おとぎの勇者と黄金の双子・前編
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これは語られるべき物語、これは語られなかった物語
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むかしむかしあるところに一人の少年がおりました。少年はいなかの村にある家で母親の世話をしながら暮らしておりました。ある日のことです。少年が都に買い物に行った日のことでした。
少年が母の薬を買って帰ってきたとき、そこに村はありませんでした。村のかわりにたくさんの焼けた建物の跡がありました。村は魔物に襲われたのです。少年は走ります、自分の家へ、少年は走ります、母親のところへ、
少年は家にたどり着きました。しかしそこには少年の見慣れた家はなく、黒く焼け焦げた家があり、外に引きずり出され動かなくなっていた母親の姿があるだけでした。
少年は泣きました。三日三晩泣きました。泣きつかれて疲れきった四日目の朝、教会の騎士たちが村だった場所にたどり着きました。少年は騎士に拾われ、一人の騎士と共に暮らすことになりました。
月日はたち、少年が青年になる頃でした。少年は騎士たちのところで剣の練習をしていました。青年は自分を拾ってくれた騎士に恩返しをするため、母親を殺した魔物たちに復讐するためにどんどん強くなりました。
ある日のことです。騎士は襲われた町を守るために戦いに出かけていました。青年が剣の練習をしていると
馬に乗った男が一人やってきました。青年は男に見覚えがあります。男は騎士とよく親しげに話していました。騎士の仲間だったのです。青年は男に尋ねます。
「一体どうしたと言うのだ。」
男は息も絶え絶えに青年に答えます。
「全滅です…討伐隊は全滅しました…」
男はそう言ってまもなく息を引き取りました。青年の大事な者はまたしても魔物たちに奪われてしまったのでした。
青年は泣きました。再び溢れ出た涙と悲しみはその一日止まることはありませんでした。
次の日の朝、青年に残っていたのは怒りと憎しみだけでした。その日青年は勇者になったのです。
勇者は魔物を
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して
次から次へと迫り来る魔物を
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して
ついに勇者は魔王の城にたどり着きました。襲い掛かる最上級の魔物たち、迫り来る狡猾な罠、勇者は全てを壊してついに魔王のところへたどり着いたのです。
魔王との戦いは激しいものでした。魔術と魔術がぶつかりあって、剣と剣がぶつかりあって、二人の戦いは一週間続いたと言われています。
その命と引き換えに遂に勇者は魔王を倒しました。倒れた勇者の顔はとても安らかなものでした。
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「次の町はどんな所なんでしょうね、レナさん。」
雲一つ無い青空の下で整備された道を歩く少年は隣を歩く女性に話しかける。
「情報誌によると治安もよくて、
ご飯も美味しいなかなかいい町らしいわよ。」
レナと呼ばれた女性は少年の話に答えながら少年の頭を撫で、少年は気持ち良さそうに目を細めて再び他愛の無い話をする。その繰り返しの様子は仲の良い姉弟のようだった。
仲良く道を歩く二人だったがその平穏は突然聞こえた声により打ち破られた。
『魔物…殺す…』
「なっなんですか!?」
「注意してマール。何か来る!」
慌てるマールと剣を抜くレナの前に現れたのは一人の青年だった。
『魔物…殺す…殺す…』
端正な顔立ちに血の様に赤い髪と血の様に赤い目をした青年は煌びやかな装飾で飾られた武具を身に着けており、その危うい雰囲気さえなければまさにおとぎ話の英雄そのものであった。
「あなたは…一体…?」
「駄目よマール、話が通じてないわ。」
『魔物…殺す…!』
言葉と同時にレナに飛び掛る青年、驚異的な速度の青年の攻撃で辛うじて受けたものの大きく吹き飛ばされるレナ、
『せかいをめぐるかぜのうたよ、わがみにやどれ【速度強化(スピードプラス)】』
「嘘っ!早い!」
一度剣がぶつかるのと同時にマールの強化魔法が発動する。吹き飛ばされた先で受身を取って青年の方へ飛んだレナだがそこには既に青年はいなかった。【速度強化】を使ったリザードマンの速度を凌ぐその速度は人間のものではなく、紛れも無い英雄あるいは勇者のものだった。
「上ですレナさん!!」
マールの呼びかけで後方に飛び下がるレナ、その一瞬前までレナ彼女がいた場所に青年が高速で落ちてくる。
後方に飛んだレナを追いかける青年、やはりその速度はレナを凌駕していた。
『がいあのほのおよ、かかげられしてっついよ、おしつぶせ【炎魔の豪槌(イグニスブレイカー)】』
《我血の契約において退魔の力を行使せん【闇紅の血界(ブラッディ・ウォール)】》
マールが援護の為に放った術は簡単にかき消され、青年の剣の紅い刀身がレナに迫る。
「レナさんっ!!」
少年の悲痛な叫びと共に聞こえたのは一人の女性の断末魔の叫びではなく、肉と骨が切られる音でもなかった。
剣と剣がぶつかる音、煙玉が爆発する音、体勢を崩し防御もままならないレナの前に現れたのはマールと良く似た金髪と痛々しい火傷の痕を持った少年、
「早く逃げるぞ。」
アールだった。
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アールに連れられ走った先にあったのは少し大きな町だった。少年たちは大きな建物に入ると息を整えた。
「久しぶりアール。どうしてここにいるの?」
「さっきのはなんなのかしら?」
「仕事だ仕事。」
二人に質問攻めされ、
面倒くさそうに頭を掻いたアールは奥の扉に目をやった。
「詳しくは私が説明するわ。」
扉が開いて懐かしい声が聞こえる。そこに現れた彼女は漆黒の鎧と白銀の髪、蒼の鷹隊長ミレイ・コバルトホークだった。
「この辺りで魔物が襲われる事件が多発しているの、私達は事件を解決するためにここに来たのよ。」
「あれは一体なんですか?」
「まずはこれを読んで欲しいの。」
マールの質問にミレイは一冊の本を取り出して答える。表紙には煌びやかな装飾の鎧を着けた赤髪の青年が
描かれている。
「これは絵本ね。」
「えっと…”紅き勇者”ですか…」
「そう、その本に出てくる紅き勇者にそっくりという情報を受けてね、襲われる人を助けて情報を得るためにアールに見回りをさせていたの。」
「奴はその絵本に描かれている紅き勇者そっくりだった。紅き勇者かどうかは知らないが、あれは確実に勇者か英雄と呼ばれる類のものだな。」
アールはこの中で最も魔術に長けている少年に目をやる。その場にいる全員から注目を浴びたマールは青年の使っていた魔術を思い出す。
{《我血の契約において退魔の力を行使せん【闇紅の血界(ブラッディ・ウォール)】》}
「そういえば今の魔術にあんな詠唱のものは見られませんね。」
「出来る限り説明してくれるかしら?」
ミレイに尋ねられた彼は説明を始める。
現代よく使われる魔術、それは主に魔術の属性や性質を決める前半の"式"と効果をはっきりと定める後半部の"型"で出来ています。
『せかいをめぐるかぜのうたよ、わがみにやどれ【速度強化(スピードプラス)】』
この場合"せかいをめぐるかぜのうたよ"の部分が式で"わがみにやどれ"の部分が型です。
下級魔術の場合だとこれで終わりですが、上級魔術の場合だと式と型の間に"賛詩"が追加されます。賛詩とはより多くの魔力を集めるために唱えられるもので、そのほとんどが精霊や理に力を借りるためのものです。精霊使いはこの賛詩を使わずに上級魔術が使えるので強いと言われているんですよ。
たとえば、
『さくれつするまりょくよ、せかいそのものよ、そのすがたをいまこのばしょにあらわせ
【現象世界の炸裂(エクスプロードダンス)】』
この場合は賛詩"せかいそのものよ"で、この世界の理に力を借りているんですよ。
式や型と違ってほんの少し間違えるだけで大事故が起きるので魔法を教わるときでも最後に教わるのがこの賛詩なんですよ。
これらで魔術を組み立てたら最後に"名"を発することで魔術は発動します。
説明した中では"【速度強化(スピードプラス)】"と"【現象世界の炸裂(エクスプロードダンス)】"の部分が名となっています。
他にも別の形で術を使える場合があり、ジパングや別の大陸の符術などが当てはまりますが、あの術はそう言うのとも少し違っていたみたいです。
式が無いのに魔力に性質や属性がありました。なんらかの力で自分の魔力を変異させているのかも知れません。
「どうしたんですか皆さん?そんな驚いたような顔して?」
「お前、誰だ?」
「マール君が賢い…」
「凄いわマール。」
最後に長々と失礼しましたと付け足したマールを見た三人の反応は凄かった。
自分と似たような顔の少年が魔術に関しての驚異的な知識を発揮していることへの驚愕。
特別な境遇とはいえ自分よりも相当年下のはずの少年に負けたような敗北感、一応魔術も勉強していた筈なのだが…
しばらく一緒に旅をしてきた少し頼りない少年のもう一つの顔に感心している。
「これからどうします?」
知的な少年の顔は普段のものに戻り、紅き勇者を倒すための会議は再び始まった。
11/03/19 20:30更新 / クンシュウ
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