山賊退治 決戦編後編
「主力部隊が壊滅しただと?!たった五騎の竜騎士にか!?」
前線の指揮を事実上放棄し、
後方の部隊へと身を寄せた敵司令に最初にもたらされた報告は吉報では無かった…
司令の凍り付くような視線に臆する事なく、前線の監視をしていた魔術師は報告を続ける。
「正確には敵の魔法攻撃によるものです。
これにより残存勢力の約9割が戦闘不能。
残りの兵も再結集する前に竜騎士と虎の魔物によって各個撃破された模様です」
その知らせを受けた敵司令は思わず
「無能共めが…」
と漏らしたが、それに同調するものはいない…
逆に前線の兵士を見捨て自分だけ逃げてきた司令に対する
冷ややかな視線が周囲からそそがれるが本人は気付いていない様子である。
「機械兵の方はどうなっているか!?」
「起動準備は全機体の50%まで完了しております」
「残る機体の準備を急がせろ!!騎士団は…」
各部隊に命令を下していたその時
彼方から一筋の赤い閃光が騎士団に向かって飛来。
大気を切り裂く轟音と衝撃波がやや遅れて騎士団を襲った。
その閃光は一番左端の装甲馬車に命中。
周囲に張り巡らされた表面に強度強化のルーンが刻印された装甲板を貫き、
それは馬車の内部で炸裂した。
中に格納されていた機械兵は着弾した時に生じた凄まじい衝撃と
ゼロ距離で受けた爆風によって容赦なく粉砕されていく…。
それらを載せていた馬車も内部で発生した爆風と衝撃波を内包出来なくなり轟音と共に爆散、
この世から姿を消した…
隣に停められていた馬車は爆散した時に外部へ解放された爆風と衝撃波を
一番に受け止める形となってしまった。
この馬車が盾となりこれ以上の被害は出ることは無かったが、
積まれていた機械兵も衝撃波と爆風によって命であるコアを破壊され、
起動不能になってしまう。
「何が…一体何が起こったのだ…!?」
「何をぼやぼやしている!!障壁を展開させろ!!被害状況の確認はどうした!?」
今だに現状が理解出来ず指示が出せない司令に変わり、
騎士団団長が部隊に激を飛ばす。
その激で我に帰った部下達が被害確認と魔法障壁展開を急いだ。
「報告します!!騎士団の被害は無し。
しかし、機械兵の20体が使用不能にされました。
数名の技師が爆風によって軽傷をおいました。
幸い、死者は居ません」
このたった一度の攻撃によって教会側は持ってきた機械兵の40%を破壊されてしまったのだ。
「敵位置の特定はまだか!?」
「探知魔法を最大範囲に広げていますが…敵の反応及び魔力反応はありません!!」
「魔法で隠れているのか?…」
「あれだけの威力です。
我々の探知範囲内で攻撃すれば本体はむりでも、
残留魔力ぐらいは捉えられるはずですが…」
(やはり、索敵圏外からの遠距離攻撃か…
そうなると敵の射程の方が我々よりも長い…これでは只の的だぞ)
そこから7000m以上後方にそれは居た…
白い鋼鉄の身体を持ち、2連装のレールガンを背負った巨大な狼…
背に載せたレールガンの片方の砲口は未だ帯電していた。
騎士団に飛来した赤い閃光…
それはこの白狼の砲門から磁力によって超高速で撃ち出された炸裂弾だったのだ。
騎士団によって不幸中の幸いだったのは砲弾が
魔界銀製であった為に人的被害が最小限に抑えられた事か…
「着弾、敵輸送車群左端馬車に命中。誤差左3.5」
複座式コックピット前方席のパイロットがディスプレイに表示された内容読み上げ
「着弾した馬車は爆散、右隣の馬車も爆風により大破横転した模様」
敵の損害状況を狙撃用スコープで確認した後方席の射撃手がインカムで追加報告した。
「やっぱり誤差が出ちゃったか…長い間放置されてたからね〜でも命中させるとは流石私!!」
その報告を聴いた白狼の『足元』に身を隠していたワイトが声を上げる。
「オイオイ、修復したのはお前だが…撃ったのは俺らだぞ。
とりあえず、これから乗降用の体制に移るから足元からはなれてくれ」
インカムから指示通り皆が離れた事を確認すると
白狼は射撃体制を解いてパイロット達が乗り降りし易い様に伏せの状態になる。
頭部あるコクピットハッチが開き中から1人の青年とクノイチが降りてきた。
「でも試射無しの一発本番であの誤差で済んだのは流石だな」
「でしょ〜まあ、街に着いたら整備と調整しないとね。
この子達に何が起こったのかも知りたいし」
そう言ってとなりに居たワイバーンとワーウルフ(正確に言えばワイバーンとワーウルフに酷似した外見的特徴を持ったゴーレム達)の肩を叩くワイト。
いつの間にかあの巨大な白狼の姿は消え去っていた…
「そんじゃ街へ帰りますか…砦で腕を砦で修理した腕の調整もしないといけないしな」
そう言って青年は懐から簡易転送魔法が記された札を取り出した。
青年の周りに集まるメンバー達
「これにて潜入班の任務は完了。ステーションシティへ帰還する」
アルベルト隊長の号令で転送魔法が発動。
メンバー『6人』一足先にステーションシティへの帰路についた。
アルベルト達が帰路についた時、騎士団では懸命の索敵活動と新型自律兵器…
通称『機械兵』の起動準備に追われていた。
「まだ、探知できんのか?!」
何とか混乱から立ち直った司令官があろう事か索敵担当を怒鳴りつけていた。
(精神集中を妨げる様な事をしても逆効果なだけだと何度言えば分かるのだ…この司令は)
そんな事を心に抱きつつ騎士団長は周辺の警戒を厳にするように命令を下す。
身近に騒音発生装置がある以上、
探知魔法だけでは必ず見落としが起きてしまうと考えたからである。
「魔力探知、反応多数!!距離約2000!!」
「敵視認!!敵本隊と思われます!!」
見張りと索敵担当者が声を上げたのはほぼ同時であった。
長距離射撃で敵が混乱していた隙を見計らって討伐隊が一気に肉薄して来ていたのだ。
「2000だと…?!何故そこまで接近されるまで気付かなかった!!
偵察隊からの報告はどうした?!」
「此方から呼びかけていますが、依然応答無し!!」
「報告します!!機械兵の起動準備完了しました!!」
その報告を聴き、司令官はすぐさま指令を下した。
「直ちに機械兵を起動させろ!!」
既に持ち場に着いていた技師達はその指令を受け作業を開始、
コアが活動を開始し機械兵の目に光が次々に宿っていく。
「魔術リンク正常に作動中」
「各機体異常なし。全機械兵起動完了しました」
機械兵に指示を与えるため手に持っていた杖に魔力を込める敵司令官。
「全機進撃開始!!」
遂に教団側の反撃が始まった…
「こちらライン!!敵新型自律兵器起動確認!!」
上空から敵を監視していたラインから緊急連絡が討伐隊に入った。
「射程こそ短いけれど連射と機動性が高い武器を積んでいるとの事でした。
竜騎士が攻撃するにはその弾幕を強行突破しなければなりません。
ワイバーンも無傷とは行かないでしょう…竜騎士にも危険が及びます」
何とか合流出来たカイトが進言した。
これは博士事、イアンが言っていた事でもある。
「竜騎士は一度撤退させて相手を油断させた方が良いじゃろ。
虎の子の竜騎士を消耗させるわけにはいかんしの」
「こちらフラン。竜騎士は別命あるまで後方にて待機せよ。今までの加勢感謝いたします」
「こちらライン、了解。後方にて別命あるまで待機します」
その通信を受けた竜騎士達は部隊後方へと飛び去っていった。
そして…ついに機械兵をはっきりと視認出来る距離まで両者が接近した。
相対距離約500。
「死にたい奴は出てこい!!この兵器で血祭りに上げてくれる!!」
敵の司令官が叫んだ。
「皆は下がって…」
その挑発にわざと答えるかのように前に進み出る白。
「どうやら死にたいようだな!!
心配するな…「皆」纏めて地獄に送ってやる…
全機、敵本隊にに照準合わせ!!
出力最大!!魔力式長距離収束ビーム砲発射用意!!」
背中で折りたたまれていた砲身が一つとなり肩に固定され、
機械兵達が白達にその照準を合わせていく。
本隊の最前列にいたカイトは反射的に行動を起こした。
「葵、紅!!
魔法障壁最大出力!!
クレア達も協力してくれ!!
皆、俺達の後ろに下がるんだ!!」
「「了解!!」」
「了解じゃ!!サバト部隊、障壁展開!!」
「イエス、マム!!」
各人はそう答えるとカイトと共同で魔力障壁を張り始める。
次第にカイト達の前に光の粒子が集まり始め、
輝く透明な壁が何枚も重なり合って出現した。
「総員、障壁内に退避!!
防御魔法が使える者は共に最大魔力で障壁を張れ!!」
その間にも砲身に魔力を収束させていく…機械兵達。
「無駄な足掻きだ…撃てぇ!!」
高魔力ビーム砲が一斉に発射される。
それは魔力の洪水の如く白達に襲いかかる。
しかし
「…無駄」
白はそう呟き、
高魔力ビームの洪水を巧みに掻い潜りながら機械兵達に向かっていく。
一斉掃射によって生じた土煙を利用して1体の機械兵に肉薄する白。
「…戦闘方法変更、格闘戦二移行…」
肉薄された機械兵は即座に近距離戦闘に切り替えた。
強制冷却モードになって只の重りと化しているビーム砲を切り離して身軽になると
腰の鞘から剣を抜き迫る白に斬りかかる。
その剣は白を切り裂いたかに見えた…が
「!?」
剣に手応えはない。
「…甘い」
切り裂いたのは白の残像だったのだ。
そして、機械兵が残像を切り裂いた時…
既に白は、がら空きになった背後に回っていた!!
「…1体目」
反応が遅れた機械兵の胴体を風の槍と化した白の拳が貫き、
内部のコアを粉砕した。
部品やコアの破片が背中の大穴から飛び散る。
コアを破壊された機械兵はその場に崩れ落ちた。
「ドラゴンの斬撃おも防ぐ装甲を素手で貫いただと!?」
「…脆い…こんな装甲ではドラゴンの攻撃は防げない…」
驚愕している敵司令官を尻目に白が呟いた。
白が最も得意とする戦法…
それは残像を作り出して相手の注意を引き付け、仕留める一撃必殺戦法だ。
その攻撃は強烈で、本来の姿に戻ったドラゴン等のでさえも戦闘不能とする程の威力を誇る。
ヒュン!!
今度は背後から機械兵が斬りかかった。
しかし、その攻撃を難なくかわす白。
斬撃は虚しく空を切る
追撃をしようと機械兵が白に顔を向けた瞬間、
ザン!!
光を反射した何かが機械兵を袈裟斬りにした。
「こりゃ!!獲物を独り占めにするでない」
そして飛び蹴りで己が斬った物を地面に叩き伏せる大鎌を持った幼女…
そう、機械兵を一撃で斬り倒したのは白のライバル「クレア」であった。
「…どちらがより多く倒せるか勝負」
「望むところじゃ♪」
白からの静かな挑発に黒い笑みを浮かべて乗るクレア。
最早、ここは戦場ではなく白達の狩場と化していた。
「…白兵最強コンビが相手かよ」
「…哀れですね」
「!?」
その声に敵の司令官が振り返る…
舞い上がった土煙が晴れた時、
そこには無傷の討伐隊メンバーがいた!!
白がかわしたビームの洪水はカイト達に直撃。
しかし、カイト達が共同で張った障壁はその攻撃を防ぎきった。
結果的に街にはおろか、討伐隊に傷ひとつ付けることさえ叶わなかったのだ。
「私達は騎士を倒すぞ!!続け!!」
フランは号令を飛ばし機械兵の右に展開していた騎士団に突撃していく。
「「「「「ウォオオー!!」」」」」
その後にカイト達の背後にいた者達が己の出番とばかりにフランに続いた。
紅達は敵の攻撃を己の技に変換している主人の護衛に付いた。
「我らは主神の使徒なり!!魔に与する者には神の鉄槌を下す!!全軍突撃!!」
「「「「「ウォオオー!!」」」」」
そうして戦いの火ぶたは再び切って落とされた…
「…2体目」
「負けぬぞい」
白達の次なる獲物はすぐ後方にいた機械兵となった。
機械兵達(正確には指示を出している司令官)は
先程の事態から格闘戦は危険と判断したのだろう。
散開して距離を取り、2人に向かってガトリング砲で魔弾の豪雨を降らせた。
未だ強制冷却が終わらないビーム砲は全て強制排除させてある。
2人は散開してそれを避ける。
機械兵達は2人を近寄らせない為に濃密な弾幕を張る。
白はその魔弾の豪雨をいとも簡単に掻い潜り、
1体の獲物に近付く。
防御の為に獲物がかざした盾ごと、ガトリング砲を肩から風の刃と化した手刀で切断する。
その余波で思わずバランスを崩す機械兵。
その隙を見逃す白ではなかった。
すかさず強烈な回し蹴りを入れ、
クレアが相手をしている機械兵達に向けて吹き飛す。
己に向かって来る半壊した「味方の機械兵」に気付いた機械兵達は、
躊躇なくガトリング砲を浴びせかけ自らの身を守る。
蹴り飛ばされた機械兵は「味方」によって止めを刺されたのだ。
「味方は大切にせんといかんぞ!!」
機械兵達の注意がそれた一瞬の隙に、
クレアの大鎌が「味方」を撃った物達の胴をコアもろとも一刀両断にする。
「おい!?」
「彼奴ら…味方を撃ちやがった!!」
「…幾らでも補充がきくからといっても…!!」
味方の損害も省みない戦闘をする機械兵達に騎士達も恐怖を覚え始め戦意を減退させる…
「アレ」と共に戦えば自分達も先程の機械兵と同じ運命を辿る事もあり得るのだから…
団長が自ら指揮を執る騎士団は確かに強かった。
しかし、後ろから刃を突きつけられて戦っているという恐怖は騎士達の精神を蝕み、
身体の反応を鈍くしていく…
いつしか戦局は討伐隊の方へと傾いていった。
「お前達は味方を駒としか見ていない教団の為にまだ、戦うのか!?」
戦いながら相手に問うフラン。
「…お前達は人々を殺す!!俺達が戦わなければ…罪の無い命が喪われる!!
その為なら…駒にでも何でもなってやる!!」
悲痛な表情で答える敵兵。
「私達は人を無闇に傷つけはしない!!
況してや命を取るような行為は魔王軍では固く禁じられている!!
魔物は人を殺したりは決してしない!!」
フランは敵兵に向かって叫ぶ。
「…では…なぜ我々と戦う?!答えろ!!」
一人の騎士の悲痛な叫びが戦場にこだまする。
「教団が攻撃して来るからだ!!私は…愛する者達の為に戦う!!
何かを奪う為に戦うのではない!!人々の笑顔を守るために戦うんだ!!」
その叫びにフランは答える。
「そうだ!!俺達は家族や仲間を守るために戦っているだけだ!!」
「主神が相手だろうが、あいつらの笑顔を奪おうとするなら力の限り戦う迄だ!!」
「「「それが俺(私)達の信念だ!!」」」
その言葉に息を飲む敵兵達…
「白、クレア!!
奴等から離れろ!!」
その声にバックステップで機械兵達から距離を取る2人。
「お前らに返してやるよ…光龍波!!」
機械兵達が放った魔力が無数の光の龍となり、
機械兵達に襲い掛かる。
「対魔法防御体制!!」
司令官の指令に従い、残存している機械兵達は対魔法処理をされた盾を構える。
しかし、それは無駄な足掻きでしかなかった…
「光龍波」は敵が放った 魔法を受け止め、打ち返す技。
その威力は相手が放った魔力の総量に比例する…
今回、機械兵達が放った魔力の総量は街1つ破壊出来るレベルであった。
自らの魔力で作り出されし龍の群れに飲み込まれていく機械兵達…
龍達が消えた時、
そこに機械兵の姿はなかった…
機械兵にはその圧倒的な破壊力を防ぎきるだけの能力はなかったのだ…
「ば、ばかな?!」
うろたえる敵司令官。
配下の騎士団は完全に戦意を喪失していた。
「残るはお前達だけだ!!大人しく降伏しろ!!」
クレアが降伏を促す…が
「ええい、お前達!!突撃しろ!!」
司令官だけは愚かにもその場の状況を理解出来ないようだった。
そんな中、守備隊の中から一人の青年が歩み出てきた
「皆さん!!これ以上の戦いは無意味です!!どうか降伏してください!!」
「お前は…!?生きてたのか…!!」
「彼らと知り合いか?」
フランが自らの夫に聞いた。
「この騎士団は僕が騎士見習いとして所属して居た事がありますから」
少し懐かしそうにライトは言った。
「私は先の戦いにおいてこの人たちに命を助けられました。
先程も言った通り、魔物は人を殺しません。
僕が生きているのが何よりの証拠です」
「しかし…奴らは俺達やお前の故郷を!!」
故郷は魔物によって奪われたと教えられている者が声を上げた。
「それは教団側が仕組んだ事です!!自らの手柄をたてる為に!!」
「!?」
「証人もいます!!どうか降伏を!!
これ以上、貴方達と無用な争いはしたくはありません」
ライトはかつての上官に懇願する。
「…分かった。但し、部下の命の保証をして欲しい。
その代わり、俺の命はどうなっても構わない」
「「隊長!?」」
「部下想いなのだな…。無論だ。貴殿を含め、全ての者達の命の保証を約束しよう。
さっそく、そちらの怪我人の手当てもしなければな」
そう言って己の部下に治療要員の手配をさせるフラン
「有難い。総員武器を捨てろ!!これ以上の戦いは無意味だ…」
その命令に武器を捨てる騎士団。
無用な戦いはようやく終ろうとしていた…
しかし…
「神のご意志に背くのか?!今まで生きてこられたのは誰のおかげだ!!」
主神の主張を利用して今の地位に収まっている奴はそれをよしとしなかった。
「司令官、我々の敗けです。これ以上抵抗しても無用な負傷者を増やすだけで」
ドス
「!?き、きさま…」
腹部から血を流して崩れ落ちる騎士団長…
敵司令官の手には血のついた短剣が握られていた。
「隊長!?」
騎士達が駆け寄ろうとするのを男は短剣で牽制する。
「裏切り者に用ない!!さあ、お前達!!魔物を殲滅しろ!!この剣は甲冑も貫くぞ!!」
半場狂った様に短剣を片手に命じる。
その目には狂気の色しか最早無い。
「お前達の言う通りだな…
我々は所詮こいつの捨て駒だったと言うわけか…
騎士団の皆に最後の命令を告げる!!
このクソ野郎を拘束しろ!!この無意味な戦いを終わらせるんだ!!」
「ちっ…まだ生きていたか…これで止めだ!!地獄で精々家族と感動の再会をするんだな…」
そう言って短剣を振り上げる男。
「「き、きさまー!!」」
騎士団やクレア達が男に挑みかかろうとした次の瞬間
バキン!!
「な?!主神の加護を受けた剣が!!」
短剣の刃が根元から無くなっていた。
「貴様の様な屑が一番嫌いなんだよ…」
狂った男が声のする方を向くとそこには…
手袋を外したカイトがいた。
地面には短剣の刃が落ちている。
そう、カイトが短剣を手刀でへし折ったのだ。
「早く団長の手当を!!この屑の相手は俺がする…」
その両手には自らの怒りを表すかの様に凄まじいまでの魔力が宿っている
「この若造が!!」
愚かにも腰に着けた剣を抜刀し挑みかかる男。
「無駄だ…」
しかしその刃はカイトに触れることはなかった。
かざした手から放たれる熱気によって溶け落ち…蒸発したのだ…
その通常ならあり得ない様子を見て、
男の先程迄の勢いはあっという間に霧散して行った。
「くっ…」
ようやく状況を理解する男。
「まだ、抵抗するのか?」
男に近寄っていくカイト。
「…かくなる上は裏切り者だけでも!!」
そう言って高速で呪文を唱える男。
「…無駄です」
しかし、騎士団を狙った最上級魔法は無情にも葵の障壁によってふせがれる。
男の最後のあがきは不発に終わったのだ。
「!?」
「…その腐った性格矯正してやるよ」
…哀れにもカイトの怒りの炎に油を注ぐ結果となった。
「や、やめろ…やめてくれ…ギャー?!!!」
その後の男が心身共に再起不能にまで叩きのめされたのは言うまでもない…
山賊退治後日談へ続く
前線の指揮を事実上放棄し、
後方の部隊へと身を寄せた敵司令に最初にもたらされた報告は吉報では無かった…
司令の凍り付くような視線に臆する事なく、前線の監視をしていた魔術師は報告を続ける。
「正確には敵の魔法攻撃によるものです。
これにより残存勢力の約9割が戦闘不能。
残りの兵も再結集する前に竜騎士と虎の魔物によって各個撃破された模様です」
その知らせを受けた敵司令は思わず
「無能共めが…」
と漏らしたが、それに同調するものはいない…
逆に前線の兵士を見捨て自分だけ逃げてきた司令に対する
冷ややかな視線が周囲からそそがれるが本人は気付いていない様子である。
「機械兵の方はどうなっているか!?」
「起動準備は全機体の50%まで完了しております」
「残る機体の準備を急がせろ!!騎士団は…」
各部隊に命令を下していたその時
彼方から一筋の赤い閃光が騎士団に向かって飛来。
大気を切り裂く轟音と衝撃波がやや遅れて騎士団を襲った。
その閃光は一番左端の装甲馬車に命中。
周囲に張り巡らされた表面に強度強化のルーンが刻印された装甲板を貫き、
それは馬車の内部で炸裂した。
中に格納されていた機械兵は着弾した時に生じた凄まじい衝撃と
ゼロ距離で受けた爆風によって容赦なく粉砕されていく…。
それらを載せていた馬車も内部で発生した爆風と衝撃波を内包出来なくなり轟音と共に爆散、
この世から姿を消した…
隣に停められていた馬車は爆散した時に外部へ解放された爆風と衝撃波を
一番に受け止める形となってしまった。
この馬車が盾となりこれ以上の被害は出ることは無かったが、
積まれていた機械兵も衝撃波と爆風によって命であるコアを破壊され、
起動不能になってしまう。
「何が…一体何が起こったのだ…!?」
「何をぼやぼやしている!!障壁を展開させろ!!被害状況の確認はどうした!?」
今だに現状が理解出来ず指示が出せない司令に変わり、
騎士団団長が部隊に激を飛ばす。
その激で我に帰った部下達が被害確認と魔法障壁展開を急いだ。
「報告します!!騎士団の被害は無し。
しかし、機械兵の20体が使用不能にされました。
数名の技師が爆風によって軽傷をおいました。
幸い、死者は居ません」
このたった一度の攻撃によって教会側は持ってきた機械兵の40%を破壊されてしまったのだ。
「敵位置の特定はまだか!?」
「探知魔法を最大範囲に広げていますが…敵の反応及び魔力反応はありません!!」
「魔法で隠れているのか?…」
「あれだけの威力です。
我々の探知範囲内で攻撃すれば本体はむりでも、
残留魔力ぐらいは捉えられるはずですが…」
(やはり、索敵圏外からの遠距離攻撃か…
そうなると敵の射程の方が我々よりも長い…これでは只の的だぞ)
そこから7000m以上後方にそれは居た…
白い鋼鉄の身体を持ち、2連装のレールガンを背負った巨大な狼…
背に載せたレールガンの片方の砲口は未だ帯電していた。
騎士団に飛来した赤い閃光…
それはこの白狼の砲門から磁力によって超高速で撃ち出された炸裂弾だったのだ。
騎士団によって不幸中の幸いだったのは砲弾が
魔界銀製であった為に人的被害が最小限に抑えられた事か…
「着弾、敵輸送車群左端馬車に命中。誤差左3.5」
複座式コックピット前方席のパイロットがディスプレイに表示された内容読み上げ
「着弾した馬車は爆散、右隣の馬車も爆風により大破横転した模様」
敵の損害状況を狙撃用スコープで確認した後方席の射撃手がインカムで追加報告した。
「やっぱり誤差が出ちゃったか…長い間放置されてたからね〜でも命中させるとは流石私!!」
その報告を聴いた白狼の『足元』に身を隠していたワイトが声を上げる。
「オイオイ、修復したのはお前だが…撃ったのは俺らだぞ。
とりあえず、これから乗降用の体制に移るから足元からはなれてくれ」
インカムから指示通り皆が離れた事を確認すると
白狼は射撃体制を解いてパイロット達が乗り降りし易い様に伏せの状態になる。
頭部あるコクピットハッチが開き中から1人の青年とクノイチが降りてきた。
「でも試射無しの一発本番であの誤差で済んだのは流石だな」
「でしょ〜まあ、街に着いたら整備と調整しないとね。
この子達に何が起こったのかも知りたいし」
そう言ってとなりに居たワイバーンとワーウルフ(正確に言えばワイバーンとワーウルフに酷似した外見的特徴を持ったゴーレム達)の肩を叩くワイト。
いつの間にかあの巨大な白狼の姿は消え去っていた…
「そんじゃ街へ帰りますか…砦で腕を砦で修理した腕の調整もしないといけないしな」
そう言って青年は懐から簡易転送魔法が記された札を取り出した。
青年の周りに集まるメンバー達
「これにて潜入班の任務は完了。ステーションシティへ帰還する」
アルベルト隊長の号令で転送魔法が発動。
メンバー『6人』一足先にステーションシティへの帰路についた。
アルベルト達が帰路についた時、騎士団では懸命の索敵活動と新型自律兵器…
通称『機械兵』の起動準備に追われていた。
「まだ、探知できんのか?!」
何とか混乱から立ち直った司令官があろう事か索敵担当を怒鳴りつけていた。
(精神集中を妨げる様な事をしても逆効果なだけだと何度言えば分かるのだ…この司令は)
そんな事を心に抱きつつ騎士団長は周辺の警戒を厳にするように命令を下す。
身近に騒音発生装置がある以上、
探知魔法だけでは必ず見落としが起きてしまうと考えたからである。
「魔力探知、反応多数!!距離約2000!!」
「敵視認!!敵本隊と思われます!!」
見張りと索敵担当者が声を上げたのはほぼ同時であった。
長距離射撃で敵が混乱していた隙を見計らって討伐隊が一気に肉薄して来ていたのだ。
「2000だと…?!何故そこまで接近されるまで気付かなかった!!
偵察隊からの報告はどうした?!」
「此方から呼びかけていますが、依然応答無し!!」
「報告します!!機械兵の起動準備完了しました!!」
その報告を聴き、司令官はすぐさま指令を下した。
「直ちに機械兵を起動させろ!!」
既に持ち場に着いていた技師達はその指令を受け作業を開始、
コアが活動を開始し機械兵の目に光が次々に宿っていく。
「魔術リンク正常に作動中」
「各機体異常なし。全機械兵起動完了しました」
機械兵に指示を与えるため手に持っていた杖に魔力を込める敵司令官。
「全機進撃開始!!」
遂に教団側の反撃が始まった…
「こちらライン!!敵新型自律兵器起動確認!!」
上空から敵を監視していたラインから緊急連絡が討伐隊に入った。
「射程こそ短いけれど連射と機動性が高い武器を積んでいるとの事でした。
竜騎士が攻撃するにはその弾幕を強行突破しなければなりません。
ワイバーンも無傷とは行かないでしょう…竜騎士にも危険が及びます」
何とか合流出来たカイトが進言した。
これは博士事、イアンが言っていた事でもある。
「竜騎士は一度撤退させて相手を油断させた方が良いじゃろ。
虎の子の竜騎士を消耗させるわけにはいかんしの」
「こちらフラン。竜騎士は別命あるまで後方にて待機せよ。今までの加勢感謝いたします」
「こちらライン、了解。後方にて別命あるまで待機します」
その通信を受けた竜騎士達は部隊後方へと飛び去っていった。
そして…ついに機械兵をはっきりと視認出来る距離まで両者が接近した。
相対距離約500。
「死にたい奴は出てこい!!この兵器で血祭りに上げてくれる!!」
敵の司令官が叫んだ。
「皆は下がって…」
その挑発にわざと答えるかのように前に進み出る白。
「どうやら死にたいようだな!!
心配するな…「皆」纏めて地獄に送ってやる…
全機、敵本隊にに照準合わせ!!
出力最大!!魔力式長距離収束ビーム砲発射用意!!」
背中で折りたたまれていた砲身が一つとなり肩に固定され、
機械兵達が白達にその照準を合わせていく。
本隊の最前列にいたカイトは反射的に行動を起こした。
「葵、紅!!
魔法障壁最大出力!!
クレア達も協力してくれ!!
皆、俺達の後ろに下がるんだ!!」
「「了解!!」」
「了解じゃ!!サバト部隊、障壁展開!!」
「イエス、マム!!」
各人はそう答えるとカイトと共同で魔力障壁を張り始める。
次第にカイト達の前に光の粒子が集まり始め、
輝く透明な壁が何枚も重なり合って出現した。
「総員、障壁内に退避!!
防御魔法が使える者は共に最大魔力で障壁を張れ!!」
その間にも砲身に魔力を収束させていく…機械兵達。
「無駄な足掻きだ…撃てぇ!!」
高魔力ビーム砲が一斉に発射される。
それは魔力の洪水の如く白達に襲いかかる。
しかし
「…無駄」
白はそう呟き、
高魔力ビームの洪水を巧みに掻い潜りながら機械兵達に向かっていく。
一斉掃射によって生じた土煙を利用して1体の機械兵に肉薄する白。
「…戦闘方法変更、格闘戦二移行…」
肉薄された機械兵は即座に近距離戦闘に切り替えた。
強制冷却モードになって只の重りと化しているビーム砲を切り離して身軽になると
腰の鞘から剣を抜き迫る白に斬りかかる。
その剣は白を切り裂いたかに見えた…が
「!?」
剣に手応えはない。
「…甘い」
切り裂いたのは白の残像だったのだ。
そして、機械兵が残像を切り裂いた時…
既に白は、がら空きになった背後に回っていた!!
「…1体目」
反応が遅れた機械兵の胴体を風の槍と化した白の拳が貫き、
内部のコアを粉砕した。
部品やコアの破片が背中の大穴から飛び散る。
コアを破壊された機械兵はその場に崩れ落ちた。
「ドラゴンの斬撃おも防ぐ装甲を素手で貫いただと!?」
「…脆い…こんな装甲ではドラゴンの攻撃は防げない…」
驚愕している敵司令官を尻目に白が呟いた。
白が最も得意とする戦法…
それは残像を作り出して相手の注意を引き付け、仕留める一撃必殺戦法だ。
その攻撃は強烈で、本来の姿に戻ったドラゴン等のでさえも戦闘不能とする程の威力を誇る。
ヒュン!!
今度は背後から機械兵が斬りかかった。
しかし、その攻撃を難なくかわす白。
斬撃は虚しく空を切る
追撃をしようと機械兵が白に顔を向けた瞬間、
ザン!!
光を反射した何かが機械兵を袈裟斬りにした。
「こりゃ!!獲物を独り占めにするでない」
そして飛び蹴りで己が斬った物を地面に叩き伏せる大鎌を持った幼女…
そう、機械兵を一撃で斬り倒したのは白のライバル「クレア」であった。
「…どちらがより多く倒せるか勝負」
「望むところじゃ♪」
白からの静かな挑発に黒い笑みを浮かべて乗るクレア。
最早、ここは戦場ではなく白達の狩場と化していた。
「…白兵最強コンビが相手かよ」
「…哀れですね」
「!?」
その声に敵の司令官が振り返る…
舞い上がった土煙が晴れた時、
そこには無傷の討伐隊メンバーがいた!!
白がかわしたビームの洪水はカイト達に直撃。
しかし、カイト達が共同で張った障壁はその攻撃を防ぎきった。
結果的に街にはおろか、討伐隊に傷ひとつ付けることさえ叶わなかったのだ。
「私達は騎士を倒すぞ!!続け!!」
フランは号令を飛ばし機械兵の右に展開していた騎士団に突撃していく。
「「「「「ウォオオー!!」」」」」
その後にカイト達の背後にいた者達が己の出番とばかりにフランに続いた。
紅達は敵の攻撃を己の技に変換している主人の護衛に付いた。
「我らは主神の使徒なり!!魔に与する者には神の鉄槌を下す!!全軍突撃!!」
「「「「「ウォオオー!!」」」」」
そうして戦いの火ぶたは再び切って落とされた…
「…2体目」
「負けぬぞい」
白達の次なる獲物はすぐ後方にいた機械兵となった。
機械兵達(正確には指示を出している司令官)は
先程の事態から格闘戦は危険と判断したのだろう。
散開して距離を取り、2人に向かってガトリング砲で魔弾の豪雨を降らせた。
未だ強制冷却が終わらないビーム砲は全て強制排除させてある。
2人は散開してそれを避ける。
機械兵達は2人を近寄らせない為に濃密な弾幕を張る。
白はその魔弾の豪雨をいとも簡単に掻い潜り、
1体の獲物に近付く。
防御の為に獲物がかざした盾ごと、ガトリング砲を肩から風の刃と化した手刀で切断する。
その余波で思わずバランスを崩す機械兵。
その隙を見逃す白ではなかった。
すかさず強烈な回し蹴りを入れ、
クレアが相手をしている機械兵達に向けて吹き飛す。
己に向かって来る半壊した「味方の機械兵」に気付いた機械兵達は、
躊躇なくガトリング砲を浴びせかけ自らの身を守る。
蹴り飛ばされた機械兵は「味方」によって止めを刺されたのだ。
「味方は大切にせんといかんぞ!!」
機械兵達の注意がそれた一瞬の隙に、
クレアの大鎌が「味方」を撃った物達の胴をコアもろとも一刀両断にする。
「おい!?」
「彼奴ら…味方を撃ちやがった!!」
「…幾らでも補充がきくからといっても…!!」
味方の損害も省みない戦闘をする機械兵達に騎士達も恐怖を覚え始め戦意を減退させる…
「アレ」と共に戦えば自分達も先程の機械兵と同じ運命を辿る事もあり得るのだから…
団長が自ら指揮を執る騎士団は確かに強かった。
しかし、後ろから刃を突きつけられて戦っているという恐怖は騎士達の精神を蝕み、
身体の反応を鈍くしていく…
いつしか戦局は討伐隊の方へと傾いていった。
「お前達は味方を駒としか見ていない教団の為にまだ、戦うのか!?」
戦いながら相手に問うフラン。
「…お前達は人々を殺す!!俺達が戦わなければ…罪の無い命が喪われる!!
その為なら…駒にでも何でもなってやる!!」
悲痛な表情で答える敵兵。
「私達は人を無闇に傷つけはしない!!
況してや命を取るような行為は魔王軍では固く禁じられている!!
魔物は人を殺したりは決してしない!!」
フランは敵兵に向かって叫ぶ。
「…では…なぜ我々と戦う?!答えろ!!」
一人の騎士の悲痛な叫びが戦場にこだまする。
「教団が攻撃して来るからだ!!私は…愛する者達の為に戦う!!
何かを奪う為に戦うのではない!!人々の笑顔を守るために戦うんだ!!」
その叫びにフランは答える。
「そうだ!!俺達は家族や仲間を守るために戦っているだけだ!!」
「主神が相手だろうが、あいつらの笑顔を奪おうとするなら力の限り戦う迄だ!!」
「「「それが俺(私)達の信念だ!!」」」
その言葉に息を飲む敵兵達…
「白、クレア!!
奴等から離れろ!!」
その声にバックステップで機械兵達から距離を取る2人。
「お前らに返してやるよ…光龍波!!」
機械兵達が放った魔力が無数の光の龍となり、
機械兵達に襲い掛かる。
「対魔法防御体制!!」
司令官の指令に従い、残存している機械兵達は対魔法処理をされた盾を構える。
しかし、それは無駄な足掻きでしかなかった…
「光龍波」は敵が放った 魔法を受け止め、打ち返す技。
その威力は相手が放った魔力の総量に比例する…
今回、機械兵達が放った魔力の総量は街1つ破壊出来るレベルであった。
自らの魔力で作り出されし龍の群れに飲み込まれていく機械兵達…
龍達が消えた時、
そこに機械兵の姿はなかった…
機械兵にはその圧倒的な破壊力を防ぎきるだけの能力はなかったのだ…
「ば、ばかな?!」
うろたえる敵司令官。
配下の騎士団は完全に戦意を喪失していた。
「残るはお前達だけだ!!大人しく降伏しろ!!」
クレアが降伏を促す…が
「ええい、お前達!!突撃しろ!!」
司令官だけは愚かにもその場の状況を理解出来ないようだった。
そんな中、守備隊の中から一人の青年が歩み出てきた
「皆さん!!これ以上の戦いは無意味です!!どうか降伏してください!!」
「お前は…!?生きてたのか…!!」
「彼らと知り合いか?」
フランが自らの夫に聞いた。
「この騎士団は僕が騎士見習いとして所属して居た事がありますから」
少し懐かしそうにライトは言った。
「私は先の戦いにおいてこの人たちに命を助けられました。
先程も言った通り、魔物は人を殺しません。
僕が生きているのが何よりの証拠です」
「しかし…奴らは俺達やお前の故郷を!!」
故郷は魔物によって奪われたと教えられている者が声を上げた。
「それは教団側が仕組んだ事です!!自らの手柄をたてる為に!!」
「!?」
「証人もいます!!どうか降伏を!!
これ以上、貴方達と無用な争いはしたくはありません」
ライトはかつての上官に懇願する。
「…分かった。但し、部下の命の保証をして欲しい。
その代わり、俺の命はどうなっても構わない」
「「隊長!?」」
「部下想いなのだな…。無論だ。貴殿を含め、全ての者達の命の保証を約束しよう。
さっそく、そちらの怪我人の手当てもしなければな」
そう言って己の部下に治療要員の手配をさせるフラン
「有難い。総員武器を捨てろ!!これ以上の戦いは無意味だ…」
その命令に武器を捨てる騎士団。
無用な戦いはようやく終ろうとしていた…
しかし…
「神のご意志に背くのか?!今まで生きてこられたのは誰のおかげだ!!」
主神の主張を利用して今の地位に収まっている奴はそれをよしとしなかった。
「司令官、我々の敗けです。これ以上抵抗しても無用な負傷者を増やすだけで」
ドス
「!?き、きさま…」
腹部から血を流して崩れ落ちる騎士団長…
敵司令官の手には血のついた短剣が握られていた。
「隊長!?」
騎士達が駆け寄ろうとするのを男は短剣で牽制する。
「裏切り者に用ない!!さあ、お前達!!魔物を殲滅しろ!!この剣は甲冑も貫くぞ!!」
半場狂った様に短剣を片手に命じる。
その目には狂気の色しか最早無い。
「お前達の言う通りだな…
我々は所詮こいつの捨て駒だったと言うわけか…
騎士団の皆に最後の命令を告げる!!
このクソ野郎を拘束しろ!!この無意味な戦いを終わらせるんだ!!」
「ちっ…まだ生きていたか…これで止めだ!!地獄で精々家族と感動の再会をするんだな…」
そう言って短剣を振り上げる男。
「「き、きさまー!!」」
騎士団やクレア達が男に挑みかかろうとした次の瞬間
バキン!!
「な?!主神の加護を受けた剣が!!」
短剣の刃が根元から無くなっていた。
「貴様の様な屑が一番嫌いなんだよ…」
狂った男が声のする方を向くとそこには…
手袋を外したカイトがいた。
地面には短剣の刃が落ちている。
そう、カイトが短剣を手刀でへし折ったのだ。
「早く団長の手当を!!この屑の相手は俺がする…」
その両手には自らの怒りを表すかの様に凄まじいまでの魔力が宿っている
「この若造が!!」
愚かにも腰に着けた剣を抜刀し挑みかかる男。
「無駄だ…」
しかしその刃はカイトに触れることはなかった。
かざした手から放たれる熱気によって溶け落ち…蒸発したのだ…
その通常ならあり得ない様子を見て、
男の先程迄の勢いはあっという間に霧散して行った。
「くっ…」
ようやく状況を理解する男。
「まだ、抵抗するのか?」
男に近寄っていくカイト。
「…かくなる上は裏切り者だけでも!!」
そう言って高速で呪文を唱える男。
「…無駄です」
しかし、騎士団を狙った最上級魔法は無情にも葵の障壁によってふせがれる。
男の最後のあがきは不発に終わったのだ。
「!?」
「…その腐った性格矯正してやるよ」
…哀れにもカイトの怒りの炎に油を注ぐ結果となった。
「や、やめろ…やめてくれ…ギャー?!!!」
その後の男が心身共に再起不能にまで叩きのめされたのは言うまでもない…
山賊退治後日談へ続く
13/09/11 05:55更新 / 流れの双剣士
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