国境の町・前編
商人の青年アーレスの馬車の中、最初ははしゃいで絵を描いていたマールも疲れて眠ってしまい、黙々とメモ帳に文を書き続けているレナはペンを止めふと闇色になった外を見る。
ここは国境の町、親魔物領の国と教団の力により統治される国との国境がある町である
「この町は気に入っていただけたでしょうか?」
アーレスは問いかける。
「入ったばかりではよくわかりません。ただ、」
「ただ?」
少し眉間に皺をよせつつ呟いた一言が気になりアーレスは聞き返す。すると辺りを警戒する警備兵を見てレナは
「この張り詰めた緊張感を私は好きではありません。」
と言う。それを聞いたアーレスは少し悲しそうに
「まったく正反対の人々があの壁をはさみ生活しているのです。いつ起きるかわからない戦争にある人はおびえまたある人は備えているのです。」
月が空の一番高いところに昇るころ馬車はとまった。目の前には大きな屋敷がある。
「さあ着きましたよ。今日は夜も遅い、客間に案内させます。ゆっくり体を休めてください。」
アーレスが門の前で手を三度叩くと門が開き中から給仕服を着た女性が二人出てきて頭を下げた。
「「おかえりなさいませご主人様。」」
アーレスは眠っているマールを背負って馬車から出てきたレナに少し視線をやり二人の給仕に命令を出した。
「ゲストルームに連れて行ってくれ。私の命の恩人だ。」
それを聞いた二人の給仕はレナにもう一度頭を下げ、
「ゲストルームに案内いたします。どうぞ私たちについてきてください。」
二人の給仕が主人の命の恩人をつれて屋敷の中へ、それに続いて屋敷の主人とその妻子が自分たちの部屋へと帰っていった。
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目が覚める、私はベッドの上にいる。カーテンを少し開け窓の外を見る、朝日が差し込んでくる。
私は助けた青年に連れられ屋敷におじゃまさせてもらっていた。隣のベッドを見る。
昨日出会った少年が寝ている。無防備な寝顔を見て私は懐かしいと感じる。やはりこの子は似ているのだ。
眠っている彼の頬を優しく撫でる。緩やかに時が流れる。
「食事の準備はできていますよお客様。」
「えぇぇっ!!」
驚く私の後ろには昨日案内をしてくれた給仕さんの一人がいる。お邪魔でしたかしら、と意地悪げに微笑んでいる。
「ん…おはよう…」
さっき私の出した大声でマールが起きる
「どうしたの、そんな大声だして。」
「なっなんでもないわ。そんなことより食事の準備ができたみたいよ。」
「本当ですか!」
給仕さんに連れられマールは食堂に、なんとかごまかせたみたい。
「レナさん、早く行きましょうよ。」
無邪気に笑うその姿も彼にそっくりだった。
_______________________________
「おはようございます。昨日はお世話になりました。」
食堂に着くとアーレスとその家族が席に着き二人を待っていた。目の前に並ぶご馳走にマールは目を輝かせ、
レナは驚いていた。
「本当にこんなご馳走を食べていいのでしょうか?」
少年を手で待たせつつレナが言うとアーレスは微笑み
「なにもこれだけで命を救っていただいた恩を返すつもりはありませんよ。そういうお話は食事の後にゆっくりしましょう。」
「いただきます!」
レナの隣に座るマールの声と食器の音に、アーレスは再び微笑みレナはため息をつき彼らの食事は始まった。
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食事が終わって少し時間がたつ。アーレスが手を叩くと給仕が袋を持ってやってくる。
「昨日のお礼です。受け取ってください。」
レナがその中身を確認する。中には途方もないほど金貨が入っていた。
「こんなにたくさん受け取れません。」
「これはちょっと…」
その金貨の量はレナが受け取りを拒否し、さすがのマールも困惑し受け取るのを遠慮するほどである。
そんな様子を見て二人をますます気に入ったアーレスは笑顔を崩さない。
「いいのですよ、自分の命を救ってくれた人たちに出し渋るようでは商人の名折れでしょう。私は商人としてできる礼を尽くそうとしています。どうか私たち家族の感謝の気持ちを受け取ってくださいな。」
「でもぼくたちはお金のためにあなたたちを助けたわけでは…」
遠慮がちにしゃべるマールを見て笑ったアーレスは二人に話す。
「ではあなたたちの書いた絵と小説を私がそのお金で買いましょう。」
「しかし私たちの小説と絵にはそんな価値はありませんよ。」
「気持ちのいい人たちだが自分のことを小さく見すぎる所はよくないですよ。私はあなたたちの未来を買っているのです。」
マールとレナはさらに困惑する。
「未来…?」
「未来…ですか…?」
雰囲気からもう一押しだと感じ取ったアーレスは続ける。
「そう、未来です。あなたたちは近い未来きっと有名になるそのときのために、あなたたちに良い印象を受けてもらおうと思ったのですよ。」
「えへへ、ぼく有名な画家になれるかな。」
「ええ、きっとなれますよ。」
上手く乗せられているマールを見てレナはため息をつき
「わかりました。私の小説と彼の絵を売りましょう。それでいいわねマール。」
「はいレナさん。」
マールはアーレスにすっかり褒め殺されている。話術ではやはり商人をやっているアーレスの方が一枚上手だったようだ。
__________________________________
「また来て下さい。いつでも歓迎しますよ。」
屋敷の主人に見送られ上機嫌のマールと町に出て行くレナ。そんなときだった
「あぁー!!」
「どうしたの、マール?」
突然大声をだすマール、隣で大きな声をあげられたレナは町の人に頭を下げつつマールに答える。
「レナさんへ渡す報酬の絵もさっきアーレスさんに渡しちゃった。急いで描いてきます。」
「えっ…ちょっと待ちなさいって。」
レナが止める間もなくマールは町の中に駆けて行った。人混みに紛れた少年はあっという間に視界から消え取り残されたレナは彼と出会ってから繰り返してきたため息をもらす。そこに凛とした、レナにとっては懐かしい声が聞こえてくる。
「久しぶりね、レナ。」
「あなたは…」
禍々しくも美しい漆黒の鎧、腰まで伸びる白銀の髪は夜空に散りばめられた星のよう。
「元気そうでよかったわ。」
「あなたも元気そうね、ミレイ。」
彼女はミレイ・コバルトホーク。魔王軍特殊部隊《蒼の鷹》の隊長であり、レナの元上司にして親友である。
「さっきの男の子は誰なの?」
「あの子は私の旅の途中で会ったの、道に迷っていたところを助けたのよ。ところでミレイ、あなたはなぜここにいるの?」
「少し仕事でね・・・それよりあの男の子を追いましょう。詳しくは歩きながら話すわ。」
真剣な表情で話すミレイ。ただならぬものを感じたレナは少し足を速めた。
「この町の教団勢力が怪しい動きをしているという報告を受け、蒼の鷹が調査をすることになったの。」
「でも、」
「ええ、そうよ私の部下が調査しようとしても尻尾は掴めなかった。それどころか帰ってこない部下たちもいたわ。」
少年が消えた方向に大きな爆発音が起こる。
「急ぎましょう。」
ミレイに言われるまでもなくレナは音のしたほうへ走って行った。
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「こんなものだろう。」
「・・・・・」
気絶した少年を担ぐ青年と、それに従う顔に火傷痕がある少年はいずれもよく似た金の髪をしていた。
「さっきの爆発で人が集まってくるだろう、急いで帰るぞ。」
「・・・・・」
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路地裏に入ったレナの目に映ったもの、それは
「嘘だろ…アルマール…」
自分がもっとも愛した青年の顔と、愛しい人とそっくりの顔を持つ少年たちだった。
ここは国境の町、親魔物領の国と教団の力により統治される国との国境がある町である
「この町は気に入っていただけたでしょうか?」
アーレスは問いかける。
「入ったばかりではよくわかりません。ただ、」
「ただ?」
少し眉間に皺をよせつつ呟いた一言が気になりアーレスは聞き返す。すると辺りを警戒する警備兵を見てレナは
「この張り詰めた緊張感を私は好きではありません。」
と言う。それを聞いたアーレスは少し悲しそうに
「まったく正反対の人々があの壁をはさみ生活しているのです。いつ起きるかわからない戦争にある人はおびえまたある人は備えているのです。」
月が空の一番高いところに昇るころ馬車はとまった。目の前には大きな屋敷がある。
「さあ着きましたよ。今日は夜も遅い、客間に案内させます。ゆっくり体を休めてください。」
アーレスが門の前で手を三度叩くと門が開き中から給仕服を着た女性が二人出てきて頭を下げた。
「「おかえりなさいませご主人様。」」
アーレスは眠っているマールを背負って馬車から出てきたレナに少し視線をやり二人の給仕に命令を出した。
「ゲストルームに連れて行ってくれ。私の命の恩人だ。」
それを聞いた二人の給仕はレナにもう一度頭を下げ、
「ゲストルームに案内いたします。どうぞ私たちについてきてください。」
二人の給仕が主人の命の恩人をつれて屋敷の中へ、それに続いて屋敷の主人とその妻子が自分たちの部屋へと帰っていった。
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目が覚める、私はベッドの上にいる。カーテンを少し開け窓の外を見る、朝日が差し込んでくる。
私は助けた青年に連れられ屋敷におじゃまさせてもらっていた。隣のベッドを見る。
昨日出会った少年が寝ている。無防備な寝顔を見て私は懐かしいと感じる。やはりこの子は似ているのだ。
眠っている彼の頬を優しく撫でる。緩やかに時が流れる。
「食事の準備はできていますよお客様。」
「えぇぇっ!!」
驚く私の後ろには昨日案内をしてくれた給仕さんの一人がいる。お邪魔でしたかしら、と意地悪げに微笑んでいる。
「ん…おはよう…」
さっき私の出した大声でマールが起きる
「どうしたの、そんな大声だして。」
「なっなんでもないわ。そんなことより食事の準備ができたみたいよ。」
「本当ですか!」
給仕さんに連れられマールは食堂に、なんとかごまかせたみたい。
「レナさん、早く行きましょうよ。」
無邪気に笑うその姿も彼にそっくりだった。
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「おはようございます。昨日はお世話になりました。」
食堂に着くとアーレスとその家族が席に着き二人を待っていた。目の前に並ぶご馳走にマールは目を輝かせ、
レナは驚いていた。
「本当にこんなご馳走を食べていいのでしょうか?」
少年を手で待たせつつレナが言うとアーレスは微笑み
「なにもこれだけで命を救っていただいた恩を返すつもりはありませんよ。そういうお話は食事の後にゆっくりしましょう。」
「いただきます!」
レナの隣に座るマールの声と食器の音に、アーレスは再び微笑みレナはため息をつき彼らの食事は始まった。
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食事が終わって少し時間がたつ。アーレスが手を叩くと給仕が袋を持ってやってくる。
「昨日のお礼です。受け取ってください。」
レナがその中身を確認する。中には途方もないほど金貨が入っていた。
「こんなにたくさん受け取れません。」
「これはちょっと…」
その金貨の量はレナが受け取りを拒否し、さすがのマールも困惑し受け取るのを遠慮するほどである。
そんな様子を見て二人をますます気に入ったアーレスは笑顔を崩さない。
「いいのですよ、自分の命を救ってくれた人たちに出し渋るようでは商人の名折れでしょう。私は商人としてできる礼を尽くそうとしています。どうか私たち家族の感謝の気持ちを受け取ってくださいな。」
「でもぼくたちはお金のためにあなたたちを助けたわけでは…」
遠慮がちにしゃべるマールを見て笑ったアーレスは二人に話す。
「ではあなたたちの書いた絵と小説を私がそのお金で買いましょう。」
「しかし私たちの小説と絵にはそんな価値はありませんよ。」
「気持ちのいい人たちだが自分のことを小さく見すぎる所はよくないですよ。私はあなたたちの未来を買っているのです。」
マールとレナはさらに困惑する。
「未来…?」
「未来…ですか…?」
雰囲気からもう一押しだと感じ取ったアーレスは続ける。
「そう、未来です。あなたたちは近い未来きっと有名になるそのときのために、あなたたちに良い印象を受けてもらおうと思ったのですよ。」
「えへへ、ぼく有名な画家になれるかな。」
「ええ、きっとなれますよ。」
上手く乗せられているマールを見てレナはため息をつき
「わかりました。私の小説と彼の絵を売りましょう。それでいいわねマール。」
「はいレナさん。」
マールはアーレスにすっかり褒め殺されている。話術ではやはり商人をやっているアーレスの方が一枚上手だったようだ。
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「また来て下さい。いつでも歓迎しますよ。」
屋敷の主人に見送られ上機嫌のマールと町に出て行くレナ。そんなときだった
「あぁー!!」
「どうしたの、マール?」
突然大声をだすマール、隣で大きな声をあげられたレナは町の人に頭を下げつつマールに答える。
「レナさんへ渡す報酬の絵もさっきアーレスさんに渡しちゃった。急いで描いてきます。」
「えっ…ちょっと待ちなさいって。」
レナが止める間もなくマールは町の中に駆けて行った。人混みに紛れた少年はあっという間に視界から消え取り残されたレナは彼と出会ってから繰り返してきたため息をもらす。そこに凛とした、レナにとっては懐かしい声が聞こえてくる。
「久しぶりね、レナ。」
「あなたは…」
禍々しくも美しい漆黒の鎧、腰まで伸びる白銀の髪は夜空に散りばめられた星のよう。
「元気そうでよかったわ。」
「あなたも元気そうね、ミレイ。」
彼女はミレイ・コバルトホーク。魔王軍特殊部隊《蒼の鷹》の隊長であり、レナの元上司にして親友である。
「さっきの男の子は誰なの?」
「あの子は私の旅の途中で会ったの、道に迷っていたところを助けたのよ。ところでミレイ、あなたはなぜここにいるの?」
「少し仕事でね・・・それよりあの男の子を追いましょう。詳しくは歩きながら話すわ。」
真剣な表情で話すミレイ。ただならぬものを感じたレナは少し足を速めた。
「この町の教団勢力が怪しい動きをしているという報告を受け、蒼の鷹が調査をすることになったの。」
「でも、」
「ええ、そうよ私の部下が調査しようとしても尻尾は掴めなかった。それどころか帰ってこない部下たちもいたわ。」
少年が消えた方向に大きな爆発音が起こる。
「急ぎましょう。」
ミレイに言われるまでもなくレナは音のしたほうへ走って行った。
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「こんなものだろう。」
「・・・・・」
気絶した少年を担ぐ青年と、それに従う顔に火傷痕がある少年はいずれもよく似た金の髪をしていた。
「さっきの爆発で人が集まってくるだろう、急いで帰るぞ。」
「・・・・・」
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路地裏に入ったレナの目に映ったもの、それは
「嘘だろ…アルマール…」
自分がもっとも愛した青年の顔と、愛しい人とそっくりの顔を持つ少年たちだった。
11/01/07 22:04更新 / クンシュウ
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