連載小説
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竜の舞う山、百火の竜王・中編
 里を見下ろすことができる高台の上、不思議な炎に包まれた神殿は
夜の闇の中でも煌々と光っていた。
神殿の入り口に目つきの悪い青年が立っている。
「もう祭りは始まっている。早くしろ。」
ぶっきらぼうにそう言った青年は炎に包まれる神殿の中に入っていく、
「ちょっと、待ちなさいよサイード!まったくもう…」
「まあまあ、サイードは私達を待っていてくれたんだから。」
火の粉が舞う神殿の中に二人は入って行った。


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 神殿の中、祭壇の上では煌々と炎が燃えている。里の人々は皆祈りに集中しており、その祈りに呼応するかのように炎は神々しく輝きを増す。
既に祈り始めているサイードの横でエリスとセレスが祈り始める。
 里に住むもの全てが集まり祈りを奉げると炎は更に勢いを増し、天を焦がす。炎の中から声が響く、


  『古より火を継ぎし我が子らよ、舞い上がる火の子よ、』

  『炎の力を呼び起こしたものたちに"炎の刻印"を授けよう。』



  『時は来た、今こそ選ばれしものに我が残したもの、その全てを授けよう』


炎が消え、神殿の中が闇と静寂に包まれる。だが暗闇の中でぼんやりと光るものがいくらか見える。

 "竜王の復活祭"それはかつて竜王が仲間であったはずの神の凶刃により命を落としてから数ヶ月後、奴隷のように魔族に奴隷として使われていた火の民たちを救うために竜王が強さを増し、新たな肉体を得て復活したことに由来する。火の民たちにとっては自分たちの里が独立するきっかけとなった輝かしい歴史に感謝する祭りだ。それ故に火の民はこの祝福された日を、子どもたちの成長を祝い一人前になるための儀式として、何代も前の魔王の時代から祝い続けていたのだ。今年もこれからも変わらない復活祭が続くと誰もが疑わなかった。
 しかし今年の復活祭で異変は起きたのだ。闇の中薄く光る炎の刻印がその光を消し、神殿に明かりが戻ったとき、神殿の中には人々のざわめきが生じていた。祭壇の上にいた男が里の民全てに対して声を出す。
「聞け、誇り高き火の民たちよ。今何者かが竜王様の遺産"禁じられし火砲"の力を手に入れたのだ。」
祭壇の上の男の一言に神殿内の喧騒は激しくなる。
「静まれ、火の民たちよ。静まれ。」
状況の沈静化を図る男の声も虚しく人々の理性にとどめを差したのは、神殿の外だった。


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 竜の姉妹が祭りに出て行ってから約一時間が経過していた。
「布団はレナさんが使ってください。ぼくは床で寝ますから。」
「いや、布団はあなたが使うべきよ。こういうときは大人が我慢するものよ。」
風呂から上がった二人はこの話題で三十分をつぶしていた。なお、三十分前から話は平行線上を進んでおり、
先ほどの会話もこの三十分で幾度となく繰り返されてきたものである。だがその話は今まさに転機を迎えようとしていた。

    『我は汝を欲する』

「あれっ?」
「どうしたのマール?」
突然首を傾げるマールにレナがそう返す。マールの頭の中に響く声はレナには聞こえないようだ。

    『汝に我の遺産の全てを与えよう』

「うぐぅ…聞こえないんですか…レナさん…」
「大丈夫?しっかりして。」
頭を抱えるマール、だが響く声は更に大きくなり、体からは金の光が少しづつ漏れ出している。

    『我は汝を欲する。魂を奉げよ。』

「何…これぇ…頭が…頭がおかしくなる…」
「マール!しっかりしてマール!」
マールが漏れ出した金の光に包まれたとき、彼の目から光がなくなった。光を出しながら歩くマール、その先には扉が見える。
「駄目よっ!マール行っちゃ駄目っ!」
しかしレナの声は届かない。マールは扉を開け外に出ると、体から出る光を広げ地面に何かを書き始めた。

【今ここに炎の鍵を示さん、竜王の焔よ今こそ古の要塞をあるべき姿に戻せ】

少年が呟くと魔方陣から紅く輝く柱が天に昇り、道に沿って光が飛んで行き、里を囲っていた柵の下から巨大な壁がせり出してきた。
「これは一体…」
「これは〜この里のあるべき姿ですよ〜。」
上から聞こえる声に空を見上げたレナが見たものは、
「始めまして〜ボクの名前は"アルシェーナ・ヴァルキリアス"。皆さんからは"竜王"って呼ばれているんですよ〜」
 緩慢な言葉の中に溢れている威圧感にレナはただ冷や汗を掻くことしかできなかった。声が出ないのだ。
「あらあら〜あなたはこの男の子のつがいですかぁ〜?」
絶対者の視線に顔を青くしたレナはその言葉の意味を知り赤面して首を振る。
「じゃあこの子はボクが貰っていきますね〜。」
「えっ!ちょっと待っ…」
竜王を引きとめようとした声は途中で止まる。レナの本能が告げているのだ、コイツにだけは近寄るなと。
「さようなら〜。」
マールを抱いて飛んでいく竜王アルシェーナを、レナは見ることしかできなかった。


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 光の柱が現れた方向に里の人々が集まる。そこには座り込んでいるレナだけがいた。
「レナさん!どうしたんですかレナさん!」
座り込んで空を見上げるレナに駆け寄ったエリスは放心している彼女の肩をゆする。
「ありがとう、もう大丈夫よ。」
レナはそう言うが未だに体が震えている。
「どういうことなのか話してもらおうか。」
厳しい顔をした男が迫る。体の震えを抑えたレナは少しずつ語り始めた。


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「なるほど、つまり…」
鋭い視線をサイードと竜の姉妹に向ける男、
「掟を破ったそこの餓鬼共のせいで旅人殿に迷惑を掛け、世界を滅ぼすかも知れない伝説の兵器の封が解けたということだな。」
厳格な男は里に異変をもたらした三人の子どもたちを見つめる。
「なんでよ!いつもは祭りの日だって道に迷った人とか里に入れてたりするじゃん!」
「餓鬼、掟を破った者が文句を言える立場にいると思うか。」
声を荒げるセレスに冷たい眼光を浴びせる男、その眼光は地上最強の生物ドラゴンの少女の顔を青くする程のものだった。
男の眼光を浴びたセレスが倒れそうになったところで青年が男とセレスの間に割って入る。
「それ位にしておけ、親父。」
サイードは自分で"親父"と言った男の前に立ち、セレスを庇っている。気が抜けて倒れそうになったセレスはエリスに支えられた。
「俺は言い訳をするつもりは無い。」
男の眼光の前でも怯まないサイード、里につかの間の沈黙が訪れる。
「だがお前はどうするつもりだ。お前は掟を破った。」
男の声は未だに厳しい。サイードに向けられた重圧が辺り一帯に放たれており、様子を見に来た里の民の内、気の弱い者は気絶して近くの者の世話になっている。
「俺が何とかする。俺が、エリスとセレスを連れて竜王様に会いに行く。説得するのだ。」
サイードが放った言葉に里の民はざわざわと騒ぎ始める。しかしその騒ぎも男が目線を向けるだけで終わってしまう。
「竜王様に意見するのか。」
「この一件は俺の責任でもある。俺が何とかする。」
「そうか。」
二人の男の会話は途切れ、青年は山の頂上へ歩き始める。
「行くぞエリス、セレス。」
「ええ、行きましょう。」
「ちょっと待ってよ姉さん、サイード。」
火の里の若者たちは竜王に会う為、山の頂上へ向かうのだった。


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 サイードたちが竜王の住みかに向かいその後ろ姿が見えなくなると、男が小さく呟く。
「死ぬなよ…サイード…」
「あの…すいません。」
一人呟く男にレナが話しかける。
「どうした旅人殿。ああ見えてサイードたちはこの里でも有数の強者だ。きっとあなたの連れは帰ってくる。」
少しうつむいていたレナは顔を上げる。その顔には先ほどまで張り付いていた恐怖はない。
「私も、竜王に会いに行きたいです。」
レナの言葉を聞いた男の目は再び鋭さを取り戻す。重くなった空気は肌で感じられるほどだ。
「旅人殿、そこに行くなら命の保障はできない。半端な覚悟で行ってはいけない。"わかるな"」
放たれた言葉は凶器となってレナの身に迫る。だがレナの目にはもう迷いも怯えも無かった。
呆れた顔でため息をついた男は里の居住区の方へ歩いてゆく。
「山の頂上の洞穴だ。行きたいならば好きにしろ。」
「ありがとうございます。」
レナは夜の山を登っていく。

 (そうだった…私はもう手放さないと決めたんだ…)

金髪の少年を取り戻すために…
11/02/12 10:44更新 / クンシュウ
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■作者メッセージ
…どうしよう…書く事を思いつかない…
「うふふ〜なんにも思いつかないなんてあなたは残念な子ね〜。」
え、あっあなたは…
「あとがきメッセージでも読者を楽しませるのが良い作家よ〜。」
でもなにも思いつかないんですよぉ…
「あらら〜私いいこと思いついちゃった〜。」
え…
「頭に衝撃を与えれば何か思いつくかも〜。」
ちょっと…その戦斧は何、なんでこっちに向けるの?

ギャァァァァァァァァァ…


というわけで、大大変変長らくお待たせしました。竜の舞う山、百火の竜王中編です。
もうすぐ試験も終了、はれて私は自由の身です。…試験は帰ってくるものなんですけどねorz

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