呑気野郎とアザラシ少女
「(これは、もう死ぬんじゃないかな)」
人間という生き物は、本当に命の危機に瀕した時、驚くほど冷静になるということを知った。体中から熱という熱が奪われていくのを感じながら、曇天の空を仰ぐ。もがく体力も残っておらず、ただ大波に揉まれるばかり。北方の漁船に乗っていた俺は、大波に呷られて極寒の海の中に投げ出されてしまったのだ。
「(ああ、こんなことになるなら、こんな仕事引き受けるんじゃなかったなぁ)」
口の中に入り込む海水の味だけを感じていた。何も考えられない。薄れゆく意識の中、走馬灯のように過去の光景が脳裏に浮かんできた。
俺は海沿いの街で生まれた至極平凡な男子だ。強いて他の人間と違うところを挙げるとするならば、呑気で、その割に金銭への執着が強いぐらいだろう。この漁船に乗ったのだって、マグロという魚を釣るだけで大きなお金になると言われたからだ。そんな軽い気持ちで来ていい場所じゃなかった事は今身を持って知っている。
「(あたたかい、スープが飲みたい)」
最後に考えたこともこんな呑気な言葉。どうにも最期の瞬間まで俺は呑気らしい。それ以上俺は何も考えることが出来ず、ただ意識が闇に落ちていくばかり。俺の意識は身体が海に沈むのと同じように沈んでいった――
「……い! ……て!」
遠くの方で何かが聞こえた。これはお迎えが来た、という奴かな? 天使は可愛いのかな。あれ、もしかして地獄に堕ちたのかな?
「……きろ! ……きませんか!」
それにしても温かいな。まるで、体全身が温かいベールに包まれたようだ。このぬくもり……ああ母さん、どうやら俺は地獄ではなく天国へ来ることが出来たようですよ。
「いい加減に起きて! 何をニヤニヤしているんです!!」
「ううっ!?」
突然の大声にびっくりして身を起こした。視界に入ったのは一面の岩肌と暗闇。わずかに磯の香りがするので、どうやら海沿いの洞窟か何かのようだ。
「まったく……最初はどうなるかと思いましたが、夢心地でいるだなんて……とんだ呑気ですこと」
「いやぁ、どうにもとても温かかったもんだからついつい……」
俺の他にももう一人誰かがいるらしく、その誰かが俺の耳元で叫んでいたようだ。まったく、一体どんな奴なんだ。そう思って横を見て、目を疑った。
「…………天使がおる」
「え、ええっ!? な、いきなり何をッ……?」
そこには一糸まとわぬ可愛らしい少女がぺたんと座り、こちらを覗き込んでいた。美しいブロンドのロングヘアーはやや湿っているらしくふんわり感こそ感じられなかったが、どこか気品を感じさせる面立ちであった。そうか、これがエンジェル…… 噂に違わぬ美しさだ。
「え、ええと、あなたが何を勘違いしているかは知らないですけど、ここはれっきとした現世ですわ。そして勿論わたくしも天使ではない」
少女は、やれやれといった顔でため息を漏らす。この子、ここが現世だと言ったか。つまり、俺は生きている……やったあ!! なんだか知らないが助かったぞ! 生きてるってスバラシイ!!
「い、いや待ってくれ。でも俺は北方の海で溺れたんだ、あんな冷たいところに投げ出されたんだぞ、普通に考えればただで済む筈が……」
「あなたはどうやらとんでもない呑気なのに加えてとんでもないにぶちんのようね……わたくしが貴方を助けて差し上げたのよ! ……まぁ、最初は大きな魚だと思って捕まえてやろうと思って近づいたのですけど……」
最後の方になるべく聞きたくなかったことが聞こえた気がしたが、どうやらこの子は何等かの手段で溺れ凍え死にそうになっていた俺を助けてくれたようだ。
「そうだったのか……ありがとう、感謝してもしきれないぐらいだ。でも、君みたいな子がなんだってあんな海に? どうやって助けてくれたんだ」
「ハァ……ご自分がいましている格好を見ればわかると思いますわ。なんですのこのマイペースな人間は……」
飽きれ返った様子の少女に言われて今の自分の姿を確認し、そして認識した。元々着ていた服は全て脱がされ、ふかふかもこもこの毛皮を着せられていたのだ。そしてその形状を見て一つの結論に辿りついた。
「そうか、君はアザラシ漁をしていたんだな!」
「違う!! どうしてそうなるんですの!! わたくしはセルキー族の者ですの!!」
セルキー族、と聞いてようやく合点がいった。北方の海に生息する魔物の仲間で、毛皮を纏った人魚であると聞いたことがあったが、まさかここまで人間に近い姿をしているとは思ってもみなかった。
「君は、大事な毛皮を俺に貸してくれていたのか」
「そうですわ。ま、まあ、魚と間違えてモリで一突きしかけてしまったお詫びも兼ねて、ですけど」
少女がもじもじと体をくねらせる。俺と魚を間違えたことがよほど恥ずかしかったのだろうか? 彼女達はプライドが高いと聞くし、人間と魚を間違えるなんて恥ずかしくて仲間に知られたくないとかだろうか? なんにしてもこの子のおかげで今俺は生きているし、あったかいのだ。本当に感謝してもしきれない。
「あ、あの……」
遠慮がちに彼女が今は俺が纏っている毛皮の袖部分を引っ張る。その顔は真っ赤だ。俺を助ける為とはいえ素肌を晒しているのだから当たり前だろう。ちなみに恩人の裸を見るなんて愚かな事はしていない。……していないぞ。決して体躯の割に大きな胸なんて目に入っていないんだからね。
「え、えっと、何だ? 助けてもらったし、俺ができる事があったらなんでもやるぞ?」
「良いのですか!? で、では……あの、わたくし、寒くて……」
そりゃそうだ、と納得する。水の中ではないとはいえここだって北方であることに代わりはないのだ。素っ裸でいたら寒いに決まっている。まして、元々水の中に住んでいるような魔物ならともかく、普段から毛皮を着て生活している彼女からすればたまったもんじゃないだろう。
「わ、悪かった!! すぐ脱ぐから!! ほら、えっと、ここを、こうして、ああ脱げ……ぶえーっくしょーい!!」
寝袋のようになっていた脚部分を引き抜いた段階で既に恐ろしい程の冷気に襲われ、一気に鳥肌が立つ。
「い、いやあの、脱がなくてもいいんですのよ……?」
「そんなわけにはいかん! 俺を助ける為にあんたが病気になったんじゃなんの意味もない! 一応俺も男だ、このぐらいの寒さ我慢でき……ぶえーっくしょいぃい!」
無理、無理です、勘弁してください。そう冬将軍に懇願したくなる程の寒さだ。横に畳まれていた俺が元々着ていた服に手をかけるが、まだ濡れていてとても着れたものではない。セルキーの少女が何かを決したような顔をして俺が脱ぎ散らかした毛皮を身に纏っていく。そして、何を思ったか、俺に抱きついてきた。
「え……い、いや、あの……え?」
「この毛皮はよく伸びるんですの。二人ぐらいなら、一緒に入れますわ。……さぁ、お入りください」
「え、でも俺裸で、貴方も裸で、そこに一緒に入るって事は、その、色々とマズイノデハ……?」
「いいから早く入りなさい! あなたが目の前で凍え死んだらわたくしの目覚めが悪いのですわ!」
怒鳴る事ないじゃないか、と思いつつも先ほどまで身を持って感じていたあの毛皮の温かさを思い出す。……死にたくない、その感情が俺の行動を促進した。彼女が開けてくれている毛皮の隙間にゆっくりと足を入れていく。そして、二人抱き合うような形ですっぽりと収まった。
「ほ、ほらごらんなさい。こうすれば、二人とも温かいでしょう」
「あ、ああ……ソウデスネ、トッテモアタタカイデス……」
お互いの体温が加わったこともあってか、先ほどよりも温かく感じている。しかし、感じているのは温かさだけではなかった。女性特有の柔肌との密着感……それも、こんなにも可愛らしい少女の……。いけない、恩人に対してこんな感情を抱いちゃダメだ、ダメなのに……ダメだと思えば思うほど意識してしまい、下半身に血が集中していく。ソレは限界にまで自己主張をしてしまった。
「んっ……なんですかこれは、とても、熱い……」
もぞもぞと、少女が尻尾の毛皮へ手を入れ、俺のソレがなんなのかを確かめるようにまさぐる。
「え、あの……うぁあっ……」
「ハァ……ハァ……なんでしょう、この感じ……あなたの熱いこれを触っていると、わたくし、その、ポカポカしてきますわ。もっと、もっと温かくなりたい……」
少女はもう片方の手も俺の股間へと這わせる。彼女がもぞもぞと動くたびに、上半身のとても柔らかな乳房がふにふにと俺の胸の上を擦れ、それが更に劣情を誘う。恩人にこんなことをしてはいけない、理性ではそう思っても、ここまでされてしまったらもう止められない。どちらからともなく、俺達は舌を絡ませていた。
「ん……ちゅっ……熱い……」
「くああっ……ん……れる……」
先ほどまでのちょっと高飛車な雰囲気はどこへやら、彼女の強気そうな顔は甘くとろけていた。気づけば彼女は手は離し、太ももで俺のソレを挟むようにして擦らせていた。摩擦で起きる熱と共に性感を覚える。この圧迫感がたまらなく気持ち良い。
「…………あなたのコレが……わたくし……欲しいの」
「ほ、欲しいって……つまり、そういう……?」
「本当にあなたは呑気でにぶちんね……お願い、これ以上女の口から言わせないで頂戴……」
ゆっくりと彼女の蜜壺を探り当てるように腰を動かし、それらしいクレバスを見つけることができた。そこは既に熱い汁でぐちょぐちょに濡れていて、男性を受け入れる準備は完了しているようだ。
「ごめん……じゃあ、挿入るよ……」
上手くできるかわからないが、とにかく、一生懸命やろう、そう思って、ゆっくりと腰を進めていった。
「ああああああっ!! あっ、あっ、あああっ……んあっ……はぁああああっ……!!」
破瓜の衝撃はあまりなかったようで、すぐに媚声を洞窟中に響かせる。熱い、彼女の中はまるでマグマのように熱く、とろけていた。挿入ただけで既に俺の愚息は悲鳴を上げているが、オスの本能に従って腰を振る。
「あっ、ああっ、はぁっ、はげっしぃいっ……!!」
「ぐ、ぐうっ……うっ……ふうう……だ、大丈夫かっ……ちゃんと、気持ちよくできてるか?」
「気持ちいッ……気持ちいいですわっ……! あなたの逞しいこれっ……熱くて気持ちいいいいいっ!!」
「お前のも熱くて気持ち良くて最高だよ……!」
ただ二人で快楽と熱を求めあう。二人の筈なのに、まるでひとつのいきもののように、俺達は一体となっていた。
「あっ……いきそうッ……い、いきそうですわっ……!!」
裏返りそうな声で彼女が叫ぶ。俺ももう限界が来ていた。
「俺もでるっ……出るよっ……うっ、ぐぅっ!」
「あああっ……はあああああああああああっっ!!!!」
彼女の中へ、俺の全てを放出してしまったのではないか……? そう思うぐらいに、彼女との交わりは気持ち良かった。
その後も交わりは続いた。時には激しく、時にはゆっくりじらすように。しかし、絶対にお互いが体を離すことはしなかった。熱と快楽を貪るようにしていたのである……。
※
「へぇ、そんなことがあったの……だからあたちのおうちはどーくつのなかにあるんだ!」
「そうですわ。お父さんったら、『この思い出の場所を二人の場所にするんだーっ』なんてはりきっちゃって……」
それから、数年が経過した。俺は彼女、セルキーのリセルと家庭を築いていた。あの洞窟を改装して簡単な家を作り、大切な娘を守りながらリセルと魚を捕って生計を立てている。何をするにしてもいつも一緒だ。
「えへへ……あたちのパパはすごい人なの! しょうらいぱぱとけっこんするの!」
「ちょ、ダメですわよ! お父さんはわたくしのモノなんですわ! 何をするにも一緒なんですもの♪」
「おいおい、娘にジェラシーを抱くなって……」
お金に目がくらんで、というなんとも情けない死にかけ方をした俺だったが、世の中どうなるかわからないと感じた。人生には何度か大きな分かれ道があると言うが、俺にとってのそれはマグロ漁船に乗るか否かだったんだろう。これからも何か分かれ道があるかもしれないけど、リセルと一緒ならなんだって大丈夫だろう。文字通り、二人はいつでも一緒なんだから……。
人間という生き物は、本当に命の危機に瀕した時、驚くほど冷静になるということを知った。体中から熱という熱が奪われていくのを感じながら、曇天の空を仰ぐ。もがく体力も残っておらず、ただ大波に揉まれるばかり。北方の漁船に乗っていた俺は、大波に呷られて極寒の海の中に投げ出されてしまったのだ。
「(ああ、こんなことになるなら、こんな仕事引き受けるんじゃなかったなぁ)」
口の中に入り込む海水の味だけを感じていた。何も考えられない。薄れゆく意識の中、走馬灯のように過去の光景が脳裏に浮かんできた。
俺は海沿いの街で生まれた至極平凡な男子だ。強いて他の人間と違うところを挙げるとするならば、呑気で、その割に金銭への執着が強いぐらいだろう。この漁船に乗ったのだって、マグロという魚を釣るだけで大きなお金になると言われたからだ。そんな軽い気持ちで来ていい場所じゃなかった事は今身を持って知っている。
「(あたたかい、スープが飲みたい)」
最後に考えたこともこんな呑気な言葉。どうにも最期の瞬間まで俺は呑気らしい。それ以上俺は何も考えることが出来ず、ただ意識が闇に落ちていくばかり。俺の意識は身体が海に沈むのと同じように沈んでいった――
「……い! ……て!」
遠くの方で何かが聞こえた。これはお迎えが来た、という奴かな? 天使は可愛いのかな。あれ、もしかして地獄に堕ちたのかな?
「……きろ! ……きませんか!」
それにしても温かいな。まるで、体全身が温かいベールに包まれたようだ。このぬくもり……ああ母さん、どうやら俺は地獄ではなく天国へ来ることが出来たようですよ。
「いい加減に起きて! 何をニヤニヤしているんです!!」
「ううっ!?」
突然の大声にびっくりして身を起こした。視界に入ったのは一面の岩肌と暗闇。わずかに磯の香りがするので、どうやら海沿いの洞窟か何かのようだ。
「まったく……最初はどうなるかと思いましたが、夢心地でいるだなんて……とんだ呑気ですこと」
「いやぁ、どうにもとても温かかったもんだからついつい……」
俺の他にももう一人誰かがいるらしく、その誰かが俺の耳元で叫んでいたようだ。まったく、一体どんな奴なんだ。そう思って横を見て、目を疑った。
「…………天使がおる」
「え、ええっ!? な、いきなり何をッ……?」
そこには一糸まとわぬ可愛らしい少女がぺたんと座り、こちらを覗き込んでいた。美しいブロンドのロングヘアーはやや湿っているらしくふんわり感こそ感じられなかったが、どこか気品を感じさせる面立ちであった。そうか、これがエンジェル…… 噂に違わぬ美しさだ。
「え、ええと、あなたが何を勘違いしているかは知らないですけど、ここはれっきとした現世ですわ。そして勿論わたくしも天使ではない」
少女は、やれやれといった顔でため息を漏らす。この子、ここが現世だと言ったか。つまり、俺は生きている……やったあ!! なんだか知らないが助かったぞ! 生きてるってスバラシイ!!
「い、いや待ってくれ。でも俺は北方の海で溺れたんだ、あんな冷たいところに投げ出されたんだぞ、普通に考えればただで済む筈が……」
「あなたはどうやらとんでもない呑気なのに加えてとんでもないにぶちんのようね……わたくしが貴方を助けて差し上げたのよ! ……まぁ、最初は大きな魚だと思って捕まえてやろうと思って近づいたのですけど……」
最後の方になるべく聞きたくなかったことが聞こえた気がしたが、どうやらこの子は何等かの手段で溺れ凍え死にそうになっていた俺を助けてくれたようだ。
「そうだったのか……ありがとう、感謝してもしきれないぐらいだ。でも、君みたいな子がなんだってあんな海に? どうやって助けてくれたんだ」
「ハァ……ご自分がいましている格好を見ればわかると思いますわ。なんですのこのマイペースな人間は……」
飽きれ返った様子の少女に言われて今の自分の姿を確認し、そして認識した。元々着ていた服は全て脱がされ、ふかふかもこもこの毛皮を着せられていたのだ。そしてその形状を見て一つの結論に辿りついた。
「そうか、君はアザラシ漁をしていたんだな!」
「違う!! どうしてそうなるんですの!! わたくしはセルキー族の者ですの!!」
セルキー族、と聞いてようやく合点がいった。北方の海に生息する魔物の仲間で、毛皮を纏った人魚であると聞いたことがあったが、まさかここまで人間に近い姿をしているとは思ってもみなかった。
「君は、大事な毛皮を俺に貸してくれていたのか」
「そうですわ。ま、まあ、魚と間違えてモリで一突きしかけてしまったお詫びも兼ねて、ですけど」
少女がもじもじと体をくねらせる。俺と魚を間違えたことがよほど恥ずかしかったのだろうか? 彼女達はプライドが高いと聞くし、人間と魚を間違えるなんて恥ずかしくて仲間に知られたくないとかだろうか? なんにしてもこの子のおかげで今俺は生きているし、あったかいのだ。本当に感謝してもしきれない。
「あ、あの……」
遠慮がちに彼女が今は俺が纏っている毛皮の袖部分を引っ張る。その顔は真っ赤だ。俺を助ける為とはいえ素肌を晒しているのだから当たり前だろう。ちなみに恩人の裸を見るなんて愚かな事はしていない。……していないぞ。決して体躯の割に大きな胸なんて目に入っていないんだからね。
「え、えっと、何だ? 助けてもらったし、俺ができる事があったらなんでもやるぞ?」
「良いのですか!? で、では……あの、わたくし、寒くて……」
そりゃそうだ、と納得する。水の中ではないとはいえここだって北方であることに代わりはないのだ。素っ裸でいたら寒いに決まっている。まして、元々水の中に住んでいるような魔物ならともかく、普段から毛皮を着て生活している彼女からすればたまったもんじゃないだろう。
「わ、悪かった!! すぐ脱ぐから!! ほら、えっと、ここを、こうして、ああ脱げ……ぶえーっくしょーい!!」
寝袋のようになっていた脚部分を引き抜いた段階で既に恐ろしい程の冷気に襲われ、一気に鳥肌が立つ。
「い、いやあの、脱がなくてもいいんですのよ……?」
「そんなわけにはいかん! 俺を助ける為にあんたが病気になったんじゃなんの意味もない! 一応俺も男だ、このぐらいの寒さ我慢でき……ぶえーっくしょいぃい!」
無理、無理です、勘弁してください。そう冬将軍に懇願したくなる程の寒さだ。横に畳まれていた俺が元々着ていた服に手をかけるが、まだ濡れていてとても着れたものではない。セルキーの少女が何かを決したような顔をして俺が脱ぎ散らかした毛皮を身に纏っていく。そして、何を思ったか、俺に抱きついてきた。
「え……い、いや、あの……え?」
「この毛皮はよく伸びるんですの。二人ぐらいなら、一緒に入れますわ。……さぁ、お入りください」
「え、でも俺裸で、貴方も裸で、そこに一緒に入るって事は、その、色々とマズイノデハ……?」
「いいから早く入りなさい! あなたが目の前で凍え死んだらわたくしの目覚めが悪いのですわ!」
怒鳴る事ないじゃないか、と思いつつも先ほどまで身を持って感じていたあの毛皮の温かさを思い出す。……死にたくない、その感情が俺の行動を促進した。彼女が開けてくれている毛皮の隙間にゆっくりと足を入れていく。そして、二人抱き合うような形ですっぽりと収まった。
「ほ、ほらごらんなさい。こうすれば、二人とも温かいでしょう」
「あ、ああ……ソウデスネ、トッテモアタタカイデス……」
お互いの体温が加わったこともあってか、先ほどよりも温かく感じている。しかし、感じているのは温かさだけではなかった。女性特有の柔肌との密着感……それも、こんなにも可愛らしい少女の……。いけない、恩人に対してこんな感情を抱いちゃダメだ、ダメなのに……ダメだと思えば思うほど意識してしまい、下半身に血が集中していく。ソレは限界にまで自己主張をしてしまった。
「んっ……なんですかこれは、とても、熱い……」
もぞもぞと、少女が尻尾の毛皮へ手を入れ、俺のソレがなんなのかを確かめるようにまさぐる。
「え、あの……うぁあっ……」
「ハァ……ハァ……なんでしょう、この感じ……あなたの熱いこれを触っていると、わたくし、その、ポカポカしてきますわ。もっと、もっと温かくなりたい……」
少女はもう片方の手も俺の股間へと這わせる。彼女がもぞもぞと動くたびに、上半身のとても柔らかな乳房がふにふにと俺の胸の上を擦れ、それが更に劣情を誘う。恩人にこんなことをしてはいけない、理性ではそう思っても、ここまでされてしまったらもう止められない。どちらからともなく、俺達は舌を絡ませていた。
「ん……ちゅっ……熱い……」
「くああっ……ん……れる……」
先ほどまでのちょっと高飛車な雰囲気はどこへやら、彼女の強気そうな顔は甘くとろけていた。気づけば彼女は手は離し、太ももで俺のソレを挟むようにして擦らせていた。摩擦で起きる熱と共に性感を覚える。この圧迫感がたまらなく気持ち良い。
「…………あなたのコレが……わたくし……欲しいの」
「ほ、欲しいって……つまり、そういう……?」
「本当にあなたは呑気でにぶちんね……お願い、これ以上女の口から言わせないで頂戴……」
ゆっくりと彼女の蜜壺を探り当てるように腰を動かし、それらしいクレバスを見つけることができた。そこは既に熱い汁でぐちょぐちょに濡れていて、男性を受け入れる準備は完了しているようだ。
「ごめん……じゃあ、挿入るよ……」
上手くできるかわからないが、とにかく、一生懸命やろう、そう思って、ゆっくりと腰を進めていった。
「ああああああっ!! あっ、あっ、あああっ……んあっ……はぁああああっ……!!」
破瓜の衝撃はあまりなかったようで、すぐに媚声を洞窟中に響かせる。熱い、彼女の中はまるでマグマのように熱く、とろけていた。挿入ただけで既に俺の愚息は悲鳴を上げているが、オスの本能に従って腰を振る。
「あっ、ああっ、はぁっ、はげっしぃいっ……!!」
「ぐ、ぐうっ……うっ……ふうう……だ、大丈夫かっ……ちゃんと、気持ちよくできてるか?」
「気持ちいッ……気持ちいいですわっ……! あなたの逞しいこれっ……熱くて気持ちいいいいいっ!!」
「お前のも熱くて気持ち良くて最高だよ……!」
ただ二人で快楽と熱を求めあう。二人の筈なのに、まるでひとつのいきもののように、俺達は一体となっていた。
「あっ……いきそうッ……い、いきそうですわっ……!!」
裏返りそうな声で彼女が叫ぶ。俺ももう限界が来ていた。
「俺もでるっ……出るよっ……うっ、ぐぅっ!」
「あああっ……はあああああああああああっっ!!!!」
彼女の中へ、俺の全てを放出してしまったのではないか……? そう思うぐらいに、彼女との交わりは気持ち良かった。
その後も交わりは続いた。時には激しく、時にはゆっくりじらすように。しかし、絶対にお互いが体を離すことはしなかった。熱と快楽を貪るようにしていたのである……。
※
「へぇ、そんなことがあったの……だからあたちのおうちはどーくつのなかにあるんだ!」
「そうですわ。お父さんったら、『この思い出の場所を二人の場所にするんだーっ』なんてはりきっちゃって……」
それから、数年が経過した。俺は彼女、セルキーのリセルと家庭を築いていた。あの洞窟を改装して簡単な家を作り、大切な娘を守りながらリセルと魚を捕って生計を立てている。何をするにしてもいつも一緒だ。
「えへへ……あたちのパパはすごい人なの! しょうらいぱぱとけっこんするの!」
「ちょ、ダメですわよ! お父さんはわたくしのモノなんですわ! 何をするにも一緒なんですもの♪」
「おいおい、娘にジェラシーを抱くなって……」
お金に目がくらんで、というなんとも情けない死にかけ方をした俺だったが、世の中どうなるかわからないと感じた。人生には何度か大きな分かれ道があると言うが、俺にとってのそれはマグロ漁船に乗るか否かだったんだろう。これからも何か分かれ道があるかもしれないけど、リセルと一緒ならなんだって大丈夫だろう。文字通り、二人はいつでも一緒なんだから……。
13/02/24 02:31更新 / 空夜