連載小説
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回想前編
 …事の始まりは魔物と人間が争っていた太古の時代にまでさかのぼる…
 古代ジパングには神々に匹敵する力を持った龍[黄龍]が居た…その龍は人々を愛し、またその龍もジパングの守護神として人々から敬愛の念を抱かれていた。
 その竜は愛する人々を魔物の驚異から守り平穏な暮らしをさせるため、[水]、[炎]、[風]、[大地]の精霊達に己の力を分け与え、ジパングの四方を守護する四聖獣を作り出した。
 その五体の守護者達は人々を心から愛し魔物の驚異からジパングの地を守り続けた。人々は自らの身を挺してこのの地を守る守護者達を、敬愛の意味を込めて[五神]と呼び信仰した…。東方の守護者[水の化身【青龍】]、南方の守護者[炎の化身【朱雀】]、西方の守護者[風の化身【白虎】]、北方の守護者[大地の化身【玄武】]、そして四聖獣を作り、四聖獣を従わせる天空の守護者【黄龍】である。
 しかし、黄龍は魔物との長き激しい戦いで疲弊していき、ついにジパングを守る最後の決戦となった戦いで力の大半を使い尽くしてしまった。黄龍は四聖獣達にジパングを守る事を命じ、己は戦いで傷ついた体を癒すための長き眠りに付いた……。
 その命を受けし四聖獣は残りの全ての力を[宝玉]に封印し、その力をもってしてジパングを守る強力な結界を張り、黄龍が復活するまでの間、魔物から人々を守る盾とした。そして来るであろう次なる魔物との戦いに備え、四聖獣達は己らも戦いで傷ついた体を癒し、使い果たした力を取り戻すため、魔物との戦いの為に人々に作らせた四聖獣の力が宿る聖なる鎧と武器に自らを封印した。愛する人々の平穏な暮らしを望みながら…
 しかし五神達の予想に反し、魔物の大規模な侵攻はジパングには行われなかった…。しかし皮肉なことに五神達が願っていた[平穏な時の流れ]が続くにつれて過去の[事実]は神話と化し、かつて身を挺してジパングの地を魔物達の驚異から守り抜いた五神の事は徐々に人々の心から忘れ去られていった……
 そして魔王の世代交代によって魔物は人と共存出来る魔物娘となったのもあり、表向きは平穏な時代が続いた。しかし、裏では魔物娘の登場によって人々は魔物との共存共栄を望む親魔物派と、魔物を依然として悪と断罪する主神を崇拝する教会を中心とした反魔物派の分かれ、その間には軋轢が生じていった。そしてついにその軋轢は修復不能なほどの物となり人々は【人間同士】で争いを始めた。その混乱の中で[三個]の[宝玉]と白虎と玄武が封印されし[鎧]は何処かへ消え去り、ジパングには青龍の力が宿りし[宝玉]と青龍と朱雀が己を封じた刀のみが残された…
「……」
 ここはジパングで霊峰と言われる険しき山。奥深くには魔物すら容易には入れはしない。しかし、そこには何かを守るかの様に作られし社があった。その社も現在では人々から忘れさられ荘厳さは最早過去の物となり、太い柱さえ腐りはて今にも朽ち果てようとしている。しかし、満身創痍の騎士のがそれでも主君を守ろうとするかの様に悠然と建っていた。まるで自分が守護する者の[目覚め]を待つかの様に…
 その健気な社の裏手には洞穴が口を開けていた。その入り口にはしめ縄が張られており、不届きな輩が入るのを防いでいる。その洞穴の奥深くにはここが洞窟であるのを忘れさせるような広い空間があった。空間内は光を放つ結晶化した鉱物によって程好く照らされランプ等の照明機材は必要ない。
 その中心には四方10m程の立派な祭壇が作られ、その上には黄金色に光輝く1人の竜が眠っており、その放つ光は竜本来の姿をしてその体を覆っていたいた…
「…四聖獣達の気配がしない…」
竜が目蓋を開けるのと同時に覆っていた光は体と一体化し、 体からは微かにその光と同じ色の魔力が漏れだす。
「…こんな身体になってしまっているとは…何が起こったのだ…?」
身を起こして眠っている間に起きた自らの身体の変化に戸惑う。無理もない。誰だって、上半身が女の姿になり元々の姿とは似ても似つかない容姿になっていたら驚くだろう。
「我が眠っている間にいったい何が起こった?ジパングは現在どうなっている?」
魔力で幾つもの鏡を作り出し、そこに透視魔法でジパング各地の様子を次々に写し出す。情報収集をしているのだろうか。
「…成る程…魔王の代替わりがあったか…今度の魔王は、人と共存を望んでいる様だな…人の中にはそう思っていない輩もおるようだが…」
必要な情報は集まったのだろう。[彼女]は鏡を消した。
「魔物を全て女の姿にするとは…こんどの魔王はおかしな事を考えるものだ…」
眠っていた間に起こった事に苦笑いする[彼女]。因みに彼女は元から[雌]なのであしからず。
「しかし、これでより魔物と人は共存しやすくなったのも事実。現魔王には感謝しないとな…あのクソジジイは相変わらず完全反魔物主義のようだが…」
ジパングを守護していたからだろうか…[黄龍]も本当は魔物との共存共栄を望んでいたようだ。彼女が守護していた時代からジパングに住んでいる魔物達は大陸等の魔物とは違い、人々と友好関係を築いている者も多かった。本来は魔物に分類されし[龍]が守護者として同じ魔物から人々を守っていたことがなりよりの証拠であろう。
 それにしても自分達を作ったとされている主神を[クソジジイ]呼ばわりとは…流石は黄龍である。
「四聖獣達はどうしているだろうか…?我が目覚めたのは分かるはず…それよりも気配が感じられないのが、気になる…」
 上半身の人とは異なる部分を消し、下半身を二本の足に変えて見た目は完全に[人]に擬態し洞穴の出口に向かう。人の姿になっているのは、洞穴の通路は狭すぎて人間の姿でなければ通る事は不可能であり、龍の姿のまま外に出るには洞穴の天蓋を突き破らないと出れない為である。
洞穴を出てた所で擬態を解く。
「…なんと…社は残っていたのか…長い年月の間、我の目覚めをまっていてくれたというのか?…こんなに姿になってまで…有難う…」
健気な社に1人静かに涙する彼女であった。
「…まだ、本来の姿には戻れないか…不便だか仕方あるまい。我らの力は余りに強すぎる…強すぎる力は持つ者の意思とは関係無く、争いの火種となってしまう…。現魔王のお陰で最早人に害をなす[魔物]は世界には居ない…。我々の力は今のジパングには必要ないであろう…」
1人呟く彼女であった。
「さて、魔力の回復はどの程度が確認しないとな」
試しとばかりに手を天にかざす。すると直径[50m程]の巨大な火球が彼女の頭上に現れた…。
「…最低限の魔法は使えるようだな…なら問題あるまい」
火球を消し1人納得する。流石は[黄龍]と言ったところか…
 …あの…それ[アギ]ですよね…?最下級ランクで素質があれば誰でも使えるあの[アギ]ですよね…?ちょっとまて!!力戻ってないとか言いながら何その反則的強さはー?!
 …ごほんごほん…少々取り乱してしまい申し訳ない。
「駄作者も落ち着いた所で、四聖獣達を探しに行くか…」
そう言って[魔物娘のまま]発生させた雲の中に身を隠した状態し、上空に昇っていく…やがてその姿は上空の雲海に消えた。それを見届けると社は静かに崩れさる。まるで己の役目を終えたかの様に…

 それから20年の月日が流れた…
 あの彼女はというと…
ほうきで神社の中に落ちている枯れ葉の掃除をしていた。なぜか人の姿で。
「母上〜こっちは終わりました〜」
巫女服を着た幼い女の子が彼女に声をかける。
…ご覧の通り、愛する夫と結ばれと夫婦の間には二人の子供を授かっていた。
魔物娘としての魔生を謳歌していたのである…。
 ここは伍神を今も信仰するする人々が住む数少ない村、【伍神村】から少し離れた高台に立てられた伍神を神として祀る社…
ここの宮司をしている夫との出会いの話は今度としよう。
「お疲れ様。黄花(おうか)」
この黄花とは姉妹の妹である。
「もうそろそろ、海斗(カイト)と椿も帰って来るでしょう。お昼の支度を一緒にしましょうか?」
「わかりました〜母上!!」
トテトテと社の住居スペースにかけていく黄花。無論彼女らも立派な[龍]なのだが、この神社がある村の人々には正体を隠している為、人に擬態させている。
「あまり急ぐとまた転けますよ〜」
黄龍としての神々さはなりを潜め、母親としての姿がしっかり板についていた。
(黄龍様の変わられましたな)
何処からか、何者かの声がする。直接、心に響いてくる事から正しくは言葉と言うよりもテレパシーに近いのかも知れない。
(こら朱雀、楓と呼びなさい。私には既に[楓]と言う名を主人から頂いているのですから)
(申し訳ありません楓様)
(分かれば良いのですよ。朱雀)
(しかし、朱雀の言う通り以前の[黄龍様]とは別人の様です、楓様。お子様もお持ちになられ幸せそうでなりよりです)
(もう、私達の力は必要ないのですよ[青龍]。それよりも二人ともごめんなさい…我だけ幸せになってしまって…)
悲しそうな顔をする楓。四聖獣達の封印とは、[己の力が完全に戻る、或いは人々に危機が訪れた時のみ]解かれる物だった。その封印は強力であり、完全ではない[黄龍]の力では二人の封印を解くことは出来なかったのだ…
((とんでもございません楓様))
(これはあたい達が自らしたことです。楓様が謝ることはありません)
(それに私達の力はこの世界には必要の無い物…大きすぎる力は争いの火種になるだけです)
もうお分かりの様にこの神社には朱雀が自らを封印している聖刀[朱雀剣(スザクノツルギ)]と青龍が封印されている聖刀[青龍剣(セイリュウノツルギ)]が御神体として奉られている。因みにこの二人と会話出来るのは現在、[黄龍]である楓だけでの様である。
ちなみに楓の夫である宮司は隣村の神事に応援としてかり出されて不在であり、神社の仕事は龍の親子四人でしている。そして、昼飯の用意が整う頃…
「「ただいま戻りました」」
二人が戻って来たのだろう。裏の勝手口から帰宅を告げる声がした。
「お帰りなさい。二人とも…あらあら、沢山取れましたね」海斗が背負っていた篭には沢山の山菜やキノコ類が入っていた。
「二人とも外の水洗い場で手を洗って来なさい。お昼にしますから」
「「はい母上(義母上)」」
そう返事をして社内の手洗い場で手を洗いにいく二人。
「お帰りなさい姉上、義兄上!!」
「おっとと」
戻ってきた海斗に思い切り抱きつく黄花 。
「ちゃんと母上のお手伝いしてした?」
「うん!!」
その返事を聞いて満足したのか、ご褒美に頭を撫でる海斗。それが気持ちいいのだろう。義兄に誉められた嬉しさも合わさり、目を細めて笑顔になる黄花。
「黄花は相変わらずお兄ちゃん大好きね」
頭を撫でながら少し残念そうに言う椿。
「ほら、お姉ちゃんが構ってくれなくて悲しんでるぞ〜」
「黄花、お姉ちゃんも大好きだよ〜」
そう言って今度は椿に抱きつく。
「な?!義兄上!?私は妬いてなど…」
「僕は妬いてる何で一言もいってないけど?」
「あ、兄上!?からかうのは止めてください!!」
妹が義兄の方なついている事に対して本人は自覚してないが、無意識の中で少し嫉妬しているのであろう。
後、人の目を気にせずに甘えられる妹に対しての羨ましさも多少混じっている。
 無理もない【海斗】は15年前、結ばれたばかりの楓達夫婦に拾われた孤児で当時3才であった。どうやら出身の村が山賊に襲われ、数少ない生き残りの1人であった。二人が駆け付けた時には既に両親は山賊によって瀕死の重症を負わされており、手の施しようがなかった。幸い、海斗は両親によって押入れに隠され、無事だった…唯一意識のあった母親の遺言によって二人が里親となり育てる事したのである。
 その幼子も今では元服の歳も越え、姉妹を守る立派な青年となっている。
「ご飯の準備が出来ましたよ〜」
「「「は〜い」」」
 こうして四人は何時もの平和な時間を過ごしていた。
これから巻き起こる激動の時の流れが自分達を飲み込もうとしている事を知るよしもなく…
一方こちらは社の近くの洞穴内。何重もの結界が張られ何人たりとも立ち入ることの出来ない筈の場所に1人の痩せた男が居た…
「…これが、件の宝玉ですか…素晴らしい魔力の結晶体だ…」
(…出せ…ここから出すのだ…)
何処からか地のそこから沸き起こる様な禍々しい邪気を含む声が聞こえてくる…
「…もうすぐ出してあげますよ…邪龍【オロチ】…」
そう言って宝玉に手を伸ばし…
「やはり宝玉の周りにも結界が張られていますね…」
といって宝玉に伸ばした手を引き…何やら指を動かし始めた…指の後には光る線が浮かび上がり、空間に幾何学模様が絵が書かれていく… そして紋章が完成すると何やら呪文を唱え始める痩せ男。
しばらくそのままの 状態が続いたが…
ピシッ!!
突如、宝玉周辺の空間にヒビが一筋走った。やがてそれはガラスにヒビが広がっていくような様相を見せて結界全体を覆っていき…
パリン!!!
虚しい音をたて、遂に宝玉を守る結界は砕け散った。
「ふう〜なかなかしぶとい結界でしたね」
痩せ男は肩をほぐしながら言う…そして遂に…「青龍」の力が宿る宝玉を手にとった。
「…素晴らしい魔力だ!!これさえあれば私の【計画】は大きく前進する…ふはははは!!」
最後は狂ったかの様に笑い出す痩せ男。その目には狂気の光が宿っていた…
「さて…もうここにはようはありません…最後に【計画】の邪魔となりうる奴らを消して去りましょう…」
(出せ…ここから出せ…)
「お望み通りだして差し上げますよ…【黄龍】を消す為に…ね」
 そう呟いては男の姿は洞窟から消える…無言で転送魔法を使える…それはこの男が相当の実力をもつ【魔術師】であることを意味する…
男の【計画】とはいったい何なのであろうか?
その頃、社では昼の後片付けを終えた楓達がお茶を飲んで一息ついていた…
「この魔力は…まさか?!」
そう言って慌てて社から外に飛び出す楓。
「母上?!」
何事かと海斗達も後に続いた…そこには
「おやおや。皆さんお揃いで…」
宝玉を片手に持ったあの魔術師が立っていた…不敵な笑みを浮かべながら。
「やはり…」
楓はその男を睨み付ける。
「おやおや、美しい顔が台無しですよ【黄龍】様?」
「私の正体を…貴方は一体何者です!!宝玉を返しなさい!!」
楓が驚くのも無理はない。村人にはもちろん、子供にさえ自分の正体を明かした事は一度もない。自分の正体を知る者は夫と四聖獣のみなのだから…
「隠していてもわかりますよ【黄龍】様。貴女程の潜在魔力を持った龍は他にはいませんから…」
「「「母上が伝説の黄龍様…?」」」
絶句する海斗達。
もはや伝説の存在でしかない【伍神】。それの中心的な存在であった【黄龍】が母上であると明かされれば誰だって驚くだろう。
「名乗る程の者ではありません…残念ながら、宝玉はお返し出来ませんよ。私の【計画】に不可欠なのでね…」
「その計画とは一体なんなのです!!」
「貴女のやっていたものと同じですよ…汚らわしい魔物から世界を【救う】為のね!!」
高らかに宣言する男。その目はすでに狂気の光しか放ってなかった…
「我は【襲いくる魔物】から人々を【守っていた】だけだ。貴様の様な、今だに全ての魔物を一方的に悪とする愚かな主神信者と一緒にするな!!」
男の言葉に激昂する楓。既に擬態を解き、身体全体を黄金の色を放つ魔力が覆っている。
「…さすがは黄龍、力が完全ではない状態でもそれほどの魔力を放つとは…私ではとても太刀打ち出来そうもありませんね…」
自分の方が劣っていることを認めながら、不敵な笑みを浮かべ続ける男。
「…それなら、宝玉をおいてここから去るが良い…」
その男を睨み付けながらいい放つ
「…私では無理ですが、コイツならどうですか?」
そう言って宝玉を掲げる。
「まさか?!」
「そのまさかですよ!!…古の時に伍神によって封印されし邪龍よ…今こそ封印を破りその姿を現世に現せ!!」
掲げた宝玉から天へ向かって一筋の光が 放たれる。やがて、その光を中心として黒雲が渦を巻き始めた。
「奴を操る気か?!おろかな…奴には破壊衝動しかない…操れる者など存在しない!!全世界を草木が生えない焦土に変えるまで暴れ続けるぞ!?」
「操れないのは重々承知しております。しかし、それも計画の一部ですよ!!」
「魔物はおろか、人も生きとし生けるもの全ての命が灰と化すのだぞ!!」
「ジパングは古来より魔物と共存する異端の地…そんな所に住む奴らなど人ではない!!滅びるべき奴らなのだよ!!」
「やがて奴は大陸にも牙を向ける…そんなことも分からないのか!!」
「その時は、精々【魔物達】に頑張って貰いますよ。もはや奴にとって魔物すら人間に味方する敵なのだからね!!その間に【我々】は全ての宝玉を集め、その力を解放、制御する。…そしてその力を持ってして全世界の魔物を浄化する!!邪龍を含めてね!!」
そう言って平原を指差す。そこには巨大な魔方陣が現れていた…
「貴様は本当に宝玉の力をコントロール出来ると思っているのか?暴走すると国はおろか大陸ごと吹き飛ぶのだぞ!!」
「【私達】には出来る!!主神様の加護を受けている【我々】になら!!」
「あのジジイ…痴呆が進みすぎてまともな判断力もなくなったか…奴の力を持ってしても、全ての宝玉に秘められし力を一度には制御出来ないのに…」
「…無駄話はこれまでの様ですね…奴が遂に復活します…古の魔王が作りし最強最悪の兵器【ヤマタノオロチ】が!!」
巨大な魔方陣の中から暗黒の炎をまといし禍々しき黒き邪龍【ヤマタノオロチ】が遂に姿を現した…
グォォォーー!!!
凄まじい咆哮が空気を大地を震わす。
そのおぞましき声と姿に村の人々は逃げまどうしかない。
「あれがジパング創世神話に出てくる【ヤマタノオロチ】…」
「正確には神話を元にして、当時の魔王が伍神に倒された魔物達の怨念を集め…それらを核として作り上げた最強最悪生物兵器ですけどね!!」
本来ならば8つの頭と尾を持ち、全長は200mを越える。鋼鉄おも凌ぐ強度の鱗で全身を覆い並大抵の攻撃は無力。背には巨大な翼、肢には巨大な爪を持ち、あらゆる物を切り裂く。また後脚二本で支えることも出来き、足元にある全ての物を踏み潰す事が可能である。また、神話のヤマタノオロチと同様、強靱な再生能力も備えている。その力は強大で伍神を持ってしても倒すことは不可能であり封印する事がやっとであった。
しかし今回復活した【オロチ】は3つの頭、2つの尾しかなく、それ以外の見た目は同じ。しかし、大きさは完全体の半分以下である全長80m。幸いにも未成体であるようだ。
「チッ…やはり完全体での復活は出来ませんでしたか…まあ、良いでしょ。今の貴女には充分過ぎる相手です」
男の言うとおり、未成体でも現在の【楓】1人の力では手に余る魔獣であることにかわりはない。しかも今の楓は本来の力の1割も出せない状態なのだから…
「宝玉の制御は想定以上に困難な様ですね…今後の研究課題としましょう」
「貴様ー!!」
魔力球を高速で男に向けて放つ楓。
「!!」
男は間一髪でそれをかわす。男のいた場所には大きなクレーターが出来ていた…
「危ない危ない…私の相手をしている場合ではないのでは?奴に村が焼き払われても良いのですか?」
「く…」
「精々頑張って下さい」
わざと恭しく一礼をし、全ての元凶はその場から消えた。手に入れた宝玉と共に…
「母上…」
「大丈夫…オロチは私が何としても食い止めます」
黄花の無言の問いに、何時もの笑顔で答える楓。しかし、その目には悲痛な心の内が映っていた…
「海斗」
「ハイ。義母上…」
「妹達を頼みましたよ…」
「!!」
「もし戦う事があれば奉られている聖刀を使いなさい…貴方にはその資格があります」
「しかし…あれば今まで誰も持てなかった…」
そう、二振りの聖刀は今まで誰も1人で持てた事がないのだ…力の自慢の魔物を持ってしても数人がかりで運ぶのがやっとであった。
「…貴方は覚えてないでしょうけれども…幼い頃祭壇から持って来た事があるのですよ…」
「!?」
「持てるのは四聖獣と共に戦う事が出来る者の証…いつか貴方の力となってくれるでしょう…」
「…分かりました。母上が留守の間、義妹達は僕が守ります…【黄龍の息子】である誇りにかけて!!」
あえて【留守の間】と言う海斗…何としても再び会える事を信じて…
「やっと【私達の息子】になってくれたのですね…時に心の繋がりは血の繋がりをも超える繋がりとなります」
「…母上」
「黄花、椿…お兄さんと父上の言うことをきちんと聞くのですよ…」
「「…はい…母上」」姉妹は涙を堪えて返事をする。
「私はこの戦いで命を落とすかもしれません…もしそうなっても…天からあなた達を見守っていますからね…」
「「「?!」」」
ズン!!
遂にオロチが村に向かって進み始めた…
「オロチよ…古の魔物の魂達よ…今度こそ、貴様らが本来居るべき場所…冥界に落としてやろう…この世界を壊させはしない!!我が黄龍の名に懸けて!!」
そう言って海斗達の前から消える楓…オロチとの完全決着をつける為に…
愛しい母親の姿が消えると、共に堪えきれなくなった龍の姉妹は海斗に抱き付いて泣き出す。
海斗は妹達を優しく抱きしめながら
(今度も守れないのか…?!家族を…「母さんを」…)
ひどく朧気で顔さえはっきりと思い出せない生母の事が脳裏を過り、無力な自分を呪うしかなかった…

(愛しいあなた…ごめんなさい…もう会えそうもありません…子供達を頼みます…)
(…楓…?)
隣村に出向いていた楓の夫【出雲白桜(いずもはくおう)】は不意に聞こえた妻の声に思わず手を止めた。
「どうされました?白桜様」
「…いや何でもない」
(空耳か…?何だかとても不安な気持ちになる…!!なんだ!?この凄まじい邪気は?!)
ただならぬ魔力を感じ、白桜は反射的に仕事場の社から外に飛び出した。
「「「白桜(様)殿!?」」」
社内にいた他の者も何事かと外に飛び出した。
そして空を見上げると…そこには…
「なんなんだ…あの雲は…?」
「とてつもない妖力を雲の中心から感じる…」
オロチの直上を中心として黒い雲が上空を覆い始めていた…
この村と伍神村との間には小さな山脈が鎮座しているため【オロチ】は見えない。
しかし、オロチが放つ邪気は凄まじいく魔力を感じる事が出来ない者の心をも不安に陥れた。人間と伍神への憎しみと破壊衝動から生成された純粋な悪意であるオロチが放つ【邪気】は生命の心に不安と恐怖をもたらす物であった…
「白桜様!!ここは私達に任せて伍神村にお帰りになって下さいませ」
「しかし、宮司の仕事は…」
「私達だけでもなんとかなります。それに未熟な私にも痛いほど感じられるこの邪気…伍神村に何かあったのかもしれません!!」
皆の意見を代弁するかの様に若い宮司が言った。他の者もその言葉に頷く。
「…皆…すまない…では…後を頼む!!」
そういうと、手で印を組み短い呪文を唱える。すると足元に魔方陣が生成された。完成した魔方陣が光を放つ。光が消えると既に白桜の姿はなかった。
「…あの人、転送魔法使えたのか!?」
その場にいた誰もが驚きを隠せなかった。こんな辺境の地で転送魔法を使える「人間」は片手で数える程しか居なかったのだから…
楓がオロチとの決戦に出向いた数分後…
「楓!!皆無事か!?」
石段を一気に上りきった白桜が姿を現した。
「「父上〜母上が、母上が」」
龍の姉妹は父親に抱きつき泣きじゃくる。
何とか説明しようとするのだか、泣きじゃくる姉妹では上手く説明出来ない…二人に代わって海斗が悲痛な面持ちでこれ迄の経緯を説明する。
「あいつ…俺を気遣いやがって…バカ野郎」
救援に向かう為、身支度をしようと社に入ろうとする父親の前を海斗が塞ぐ。
「…そこをどけ」
「嫌です」
「俺はあいつの夫だ。妻を助けるのが夫の役目だ」
「それではその姉妹はどうするのですか?」
「あいつらにはお前が居る…たとえ俺が居なくなっても平気さ…」
「…ふざけるな…このバカ親父が!!」
海斗が白桜を殴る。不意を疲れた白桜はもろにそれを顔面に受けた。
「「なにをするのです!?兄上!!」」
二人が慌てて止めに入ろうとするが白桜がそれを制止した
「…やっと親父と言ってくれたじゃねえか。バカは余計だけどよ!!」
「!?」
殴り返す白桜。それを避けもせず、海斗は父親の手を掴んで難なく止めた。白桜が振り解こうとするがびくともしない。
「…お前は何も分かっちゃいない…両親を亡くし後に残される子供の気持ちが!!」
「!!」
その言葉に白桜が思わず姉妹を見る。
「妹達にまで、俺と同じ経験をさせる気か!?両親を目の前で殺されるのをただ見ていろと言うのか!?…そんな経験をするのは俺だけで充分だ…妹達にはそんな思いをさせない!!誰にもそんな経験をさせるわけにはいかない!!」
そう、海斗は見ていたのだ…実の両親が傷つけられ、亡くなるのを襖の穴から…
「…俺が行く…」
「「「!?」」」
「恐らく…四聖獣の力を借りなければ奴を倒す事は出来ない…」
「しかし、四聖獣の内2体はここにはいないぞ。それでも行くのか?」
「親父が行くよりかは成功率は上がるだろう?」
不意に笑う海斗。
「…残念ながらその通りだ」
つられて白桜も笑う
「生き残りたくば成功率が高い方法を取れ。…あんたの口癖だろ?」
そう言って社に向かう…唯一奴に対抗出来る武器を取りに…
「…へっ言ってくれるじゃあねえか…たしかに…奴に勝てるのは四聖獣を従わせる素質があるお前にしか居ないだろうな…」
息子の背に静かに語りかける父
「「父上!?」」
その言葉を聞いて一番驚いたのは姉妹だった。
「兄上を止めないと!!」
「兄上が死んじゃう!!」
二人は慌てて兄の後を追おうとする。しかしそれを制したのは他ならぬ二人の父だった。
「無駄だ。あいつは一度決めたらどんな事があっても意思を曲げない…」
「しかし…兄上では…」
「大丈夫だ…奴は既に俺の実力を越えている…」
「父上よりも?」
「兄上の方が実力が上?」
その言葉を二人は素直には信じられなかった。剣の稽古では一度も父に勝てた事が無いからだ。
「本気の一撃を奴はいとも簡単に止めた…たしかに剣の実力だけから見たら、確かに俺の方が上だろう…でもな、これは経験の差だ…海斗はまだ実戦経験は無い…それだけの差さ…」
「…」
「そうなの?父上」
「ああそうさ…黄花、時に経験は実力以上に物を言う…」
「後は…海斗に四聖獣の封印を解けるかだ…封印を解かなければ刀は抜けない…」
「「え?」」
「でも奴なら出来る…今の奴なら…必ず」
(今、海斗が応援に行く。それまで耐えてくれ…楓)
三人は聖刀が祀られた社をじっと見つめていた…

 その頃…
海斗は祭壇に置かれた2振りの刀と対峙していた。
(聖刀に眠る四聖獣達よ…どうか我に力を貸したまえ…)
(…お前が望むのは力か?それとも名声か?)
(…だれだ?四聖獣か?)
(我は刀に宿りし四聖獣を守護する者…黄龍に育てられし者、海斗よ…我が問いに答えよ)
「俺は守りたい」
(ほう、何をだ?富か?名声か?)
「違う…俺は…家族を愛する人々を…俺は守りたい。それだけだ!!それ以外何も要らない!!」
(そうか…心意気は見せて貰った…第一段階は合格だ…聖刀を持つがよい…試練を開始する)
「試練?」
(そうだ。先程の意思、どれ程の物か確かめさせて貰う!!さあ、刀を左右の手に持て!!)
「母上がヤバイってのに!!」
(心配するな…そなたが社に入った瞬間から時の流れは止まっている)
「全く…用意が良いことで」
そう言って2振りの刀を両手にそれぞれ持つ。
(では、始める…刀から手を離すな…我に意思の強さを示すのだ!!)
そう言うと急激に【朱雀剣】は熱く、【青龍剣】は冷たくなり始めた…
「…なるほど最後まで持てれば試練突破って訳か…」
(そう言うことだ…まだまだ序の口だぞ…お前はいつまでも耐えられるかな?)
やがて両手とも冷温の感覚からそれを超えた激痛へ変わっていく…聖刀はそれぞれ青い焔と紅い焔の様な魔力に包まれていた…それが手をから腕へと上がっていく…
「く…確かに並大抵の意思の強さじゃあたえられないね…これは!!」
(どうだ…?やめるなら今のうちだぞ?)
「冗談じゃねー…母上は一人で戦っているんだ…絶望的な戦いを…俺がここであきらめる訳にはいかないんだよ!!」
海斗は両腕の激痛と必死に戦っていた。愛する家族、村人を守りたい一心で…
(ほう、ここまで耐えるとは…強き意思を持つ者の様だな…しかし、これはあくまで封印を解く資格のある者かを見るもの…四聖獣達を従えるのには何か代償を払わなければならない)
「欲しければこの命ごとくれてやる…愛する人々を守る為ならばこの命、惜しくはない!!」
(…では海斗よ、両手を差し出せ…死ぬまで愛する人々にその手で触れない…それが代償だ…それでもよいか!!)
「触れられないのは残念だが…見ているだけで充分だ…その人々の笑顔が護れるならば!!俺は阿修羅にでも何でもなってやる!!皆の笑顔を守り、それを奪おうとする奴らを一人残らず奈落の底に突き落とす阿修羅に!!奴らの好きにはなせない!!!」
その叫びと同時に右手からは冷気に、左手は炎に覆われた。
そして左右の腕にはそれぞれの手から放たれる属性と同じ四聖獣の刺青がはいっていく。
(…これにて試練は終了だ…聖獣を従えし者、出雲海斗よ…刀を鞘から抜け!!四聖獣は解放される。そして、そなたが生涯を終えるまで付き従えるであろう…しかし、忘れるな…そなたの手はもう人の手ではない。四聖獣にしか触れることが許されない手である事を…)
「やっと終わりか…流石に疲れたな…」
(そなたの母親が待っている…朱雀と青龍を解放せよ。海斗)
「言われなくても分かってる」
 そう言うと左右の腰に聖刀を帯刀し、それぞれの鞘から刀を静かに抜きさる。抜刀した瞬間、まばゆい光が刀から放たれた。青龍剣からは青い龍が、朱雀剣からは火の鳥がそれぞれ現れる。
「やっと出れたか…肩こった〜」
「我々は生涯お仕えします。我らが主、海斗」
その者達は次第に獣の姿から人の姿に変わっていき…やがて完全に魔物娘と化していた。
「あちゃ〜やっぱり」
「楓様もお姿が変われたのです。我々の姿が変わってしまうも当然でしょう」
 砕けた言い方をしたイグニスが元の朱雀である。しかし普通のイグニスとは違い背中には羽を持ち、頭には朱雀の頭部を模した飾りを着けている。
 海斗を主と呼ぶウィンデーネが元の青龍である。しかし、こちらも頭には龍の頭部を模した帽子を被り、龍の象徴である宝玉埋め込んだネックレスを首にかけている(かけているように見えるだけで実際は身体と一体化している)。
(無事に復活したようだな…さあ行くが良い…世界をオロチの脅威から救ってくれ…)
そう言うと止まっていた時間が再び動き出す。もうあの声は聞こえなかった…
「何だったんだ…あれは?」
両手を見つめながら呟く海斗。
「主、疲れているかも知れませんが…楓様が心配です。急いで救援に行かないと!!」
「オロチ…今度こそ冥界に叩き落としてやる!!」
そう言うと朱雀は社から1人飛び出してしまった。
「朱雀!!だから先走りは行けないと…ああもう!!主、私達も朱雀を追わないと」
…姿は変わっても性格は変わらない様である。
「…ああ、そうだな」
(これで大丈夫なのか?)と思いながら朱雀の後を追う海斗達であった…

楓はどうなっているのか…時間を少し戻して見てみよう。
 回想後編へ続く… 
12/02/26 00:55更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
バトルまでの物語が一万文字を超えてしまったので前後編に分けました。
><
…半分嘘です肝心のバトルシーンが焦げ付いてしまったので…それまでの時間稼ぎに上げたのも半分含まれます…(殴り
バトル期待してた方申し訳ありません(いるかどうか不明ですが…)。もう少し時間をください。><
土下座
誤字脱字及び改善点等が見られた場合は感想欄までお願いします
m(_ _)m

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