読切小説
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虹のオルス ― その想いは虹と共に ―
― 「外地」竜皇国ドラゴニア ―

竜種の楽園といえる竜皇国ドラゴニアでもルールを破る者がいる。人間なら問題ないが、ドラゴンやワイバーンといった存在では通常の監獄では対応できない。
ここは「門の向こうの国」からの技術と最新の結界術が組み合わせられた、ドラゴニアにおいても危険なドラゴンゾンビを収容できる唯一の監獄「ドラゴニア中央監獄」だ。もっとも「猫の鈴」よろしく、暴れるドラゴンゾンビをこの監獄に入れることができれば、ではあるが。

カツカツカツ・・・

人一人いないリノリウムの廊下に小さな靴音が静かに響く。

「面会をお願いします・・・」

線の細い青年が受付のリザードマンに静かに声を掛けた。

「・・・哲、今日は面会は止めておいた方がいい。今朝大暴れしてね・・・・暴れ疲れたのか今は冬のナマズのように寝ている」

「そうですか・・・」

彼の恋人であるオルスは今この監獄に収監されている。

「なぁ・・・、夫婦で決めた事に部外者の私が口を挟むことではないが、これではオルにとってあんまりだ!あんなことがそんなにも大事なのか?」

哲と呼ばれた青年が歯を食いしばる。この看守とて知らない顔でもない。彼らのことを本当に心配している。彼にとってそれは痛いほどわかっていた。
だが。

「二人でもう決めた事です」

看守の顔に怒りが浮かぶ。

「もう帰れ。顔も見たくない」

「すみませんでした。また日を改めます」

青年は静かに礼を言うと、踵を返しもと来たリノリウムを歩き始めた。

「何なんだよお前ら・・・そんなにも・・・・」


夜明け前、まだ夜の闇が残った牢の中で一人のワイバーンが目覚めた。
「門の向こうの国」からの技術が使用された此処はよくあるような鉄格子や蟲のわいたシーツとは無縁だ。
しかし今の彼女にとっては此処はどこよりも寒々しかった。

「寂しいよぉ・・・哲・・」

彼女、ワイバーンの「オルス」は愛しき伴侶の名を呟いた。



ここへ収監されて何度月と太陽が廻ったのだろうか。

「時間だ。出ろ」

栄養のバランスの取れたいつも通りの朝食を終えた頃、看守は言葉少なくそう言うと静かに房のドアが開いた。
とうとう「この日」が来たのだ。

「はい」

房から出ると手錠が嵌められ、がっしりとした革製のマスクが被らされた。

「歩け」

シャン・・・シャン・・・

手錠につけられた鎖を引かれながら歩く。鎖が出す音が酷く耳障りだ。
私が看守に悪態の一つでもつきたくなるが、空気が変わった。
ピリピリとするような空気。
恐らく高い場所にいるのだろう、身体に混じり気のない清浄な風を感じる。

― 今・・・・・全・・が揃い・・・・ ―

いよいよだ。
これで全て決まる。

「まだだ」

看守が手錠を外しながらマスク越しに声を掛ける。

「いいか。これで失敗したらお前はいい笑いものだぞ」

私は静かに頷いた。
そして、その時が来た。

「目を瞑ってろ。そしてゆっくりと開けていくんだ」

暗闇の中で、マスクが外され私はゆっくりと目を開けていった。視線の先には・・・・。

「うう・・・・・・」

愛しのアキくんが!

アキくんが!!

ショタ化薬キメて体操服を着てゴールで待ってるなんて!!!

そんなの・・・・!

そんなの最高じゃない!!!

「フォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」

私はスターターピストルの破裂音ともに蒼穹へと駆け出した。


― 「競竜」 ―

鍛え抜かれた身体を持つ竜種達による「血の流れない決闘」。
人々は彼らの勝敗に賭け、勝者は英雄として讃えられる。
この競技は竜皇国ドラゴニアの国技とも言え、その興りはかつてのドラゲイ帝国時代まで遡る。
もっとも、正確な記録が残っているわけではない。
始めは一人の女性を好きになった二人の竜騎士に女性が提示した「血を流さない」決闘が元になったとも、援軍を要請するために三日三晩飛び続けた竜騎士を讃えるための競技とも謂われる。
ただ、一つだけわかっていることがある。
世界で初めての競竜はドラゲイ帝国で行われた、そのことのみである。
革命により、軍事国家であったドラゲイ帝国は竜と人間の理想郷へと変わったとはいえ、この競竜は命脈を保っていた。
長い歴史の中、競竜も細分化していきエアレースのようにポールとポールの間を決められたコースで飛びタイムを競う「トレイル」、ダートコースを戦車と連結されたワームが縦横無尽に走破する妨害攻撃アリの無差別レース「バンドワゴン」、そして、静止した状態からのスタートで4キロ先のゴールまで疾走する「ストリーム」が生み出された。

「トレビシェット」のカレンと、その娘である「バリスタ」のクーラ

常に道化師の仮面をつけ、現役時代決して正体を明かさなかった「ジェスター」のディオ

長い競竜の歴史に燦然と輝くスター選手たち。
その中にはたった一戦、一戦で優勝しただけなのにスター選手として殿堂入りした選手がいる。
彼女の名前は「オルス・トレーン」。
種族もポピュラーなワイバーンであり、競竜の勝率もあまり芳しくなかった。
万年最下位。
しかし、彼女はこの一戦で「伝説」となったのだ。


「さあスタートが切られました!素晴らしいスタート!おおっとオルス選手いきなりのロケットスタートだ!!速い速い!!まさにロケットだ!!」

「ストリーム」において万年最下位だったオルスの予想を裏切るスタートダッシュに実況も興奮を隠せない。かつて「競竜」においてのオルスはペース配分を見誤ることが多く、身体はそれなりに仕上がっていてもそれを生かし切ることができなかった。
このロケットダッシュもいつものように息切れすると思われていた、が。

「オルス選手!加速しております!!加速は止まりません!!!!」

息切れどころか、ゴールが近づくにつれオルスの加速は止まらなかった。


「競竜」ではルール上パートナーがいる場合、同じく伴侶を持つ選手が参加するレースのみにしか参加できない。なぜなら魔物娘は伴侶のあるなしでは能力に明確な差が出るからだ。
万年最下位のオルスが考え出した秘策。それは「伴侶と一週間離れる」ことだった。
「レッドキャップ」という魔物娘がいる。魔物娘は本能として男性の精を求める。このレッドキャップは精が足りていれば特に危険性はないが、精の枯渇が近づくと、伴侶に対して「暴走」ともいえるような暴力的な交わりで失われた精を補給する。
オルスと彼女の伴侶はそこに目を付けたのだ。

― 監獄という脱出不能の環境に身を置くことにより、魔物としての「本能」を呼び覚ましオルスの力を底上げする ―

これは「ドーピング」ではない。
例えるのならむしろボクシングにおける「減量」と同じといえる。
一週間、禁欲に耐えたオルスはまさに「性欲の権化」である。その彼女の前に彼女好みのコスプレをしてゴールで待っている恋人。もはやリミッターが外れるどころのレベルではない。リミッターそのものが消滅してしまうだろう。


「さていよいよゴールが見えてきました!!最後の力比べ!最後の力比べ!最後のエンジン全開であります!各選手トップギアに入れます!さあ先頭はオルス選手!オルス選手だ!!」

他の選手たちもスピードをあげるが、しかしオルスに爪の先も届かない。
その時だった。

「虹を引いている・・・・」

観客たちの目の前、空を駆けるオルスの軌跡から七色の虹が広がっている。誰もがその初めて見る幻想的な光景に目を奪われていた。


さて、時に諸兄は「風圧力」というものをご存知か?
単純に言えば風により物体にかかる圧力である。しかし馬鹿にすることはできない。乗用車のタイヤが破裂した場合、その威力は手榴弾一つに匹敵する。
高速で飛翔するワイバーンが受ける衝撃はかなりのものだ。もっともワイバーンも強大な竜種の魔物娘であるが故、風圧で致命的な事態に陥ることは無い。
だが、オルスは伴侶からほぼ一週間以上「お預け」を喰らっている。そんな彼女が高速で飛翔したら果たしてどうなるだろうか?。

ノ=「イタズラな風」

ヒュルン!

「アフッ!」

ノ=「イタズラな風であります」

ヒュルルン!

「アあぁンッ!」

ノ=「イタズラな風なのです」

ヒュン!!

「うっほぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!」

この風、空気を読んでいる・・・。

伴侶の見ている前で「風圧」に凌辱されるオルス。
これは「NTR」である!
「風圧NTR」である!
しかし彼女の意志は折れなかった。彼女は全身をスケベオヤジや欲求不満なスキュラの如く、執拗に撫でまわす風で某対魔〇のように腰砕けになりつつもなおも飛び続けたのだ。

「エクスタシィィィィィィィィィィ!!!!!!」

一週間の禁欲生活にこの風圧責めはキツイ。
「電マ」とか「飛びっ子」なんてレベルではない。風圧という暴力が彼女の餓えた肉体を蹂躙する。そしてその快楽は腰砕けになるどころかさらに彼女をいきり立たせた。
そう。
ファンタジックでアメージングな七色の虹の正体は・・・・。

「身体が軽い・・・もう何も怖くない!!!!」

オルスが空中で絶頂したことによる「潮吹き」である。


「アキくん」こと、オルスの恋人である「渡良瀬哲」は二人で同意したとはいえ、「魔物娘的減量」で彼女が苦しんでいることは痛いほどよくわかっている。
だからこそ、精神的ダメージを受けるショタ化薬を服用し、その筋の人間には堪らない短パン半袖の― おねショタの正装ともいえる ― 体操服を装備してゴールで彼女を待っているのだ。
彼女に「頑張ったね」の一言を言う為に・・・・。

「やったね!オル・・・・・?!」

「グルルルルルルル!!!!!」

彼の眼前には涎や鼻血を垂れ流しながらこちらへ矢のように飛んでくるオルスの姿が広がっていた。

「ヒぃっ!」

例え彼女を愛しているとはいえ、生物の持つ根源的な恐怖に支配された哲が餓えたオルスから逃げようとするのは無理からぬことだ。しかしながら、性欲の権化と化したオルスから逃げられるはずもない。

「おおオルス選手!!!勢い止まらずそのままゴール!!!!・・・アレ?」

ゴールインしたオルスは逃げようとした哲を抱きかかえると、表彰式を無視して空の彼方へと飛んでいく。慌てて係員が止めようとするもトランザム状態いや、性欲バーサーカーと化したオルスを止める手段などない。


オルスに喰われるかと思った、と伴侶の哲はげっそりとした顔で後に語った。







19/11/30 14:13更新 / 法螺男

■作者メッセージ
うぅっ!呉に行きたかったよぉ〜〜〜〜!
秋刀魚&鰯イベントまでにもう一つSSを投稿する予定です。

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