「お帰りなさいませ♪　ご飯にします？　お風呂にします？　それとも……わ・た・く・し？」

　学校から家に帰ってきたら、割烹着を着こんだママが居た。
　何を言っているのかわからないが、間違いなく、ママだった。

「ふふ、驚かせてしまってごめんなさい。わたくしは、リビングドールのアリッサと申します」
「……は、はい」

　僕――高山雅和の目の前に居るのは、リビングドールという魔物娘だった。
　さらりとした長い金髪は空気に溶けるよう、ガラスのような蒼い瞳で飾られたかんばせは病的なほどに整っており、割烹着からのぞく白磁のような肌は触ればやわらかなのが見た目だけでわかるほど。
　ママは……とても可愛い女の子だ。
　僕にとっての第一印象は、それだった。

「……貴方の『会いたい』という願いに応じて、こうしてやって来ました」
「うん、わかってる……ありがとう。ママ」

　優雅に頭を下げる彼女の動きに合わせて、僕もつられるように頭を下げる。
　彼女がやってきたのは、僕が願ったからだ。
　そう、ずっと僕は願っていたんだ。
　彼女に、出会うことを。

「ふふ、ママと呼んでくれて――ありがと♪」

　ありがと、と笑う彼女に思わず僕の背筋がぞくりとする。
　そう、これこそが僕の求めていたものだ。
　実感がやってくるに従い、じわりと心を満たす物を感じてしまう。

「まずは、ご飯にしましょうか。お掃除に時間がかかってしまいましたら簡単なものになってしまいましたが……」
「う、うん……ママ。ありがとう」

　言われるがままに、アパートのドアを開けてちゃぶ台の前に座る。
　座った畳はぴかぴかに掃除されていて、触れば青畳の香りがした。

「はい、どうぞ――貴方の大好きな。親子丼ですよ」
「……ありがとう、ママ」

　ほかほかと湯気をたてる親子丼を食べながら、

（――この味は……ありがとう。ママ）

僕は静かに涙を流したのだった。




※ ※　※



　昔から、僕には母親と呼べる物――いや、両親と呼べる人間はいなかった。
　そのせいで、学校の三者面談や授業参観の時はいつも浮いていた。
　「お前の両親はお前を捨てたんだ」「やーい、すてられっこ」
　そんな風ないじめを受けたこともある。
　育ててくれた母方の祖父は、彼らはある日突然どこかに行ってしまったのだと説明していた。

「……そんなことするような人間じゃなかった」

　両親が居ないことに不平を漏らす僕に、必ず祖父はそう口にしていた。
　寡黙だけど真面目な男と、可愛らしいけれど芯の通った女だったと。
　そして、ぐずる僕に必ず作ってくれたのが、親子丼だった。

「こうやってな、二回に分けて卵液を入れるんだ」

　雑にかき混ぜられた卵がとろりと鍋の中に入っていく様を見せながら、祖父は静かに笑っていた。
　こうすると、卵がふわとろに柔らかくなる。
　自分の娘が教えてくれたレシピなんだと。

「……ほら、出来たぞ。暖かい内に食うと良い」
「ありがと……」

　そうやって作られた親子丼を食べながら、僕はいつもここには居ない母親に思いをはせる。
　みりんの風味とタマネギの甘さ、そしてふんわりとした卵が絡まった親子丼間違いなく絶品で。
　きっと、料理が上手な人だったんだろうな。
　そんな事を考える僕に。

「旨いか？」
「……うん、すっごく美味しい」

　祖父は、シワだらけの顔を優しくゆがめていた。


――それが、僕が覚えている祖父の最後の表情だった。


　祖父が死んで5年。
　両親の遺産と、祖父が積み立ててくれたお金のおかげで高校に通うことが出来た。
　成績は中の上。素行も悪くない。
　それなりに不満の少ないレールに沿った人生。

　けれど、あの親子丼を食べることは一度も叶わなかった。
　祖父の知り合いが大家をやっている築２０年のアパートで、何度も何度も練習したのだけれど、それでもあの味に届かない。
　そんな僕にやってきたのが、あるメールだった。


※ ※　※


「貴方は、さみしさを感じていませんか？」

　それは、差出人のわからないメールだった。
　ドメインを確認すると「mamono.co.sq」という全く聞き覚えのないもの。
　スパムの一種だ。
　そう確信した僕はメールを削除しようとして……。

「感じています」

　何故か、そう文面を打ち返していた。
　自分でも何故そんなことをしたのか、いまだに理解出来ない。
　けれど、何かに突き動かされるように僕はそのメールに返信をしてしまっていた。

「そうですか。大変だったのですね。……何があったのか、話してはもらえませんか？」

　時を待たずに、メールは送り返されてきた。
　シンプルな文面。
　だけれど、話を聞こうという強い意志が伝わってきて。
　僕は再びメールを返した。

　送る、返す。
　送る、返す。
　送る、返す。

　いつの間にか、僕とそのメールの相手はペンパルになっていた。
　文章だからか、普段言えないような事も一杯話した。
　だんだんとメールの相手も自分のことを話すようになって、それが楽しかった。
　いつの間にか、メールがやってこない日を不安に思ってしまうほどに。

「……わたくしは、異世界の魔物なのです。リビングドールという、人のために生み出された人形が変化した物」

　その文を見たときは、思わず吹き出してしまった。
　けれど、何度もやりとりする内に彼女から伝わってくる『何か』が、僕にその言葉を否定させなかった。

「……もし、よろしければ。わたくしが貴方のママになってあげましょうか？」

　そして、やりとりが始まって数ヶ月が経った頃。
　送られてきたメールにはそう、書かれていた。

「――ありがとう。その時は、美味しい親子丼を作ってくれると嬉しい」

　何の気なしに、僕はそうメールを返す。。

「――ああ、雅和。今わたくしが貴方のママになってあげますね」

　僕からすれば、遠い遠い異世界で、一人の魔物――リビングドールのアリッサは慈愛に満ちた笑みを浮べていた。

※ ※　※



「――ママは、どうしてこの味を？」
「ふふ、当然です。わたくしは貴方のママなのですから」

　親子丼を食べ終え、茶で一服する僕に彼女はほほえみながら指をピンと立てた。

「昆布で出汁を取ること、みりんの風味を効かせること。そして卵を二度入れでふっくらさせること。全部貴方が教えてくれたことでしょう？」
「そ、そうだけど……僕が作ってもそういう風にならなくて」
「その答えは簡単ですのよ♪」
「え？」
「愛情です♪」

　ウィンクを一つして、ママはゆっくりと僕に寄りかかる。
　人形だというのに暖かな体温に思わずどきりとしてしまう。

「ほら、暖かいでしょう？　これが、こうして貴方を想っている証拠――さあ、貴方。デザートは要りますか？」
「う、うん……」
「じゃあ、たっぷりと召し上がれ♪」

　思わず頷いてしまう僕の前で、ママはするすると服を脱ぎ始めた。
　割烹着を脱ぎ、フリルのついたブラが外れると、なだらかな乳房と、その頂点のピンク色の乳首が目に入る。
　無駄な脂肪一つついていない、幼い少女の肉体。
　それは一葉の絵のようなどこまでも現実離れした美しさだった。
球体の関節が、その非現実さを引き立てる。
甘い、ミルクのような少女の香りが鼻をくすぐる。

「はぁい、こうやってわたくしの膝に横になって――♪」

　ふらふらと、言われるがままに横になる。
　頭の裏に、柔らかなママの太ももを感じる。
　見上げると、ママの慈愛に満ちた表情が見えて、それだけで心が暖かさに包まれてしまう。

「デザートに、ママのミルクを飲みましょうね♪」

　彼女がかがむと、目の前にピンク色の乳首がやってきた。
　思わず舌をのばして、ついばむように味わってしまう。

「んっ……上手いわ……」

　ちゅ、ちゅ……。
　軽くついばんだり、唇で甘噛みしたり、吸い付いたり。
　そのたびに、甘い少女の香りが口の中に広がっていく。

「上手におっぱい吸えて、偉いね……んっ……」

　ママは、僕が吸うたびに敏感に反応した。
　ぴくん、ぴくんと反応するのが嬉しくて、ついつい色々なパターンをためしてしまう。
　すごく、えっちだ。
　ちっちゃい子で、ママなのに。
　本当にえっちで……。

「ふふ、貴方のおちんちん……おっきくなっちゃったね……♪　いやらしい子だね……。えらいね♪」

　僕の、それ……あさましいおちんちんがおっきくなってしまった。
　いつの間にかズボンとパンツが外されていて、彼女のやわらかくて小さな手が、優しく添えられている。

「ほぉら、一杯しましょうね……♪　わたくしのおっぱいを吸いながら、気持ちいい白いミルクを出しましょうね♪」

　暖かな手が触れただけで、思わず背中がぴんと張ってしまうほどの快楽がおそってくる。
　思わず吸い込んだ息が、ミルクの香りで満ちて。
　さらに頭の中が真っ白になっていく。

「しこ♪しこ♪しこ♪しこ♪」

　何度も、何度もおちんちんをしごかれる。
　白くて柔らかい指がからみついて、気持ちいい。熟練の娼婦のようなテクニックで手首のスナップを効かせて上下されるたびに、気持ちよさでうめき声が漏れる。
　気持ちいい、気持ちいい。

「ほーら、いっちゃえ♪」
「ママぁ…っ！？」

　どぷっという音とともに、おちんちんから大量の白濁液がはき出される。
　今まで、一度も出したことがないくらいたっぷりとでたそれは、ママの手を白くべたべたとぬらしていた。

「……ふふ、美味し♪」

　僕を一旦起き上がらせて、手についた白濁液を、まるでクリームをなめるように優雅に口に含むママ。
　その表情は、えっちで、とても可愛らしかった。

「今度は、こっちで食べさせてね……♪」

　そう言いながら、僕の手を彼女はそこに導いてきた。
　いちども触れていないのに、とろとろにとろけて、濡れきった彼女の果実。

「ママ、すごくえっちだ……」
「うん、ママはとってもえっちで……いけないママなの♪　だから一杯ちょうだい♪」

　そう笑うママの言葉を、断れるはずもなく。
　むくむくと大きくなった僕の欲望を、僕は彼女の狭く暖かいそこに突き入れていた。
　途中、ぶつりと何かを突き破るような感触がおちんちんに襲いかかってくる。
　まさか、これは……

「ママ……」
「うん、ママは処女なの……でもね、全然いたくないの」
「え……？」
「だって、貴方がとっても良い子だから♪」

　蕩けた笑みを浮べながら、ママは僕の背中に手を回してきた。
　身体同士が密着して、体温と同時に鼓動まで聞こえてくる。
　とくん、とくん。
　とっても興奮して、えっちで、安心できる。ママの心臓の音。

「さあ、一杯ママに食べさせてね♪」
「うんっ！」

　あとは、ひたすら本能にまかせるままだった。
　ママの子宮にキスをするように亀頭をねじ込み、ママのおなかがめくれるんじゃないかと思うくらいおもいっきり引く。
　そのたびに「もっと。もっと」とせがまれて、頑張って腰の動きを速くしていく。
　頭の中がちかちかするくらい気持ちいいおちんちんの快楽。
　真っ赤に染まったママの肌からは、さっきよりも濃くて甘いミルクの香りがして、それが精液の匂いと混じり合ってとてもエッチで興奮する匂いになる。

「っ、そろそろ、いきそう……」
「ママっ、ママっ……一緒に……！」

　そして、快楽が爆発するんじゃないかと思うくらいため込まれた時。
　きゅ、きゅ、と強く収縮するママのおまんこの中で、おちんちんがはじけた。
　どくんどくんと白濁が小さな膣道を通って子宮の中に流れ込んでいく。

「……はっ……あっ……気持ちいいっ……」
「うんっ……とっても、とってもえらいね……♪」

　あまりの気持ちよさに、もうろうとする意識の中。
　ママが優しく頭をなでてくれる感触だけが、やけに鮮明だった。



※ ※　※


「……おはようございます♪」
「うん、おはよう。ママ」

　それから、アリッサ……彼女は僕のママになってくれた。
　毎日ご飯を作って、お掃除をして、そして……えっちをする。
　お風呂の中だったり、お布団の中だったり、場所は色々だけど、そのたびにとっても気持ちよかった事だけはよく覚えている。

「……ねえ、ママ」
「どうしたの？」
「どうして、僕のところに来てくれたの？」

　ある日、僕はママに問いかけた。
　今が幸せすぎて、どこか夢のようだったから。

「……それはね、貴方が寂しそうにしていたから――そして」
「？」
「貴方のお母さんに、教えてもらったからよ」

　そういたずらっぽく笑うママの姿に。
　僕は、初めて。
　
　お母さんの愛を、感じたのだった。