国境の町・中編
________時を少しさかのぼる__________
「この辺を描こうかな。」
画家見習いの少年マールは橋の上に腰を下ろした。彼は国境の町への道案内の対価として、作家見習いのレナに絵を渡すつもりだった。しかし渡すはずの絵を商人の青年に売ってしまったため、新しい絵を描いているところだ。
「ところでそこに隠れているのは誰ですか?」
「・・・・・・」
マールが絵を描きながら問いかけると、隠れていたものは無言で物陰から出てきた。それを見たマールの表情が驚き一色に染まる。
「こんなことが…」
そこには少年がいた。まるで自分を鏡で映したような背丈、金髪、顔立ちをしている少年。
ただ一つ違うところがあるとすればマールの目に映る少年の顔と体に酷い火傷の痕があることだ。
「死ね」
驚きを示す少年を見たもう一人の少年は憎しみに顔を歪め剣を抜き、目の前の傷の見えない体にその剣を叩きつけた。
「君はいったい…」
【幻影魔法(イリュージョン)】で難を逃れたマールは人気のない方へ逃げる。火傷の少年はそれを驚異的な速度で追いかける。
「話を聞いてくれる気は無いみたいだね。そっちがその気なら、」
『せかいをめぐるかぜのうたよ、わがみにやどれ【速度強化(スピードプラス)】』
追いすがる火傷の少年から距離を離し、再び詠唱を始めるマール
『いたみそのものよ、かのものにふりそそげ【精神裂傷(マインドスラッシュ)】』
被術者の精神に痛みを与える魔術【精神裂傷】常人なら動けなくなる程の痛みを与えたはずだが
「ガァァァァァァ!!」
痛みを跳ね除け突貫を続ける火傷の少年
「狂戦士か!うわっ」
迫りくる剣を寸でのところで避けたマールは腹を思い切り蹴飛ばされ吹き飛ぶ。
「お互い無傷というわけにはいかないようだね。」
『かぜのやいばよ、わがあだなすものをきれ【斬疾風(エアカッター)】』
刃となった風が火傷の少年に襲い掛かる。しかし無数の斬撃は全て剣一本で受け流され、辺りを切り裂く無駄弾となる。それを予測していたマールは敵の身を案じることを諦め、次の術を唱える。
『さくれつするまりょくよ、せかいそのものよ、そのすがたをいまこのばしょにあらわせ【現象世界の炸裂(エクスプロードダンス)】』
その直後、火傷の少年は爆発の奔流に巻き込まれた。被術者と辺りに住む命全てを消滅させる高位魔術の一つ、【対抗魔術】を使えない狂戦士に防ぐ術はない。爆煙の中からは飛び散った火傷の少年の死体が見えるはずだった。
「高位魔術をこのスピードで唱えるか、失敗作でも勇者の複製ということか。」
煙の中から聞こえる青年の声に身構える少年、しかし
「失敗作ではこんなものか。」
次の言葉が聞こえた瞬間マールの意識は消えていた。
_______そして時は流れる____________
「嘘だろ…アルマール…」
一瞬遅く路地裏に入ったミレイが見たのは去っていく人影と立ち尽くすレナだった。
愛しい人の名前を呼び続ける彼女は弱弱しく触っただけで崩れ落ちそうなほどだった。
「レナ…」
「アルマールあるまーるアルマールあるまーるアルマールあるまーるアルマール…」
親友の様子を見て一瞬だけ心を痛めたミレイは、すぐに表情を変えて言う。
「それであなたはどうするの?さらわれた仲間を見捨ててここで泣いているの?」
ミレイの問いかけに応えることもなく愛しい人の名前を呟き続けるレナ。
頬を打つ音が路地裏に響く。ミレイがレナの頬をはたくとレナは地面に倒れた。
その様子を見たミレイは剣を抜きレナの顔の横に思い切り突き刺した。
「剣を取りなさい、仲間を守るために剣を取りなさい。今なら間に合うかもしれないわ。」
返事をしないレナを一瞥したミレイは走っていく。
「酷いことを言ってごめんなさい。でも安心して、あなたの仲間は私が絶対に助けるから。」
全ては自分のかけがえの無い親友の為に。
____________________________________
国境の町の反魔物領、教会の地下でその実験は行われていた。金髪の少年は緑色の液体に浸され、目を閉じまったく動かない。
「凄い、凄いですよこの少年は。」
金髪の少年が入った容器の前で白衣の男は踊っている。
「今まで作られたクローンの中で一番《英雄の資質》を持っている。」
踊りながら男は続ける。
「他のクローンは皆英雄の資質が無いかあっても絞りカス程度にしか無かったのに。」
ポーズを決めて男は喋る。
「これならば《英雄の薬》を完成させることも夢ではない!!」
「英雄の薬はまだできないのか。」
部屋にいた金髪の青年は冷ややかな視線と声を目の前の変人に浴びせる。
トリップしていたところに話しかけられ途端に不機嫌になる変人
『煩い話し掛けるな欠陥品』
低い声で変人が呟くと青年はうずくまり苦しみ始める。うずくまる青年を蹴り飛ばし変人が研究に戻る。
「鼠が入り込んだみたいです。片付けておいてくださいね出来損ないの"アルマール"君」
変人の言葉に拳を握る力を強めアルマールは侵入者の排除に向かった。
_______________________________________
「ここにあの男の子が…」
教会に辿り着いたミレイの装備はレナと共にいたときから変わっている。
漆黒の重鎧は夜色に染められた防刃繊維の服になっており、腰に挿した長剣は蒼い鷹の装飾をあしらった数本の小剣になっている。腰まで下ろした白銀の髪は頭の上で結って一つにまとめている。
「今度こそ私は守る…あの子とあの子の大切な人を…」
教会の中に侵入したミレイ、しかし様子がおかしい。人の気配がしないそれどころか
「嫌な臭いがする。」
獣の臭いに近いがそれよりももっと酷い臭い、その臭いを辿ると祭壇についた。
「子供騙しね。」
ミレイが小剣を二本出して剣を振ると祭壇が細切れになり、地下に続く階段が現れた。
一瞬の出来事だった。ミレイが立っていた場所に何かが叩きつけられ床が抜けた。
「こいつらは何だ…」
そこには異臭の根源がいた。黒い肌をしており腕が二本、足が二本。筋肉は膨張しておりその姿には醜いという言葉が相応しい。
獣には金の毛が生えており、その金はステンドグラス越しの月光を浴びかがやいていた。
沈黙の中、戦いは始まる。金の獣たちは一斉にミレイに向かっていく。
ミレイは正面方向に走り獣たちに斬撃を浴びせる。獣の攻撃を避け、剣を振り続ける様は風に吹かれ舞う花びらのようだ。しかし彼女の視界には倒れた獣は映らない。
「切ったところが…再生している…」
それでも彼女は怯まない。親友の為に剣を振り続ける。
『炎の唄よ、我が剣に宿れ【炎の剣(フレイムソード)】』
炎を宿した剣で切られた黒い肌は再生することもかなわず焼け爛れる。獣が一匹倒れる、
「私は絶対に負けられない!!」
彼女の長い戦いは始まった。
__________ミレイが教会に行く少し前___________
レナは路地裏で倒れていた。
「私はどうすればいい、アルマール…」
顔の横に刺さる剣に映る自分の顔を見る。
「酷い顔ですわね。」
「惨めだな…」
声の方に顔を向けるとアーレスの屋敷の二人の給仕がいた。
「何をしに来たんですか、私を笑いに来たんですか。」
「いいえ、私は落し物を届けに来ただけですわ。」
そういって彼女は私にかばんを見せる。見覚えのあるかばん。これは…
「マールのものだ、ここで寝ているのもいいがこいつを見てからでも遅くないはずだ。」
そう言って、口の悪い給仕はぶっきらぼうに彼のかばんから出した絵を投げる。私はそれを受け取り見た。この絵は…
「すみません用事ができました。それは預かっていてください。」
「彼は壁の向こうの一番大きな建物の中よ。がんばってくださいね。」
給仕の話を聞いたレナは刺さっていた剣を引き抜き、彼の元へと走って行った。
「しかし不思議なものだ、ただの絵を見るだけで悩んでいたのが吹っ切れたようだ。」
隣の口の悪い給仕の一言に、不思議な給仕は笑って応える。
「うふふふ、これが愛の力よ。あなたもあと百五十年位生きればきっとわかるわ。うふふふふ。」
そしてその笑いは段々不適なものになっていく。
「さ〜て久しぶりに暴れるわよ〜うふふふふふふ。」
「また始まったか…」
笑い続ける給仕と言葉と裏腹に乗り気で指を鳴らす給仕は、剣をとったレナが通った道を走るのであった。
「この辺を描こうかな。」
画家見習いの少年マールは橋の上に腰を下ろした。彼は国境の町への道案内の対価として、作家見習いのレナに絵を渡すつもりだった。しかし渡すはずの絵を商人の青年に売ってしまったため、新しい絵を描いているところだ。
「ところでそこに隠れているのは誰ですか?」
「・・・・・・」
マールが絵を描きながら問いかけると、隠れていたものは無言で物陰から出てきた。それを見たマールの表情が驚き一色に染まる。
「こんなことが…」
そこには少年がいた。まるで自分を鏡で映したような背丈、金髪、顔立ちをしている少年。
ただ一つ違うところがあるとすればマールの目に映る少年の顔と体に酷い火傷の痕があることだ。
「死ね」
驚きを示す少年を見たもう一人の少年は憎しみに顔を歪め剣を抜き、目の前の傷の見えない体にその剣を叩きつけた。
「君はいったい…」
【幻影魔法(イリュージョン)】で難を逃れたマールは人気のない方へ逃げる。火傷の少年はそれを驚異的な速度で追いかける。
「話を聞いてくれる気は無いみたいだね。そっちがその気なら、」
『せかいをめぐるかぜのうたよ、わがみにやどれ【速度強化(スピードプラス)】』
追いすがる火傷の少年から距離を離し、再び詠唱を始めるマール
『いたみそのものよ、かのものにふりそそげ【精神裂傷(マインドスラッシュ)】』
被術者の精神に痛みを与える魔術【精神裂傷】常人なら動けなくなる程の痛みを与えたはずだが
「ガァァァァァァ!!」
痛みを跳ね除け突貫を続ける火傷の少年
「狂戦士か!うわっ」
迫りくる剣を寸でのところで避けたマールは腹を思い切り蹴飛ばされ吹き飛ぶ。
「お互い無傷というわけにはいかないようだね。」
『かぜのやいばよ、わがあだなすものをきれ【斬疾風(エアカッター)】』
刃となった風が火傷の少年に襲い掛かる。しかし無数の斬撃は全て剣一本で受け流され、辺りを切り裂く無駄弾となる。それを予測していたマールは敵の身を案じることを諦め、次の術を唱える。
『さくれつするまりょくよ、せかいそのものよ、そのすがたをいまこのばしょにあらわせ【現象世界の炸裂(エクスプロードダンス)】』
その直後、火傷の少年は爆発の奔流に巻き込まれた。被術者と辺りに住む命全てを消滅させる高位魔術の一つ、【対抗魔術】を使えない狂戦士に防ぐ術はない。爆煙の中からは飛び散った火傷の少年の死体が見えるはずだった。
「高位魔術をこのスピードで唱えるか、失敗作でも勇者の複製ということか。」
煙の中から聞こえる青年の声に身構える少年、しかし
「失敗作ではこんなものか。」
次の言葉が聞こえた瞬間マールの意識は消えていた。
_______そして時は流れる____________
「嘘だろ…アルマール…」
一瞬遅く路地裏に入ったミレイが見たのは去っていく人影と立ち尽くすレナだった。
愛しい人の名前を呼び続ける彼女は弱弱しく触っただけで崩れ落ちそうなほどだった。
「レナ…」
「アルマールあるまーるアルマールあるまーるアルマールあるまーるアルマール…」
親友の様子を見て一瞬だけ心を痛めたミレイは、すぐに表情を変えて言う。
「それであなたはどうするの?さらわれた仲間を見捨ててここで泣いているの?」
ミレイの問いかけに応えることもなく愛しい人の名前を呟き続けるレナ。
頬を打つ音が路地裏に響く。ミレイがレナの頬をはたくとレナは地面に倒れた。
その様子を見たミレイは剣を抜きレナの顔の横に思い切り突き刺した。
「剣を取りなさい、仲間を守るために剣を取りなさい。今なら間に合うかもしれないわ。」
返事をしないレナを一瞥したミレイは走っていく。
「酷いことを言ってごめんなさい。でも安心して、あなたの仲間は私が絶対に助けるから。」
全ては自分のかけがえの無い親友の為に。
____________________________________
国境の町の反魔物領、教会の地下でその実験は行われていた。金髪の少年は緑色の液体に浸され、目を閉じまったく動かない。
「凄い、凄いですよこの少年は。」
金髪の少年が入った容器の前で白衣の男は踊っている。
「今まで作られたクローンの中で一番《英雄の資質》を持っている。」
踊りながら男は続ける。
「他のクローンは皆英雄の資質が無いかあっても絞りカス程度にしか無かったのに。」
ポーズを決めて男は喋る。
「これならば《英雄の薬》を完成させることも夢ではない!!」
「英雄の薬はまだできないのか。」
部屋にいた金髪の青年は冷ややかな視線と声を目の前の変人に浴びせる。
トリップしていたところに話しかけられ途端に不機嫌になる変人
『煩い話し掛けるな欠陥品』
低い声で変人が呟くと青年はうずくまり苦しみ始める。うずくまる青年を蹴り飛ばし変人が研究に戻る。
「鼠が入り込んだみたいです。片付けておいてくださいね出来損ないの"アルマール"君」
変人の言葉に拳を握る力を強めアルマールは侵入者の排除に向かった。
_______________________________________
「ここにあの男の子が…」
教会に辿り着いたミレイの装備はレナと共にいたときから変わっている。
漆黒の重鎧は夜色に染められた防刃繊維の服になっており、腰に挿した長剣は蒼い鷹の装飾をあしらった数本の小剣になっている。腰まで下ろした白銀の髪は頭の上で結って一つにまとめている。
「今度こそ私は守る…あの子とあの子の大切な人を…」
教会の中に侵入したミレイ、しかし様子がおかしい。人の気配がしないそれどころか
「嫌な臭いがする。」
獣の臭いに近いがそれよりももっと酷い臭い、その臭いを辿ると祭壇についた。
「子供騙しね。」
ミレイが小剣を二本出して剣を振ると祭壇が細切れになり、地下に続く階段が現れた。
一瞬の出来事だった。ミレイが立っていた場所に何かが叩きつけられ床が抜けた。
「こいつらは何だ…」
そこには異臭の根源がいた。黒い肌をしており腕が二本、足が二本。筋肉は膨張しておりその姿には醜いという言葉が相応しい。
獣には金の毛が生えており、その金はステンドグラス越しの月光を浴びかがやいていた。
沈黙の中、戦いは始まる。金の獣たちは一斉にミレイに向かっていく。
ミレイは正面方向に走り獣たちに斬撃を浴びせる。獣の攻撃を避け、剣を振り続ける様は風に吹かれ舞う花びらのようだ。しかし彼女の視界には倒れた獣は映らない。
「切ったところが…再生している…」
それでも彼女は怯まない。親友の為に剣を振り続ける。
『炎の唄よ、我が剣に宿れ【炎の剣(フレイムソード)】』
炎を宿した剣で切られた黒い肌は再生することもかなわず焼け爛れる。獣が一匹倒れる、
「私は絶対に負けられない!!」
彼女の長い戦いは始まった。
__________ミレイが教会に行く少し前___________
レナは路地裏で倒れていた。
「私はどうすればいい、アルマール…」
顔の横に刺さる剣に映る自分の顔を見る。
「酷い顔ですわね。」
「惨めだな…」
声の方に顔を向けるとアーレスの屋敷の二人の給仕がいた。
「何をしに来たんですか、私を笑いに来たんですか。」
「いいえ、私は落し物を届けに来ただけですわ。」
そういって彼女は私にかばんを見せる。見覚えのあるかばん。これは…
「マールのものだ、ここで寝ているのもいいがこいつを見てからでも遅くないはずだ。」
そう言って、口の悪い給仕はぶっきらぼうに彼のかばんから出した絵を投げる。私はそれを受け取り見た。この絵は…
「すみません用事ができました。それは預かっていてください。」
「彼は壁の向こうの一番大きな建物の中よ。がんばってくださいね。」
給仕の話を聞いたレナは刺さっていた剣を引き抜き、彼の元へと走って行った。
「しかし不思議なものだ、ただの絵を見るだけで悩んでいたのが吹っ切れたようだ。」
隣の口の悪い給仕の一言に、不思議な給仕は笑って応える。
「うふふふ、これが愛の力よ。あなたもあと百五十年位生きればきっとわかるわ。うふふふふ。」
そしてその笑いは段々不適なものになっていく。
「さ〜て久しぶりに暴れるわよ〜うふふふふふふ。」
「また始まったか…」
笑い続ける給仕と言葉と裏腹に乗り気で指を鳴らす給仕は、剣をとったレナが通った道を走るのであった。
11/01/19 17:46更新 / クンシュウ
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