連載小説
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回想後編
「…やっと来たか黄龍」
オロチが呟くのと楓がオロチの前に姿を現したのはほぼ同時だった。
「最終決着をつけようぞ…オロチ!!」
既に楓は全魔力を解放、戦闘体制に入っていた。
「久しぶりだな…黄龍。何百年振りの再会だ。少し話でもしようではないか?
いま戦っても一瞬で決着がつきそうだからな…」
それに対して余裕の笑みを浮かべるオロチ。
龍の顔なので表情は解りづらいが…
「随分余裕だな?オロチ…完全体にもなっていないのに」
挑発を挑発で返す楓。
「それはお前も同じであろう?そんなか弱き姿になりおって…
魔物の食料でしかない人間等と共存しようなどと…
現魔王は愚かな事をするだ。
まあ、そのせいで天界と人間は内乱状態…
その点は感謝しなければな…」
「随分饒舌だな?封印されていた間に読書でもしてたのか?」
笑みを浮かべ、皮肉を口にする
「ふん…結界の中からでも外界を見ること等、我にとっては容易い…
今の魔物は堕落仕切っている。人間と一緒に焼き払ってやるわ」
同じ魔物を殺すと宣言するオロチ。
考えは昔と全く変わっていないようだ…
「良いのか?仮にも貴様と同じ魔物。
魔物に手を出すと魔王も黙ってはいないぞ?」
「我と貴様の様な奴らを一緒にするな!!
…どうせ、人間に手を出した時点で愚かにも我に戦いを挑むであろう…
ついでに魔王を倒し、我が魔王の座に君臨する!!
そして魔物本来の姿を取り戻し、天界をも焦土と化してくれるわ!!」
楓の言葉に思わず激昂する。
オロチが魔王になってしまったら…
楓にはなんとしてもオロチを止めて貰わなければ…
「随分と頭の中身が増えているな?」
「考える時間だけは充分過ぎるほどあったのだ…狭苦しいあの中はな!!」

 ゴォー!!
そう言って3つの口から黒き火炎を放つ。
楓は転送魔法で難なくかわした。
楓のいた場所は大地おも溶かさせて灼熱の沼と化していた…
「不意討ちとは卑怯だな。前は猪突猛進を信条としていたはずだが?」
「頭を使う様になったと言ってくれ!!」
ブン!!
 背後に回った楓に、
追撃とばかりに風をも切り裂く速さで尾の一撃をお見舞いするオロチ。
しかしその攻撃が当たる直前で転送魔法が発動、
オロチの側面に回る。
直後に鋼鉄をも切り裂く爪が降り下ろされるが、
それもかわす。
空をきった爪は大地を切り裂くだけにとどまった。

 そして楓は転送魔法をフルに駆使して
ほぼ同時に全方位から種類が違う魔法を連射する。
その猛攻に対しオロチは、
ある物はそのまま受け自慢の鱗で無力化、
麻痺等の追加効果のあるものは黒き火炎で迎撃し、
本命である威力の高い魔法は爪や強靭な尾で叩き落としていく。
その結果…オロチには掠り傷程のダメージを与える事は出来なかった。
「どうした?これで終わりか?」
悠然といい放つオロチ
「くっ…!?」
 流石に全ての攻撃を無力化するとは想定外だったのだろう。
無理もない…以前のオロチは戦闘本能のみで動き、
後先事など全く考えない戦い方をしていた。
多少のダメージなどは再生能力に任せて完全に無視していた程だ…
しかし、現在は的確に判断を下し、効果的に迎撃を繰り出してくる…
(あの魔術師が何か施したのか?)
破壊衝動のみで動いていた筈のオロチ…
しかし復活したオロチは人間並の知能を持っていた。
「教えてやろう…
 愚かにも我を復活させた人間の思考を複写させてもらった!!
 人間は小癪だが頭だけは良いからな…
 お陰でお前の攻撃等、手に取るように解るわ!!」
そう言って巨大な爪を降り下ろす。
「!!」
楓は再び転送魔法で回避するが
「甘いわ!!」
転送先には既に尾の一撃が迫っていた!!
「!?」
再び転送魔法を使用する時間も無い!!
そう、オロチはよんでいたのだ。此処に楓が転送する事を…
とっさに魔法障壁を何重にも展開させ尾の一撃を防御しようと試みる。
しかし、その障壁おも破壊し尾は無情にも直撃したかに見えた。
後方に吹き飛ぶ楓。
「ぐ…!!」
実は再び展開させた障壁と尾が直撃する寸前に後方に跳ぶことで、
何とか致命傷は回避していた。
それでも強靭な尾の一撃の衝撃は凄まじいもので
全てを受け流す事は不可能であった…
「どうした?貴様の実力はその程度か、黄龍よ?」
「く…まだまだ!!」
そう言って数十体の式神を召喚する。
「ほう…今度は数で勝負か」
「奴を冥界に落とすのだ!!」
その言葉で一斉に攻撃を開始する式神達。
姿は四聖獣を模した物であった。
「ふん…少し遊んでやるか!!」
 式神達に標的を変えたオロチは黒き火炎を3つの口から放つ。
散開して攻撃を回避し攻撃を続行する式神達。
流石のオロチも数十体を同時に相手にすることは出来ず、
多少の苦戦は余儀なくされる。

 しかし、四聖獣を模していても所詮は【式神】に過ぎない…
本物の四聖獣の攻撃力には遠く及ばず、
殆どの攻撃は鋼鉄をも凌ぐ強度を持つ鱗に防がれる。
ダメージを与えられても掠り傷程度であり、
オロチ自慢の再生能力で瞬時に回復してしまう…
その間にもある者は爪で切り裂かれ、
ある者は踏み潰され、
またある者は尾の一撃で消滅していき、
時間と共に式神の数は減っていく…
楓が圧倒的に降りに見えた…
そして式神が当初の半数以下になった時

 「式神達よ。オロチの動きを止めよ!!」
その言葉で式神達は己の全ての魔力を使い、
オロチの動きを封じる結界を張る。
やがて全ての魔力を使い果たした式神達は消えていった。
「なんだと!?」
オロチの力をもってしても、
さすがにこの強靭な結界は簡単には破れない様だ。
「かかったな…オロチ!!」
その言葉に振り向くオロチ。

 そこには頭上に超巨大な魔力球を作り出した楓がいた。
そう、楓が式神達を召喚したのは攻撃の為ではない。
己から敵の注意をそらし技を発動させる為の時間を稼ぐ為であったのだ!!
「ぬかった!!こいつらは囮だったのか!!」
「その通りだ。下手に頭が良くなったのが災いしたな、オロチ!!」
人間の思考を取り込んだ事によってオロチが抱いた絶対的な優位感。
それが敵の実力を見余る結果となった。
餌としてしか人間を見ていなかったオロチが、
その餌どもが陥りやすい物にはまるとは皮肉としか言いようがない。
「これが直撃すれば貴様と言えども只では済むまい…
 未成体の身体ではな!!」
「成る程…万が一にでも外さない様にするために
 式神どもに結界を張らしたわけか!!」
いかに再生能力を持つオロチでも、
未成体であれほどの物をまともに食らえば致命傷になりかねない。
何とか魔力球を迎撃しようともがくオロチ。
しかし結界が邪魔をしてそこから動くことが出来ない!!
「聖なる炎でその身を焼かれるがよい…【メギドラオン】!!」
バリン!!
何とか結界を破壊したオロチ。
しかし、既に目の前にはあらゆる邪悪な物を焼き尽くす
聖なる炎【メギドラオン】が迫っていた!!
「!?我は死なん!!我は不死身…」
ドォォォォォォン!!!!!
無情にも【メギドラオン】はオロチに直撃し…
凄まじいまでの爆風と音と光が辺りを支配した…
そして巨大なキノコ雲が上空に立ち上る…
そこには最早オロチの姿は無かった…
しかし、オロチのコアが不気味に宙に浮かんでいた。
「終わったのか…?」

 その場に崩れ落ちる楓最早立ち上がる力も残ってはいなかった…
「…いやはや、驚きましたよ…まさかオロチを倒すとはね」
「!?」
いつの間にか宙に浮かぶコアのとなりに全ての元凶である
あの【魔術師】が立っていた。
逃げた訳ではなく、何処からか戦いの結末を見届けるつもりだったのだろう…
悪趣味な事この上ない。
ヘドが出そうである。
「しかしこれでオロチのコアが手に入る…予想外の大収穫です」
そういって思っても見なかった収穫物のコアに手を伸ばす男。

「やめろ…奴のコアをどうするつもりだ!?」
地面にひれ伏したまま詰問する。
身体を支える力も残ってはいないのだ…
「勿論、新たな兵器に使用します。対魔物用のね」
「そんなことは…させない…」
「立ち上がることも出来ない貴女に私が止められるとでも…?
いい加減目障りです。
それに…貴女に生きていてもらっては
【計画】の遂行に支障をきたします…
消えなさい」
楓に向かって手をかざし魔力を集中させる…
立ち上がる力もない楓にはどうすることも出来ない…
(ここで終わるのか?!オロチを倒したというのに…!!)
「「「させるかー!!」」」
「!?」
「その声は…?!」
斬撃と魔法が男に襲いかかる!!
魔法は障壁で防ぎ、斬撃は間一髪で避ける男。
しかし斬撃を完全には避けきれなかったのか
男の頬には血の線が一筋入っていた。
「く…!?」
(この私に傷をつけただと?何者だ奴は!?)
「あなた達!!」
楓の顔が歓喜の色に染まる。
本来ならば、まだ復活する事が出来ない【四聖獣の2人】を引き連れて、
愛する【息子】が駆け付けてくれたのだから…
「何とか間に合った様だな!!」
「大丈夫ですか?!母上!!」
「楓様に無礼を働く輩は許しません!!」
 そこには海斗が悠然と立っていた。
少し前に見たはずの顔は随分懐かしく感じられ、
その瞳には決して折れる事がない強き意思を燃やして…
なりよりも四聖獣を復活させ、
それらを従えている事実が少しの間で大きく成長したなによりもの証である。
「お前は…!!四聖獣を復活させたと言うのか?!
 あり得ない!!そんな事は不可能だ!!」
あまりの不測の事態に錯乱する男。
「海斗はその不可能を可能としたのさ!!」
「主は強き意思で私達の封印を解いたのです!!」
「…奇跡は起こるものじゃない!!己自身で起こす物だ!!」
そういって各自攻撃の構えをとる。
「ええい!!煩い!!1人残らず消し去ってくれる!!」

錯乱し激昂する男。男との戦いが今まさにおきようとしていた…その時
(我は死なん…我は不死身だ!!)
「「「「「!?」」」」」
不意にコアから声が響く…
「死んでなかったのか?!」
「く…コアまで破壊しなければ駄目だったか!!」
「宝玉から魔力がコアに流れ込んでいく?!」
男が持っている宝玉の魔力をコアが吸収していく…
宝玉から魔力を充分吸収したオロチのコアは天空高く上昇し…
黒い炎をまとい始めた。
「「いけない!!」」
朱雀と青龍が魔法を放つ。
しかし、それらは黒き炎によって阻まれた。
そして…コアは禍々しき光を放つ。
光が消えたとき、そこには…
ズン!!!
「グォオオオーー!!」
なんと言うことか…完全復活したヤマタノオロチの姿があった。
「おお、素晴らしい!!これが完全体のオロチ…!!」
「なんて事を…」
最悪の事態に楓は言葉を失う…
「もはや私が手を下すまでも無いようです…
 精々頑張って下さい…フハハハ!!」
高笑いしながら男は何処かへ消えた…
「オノレ黄龍…オマエゴド全世界を焼キ払ッテヤル!!」
そう言うと完全復活したオロチは8この口から黒き火炎を放ち始める。
辺り一体を灼熱の大地にする気のようだ。
「そんな…オロチが完全復活するなんて…」
「五人でも封印がやっとだって言うのに…!!」
思わず立ち尽くす四聖獣達。
「諦めたらそこで全て終わりだ!!」
「しかし…」
「奴は…」
「今戦えるのは俺達しかいないんだ!!
 俺達が諦めたら誰が世界を奴から守るんだ!?」
「「!?」」
その言葉にはっとする二人。
「青龍は母上を社へ!!その後は村へ行け!!
 村人を社に避難させてくれ!!
 朱雀は俺に続け!!奴を倒す方法は必ずあるはずだ!!」
「…そうですね…我らは四聖獣は」
「人々を守護するのが我らの使命だ!!」
二人の瞳に決意の光が再び宿る。
「行くぞ!!」
「「了解!!」」
朱雀と海斗がオロチに対峙する。
「大丈夫ですか?楓さま」
肩をかし何とか楓を立たせる青龍。
「すいません青龍…」
「少しの少しの間耐えて下さい!!主、朱雀!!」
「分かってる!!」
「二人だけで倒してやるぜ!!」
そして楓を支えたまま社に送り届けるため転送していった。
「さて…」
「少しの間遊んでやるか!!」
そう言って二人はオロチに向かって駆けていく…
村を、愛する人々を守るために…

 「グォオオオー!!」
 迎え撃つオロチは全ての者を絶望の底に叩きこむ咆哮を放つ。
未成体の時の咆哮とは比べ物にならない物だった。
それが衝撃波となって二人に襲い掛かる…
しかし二人は止まらなかった。
「そんなこけおどし効かねーよ!!」
朱雀は自分の炎を身を纏い衝撃波を防ぐ。
「ハッ!!」
海斗は2降りの刀を斜め十字に素早く振り抜きいた。
それによって発生した風の刃で衝撃波を逆に切り裂いていく。
衝撃波を突破した刃はそのままオロチへの直撃コースを突き進む。
ゴォオオオ!!
迎撃するために黒き火炎を放つオロチ。
しかし、その壁をも切り裂いてオロチに向かう疾風波。
ブン!!
右手の強固な爪で受け止めるオロチ。
(この程度で我が爪はおれん!!)
そう言い放つかの様に、その目には絶対的な自信が見てとれた。
しかし
バリン!!
「!?」
その予想は脆くも崩れ去さる。
山おも切り裂き鋼鉄以上の強度を誇る、
あの巨大で強靭な爪が根元から全てへし折られたのだ。
一人の人間が放った剣圧によって…
「もらったー!!」
生じた僅かな隙を見逃さず、朱雀が高く飛び上がり肉薄する。
「!?」
気付いた時には既に目前に迫っていた。
ブン!!
残った左手の爪で切り裂こうするオロチ。
しかし、その攻撃を羽を使い悠々とかわし、
更に左手を足場にして高く飛び上がる。
「まずは一本!!」
両手を高温の蒼い炎で生成した鋭いカギ爪に変え、
首の一本を切り裂く朱雀。
身体から切り離された首は大地に落ちる前に黒き炎となり、
消えていった…
「グギャアー!?」
激痛に体勢を崩すオロチ。
更に追撃しようとした朱雀を他の首から黒炎を放つ事によって
何とか阻止する。

 「俺を忘れてはいないかい?」
「!?」
体勢を崩した事によって出来た隙を見逃す海斗ではない。
既にオロチの懐深く侵入していた。
海斗が突如現れたかの様に思えたのだろう。
とっさに左手の爪で切り裂こうとするオロチ。
しかしその攻撃は大振りで海斗には止まっているようにさせ見えた。
迎撃を楽々とかわした海斗はお返しとばかりに、
青龍剣の一太刀で左腕を肘から切り落とした。
その時の青龍剣は蒼い炎の魔力で刃は2倍もの長さになっており、
片腕で振り抜いたとはとても思えない。
切り裂かれた腕の断面は冷気で凍り付いていた…
さらに攻撃を加えようとするが、敵はヤマタノオロチ。
流石にこれ以上の追撃は許さず、2人を攻撃の射程外に追い出した。
「コレ程トハ…少々侮リ過テイタヨウダナ人間!!」
グォー!!
咆哮を一声上げると切り落とされた箇所からは黒き炎が立ち上ぼり始め…
その炎は徐々に失った首と腕の形を形成していった。
そして黒き炎が薄れた時…
切り落とされた筈の箇所が復元されていた。
右手の爪も元の姿になっている。

 「今度ハ本気デ行クゾ!!」
そう宣言すると、
今までとは比べ物にならない密度で攻撃を開始するオロチ。
形勢逆転。
今度は海斗達は回避する側になることを強制される。
時折見せる僅かな隙を見て反撃するも、
再生能力を持ったオロチには
一度の攻撃では直ぐには回復出来ない程の深手を負わせなければ意味がない…
しかし、オロチの猛攻は途切れることなく浴びせられるため、
そんな攻撃をする準備もさせない。
そして、この攻防は数十分に渡って繰り広げられ、
流石の海斗達も疲労の色が見え始めた頃…
「モラッタ!!」
「!?しまっ…」
一瞬の隙を突かれてオロチの爪が朱雀に迫る。
避けきれないと判断した朱雀はとっさに両手のかぎ爪をクロスさせ防御体制をとった…
「紅!!」
ガキン!!
「「!?」」
なんと海斗が間に割って入り、刀で爪を受け止めたのだ。
凄まじい衝撃だったらしく、足下は大きく窪んでいた…
「コシャクナ小僧メ!!」
ブン!!
長い尾を利用して今度は側面から攻撃をするオロチ。
しかし、海斗はオロチの爪を受け止めているため動けない。
ドゴ!!
「ぐは…!?」
「海斗!!」
攻撃をもろに受けて吹き飛ぶ海斗。
【紅】は空中で海斗を受け止め体勢を崩しながらも何とか着地に成功した。
「馬鹿!!何やってんだ!!」
「誰も傷付けさせないって誓ったのでね…ごほ!!」
咳き込み吐血する海斗。
あばら骨を何本か持っていかれている様だ…
体内も損傷しているのかも知れない。
無理もない…
無謀にも山脈を一撃で平地に変えることができる攻撃を、
人間がまともに受けたのだ。
本来ならば生きているのさえ不思議な事である…
「あたいは精霊だ!!例え吹き飛ばされたって復活出来るんだぞ!!」
「…身体が先に動いたんだから仕方がないだろう…?
 誰かが傷付くのを黙って見てられるか。
【仲間】であり仮にも【女】の紅なら余計にな…
 それに男が女を守るのは常識だろ?」
…こんな時にもキザな台詞を言えるとは…作者も見習いたいものだ…
「…呆れてものも言えないな…
 さっきから言っている【紅】ってのはあたいかい?」
「【紅い炎の四聖獣】だから【紅(クレナイ)】さ」
「あんたセンスないね?」
「うるさい…」
そう愚痴る紅であったがどこか嬉しそうであった。
朱雀とはいわば種族名的な物であり、
個人を指す名は生まれて初めてであったから…

 「最期ノ話ハ終ワッタカ?」
それまで静観していたオロチが口を開く
「良いところだったのに…水をさすんじゃあないよ!!オロチ!!」
「仮ニモ我ヲ本気二サセタ初メテノ人間ダ…コレデモ待ッタ方ダゾ?」
オロチなりに敬意を現したのか?
何時でも止めをさせるのにわざわざ待っていたのは…
「ふん…あたいを絶望に落とすための間違えだろ?オロチ!!」
「ソノ通リダガナ!!」そう言って8つの口に黒き炎を溜め始める…
弱者を弄び絶望のどん底に叩き込む為に作られし邪龍ヤマタノオロチ…
やはり敬意等と言うものは持ち合わせていなかった。
「死ネェエエ!!」
そう言って最大限に溜めた炎を一気に吐き出す。
朱雀と言えども完全に防ぐ事は出来そうもない…
「避けろ!!紅!!」
「主人を見捨てては四聖獣の名が廃るぜ!!」
主人を守るために炎の前に立ち塞がる紅。
(あたいの全魔力を持ってすればこの炎から海斗を守れるかも知れない…)
しかし、それは紅の消失を意味する事でもある。
(この命に変えてでも絶対に守ってやるよ!!海斗!!)
初めて【惚れた】男に命を捧げるつもりで紅はいた…
(後は頼んだぜ…青龍!!)

「諦めるのはまだ早いぞい?」
「!?」
無情にも2人を直撃する黒炎。
(もはや骨さえ残るまい)
そうオロチは考えた事だろう…土煙が晴れるのを待つオロチ
「!?」
しかしその予想は覆された。
そこには【4人】が確かに存在していたのだから…
オロチの攻撃が直撃する直前…
紅の前に何者が現れ、
手にした大鎌を高速回転させてあの火炎の攻撃から2人を守ったのだ。
「「クレア(殿)!?」」
思わず2人はその者の名を叫んだ
「どうしてここに?くっ…」
立ち上がろうとする海斗。
しかし、本人が思ったよりも負傷の程度は酷く膝から崩れ落ちる。
それを紅達が何とか抱き留めた。
「そのままで良い。詳しい話はこやつを冥界へ叩き落としてからじゃ」
「ハイ…」
そして満身創痍の身体を一通り見回し
「楓から話は聞いておるが…
 オロチ相手に頑張ったのう…
 いや少々頑張りすぎた様じゃな。
 ワシが時間を稼ぐ。
 その間に青龍に応急措置をしてもらえ。
 奴を倒す手段も既に考えておる」
「申し訳ありません…」
そう言うと地面に横になる海斗。
「主!!大丈夫ですか!?」
青龍はすぐさま回復魔法をかけ始めた。
「大丈夫だ…葵。あばら骨を2〜3本やられただけだから…」
苦笑いしながら海斗は答える。
しかし時折襲う激痛に顔を歪めていた。
「それのどこが大丈夫なんですか!!
 折れた肋骨が更に体内を傷つける可能性があります。
 動かないで下さい。今動ける様にしますから!!」
「すまないな…葵」
そう言って頭を撫でる海斗。
「ふにゃ…は?!か、からかうのは止めてください!!
 それと葵って誰の事ですか!?」
頭を撫でられて気持ちよかったのだろう…
一瞬恍惚の表情を浮かべる【葵(アオイ)】。
しかし直ぐに我を取り戻し、当たりを見回す。
頭に海斗の手を置いたままであるが…
「誰って」
「お前の事だよ。青龍…いや今からは葵だったな!!
 名前の由来は精々…蒼い水の精霊だからだろう?海斗」
「…その通りだ。紅」
言葉を先取りされた海斗は苦笑いを浮かべた。
「…朱雀も主から名を頂いたのですか?」
「そうさ…由来はあんたと似たようなもんさ。
 それと今は朱雀じゃあ無くて【紅】だ」
そのやり取りをクレアは暫し見ていたが
「さて…随分我の友人達を随分といたぶってくれたのう?オロチ」
そう言ってオロチを睨み付ける幼女。
それだけで人を殺せる程にオロチに向ける視線は強い…
駄作者も恐怖を抱いております、ハイ…
「ソノ魔力ハ…オ前ハモシヤ…アノ時ノ【バフォメット】カ!?」
「ほう、覚えていてくれたようじゃの?」
そう、オロチがジパングに攻め込んだ当時、
侵攻軍の総指揮を取っていたのがこのクレアだったのだ。
つまりクレアの実年齢は
「それ以上言うと頭と胴体が泣き別れになるぞい?駄作者よ」
…すいませんもう言いませんから鎌を下ろして下さいませクレア様。
「分かれば良い…」
皆さんもクレア様の実年齢は探らないようにね!!
「ワシは永遠の幼女じゃ(ハート)」
…頭と胴体が泣き別れになるので(滝汗)。

 「ナゼ貴様ガ人間ノ味方をスル?!」
「ワシも旧魔王時代から人間と何らかの形で共存を望んでおったのじゃ。
 幼女になるのはさすがに予想外じゃったがの」
「コノ裏切者メガ!!」
ゴォー!!
その言葉に激昂し、クレアに向けて黒き火炎を吐く。
それを避けもせず、大鎌を軽く降り払った風圧で消し飛ばす。
「!?」
流石にオロチも驚きの色を隠しきれない。
「歴史に置き去りにされた哀れな者よ…
 大人しく冥界へ行くが良い…
 今の世界にはお前は不要な存在じゃ!!」
そう言って鎌を構え戦闘体制に入る
「ソノ世界ヲ我ガ変エテクレヨウゾ!!」
先手必勝。
先に動いたのはオロチだった…
爪を降り下ろし、
避けたクレアに対して尾で追撃を加える。
「甘いぞ!!」
その追撃も避けたクレアはお返しとばかりに
振られた2本の強靭な尾を半ばから切り落とす。
しかし、オロチはその身に纏う炎ですぐさま再生させてしまう。
「相変わらず厄介な能力じゃの!!」
それを見て救援に行こうとする海斗を葵が止める。
「まだ回復中です!!」
「しかし…」
それでも行こうとする海斗を紅も止めに入った。
「今の状態で行っても足手まといになるだけだ。
 完全に回復してからじゃないと奴は勝てる相手ではないぞ。
 海斗!!」
「それに私達にはクレア様が詠唱を終えるまで
 奴を足止めする役目があります!!」
止める紅に続けて、
葵がクレアが考え出した作戦を口にする。
「何の魔法の詠唱だ?」
「生半端な魔法では奴には効き目がないぞ。
 地獄への門でも開こうと言うのかい?」
思わず冗談を言う紅。
それに対して
「似たような物ですね」
真顔で葵は答えた。
「なんだって?」
「まじかよ…」
そんな魔法があったのか?と2人の顔には書いてあった。
「私達がオロチの注意を引き付けている間に
 クレア様が【冥界】へ通じる門を開きます」
「そんな事が出来るのか?!」
無理もない。
そんな事は伍神でも不可能であったのだから…
「クレア様が言うには…奴を作る際に魔王が使用した魔法だそうです」
 そう、現世に残っている魂だけでは足りず、
当時の魔王はなんと冥界への門を作り出し、
そこに眠っていた魔物の魂をも利用したのである…
その者達の意思とは関係なく…
その禁術とも言える技を逆に利用して
オロチごと冥界に送り返そうと言うのだ。
「成る程…その門から冥界へ直接叩き落とそうと言うのか…」
「いくら強大な魔力を持つオロチと言えども一度に冥界に落とされれば、
 自力で出てくるのは不可能です」

 この禁術を使う為には高度な魔術の知識と繊細な操作が不可欠であり、
オロチでは到底使用不能である。
また、かりに門を開けられても冥界から現世に出てくるのは単独では通常不可能であり、
現世側から何らかの形で引き揚げる形を取らなければならない。

「その為にも今は回復に専念して下さいね」
そういって微笑む葵。
「…分かった」
「それから2人に渡すものがあります」
そう言って2人に何かを渡す。
それは黄金に光輝く水晶の勾玉だった。
良く見ると葵も首から同じ物をかけている。
「「これは?」」
「楓様の魔力を結晶化させた物です。
 私達、四聖獣の魔力を増幅させる効果があるそうです。
 勿論主にも効果がありますが」
「葵達の魔力が高まると契約者である俺の魔力も高まるから、
 俺自身が着ければ魔力は相乗効果で更に倍増するって事か…」
葵の言葉を海斗が引き継ぐ。
「そう言うことです」
(紅と違って主は頭が良くて助かります)と葵が小声で言っていたが…
紅本人には幸いにも聞こえなかった様だ。
海斗には聞こえていた様で苦笑いしている。
「何かあったのかい?」
紅が海斗に詰問するが…
海斗は答えなかった。
「…もう大丈夫だ」
そういって海斗はしっかりした足取りで立ち上がる。
「しかし…」
「身体が自由に動かせば充分だ。
 それに…治癒魔法だけでは完全には治せないしな」
そういって海斗は口に溜まった血を吐き捨てる。
「それに囮とは言え、これから葵も戦うんだ。
 これ以上魔力を消耗しては戦闘に差し支えが出る」
この期に及んでもなお、己の身より葵の事を気遣う海斗。
「…分かりました。無理はしないで下さいね」
「無理しないと勝てる相手ではないだろ?」
そういって海斗は、葵に己の魔力を少し分け与えた。
「済まないが今はこれで辛抱してくれ」
「いえ、充分です」
海斗の心遣いに顔を赤く染める葵。
「今は青春してる場合じゃないだろ?2人とも」
少々呆れながら指摘する紅であった。
「べ、別に私達は!!」慌て否定する葵に対して
「…確かにな」
「主!?」
否定をあえてしない海斗であった。
「さて、お喋りの時間は終わりだ…作戦を開始する!!」
「おう!!」
「主は全く…了解です!!」
そういって3人は戦闘体制に入った。その時…
3人が身に付けている勾玉が光を放ち始める!!

「うぉー!!」
紅の身に纏う炎はその光を受けて、その身を守る鎧に姿を変えていった。
変化を終えた時…
頭には己本来の頭部を象った鎧兜を被り、
その身には軽装で朱雀を連想させる鎧を装備した紅が立っていた。
背中の炎の翼はより大きくなり、
武器である両手のカギ爪は更に長く鋭く変化している。

「主を傷つけた事…許すわけにはいきません!!」
勾玉の光を受けて、
葵を形作る水の一部が変化を始めた…
それは徐々に鎧を形成していき、
光が収まった時…全身を細身ながらも、
まるで鱗で完全防御した青龍を連想させる鎧を身に纏い、
頭には龍を象った鎧兜を被った葵がいた。
片手には大盾を装備し、
もう一方の手には龍の爪を象った三根槍を持っている!!

「オロチ!!これ以上お前の好きにはさせない!!」
勾玉から放たれる黄金の光が全身を包む。
両手の魔力が全身を覆っていき、光が収まったその時…
紅と蒼を基調とした魔力の鎧を身に着けた海斗がいた!!
背中には朱雀の翼を持ち、
頭には青龍を象った兜を被っており、
両手に持つ2振りの聖刀は2倍以上に刃を伸ばし大刀となっていた!!

「行くぞ!!オロチを倒すんだ!!」
「「了解!!」」
人間と魔物との絆が新たな力を3人に授けた瞬間であった…
 
「うぉりゃー!!」
爆発的な加速度でオロチに急接近する紅。
その姿は最早一陣の風と化しており、
その姿を捉える事は動体視力が優れたハーピー種でも困難である。
その速度を維持したままオロチに体当たりを敢行する。
「!?」
クレアに気をとられていたオロチはその突撃をまともに受けて、
200mもあるその巨体は楽々と吹き飛んだ。
「来たか!!」
それを見たクレアはすかさずバックステップでオロチから距離を取り、
詠唱を始める。
「ソノ呪文ハ!!」
危険を察知したオロチは詠唱を中断させる為、
クレアに攻撃をしようと試みるが
「まだまだー!!」
紅は追撃の手を緩めない。
カマイタチと化した紅の攻撃はオロチの身体を切り刻んでいく…
その凄まじいまでの連撃にオロチの再生も追い付かない。
このままでは危険と判断したのであろう。
身に纏う黒炎を爆散させ紅を吹き飛ばすオロチ。
紅は吹き飛ばされるが、
翼を使い空中で体制を整えて再びオロチに肉薄する。
オロチは黒き火炎で迎撃しようと口の中で炎を生成する。

 「させん!!」
しかしそれは紅が攻撃をしている隙に接近した海斗によって阻止された。
オロチに向かって両手の大刀を勢いよく振り下ろす。
ザン!!
「グギャアアア!?」
 その一撃でオロチは首の両脇2本ずつと両腕を肩から一度に切り落とされた。
オロチの再生能力を持ってしてもこれだけの傷は一度には治癒出来ない。
怒りに燃えた8つの瞳が海斗を睨み付け、
残った4つの口から黒き火炎を一斉に吐き出す。

 「これ以上、主は傷付けさせません!!」
葵が海斗の前に立ち塞がり盾でその火炎を受け止める。
鋼鉄おも蒸発させる炎にも大盾は傷ひとつ つかなかった。
ならばと今度は残された8本の尾で振り払おうと試みる。
「傷付けさせないと言った筈です!!」
その尾を葵は3根槍の先に発生させた8つの超高密度魔水球で迎撃する。
盾で防御するまでもなく、
オロチ自慢の尾は全て跡形もなく消滅していた。

「3人とも離れるのじゃ!!」
その言葉にオロチから離れ散開する3人。
「オロチよ、貴様の最後じゃ!!
 出でよ、冥界へ通じる門よ。
 オロチを冥界の闇に戻したまえ!!」
最後の呪文をクレアが唱えると同時に
巨大な魔方陣がオロチの背後に展開される。
オロチが気付いた時にはすでに遅し。
展開された魔方陣から巨大な門が姿を現し、
その重厚な扉が徐々に開かれていく…
そして扉が完全に開かれた時、
中から冥界の亡者の腕が無数に飛び出しオロチを拘束していく…
「我ハ死ナン!!我ハ不死身ダァ!!」
なんとか振りほどこうとするオロチ。
しかし徐々に門に引きずり込まれていく…
「止めじゃ!!奴を冥界に叩き落としてやれ!!」
紅は超高熱の巨大な火炎球を、
葵は超高圧の巨大な魔水球を、
海斗は全魔力を両手の刀に籠める。

「「「これで最後だぁ!!」」」
3人の叫びと同時に攻撃が放たれる2人の精霊の攻撃は1つの巨大な超高圧超高温の熱水となりオロチに直撃した。
直撃と同時に圧力から解放された熱水は
一気に気化して大規模な水蒸気爆発を起こし、
オロチに爆風が襲い掛かる。
それでも冥界に落ちる寸前で踏みとどまるオロチ。
 最後にオロチが見たのは海斗が放った【四聖獣2連撃】が迫り来る光景だった…
そしてコアもろとも砕け散るヤマタノオロチ。
砕け散ったコアの破片は全て冥界へ吸い込まれ…
落下した…
最後の破片が吸い込まれると…
冥界への扉は静かに閉じられていき…
完全に閉まると同時に門は光の粒となって消えていった。
最早そこには水蒸気爆発によって形成された
巨大なクレーターが残されているだけだった…
「ふう…何とかなったようじゃの…」
ポテンとそこに座り込むクレア。流石に疲れた様だ。
「…あたい達勝ったのか…?」
「……その様ですね」
「やった…ついにやったんだ…オロチを倒したんだ!!」
「ええ!!」
2人の精霊は思わず海斗に抱きついて喜びを爆発させる。
しかし、
「海斗…?」
「主?」
カラン…
刀を手から滑り落とし…
海斗は燃え尽きたかの様に静かにその場に崩れ去った。
「海斗ー?!」
「主?!」
「いかん!!早く社へ!!いそぐのじゃあー!!」
3人の叫び声が辺りに響き渡った…


 「…トさん、カイトさ〜ん!!」
「うわ?!」
気が付くとカノンが受付台から身を乗り出してカイトの顔を除き込んでいた。鼻同士が接触そうなほど顔を近付けて…顔近すぎです、カノンさん
「どうしたんですか?両手を見つめて黙り込んじゃって…」
心配そうな顔をするカノン。
「なんでもないですよ。ちょっと昔の事を思い出していただけで…」
そう言って、つい妹にやっていたようにカノンの頭を撫でるカイト。
(本来、人と触れ合えない筈の俺がこうして人と触れ合える…
 母上に感謝しないとな…)
故郷にいる母の事を思い出す彼であった…

 「あの〜頭を撫でるの止めてもらえませんか?」
すまなそうなカノンの声に現実に戻る。
「すいません!!妹がいるものでつい癖が…」
慌てて謝るカイト。
「気持ちいいんですけど、周りの視線が…特に後ろからの」
カイトが事務所の方に視線を向けると…
複数の魔女(独身)が羨ましげにカノンを睨んでいた…
ついでに葵も…。
お前は自重しなさい葵。
「何しておる?仕事に戻れ〜」
クレアの声で慌てて仕事に戻る彼女達。
「すいません…クレア殿」
「何時もの事じゃろが。それにお主に頭を撫でられると気持ち良いしの」
笑いながら答えるクレア。
魔女達の事務仕事向上に密かにカイトを利用してたりするのは彼女達の間だけの秘密である。
「そういえばカイトさんって妹さんがいらっしゃるんですか?」
「あれ?言いませんでしたっけ。下に二人いますよ。血は繋がってませんけど…」
「…すいません。言いたくない事聞いちゃったみたいで…」
気まずそうな顔をして頭を下げる。
「ただ単に言ってなかっただけですので、気にしないで下さい」

 結局、海斗が目を覚ましたのは決戦の日から二日後だった。
目覚めた海斗が始めに見たのは、
自分が寝かされていた布団の横にうつらうつら船を漕ぐ黄花の姿だった…
いつもの癖で手を頭に置こうとするのを寸前で止める。
(…そうだ俺の手はもう…)
頭を撫でようとした手を頭上にかざす。
しかし、そこには魔力に包まれた手では無く、
手袋をした手がそこにはあった。
「むにゅ?」
ごしごしとまだ眠い目を擦る黄花。
「おはよう。黄花」
「おはようございます。兄上…」
だんだんと頭が働いて来たのだろう。
目を見開いて海斗を凝視する黄花。
「どうしたんだい?」
「兄上ー!!」
「うわ?!」
上半身を起こした海斗に飛びつく黄花。
「よ、よかった…ぐす、良かったよー!!」
そのまま大泣きをする黄花。
「どうした!?何かあった…」
 ぞろぞろと出雲一家が黄花の泣き声を聞いて集まって来る。
その中にはもちろん2人の精霊がいた。後、クレアも…
 後は小一時間大騒ぎだった。

クレア以外の女性陣は皆号泣。
親父からは軽く説教を食らう海斗であった。
 後で海斗が聞かされたところによると、
オロチは冥界に送られもう復活することは無いであろうとのこと。
宝玉はあの男共に今だ行方知れずな事。
オロチを倒した直後に海斗は怪我と極度の疲労から気を失って
あわてて社に運び込まれたこと。
そして、精霊2人と龍の姉妹が付きっきりで看病していたことが告げられた。精霊2人が顔を赤くしたのは言うまでもない。
「ところでこの手袋はいったい?」
「それは魔力を封じる物です」
楓が答えた。
どうやら海斗が社まで運ばれた後に海斗の現状を伝え聞き、
今まで通りの生活がおくれるようにと楓が作った事であった。
自分のせいで愛する息子に非情な人生を送らせたくなかったのであろう…
「有り難うございます。母上」
「感謝をするのは此方の方です…
 本来なら私たちがするべき事だったのですから…」
そういって海斗を抱きしめる楓であった。
「しかし、宝玉が盗まれたのはやっかいじゃの…」
「ええ…」
「よし…海斗!!
 怪我が治ったらクレアと一緒に大陸に行って宝玉を取り返してこい。
 ついでに他の奴も見つけて封印するなりして
 誰も使えないようにしてくるんだ」
「あなた!?」
「「父上?!」」
「「白桜(様)!?」」
一同が非難の声を上げた。
「あなた何言っているのですか?
 海斗にこれ以上つらい目に遭わせるおつもりですか?!」
「宝玉が奪われた以上ぐずぐすしてはいられない。
 本当は俺が行きたいが、
 楓が黄龍だとばれてしまった以上、
 一人にはさせられない。」
「しかし!!」
「それにだ…クレアの街…確か【ステーション街】だったか?
 そこも今、やばいんだろ?」
「確かにの」
そうクレアがここに来た当初の目的は、
自身が活動拠点としている親魔領に存在する街
【ステーション街】に向けて教会派の軍が迫っているため、
楓に応援要請をしに来たのだった。
「今、俺たちの中で動かせる戦力は海斗達だけだ。
 それに俺たちには宝玉を取り返すという緊急の用件が出来てしまった。
 ここは海斗達に動いて貰うしかない…」
たしかにその通りである。
今自由に動ける戦力は海斗達しかいないのだ…
「海斗」
「はい父上」
「頼む。お前にしか出来ない仕事だ。親としては心苦しいが」
「やりましょう」
「「「「!?」」」」
「この刀を手にした時に既に心は決まっています」
そういって刀を見る。そこには2振りの刀が鎮座していた。
「もう誰も傷つけはさせないと!!」
他の者は反対したが海斗の揺るぎない決心を見て最終的には承諾したのであった。
クレアも【自分たちの後始末をさせた上にただ働きをさせる訳にはいかない】

との理由から、自分が支部長をしているギルドに冒険者登録するのと、
宝玉に関する情報集めに全面的に協力すると申し出てくれたのであった。
以上がカイト(ギルドには大陸の文字で登録している)達が
大陸に来た経緯である。

 カノンにも来た経緯を簡単に説明する。
伍神やオロチとの決戦はあえて話さなかった。
「そうでしたか。奪われた物を取り返しに…」
「ええ、見た目はただの水晶玉ですが、悪用されると少々不味いので…」
「まだ、若いのに大変ですね…」
「自分にしか出来ないことですから…」
「それにしてもあの時は驚きましたよ。
 クレア様がわざわざ現地にまで応援要請に行って連れてきた人が
 カイトさん達でしたから…
 上げた戦果を見て皆さん納得しましたが…」
しみじみ言うカノン
「そんなにひ弱そうに見えましたか?」
「いえいえ!!とんでもありませんよ!!
 ただ…三人と皆が予想してたよりもその…
 かなり少なかったので…」
しどろもどろになるカノン。
無理もない…当初大方の予想に反してたったの3人。
それもまだ20歳にもなっていない若者と精霊2人だけでは
心配するなと言う方が無茶であろう…
戦場で見せつけられた実力に皆再び驚かされるのであるが…
現在では街(と言っても小規模の都市国家並みに拡大したが)の
当主等からの強い要望もあり、
当初の予定とは反してこの街【ステーション街】を拠点に活動する事に
なったのだ。
結果的に各地を転々とするよりも効果的に情報が
(領主等も全面協力してくれているため)
集まって来るので問題はないのだが…
皆の話は自然とカイト達の初クエストとなった、
ステーション街始まって以来の危機についての事に変わって行った…
 次回…初クエストに続く
12/02/28 23:35更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
初バトル書き終わったぞー><
相変わらずの駄文っぷりにorz
誤字脱字等があったら感想欄にて指摘していただけると助かります><
(多分あるだろうな…(オイ

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