連載小説
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山賊退治室内戦後編
「何者だ貴様!!」
「残念ながら名乗っている時間は無いんでね!!」
そう言うとジョーは容赦なく引き金を引いた。
連続して3発の銃声が室内に響く…
問答無用で麻痺弾を撃ち込まれた3人は、
それ以上声を発することなくその場に崩れ落ちる結果となった。
もはや声を出すことも叶わない技師長達を後に続いて入ってきた
クノイチ達が素早く縛り上げる。
「こいつらが最後だな?」
「はい!!」
イアンから情報を貰っていたしぐれが素早く返答した。
「よし…隠密部隊はこいつらを連れて街まで撤退!!
 化け物どもは俺達が始末する!!」
「え!?」
「し、しかし!!」
思いもしなかった命令にクノイチ達が仰天の声を上げる。
「お前達が言いたい事は分かる…」
「では何故!!」
「この言い方では酷かもしれないが…
 今のお前達の実力と装備では奴等にとっては只の餌に過ぎん…」


 そう言うとラプトル型殺戮者の攻撃を腕で受け止め、
ゼロ距離でP38を放つ。
電磁波の力で凄まじい加速度を得た「対殺戮者用の弾丸」はコアを跡形もなく破壊し
殺戮者の身体を貫通。
その後ろにいた者の上半身をも粉砕した。

「「「!?」」」
噛みつかれた腕のからは出血は全くない…
その傷口からは本来あるべき皮下組織ではなく、
金属の装甲板が顔を覗かせていた…
それを見たクノイチ達は言葉を無くしたが、
ジョーは整然と言葉を続ける。
「俺はこいつらとの戦いで片方の手足と…
 多くの戦友を失った…
 魔王軍との戦力差を簡単に覆せる程の
 強力な武器を人類が手にしている世界での話だ…」
「「「…」」」
「いくら身体能力が優れている魔物と言えども、
 生身では殺戮者は倒せない…
 何よりも…
 嫁入り前の乙女を俺の様な身体にするわけにはいかない。
 お前達の家族や未来の旦那達に示しがつかんからな」
そう言ってジョーは苦笑いを浮かべる
「しかし!!」
「そして…俺は隊長や領主殿からお前達の命を預かっている身。
 部下の命を無駄に散らせる行為は指揮官のやるべき事ではない。
 撤退して、この事態を領主に伝えるんだ…
 これは命令である!!」
(こいつらに『命令』を出したのは初めてかも知れないな…)
心の中でジョーはそう呟いた…
 ジョーは『命令』と言う言葉が好きではなかった。
上官からの『命令』で幾人もの戦友が死んで行ったからだ…
 軍人である以上…上官からの『命令』は絶対であり、
時には戦死が確実である事柄でさえも『命令』ならば遂行しなければならない。
 そうして、自分の目の前で友人が、仲間が、そして愛する人までもが
『命令』を遂行するために命を散らせて行ったのだ…
 だから…部下を持つ身になっても『命令』と言う言葉だけは
今まで決して口にすることは無かった。
(俺は…あの椅子にふんぞり返って兵を数字でしか見ない様な屑共とは違う…
 俺は、むざむざ部下を死なせる様なマネはしない…!!
 そんな『命令』だけは決して出さない…!!
 出させはしない!!)
「…了解」
「分かりました。隊長は一度決めた事は絶対に曲げない人です…
 此処で私たちが拒否しても無理矢理送るんでしょうから…」
「必ず帰って来て下さいね…隊長」
その心情が顔に出たのであろう…
それを察知したクノイチ達は命令に従い動き出す。
その顔に苦渋の表情を浮かべながら…
「死亡プラグを立てるな…大丈夫だ、
 こんな所で死んでたまるかってんだ。
 早く行け!!」
ジョーの命令に従い、
緊急脱出用に作られた簡易魔法を発動させて次々に脱出していく隠密部隊…
しかし最後に残った「しぐれ」だけは撤退しようとしなかった。
「命令が聞こえなかったのか?!早く脱出しろ!!」
破壊した扉から室内に入って来ようとする「ラプトル型」殺戮者を迎撃しながらジョーは叫ぶ。
「いやです!!貴方達だけ残して撤退するわけには!?」
バリーン!!
制御室正面の強化ガラスが粉砕されて複数体のラプトル型が飛び込んでくる!!
咄嗟にP38からビームソード内臓のUSP二挺に持ち変え、
侵入してきた殺戮者の唯一急所…コアを次々に撃ち抜いて行く…
しかしそれらは囮であり、すでに何体かのラプトル型は室内に侵入してしまっていた…
(くっ…これだけを狭い室内で流石に相手するのはキツい…
 せめて、しぐれだけでも脱出をさせなければ)
背後に居るしぐれを一瞬だけ見るジョー


 ラプトル型殺戮者…
コードネーム「セラミックラプトル」
体表はセラミック合金で覆われており動きは俊敏。
太古の小型肉食恐竜の「ヴェロキラプトル」に姿は酷似。
行動パターンも同様である。
常に集団で行動し、知能は殺戮者の中でも高い部類に含まれる。
性格は非常に狡猾で獰猛。
時には囮を使って獲物を誘導する事例も確認されている。
順応性も非常に高く、
世界各地でその地に適応して進化した「亜種」も数多く報告されている厄介な種である。


 ラプトル達はその一瞬の隙を見逃さず、ジョー襲いかかる。
それもわざと時間差を付けた連携攻撃。
「ちっ!?」
ジョーはその攻撃を回避しつつ、
銃撃とビームソードによる斬撃(バレルの下部には小型ビームソード発生装置が内臓しており、スイッチ一つで銃口の下にビームソードを展開出来る)を叩きこんでいく。
攻撃は的確にコアを破壊しており、
ラプトル達は次々に地面にひれ伏して行く…
その骸は信じられない速度でただの砂塵へと替わっていった…
しかしその過程を見る暇はない。
すでに第二陣の攻撃が背後に迫る。
振り返り様に左右の手に握られた二挺のUSPから目映い光が無数に放たれ、
ラプトル達を撃ち抜いていく…
それでも何体かのラプトルは迎撃を掻い潜り、
必殺の飛びかかり攻撃を仕掛けてきた。
(よし、かかった!!)
ジョーはビームソードを展開させ、カウンターの斬撃を放つ。
空中では翼や足場等がない限り軌道や着地のタイミングをずらす事は不可能。
この無防備になる瞬間をジョーは狙っていたのだ。
空中で対処の方法が無いラプトル。
結果としてそのままカウンターの斬撃に突っ込む事となり、
斬撃を受けたラプトルの身体は上下に分断されていた…
しかし、殿のラプトルは違った。
何と仲間の亡骸を空中での足場にして直撃を回避。
ジョーの斬撃により片腕根元から消失ながらも、
自らの目標にカギ爪を突き立てる為ジョーを飛び越える。
(しまった!!奴の狙いは!?)

 ラプトルの脳裏に目標に足のカギ爪を深く突き立てる己の姿が浮かんだ…
ザシュ!!
(?!)
がそれは実現しなかった…
何故ならば…
「…殺戮者に対抗出来るすべを持って居るのは貴方達だけではありません…」
その目標によって、カギ爪ごと己の身体を切り裂かれていたからだ。
「クノイチをなめてもらっては困りますよ。ジョー」
殿のラプトルが地に伏した時、
そこに立っていたのは光輝く脇差しを構えたしぐれだった…
「しぐれ…その短刀は!?」
ジョーにはその武器に見覚えがあった…
「はい、博士から譲り受けた物です。君なら使いこなせるだろうと…」

「やはりか…「刀」は切れ味は凄まじいが…その代わりに使いこなすのは難しい武器…
だが、クノイチにとっては使いなれた物だからな。
しかし…
それはあちらの世界の倉庫にしまってあったはずだが…」
「これはあちらで試作した物を参考にサイクロプス製の刀に手を加えた物との事です。
刃をナノレベルで振動させて目標をり裂く仕組みらしいのですが…」
「サイクロプス製の刃を備えた超振動カッターか…」
グオォォォー!!
T・レックスの咆哮が再び格納庫内にこだまする。
外ではレックスとカイト達との直接対決が遂に始まろうとしていた…
「T・レックスがお呼びの様だな」
「ですね…」
「…撤退する気は無いんだな?」
「そんな気が有ればここには居ませんよ」
「…奴はラプトルとは比べ物にならない程の強敵だぞ…」
「望む所です」
「やれやれ…相変わらず頑固なやつだ…」
「それはお互い様でしょう。ジョー…」
「たしかに…一言だけ言わしてくれ…死ぬな!!…行くぞ!!」
「了解!!」
ジョーの号令で制御室から飛びたし「ロック・T・レックス」の元へと駆け出す2人。
信頼する仲間達に加勢するために…



 ここで時間を少し戻してみるとしよう…
破壊した扉から格納庫内へと突入し、
粗方格納庫内の警備型機械兵を掃除し終えた時にそれは鳴った…

ピーピー!!
 イアンの腕時計式から異常を知らせる警報音が鳴り響く。
「これは…まずい!!」
珍しく焦りの表情を浮かべるイアン…
「どうした?状況報告!!」
その表情からただならぬ事態を察知したアルが答えを急かすように言葉を発する。
「時空間の異常を探知!!
 異空間を隔てる壁が急速に薄くなっていきます!!」
解析を進めているイアンの代わってメアが自身のセンサーで捉えた異常を答えた。

「つまりはどう言うことなんだ!?」
事態が飲み込めない紅が思わずイアンに説明を求めた。
「うっわ最悪…アル!!
 僕達の世界のある空間座標とこの地点の空間座標同士が急速に接近している!!
 このままだと確実に異空間接触が発生するよ!!」
その問いを無視して解析結果をイアンは隊長であるアルに伝えた。
「今回の異空間接触が起こすと考えられる現象は?」
「最悪の奴等が此方に来る事になるよ…」
「それってまさか…」
思い浮かんだ文字に思わずジョーが顔をひきつらせた。
「そのまさか、さ…『殺戮者』が此方の世界にも侵入してくる…」
「なんだって!?」
「殺戮者とはあの…」
 

 そう…アル達の世界で猛威を振るい、
かつて…この世界にも一度だけ出現した者達。
人魔大戦を一時休戦状態にまで人類と魔物達双方を追い込つめた『殺戮者』が再び
この世界に現れようとしているのだ…
彼らの起源は未だに謎とまま…
時として決して交わる事がない『平行世界』同士を隔てる空間壁をも突破してくる者…
そして到達した世界に破滅と混乱をもたらす者…
現在解っている情報はこの位しか無い存在…
それが『殺戮者』である。


 「それは確かなのだな?」
「うん…異空間同士を繋げるトンネルが出来た場合…
 僕達の世界から此方の世界に向かっての『エネルギー流』が形成される…
 僕達の時と同じ様にね」
「まさか…
 殺戮者の巣の1つとここが繋がるんじゃねえよな?」
「残念だけど大当りだよジョー」
イアンは非情な現実を皆に伝えた。
「当たっても全然嬉しくね〜よ…そんな物」
「何とか止める手段は無いのかよ?!」
思わずイアンに詰め寄る紅。
「2つの空間座標を引き寄せているエネルギーの供給源を破壊すれば…」
「今回のエネルギー供給源は?」
「タイプBのコアだよ!!」
「あいつらを壊せば止まるんだな?!」
紅格納庫の一番奥に整列している機械兵達を指差す。
そしてイアンが返事を返す前に脱兎の如くタイプBの元に走り出す。
「アル!!機械兵の起動は制御盤によって一括管理されている。
 直接破壊よりも制御盤を破壊した方が良いかもしれない!!」
「よし、隠密隊は制御室の制圧にかかれ!!
 他の者はタイプBをなるべく多く破壊しろ!!」
「「「了解!!」」」

 アルの号令でカイト達は一斉に行動を開始した。
隠密部隊の隊長であるジョーは先陣をきって走り出す。
最悪の事態回避の為、
殺戮者との戦いで手にいれた俊足を最大限発揮して制御室へ向かっていった…
クノイチ達もそれに続く中…
「しぐれさん、これ!!」
イアンがしぐれに向かって何かを投げた。
「これは?!」
しぐれは意図も簡単にキャッチ。
「例の物!!
 完成したから渡しておくよ!!
 ジョーは何でも1人でこなそうとするから!!」
「ありがとう!!」
イアンから渡された「脇差し」を腰に差し、
しぐれも後に続いた。
「空間座標異常接近!!空間壁崩壊開始します!!」
メアの叫びと同時に格納庫内が激しく振動を始めた。
格納庫中央付近の中空には一筋の太いヒビか入り、それが放射状に広がっていく…
格納庫の中空は硝子にヒビが入ったかのような様相となり、
あちこちに小さな空間トンネルが形成され始める。
カイト達はタイプBを破壊していくが空間壁の崩壊は止まらない…
中空に空いた空間トンネルは複数の物が合体しながら瞬く間にその口を拡げていく…
 そして…
遂には小型の恐竜型の何かがそのトンネルを通り、次々と格納庫の床へと降り立ってくる。
それはトンネルの口が大きく拡がるにつれて通り抜けてくる者達も増加していく。
そしてトンネルの開口部が天井一杯に広がった時…
ズン!!
大きな地響きを発して一際巨大な物体が通り抜けた次の瞬間、
目映い光を放ち空間トンネルは消失した…
「止まったのか…?」
誰かが呟いた…
「空間座標の相対距離正常に成りつつあります…」
メアが現状を伝える。
「異空間接触はな…しかし…」
ズン!!!
「こいつらを始末する任務が生まれたぞ…!!」
グォォォー!!!
…そう言ったアルの目線の先には数多くの「セラミックラプトル」を従え
全身を特殊合金の装甲で覆われた暴君…
「ロック・T・レックス」がカイト達に対して高々と咆哮を上げていた…



「こいつらが…」
「…殺戮者」
「全ての生物を食らいつくす者…」
カイト達3人がそれぞれ呟く…
「そうだ…人と魔…いや…全生物共通の敵!!」
「こいつらが通り過ぎた後には…
 無惨な残骸と人々の悲しみしか残らない…
 僕達の世界を今も破壊し続けている悪魔だ!!」
アルとイアンが殺戮者達を睨み付けたまま、言葉を発した。
グォー!!

 レックスの咆哮で臨戦体制をとるラプトル達…
「奴らやる気満々ですね…!!」
「面白い。やってやろうじゃね〜か!!」
四聖獣の2人を始めとした人魔勢も迎撃体制を固める。
「気を付けろ!!
 こいつらは機械兵や教会勢とは比較にならない強さだ!!」
既に何度も殺戮者との死闘を繰り広げてきたアルが警告を発する。
「手加減せずに済むと言うことだな!!」
「望むところです!!」
「どんな奴らであろうとも平和を乱す者は容赦しない!!」

 その警告に3人は頼もしい言葉で返す。
カイトは既に2振りの刀を抜刀…
四聖獣の2人は力を解放して普段の姿から戦闘体型に姿を変え、
凄まじい迄の魔力を全身から放っている…
その威圧感からラプトル達は1番危険な存在だと3人を判断したのであろう。
数を最大の武器として、統率の取れた動きで容赦なくカイト達に牙を向く。
「行くぞ!!」
「「はい(おう)!!主!!」」

 2体の四聖獣とそれらを従えし勇者はその挑戦を真っ向から受けた。
カイトの双剣が正面から攻撃を仕掛けてきた殺戮者を一刀両断にして切り捨てて行く…
側面からも容赦なく攻撃を仕掛けてくるが、
葵の氷の盾がその攻撃を無効化、
紅の紅蓮に輝く焔の鉤爪が鋼鉄で形成されし殺戮者の身体を引き裂く。
3人の勇者は見事な連携で殺戮者を圧倒していく…
「これが…3人の実力」
「さすがは守護者と言った所ですか…!?」
半場カイト達の戦いに見とれていたイアンに突如ラプトルが飛び掛かってきた!!
咄嗟にメアがイアンを庇う。
だが2人にその爪と牙が立てられる事はなかった…突如ラプトルの身体が2つに割れる。
「戦闘中だということを忘れるな!!」
アルはイアンを叱咤する。
その両手にはビームソードが握られていた…
アルが咄嗟にラプトルの身体を切り裂いたのだ。
「分かってるよ!!メア!!」
「了解!!」
メアの両腕が光輝き、ガトリング銃が姿を現した。
二丁のガトリングが火を吹き取り囲んでいたラプトルを一掃していく…
その猛火を巧みに掻い潜り、何体かのラプトルが近接する。
だが
「同じ手は食わないよ!!」
その者達も小型マシンガンを装備したイアンとアルの手によって葬られていった…

十分後…
「こいつで最後です!!」
ガガガガガ!!
最後のラプトルがメアのガトリングによって文字通り粉砕された。
「片付きましたか…」
グォォォー!!!
配下の者達を一掃されたレックスが怒りの咆哮を上げる。

「いや…まだボスが残っているぞ…」
アルがビームソードをもう1つ取り出しながら呟く…
「やはり機械兵では太刀打ち出来なかった様だね…!!」
レックスの周りに散らばる残骸を見ながらイアンが吐き捨てた。
ラプトルがカイト達の相手をしている間、
レックスには何とか起動したタイプBやイアンが味方にしたタイプCが立ち向かっていった。
しかし…
機械兵ごときでレックスを倒せるはずもなく、
機械兵達は只の残骸の山へと姿を変えるだけで終わってしまった…
「へっ…所詮金属の塊…あたいの爪で引き裂いてやる!!」
「早まるな!!」
アルの命令も聞かず、
紅が焔の翼を拡げてレックスへと向かっていく。
その時、レックスの口内が青く光った。
「避けろ紅!!」
異変を察知したカイトが叫んだ。
「!?」
その声に咄嗟に軌道を変える紅。
その直後
レックスがカッと口を大きく開く。
その口内には発射口らしき物が有った。
そこから直視できない程の目映い光の渦が発射され、
先程まで紅が居た空間を一筋の光線が通過する。
ドッカァァァーン!!!
その光線は凄まじい爆風と轟音を立て、
格納庫の壁に命中。
そのまま何枚もの隔壁を突き抜けて外に飛び出していった…
「荷電粒子砲だと!?」
「奴にはそんな物付いて無かったはず…まさか…メア!!
 スキャン開始!!」
「了解」
未だに驚愕の表情のまま固まっているジョーを尻目に
メアから送られてくるスキャンデータの解析を進めるイアン。

「この化け物がー!!」
ザン!!
激昂した紅の爪がレックスの腕を切り落とした。
ギャー!!
その痛みに悶え苦しむレックス。
「これで止めだ!!」
そう言って再び爪を降り下ろそうする紅。
ブン!!
ガキン!!
しかし、レックスの太く強靭な尾がその攻撃を防ぎ、
そのまま紅を吹き飛ばす。
「何?!」
必殺の斬撃を防がれて驚愕する紅。
何とか体勢を立て直すがその隙を見逃さずレックスの牙が紅に襲い掛かる。
回避しようにもいつの間にか、
格納庫の四隅の一角に追い詰められており逃げ場がない!!
誰もが最悪の事態を思い描いたその時…

ヴァン!!
突如一発の銃声が轟く。
ギャー!!
その弾丸はレックスの片目を正確に捉えていた。
突如与えられた目の激痛に流石のレックスも怯み攻撃を中断させた。
その隙に皆の所へ舞い戻る紅。
「あぶなかったな?紅さんよ。
 ひやひやさせんな」
「「「ジョー!!」」」
そう、あの弾丸を放ったのは射撃の名手「ジョー」その人であった。
「助かったぜ…ジョー」
素直に礼を述べる紅。
「ふぅ…これで良し…
後は解析結果を待つだけだ」
それとほほ同時にイアンも大きく息を吐く。
どうやらスキャニングが終了したようだ。
「結果が出るまでどのくらいだ?」
「この端末の能力じゃ後、5分はかかるよ。アル」

その時
グガォォォーン!!!!!
怒りに震える様な凄まじい咆哮を上げ、
ジョー達を片目で睨み付けるレックス。
そしてジョーに向かい、己の巨体を最大限に生かした突撃をしてきた。
何と切り落とされた筈の腕も再生しているではないか!!
「ちっ…やっぱり厄介な野郎だぜ奴はよ!!」
怒りの突進攻撃と追撃の尾による凪ぎ払いを回避しながらジョーは言った。

 「再生している!?」
「再生能力も備えているんですか?!」
驚異の再生能力に四聖獣の2人も動揺を隠せない。
「殺戮者には速度は違えど全ての種に再生能力はついている…そして…」
バン!!
今度は反対側の目を狙って弾丸を放つジョー。
しかし。
ガン!!
しかし届く前に見えない壁に当たり、
弾丸が弾け飛ぶ。
良く見ると目の周辺にシールドの様な物が
新たに備わっているではないか。
先程はこんな物は無かったはず…
「今の見ただろ?
 奴らは一度攻撃を受けたらその攻撃に対して耐性を付けるんだ…!!
 同じ手段は通用しなくなる!!殺戮者の1番厄介な所さ!!」
 先程の銃撃が相当頭にきたのだろう…
 レックスはジョーに対して執拗に攻撃を仕掛け続ける。
その攻撃を回避しながらもジョーはこの世界の者達に殺戮者について簡単な説明をした。
「つまり…傷を負えば負うほど強くなるって事か?!」
紅はその説明に思わず驚嘆の声を上げる。
「そうだ…
 だから発見したら確実に仕留めなければならない…
 我々が武器を強化するよりも奴等の再生や進化のスピードの方がはるかに速いからな…」
 ジョーに換わり今度はアルが皆に説明をする。
「奴等に弱点は無いのですか?!」
半端錯乱状態でしぐれが叫ぶ
「奴等の唯一の弱点は体内にある生体コアだ。
 それを破壊すれば良い。
 逆に言えばコアを破壊しない限り、
 奴らは必ず復活するということだ…」
そんなしぐれを落ち着けるように静かにアルは言った。
「じゃあ奴もコアさえ破壊出来れば…」
「奴の生体コアはあの巨体の中心部にある…
それもコアを守っている組織の強度に至ってはトップクラス…
生半端な攻撃ではコアに届きすらしないよ」
そんな絶望的な事実をイアンは突きつける。

「前に戦った個体は私達が注意を引いた隙に
『地上戦艦』による全主砲一斉射撃で何とか仕留められたが…
 この世界にははそんな艦は存在しない…」
アルの言葉がそれに拍車をかける…
沈黙が辺りを包む中…

 「『主砲』はあるよ。」
そう言ったのは天才科学者イアンその人だった。
「なんだって?!」
「本当か!?」
「まだ試作品レベルだけど…威力は充分。
 問題は一発しか現在は撃てないって事…」
「絶対外せないって事だな…」
「それでそれは何処に?!」
「これさ。G3狙撃銃用に作った新型の装甲貫通弾」
そう言って懐からその弾をイアンは取り出した。
「ただ…この弾の性能を出すためにはかなりのエネルギーが必要なんだ…
 G3でもチャージが完了するまで最低でも5分はかかるね…
 そして1発で確実に仕留める為には奴の足を一瞬でも止める必要がある…」
「この戦力でそれが可能なのは…」
思わず言葉に詰まるアル。
その名を口にすることは出来なかった。
元々殺戮者との戦いは自分たちの仕事。
その危険な仕事を関係のない人に押しつける言葉はすんなりと口には出せなかった。
自分より遙かに若く、無限の可能性がある若者に
そのような事を押しつける様なマネはしたくなかったのだ…
「その役目は私達が引き受けます!!」
そう叫んだのはカイトその人だった
「なんですって!?」
「1番危険な役目だぞ!!」
おもわずアルも叫ぶ。
「この役目は『攻撃を回避する身体能力』と
 『奴の足を止めるだけの攻撃力』の2つを持ち合わせている必要がある」
「その条件を満たしている者は私達しかいません…」
激しく動揺する者達をよそに3人は言葉を紡ぐ。

「それにこれは僕達の戦い…関係のない兄さん達をこれ以上巻き込む訳には…!!」
イアンが言い終わる前に紅が叫んだ。
「関係ないだって?
 馬鹿言ってんじゃねえ!!
 こいつらが仲間に危害を加え、
 人々の笑顔を奪う連中なら」
「殺戮者は我々の敵と言うことになります!!
 それに…貴方達は既に我々の仲間ではありませんか!!」
「そう言うことです…行くぞ!!」
「「了解!!主」」
そう言って3人は止めようとする者達を振り切ってレックスの前に飛び出していった。

 「ジョーさん!!」
「インカムで聞いていた!!
 確かにあんたらの言う方法しか無いようだ…
 済まないがG3の最終調整とエネルギーチャージで計10…いや7分だけくれ!!」
「分かりました!!」
素早く言葉を交わすとその場から素早く移動する2人。
先程まで2人が居た地点にレックスの尾が叩き付けられる。
ジョーを追撃しようとするレックスに対し、
「背中が隙だらけだぜ!!」
紅が鋭い焔の爪をレックスに向かって振るう。
(!?)
ガギン!!
しかしそれは再生した腕によって受け止められ、
そこに浅い爪痕を残しただけの結果に終わる。
「確かに硬くなってるな!!」
ブン!!
このままでは危険と判断したのだろう…
攻撃目標をジョーから紅に切り替え、
レックスはその強靭な尾を振るう。
「おっと!?あぶねえ!!」
紅は翼を使ってその攻撃を回避。
追撃を防ぐ為に一度距離を取った。
それを狙っていたのだろう。
レックスの口内が再び輝きだす。
「不味い!!荷電粒子砲だ!!」
「避けて!!」
その言葉が届いていないのか紅は何故か動こうとしない。
発射体勢に入るレックス。
口を大きく開いたその時

 「今だ!!」
「頼んだぜ葵!!」
(!?)
紅が横に移動するとそこには
「食らいなさい!!」
水で出来た弓矢を構えた葵が居た!!
発射口に粒子が集まっていく中、
そこを向かって高圧の水で形成されし矢が放たれる!!
その矢は荷電粒子砲が放たれる直前に目標に着弾。
高熱を帯びていた発射口は、
そこに触れた水の矢によって起された水蒸気爆発によって粉砕された。
しかしレックスの悲劇はこれで終わらない…
出口を失った荷電粒子は体内の発射機関内を縦横無尽に駆け巡り、
容赦なく体内を痛め付ける。
そして遂には体内の荷電粒子発射機構を自壊させると言う大ダメージをレックスに与えた。
口から炎を出して激痛に悶え苦しむレックス。
「粒子の集束率急速に低下!!
体内の荷電粒子機関が自壊した様です!!」
「唯一の飛び道具は潰せたか…チャージ率は?」
既に狙撃体勢に入っているジョーにアルは問いかけた。
「60%」
素早く答えるジョー。
「?!アル!!大変だ奴は只のレックスじゃない…
 強化型だよ!!」
解析結果を見たイアンが声を上げた

「だから荷電粒子砲までついていたのか…」
「荷電粒子砲搭載車でも食いやがったのか?」
「それだけじゃ無い…
 おかしいと思って奴の表面の装甲値を計算してみたんだけど…
 強度は通常の約2倍強!!
 荷電粒子砲の体内機構の自壊に耐えられた事から、
 内部組織まで同様に強化されていると見て間違いない!!
 G3のフルチャージでもコアに致命傷は与えられないよ…」

 強化型殺戮者
殺戮者のもう一つの特徴としてあげられるのは
内部に取り込んだ武器の能力を備える事が出来る個体が存在すると言うことだ。
その数はごく少数だが、
鉱物資源として武器の残骸を取り込んだ際、
その武器を体内で再構成し身体の一部とする個体が確認されている。

「どのくらい出力なら奴の体に風穴を開けられる?
 銃の耐久力は無視してくれ」
ジョーはスコープをのぞいたまま静かに聞いた。
「G3なら…そうだな…250%まで上げれば何とか」
脳裏で計算しながらイアンは答えた
「…オーバーチャージを使う…
 イアン、オーバーチャージユニットに予備バッテリーを直接繋いでくれ…
 時間がないからな…出力は300%まで上げる…」
「危険すぎる!!暴発の危険性があるよ!!」
「奴らは俺たちを信じて1番危険や役を引き受けたんだぞ!!
 俺たち軍人が体を張らなくてどうするんだ!!」
「でも…!!」
「俺の事は考えずに良いから早くやれ!!
 もう俺に『仲間』が目の前で殺される瞬間を見せないでくれ…!!」
「!!」
「…全責任は私が取るやってくれイアン」
心の叫びを聞いていた隊長が静かに告げる。
「…分かったよ。ただしどうなっても知らないからね…」
そういうとイアンは作業を始めた。
「なあに…また手足が吹き飛んでも博士に作ってもらえば良い話さ」
「頭だけと身体だけは無事で居ないと流石の僕でも無理だよ?ジョー」
「確かに」
今にも泣きそうなイアンの気を紛らわすかのようにジョーは明るく振る舞う。
「…出来たよ」
「ありがとう博士。
 では皆、物陰に隠れてくれ。
 そばで立っていると吹き飛ばされる」
「分かってる」
そういうとアルは皆を引き連れて扉の陰に隠れた。
「ジョー!!」
アルの制止を振り切ってしぐれが走り寄る。
「来るな!!…射撃の邪魔だ」
「!!」
初めてかけられた拒絶の言葉にしぐれは驚愕する
「メア!!この邪魔者を連れて行ってくれ」
「…了解しました」
追いかけてきたメアにジョーは冷たく告げる
「…どうして」
「…やっと帰る場所が出来たんだ…
 その場所が無くなったら…俺は何処に帰れば良いんだ?しぐれ」
「!!」
「さあ…行きましょう」
メアはそっとしぐれの肩に手を置く
「分かりました…」
そう言って2人は避難場所に駈けていった…
「オーバーチャージユニット起動…出力…120…150…180…200…」
静かに出力ゲージを読み上げていくジョー
「…230…240…250…255…260…」
(もってくれよ…相棒)
その言葉に応えるかのようにG3は耐え続けた…既に設計値の限界は超えている…
いつ爆発してもおかしく無い状態である…
「…270…275…280…285…290!!」
「3人とも奴の足を止めろ!!」
ジョーが3人に向かって叫ぶ!!
「はぁぁぁあ!!」
ザン!!
カイトの刀がレックスの片足の健を断ち切った
レックスはバランスが取れなくなって床に倒れる。
「葵!!」
「分かってます!!」
床から何とか立ち上がろうとするレックスに向かって氷の矢が何本も放たれる。
ピキピキピキ…
矢の当たった所から急速に凍り付いていくレックス。
「今です!!」
その言葉に素早く照準を合わせ、トリガーに指をかけるジョー
既に出力は350%を突破。
至る所から煙が吹き出し始めているG3
「そいつから離れろ!!」
その言葉に3人は一気に距離を取る。
ビキビキビキ!!
それとほぼ同時
レックスを覆っている氷に無数のヒビが入る
「この世界は…破壊させはしない…地獄に堕ちろぉー!!」
トリガーを引き絞る。
ドォオオオン!!!!!
戦車砲でも放たれたかのような轟音と煙、そして光が辺りに満ちる
氷の檻から脱出したレックスが最後に見た物…
それは自らに迫ってくる大気との摩擦熱で光り輝いている弾丸だった…
それはレックスの胸に大穴を開け身体を貫通。
後ろの壁ごとコアもろとも共粉砕した…
「やったのか…?」
煙が晴れた時…
そこには石像と化したロック・T・レックスと銃身が途中から溶けて無くなっているG3、
そして…

 「ふう…吹き飛んだのが左腕だけで助かったぜ…」
そして満身創痍の相棒を労るように撫でているジョーの姿があった…
ジョーに駆け寄る仲間達。そして…
 「お帰りなさい…ジョー」
 「…ただいま…しぐれ」
抱き合う恋人の二人…

「さて…ここは終わった…後は本隊を叩くだけだな」
「3人は先に行ってくれ。俺たちは此処の爆破作業が残っている」
「「「了解!!」」」
そう言って来た道を駆け足で戻っていく3人。
「さて…ジョーの応急処置が済み次第、作業にかかるぞ」
「隊長、俺は別に大丈夫…」
言い終わる前にその場に崩れ落ちるジョー
「何処が大丈夫なんだ?!」
「メア!!」
「スキャン完了。肋骨骨折2、衝撃波などによる打撲及び火傷多数。
 重傷ですが命に別状はありません」
「しぐれ君はジョーをつれて先に帰還してくれ」
「了解!!」
「ちょっと俺は別に…」
言い終わる前に簡易転送魔法によって強制帰還させられたジョーであった…
「さあ、作業にかかるぞ」
「了解」
G3をメアに回収させ格納庫から出て行く3人…
それを見届けたかのようにレックスの骸は静かに崩れ去っていった…

山賊退治主力戦へ続く
13/02/19 03:04更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
し…室内編やっと終わった><
最初はこんな長くするつもりなかったんですけど…
いつの間にか計2万字越えの前後編に…
最後の方はやっつけ仕事になってしまったので加筆および微調整する可能性大です…(オイ
そしていつの間にか5000突破?!読者の皆様こんな作品をこんなに読んでいただきまして誠にありがとうございました(号泣
誤字脱字や改善点などがありましたら感想欄までご一報ください
m(_ _)m

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