連載小説
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山賊退治 室内戦前編
「君がここに居ると言うことは…」
「勿論『マスター』も居いますよ」
「呼んだかい?」
そう言って扉の影からひょっこり顔を出したのは青年…
いや少年と言っても過言ではない背格好の者だった
「やはり既に脱出済みだったか…『博士』」
「あんな警備、脱け出すの分けないよ」
『博士』事、「イアン・アカツキ」が事もなげに答える。
「それはそうと、メア…少しやり過ぎ。他の奴らが来たらどうするの?」
「生命反応及びエネルギー反応で気付かれる範囲に敵兵が居ない事は確認しましたが」
「音の反響における修正数値が少し甘い。
 破壊したドアの耐久値が予想より低かったから良かったけど…
 高い場合…警備の機械兵に気付かれていた可能性が高いよ。
 まあ『味方にしていた機械兵』に処理させていたから良いけど」
腕時計型の端末から中空に表示されるスクリーンを操作しながら博士は返答する。
…常人には真似することが不可能な速度と精度でだが。
「申し訳ありません。マスター」
「いや…謝る必要はないよ…起動してからまだ日数がたってない上、
 修正データを入れ忘れた僕に原因があるからね。
 取り敢えず今は、送ったデータを使用。
 収集データの追加も忘れずに」
「了解しました」
ガシャ、ガシャ…
何か重たい物を持った様な足音が建物内から響いてくる。
咄嗟に身を隠す潜入班だが…
何故かイアンとメアはその場を動かず平然としている。
(何してる!?早く隠れろ!!)
思わずジョーが声をかけるが…
「来たようだね…」

 「目標位置到達。捕獲敵兵運搬完了シマシタ」
と言って出てきたのはなんと機械兵だった。
咄嗟に迎撃体勢をとる潜入班だが、
「心配ないさ。この機械兵は『味方』だよ」
確かに攻撃してくる様子はない。
そしてよく見ると、す巻きにされた兵士を1人づつ肩に担いでいる。
暴れている様子が無い所を見ると全員気絶しているのであろう。
「その場にて一時待機」
「了解」
出てきた3体に待機を命じ博士はアルに
「でどうする?このす巻き達は」
と問う。
「計5人…一度送った方が良いな…君達、悪いが捕獲兵を街のギルドに転送してくれ」
アルは少し考えた後、魔術が得意なクノイチ二人に転送を命じた。
「「了解」」
そして
「残りのメンバーはこの場にて一時待機」
と命じた。
「「「「「了解」」」」」

「指令。この二人と共に作業に当たれ。作業中はこの二人の指示に従え」
「了解。指示ヲ願イマス」
「え!?え〜と…」
突然、指示を求められたクノイチは動揺するが
「大丈夫です。普通に指示すれば大丈夫ですから」
と勝手が分からないクノイチ二人に博士はアドバイスを与えた。
「分かりました…肩に担いだまま私達と共に来てください」
「了解」
クノイチ二人と機械兵3体は茂みの奥に消えていった…

 指示と説明を終えたイアンがアルの方に向き直る。
「隊長も老けたね…ジョーもだけど」
「此方でも色々と気苦労が絶えなくてな…それに此方に跳ばされて7年も経っている」
皮肉を込めて返すアルに対し
「それでも俺はまだ27だ!!会う度に老けたとか言うんじゃねーよ!!」
とキレるジョーであった。
…どうやら本人も老け顔なのは気にしている様だ…
更にその老け顔に加え、
顔を斜めに縦断する古傷をや全身に大小の傷跡が幾つも残っている為
「十何年も戦場を駆け抜けた傭兵」とよく勘違いされるのが
本人の悩みの種であるとかないとか…
まあ、どうでもよい話ではあるが…

 「他のアイゼン隊は?」
ジョーの怒りを無視しての博士が問う
「ジョーから聞いて無いのか?」
「全然」
あっけらかんと返答する博士。
「そう言えば言って無かったな…
 こいつ、俺とコンタクトしていた時はいつも『メア』の改修に没頭してたし…
 メアが起動したのなんて昨日だぜ?」
肩をすくめてジョーが言った
「…此方から言った所で聞き流されるのが関の山だから言わなかったという事か…」
「そういう事。完全に『忙しい』モードだったしな」
「ハァ…何処に行っても博士の『悪い癖』は治らんか…
 行動を共にしていたメンバーは皆、この世界に居る。
 出現地点はバラバラだが、此方に来たのは全員7年前だ」
深いため息をついた後、アルは他の隊員の事を話す。
なお、他の隊員は現在、それぞれの特技を買われて
主にステーションを中心に各分野で活躍中だ。

 「ふむ…同時に時空跳躍したのにも関わらず、
 出現地点はバラバラ…僕に至っては到着時間点も違うか…
 僕らとこの世界を繋げたワームホールが不安定な物で出口を一定座標に止めて
 置けなかったと言うことは確かだな…」
腕組みをして何やら呟く博士。
ちなみに片手の指で一定のリズムを刻むのは「彼」が複雑な思考をしている時に
出る癖である。
「ところで博士。彼女は?」
アルが『メア』と呼ばれたゴーレムについて問う。
「歩きながら話すよ。
 転送作業も終わったみたいだし」
と言いながら勝手に砦内に入っていくイアン。
先頭には機械兵とメアを配置してはいるが余りに無防備だ。
「おいおい?!」
思わず紅が止めようとするが
「生体及びエネルギー反応はこの通路には無し。
 見張りも先程交代したばかりだから、後2時間は休憩室からは出てこないよ。
 休憩室の出入口付近にも味方にした機械兵も置いてあるし」
「相変わらず準備が良いことで…」
苦笑いしか出てこないジョー
「最悪単独で脱出するつもりだったからね」
「…私達が来た意味あるのでしょうか?」
思わず葵が呟いた…
「兵が集まっている休憩室の襲撃と機材破壊には必要不可欠な人材だね」
「…とりあえずはその休憩室を押さえる」
「「「「「了解」」」」」
アルの号令でメンバーは要塞内に潜入していった…

 博士の話によれば彼女はこの『遺跡』に眠っていた前魔王時代の「ゴーレム」であった。
しかし頭脳やエンジン系は『作成中』で封印されていたため、
『イアン』の技術で完成させたとの事だった。
…10才で博士号をった頭脳は伊達ではない様だ。
「異世界と旧世代の技術融合体か…」
その話を聞いていたジョーが己の左腕をちら見しながら呟く。
先程からの動きで現代に製作されたゴーレムとは比較にならない程、
人間に近い事が見てとれたからだ。
もしかする『メア』の性能はジョー達の世界で『義手足』研究の結果生まれた
『新素材を使用した人工筋肉』を導入した『最新鋭アンドロイド』より上かも知れない…
「因みに『彼女』の作成は僕の完全な『趣味』だったから、
 教会には全く知られていないよ」
この趣味が彼の困った癖の1つであるのだ
作りかけで放置された物を見ると完成させずには居られない。
それも一度作業を始めると余程のことが起きない限り、
「僕今忙しいから」と作業室から出てこない
(だからと言って辺りの状況が見えなくなるわけでは無いが…)。

「もっとも彼女の完全な複製品を造り出すのは僕でも不可能だけどね」
「『前魔王時代』の技術が入っているからですか?」
カイトが博士に問う
「…それもあるし…どうも彼女の設計思想には
 『私達の世界』の理論が取り入れられているんだ…」
「…我々の世界の物が前魔王時代にも流れ着いていたと言うことか?」
「物と言うより『人』の可能性が高いね。
 彼女の設計者は『両方の世界』の理論及び技術を十分理解した上で
 彼女を設計していた…
 ここまで高度にルーツの異なる理論・技術を融合して『彼女』を産み出したのが
 何よりの証拠。
 僕がやったのは彼女の内部データに遺されていた設計図を元に
 未完成部分を造っただけさ。
 改良出来る所はしたけどね」
さらりとすさまじい事を言うイアン。
「マスターの改良、再設計の結果…
 当初の設計に対し、反応速度及び各部への情報伝達速度が約10%向上しました」
「なんかよく分かんないけど凄いんだな…あんた」
おもわず紅が呟く。
「僕がすごいんじゃなくて、彼女の設計者が天才なんだよ」
「博士に天才と言わしめる人物…君の設計は何者なんだ?」
アルが半端あきれ顔でメアに問う。
「私の設計者に関するデータは内部データには残っていません。
 意図的に消去された痕跡がありますが、復元は不可能です」
「物の見事に消されていたよ…
 彼女を完成させるのに必要な物以外のデータはね…
 っとお喋りはここまでの様だ」
見張りを命じていた味方の機械兵の接近に気づいたイアンは告げた。

 「このT字路を左に行くと兵士の休憩室だな…」
「しっかし、内部の警備は全部機械兵任せかよ…」
機械兵の残骸を見ながら紅がつまらなそうに呟いた。
ここまで到達するまで、
既に何体かの敵機械兵に遭遇したが
味方にした機械兵とメアによって機能停止にさせられていた。
「まあ、そのお陰で楽にここまで来れたけどな」
「敵に機械兵が乗っ取られるとは夢にも思って無いからね」
「機械兵の残存数は分かるか?」
「もちろん。稼働中の物は敵はもう無し、味方5だね」
「…あたい達来なくても良かったんじゃないかい?」
つまらなそうに紅が呟いた。
「まだ、落胆するのは早いよ…重武装型兵士が20体程、未起動で残っているから」
「20体もかよ…」

 「お喋りはそこまでだ…行くぞ」
アルの指示を受けジョーが催涙弾をとりだす
「ちょっと待って…試したい奴があるんだけど?」
と言ってポケットから取り出したのはハンドガンに取り付けられた
小型ランチャーと弾だったが…問題はその弾だった。
「…なんかやな予感がするな…特にそのマークがよ」
取り出した弾は何故か赤く塗られており、
その表面にはドクロマークが付いていた。
「人は殺さずに捕らえるのが鉄則だぞ」
アルが釘を刺す。
『敵兵は極力殺さずに無力化する』それが魔王軍、
そしてシティにおける鋼鉄の掟だからだ。
その掟を故意に破る者には何人であろうとも厳しい制裁が待っている。
「大丈夫。調味料の『ザ・ソース』を参考にした催涙弾だから。
 擬似的に激痛を感じさせるだけだし」

『ザ・ソース』
 カプサイシンのみを原料とし710万スコヴィル(710万倍に砂糖水で希釈してはじめて
辛さを感じなくなるというもの)の辛さを誇る。
『現在生産されている』物の中では最強クラスの激辛添加物だ…
 なお注意書きには
直接飲み込んだり皮膚に付けたりしないこと、
使用により『身体及び臓器に大きな危害が加わることを覚悟』すること、
これを紹介するときにはこのソースの『危険性』をよく知らせること、
使用により被った被害を理由とした裁判を起こさないこと等が書かれている…
もはや食品添加物の領域を超えている…

「おいおい…それの元になった奴って対殺戮者用のガス弾じゃないのか?」
「当たり〜」
「当たり〜じゃねよ!!敵さんがショック死したらどうすんだ…」
「気絶は確実にするけどショック死はしない程度に調整済みさ」
「…要は実用実験したいだけだろ…」
「まあ、そう言うこと…こいつらのやり方には流石の僕も我慢の限界がきていたしね」
「…まあ、それは分かるが…敵兵に同情心を抱くとは思っても見なかった…」
「大丈夫。やり方に反発していた兵士達はみんな戦いに繰り出されているから。
 残っているのは根性の腐った奴等だけさ…」
「ヤバい…博士がキレてる…」
「じゃあ、お仕置きしてくるね〜」
と等と言ってメアを連れ休憩室のドアの前まで足を進めるイアン。
「仕方ない…総員突入準備!!」
そう言うとアルは潜入班に突入体勢を採らせる。
全員が準備を完了するとアルは博士に合図を送る。
「…己がやってきた罪の重さを味あうが良い…」
何やら恐ろしげな言葉を呟き博士は躊躇なく引き金を引いた。
ドン!!
急遽取り付けられたのであろう木製ドアに大穴を開け、
博士特製の催涙弾が室内に突入。
床に着弾した瞬間に独特の音を発して炸裂した。
「メア!!出入口にバリア展開」
「了解」
発射と同時にメアに出入口封鎖を命じる博士。
ドアにかざしたメアの右手が光を放ち、唯一の出入口にバリアを展開。
室内は心身を休める場所から地獄のガス室へと変貌を遂げた。
毒々しい赤いガスが内部に充満していく…

「なんだ!?」
トランプに興じていた兵士が異音に反応してそれらを投げ捨てる。
「ギャー!?ゴホ…目が…ゴホゴホ…目がぁ!!」
哀れにも着弾の間近にいた兵士が目の痛みと喉の痛みからのたうち廻る。
「ガスだ!!」
「ゲホッ脱出だ!!」
ドアに駆け寄る兵士達だか、既に出口はメアによって封鎖されている。
ガスの洗礼を受けた兵士達の阿鼻叫喚が響き渡り地獄絵図と化していった…

 「やんだね?」
「あ〜やだ…断末魔の声なんて聞きたくもね〜」
「生体反応確認一様生きています。ご安心ください」
一番間近で聞いていたメアが無表情で報告する。
「さて…マスクは持ってきているよね?
 …スプリンクラーが有れば必要無いのだけど」
「なんだ?その『すぷりんくらー』って」
この世界では聞き慣れない言葉に首をかしげる紅。
「霧状に水を撒く機械だよ。」
「と言うことはあのガスは水溶性なんですね?」
といって葵に視線を送るカイト。
「勿論、いつまでも漂ってたら味方まで巻き込んじゃうからね」
やはり多くの催涙ガスと同じようにこのガスも水溶性であるらしい…
もうお気づきの方もいらっしゃるであろう。
メンバーの中に水を自由自在に操れる者がいた。
「では『雨』をふらせればあのガスは無効化出来るのですね?」
そう、四聖獣の一角を成す『水の化身』青龍…葵である
「そうだけど…室内で可能なの?」
流石の博士も驚きを隠せない。
「水道管が室内にあるようですから、可能です」
自信を持って答える葵。
「葵は水を司る四聖獣だもんな。そんなこと楽勝だろ?」
「無論です。『青龍』の力を侮らないで下さい」
「青龍だって?!」
イアンが驚愕の声を上げた。
無理もない只の伝説だと考えていた者が目の前に実在したのだから…
「データ照合…青龍、ジパングの守護龍『黄龍』が作りだした四聖獣の1体です」
「それは分かっているよ、メア。しかし…こちらの世界では実在したのか…
 だったら僕らの世界の神話は…」
といって再び思考の世界にダイブしていくイアン。
(また、博士の悪い癖が出たな…まあ仕方がないか…
 私たちの世界では只の神話だったものな…)
「では頼むよ、葵。このまま室内を地獄にしては流石に死者が出そうだ」
アルは心の中で苦笑をしつつ葵に指示を出す。
「了解しました」
そういうと葵の体が一瞬光を発した次の瞬間
サァー
室内から雨音が静かに響いて来た…
「流石、四聖獣だな…」
ジョーがつぶやく。
四聖獣の力を間近で見るのは初めてだからだ。
隠密部隊の大半が同じ様な事を言っている。
無理もない…街の存続をかけた戦い…
のちに「レスト大戦」とよばれる葵と紅達が力を存分に発揮した戦いには、
隠密部隊はレスト王国の内部工作に導入され、第一線には投入されていなかったからだ。

 「室内のガス濃度低下。ガスは分解されました」
メアが内部の状況を報告する。
「もう大丈夫だね…水を止めて」
思考の海から上がったイアンが突入のOKを出した
「了解しました」
パチンと葵が指を鳴らすと同時に雨音が止み、室内から漏れ出した雨水が瞬く間に乾いていく…
「室内の乾燥完了。これで滑ることはありません」
葵が自信を持って告げた。
「よし…全員、突入!!」
メアがドアを蹴破り、機械兵が先陣を切って室内に突入していく。
それにカイト達も続く
「全員その場から動くな!!」
「総員武器を捨てて手を上げろ!!」
アルとジョーが声を張り上げる。
「この野郎!!」
まだ意識のあった敵兵の一人が、無謀にも声を頼りにが剣を手に突撃してくる。
「動くなって言ってんだろ!!」
ドゴッ!!
「が?!」
しかし、紅の回し蹴りを見事に喰らい、壁に叩き付けられる。
「こいつみたいに為りたければかかってきな!!」
紅の威圧と味方の惨敗に意識のあった残りの数少ない兵士達は、
おとなしく武器を捨てて投降した。



「おい博士…あの弾は原則使用禁止。これは命令だ」
敵兵の束縛とギルドへの転送の完了を見届けたアルは
主に人道上の観点から原則使用禁止をイアンに通達した。
「なんでさ?!」
イアンは反論したが…
「当たり前だろ!!この惨状を見れば!!」
思わずジョーがツッコミを入れる。
内部はまさに地獄絵図だった…
調度品が散乱し、失神した兵士達がそこかしこに転がっていた。
血液が飛び散っていないだけ、まだ良かったが…
「この惨状を教会が見たらどうすると思う。
 こちら側を非難して駆逐するためのプロパガンダに使われるのが関の山だ」
「…それは言えてるな…」
ジョー達も同意する
「私たちの戦いは復讐戦ではない…平和の礎を作る戦いだ…
 必要以上に相手を苦しめては教会や殺戮者と同じではないか?博士…」
イアンを諭す様にアルは言った。
「…」
「怒りと憎しみで力を振りかざしては、新たな怒りと憎しみを生み出す…
 誰かがその連鎖を断ち切らなければいけないのだよ…イアン」
「分かってはいるさ…そんなこと…でも」
「確かに罪を犯した連中は裁かれなければ為らない…
 でもな、そういった汚れ仕事は俺やアルの仕事だ…
 おまえの新たな仕事はみんなの笑顔を作り、守る物を作りだす事だぞ。
 イアン!!」
うつむいているイアンの肩にジョーが優しくて手を置いた。
「…もう、人殺しの道具は作らなくて良いんだよね?アル…」
うつむいたままイアンは呟いた。
「もちろんだ。俺たちと一緒にいる限り、そんな道具は作らせはしない…!!」
アルが力強く宣言する。
「力は只の力でしかありません…その力を振るう者によって善にも悪にも為りえます」
「つまりは…同じ道具でも使い方によって人を喜ばせたり、
 逆に悲しませたりすることが出来るって事だろ?葵!!」
「ええそうです…!!」
「さあ、教会が人を傷つける為に君を使って生み出した『悪しき力』を消しに行こうか」
葵、紅、カイトの3人がそれぞれ言葉を継ぎ出す。
「…それが、此処ですべき最後の仕事って事だね…カイト兄さん!!」

「「「カ、カイト兄さん?!」」」
3人がすっとんきょな声を上げる
「すっかり懐かれたなカイトさんよ」
ジョーが肩を叩きながらカイトをからかった。だがその顔には笑みが浮かんでいた。
「あ、あのジョーさん…これは?」
イアンの豹変にカイトは未だについて行けてないようだ…
無理もない他人行儀だったイアンから突然「兄さん」呼ばわりされては
誰だって驚くだろう…
「…話しても良いか?イアン…」
「隠す必要も無いからね…」
「博士はな…第一次の殺戮者襲撃で家族をを亡くしているんだ…」
「孤児院で暮らしていたところをその才能に軍が目を付けてな…
 紆余曲折あって我が隊に配属されたのさ…」
「良く懐いていた隊員が居たんだが…殺戮者との戦いで…な」
アルとジョーがうつむく…隊の中でも好かれていたのであろう…
「それから誰にも懐きはしなかったんだが…伊達に四聖獣を三体も従えて事か」
ジョーが再びカイトをからかった。
その隊員の記憶を振り払うかのように…
「私も元々孤児だったので…」
「そうか…すまん」
「いえ…幸い、私には引き取ってくれた両親が居ましたから…
 血は繋がって居なくても家族には間違いありません。
 ところで博士。残っている未起動の兵の場所は?」

暗い雰囲気を払拭するかのようにカイトがきりだした。
「イアンで良いよカイト兄さん…その代わり…僕も兄さんと呼んで良いかい?後、葵さんと紅さんも姉さんって呼びたいんだけど…」
「それは別に構わないけれど…二人は?」
「私は別に構いませんよ」
「あたいだって構わないぜ」
「良かったな博士」
「うん!!それと重武装型…タイプBって呼称されている機体は…」
と言って壁に近づいたイアンは…色が微妙に他と異なっている煉瓦を二つ同時に押し込んだ。
ガコン!!
それがボタンだったのであろう…
重く鈍い音を立てて奥の床が左右に収納されていき…
その音が収まった時、そこには地下へと続く階段への入り口が口を開けていた。
「この隠し通路を使うのが一番早くて安全なルートだよ。
 まだ誰にも気づかれていないしね」
隠し通路を抜けた先には巨大な通路と扉があった…
天井までの高さは3mは軽く超えるだろう。
「この先が機械兵格納庫です」
「敵性反応ナシ…」
味方機械兵が周囲に異常が無いことを告げる
「生命反応は?」
「格納庫内に3つです」
「場所は?」
「格納庫奥『機械兵起動制御室』に集中しています」
「ちっ…タイプBを発動させられると…厄介な事になるな」
ジョーが舌打ちをしながら呟いた。
「その点はあまり心配ないよ。
 火器出力用コアと搭載火器とのリンクが完了してないから。
 タイプB最大の特徴「強化火器」は使用不能。
 使えるのは腕に装備されたガトリング位かな…
 複数コア搭載機はまだコア同士の同調が難しくて起動に時間がかかるしね…
 制御室に集まっているのは起動プログラムでも調整してるんじゃない?」
ジョーの心配をイアンが払拭する。
「起動に時間がかかるのに肝心の火力は使用不能か…」
「火力と防御力重視の設計だから動きが遅い。近接戦闘に持ち込めれば問題ないよ」
タイプBの特徴をイアンが簡単に述べる。
「万が一強化火器を使用可能にされるとやっかいだ。
 突入して一気に方を付ける。総員戦闘準備は良いな?」
アルがメンバーに檄を飛ばす。
「いつでもokだぜ」
ジョーが皆を代表して告げる。
既に扉には高性能爆薬がイアンの手によってセットされていた。
「よし…点火準備」
アルの号令で爆薬の最終安全装置がイアンによって解除される。
「…点火!!」
号令と同時に爆破のスイッチが押され電流が配線を伝い爆薬に向かっていく…そして
ドゴーン!!!!!
電流が爆薬に伝わるのと同時にセットされた高性能爆薬が炸裂。
重厚な金属製の扉に大穴を開けた。
「突入!!」
アルの号令で機械兵を先頭に潜入班が格納庫内部に突入していく…
同じ頃…
「な、何だ!何が起こった!?」
爆発音を聞いて仮眠を取っていた技師長が制御室へ飛び込んで来た。
「敵襲です!!」
魔動カメラで格納庫内を監視をしていた兵士が応じる。
「どうして此処まで進入できたんだ?!警報を鳴らせ!!」
「だめです!!警報装置機能しません!!」
「ええい!!上の連中は何をやっているんだ!!」
「何処も応答しません!!外部との通信も途絶!!」
「仕方がない…タイプBを起動させろ!!」
「し、しかしタイプBはまだ…」
「良いから起動させろ!!タイプC(警備用)だけでは持たん!!」
「り、了解!!」
技師がタイプBの起動シークエンスをスタートさせる。しかし
「おかしい…コアのエネルギーが何かに吸い取られてます!!起動可能な物は半数にもなりません!!」
「敵がエネルギーを吸い取っているとでもいうのか?!」
「ち、違います…何かとコアが共鳴を起こしているようです!!」
「な…なんだあれは」
「今度は何だ?!」
「格納庫内に…」
監視役の兵士はこれ以上言葉が出なかった…
いや、この現象を表現する言葉が無かったというのが正しいのかもしれない…
格納庫内の中空に空間の裂け目が無数に出来ていた…
それらが一つの円として繋がった時、円の内部から光と共に何かが飛び出して来た…
そして一際巨大な物が亜空間から出て来ようとしたその時
制御室の防御扉が破壊され、何者かが室内に飛び込んで来た。
そしてその者は制御板に向かってハンドガンを発砲。
制御装置は破壊され、空間の亀裂は目映い光と共に消滅した…
「…防げたか?」
しかし、ジョーの言葉は間違っていた…
光が消えたときそこには…銀色に光る巨体が存在していたからだ…
「くっ…やっかいな物が出てきやがった」
グォォー!!!
格納庫の空気を振るわせる咆吼を放つ銀色の肉食恐竜…
「…T・レックス!!」
銀色の金属生命体…殺戮者『ロック・T・レックス』が無数の小型ラプトル型殺戮者を従えて
この世界に現れた瞬間であった…

後半へ続く…
13/02/03 01:03更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
皆さんお久しぶりです…最後のアップの後パソはご臨終になるし、新しいパソが来た年末年始〜今まではテストとレポートに追われてしまい、その間全く執筆活動ができませんでした(土下座
とりあえず出来た分をアップします(汗
文字数多いくせに全然進んでいません…orz
誤字脱字等があれば感想欄にてご一報ください。
m(_ _)m
次回は後編と山賊退治のラストを一気にアップする予定です

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