連載小説
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第三話「月下美人」
 この喫茶店は夜も結構遅くまで営業していたりする。
 特に何か考えがあってでのことではないけれど、ジアコーザという港町自体が遅くまで活気づいているということもあるし、夜型の魔物娘さんもいるというのも理由なのかもしれない。

 ともかく今は夜もいい時間。カウンターテーブルには一人の美人が佇むように座っていた。

「はい、いつものです」

「ああ、ありがとう」

 僕はそっと、注文されたコーヒーを差し出す。

「お好きですね、ブレンド」

「ふふ、ここの店のブレンドは実に私好みなんだ。これを口にするのが私の楽しみでね、ついこの前も来たというのになんだか二年近くも飲んでないような気がするよ」

「そんなに恋しかったとは照れること言ってくれますね。二年ですか。でも褒めても何もでませよ?」

「正確に言うと一年と三五〇日くらいの感覚かな? まぁ、別におだてたわけではないのだけれどね。ただほんとに私はこの店が好きだというだけの話だよ」

 そう言って肩肘ついた手に頬を乗せウインクを一つ放ってくる彼女。こういう仕草はともすればキザったらしい滑稽なものになったりもするのだけれど、この人がすると本当に絵になる。それはもう至って自然で思わず赤面してしまうほどにかっこよい。

「……ご、ごほん。ご贔屓いただきありがとうございます。それではご注文の料理に取りかかりますんでしばらくお待ちください」

「ああ、よろしく頼むよマスター」

 思わず照れてしまったことをごまかしつつ、料理に戻る僕。フライパンを熱しながら材料の準備を始めるその傍ら、ちらりと横目で彼女を見れば実に満足そうにゆったりと優雅にコーヒーを飲んでいた。なんだろう、ここまでコーヒーを飲むだけのしぐさが絵になる人はそうそういないのではないだろうか?

 彼女の名前はソフィアさん。この町の自警団に所属する騎士のお姉さんで、彼女の詰め所が近いこともあって時々こうして僕の店で食事やお茶をしていく。今日も夜勤の前に食事を取りに来たという訳だ。
 そして何をおいても彼女は美人である。すっきりとした目鼻立ちに凛々しい面差し。流れるような銀色の長髪はしっとりと落ち着いた輝きを放ち、すらりとした高い身なりは日ごろの鍛錬のおかげかよく引き締まりってはいるものの、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込むというメリハリのきいた体つきをしている。今日はこれから出勤だからか軽装の鎧を着こんではいるものの、それでも彼女の、というよりも体にしっかりとフィットしているそれが逆に彼女のスタイルの良さを引き出し、首元の黒いチョークや淡い青のイヤリングも彼女の女性らしさを引き立てていた。ちなみに大の大人でも使いこなすのが難しそうな愛用の両手持ちの長剣は、玄関横の預け箱に入れてもらっている。

 いや〜、しかしあの胸部装甲の厚さはやはりなんとも……いやいや、お客さんに対して何を考えてるんだ僕は。いかんいかん。他にももっとするべきことがあるだろう? たとえばきゅっっと引き締まった腰回りとか、そこから続くふわりと大きく広がったスカートを押し上げているふくらみとか、さらにそこから続く魔法繊維の防護タイツに包まれている弾いたらプルンとしそうなふとももとか、そういうのをしっかりと目に焼き付けるべきじゃないかって……あれ?

「そういえばマスター」

「ひゃい!」

 なんてことを考えていたら唐突に当の本人から声がかけられたものだから素っ頓狂な声を出してしまった。

「ああ、すまない、火を使っていたんだったか。申し訳ない、集中しなければ危ないな。私の事は気にせずに続けてくれ」

「いえいえ、大丈夫です。ちょっと油が弾けただけですから。ハハハ」

 ソフィアさんに向き直って謝り、誤魔化すようにしてそそくさとメインの具をフライパンに入れる。油に落とした瞬間、じゅうっという心地いい音が立ち、ほんとに油がはねて手にあたってあっつい。でも我慢我慢。
 きっと僕がこんな不埒なことを考えているとは微塵も思ってはないんだろうけど、僕は授業中に友達とメモの回し読みを教師に見つけられてしまったような心境だった。無論内容は『今日もソフィアさんの悩ましバディが悩ましいな!! byケネス』的な感じだ。

「そう? でも気を付けてね。私のせいでマスターが怪我をして休業なんてことになったら、きっと大勢が悲しむことになるだろうし」

「どうですかねぇ〜? きっと常連の皆さんは逆に笑ってからかいに来そうなものですけれど」

 シャロンと姉さんたちは確実にそうするだろうな。でもそうしたらソフィアさんは見舞いに来てくれるのだろうか? ふむ、看護服姿のソフィアさんというのもありかもしれない。いや、ありだろう。あらいでか。

「まぁそれも否定はしないけれど……なんだかんだ言って内心では心配すると思うよ?」

「本当にそうなら嬉しいんですが、期待しないでおきます。というかこれくらいのおしゃべりじゃあ何も問題ありませんよ。現に今だってきちんと仕事しているでしょう?」

 そう言いながらにかっとソフィアさんに笑いかけてみせる。そしていい感じに焼きあがってきた料理にたれを加え、弱火で煮始める。こうすればしばらく置いておいて平気なので、並行して盛り付けの作業に移る。

「ライスですか? パンですか?」

「そうね〜……ジパングではこの料理はやっぱりライスなんでしょう?」

「まぁ、向こうにはパンはありませんからね、どうしたってご飯です。それを抜きにしても僕はお米のほうが合うと思います」

「それじゃあライスをいただこうかな」

「わかりました」

 そう言って友人特製の保温鍋からお茶碗にお米を盛る。お茶碗は少々大きめの青い陶器製。兄がこの前ジパングから送ってきてくれた新品だ。同様に、味噌汁もきちんとした漆器によそう。ちなみに今日はジャガイモの味噌汁だ。
 そして付け合せの準備をしたところでフライパンの火を止め、メインをお皿に移して温めていたたれをかけ、付け合せを盛り付け整えたなら完成だ。

「はい、豆腐ハンバーグセットのライスです。こちらはお好みでかけてください」

「おお、これが……いや、これがこの前の白くてぷるぷるしたあれから作られているとはなかなか信じがたいな……」

「水分を切ってからこねて作ってます」

 ソフィアさんがテーブルに手をつき、前かがみになって出来上がった豆腐ハンバーグを食い入るようにして見つめている。腕を寄せて縮めた姿勢が小動物のようで妙に愛らしい。くっ、あれで鎧が無かったらきっと、腕で寄せて上げてむにゅんとつぶれたあれが拝めたかもしれないのに!

「なるほどね。それでこのお好みでという白い……なんだ? このつんとする香りのすりリンゴみたいなものは?」

 きょとん、といった擬音がぴったりな感じで、カウンターテーブル越しにソフィアさんが小首を傾げて見上げてくる。大人の女性のそのあどけない仕草は、なにかとても無防備な気がして今すぐ抱きしめたいほどに魅力的だ。

「それは大根おろしと言って、その名の通り大根という野菜をすりおろしたものです。少々香辛料とはまた違った辛味がしますけれど、口の中がさっぱりしてとてもおいしいですよ」

 無論そんなことはしない。というか出来ない。その衝動を必死にこらえて、こっちも精いっぱいの笑顔で答える。でないとだらしなく緩んだあほ面を晒してしまいそうだった。

「そう、ダイコンね。これも新しいな。どれ、折角だから試してみよう。それじゃあ……いただきます!」

「はい、召し上がれ」

 目の前で手を合わせて「いただきます」を唱えてから、ソフィアさんは危なげのない手つきでお箸を使って食事を始めた。
 なんとこの女性騎士様は、『郷に入りては郷に従えと言うし、折角のジパング料理なのだから敬意をもってジパングの作法で頂きたいのだ』となんとも嬉しいことを初めての来店時に言ってくれて、自分から箸の使い方やジパング流の食事の作法を習いたいと申し出てくれたのだ。いや、ほんとにあの時は泣きたいほどうれしかった。というか自信を無くしかけていた時期だったんでほんとにちょっと泣きかけた。

 今思えば「う〜む」とか「むう……」とか「ああっ!」とか綺麗な顔をころころ変えて必死に箸の練習をするソフィアさんに、実際に手を取ってあれこれと教えたのは物凄い役得だったのではないだろうか? あの時はソフィアさんのあまりにも真剣な様子と、こっちも初めての経験で緊張と必死が勝っていたというのもあったけれど、もうちょっと余裕があったら色々とちょっかいを出したり手を滑らせてみたり……っていかんいかん。また不埒なことを考えてしまった。どうもソフィアさんが相手だとちょっとおかしくなるね、僕。

 大体ソフィアさんは恩人なのだ。彼女がよく来てくれるようになったお蔭で(彼女目当てで)お客さんも増えたし、彼女が必死に練習したりジパング文化に歩み寄っている様子を見たりして多くのお客さんがこの店とジパングに興味を持ってくれたのだ。事実、彼女に影響されて「いただきます」と「ご馳走様」は定着したし、お箸に挑戦してくれる人も多く出たのだ。まぁ、シャロンなんかは二分で飽きたけどね……

 だからそんな彼女に僕が不埒を働いていい筈がない。そして今も目の前で新しい料理に挑戦し食べるたびに「ほむ」とか、「ほほう」とか、「なるほどこれは」とか思わず零しながらている愛らしい姿に見惚れている場合ではないのだ。確かにお手本の様に箸を使ってしかも綺麗な三角食べをしている姿は惚れ惚れするくらいだが……なんか僕が見ているだけで彼女の価値が下がってしまうような気がし始めて、僕は慌てて仕事に戻った。

「さてと……っと。それではごゆっくり」

「ああ、ありがとう。これもとてもおいしいよ」

「えへへ。ありがとうございます」

 そんなわざとらしい声を出しながら、僕はカウンター内の厨房に戻る。そんな一言にも返事をくれるあたり、ほんとソフィアさんはいい人だ。いや、さすがにこれは贔屓目が強すぎるかな? ちなみに、この厨房ちょっと覗こうとすれば簡単にお客さんからも見えるようになっていて、まだこの町では珍しいジパング料理の作り方に興味のあるお客さんからは好評だったりする。今度お料理教室でもやろうかな?

 そんなことを考えながら僕はこれまた姉さん協力友人謹製の冷蔵庫から魚を取りだす。次のお客さんのメニューは『かつおによく似た魚のたたき』。大根なんかのジパング野菜はこっちでも育てられるけれど、魚介なんかはよくこの手の似たもので代用していたりする。

 とは言え代用ではあるけれども決して手抜きではない。その素材に感謝し、その素材を最大限おいしくするために僕は腕を振るうのだ。レストランではない喫茶店の料理と言えど侮るなかれ。喫茶店の料理には喫茶店なりの良さがあるのだ。それこそ店それぞれの雰囲気や“あじ”の違いって奴だ。まぁ……若干定食屋や居酒屋みたいなラインナップなのは僕自身も気になるところではあるんだけれどね……





「ご注文は以上ですね? それではごゆっくり」

「ど、どうもですっ!!」

「そ、そんなに緊張しないでください。そうだ深呼吸しましょう深呼吸。はい、すって〜はいて〜、すって〜はいて〜」

「えと、そ、その、はひっ! す〜、は〜、す〜、は〜……」

「いいですね、その調子ですよ〜。はい、もう一度すって〜はいて〜、すって〜はいて〜、すって〜はいて〜……」

「はい! す〜は〜、す〜は〜、す〜は〜……」

「すって〜はいて〜、すって〜はいて〜、すって〜はいて〜、すって〜すって〜すって〜……」

「す〜は〜、す〜は〜、す〜は〜、す〜す〜す〜……ごほっ、えほ、げほ!」

「ああ、お客さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃありません! もう! なにさせるんですか!」

「いや〜申し訳ありません。でも少しは緊張が解けましたでしょうか?」

「……あっ」

「とは言え大変失礼いたしました。もしご不快にさせてしまいましたらお代は結構ですので、せめて料理だけは食べて行かれてください」

「……むぅ。確かにちょっとムッとしましたけれど……別に怒っていません。でも今度からこういうことはしないで下さいね?」

「はい、承知いたしました。重ねてお詫び申し上げます」

「……そんなに謝らなくてもいいです」

「ありがとうございます。では、ごゆっくりしていってください」

「こちらこそ……どうもでした……」

 なんてやり取りを、料理を出しに行った奥のテーブル席で何やら分厚い専門書を読んでいるつぼまじんの学生さんとしつつカウンターに戻ると、ソフィアさんはもう料理の大半を食べ終えていた。
 そして次の料理に取り掛かろうとしている僕の背中に、ソフィアさんがそういえばと話しかけてきた。

「さっき途中になってしまった話なんだけれど、いいかな?」

「ああ、そう言えばなんかうやむやになってしまってましたね。どうぞどうぞ」

 ちょっと忙しなくなったので、軽く片手で手を合わせて謝ってから、そちらを見ずに作業を続けながら会話を進める。ソフィアさんも気にしていないようで、上手いこと食事を途切れさせることなくありがとう、と質問を続けてきた。

「前々から聞こうと思っていたんだが、そのコーヒーを淹れるガラスの装置や、料理を温かいままや冷たいまま保存しておく箱なんかはどこで手に入れたんだ?」

「ああ、これですか」

 ソフィアさんの視線はカウンターテーブルの一段上におかれたサイフォンに向けられていた。今も弱火でこぽこぽとコーヒーを淹れているサイフォンはまだこの辺りでは珍しいらしく、いろんなお客さんの目を楽しませている。

「サイフォンというものでですね、なんでも西のほうで最近出回り始めたとかですよ?」

 ジアコーザの街はなかなかの大きさの交易都市だ。なので比較的早くこういった新しいものが入ってくる。こいつを見つけたときは大いに感動したものだったけれど、同時にとあるバフォメットと激しい争奪戦も繰り広げたっけ。それゆえ愛着もひとしおである。苦い記憶もひとしおである。

「そうか。しかし仕組みはさっぱりだがいつみても楽しくて飽きないなこれは。それでそのほかの物についてだが……」

「ああ、はい。冷蔵庫と保温鍋ですね」

 そう言いながら件の冷蔵庫から特製のたれに付け込んだ豚肉のスライスを取り出す。次のメニューは豚の生姜焼きだ。じゅっ、という音と共に肉の焼ける良いにおいが広がった。

「これは友人が作ってくれたものなんですよ。なんでも魔力的なものを魔石的なものに封じて原動力にしているらしいです」

「ずいぶん煮え切らない言い方ね」

「いや〜、かなり熱く理屈と仕組みを語ってくれたんですけれど、正直よくわからなかったもので。ただ込める魔力によって色々性質が変化するらしいですよ」

「なるほどな」

 相槌打ち豆腐ハンバーグをほおばるソフィアさん。ぷくっとふくれた愛らしい頬がプリティーで可愛くてキュートです。

「やっぱりこの手の技術も最近流行りだしたものだそうですよ。外からも入ってきていますし、橋の背の学校でも色々作っては東のお屋敷街に売って研究費を稼いでるって言いますし」

 橋の背の学校というのはこの街唯一の大学校にして、シャロンたちの通う魔法学院の母体でもある。ジアコーザには街を貫く河があって、その大橋のたもとの川沿いに広がっているのでこの愛称で呼ばれている。

「そういえばそんな話を聞いたこともあったな」

 もふもふと言った感じで食べて行くソフィアさん。透き通るような美人さと愛らしい食べ方とのギャップがバッチグーです。

「そこまでお高い材料や特殊な技術を使う訳でもないですし、近いうちに一般にも広がるんじゃないですかね」

「ああ、だといいな。詰所でも冬ならスープをすぐ温められるが、夏の暑い日に冷えた水を巡回帰りに飲めるというのはとても魅力的だ」

「確かにそれは魅力的ですね」

 額にうっすら湧き出した汗をぬぐいつつ、つぎつぎと豚肉を焼いていく。

「話は戻るが、ということはマスターのその友人は大学校の研究者なのか?」

「いえいえ、ただの引きこもりの変人です。ちなみに彼は普通の人間ですんで魔力はうちの姉が込めてくれました」

「……ほう、施設の整った大学校の研究者レベルの作業が自宅でできる人間か」

「ソフィアさん?」

 なんだろう、急に発する気配が鋭いものになったような……

「その友人は引きこもりというが生活費は真っ当に得ているんだろうな? よもやと思うが、その知識や腕を生かして闇家業を営んでいたり……なにかよからぬ結社の一員だったりはしないだろうね?」

 そう少しきつめな声音で尋ねてくる騎士様の目は、どう見たって警察組織も兼ねる自警団員としてのそれだった。正直ちょっと怖い。ぞくぞくする。

「だ、大丈夫です。詳しい事情は知りませんけどなんかいいとこの出みたいだし、主な生活場所は地下室ですけれど大きな館に住んでいますし、一人暮らしですけれど毎日どこからかメイドさんが通ってきて面倒見ていたりしますし、それにメイドさんも美人ですから大丈夫です」

「……最後のは理由にならない気もするけれど……まぁ、いいわ。君がそういうんなら悪い人間じゃあなさそうだ」

 ごめんなさいねと一言告げて、ソフィアさんは食事に戻った。それと同時に鋭いお仕事オーラも引っ込み、いつもの柔らかで落ち着いた雰囲気が戻って来た。

「あれ、そんなんでいいんですか? もっと色々聞いてくるものだとばっかり……」

「まぁ、その人が何かよからぬことをしているなんて疑いは今のところないわけだし、そんな人を探ろうなんていうのは私たちの職権を超えてしまうからね」

「それもそうですね」

「なんか最近相応の魔術知識を持った連中がこそこそとちょっかいかけてきててね。それでちょっと過敏になってしまったらしい。友人を疑うような真似をしてすまなかった」

「あ、いえそこは別に気にしてないんで大丈夫です。確かに結構胡散臭いやつなんで……というかまたですか?」

 この街は古くからの親魔物都市であり、豊かな交易を背景にこの独立都市連合地域でも強めな発言力と地位を持つ。なのでそれをよく思わない、特に反魔物主義の団体やらなんやらが人の流れに紛れ込んでよくちょっかいをかけに来るのだ。

「ああ、まただ。まったく、よくもこんなにと思うよ。どれだけ追っ払っても次から次へとやってくる」

 そんな不穏な輩を取り締まり、相手にするのは、もっぱらソフィアさんをはじめとする自警団の皆さんだった。

「今回はまだ子供のいたずらみたいな稚拙な嫌がらせが多いが……大きな問題を起こして街に被害を出すようになる前に、さっさと捕まえなければな」

「毎回本当にありがとうございます」

 本当に自警団の皆さんには頭が下がる。この大きな町の治安を守るだけでも大変なのに、それに加えて外からの厄介ごとにも当たって走り回ってくれているんだから。

「いやなに、これが私たちの仕事だからな、何も気にする必要はないよ。むしろ私たちみたいに剣を振るばかりが能の料理も出来ない者に比べれば、君みたいな者のほうがよほど皆を幸せに出来るというものだ」

「それは違いますよ。ソフィアさんたちが街を平和に守ってくれているおかげで僕たちは安心して暮らせるんです。町が平和だからこそ、こうして僕たちみたいな人間が店を開けるんですよ」

 僕は訪れてくれる人が心穏やかにほっと一息つける場となればいいなと思ってこの店を始めた。けれどそれは、この街が平和であってこそ初めて実現できるものだ。確かに忙しなかったり辛いことがあったりする日常からほんのひと時離れて心を落ち着けてもらう、そんな店になればなとは思っている。だがそれは、逆に日常がいかに大切であるかということの裏返しでもあるのだ。

「ふふ、そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」

 そう言ってソフィアさんはにこりと微笑んだ。その笑顔はとても穏やかで、本当に嬉しいんだなと素直に伝わる飾り気のない素敵な笑顔だった。
 ああ、この人は本当に素敵だ。知的で落ち着いた大人なクールビューティー。月明かりを映す静かな湖面の様な、透き通った静謐さを感じさせる女性。まったくもってうちの姉たちと正反対である。

 はぁ、こんな人が姉だったらよかったのに。そうすればきっとあの傍若無人ぶりに振り回されることも迷惑かけられることもなく、平和な家庭でのびのびと成長できただろうに。
 まあでも、生まれる家は選べない。こんなことを考えても詮無いことだというのはわかってはいるんだ。むなしい現実逃避だということも。それにきっと、仮にソフィアさんが相手でも、この点だけは苦労するんだろうし……

「はい、豚の生姜焼き特盛りです」

 ごとん、と僕は大皿に山盛りになった豚の生姜焼きをカウンター越しにソフィアさんの目の前に置いた。

「ああ、相変わらずのナイスタイミングだ」

 それと同時に、綺麗に平らげられた豆腐ハンバーグの皿を回収する。相変わらず綺麗に食べてくれるので僕も非常に嬉しい。が、

「相変わらず本当によく食べますね」

「ははは、まあ体が資本の商売なんでな……でだ……ふむ、いつもと香りが違うがたれを変えたのか? それにキャベツに何か混ざっている気がするが?」

 と、若干恥ずかしそうにしながらも既に頭は料理のことでいっぱいの様子だった。

「はい。毎回同じ味じゃ飽きるかとも思いましたし似たような味のたれが続くんでちょっと変えてみました。今回は梅酒をベースにした甘めのたれに、付け合せのキャベツには昨日とれたシソを入れています」

「なるほど、実にいい香りだ。やはりメインディッシュはボリュームのあるものがいいな。初めて豆腐ハンバーグもおいしかったが、仕事の前の食事としては若干軽かった」

「軽い、ですか」

「ああでも誤解しないでくれ、あれも実においしかった。大根おろしというのもなかなかに興味深いものだったな。あれは食欲を増進する作用でもあるのか? 実にご飯が進むものだった」

「そうですか」

「やはりここのメニューは興味深い。新作となればなおの事だ。これはこの後出てくるオダマキムシというのも実に楽しみだ。あれだろ? うどんが茶碗蒸しに入っているのだろう?」

「小田巻き蒸ですね。その通りです」

「私は茶碗蒸しが好きなんだ。あのぷるぷるした食感がたまらない。愛らしい器に入っていたり、それでいて色々な種類の具材がはいっていたり、なんともデザートのような一品ではないか」

「デザートですか」

「ああ。それがあの心地よい弾力のあるうどんと一緒になるとは……いやはや考えた人は天才だな。でもあの小さい容器にどううどんを入れるのだ? それにやはり中のうどんは啜るべきなのか? ジパングの麺類の正式な食べ方であるは承知しているのだが、私はどうもあの啜るというのが苦手でね、箸よりも難しいと思っているんだ」

「それはまあ、もろもろ後のお楽しみということで」

「むう、焦らしてくれるじゃないか」

 と、こんな感じで今までの雰囲気からは予想外の饒舌ぶりである。ソフィアさんはスレンダーな見た目に反したかなりの大食漢であった。
 初めてそれを知ったときはかなり驚いたものだったが、「大食いの女はやっぱり変……かな……?」なんて恥ずかしげに上目づかいでおかわりのお茶碗を出された時の破壊力といったら思わず、「あなたのためだったら何杯でも毎日お味噌汁を作ります!」と答えてしまうほどだった。

 それ以来彼女は遠慮することも気後れすることもなくなり、最低でもおかずは三品は注文するし、場合によってはそれ以上のおかずにデザートを付け、ご飯もモリモリ食べる。ジパングの伝統的戦士、力士もかくやという実に見事な健啖家振りであった。

「そうかなら楽しみにすることにしよう。ではせっかくの料理が冷めてしまってはもったいないな。しゃべってばかりでないで頂くとしよう」

「はい、是非そうしてください」

「でもその前に……」

「……?」

「おかわりだ!」

 惚れ惚れするほど素敵な満面の笑顔と共に、空のお茶碗が僕に向かって差し出された。





「うむ、実においしい夕食だった。ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

 その日ソフィアさんは結局、小田巻き蒸の後に磯部揚げを三つ食べ、ご飯とみそ汁は三回ずつおかわりをした。実に気持ちいい食べっぷりである。しかし、いったいあの細い体のどこにあれだけの量が入るのだろうか? やはり抜群のスタイルの出っ張った部分だろうか?

「なるほど、小田巻き蒸はそもそも器の大きさからして違うのか」

「ええ、使う具材も大きいものが多いのである程度の大きさで蒸さないと、熱がうまく通らないんです」

「ああ、あのとろみがかったしょうが風味のたれもいいものだった」

「ああいう料理を覆うとろみを“あん”というのですよ」

「なるほど、あんか。ああいうのは体が温まるな。冬場にはもってこいだろう」

 食後はソフィアさんの当直が始まるまでの間、こうして料理の感想だったり何気ない会話をして過ごすのがいつものパターンだった。満幅の余韻に──まぁ本人曰くすぐ動けるように腹八分目らしいのだが──浸るソフィアさんや、他のお客さんの幸せな顔を見ると、本当にこの店を始めてよかったと思うのだ。

「さて、そろそろ行くとしようかな。マスター最後にいつもの頼めるかな?」

「はい。あったかい緑茶ですね。少々お待ちを」

 ソフィアさんは食事の最後にはいつも緑茶を飲んで締める。彼女は数少ない緑茶愛好家なので、その点も僕が彼女を愛してやまない点だったりするのだ。

「あの!」

 ちょうど寄りかかっていたカウンターから体を起こした時だった。奥の席でひっそりと勉強をしていたつぼまじんの学生さんが現れた。

「あの、お会計をお願いしてもいいですか?」

「はい、大丈夫です」

 ちらりとソフィアさんを見れば構わないと合図を送ってきてくれたので、僕は先に彼女のお会計を済ませることにした。

「えと、デザートのサービスありがとうございました。変わった緑色のお茶もでしたけれど、あのしらたまというのにとっても合っていておいしかったです……」

「……! そうですか、お茶が良かったですか! ありがとうございます!」

「ひゃい!」

 彼女にはお騒がせしたお詫びとして、デザートがてらにしらたまの蜜掛けと緑茶を出したのだ。お茶は受け入れてもらえるか心配だったんだけど……予想外の好評でちょっとテンションが上がってしまった。

「ん、ごほん……申し訳ありませんでした」

「い、いえ……えと、それじゃこれ……」

「はい確かに……では、これがお釣りになります」

「はい、どうも……ご、ごちそうさまでした」

「ありがとうございます。またのお越しを」

 そうして、来たとき以上には落ち着いた様子で店を出ようとする彼女。お辞儀をしつつ、つぼまじんなのに歩いて帰るんだな〜と妙なことを一瞬考えたが、すぐにお茶の準備に戻ろうとした。

 そこで、事件が起きた。

「隊長!! やっぱりここでしたか!!」

 と、ソフィアさんと同じデザインの軽装の鎧を着た大柄で見るからに筋肉質な大男が、ばんっ!! と飛び込んできたのだった。
 しかも間が悪いことに、正につぼまじんの彼女が店を出ようとしたその時だった。
 うちの店の扉は外開きである。にもかかわらず砲弾が飛んできたかと錯覚するような勢いで飛び込んできた巌のような男性。幸いにもぶつかることはなかったが、そんな男性にいきなり目の前に飛び込まれたつぼまじんという臆病な種族である学生さんは、

「○%△#☆$×¥っ!!」

 意味のなさない悲鳴を上げて大きく飛び下がった。

 そしてその先には闖入者に驚き反射的に振り向いたソフィアさんがいて……

「おっと」

 後ろ向きに頭から勢いよく学生さんがソフィアさんの胸に飛び込んでゆく。どん、と革製の鎧が鈍い音を立てる中、胸を中心に丸まるようにして後ろに弾かれながらも、なんとか椅子の上で彼女を抱き留めることに成功したソフィアさん。しかし魔物一人分の衝撃はかなりのもので、俯くように前方に傾いた頭が──


──ぼとり、と首から落ちた。


 その首は実にゆっくりとしたスローモーションで店の床へと落ち、独楽の止まる最後の様にしてころころと長い髪を引きずりながら床を転がり廻り、止まる。そしてその次の瞬間、ソフィアさんの体に俯くような体勢で抱きしめられたつぼまじんの学生さんがなんとか衝撃から立ち直り、そっと目を開け、状況を確認しようとぼんやりしている視界の焦点を目の前の物体に合わせ、そして、ソフィアさんの首と目が合った。

 一瞬止まったように思えた店の時間。何を思ったかソフィアさんの首はにこっと笑いかけ、びくんっと短く震えた後、つぼまじんの彼女は気絶した。
 僕も棚の急須を取ろうとした恰好で固まったまま、ただ眺めているだけあった

 えと、あれ? んん? ソフィアさんの首が落ちて、でも笑って、学生さんは気絶して……はい?

 当然僕は大混乱である。

「やれやれ、これは悪いことをしてしまったな」

 しかもソフィアさんの首は声を発した上に、同時に首のない体がむくりと起き上がり、安らかな顔で気絶する学生さんを丁寧に近くの空いてるテーブルへと横たえた。

「──!!」

 当然僕は大驚愕である。

「すまないマスター。随分と騒がせてしまったな」

 いや、今日のお客さんはもうソフィアさんと学生さんだけだったので別にそこは構わないのだが……実に優しく丁重な所作で学生さんの体勢を整えるため動いている首なしグラマラスボディと、床の上から苦笑気味の申し訳なさそうな顔で僕を見上げてくる美女の首という光景は……正直インパクトが強すぎてうまく頭が回らなかった。

「うん、これで良し……さて……っと」

 しかし、首が落ちたというのに当の本人はまるで当然だという風に意に介していない。
 慣れた動作なのか首なしの体は前屈の要領でひょいと首を抱え上げ、ちょこんと元の位置に収めた。

「では、改めて。この度は私の不肖の部下が大変な迷惑を……ん、マスター? どうしたマスター?」

「……あ、ああ、はい、すいません。えと、なんでしょう?」

「いや、だから部下の非礼を詫びようとだな……大丈夫か? なにやら心ここにあらずといった感じだが?」

「いやいやいや、お客さんを前に呆けるなんてありえませんよ。えと、それでご注文はなんでしたっけ? ああ、豆腐ハンバーグ定食と豚の生姜焼きの特盛と小田巻き蒸でしたね。相変わらずよく食べますね。嬉しいですよ。さ、すぐに用意しますんで座ってお待ちください」

「お、おい、マスター?」

「あ、食前のコーヒーはどうします? いつも通りブレンドでいいですか?」

「ま、待て、私の話をを聞いてくれ、マスター」

「あれ、今日は部下の方もご一緒なんですね」

「ちょっと、だからどうしたんだマスター!?」

「では、とりあえずブレンドを二つお出しします。あ、これメニューです。定番のメニュー以外にも当店自慢のジパング料理を多数ご用意していますので、興味があればぜひお試しください」

「は、はあ。どうも」

「それではごゆっくり」

 そうして僕は仕事に戻った。きっとさっきのは夢だ。まったく、仕事中に立ち寝してあまつさえ夢を見るなんて、弛み過ぎだろ僕。さあ、しっかりと切り替えて仕事仕事。

「……あの、隊長」

「なんだ」

「どうやらあの方は隊長がデュラハンということをご存じなかったのでは?」

「むぅ、そんなはずはないのだが……」

「ですがあの様子はやはり……」

「……確かに、そうかもしれん。よし」

「隊長?」

「マスター、ちょっといいか?」

 ブレンドの豆を取ろうとしたところで後ろからソフィアさんに声をかけられる。そしてその声に振り返った僕が見たものは……

「ぎゃぁああああああ!!」

「やっぱりか」

 ソフィアさんの顔でお手玉をしている首のない女性の体だった。





「なるほど……デュラハンでしたか……」

「すまない。別に隠していたり騙そうとしていたわけではないんだが、どうやらうっかり言い忘れていたみたいで……」

 あれから少し経ち、僕が落ち着いたのを見計らってから、事の次第を説明された。
 しかし考えてみれば……いや、考えるまでもなく、首が外れても平然としている人型の存在などデュラハンぐらいの物なのだ。すぐにそれが出てこず、あまつさえうろたえてしまった自分がひどく恥ずかしい。

「いや、本当に申し訳なかった。この通りだ」

「や、やめて下さいそんな。頭を上げてください! こっちこそお客様に驚いて大声を上げるなんてあってはならない事ですのに!」

 なのにここまで謝られてしまうとこちらも心苦しい。
 そして「いやいやそれでも……」とか「それを言うならこちらも……」という謝罪の無限ループが起こりはじめたとき、

「ま、まぁ、隊長はお父様似でいらっしゃいますし、見た目はほとんど普通の人間とお変わりがないので人間と思い込んでしまわられてもしょうがないかと。ですので驚くのも致し方ないですよ」

 と、どちらに対してなのかよくわからないフォローが入れられた。

「というわけで、ここら辺でご両人とも、ね? 申し訳ない気持ちもわかりますが切りがなくなってしまいますから、ね?」

 でもまあ、切りがなくなると言うのはその通りなのでお互いに最後に改めて謝り、この件は終わりとなった。しかし、まだすべては解決していない。そう、それはつまり、

「いや〜、よかったよかった。ですね、隊長」

「ああ、確かによかった。だが……」

「が?」

「全てはお前のせいだろうがこの粗忽物が!!」

「痛い!!」

 あなたは結局何者で何しに来たのよ? ってことである。

「ユーリ・エヴァンス!」

「は、はい!」

「いつも周囲に十分気を配って行動しろと言っているだろう! そのせいで多大な迷惑をかけてしまったではないか!」

「申し訳ありません!!」

「まあいい、この件については後ほどじっくりと話そうではないか。それで、一体お前は何をしに来たんだ?」

 ユーリというらしいその部下は、高身長のソフィアさんより頭二つは大きいだろう体を申し訳なさ気に縮めてぺこぺこしている。

「そ、それは、その……」

「構わん、話せ」

 いつの間にか座っていた彼はちらりと僕を見たが、上官に促されその先を続ける。

「はい。えと、そのですね、二番隊が例の妨害を仕掛けてきた集団のアジトを突き止めまして、これからその捕縛に向かうのでわが隊も支援に入るようにとの緊急の通達が来まして……」

「あらま」

「なんだと? 急を要する話じゃないか!? なぜ今まで黙っていた!!」

「いや、何と言いますか、店に入ってのこの行き成りの展開にと言いますか、騒ぎの衝撃にといいますかに呑まれてしまいまして……まあ、それで言い出せなかったと言いますか……」

「何を悠長に言っているのだ。ほら、早くあのお嬢さんを連れて詰所に戻るぞ」

「え? あの人連れて行くんですか?」

「当たり前だ! 誰のせいでこうなっていると思っている、この馬鹿者が!」

「痛っ! し、失礼しました! このユーリ・エヴァンス、きちんと責任を持ちまして彼女を無事お宅までお送りいたします!」

「ああ、そうしろ。お前は詰所に戻っても彼女についていろ。いいな」

「え? い、いえ、了解であります!」

「では、お前は先に戻っていろ!」

「はっ! それではご店主、本日は誠に失礼いたしました!」

「あ、はい、どうも」

「それでは失礼いたします!」

 そうして男はつぼまじんの学生さんを軽々と抱えて去って行った。厳つい大男が小柄な女性をひょいと抱えて走る姿は、騎士団の鎧を着ていなければ丸っきり誘拐犯のようである。

「さて、マスター」

「はい、なんでしょうか?」

 そしてソフィアさんがこちらを向く。

「本日は本当にすまなかったな。けれどあの馬鹿者は悪気があった訳ではないのだ。どうか許してやってくれ」

「い、いや、別に怒っていませんので大丈夫です」

 もういろいろ驚きすぎて怒るなんて思いつかなかった。

「そうか、ならばよかった。それではこれで私も行こう。お茶が飲めなかったのは残念だったが、また近いうちにあの馬鹿も連れてくるよ。ではな」

 そう言って、さりげなく複数の銀貨を置いて立ち去るソフィアさん。

「あの! これじゃ多いです! ソフィアさんお釣り!!」

「迷惑料と思って受け取ってくれ!」

「それにしたって多いです!」

 人の行き来も少なくなった表通りを走る後姿。一度くるりと銀の長髪を翻して振り向きそう告げると、軽く気にするなといった感じで手を振るだけで、もう振り返ることなく走り去って行った。月明かりに照らされたその姿はとても眩しく格好いいものだった。


 なにか、最後の最後で疲れた一日だった。結局その後はお客さんは来ず、ソフィアさんに淹れようと思っていたお茶を飲みつつ閉店時間を迎えることになった。


 茶房・はなかんざし。結局いつも通りの騒がしい一日であった。

12/04/18 15:08更新 / あさがお
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■作者メッセージ
※作中に出てくる料理につきましては各家庭、地域、世界観、嫁によって違いがあります。あまり気になさらないでください。

お久しぶりです、あさがおです。
二年ですか……こんなに間が空いてしまってどれだけの人が存在を覚えていてくれているのでしょうか? おそらく初めましての方の方が多いと思われます。

という訳で初めましてあさがおです。

じみ〜にひっそりとこのサイトに出没しますので、見かけたときはぜひ今後ともよろしくお願いいたします。
それでは。

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