獣の方へ向き直る。
「ありがとうございます。」
「この礼は必ず返します。」
礼をした二人は、階段を下りて教会の地下へと足を進めた。
「うふふ〜さあ暴れるわよ〜。」
「楽しませてくれよ、獣共。」
二人の給仕は不敵に笑い、獣たちの中に切り込んでいった。

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教会の地下深く、白衣の男の実験室。作られた英雄の薬の試作品が次々に別の部屋に運ばれている。
「まだ賊を片付けられませんか、所詮は出来損ないの集まりですねぇ。」
白衣の男の狂気の実験は続く、それはまるで世界の全てを狂わす勢いで。

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目が覚めるとぼくは光の中にいた。何も聞こえず、何にも触れず動くことすらできない、
ただ目を開けると黄金の光が見える。
ぼくはどうしたのだろうか?なにもすることができないや。なにもないならしなくていいや。
薄ぼんやりとした意識の中、ぼくは再び目を瞑ろうとした。
「困るな、眠ってもらっちゃ。」
声が聞こえる、あなたはだれかな。
「君を待ってる人たちが外にいるんだ、早く起きて迎えに行こう。僕も力を貸してあげるから。」
声が途絶えると、ぼくの意識がはっきりとしていく。見えてくる、聞こえてくる、ぼくの感覚が帰ってくる。
そして…

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「馬鹿な、被検体の力は幾重にも重ねた封印魔法で封じたはず。」
白衣の男の驚愕の声と同時に少年が入っていた容器が割れた。溢れ出る黄金の波動は、白衣の男に恐怖を与える。
「おっおとなしくしていろ!」

『星の断層よ、生と死の境界よ、彼の者を封じよ【惑星断層の結界(スタープリズン)】』

【解呪せよ】

竜すらも封印する最上級の封印結界魔術を使い、少年を再び封じようとする白衣の男
しかし、白衣の男の魔術は黄金を纏う少年の一言でかき消されてしまった。
「何故だ、そんな魔術はこの世界には…」

【壊れろ】

白衣の男が喋るのに割り込み少年が発した一言に呼応して、白衣の男が砕け散った。
「ふぅ、僕はしばらく寝ているよ。後は君がなんとかするんだマール君。」
黄金の波動が弱まる。
「行かなきゃ、レナさんのところへ。」
少年は向かう、レナがいる場所へ。

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「破あぁぁぁぁ!」
「邪魔だ!」
教会地下に入ったレナとミレイは現れる獣たちを次々と切り捨て、薄暗い廊下を進む。
二人はまるで蒼き鷹の比翼のように並んで走る。そして大きな部屋に辿り着いた。
「ここは…」
「そんな…」
その部屋の中で、金髪の青年たちが透明な容器の中に入っていた。時々、外に出される青年たちはいずれも
苦しみながら黄金の光に包まれ、次の瞬間には先ほどからよく見た黄金の獣になっている。そんな中レナの目は倒れている金の髪の少年を映す。
「マール…?」
「またか…」
レナの呟きを聞いた少年は立ち上がる。少年の顔には痛々しい火傷の痕が見える。
「俺は…出来損ないじゃない…」
「何を言っている?」
レナが聞き返したのと同時に黄金の光が少年の体を包み込む。レナの疑問に答えるように何者かが言葉を発した。
「その欠陥品は英雄の薬の実験台なのさ。」
「アルマール!」
「何故お前が!」
現れた金髪の青年に二人は驚愕の声を上げ、光の中からは呻き声が聞こえた。
「さあ、何故だろうな。そこの出来損ないにでも聞いてみたらどうだ。そんな暇なんてないだろうがな。」
アルマールは邪悪な笑みを浮かべ、剣を構える。その構えも、その声も、二人の記憶の中のある青年と一致する。
「遊ぼうぜ、お前らが死ぬまで付き合ってやるよ。」
飛び掛る獣たちとアルマール、レナたちが窮地に陥ったとき、一陣の風が戦場に吹いた。
風を浴びた獣たちは力を失ったように倒れ、その体を崩れさせている。
「どういうことだ?何故お前がここに?」
混乱するアルマールを尻目にマールは光に包まれた少年に近づきその体を触る。すると、少年を包む光は弱まり、苦しげな息も整い少年は目を覚ました。
「何のつもりだ…複製の成功作がお情けでも掛けにきたのかよ。」
火傷の少年が憎々しげに皮肉を放つ。マールはその言葉に悲しげな表情を浮かべる。
「何とか言えよ…この野郎…」
悲しげな表情のマールはその場所で初めて言葉を発した。
「きみは欠陥品なんかじゃない。」
「お前に俺のなにがわかる!!」
「きみも、ぼくも、ここにいる皆がこの世界にただ一人存在する人なんだ。」
「黙れぇぇぇ!!」
態度を変えないマールに対して少年の怒りが爆発した。黄金の光が少年の体から溢れ出す、それを見たマールも黄金の光を出して、光を出してこちらに接近してくる少年を迎え撃つ。二つの光がぶつかり、部屋の中に衝撃が走った。

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目が覚めると俺は光の中にいた。静かな世界の中、一人思案する。
俺はどうしたんだ…マールとか呼ばれていたあいつにむかついて…
それで気付いたら…
「俺は…死んだのか…」
「君はまだ死んでないよ。」
声のする方向に意識を集中させると金髪の青年が現れた。優しげな笑みを浮かべる青年は彼の見慣れた顔とは大きく異なり、彼を驚かせた。
「君はまだ死んでない、その存在は消えつつあるけど僕が力をあげれば君は生きることができる。」
「そうか…」
俺は目を閉じた。だってそうだろ、俺みたいな出来損ないが生きてたって何の意味も無い。
「君がこの手に触ったら君に僕の力が渡される。君が消えるまで待っててあげるから気が変わったらおいで。」
「…」
返事すらしない少年に困った顔を見せる青年は手を少年に差し伸べる。
そのとき、
「何だ…これは…」
少年は目を見開く、体の感覚が足の指先から少しずつ無くなっていく。体が冷たくなっていく。寒い、怖い、死にたくない!!
少年は差し伸べられた手にすがりつく。青年の手に触れた場所から熱が染み込んでいく。意識が遠くに行く。
「君はもう迷う必要は無いみたいだね。最後に君の名前を聞かせてくれ。」
「俺は…俺の名前は"アール"…」
青年の穏やかな笑顔が見えた後、アールの意識は光の世界から無くなった。
11/02/01 18:53更新 / クンシュウ
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■作者メッセージ
お待たせしました。三部構成にしようとして失敗したクンシュウですwww
やっちゃったぜwww1,2,3,4…ならわかるけど、日本語の場合だと前、中、後だけで三つまでしかわかりません(おいおい)。最後を完結編にするって手も考えましたが、完結できなかったらアレなのでとりあえず中編・2てことで出しました。
敵キャラとかサブキャラの名前っていつ出せばいいんだろうか、サブキャラは名乗る自然な流れにすればいいけど敵が自然に名乗りだす流れって敵が正々堂々とした武人タイプの奴じゃないとありえない気がします。
小説って難しいですね。

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